著者
万治 淳史 松田 雅弘 網本 和 和田 義明 平島 冨美子 稲葉 彰 福田 麻璃菜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0312, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】脳卒中後の運動麻痺の治療として経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)の有効性について報告がされている。中枢性運動障害のパーキンソン症候群でも一次運動野を刺激することによる上肢の運動緩慢の改善(Fregni et al, 2006他)や,tDCSによる皮質脊髄性の興奮性の向上(Siebner et al, 2004),パーキンソン病(Parkinson disease:PD)のジストニアに対する有効性(Wu et al, 2008)などの報告が見られる。しかし,本邦ではPDに対するtDCSによる治療効果の報告はまだ少ない。今回,起立・歩行動作障害を呈するPD患者に対し,tDCSを実施し,動作の改善が見られた症例について,報告する。平成26年日本理学療法士協会研究助成の一部を利用して実施した。【方法】対象はPDの患者2名,症例Aは75歳,女性,Hoehn & Yahrの分類4で日常的に起立・歩行は困難で介助を要し,すくみ足も顕著であった。症例Bは71歳,女性,Hoehn & Yahrの分類3で自力での起立・歩行は可能であるが補助具を要し,体幹屈曲姿勢が著明であった。方法はtDCSはDC Stimulator(NeuroConn GmbH社製)を利用し,陽極を左運動野,陰極を右前頭部に設置し,1mAの直流電流を20分実施した。刺激前後での評価は,tDCS刺激の前後に,立ち上がり動作と10m歩行テストを実施した。各動作について,前額面・矢状面よりデジタルビデオカメラにて撮影を行い,所要時間の計測を行った。動作分析のため,肩峰・大転子・膝関節・足関節・第5中足骨頭にマーカーを貼付し,撮像データから動作時の体幹・下肢関節角度の算出を行った。tDCS実施前後での計測データの比較を行い,tDCSによる効果について検証した。また,別日にSham刺激前後で同様に測定を行い,tDCSによる効果との比較を行った。【結果】tDCS前後での歩行について,速度:症例A 5.4±0.1→11.0±0.4m/min,症例B 7.8±0.2→8.9±0.1m/min,歩行率:A 92.3±7.2→106.4±6.5steps/min,症例B 88.6±0.9→90.2±3.5steps/minと2症例ともに歩行指標の改善が見られた。特に症例Aについて,大幅な歩行速度の増加が見られ,刺激前にはバランス自制困難で介助を要していたが,刺激後には自制内となった。起立動作について,所要時間:症例A 7.6±0.7→5.6±0.6秒,症例B 33.2±12.8→19.6±3.4秒と動作スピードの改善が見られた。また,起立動作の失敗回数について,症例Aにおいて,刺激前4回/2試行であったものが,1回/2試行と動作失敗の減少が見られた。立位姿勢における股関節屈曲角度:症例A 71.8±1.8→74.0±4.7°,症例B 38.5±0.7°→28.5±2.1°と症例Bにおいて伸展方向に姿勢の変化が見られた。Sham刺激前後においてはtDCS実施時に比べ,改善効果は小さい結果となった。【考察】tDCS前後でのPD患者における歩行動作と立ち上がり動作の効果について検討した。一次運動野(M1)上に陽極設置し,直流電気刺激を行うことで運動誘発電位の振幅が上昇し,陰極下では反対の効果がある。このように脳皮質の活動性の促通/抑制により,活動のバランスを整えることで歩行・立ち上がり動作の改善に寄与していると考えられる(Krause et al, 2013)。歩行に関しては検討した症例はすくみ足・小刻み歩行が顕著で歩行に時間を要していたが,歩行速度・歩行率の改善はこれらPD特有の症状の改善に効果を示したものと考えられる。同様に立ち上がり動作においても,後方重心と動作緩慢により動作困難であったものが。前方への重心移動や動作の円滑性の改善により,起立動作遂行を可能とし,所要時間の短縮が見られた。このようにtDCSにより運動野を刺激することで,PD特有の症状の改善が認められたのは,一次運動野からの入力刺激によって大脳基底核の入力が増大することや,刺激位置(電極接触位置)から運動野前方の補足運動野へも刺激が波及し,運動プログラムの活性化などが関与した可能性が考えられる。脳刺激部位による特異性に関しては今後とも検討を必要とする。今後さらに症例数を増やして検討していく。【理学療法学研究としての意義】tDCSによる脳刺激でPDに対する即時効果として動作遂行能力,動作緩慢に影響することが示唆された。PDに対する脳刺激による治療の可能性を示唆したものであり,今後,詳細な効果の検証を行う上での基盤となると考える。また,その効果や程度を把握することで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。
著者
佐藤 匡 高橋 一生 市川 修治
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌
巻号頁・発行日
vol.1984, no.1, pp.119-124, 1984
被引用文献数
1

