著者
樊 怡舟 中尾 走 西谷 元 村澤 昌崇
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.69-77, 2021 (Released:2022-04-27)
参考文献数
11

In the research area of evaluating the effectiveness of study abroad programs, adopting counterfactual frameworks such as DID, PSM or IV has been considered a valid analytical approach. Previous findings drawn based on these conventional frameworks suggest that even short-term study abroad programs have a significant effect on the improvement of TOEIC scores. However, these studies are often designed to estimate the effects with students’ prior TOEIC scores, and only controlling departmental or school affiliations, while confounding factors, particularly students’ competency such as learning attitudes as well as learning motivations, remain uncontrolled. This study attempts to extract students’ competency from high-dimensional data with a large volume of missing values in student’s test score sheets, using the Alternating Least Squares (ALS) method. Injecting the extracted competency in the subsequent regression analysis en ables us to accurately estimate the causality between the study abroad experience and the observed outcomes. Our analysis result reveals that, unlike findings from earlier studies, once students’ competency is properly controlled, the estimated effect of the study abroad programs becomes negligible with no significance. Therefore, the finding suggests that the causal effect claimed by the previous studies might be due to a bias engendered by students’ self-selection. The result also indicates that datasets readily accessible at any university, such as student test score sheets, could effectively be used for project evaluations within an institution, notably because the confounding factors are properly controlled as suggested by the current study.
著者
大風 薫
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.54-83, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
16

すべての年代において生きがいが生き方を見直す重要な視点になっている。このことを踏まえ、本稿では、35歳から64歳の現役世代男女がどの程度、どのような生きがいを持っているのか、生きがいと階層・ライフイベント・資産形成の関わり、そして、生きがいとメンタルヘルスの関係について検討した。得られた結果は以下の通りである。 1)現役世代は65歳以上の高年世代に比べて生きがいを持たない割合が高く、生きがいの対象数も少ない。生きがいの主な対象は、男性では「仕事」、女性では「家族・家庭」「ひとり気まま」である。 2)生きがいの保有や生きがいの対象には階層による格差がある。高学歴や高収入層は「仕事」や「家族」が生きがいの対象だが、階層が低い場合は、「友人」や「SNSによる交流」、「ひとりで気ままに過ごすこと」を生きがいとしている。 3)自発的でない理由による退職経験は生きがいを損なう一方、自己の成長やキャリアアップにつながる自発的な理由による退職経験は生きがいをもたらす。 4)男性は、家族や自己の成長になるライフイベントを経験している場合、生きがいを持ちやすい。他方、女性は、自分の生活を大きく調整せざるを得ないイベントを経験している場合、生きがいを持ちにくくなる。 5)預貯金・保険商品・NISAによる資産形成は生きがいを高めることと関連しており、資産形成行動はメンタルヘルスの良好さと関係している。 本稿では、人生の充実期とみなされ、生きがい研究やライフコース研究において従来あまり注目されてこなかった中年を含む現役世代に注目し、生きがいの規定要因や生きがいとメンタルヘルスとの関係を明らかにしてきた。現在の現役世代の場合、高年世代になっても現在の高年世代ほどの生きがいを得ることは難しいおそれがあるものの、資産形成行動が生きがいやメンタルヘルスの向上につながる可能性はある。生きがいとの関わりの中で資産形成を位置づける適切なコミュニケーションが求められる。
著者
松野 文俊
出版者
一般社団法人 日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.428-431, 2017 (Released:2017-08-15)
参考文献数
24
被引用文献数
6
著者
前田 豊 鎌田 拓馬
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.78-96, 2019 (Released:2020-06-25)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本稿では,個別事例の因果推論におけるSynthetic Control Method(SCM)の利用可能性を検討する.SCMは処置前の結果変数と共変量で処置を受けた主体と一致するように,対照群を適当な重みづけから統合したsynthetic controlを構築し,このsynthetic controlと処置群との比較から個別主体の因果効果の識別を行う.本稿ではSCMのアプリケーションとして,阪神淡路大震災が貧困層拡大へ与える影響を検討した.分析の結果,震災発生後にラグ期間を伴って生活保護後受給者数は増加し,震災発生から15年たっても,震災効果が持続することが示された.本稿ではさらに,推定のパフォーマンスの観点からSCMのオルタナティブとなる差の差(Difference-in-Differences,DD)分析との比較を,実データ,およびモンテカルロ・シミュレーションを用いて行った.結果として,主体毎に異なる時間的トレンドが存在しない場合には,SCMとDDは同様の推定値を導くが,主体毎に異なる時間的トレンドが存在する場合は,SCMの方がバイアスの少ない推定量であることが示された.これらの結果は,個別主体の因果推論において,とくに未知の時間的トレンドが存在する場合に,SCMが適した推定手法であることを示している.
著者
崎田 誠志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.300-323, 2017 (Released:2022-03-02)
参考文献数
45
被引用文献数
4 1

