著者
池田 和彦
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.441-447, 2012 (Released:2012-07-13)
参考文献数
30

真性赤血球増加症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症を含む骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms;MPN)は慢性に経過し,一系統以上の血球が増加するクローン性疾患である.MPNはときに二次性骨髄線維症や骨髄異形成症候群等,輸血依存の状態に至り,急性白血病への移行もみられ,予後不良となる.MPNにおける遺伝子異常として,細胞の増殖に直接関わるJAK2等の変異以外に,エピゲノム調節を担うTET2,ポリコーム群遺伝子のASXL1やEZH2等様々な変異が相次いで報告された.また,様々な遺伝子の発現を調節し,細胞の分化・増殖に関与するHMGA2の変異もMPN等の骨髄系疾患においてみられる.HMGA2の発現はlet-7マイクロRNAによって調節され,HMGA2発現症例においてはlet-7結合部位の存在する3'非翻訳領域(UTR)の欠失がしばしば見られる.そこで我々は3'UTRを欠くHMGA2を発現するマウスを作成,検討を行い,HMGA2の発現がMPN様の造血を引き起こし,造血幹細胞レベルにおいてクローン拡大に関与することを見いだした.MPNの病態において,HMGA2も一定の役割を果たしていると思われる.
著者
池田 和彦 竹石 恭知 小川 一英
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

骨髄増殖性腫瘍(MPN)は真性多血症 、本態性血小板血症および原発性骨髄線維症(PMF)を含み、成熟した骨髄系細胞の増殖から骨髄線維化や急性白血病への進展を来すが、その進展機序の多くは不明である。今回の研究によって、MPNの中でも、HMGA2は特にPMFにおいて高発現していること、HMGA2高発現にはlet-7マイクロRNAの低下が関与していることが示唆された。一方、HMGA2発現はDNAメチル化などにも関与し、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬によって制御されることも判明した。さらに、HMGA2発現が長期間持続することによって無効造血など病態の進展が見られることがマウスの検討で示された。

1 0 0 0 OA 国訳漢文大成

著者
国民文庫刊行会 編
出版者
国民文庫刊行会
巻号頁・発行日
vol.第十卷, 1924
著者
辻 圭秋 ツジ ヨシアキ Tsuji Yoshiaki
出版者
同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
雑誌
一神教世界 = The world of monotheistic religions (ISSN:21850380)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.37-50, 2015-03-31

イエメン・ユダヤ詩の特徴は多岐にわたるが、その中でも特に興味深いものに、アラビア語で「ジャワーブJawāb」、ヘブライ語で「シール・マアネー Shir Ma'ane」と呼ばれる作詩技法がある。ジャワーブには二類型あり、アラブ詩学の用語でいう「ムアーラダMuʿāraḍa」、及び「ズィヤーダZiyāda」という二つの技法を含む概念である。前者は、先行する特定の詩と同じ韻律・押韻・主題・特徴的な単語でもって作詩したものであり、元の詩を知る者には瞬時にどの詩を元に作られたのか判別できる。後者は、先行する詩を基に作詩するのは同様であるが、その先行する詩に手を加えることなく、その上に作詞者による新しい詩句を付け加え、全く新しい詩を作り出す技法である。このジャワーブ、なかんずくズィヤーダはイエメン詩に集中的に観察されるが、従来研究者の注意をあまり引いてこなかった。本論文では形式からみたその技法の分類を示し、またその形式によってもたらされる特徴を示す。Being influenced by Jewish academic centers such as Jerusalem, Babylonia and so on, Yemenite Jewry have long created their own poems. During the Spanish Golden Age, they passionately embraced the new style of Hebrew poems, and then, from the 17th century on, they succeeded in creating their own style, thanks to adopting the poetic technique of their Muslim neighbors. One of the unique features in the field of poetics that is loved by the Jews of Yemen, is undoubtedly the genre called in Arabic "Jawāb," which literally means "a Response (to a former poem)." Although this phenomenon has been known among researchers, there has still been no comprehensive study on this theme. In this introductory paper I suggest that, first of all, Jawāb poems can be divided into two categories, Muʿāraḍa and Ziyāda. Then I present the idea that Muʿāraḍa can be further sub-divided into two and Ziyāda into three categories, suggesting their uniqueness in terms of changing their original context.
著者
建部修見 曽田 哲之
雑誌
情報処理学会研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.122(2007-HPC-113), pp.7-12, 2007-12-07

Gfarm v2ファイルシステムは,小規模環境から大規模PCクラスタ,広域分散環境までスケールすることを目指した広域分散ファイルシステムである.コモデイテイの利用,ファイル容量の動的増減,ファイル複製による高信頼性,分散アクセスによる高性能化に特徴がある.さらに,ファイルアフィニティを利用することにより,スケーラブルで効率的な分散データ処理も可能となる.本論文では,Gfarm v2の実装について述べると共に性能評価を行う.
著者
余田 成男 林 祥介 伊賀 啓太 石岡 圭一 田中 博 冨川 喜弘 中野 英之 前島 康光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.405-412, 2006-05-31
被引用文献数
1