D-グルコースおよびD-ガラクトースを塩化チタン(IV)存在下メタノール中で光照射するとC5-C6位の結合が選択的に開裂し,相当するペントジアルドース誘導体を与えた。この反応は,1)フラノシド構造への異性化,2)C5,C6一位のヒドロキシル基とチタンによるキレート生成,および,3)このキレート内における電子移動,により進行すると考えられる。本反応の選択性はこの反応が第一級ヒドロキシル基を含む1,2-ジオール系でもっともよく進行するためと考えられる。
著者
櫻井 伸行 高橋 一生 江村 菜津子 皆川 修人 東間 千芽 橋爪 力 澤井 健
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.109, pp.P-92-P-92, 2016

<p>【目的】マウス胚において,内部細胞塊から胚盤葉上層(EPI)および原始内胚葉(PrE)への分化はFGFシグナルによって制御されている。FGFシグナルのリガンドであるFgf4はEPI前駆細胞から分泌され,隣接する細胞に作用することでPrE分化を促す。そのため,<i>Fgf4</i>欠損マウス胚はPrE分化に異常をきたし,胚性致死となる。一方,ウシ胚の発生および組織分化におけるFGFシグナルの役割は明らかでない。本研究では,ウシ胚の各発生ステージにおける<i>FGF4</i> mRNAの発現動態解析およびウシ初期胚に対するFGF4発現抑制実験を行い,ウシ胚の発生および組織分化におけるFGF4の役割について検討した。【方法】食肉処理場由来のウシ卵巣から卵丘細胞–卵子複合体を吸引採取し,体外成熟培養後に媒精を行うことで体外受精胚を得た。各発生ステージにおいてサンプリングを行い,<i>FGF4</i>の遺伝子発現量解析を行った。1細胞期胚の細胞質にFGF4発現抑制用のsiRNAを注入し,胚発生への影響を検討した。実験区はFGF4発現抑制区に加え,遺伝子発現抑制効果を有しないControl siRNA注入区および注入操作を行わないUninjected区を設けた。桑実胚を対象として,EPIの分子マーカーである<i>NANOG</i>およびPrEの分子マーカーである<i>GATA6</i>について遺伝子発現量解析を行った。【結果および考察】<i>FGF4</i>発現は16細胞期までは認められず,桑実期以降でのみ認められた。培養7日目における胚盤胞期への発生率は,Uninjected区(64.6%)およびControl siRNA区(60.1%)と比較してFGF4発現抑制区(20.6%)において有意(<i>P</i> < 0.01)に低い値を示した。FGF4発現抑制区における<i>NANOG</i>発現量は,Control siRNA区と比較して有意(<i>P</i> < 0.05)に高く,また<i>GATA6</i>発現量はUninjected区と比較して有意(<i>P</i> < 0.05)に低い値を示した。本研究では,ウシ胚の初期発生においてFGF4が重要な因子であることが明らかとなり,またウシ胚においてもFGFシグナルがEPI/PrE分化を制御する可能性が示唆された。</p>
著者
高橋 一生
出版者
Otsuchi Marine Research Center, Ocean Research Institute, the University of Tokyo
雑誌
Otsuchi marine science = 東京大学海洋研究所大槌臨海研究センター研究報告 (ISSN:13448420)
巻号頁・発行日
no.27, 2002-03-29

平成12年度共同利用研究集会「北海道, 東北沿岸の海草藻場ワークショップ」(2001年3月7日~9日, 研究代表者:相澤啓子)講演要旨
著者
原田 晋 森山 達哉 田中 昭
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.708-713, 2011-06-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
14

