著者
稲葉 政満 桐野 文良
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

実際の紙資料の保存状態に近い紙の保存性試験として挿入法を提案した。この方法により、アルカリ性紙と酸性紙が接触すると両者に大きな変色を生じることがあることを示した。この結果は、アルカリ性紙(いわゆる中性紙)を用いれば良しとした従来の考え方を覆すものであり、紙資料保存の現場で深刻に受け止められている。80℃で酸性紙とアルカリ性紙の両者を重ねて促進劣化させる挿入試験では、変色は40%RHから80%RHの湿度範囲では湿度上昇に伴って上昇した。このことは、酸加水分解反応が温度と水分量の上昇によって促進されたためと考えられる。一方、95%RHで圧力をかけた場合には変色が抑えられた。95%RHではアルカリ性紙から酸性紙にCaイオンが転移するのみでなく、酸性紙中の硫酸イオンやアルミニウムイオンが接触しているアルカリ性紙や中性紙に転移して、酸性紙のpHが上昇し、酸加水分解反応が抑えられたために、変色が抑えられたことが明らかとなった。硫酸アルミニウム含有紙では含有しない紙と比較して同一pHでもアルカリ性紙への挿入試験で変色が大きくなる傾向が示された。そのため、保存に用いる紙には硫酸アルミニウムの使用を控えるのが望ましい。文化財保存現場で使用されている主なアルカリ性紙と中性紙について酸性紙の変色に及ぼす影響を検討した。酸性紙の変色はアルカリ性紙のpHが高いほど大きかった。よって、酸性紙の変色を防止するにはアルカリ度の低い紙を用いるほうが良いことがわかった。
著者
石田 恵子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.431-459, 1975

論文序一 六世紀のアッティカ二 Kleisthenesと民衆の提携三 新部族制改革の内容 (一) 区 (a) 区 (b) 区とフラトリア (二) トリッテュス (三) 部族 (a) 新部族組織の特殊性 (b) 新部族組織の目的四 五百人評議会 (一) 評議会員の選出方法 (二) 評議会の権限五 Kleisthenesの「貴族政」六 五〇一/〇年の改革 (一) アルコン (二) 将軍 (a) 将軍と民衆 (b) 将軍と貴族結Kleisthenes has often regarded as a founder of Athenian Democracy. Some historians have suggested that he sought by his reforms to put an end to regional struggles and to give a blow to the noble forces. Therefore, in his reforms, the democratic side has a tendency to be emphasized. But, did he really intend to break down the noble forces? Surely, he turned to the demes in order to have their support. At first he reorganized the tribes and satisfied their prospect of local self-government in a deme-system. However, according to our evidence, he never touched the Phratries. In the demes, the Phratries and the tribes, he could ensure the excellent position to the nobility. Next, he established the new council of five hundred. Even in this, and then, in the Strategia, the nobility could control the real policy. It seems that Kleisthenes manipulated the demes and created his institution on the compromise with the nobility. In this way, although in the institution he gave equal political rights to all demes, in fact he did the nobility a special favor and ensured their traditional rights. Therefore, we must emphasize the aristocratic side in his reforms. Indeed the nobility was no longer the privileged class, but Athenian Democracy in the fifth century which was founded on by Kleisthenes, reminds us of the control by the nobiles in Rome.
著者
Suguru Yamanaka Masaaki Sugihara Hidetoshi Nakagawa
出版者
The Japan Society for Industrial and Applied Mathematics
雑誌
JSIAM Letters (ISSN:18830609)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.93-96, 2011 (Released:2011-12-24)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

We present an intensity based credit rating migration model and execute empirical analyses on forecasting the number of downgrades in some credit portfolios. The framework of the model is based on so-called top-down approach. We firstly model economy-wide rating migration intensity with a self-exciting stochastic process. Next, we characterize the downgrade intensity for the underlying sub-portfolio with some thinning model specified by the distribution of credit ratings in the sub-portfolio. The results of empirical analyses indicate that the model is to some extent consistent with downgrade data of Japanese firms in a sample period.

