著者
石川 巧
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.63-78, 2014-11-15 (Released:2017-06-01)

菊池寛は、大正後期に書き継いだ法廷小説のなかで、容疑者の陳述はもちろん、捜査担当者、裁判官、検事の心証から事件報道まで、多様な言説を駆使して法の矛盾や不備に迫ろうとした。裁判で勝つためにありとあらゆる戦略が練られる法廷のディスコースそのものが文学的レトリックによって構成されていることを的確に見抜き、文学という方法を用いて法の内実を問うた。また、菊池寛の法廷小説においては読者が陪審員の位置に立たされる。法廷において自らの言葉をもつことができないアウトサイダーが可視化され、公平性をめぐる基準線の引き直しが試みられる。語ることよりも語れないことに意味を見だし、語れない人々に言葉を与えること、語れないことを語ることが追求される。
著者
櫻 哲郎 森田 寿郎 植田 一博
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第56回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.A16, 2009 (Released:2009-06-16)

伝統芸能文楽では,3人の人形遣いが1体の人形を操作し,多彩な動作を実現している.本研究ではこの協調操作技術のメカニズム解明を目指し,合図となる非言語情報“ほど”に着目した動作解析を行った. まず人形の構造・操作方法について調査を行い概要を把握した.“ほど”とは操作の主導権を握る主遣いが 動作開始時に“型”と呼ばれる動作パターンや,動作の大きさ・速さなどの情報を他の人形遣い(左・足遣い)に伝達する合図と言われている.“ほど”を含む人形各部位の位置姿勢情報を計測するため,磁気式センサ内蔵型文楽人形を製作した.実機を用いて現役の人形遣いによる演技の計測実験を行った.得られた主遣いの操る右手と,左遣いの操る左手の速度情報に対しウェーブレット解析による位相解析を行った.結果“型”動作は3つの動作要素に分けられ,主遣いに対し左遣いが高い追従性を持つ動作要素の前に,主遣いが先行する“ほど”にあたる動作要素が発見された. 以上より,人形の協調操作において,主遣いの動作中に含まれる“ほど”と呼ばれる動作要素が,左遣いの動作追従を促し,人形全体の協調動作を実現していることを明らかにした.
著者
野中 博史 Hirofumi NONAKA
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.323-341, 2007-03-20

民主主義社会における国家の運営は、自律した国民1人ひとりの意見を基盤とする世論に基づいてなされるのが原則である。国民が意見を表明する際の判断要素となるのは、生まれて以来受けてきた教育や体験を通して獲得した価値観、世界観、利害得失、印象、メディアや他人から得られた情報など様々である。中でもメディアによる継続的で正しい情報は、国民が適切な判断をする際の材料として不可欠の要素であるが、情報に接しない構成員が多い社会では、情報による適切な世論形成は困難になる。また、情報に間違った内容や意図的な操作などのノイズが入った場合も同様である。継続的で正しい情報が不在のまま世論形成がなされ、多数派を形成した社会では構成員の多寡に関わらず、少数派は沈黙しがちとなり、意見の寡占化が進む(沈黙の螺旋)。過剰な情報が意識の画一化、寡占化を促すとの説(象徴的貧困)もあるが、今回の考察では情報が少ない場合に、人々の意見はより寡占化が進む傾向がみられた。多様な意見が失われた社会は、民主主義の理念である多様な意見による社会形成効果が作用せず、全体主義的な空気を醸成する可能性が高くなる。しかし、構成員が非自律的であったにせよ適切な情報や対抗意見(対抗言論)に接すれば、"沈黙の螺旋"から解放され、意見の多様化が担保されるようになる。新聞を使った授業(NIE)でも、児童、生徒に対する教員側からの適切な情報提供や対抗意見を尊重する雰囲気作りが欠かせない。
著者
広部 千恵子 ヒロベ チエコ Chieko Hirobe
雑誌
清泉女子大学紀要
巻号頁・発行日
vol.47, pp.A17-A31, 1999-12-25

