著者
東 幹夫
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.255-265, 1973-12-20
被引用文献数
10

The main events experienced by the fish belonging to each population are schematically summarized in Fig. 1., basing on all the results given in the previous reports. Concerning the variations in the body form and the numbers of fin rays found in each population, it was suggested that these characters in question would be influenced by the environmental factors differently according to the developmental stages of the fish concerned. Through the morphological comparisons on the degree of the ossification of the skulls as well as the ring formation of the scals of the sea-run and the landlocked Ayu-fish, it was confirmed that the latter would be the form which suppressed their growth to some extent. However, the landlocked form can be considered to have relatively higher fecundity comparing with the sea-run form, because of their earlier spawning period, the ova with smaller diameter and more numerous in number. The dwarfism, and the early maturation of the present landlocked form coincided with the general tendencies already pointed out by many previous authors who studied several other species of landlocked fishes. Some considerations were made on the relation between the intra-species differentiation of the present species and the geological history of the lake.
著者
古澤 照幸
出版者
埼玉学園大学
雑誌
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇 (ISSN:13470515)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.71-81, 2006-12

占い師やマジシャンが心を読んだり、占ったりし、当たっていると思わせる技術をコールド・リーディングという。このコールド・リーディングには数々の技術があるが、さらにMeタイプ、Weタイプという人のタイプ分けを行うことで心を読もうとする新しい技術がある。この技術について調査を学生に実施し、妥当性を検証した。結果からは一切、この技術は妥当ではないことが分かり、このことについて考察が行われた。
著者
保木 康宏
出版者
滋賀大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

「環境の学習」といえば,科学的な内容がわかりにくいうえに,「情勢はだんだん悪くなっていく」という話が多い。そのため、たいていの場合重苦しい雰囲気になる。これまでのような学習の流れには,生徒が生態系を学ぶことと環境保全について考えることにつながりがないために,環境保全の学習が説教になって,「ああやっぱり環境問題を解決できそうにない」と感じてしまう。それは,生態系を学習するための観察実験と環境調査とでは全く別の対象を扱い,それぞれ違う方法でおこなっていたからである。2つの学習の間には直接の接点がなく,それが障害となって,自然と人間とのかかわり方について相互に見たり考えたりできるような学習になっていないからである。そこで、本研究では,子どもたちにとって本来一番身近な存在であるはずの琵琶湖に愛着を感じ、琵琶湖と共存するために必要なことを考えられるような学習について研究を進めた。研究として,既存の単元「生物どうしのつながり」の中で扱う食物連鎖や物質の循環を琵琶湖を中心とした視点から取り上げた。実際の単元構成については大きく以下の流れで進めた。(1)琵琶湖に住む生物の多様性を理解する。(2)生物相互のつながりがあることを理解する。(3)人と琵琶湖、人と生物のつながりを理解する。(4)琵琶湖の抱える環境問題について理解する。(5)琵琶湖と私たちの暮らしについて考える。本実践を終えた後のアンケートでは、7割の生徒が「琵琶湖の環境問題について関心が高まった。」と答えた。ミニ琵琶湖や低酸素化の実験を行ったことで、自分たちの生活が琵琶湖の環境に与える影響をより身近に感じ取ったようで、「たった1滴の排水が、あんなにも水質を変化させるとは思わなかった。」「琵琶湖の環境悪化させる一人になる可能性があることが分かった。」などの意見を持つ生徒が見られた。また、生物相互のつながりやその多様性について、琵琶湖を題材として扱ったことについて、「琵琶湖の中にあんなにたくさんの魚やプランクトンがいるとは思わなかった。」「琵琶湖の中の生物がお互いにつながりあって生きていることが分かった。」「外来魚などが問題になっているが、私たちの生活の影響によってもたくさんの生物に影響が出ることが分かった。」「自分たち以外にもたくさんの生物が生きていることを改めて感じた。」などといった意見が多く見られ、『琵琶湖』とい環境が生徒にとって「守りたい」と感じる自然の1つになったのではないかと感じる。この実践を通して身につけさせたい力は、評価が難しく、子どもたちの中にどのように根付いているかが十分に把握できない。子どもたちが将来、滋賀を担う存在になったときに、この実践の持つ意味が問われるのだろう。滋賀の環境教育を考えるにあたり、水環境だけでじゅうぶん満足できるとは思わない。今後、さらに深まりのある環境教育を目指して、森林、里山、土壌、田園…いろいろな要素を取り込んだ環境教育のプログラムを開発していきたい。
著者
新矢 博美 芳田 哲也 寄本 明 中井 誠一
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