AGUは毎年何件かの特定のテーマについて50〜100人規模のチャップマン会議を各地で開催している.今回,Robinson(Univ. Illinois)と余田(京都大学)がコンビーナーとなり,2006年1月9〜12日,ジョージア州サバンナで「地球流体中のジェットと環状構造」に関するチャップマン会議を,KAGI21,NSFとの共催で開催した(第1図に会議のポスター[figure]).Allison(NASA/GISS),Baldwin(NWRA),林(北海道大学),Haynes(Univ. Cambridge),Huang(LDEO),Rhines(Univ. Washington),Thompson(Colorado State Univ.),Vallis(Princeton Univ.)の8氏をプログラム委員に招いて,2年以上をかけて準備してきた会議である.日米をはじめ13か国から70余名の参加者があり,(A)大気中のジェット,(B)海洋中のジェット,(C)大気の環状変動,(D)惑星大気のジェットと環状流,(E)地球流体力学的にみたジェット,の5つの広範だが関連深い話題について,レビュー講演(6件),招待講演(22件),および,ポスター発表(40余件)を行った.レビュー講演は,各分野で主導的な役割を果たしてきたMcIntyre(Univ. Cambridge),Lee(Pennsylvania State Univ.),Marshall(MIT),Wallace(Univ. Washington),Allison,Rhinesの6氏にお願いした.この会議のハイライトの1つは,太平洋域の高分解能数値シミュレーション(Nakano and Hasumi,2005)で予言的に見出され,観測データで発見された海洋中の多重東西ジェット構造である.木星型惑星に見られる多重の環状流との類似性や,回転球面上の2次元乱流中におけるジェット形成メカニズムとの関連など,幅広い分野の研究者を巻き込んで熱い議論がなされた.また,傾圧擾乱による対流圏界面亜熱帯ジェットの維持過程が南極周極流のそれと力学的に相似な現象と認識しうる(基本場の傾圧性が南北加熱差によって維持されるか,海面での摩擦応力によって維持されるか,の違いはあるが)という話題も,地球流体力学的普遍性を具体的に示す好例であった.さらに,周極ジェット気流の時間変動が特徴的に環状パターンを示すという認識が,環状"mode"であるかどうかは措いても,天候の延長予報や今世紀中の気候変化予測などにも役立ちうる可能性が指摘され,実用的応用的な興味も喚起した.この機会に,KAGI21で開発した地球流体力学計算機実験集(Yoden et al., 2005)のCDを参加者全員に配布した.これは,地球流体力学の基本的な数値実験演習問題をパソコンでインタラクティブに実行し,計算結果のアニメーションを見ることができるソフトウェアである.会議終了後すでにいくつかの好意的な反応を得ており,希望者には無償で配布中である.サバンナは米国南部の観光小都市であり,会場となったホテルの近くにも昼食・夕食をみんなで食べられるレストランが多くあった.気のあった仲間同士で出かけてゆっくりと科学的な議論を続けたり,また,それぞれの近況情報を交わしたりできた.最終日のパーティーでは,McIntyre氏が飛び入りでPV song(ビートルズの"Let It Be"の替え歌)を歌い,皆の喝采を浴びた.英国あたりでは, IPVといっていた頃から歌われてきた替え歌のようである.今回の会議後,林氏が火付け役,McIntyre氏が先導役(掻き混ぜ係?)となって歌詞に関するメールのやり取りが続いた.原作のHall(CNRS),Thuburn(Univ. Exeter),さらにはHoskins(Univ. Reading),Wallace,Palmer(ECMWF),Emanuel(MIT)氏らビッグネームも加わって盛り上がり,その統一版が完成した.第2図[figure]に歌詞を掲載するので,PVファンは味わっていただきたい.http://www.lthe.hmg.inpg.fr/~hall/pvsong/pvsong.shtmlには,Hall氏の演奏もある.次節以降は,プログラム委員の林氏,および,参加者有志(アイウエオ順)の報告である.
著者
倉田 稔
出版者
小樽商科大学
雑誌
商學討究 (ISSN:04748638)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-31, 2002-07-25

論説
著者
平野 秀秋
出版者
法政大学
雑誌
社會勞働研究 (ISSN:02874210)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.116-211, 1994-02

和語にいう「ことわり」には、人間の関与しえない天然の「理」と、とくに人間の社会に関係するひとの「性」とが共存する。「理」と「性」とが相合い相通じる「会通」の様相は、文化の個性を形成する。東西文化の間にはこの様相に根本的といえる対立がある。たとえば西洋近世以後「自然法」と呼ばれるものは実は神の法という意味の人性論であり自然の法ではないがこれは東洋には見られない、など。これを論じながら、両者の混淆を含まない西洋近世の見落とされた出発点として17世紀のライプニッツを上げ、彼の自然学と倫理学との調和を論じようとしたもの。
著者
堀江 晋一
出版者
新領域創成科学研究科 環境学研究系
巻号頁・発行日
2006-03-23