症例1,28歳女性.液状のローヤルゼリーを初めて一口試食した直後より,頸部の紅潮・気分不良・腹痛・下痢が出現.症例2,21歳女性.ローヤルゼリーグミを初めて食べた数時間後より鼻閉・両側眼周囲の腫脹が,さらに10日後に同じグミを摂取した4時間後より鼻閉・呼吸困難・全身の紅潮〜膨疹が出現.プリックテストで両者共にローヤルゼリー自体で陽性であったため,ローヤルゼリーアレルギーと診断した.初回摂取時に発症した理由としては,過去に知らず知らずの間にローヤルゼリーに対して既感作であったとの機序を考えたが,症例2ではヨモギの特異的IgEおよびプリックテストが共に陽性であり,ヨモギアレルギーとの交叉反応によって発症した可能性も疑われた.ローヤルゼリーは本来クラス1アレルゲンと考えられているが,過去にも初回摂取後の発症の報告例が多く認められており,花粉類などとの交叉反応により発症に至るクラス2アレルギーの可能性も考慮した上で検索を行う必要があると考えた.
著者
高橋 一生
出版者
日本共生科学会
雑誌
共生科学 (ISSN:21851638)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10, pp.18-27, 2019

The first global civilization has been characterized by the dominance of PaxBritanica to be followed by Pax Americana for the past 200 years. Based on thephilosophical underpinning of individualism, such factors and values as marketeconomy, democracy, freedom, human rights and the rule of law in the broadframework of the nation-states system have been globalized with, however,increasing sense of uncomfortableness with this trend in various parts of theworld. With the decline of the influence of the United States and with theemergence of alternative values based on perspectives beyond individualism, anew global civilization seems to be in the offing.It should be essential for the intellectual community to come to grips withthis phenomenon up-front at this historic moment in time. The objective of thispaper is to present a rough sketch of the issues involved in analyzing thischallenge. The first set of issues are related to the problems that tend to arisein the context of civilizational change. The second set of issues are related tothe substance of the new civilization. At the end of the paper a series ofgeneral observations will be presented.
著者
古川 一明
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.269-294, 2013-11-15

東北地方の宮城県地域は,古墳時代後期の前方後円墳や,横穴式石室を内部主体とする群集墳,横穴墓群が造営された日本列島北限の地域として知られている。そしてまた,同地域には7世紀後半代に設置された城柵官衙遺跡が複数発見されている。宮城県仙台市郡山遺跡,同県大崎市名生館官衙遺跡,同県東松島市赤井遺跡などがそれである。本論では,7世紀後半代に成立したこれら城柵官衙遺跡の基盤となった地方行政単位の形成過程を,これまでの律令国家形成期という視点ではなく,中央と地方の関係,とくに古墳時代以来の在地勢力側の視点に立ち返って小地域ごとに観察した。当時の地方支配方式は評里制にもとづく領域的支配とは本質的に異なり,とくに城柵官衙が設置された境界領域においては古墳時代以来の国造制・部民制・屯倉制等の人身支配方式の集団関係が色濃く残されていると考えられた。それが具体的な形として現われたものが7世紀後半代を中心に宮城県地域に爆発的に造営された群集墳・横穴墓群であったと考えられる。宮城県地域での前方後円墳や,群集墳,横穴墓群の分布状況を検討すると,城柵官衙の成立段階では,中央政権側が在地勢力の希薄な地域を選定し,屯倉設置地域から移民を送り込むことで,部民制・屯倉制的な集団関係を辺境地域に導入した状況が読み取れる。そしてこうした,城柵官衙を核とし,周辺地域の在地勢力を巻き込む形で地方行政単位の評里制が整備されていったと考えた。
著者
玉田 薫
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.223-228, 2012-04-10 (Released:2012-04-22)
参考文献数
18

This article describes recent progress of surface plasmon related techniques for bio-application. The first part is concerning propagating surface plasmon resonance (SPR), where we discuss the complication of nano to micron scale inhomogeneous materials for characterization by the interfacial waves. The second part is concerning crystalline sheets composed of metallic nanoparticles (‘plasmonic nanosheet’). This nano-thickness sheet exhibits a unique optical property originating from the two dimensionally coupled localized SPR. The concept to use the plasmonic nanosheet for new biosensing devices is introduced.
著者
藤田 昌久 石川 義孝 中川 大 文 世一 森 知也 田渕 隆俊
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2001