年齢階級を考慮した1日の水分摂取基準を算定することを目的として、乳児・幼児や児童および高齢者を対象に体重計測により1日の水分摂取量や発汗と不感蒸泄による水分損失量(ΣS)を夏季および冬季に測定して、若年成人の値と比較した。1日のΣSは環境温度や活動量の上昇に伴い増加したが、高齢者は成人と同様で、児童、乳児、幼児は若年成人に比べて、それぞれ1. 1倍、1. 9倍、2. 0倍であった。これらの倍率を用いることにより、年齢階級を考慮した水分摂取基準を算定することが可能と考えられた。
著者
二木 厚吉 緒方 和博 中村 正樹
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.2_1-2_13, 2008 (Released:2008-06-30)

CafeOBJ言語システムを用いた形式手法,すなわち形式仕様の作成法と検証法,を全6回にわたり解説する.CafeOBJ言語はOBJ言語を拡張した代数仕様言語であり,振舞仕様,書換仕様,パラメータ化仕様などが記述できる最先端の形式仕様言語である.CafeOBJ言語システムは,等式を書換規則として実行することで等式推論を健全にシミュレートすることができ,対話型検証システムとして利用出来る.第1回の今回は,「待ち行列を用いる相互排除プロトコル」を例題として,言語や検証法の細部に立ち入ることなく,CafeOBJ仕様の作成と検証が全体としてどのように行われるかを説明する.第2回以降では,言語の構文と意味(第2回),等式推論と項書換システム(第3回)について説明し,証明譜を用いた簡約のみに基づくCafeOBJの検証法(第4回)を解説する.さらに,認証プロトコル(第5回)と通信プロトコル(第6回)の2つの典型的な検証例も示すことで検証の技法についても解説する.
著者
鎌田 憲彦 福田 武司 平山 秀樹
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

バンド間励起光に禁制帯内励起光を重畳する2波長励起フォトルミネッセンス法を基盤に、ゲートICCDカメラによる時分解測定機能を加え、発光・電子デバイス用材料内の非発光再結合(NRR)準位の光学的評価を進めた。InGaN量子井戸では1.55eV付近にNRR準位を検出し、ドーピングによる影響の低減を示した。InGaAs量子井戸、Ba_3Si_6O_<12>N_2:Eu^<2+>蛍光体でもNRR準位を初めて検出し、そのふるまいを明らかにした。
著者
木下 博明 酒井 克治 広橋 一裕 街 保敏 井川 澄人 山崎 修 鄭 徳豪 福嶋 康臣 久保 正二 松岡 利幸 中塚 春樹 中村 健治
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.2329-2335, 1985-11-01
被引用文献数
2

肝細胞癌の元凶ともいえる門脈内腫瘍栓の対策として経皮経肝門脈枝塞栓術(percutaneous transhepatic portal vein embolization以下PTPE)を考案し,それを肝細胞癌17症例の術前に行ったのでその手技と成績を報告した.PTPE後門脈圧の亢進と多少の肝機能障害の出現をみたが,PTPEは動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization以下TAE)に比べ安全であった.また切除標本の塞栓状態と組織学的所見からみて塞栓物質としてリピオドール混入フィブリン糊が現在最も適していると考えられた.肝切除前に行われるPTPEはTAEの抗腫瘍効果を増強させ,肝内転移の防止や肝切除後の肝再生ひいては手術適応の拡大にも有用であると考えられた.
著者
酒井 浩之 増山 繁
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告自然言語処理(NL)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.94, pp.43-50, 2006-09-12

新聞やインターネットなどで1日に配信される個々の企業に関する記事は膨大な数になるが,人間にとって重要な記事とは企業業績に影響を与えるほどのインパクトのある記事である.そのため,本研究では,経済新聞記事を対象とし,新聞に掲載される個々の企業の記事の内容を解析し,企業業績に影響を与えるほどのインパクトのある記事(以下,インパクト記事)であるかどうかを判定し,そのような記事を抽出する.また,インパクト記事の内容が企業業績にとってポジティブな影響を与えるか,ネガティブな影響を与えるかを自動的に判定する.さらに,本手法で抽出対象としている企業業績発表の記事の内容を解析し,その主要因(好調な事業,もしくは,不振の事業)が記載されている文を抽出する.本手法を評価したところ,インパクト記事抽出の精度は85.8%,再現率は66.8%であり,主要因(好調な事業,不振な事業)の記述のある文抽出の精度は82.2%,再現率は26.3%であった.Many articles about each company are distributed on the newspaper or Internet in a day.However,an important article for human is an article containing a story that influences the corporate performance.In this research,we propose a method for identifying an article containing a story that influences the corporate performance and extracting such articles from a newspaper corpus.Our method judges whether the story contained in the extracted article is positive or negative to the corporate performance.Moreover,we target the articles of the announcement on the corporate performance,we propose a method for extracting sentences containing its key factor(good business or bad business).Experimental results showed that our method for extracting articles containing a story that influences the corporate performance attained 85.8% precision and 66.8% recall and our method for extracting sentences containing the key factor attained 82.2% precision and 26.3% recall.
著者
小川 知也 渡部 勇
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告情報学基礎(FI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.20, pp.137-144, 2001-03-05
被引用文献数
4