報告番号: ; 学位授与年月日: 2006-03-23 ; 学位の種別: 修士; 学位の種類: 修士(環境学) ; 学位記番号: 修創域第1877号 ; 研究科・専攻: 新領域創成科学研究科環境学専攻
著者
坂本 真惟
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-14, 2014

1529年からの神聖ローマ皇帝カール5世によるイタリア凱旋巡行のために,イタリア各地ではその地の最高の芸術家を動員して,その祝祭に備えた。イタリア中部の都市シエナも例外ではなく,カール5世来訪を歓迎するために,政府は多くの芸術家に作品制作を依頼していた。その中で最も重要であったのが,ドメニコ・ベッカフーミ(1486-1551年)によるシエナ市庁舎コンチストーロの間(Palazzo Pubblico,Sala del Concistoro)の天井画である。これまで先行研究では,本作品に示された思想的な源泉を探ることが中心に論じられることが多く,その図像に関する考察は十分とは言い難い。そのため,本稿ではそれまでのシエナ美術との比較を通して,本作品にシエナ美術の伝統とベッカフーミの新しい工夫の双方が示されていることを指摘する。具体的には«スプリウス・カッシウスによる打ち首»と«アエミリウス・レピドゥスとフルウィウス・フラックスの和解»の二場面を取り上げ,「斬首の図像」,「抱擁の図像」,「背景の建築モティーフ」に注目する。以上の議論を通して,本作品がシエナ美術の伝統を踏襲しながらも,新たな工夫を加えて描かれ,そのことによって古代ローマにさかのぼるシエナの系譜と,政治・芸術の面での繁栄を誇った13-14世紀シエナの黄金時代の再来を示していると結論づける。
著者
城島 博宣 白河 桃子 幸田 達郎 城 佳子
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.149-158, 2012-03

近年の日本における社会問題の一つに少子化の問題がある。少子化の一因として、女性の非婚化や晩婚化の問題がしばしば取り上げられる。女性の非婚化や晩婚化が進んでいる背景には、女性のライフスタイルが多様化した事が考えられる。 そこで本研究では、女性から結婚観やジェンダー観、職業観に関してアンケート調査を行い、女性の結婚観や職業観、そこにズレが生じているかを調査することを目的とした。その結果、本研究の調査対象となった28%の女子大学生が、結婚観や職業観の間にズレが生じている事が明らかになった。また、本研究の調査対象となった女子大学生の望むライフコースは、ゆるく働き続けつつ、早期に結婚し、出産するということ、もしくは子育て期間中は一時的に家庭に入り、子育て後にパートなどで復帰するという事が明らかになった。今後はさらに多くの大学や学年において調査を行い、検討を進めていく必要があるだろう。
著者
廣嶋 清志
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.26, pp.1-20, 2000-06-01
被引用文献数
2

1970年代半ばからの合計出生率低下の人口学的要因について多くの研究が行われてきたが,一般的に,年齢別有配偶出生率を用いた要因分解の結果に基づき,夫婦出生率が低下に寄与していないと認識されている。本稿は,コーホートの初婚率,出生率を人口動態統計と国勢調査結果に基づきあらためてより厳密に計測し,これを用いて年次別出生率を再現するモデルによってシミュレーションを行うことにより,1970年代半ばからの合計出生率低下に対する結婚と結婚出生率の寄与の大きさを明らかにした。これに必要なコーホートの初婚率と出生率は年次別年齢別の初婚率と出生率から導かれたが,後者は,1947年から1998年まで52年間の人口動態統計による女子の年齢別初婚数と出生数に基づき,今回改めて計算しなおした。コーホートの初婚水準(生涯既婚率),初婚期(平均初婚年齢),既婚出生水準(生涯既婚出生率),既婚出生期(平均初婚出生間年数)の4変数について,それぞれ1933-34年コーホート以後,その値が一定かあるいは現実どおりに変化したかの2種を設定し,16通りのシミュレーションを行った。その結果,1970-2000年の全期間についてみると,合計出生率低下(2.138→1.386)0.748の過半56.7%はコーホートの初婚水準低下(非婚化)によるものであり,13.5%が初婚期の遅れ(晩婚化)による。また,24.5%は既婚出生率水準低下(生涯既婚出生率低下)により,5.3%が既婚出生期の遅れによるものである。したがって,結婚の要因と夫婦出生率の要因の寄与量の比率は7:3である。したがって,少子化対策においては,晩婚化・非婚化に対する対策だけでなく,夫婦の出生率に直接関わる条件についての政策の重要性が改めて明らかにされた。この結果は,Ryderの量指標とテンポ指標による結果ともよく合っており,また,コーホート出生率のテンポの遅れがもたらす年次別合計出生率の低下量についての定量的関係も確認された。