This paper deals mainly with foods which can also be considered as health foods for curing the common cold. In this paper, pickled ume (Prunus mume), garlic (Allium sativum), Japanese leek (Allium fistulosus), Kumquat (Fortunella spp.), Mandarin (Citrus unshiu etc.), bitter orange (Citrus aurantium), black soybean (Glycine max), burdock (Arctium lappa), perilla (Perilla frutescens), ginger (Zingiber officinale), Chinese radish (Raphanus sativus), egg, tea (Camellia sinensis), pear (Pyrus pyrifolia), lotus root (Nelumbo nucifera), aloe (Aloe arborescens, A. vera), ginkgo nut (Ginkgo biloba), fennel (Foeniculum vulgare), udo (Aralia cordata), mint (Mentha spp.), loquat (Eriobotrya japonica), Japanese butterbur (Petasites japonicus), mugwort (Artemisia princeps), pumpkin (Cucurbita spp.), Chinese quince (Chaenomeles sinensis), Chinese matrimony vine (Lycium barbarum), kudzu vine (Pueraria lobata), gardenia (Gardenia jasminoides), pomegranate (Punica granatum), taros (Colocasia esculenta), Japanese plum (Prunus salicina), dropwort (Oenanthe javanica) are described. Among these foods, ume, ginger, radish, mandarin and leek are popular and important, considered effective for curing common colds. In this paper how to use these foods for curing common colds is described.
著者
榊原 純哉
出版者
合成樹脂工業協会
雑誌
熱硬化性樹脂 (ISSN:03884384)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.208-220, 1986-12-10 (Released:2012-08-20)
参考文献数
28
被引用文献数
1

プラスチックは第2次世界大戦後飛躍的に伸び, 世界の経済成長の一翼を担ってきた。そのなかで, 熱硬化性樹脂はプラスチック全生産量の約20%を占め, その優れた耐熱性, 電気絶縁性, 加工の容易さ等の特徴が活用され, 多様な製品形態で日本の産業発展に大きく寄与してきた。特に熱硬化性樹脂は, 日本経済をリードするエレクトロニクス産業を中心とする先端技術分野において重要な役割を演じてきている。熱硬化性樹脂の用途及びプリント配線基板, 半導体封止材料を主体としたエレクトロニクス産業における熱硬化性樹脂の応用と技術動向について概説した。さらに, 最近の新しい樹脂及び応用について述べ, 熱硬化性樹脂の今後の展開方向について言及した。
著者
山田 正栄
出版者
合成樹脂工業協会
雑誌
熱硬化性樹脂 (ISSN:03884384)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.178-192, 1992-09-10 (Released:2012-08-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

自動車部品分野における軽量化, コストダウンを目的とした金属部品の樹脂化が進展する中で, この分野におけるガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料の需要は目ざましい伸びを示している。過酷な条件下で長期の信頼性が要求される自動車部品に多く使用されているのは, ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料が持つ優れた耐熱性, 機械強度, 寸法安定性, 耐薬品性等が認められたことに他ならない。一方では熱硬化性樹脂に共通の「脆さ」, 金属と比較した場合の「摩耗」など改良すべき余地も残っており, 諸物性の向上, 新機能の付加などにより今後も用途拡大が図られよう。本稿では, 金属材料及び熱可塑性エンジニアリングプラスチックスと比較しながら, ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料の特長を主に概説する。
著者
白井 康仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.131-136, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
20

ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はジアシルグリセロール(DG)をリン酸化し,ホスファチジン酸(PA)に変換する脂質キナーゼであり,これまでに10種のサブタイプが報告されている.周知のようにDGはPKCの活性化因子であり,産生されるPAも様々な酵素の活性を調節することから,DGKはPKCの抑制やPAの産生を介して生体内において重要な働きをしていると考えられている.しかし,神経系に多く存在するβサブタイプの機能は長い間不明であった.そこで,我々はDGKβのノックアウト(KO)マウスを作製し,その神経系における機能を調べた.その結果,DGKβKOマウスは,記憶障害と感情障害を示した.また,この感情障害は10日間のリチウム処理で改善した.一方,DGKβKOマウスから調製した海馬および大脳皮質初代培養細胞は,突起の分岐の数およびスパイン数が有意に減少していたが,DGKβを過剰発現させることで形態異常は回復した.さらに, DGKβKOマウスの海馬および大脳皮質において,スパイン密度が減少していることを確認した.これらのことから,DGKβは神経細胞の形態を調節・維持することにより神経ネットワークの形成,ひいては記憶や感情などの脳高次機能において重要な働きをしていることが明らかになった.本総説では,このDGKβKOマウスから得られた知見を中心に,神経系におけるDGKβについて概説するとともに,DGKβの記憶障害や感情障害の予防薬および改善薬のターゲットとしての可能性と問題点について論ずる.
著者
久富 悠生 中山 大地 松山 洋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100223, 2014 (Released:2014-03-31)