本稿では,株価データと新聞記事の関連性に関するマイニング手法について論ずる.本手法では,分類により新聞記事に付与されたテーマ情報を用い,新聞記事の株価変動への影響分析と株価変動の外部要因分析という相補的な視点から,株価データと新聞記事の関連性の概要抽出を行う.新聞記事の株価変動への影響分析では,あるテーマの新聞記事が一般に株価変動に及ぼす影響を分析する.株価変動の外部要因分析では,大きな株価変動の要因を新聞記事のテーマを用いて分析する.実際にいくつかの銘柄に関する株価データと新聞記事を用いた実験を行い,実データにおける本手法の有効性を確認した.In this paper, we propose a mining method for finding a correlation between stock prices and news articles. We use a theme information of news articles which assigned by classification system, and extract a correlation between stock prices and news articles by analysing how news articles influence on stock prices and what kind of news articles causes a stock price changes. Through some experiments on stock prices and news articles, we proved a effectiveness of our method.
著者
藤井 宝恵
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

易感染症患者は食事からの感染防止を目的とした食事制限が行われるため、本研究は、給食以外の患者の摂取希望の高い食の提供方法について、細菌学的に検討した。その結果、市販食品の衛生状態は製造メーカーで異なり、加熱可能な食品の細菌数は、食品の中心部温度が90度以上となる電子レンジ加熱により低減した。また、果皮の平坦な果物の除菌は水洗で十分であった。調理前の手指を低細菌状態にするには、石鹸洗浄後に手指を乾燥させた方がよい、等を確認した。
著者
三宅 禎子
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

各種団体との面接調査で、バイリンガル教育、保健衛生方面での青少年教育プログラムなどに女性たちコミュニティ活動リーダーらが活躍している実態が判明した。行政側は、地元で増加するヒスパニック人口に対応する必要性に迫られ、コミュニティ活動の経験豊かなプエルトリコ人を採用する経緯などが明らかになった。特に、プエルトリコがアメリカ領土として教育環境整備が歴史的に進行し、プエルトリコ人女性には教育水準が高い人が多く、それらの女性が教育や政治的経歴を買われて行政アドバイザーなどに任用されるケースが目立つ。
著者
友田 裕代 大桃 定洋 田中 治 北本 宏子 浜谷 徹 河野 敏明 丹野 裕
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.155-158, 1996-07-30
参考文献数
19
被引用文献数
13

アクレモニウム属菌(Acremonium cellulolyticus Y-94)に由来するセルラーゼ(アクレモニウムセルラーゼ,以下ACS 2と略)またはトリコデルマ属菌(Trichoderma viride)に由来するセルラーゼ(トリコデルマセルラーゼ,以下CEPと略)を添加してアルファルファサイレージを調製し,両者の発酵品質改善効果を比較して以下の結果を得た。1. ACS 2を添加して調製したサイレージは,無添加区,1%グルコース添加区及びCEP添加区と比較して明らかに乳酸含量が多く,L/T値も高かった。また,これらの品質改善効果は乳酸菌製剤との併用によってさらに確実なものとされた。2. ACS 2の添加量は0.01%で十分な発酵品質改善効果を示し,それ以上添加しても発酵品質が大きく変化することはなかった。3. ACS 2を乳酸菌製剤と併用添加したアルファルファの番草別発酵品質は,2番草でやや乳酸含量及びL/T値が低かったものの概ね良好で,収穫時期を考慮せずに良質発酵品の調製を可能とした。以上の結果,ACS 2の0.01%添加はアルファルファサイレージの発酵品質を改善し,乳酸菌製剤との併用によって,その効果をより確実にできることが明らかとなった。
著者
小澤 俊介 内元 清貴 松原 茂樹
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J95-D, no.3, pp.506-517, 2012-03-01

