著者
津野 香奈美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.177-186, 2021-02-15

抄録 近年,職場のいじめ・パワーハラスメント(パワハラ)は労働者の精神健康を害する大きな要因となっている。全国の労働局に寄せられる個別労働紛争相談の中で最も件数が多いのがいじめ・嫌がらせに関する相談であり,精神障害・自殺に関する労働災害の認定件数の中でも最も件数の多いものが,いじめ・嫌がらせ・暴行に関する事案である。そのような中,2020年6月には,企業に職場のいじめ・パワハラ防止を義務付ける法律が施行された。本稿では,職場におけるいじめ・パワハラ問題への理解を深めるために,いじめやパワハラの定義を整理した後,職場のいじめやパワハラを発生させる職場要因,および加害者要因について,これまでの研究で分かっていることを解説する。
著者
大森 肇
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第67回(2016) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.52_3, 2016 (Released:2017-02-24)

一過性の運動はパフォーマンスの低下すなわち疲労を招く。競技などにおいて、運動パフォーマンスの向上を目論む立場からは、疲労は軽減するに越したことはない。しかし、生体防御という観点からは疲労は必要不可欠でもある。ヒトを含めた動物には、素早く力強く動く必要が生じることがある。しかしそれは長くは続かない。身体に何の警告もなければ、生体が破綻するからである。逆に緩徐な運動は長く続けられる。そして、運動の長さに対する疲労の出現機構も上手く備わっている。特に競技ではそうした生体防御機構にいかに抗うかを競っているという見方もできる。本演題では、高強度持久性運動時の疲労とそれを軽減するシトルリンの作用機序について、筋と肝の臓器連関をベースに我々の研究の一端を紹介する。シトルリンは一酸化窒素産生と血流改善、あるいはアンモニア解毒亢進の観点から、運動パフォーマンス向上のためのサプリメントとして注目されている。我々はラットの疲労困憊走モデルを用いて、運動強度とシトルリン投与効果の関係、また投与効果の背景について、筋、血液、肝のアミノ酸動態と臓器連関から検討した。
著者
寺林 伸明
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.満州拓殖政策の企画・立案・実施の経過、満蒙開拓青少年義勇軍の募集・訓練・入植・開拓営農の実施経過、および第一次義勇軍の創設から開拓団終焉にいたる経過等に関する基本文献・資料の収集をした。2.第一次鏡泊湖義勇隊開拓団の関係者団体、「鏡友会」会員192名に対して、応募の事情、訓練・開拓・営農の体験、従軍および敗戦後の現地収容あるいはシベリア抑留等の体験を聞いたうえで、現在どのように考えているかなど多角的にアンケート調査を実施した(8〜10月)。3.アンケートの実施結果は、回答数46(うち2名死去のため不明)、転居先不明10、無回答136で、有効回答数は44(22.9%)だった。なお、アンケート調査時に無回答だった2名については、その後の聞き取り調査で面談でき、回答がえられた。4.アンケート結果によって第二次の聞き取り調査をおこなうため、9〜10月に回答内容について仮集約作業をおこない、聞き取り対象者を抽出した。5.11月、兵庫県・長崎県在住の元1次義勇隊員と鏡泊学園関係者など、9名の聞き取り調査を実施した。あわせて、関係者から鏡泊学園の関係印刷物を収集した。6.2月、愛知県・千葉県・埼玉県在住の元1次義勇隊員・補充団員・農業指導員など、4名の聞き取り調査を実施した。あわせて、関係者から『満州開拓史』、鏡友会の『鏡泊の山河よ永久に』および会員有志の『賭けた青春』、満州国農事試験場関係者の文集等々を収集した。7.札幌郡広島町、上川郡愛別町在住者2名の聞き取り調査を実施した。
著者
池田 浩士 村上 勝彦 玉 真之介 田中 学 坂下 明彦 川村 湊 馬 興国 劉 立善 劉 含発 衣 保中 黄 定夫 梁 玉多 山室 信一 森 久男 我部 政男 井村 哲郎 蘭 信三 徐 明勲 歩 平
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、旧「満州」へ送り出された日本人農業移民の実態を総合的に解明し、日本の近現代史のひとこまを新たな視覚から再構成することを目的としたが、とりわけ次の諸点で成果を収めることができた。1.「旧水曲柳開拓団」の生存者たち、及び入植現地の中国農民生存者たちからの聞き取り調査と、日中双方の関係農村のフィールドワーク調査によって、日中農民の接触実態や土地収用とその後の営農状況等について、多くの証言と、それを裏付けるデータを得た。2.農業技術、雇用状態等、日中双方の農業史における未解明の領域で、具体的な実態を解明するための多くの手がかりを得た。3.稲作地帯である入植地の朝鮮族農民、さらには朝鮮半島から「満州」へ送り出された朝鮮人農民に関する調査研究を、韓国の研究者および中国の朝鮮族出身研究者たちとの共同作業として重点的に進め、未開拓のこのテーマについての証言とデータを多数得た。4.「満蒙開拓団」政策の形成と実施の過程に関する資料の探索・分析に努め、この政策を推進したイデオローグたちの役割を、思想史の中に位置付ける作業を行った。5.「満蒙開拓団」を、政治・経済・農業・軍事などの次元にとどまらず文化の領域における問題としてもとらえ、文学・報道・映画・音楽などとかかわるテーマとして考察した。これによって、日本国民の感性の中へ「満州」と「満蒙開拓団」が浸透していった実態の一端を解明することができた。6.聞き取りとフィールドワークの記録を、ビデオテープ、音声テープに大量に収録したが、生存者がますます少なくなっていくなかで、これらは重要な歴史的ドキュメントとなるであろう。
著者
中村 光男 丹藤 雄介
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.97, no.11, pp.1347-1354, 2000-11-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
44
被引用文献数
1