本研究では,第1種共同漁業であるイセエビ刺網の自主的管理を共同体基盤型管理(CBM)ととらえ,和歌山県串本町の11地区を事例として,同一地域内におけるCBMのミクロな多様性とその形成要因を検討した.イセエビ刺網のCBMを構成する手法は,空間管理,時間管理,漁具漁法管理,参入管理の4類型に分類される.イセエビ刺網の実態や傾向がある程度地理的なまとまりを伴いつつも地区間で異なっていたように,CBMのあり方もまた,地区間・手法間でさまざまな異同がみられた.これらの事例の比較検討から,CBMのミクロな多様性は,地区の自然的・社会的諸条件とその変動に対する漁家集団の応答の積み重ねによって形成されてきたことが明らかとなった.また,CBMが改変・維持される目的にも地区間・手法間で多様性がみられ,漁家集団の性質や意向を反映しながら,CBMの多様化を方向づけていた.
著者
長沼 葉月
出版者
首都大学東京人文科学研究科
雑誌
人文学報. 社会福祉学 (ISSN:03868729)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.1-22, 2016-03

本研究では、援助関係が形成しづらいクライエントとの相談援助面接技法について、困難事例への支援アプローチや社会構成主義的な実践アプローチを参照して抽出し、ソーシャルワーカーに対して効果的に研修する方法を開発することを目的とした。抽出した技法は基本的な面接技法に加えて利用者主体、ストレングス視点、エンパワメントの価値を活用した態度や問いかけの技法であった。 研修方法は連続開催が可能な場合と、単一回のみの実施とでできる工夫に違いがあったが、受講者相互の「対話型」の仕掛けを組み込むことと、実践応用について様々な形で意識付けを行うことが有効であると考えられた。
著者
千葉 政一 森脇 千夏 伊奈 啓輔 藤倉 義久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.1, pp.48-55, 2016 (Released:2016-01-09)
参考文献数
110
被引用文献数
2

視床下部神経ヒスタミンはヒスチジン脱炭酸酵素によって必須アミノ酸l-histidineから生合成され,食行動・エネルギー代謝調節などの生理機能を広く制御し,他のアミン神経系同様に重要な役割を担う.近年,この視床下部神経ヒスタミンは5つの神経亜核(腹側亜核群としてE1,E2およびE3,背側亜核群としてE4およびE5)から構成されることが明らかとなった.E1とE2はおもに概日周期の情報処理に,E3はおもに空腹時の拮抗性食行動情報処理に,E4とE5はおもにストレス情報処理に,それぞれ関連した生理機能制御に寄与すると考えられる.しかし,これらの神経亜核群の生理機能について不明な点が多く残されており,今後の視床下部神経ヒスタミン研究と同分野の創薬に飛躍的な発展が期待される.
著者
黒川 雅幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.93-107, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本研究では,もったいないと感じた後の認知,感情,行動の変化について明らかにすることが目的であった。研究1では,大学生171名を対象に質問紙調査を実施した。参加者の経験や場面想定法による評定から,もったいないと感じた後には,それと類似する出来事において,再びもったいないと感じないように行動の改善を図ったり,気をつけたりすることが多いことが明らかになった。さらに,研究2,3では,研究1で得られた結果を行動レベルで確認するための実験的な検討を行った。研究2では,大学生42名を対象にもったいないを情動特性として捉えた実験を行った。価値の損失および再利用・再生利用可能性の消失によるもったいない情動特性が高いほど,もったいないと感じないように行動することが明らかになった。研究3では,大学生45名を対象にもったいないを状態的感情と捉えた実験を行った。しかし,もったいない感情が喚起されても,もったいないと感じないようにする行動はみられなかった。さらに,研究4では,大学生42名を対象に,情動特性と状態的感情の両方から検討し,状態的感情の喚起がもったいないと感じないような行動を導くことを明らかにした。
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.116-140_2, 1956-02-01 (Released:2008-12-24)
被引用文献数
1 1
著者
宮廻 正明
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.845-854, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
2

