著者
松浦 晴美 本多 留美
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.41-46, 2005-04-30 (Released:2009-11-19)
参考文献数
5

介護老人保健施設(老健)等に勤務するSTは増加の一途をたどっているが,そうした場でのST業務のガイドラインは確立されていない.老健等のSTに対し2004年に小規模な調査を行った結果から,自分達の役割を病院のSTとは異なるものとして積極的にとらえている一方,さまざまな悩みを抱えている姿が見えた.本稿では,養成校を卒業したてのSTが老健に就職し,卒業校の教員達のスーパーバイズを受けながら,老健でのSTの役割や業務を模索していくようすを報告する.老健での経験を通じて,STの役割を「生活の場でのコミュニケーション,QOLの向上に関わる」「個人に合ったコミュニケーション環境を整える」「認知症の方への評価やアプローチを行う」「スタッフ,家族,地域住民にコミュニケーション障害への認識を高める働きかけを行う」と考えるようになった.こうした視点は,生活を軸にした新しいリハビリテーションの概念と通じるものである.
著者
福島 道広
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.3-8, 2021 (Released:2021-02-27)
参考文献数
31

腸内環境はヒトの健康に大きく関わっている。本研究では農産食品素材が腸内環境を改善する効果について検証した。まず小豆等に含まれるレジスタントスターチは盲腸内で短鎖脂肪酸を増加させ, コレステロールや脂質代謝改善効果をもたらした。さらに迅速に腸内発酵特性を検討できるin vitro腸内発酵実験モデルを構築した。その結果, 食品素材の影響や腸内発酵の経時的変化を短期間で調べることが可能となり, in vivoモデルと同様な結果も得られた。最後に化学修飾したヒドロキシプロピル (HP) -澱粉により, 腸内細菌叢ではβ多様性がHP-澱粉と通常澱粉で異なる細菌叢組成を示した。その結果HP-澱粉が盲腸内短鎖脂肪酸を増加させ, 血漿グルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1), ムチン量, 免疫グロブリンA (IgA) 量との間に正の相関がみられ, GLP-1は摂食量, 腸間膜脂肪面積との間に負の相関にあった。これらの研究成果は腸内環境改善に関する基礎的研究であるが, 人々の健康長寿の維持・増進に貢献できることを期待する。
著者
大野 友則 大山 浩代 別府 万寿博 塩見 昌紀
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A (ISSN:18806023)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.875-888, 2008 (Released:2008-11-20)
参考文献数
24

煙火工場等の火薬類を貯蔵する火薬庫の建設においては,万が一の爆発に際しても周辺への安全を確保する必要性から保安距離が定められている.保安距離は自由空間中における爆発事象を基準として定められているが,堅固な鉄筋コンクリート造の周囲を覆土した覆土式火薬庫の内部爆発事象は自由空間での爆発とは異なるはずである.本研究は,爆発実験室で模型火薬庫を用いた爆発実験を行い,構造物の破壊や爆風圧の大きさに及ぼす覆土の効果について検討を行っている.模型火薬庫試験体は実規模の約1/20の縮尺とし,C4爆薬を試験体内部で爆発させた.実験では,覆土の厚さおよび爆薬量をパラメータとした.実験結果に基づいて覆土の有無や厚さが爆風圧に及ぼす効果を考察し,換算距離と最大爆風圧の関係を求め,現行の保安距離に係る規定との比較を行った.
著者
Nobuhiko Taguchi Takumi Homma Hitomi Aoki Takahiro Kunisada
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Biological and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:09186158)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.1451-1454, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

Hair follicular keratinocyte stem cells (HFKSC) which provide a functional niche for melanocyte stem cells (MSC) are the primary target of hair graying. However, little research has been done on anti-hair graying medicines targeting HFKSC. We focused on Eriodictyon angustifolium (Ea), which reduces human hair graying when applied topically. To investigate the protective effect of dietary Ea tea (EaT) on hair pigmentation, we used an acute mouse model of hair graying that mimics X-ray-induced DNA damage associated with age-related hair graying. Our results suggest that dietary EaT maintained the niche HFKSC function against X-ray-induced DNA damage and hair graying. These results indicate that dietary EaT may prevent age-related hair graying and serve as an anti-hair graying herbal medicine.
著者
本田 直樹
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.146-153, 2010-09-05 (Released:2010-10-21)
被引用文献数
2