非代償期慢性膵炎患者は膵性脂肪便や膵性糖尿病を合併することが多い.前者の診断には糞便の肉眼的観察とともに糞便中脂肪排泄量を簡便に定量できる近赤外分光法が最もすぐれている.また蓄便なしに膵機能不全を診断するためには13C-混合中性脂肪を用いた呼気13CO2脂肪消化吸収試験を行うことがよりよい.膵性脂肪便を確診したら大量の膵消化酵素による補充療法を行うべきである.しかし,膵性脂肪便患者は炭水化物吸収不良も合併していることが多いので,インスリン治療と膵消化酵素治療法を連動して考え,更に栄養状態改善を治療のゴールとすべきである.
出版者
テ-ミス
雑誌
月刊テ-ミス
巻号頁・発行日
vol.17, no.10, pp.34-35, 2008-10
著者
加藤 有子
出版者
現代文芸論研究室
雑誌
れにくさ : 現代文芸論研究室論集
巻号頁・発行日
vol.3, pp.226-242, 2012-03-30

This paper explores how Jonathan Safran Foer (b.1977) manipulates the visual and material elements of a book, focusing on the endings of his three books, Everything is Illuminated (2002), Extremely Loud & Incredibly Close (2005) and Tree of Codes (2010). By analyzing each ending as a representation of trauma suffered by survivors of the Holocaust and September 11, and as an allusion to the process of conquering this trauma and thereby living on "after" the event, this paper shows how Foer, using the visual elements of his books, demonstrates that the seemingly objective "history" is also a narrative from someone's viewpoint, and has been inevitably modified by deletion or abbreviation when being narrated. His works expand on the concept of "liberature" -- a new literary genre integrating the text and form of a book, proposed by Polish critics Fajfer and Bazarnik -- by demonstrating that such works make visible the manipulation that normally occurs in the narratives / histories we read and narrate. Firstly, comparing the endings of Tree of Codes, a die-cut book based on The Street of Crocodiles of Bruno Schulz, and Everything is Illuminated, this paper points out the common theme between the two, which differs completely in style and form. Both works, by using visual and physical elements of a book, represent the difficulty faced by survivors of the Holocaust and World War II when narrating their personal experiences of these traumatic events as an "I" story / history. Both works reflect popular discussions on memories of the Holocaust in the years 1980-1990, when Foer should have been receiving higher education. Further, this paper analyzes the ending of Extremely Loud & Incredibly Close, which ends with 15 continuous pictures, but in reverse, of a man falling from the World Trade Center on 09.11.2001. Compared with the poem by Wisława Szymborska (1923-2012), "Photograph of September 11" (2002), the ending turns out to symbolize the expectation that the narrator-protagonist will start to re-narrate the event from his personal viewpoint with his own words. The ending is not a visualization of repression of a traumatic event, but liberation from the collective and representative narratives on the event. This paper finally reminds the reader of a similar "manipulation" in a press release announced on the official home page of the Yad Vashem about the removal of the fragments of wall paintings of Bruno Schulz that were discovered in 2001 by the German film maker Geissler in Drohobycz (now in Ukraine), the hometown of Schulz.
著者
濱西 誠司
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.19-23, 2018