以下の五つの研究課題を相補的に関連させながら、理論と実証分析の両面から研究を推敲し、以下の成果を得た。(1)一般的基礎理論:空間経済学を複雑系の視点から再構築した。特に、内生的成長理論との融合として、知識外部性の影響下での生産とR&D活動の集積、イノベーションの速度、経済成長の相互連関の分析、および、知識創造・伝播に繋がるコミュニケーションの「場」の形成メカニズムの定式化を行った。企業組織論との融合としては、交通・通信技術の発展、企業のグローバルな組織展開、世界経済の空間構造の変化の相互連関を分析し、さらに、経営戦略的観点の基づく「産業クラスター理論」の空間経済学的基礎を与えた。実証面では、産業集積度や個々の経済集積の空間範囲を検出する情報量基準の開発を行った。(2)産業集積のミクロ分析:IT産業等を対象に、集積と産官学連関の実際と研究開発活動の相互連関、および、集積と地域活性化との関連について実証研究を行った。(3)都市システム:開発したモデルを用いて、与件の変化に伴う都市システムの発展過程や、輸送の規模の経済下での経済立地と輸送技術の相互連関、さらに、経済発展に伴う、都市化、出生率、所得分布や格差の推移の相互連関について分析した。また、日本の製造業について集積を検出し、都市の産業構造と人口規模の関係を明らかにした。(4)国際地域システム:開発したモデルを用いて、産業の空洞化メカニズム、輸送密度の経済の影響下での貿易パターンと国際輸送網の相互連関、および、先進・途上国間での知識・技術のスピルオーバーに基づく、国際地域システムにおける雁行形態的産業発展過程等を説明した。(5)経済立地と交通・通信システム:交通経済学との融合により、輸送技術が経済活動の空間分布に依存して決まるメカニズムを明らかにし、さらに、都市空間における次善の料金政策の効果との連関等も分析した。また、交通整備水準と地域経済との関係に関するデータベースを構築し、交通整備の社会的便益の計測、交通施設整備財源の国際比較等を行った。
著者
高 橋 一 生
出版者
日本共生科学会
雑誌
共生科学 (ISSN:21851638)
巻号頁・発行日
vol.6, no.6, pp.1-12, 2015

国際社会が権力政治化してきた。その主たる原因は新興国中国が米国に挑戦しているからであ る。近代国際社会においては、覇権国に対して政治体制の異なる新興国が挑戦すると、すべて世 界戦争になってきた。戦争を食い止めるために勢力均衡や相互確証破壊システムなどが試されて きたが、現在は中国の核能力が米国に対して相互確証破壊能力を築くことからはほど遠い状況に ある。勢力均衡は永続的な平和の維持を保証できないことが歴史上確認されている。他方20世紀の教訓として多国間システムが良く機能している場合には平和の持続性が確保され る、ということが明確になった。危険極まりない現状に対する対応は勢力均衡に努めるだけでな く、より根本的な対応としては多国間主義を強化することである。特に地球温暖化および開発協 力という 2 大分野でその必要性と可能性が高まりつつある。この二つの分野で多国間主義を強化 する鍵を実は日本が握っている。
著者
長谷川 誠
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
應用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.803-808, 2008-07-10
参考文献数
15
被引用文献数
6

<p>千歳科学技術大学の学生プロジェクト「理科工房」は,地域の小中学校の総合学習を利用した理科実験授業,PTAや科学館と連携した実験・科学教室,さまざまな機会での実験デモンストレーションなどを行っている.この活動は,担当する大学教員が積極的に関与するものの,基本的には学生の自律性を重視したプロジェクト活動である.自ら考えて行動する独立した個人が,お互いに協力・協調しながら目標を達成し,結果を検証していく自律的な活動は,参加学生にとって,思考力,協調性・コミュニケーション能力,技術力・知識の自主的な向上の機会となっている.また,必要な実験器材の作製作業を通じて,学生のものづくり意欲の喚起にもつながっている.</p>