本研究の目的は,武蔵野台地における長期的な地下水流動を,数値モデルを利用して再現すること,及び長期的な地下水流動の変化と土地利用の関係を定量的に明らかにすることである.モデルはUSGS(アメリカ地質調査所)が開発したMODFLOWを利用した.MODFLOWは有限差分法を用いた3次元地下水流動解析モデルである.解析期間は土地利用データのある1977年~2012年を対象とし,MODFLOWを用いて1日ごとの地下水位を算出した.また,統計的に推定した気象データを用いて2013年~2050年における地下水流動の予測シミュレーションも行った. その結果,MODFLOWによって降水による地下水の反応や,季節変化を再現することができた.また,計算された地下水位のデータを用いて,1977年~2012年の地下水位の低下量と観測点における涵養域の減少量を算出した.地下水の変動傾向の有無の検出にはMann-Kendall検定を利用した.その結果,涵養域の減少量と地下水位の低下量に相関関係があることが明らかになった.この要因として,1977年~2012年に,水田や農地,森林などの透水面の面積が減少し,建物用地などの不透水面の面積が増加していることが示された.また,局地的な涵養域の減少の他に,武蔵野台地全体における広域的な涵養域の減少も地下水位の低下に影響を与えていることが示唆された.2013年~2050年の地下水流動の将来予測では,降水量の増加に対する地下水位の上昇はみられなかった.したがって,降水量の長期的な変化が地下水位の変動に与える影響は比較的少ないことが明らかになった. 今回のモデルでは長期的な地下水の流動を再現することができたが,再現性に欠ける部分もあった.そのため,今後の課題として更なるモデルの改良が必要であることが明らかになった.
著者
Yusei HISATOMI Daichi NAKAYAMA Hiroshi MATSUYAMA
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
JOURNAL OF JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.109-123, 2015-05-05 (Released:2015-08-12)
参考文献数
38
被引用文献数
4

本研究の目的は,武蔵野台地における長期的な地下水流動を,数値モデルを利用して再現すること,及び長期的な地下水流動の変化と土地利用との関係を定量的に明らかにすることである.モデルはUSGS(アメリカ地質調査所)が開発したMODFLOW(有限差分法を用いた3次元地下水流動解析モデル)を利用した.シミュレーションは土地利用データのある1976年~2012年を対象とし,MODFLOWを用いて1日ごとの地下水位を算出した.また,4種類のGCMデータを用いて2013年~2050年における地下水流動の予測シミュレーションも行った. 計算された地下水位のデータを用いて,1977年~2012年の地下水位の低下量と観測井戸における涵養域の減少量を算出したところ,両者の間に正の相関関係があることが分かった.この要因として,1977年~2012年に,水田や農地,森林などの透水面の面積が減少し,建物用地などの不透水面の面積が増加していることが示された.2013年~2050年の地下水流動の将来予測では,土地利用が変化しないと考えると,将来的に適度な強度の降水量が増加することで地下水位が上昇することが示唆された.
著者
Yoshihiro Seo
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
pp.CJ-17-1387, (Released:2018-01-11)
参考文献数
14
被引用文献数
2

On November 11–15, the American Heart Association (AHA) Scientific Sessions 2017 were held in Anaheim, California, for the first time in 16 years. The annual sessions attracted nearly 18,000 attendees, with a global presence from more than 100 countries, and featured 5 days of programming for cardiovascular basic scientists, clinicians, and researchers. As usual, activities of participants from Japan were prominent. From the exciting sessions, I report the topics and key presentations including the late-breaking clinical trials.
著者
K. Yendo
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
Shokubutsugaku Zasshi (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.196, pp.99-104, 1903 (Released:2007-05-24)
被引用文献数
2 4