Web上には,病気への対処法や料理のレシピなど,様々なノウハウが蓄積されている.そのため,ノウハウを知るためにWebを参照することが多い.しかし,既存のWeb検索でノウハウのみを検索することは容易ではない.この問題に対し,ノウハウをあらかじめ整理し,専用のWebサイトなどで提供することができれば,災害に対する予防策など,様々な事象への対処・対策の発見を容易にすることができる.本論文では,モノとその使われ方に着目することにより,ノウハウを獲得する手法を提案する.本手法では,まず,対象のモノを含むパッセージを獲得し,ノウハウの候補を抽出する.次に,パッセージに含まれる手掛り表現,及び,モノとその使われ方として用途表現を利用することにより,ノウハウ候補がノウハウであるか否かを判定する.実験により,ノウハウ獲得においてモノとその使われ方が重要な役割を果たすことを示す.
著者
本多 俊貴 鈴木 裕利 石井 成郎 遠藤 守 高橋 友一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J95-D, no.3, pp.460-472, 2012-03-01

一般に,災害時に住民に対して提供される情報は行政やマスメディアから発信されている.このような公助的情報は広域にまたがり,あるいは,被害の大きな地域の情報に集中する傾向があるために,住民にとって身近な地域,あるいは,限定された地域における共助的情報の流通は難しいのが現状である.また,情報伝達の取組みにおいても,住民への伝達情報が,果たして住民が必要とする情報であるのか,住民が伝達情報をどのように活用しているのかなど,システムのユーザである住民の側からの評価,システムを使用する際の住民の行動についての分析は行われていない.そこで,本研究では認知心理学的なアプローチの導入により,災害情報収集システムを利用する人々が,「どのように情報を判断するか」について評価することにより,構築システムの最適化とシステムに求められる流通情報の特徴を明らかにすることを目的とする.これまでの評価実験の結果からは,システム利用時にユーザが必要としていた情報である,災害が起こった地域の場所や方向の安全/危険に関する情報を提案システムが提供できている点,災害時を想定した時間的制約のある状況においてもそれが有効である点がそれぞれ確認された.
著者
Lankeshwara MUNASINGHE Ryutaro ICHISE
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE TRANSACTIONS on Information and Systems (ISSN:09168532)
巻号頁・発行日
vol.E95-D, no.3, pp.821-828, 2012-03-01
被引用文献数
30

Link prediction in social networks, such as friendship networks and coauthorship networks, has recently attracted a great deal of attention. There have been numerous attempts to address the problem of link prediction through diverse approaches. In the present paper, we focus on the temporal behavior of the link strength, particularly the relationship between the time stamps of interactions or links and the temporal behavior of link strength and how link strength affects future link evolution. Most previous studies have not sufficiently discussed either the impact of time stamps of the interactions or time stamps of the links on link evolution. The gap between the current time and the time stamps of the interactions or links is also important to link evolution. In the present paper, we introduce a new time-aware feature, referred to as time score, that captures the important aspects of time stamps of interactions and the temporality of the link strengths. We also analyze the effectiveness of time score with different parameter settings for different network data sets. The results of the analysis revealed that the time score was sensitive to different networks and different time measures. We applied time score to two social network data sets, namely, Facebook friendship network data set and a coauthorship network data set. The results revealed a significant improvement in predicting future links.
著者
卯木 希代子 早崎 知幸 鈴木 邦彦 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.161-166, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

数年来の耳鳴に対して蘇子降気湯を投与した症例を経験したので,著効を得た2症例の症例呈示と合わせて報告する。症例1は70歳女性。主訴はめまい,耳鳴,不眠である。5歳時の両耳中耳炎手術後より耳鳴があったが,3カ月前より回転性めまいが出現,以後耳鳴が強くなり来所した。頭重感,不眠,足先が冷えやすい等の症状があり,蘇子降気湯加紫蘇葉を処方したところ,服用1カ月でめまいは改善し,3カ月後には不眠や耳鳴も改善し,8カ月後には普通の生活ができるようになった。症例2は58歳男性。難聴,耳鳴を主訴に来所した。5年前より回転性めまいと右の聴力低下が出現,進行して聴力を喪失し,さらに1年前より左の聴力低下も出現した。近医にてビタミン剤や漢方薬を処方されたが聴力過敏・耳鳴が出現した。イライラ,不眠,手足が冷える等の症状も認めた。八味丸料加味を投与したが食欲不振となり服用できず,気の上衝を目標に蘇子降気湯加紫蘇葉附子に変方したところ,服用1カ月で自覚症状が改善し,騒音も気にならなくなった。その後の服用継続にて不眠・足冷も改善した。当研究所漢方外来において耳鳴に対する蘇子降気湯の投与を行った13例中,評価可能な10例のうち5例に本方は有効であった。有効例のうち4例は,のぼせまたは足冷を伴っていた。蘇子降気湯は『療治経験筆記』において「第一に喘急,第二に耳鳴」との記載がある。数年経過した難治性の耳鳴にも本方が有用であることが示唆された。