去る2009年10月30日から11月3日に,諏訪湖で開催された日本神経回路学会オータムスクールAscone2009(Autumn School for Computational Neuroscience)において,大澤五住先生(大阪大学大学院 生命機能研究科脳神経工学講座 視覚神経科学研究室)の講義が行われました.その講義内容とスライドを元に,筆者が講義録としてまとめたものです.大澤先生が話しているような形式にまとめていますが,筆者の理解で再構成したものです.本内容や表現に関する責任は筆者がおうものとします.
著者
高橋 雅洋 岸 光男
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.137-147, 2006-04-30 (Released:2018-03-23)
被引用文献数
5

85歳高齢者,歯周組織の健全な若年成人(以下,健常者)およびその中間年齢層にあたり,歯周治療後のメインテナンスのために定期受診している者,合計292名から舌苔を採取し,菌種特異的PCR法により,4種の歯周病原性細菌と2種のミュータンスレンサ球菌を検出し,検出率を比較した.また,85歳高齢者と健常者においては歯科疾患関連細菌の検出と口腔内状況との関連を検討した.結果を以下に示す.1.無菌顎者の舌苔からの4種の歯周病原性細菌の検出率は低かった.また,有歯顎高齢者を含むその他の被験者群中では,健常者からのPorphyromonas gingivalis, Treponema denticolaの検出率が有意に低かった.これらより,歯周病に罹患していない者,歯周病感受性がない者の舌苔は,歯周病原性細菌の棲息部位となりにくいことが示された.2.健常者において舌苔と歯垢からの歯科疾患関連細菌の検出状況を比較したところ,T. denticola以外の細菌で,舌苔と歯垢からの検出に関連が認められた.さらに歯周病原性細菌に関しては,舌苔からの検出率が歯垢より高く,いずれか一方から歯周病原性菌が検出された場合には,主として舌苔からであった.これらの結果から,舌苔は口腔他部位への細菌の供給源であると同時に受容部位としても働き,さらに口腔他部位の細菌叢と相互に関連し合って,口腔全体の細菌叢を構成しているものと考えられた.
著者
長井 千春 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.83-92, 2007-07-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
37

明治政府が遂行した殖産興業及び輸出振興政策において、明治20年頃迄は、陶磁器製造業が日本の在来産業の主役として重要な役割を果たした。1873(明治6)年に政府が正式に参加したウィーン万博に附随した海外伝習の結果、日本の陶磁器産業は飛躍的な成長を遂げることとなる。本稿では、陶磁器分野の最新技術習得をめざして日本から派遣された伝習生、納富介次郎、川原忠次郎、丹山陸郎の3名の研修地オーストリア・ボヘミア地方の磁器産業に焦点を当て、産地としての特徴を分析し、同地での研修の意義について考察を試みた。ドイツ文化圏の磁器産地の中でも後発のボヘミア地方は、セーブル窯、ミントン社などが競合する同時代のヨーロッパ陶磁器業界において、重830年代から優れた量産技術力で注目され、廉価な磁器製造、多様な海外需要への対応力に秀でていた。同地方はウィーン万博でも特に注目された産地の一つであった。日本政府は、既に自信を持っていた美術装飾品分野ではなく、日用品としての陶磁器量産工業技術の習得を目指し、研修地をボヘミア地方に決定したものと考えられる。

1 0 0 0 國語方言

著者
石川國語方言学会
出版者
石川国語方言学会
巻号頁・発行日
1951
著者
吉川 昌之
出版者
農林水産技術情報協会
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.45-47, 2010 (Released:2011-03-28)

清浄性と低水温性の特長を持つ駿河湾深層水を用いて、高級食材であるアカザエビの養殖技術の開発を目指した。まず、抱卵親エビの飼育に対する深層水の効果を検討した結果、深層水で飼育すると表層水に比べて2倍の幼生を確保できる可能性が示された。次に、初期成長過程を観察した結果、アカザエビにはゾエア幼生期が存在しないことが分かった。幼生および稚エビ期を、「カプセルによる飼育方法」と「新しい個別飼育装置」を考案して飼育した結果、日齢800日の生残率は27.3%、平均甲長は36.1mmとなり、最小商品サイズである40mm以上の個体も出現した。さらに「引き出し式飼育装置」を考案し、幼エビの養成ならびに成エビの蓄養を可能にした。
著者
Raiki YAMADA Hikaru SAWADA Shinnosuke AOYAMA Wataru OUCHI Sota NIKI Mitsuhiro NAGATA Toshiro TAKAHASHI Takafumi HIRATA
出版者
Japan Association of Mineralogical Sciences
雑誌
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences (ISSN:13456296)
巻号頁・発行日
pp.201125, (Released:2021-02-25)
被引用文献数
8

