- 著者
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林 文男
- 出版者
- 東京都立大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1999
同翅亜目昆虫類について,セミ型類6科29種およびハゴロモ型類8科12種について,精子の形態および内部生殖器の観察を行うた.その結果,セミ型類のセミ科,アワフキムシ科およびヨコバイ科の3科で巨大精子束が形成されていた.セミ科とヨコバイ科では,長いヒモ状物質に精子の頭部先端が一列に付着するのに対して,アワフキムシ科では棍棒状の物質の周りに精子の頭部先端が付着して精子束を形成していた.他のセミ型類および観察したすべてのハゴロモ型類では精子が束になるということはなかった.これまでに知られているこの仲間の分子系統樹に,以上の結果を重ね合わせると,セミ型類では精子束を形成することが祖先的であり,その後コガシラアワフキムシ科,トゲアワフキムシ科,ツノゼミ科で精子束の形成が消失したと考えられた.巨大精子束を形成する物質(精子を束ねる物質)は,トリプシン処理によって分解されたため,タンパク質から成ることが明らかとなった.これらの精子束は精巣から貯精嚢にかけて徐々に形成され(成長し),そのままの形でメスに渡された.メスの交尾嚢の中で,精子束は分解してしまう.精子は離脱して受精嚢に集合しそこに蓄えられる.一方,精子を束ねていた物質は交尾嚢の中で完全に分解され,おそらく吸収されてしまう.ローダミンBという蛍光物質(タンパク質に結合)を取り込ませた物質をツマグロオオヨコバイのメスの交尾嚢に注入すると,卵巣で発達中の卵中にこの蛍光物質が取り込まれることが明らかとなった.精包などとともに,精子を束ねる物質も,オスからメスへの婚姻贈呈物として機能している可能性が示唆された.