人類の共通財産である文化財は,保存と公開のバランスや紛争による破壊,流出の問題に直面している。文化財は唯一無二の存在であり,その真正性は本来,複製が不可能であるが,東京藝術大学ではアナログ技術とデジタル技術を混在させることで,オリジナルの質感,形状,素材,色彩,文化的背景までをも再現する「クローン文化財」の技術を開発し,特許権を取得した。本稿ではクローン文化財の開発目的と意義,今後の展望について,(1)日本文化の特質,(2)芸術のDNA,(3)クローン文化財の制作手法と展示例,(4)平和外交への活用,という4点から述べる。
著者
岸 拓弥
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.630-633, 2020-11-15 (Released:2020-12-24)
参考文献数
15

周術期における硝酸薬はイメージとして心血管イベント発症抑制に有用であると誰もが思っていることであろう.しかしながら,これまでの臨床研究ならびにメタ解析では,心血管イベント発症抑制ならびに心筋虚血保護にニトログリセリンが有効であることは示せていない.したがって,ガイドラインでも明白な推奨はされておらず,むしろ耐性や血圧低下・過剰な前負荷軽減に対する懸念がある.ニコランジルは機序的には周術期において有効であると期待できるが,エビデンスは十分ではない.したがって,硝酸薬もニコランジルも,周術期において「なんとなく」「念のため」の使用は避けるべきである.
著者
片倉 綾那
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.45-56, 2008 (Released:2011-12-20)
参考文献数
32

This essay investigates the identity of Byzantine princess Anna Komnene through a consideration of two conspiracies in which she was involved.Before and after the accession of the Alexios I Komnenos, who was the founder of the Komnenos Dynasty, there were three women, who played roles on the political stage. Each of them participated in politics as mothers and wives of emperors on behalf of their children.However, there was a princess who had ambitions for herself, not her own children. This princess is Anna Komnene, who was the first-child of Alexios I. She is famous as the author of "Alexias" and the only female historian in the society of medieval Christianity. But she has another identity, as a chief conspiratress. She attempted plots in order to gain for herself a government post during Alexios I's reign, claiming her right of place as the emperor's first-child.Some scholars have analyzed these two plots by Anna as part of the long history of political struggles and intrigues that characterized the political history in the Komnenian era. On the other hand, other scholars have used the incidents as a way to focus on the role of imperial women who participated in these events; they have investigated the political role of imperial women through a close examination of their participation in these plots.In this essay I focus not only on the patterns of action by the women, but also on the incidents as an important part of the way in which Anna forged her own identity. I believe this approach will allow us to see more clearly how Anna used the incidents to strengthen her own position.In this paper, the hypothesis is demonstrated that the two plots in 1118 and 1119 were Anna's attempts to recover her right to the throne. Firstly, I describe Anna's role in these affairs as revealed through consideration of the process of development of the two conspiracies. Next, I examine the ways in which imperial women in general were able to participate in politics and compare these with Anna's actions in these two incidents. Finally, I look into Anna's identity, as the first-child of the emperor and the empress.
著者
永田 忠博
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.510-520, 2008-08-01 (Released:2018-01-31)
参考文献数
6

21世紀に入り,食品を巡る一連の不祥事が続いた.その結果,日本の食品安全行政はリスク分析の考え方に基づく組織となった.様々なハザード(危害要因)の調査研究が進む中で,フードチェーンを通した安全確保が重視され,規制も技術開発も変わってきている.また消費者の信頼確保のため,リスクコミュニケーションが重視され,食品の身元保証のための技術開発も進んでいる.本稿では,その動向を概説する.
著者
逓信省電気局 編
出版者
電気協会
巻号頁・発行日
vol.昭和11年9月, 1936