黄体期に限局して生じる強い眠気と過眠は月経前過眠症と呼ばれている.黄体期の眠気は軽症例も含めると多くの女性が経験する症状である1 )- 3 ).日中の強い眠気は女性の活動性を低下させるだけでなく,作業効率を低下させヒューマンエラーのリスクを増大させる要因となる.また,月経関連症状の多くは閉経期まで繰り返されるため,重篤な症状は女性の生活の質を低下させる要因となる.そのため,生活に支障を来たすような重症例では薬物療法の適用となり4 ),軽度-中等度の症状に対してもセルフケアによって症状の緩和を図っていくことが生活の質の向上のために重要であると考える.しかし,月経前の眠気の改善に有用なセルフケア法は確立されていない. 黄体期には中途覚醒が増加する一方,レム睡眠や深い睡眠の指標である徐波睡眠が減少するなど睡眠の質が低下することが報告されており,睡眠の質の低下は眠気の増強に影響している可能性がある1 ),5),6).円滑な入眠と睡眠の維持にはメラトニンの働きによる夜間の体温低下が不可欠であるが,黄体期にはプロゲステロンの影響で熱放散が阻害されるため,夜間の十分な体温低下が生じない7 ).このように,黄体期の生理的な体温上昇が睡眠の質を低下する一因と考えられており,夜間の円滑な体温低下を促進することで黄体期における睡眠の質および日中の眠気を改善することが期待できる. 暑熱環境では熱放散が困難となることで高体温が維持されるため,中途覚醒の増加など睡眠の質の低下が認められるが,睡眠中に頭部を冷却することで中途覚醒が減少することが複数の研究で報告されている8 )- 9 ).そこで,暑熱環境と同様に熱放散量が低下する黄体期においても,睡眠中に頭部を冷却することで体温低下と睡眠の質の改善に寄与できる可能性があると考えた.本研究では睡眠時の頭部冷却が黄体期における睡眠の質や日中の眠気に及ぼす影響について検討することを研究目的とする。
著者
宗本 順三 鉾井 修一 張本 和芳 吉田 哲 高野 俊吾
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.67, no.551, pp.85-92, 2002-01-30 (Released:2017-02-04)
参考文献数
34
被引用文献数
9 6

In this study, we find combination of building materials and construction methods to reduce environmental loads (LCCO_2, final waste, LCC) with using genetic algorithms system which is developped to select those combination. We apply the system to "the standard building model (often used at calculating thermal load)", and search combinations to minimize each value through life cycle. Then we can find combinations to reduce a11 values at the same time by the system using "restriction method". Each value is much less than each of house which has enough thermal insulating material to satisfy "standard by energy conservation next generation".
著者
早津 恵美子
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.143-174, 2015 (Released:2016-05-17)
参考文献数
29

使役文の文法的な意味については様々な分析がなされているが,広く知られているものとして「強制」と「許可」に分けるものがある。本稿ではこれとは異なる観点から「つかいだて(他者利用)」と「みちびき(他者誘導)」という意味を提案する。この捉え方は「強制:許可」という捉え方を否定するものではないが,原動詞の語彙的な意味(とくにカテゴリカルな意味)との関係がみとめられること,それぞれの使役文を特徴づけるいくつかの文法的な性質があること,この捉え方によって説明が可能となる文法現象がいくつかあること,という特徴がある。そのことを実例によって示し,この捉え方の意義と可能性を明らかにした。そして,「強制:許可」と「つかいだて:みちびき」との関係について,両者はそれぞれ使役事態の《先行局面/原因局面》と《後続局面/結果局面》に注目したものと位置づけ得ることを提案した*。
著者
藤井 樹也
出版者
成蹊大学法学会
雑誌
成蹊法学 = The journal of law, political science and humanities (ISSN:03888827)
巻号頁・発行日
no.92, pp.179-198, 2020

アメリカ連邦最高裁は、Bakke 判決(1978)、Grutter 判決(2003)、Gratz 判決(2003)、Fisher I 判決(2013)、Fisher II 判決(2016)などを通じて、大学における人種的優先入学の合憲性審査を行い、厳格審査を満たした柔軟な人種考慮に限って、例外的に許容する判例法理を形成してきた。他方で、この傾向に批判的な人々は、イニシアティヴを受けた州民投票によって、優遇措置を禁止する州憲法改正を企てた。このような州憲法改正が成立した州では、州民投票のような困難な手段によって再度の州憲法修正を成功させない限り、人種的優先入学制度を復活させることができなくなった。これは、連邦憲法修正14 条の平等保護条項違反なのだろうか。Schuette 判決(2014)は、数々の困難な問題に関連する重要な判決である。