The Hida granites, classified into the pre–Jurassic and Jurassic plutons in this study, are important components of the Hida belt, which is a Paleozoic–Mesozoic basement of the Japan arc and underwent Permian to Triassic metamorphism during the collision between the North and South China blocks. This study performed zircon U–Pb dating and whole–rock geochemical analyses for the Hida granites from the major plutonic bodies to reveal the geotectonic history and the origin of the Hida belt. Obtained 238U–206Pb weighted mean ages exhibit 239.1–238.3 Ma for the Katakaigawa body (augen granite) and 200.5–180.9 Ma for the other bodies (non–deformed granitoids), and these ages can be correlated to the pre–Jurassic and Jurassic plutons, respectively. Geochronological results suggest that the mylonitization forming augen granites of the pre–Jurassic plutons occurred during its intrusion and indicate that the Jurassic plutons are distributed widely in the Japan Sea side of the Hida belt. Meanwhile, geochemical characteristics of whole–rock major and trace element compositions indicate that the pre–Jurassic and Jurassic plutons seem difficult to distinguished geochemically and suggest that both of them are adakitic and non–adakitic granites generated in subduction zone.
著者
堀 良子 高野 尚子 葭原 明弘 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.85-90, 2010-03-25
参考文献数
21
被引用文献数
4 2

&nbsp;&nbsp;歯科関係者の専門的な口腔ケアが要介護高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐことに関する研究報告は多いが,リスクのある入院患者の看護者による日常的な口腔ケアを評価した報告は殆どない.そこで,われわれは一般病棟入院患者に実施されている口腔清掃と院内発症肺炎の起炎菌と同じ菌株の口腔からの検出および発熱との関連について検討した.<br> &nbsp;&nbsp;新潟県内4病院の口腔清掃に介助を必要とする40歳以上の入院患者69名を対象とし,清掃の回数および実施内容を記録した.また,黄色ブドウ球菌,MRSA,緑膿菌を対象として口腔内細菌の検出と菌数測定を行い,過去7日間の37.5&deg;C以上の発熱の有無を調査した.これらを経口摂取群と非経口摂取群に分けFisherの直接確率法で評価した.その結果,経口摂取群において口腔清掃が3回/日以上の者で,発熱ありの割合と黄色ブドウ球菌の検出された割合が有意に低かった.一方非経口摂取群においては,歯ブラシを使用している者の方が発熱ありの割合が有意に低かった.以上より,経口摂取者においては頻回の口腔清掃が発熱と口腔内の日和見菌の定着を防止することが示唆され,非経口摂取者においては歯ブラシを用いた機械的な口腔清掃を行うことによって発熱が防止できることが示唆された.<br>
著者
小堤 盾 Jun KOZUTSUMI
出版者
早稲田大学史学会
雑誌
史観 (ISSN:03869350)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.51-66, 2001-09
著者
宮内 栄治
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

乳酸菌の腸管バリア保護メカニズムとして、腸管上皮細胞(IEC)への直接的作用と、バリア機能低下誘導能を有する炎症性サイトカイン産生抑制について詳細な検討を行なった。これまでの研究により、乳酸菌テイコ酸のD-alanine残基量がバリア保護効果に関係することを明らかにした。そこで、D-alanine残基量およびバリア保護効果を高めることができる菌培養条件の検討を行なった。その結果、菌培養培地中にL-alanineを添加することにより、テイコ酸D-alanine残基量が増加した。また、本条件で培養した菌のバリア保護効果を、Caco-2細胞単層膜で検討した結果、L-alanine添加培地で培養した菌は、通常培地で培養した菌よりも高いバリア保護効果を示した。この結果から、乳発酵食品製造において、L-alanine添加により乳酸菌のバリア保護効果を高めることができることが示唆された。これまでの研究により、炎症状態にあるIECがCD4+T細胞からのIL-17産生を誘導することを明らかにした。そのメカニズムを解析した結果、炎症IECはCD40を発現しており、CD40シグナルが活性化されることによりIL-6を高産生することが示された。そこで、炎症IECをCD40 agonist抗体で刺激し、その培養上清中でCD4+T細胞を培養した結果、IL-17産生が有意に誘導された。マウス腸管上皮Colon-26細胞を用いた実験により、乳酸菌は、IECのCD40発現をmRNAレベルおよびタンパクレベルの両方で抑制することが明らかとなった。これらの結果から、IEC上のCD40発現抑制を介して腸管Th17細胞を抑制するという、乳酸菌の新たな腸炎抑制、腸管バリア保護メカニズムが示された。