1 0 0 0 OA 〔謡本〕

巻号頁・発行日
vol.蟻通, 1623
著者
大野 剛 村松 康行 三浦 吉則 織田 和優 稲川 直也 小川 宏 山崎 敦子 小林 智之 二階堂 英行 佐藤 睦人 加藤 義明
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2011年度日本地球化学会第58回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.68, 2011 (Released:2011-09-01)

福島第一原子力発電所から放出された放射性セシウム及びヨウ素の土壌深部への移行実態を明らかにすることは、放射性物質の農作物への移行を調べる上で重要である。本研究では、土壌特性の異なる水田、畑地、果樹園、森林において放射性セシウム及びヨウ素の深度分布を調べた。すべての試料において表層から6cmまでに90%以上の放射性セシウムが存在していることが分かった。畑、果樹園、森林の表層試料(0-2cm)には試料間に大きなばらつきは見られなかったが、水田試料には10倍以上の違いが見られた。また深部への移行は畑試料で大きく、水田試料で小さい傾向が見られた。これは畑土壌に比べ水田土壌の透水性が低いため土壌表面で水平方向の移動が大きくなったことを反映したものと考えられる。
著者
北本 俊二 森井 幹雄
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

補償光学を使用したX線望遠鏡を開発し、X線による撮像実験を行った。補償用の参照光源と撮像する物体との行路差を補正する方法を適用し、分解能を改善させることができた。その結果、1.55秒角の角度分解能を達成した。また、X線干渉計を製作するための検討を行った。X線用として有望な形状で可視光実験を行い、必要精度等を検証した。その結果、ピエゾ素子等を使うことでX線干渉計が作成可能という結論を得た。
著者
川上 光彦 沈 振江
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では,地方自治体における行われている中心市街地活性化政策などの計画政策の効果を検証する計画支援ツールとして,マルチエージェントシステム(以下,MAS)を用いて,土地利用計画支援モデルを開発し,その適用により有効性の検証を行う.具体的には,大型店の立地と各世帯の購買行動をシミュレーションし,中心市街地の商業への影響を提示できる計画支援システムの開発を行う.今年度では、研究事項3シミュレーションシステムの構築と検証-商業施設と購買行動研究事項4シミュレーションシステムの構築と検証-住宅の立地活動研究事項5シミュレーションシステムの構築と検証-土地利用パターン以上の研究事項を行い、特に研究事項3~5について、金沢市を事例として、国土数値情報や国勢調査などにより、1980年代から2000年代までの商業施設の立地や世帯の変遷を調べた。シミュレーションシステムの構築には,これまで、実際の都市空間をシミュレーションシステムへ導入できるように、システムを改良し、マルチエージェントシステムを用いた世帯エージェントの交通行動と購買行動に関するシミュレーションシステムを開発した。関連研究は、国際会議では3編の論文を発表した。なお、中国の北京市を対象に、研究事項5との関連で、北京市の都市成長シミュレーションを行い、中国語で「地理学報」で、英語で国際誌Environment and Planning B, Planning and Designで、査読論文2編が採用された。
著者
福井 幸男 Yukio Fukui
雑誌
商学論究 (ISSN:02872552)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2/3/4, pp.469-499, 1996-01-20
著者
斎藤 規夫 立澤 文見 星野 敦 阿部 幸穎 市村 美千代 横井 政人 土岐 健次郎 森田 裕将 飯田 滋 本多 利雄
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.452-460, 2011 (Released:2011-10-22)
参考文献数
33
被引用文献数
11 14 4

アサガオ(Ipomoea nil または,Pharbitis nil)の speckled 変異により淡黄色花を咲かせる 54Y 系統と c-1 変異により白花を持つ 78WWc-1 系統の F1 並びに F2 植物について,花弁に含まれるアントシアニンとその関連化合物を解析した.speckled 変異が優性の遺伝因子である speckled-activator と共存すると,花弁に吹掛絞が現れる.Speckled と C-1 遺伝子座は強く連鎖しており,78WWc-1 系統にのみ speckled-activator が存在する.このため,F1 植物は赤紫花を咲かせ,F2 では赤紫花,白花,吹掛絞(淡黄色地に赤紫の斑点模様)の花,淡黄色花の植物が 8 : 4 : 3 : 1 の割合で分離する.解析の結果,F1 と F2 の赤紫花,さらに吹掛絞の斑点部分には同じアントシアニンが含まれていた.いずれもウェディングベルアントシアニン(WBA)が主要な色素であり,その前駆体など 9 種のアントシアニン(ペラルゴニジン誘導体)も蓄積していた.一方,54Y と淡黄色花の F2,さらに吹掛絞の淡黄の地色部分では,カルコノナリンゲニン 2'-グルコシドが主要なフラボノイドとして検出されたほか,少量のカフェ酸とオーロシジン 4-グルコシドやクロロゲン酸もみいだされた.また,78WWc-1 と白花の F2 には,クロロゲン酸とカフェ酸が存在した.これらの結果から,speckled 変異と c-1 変異を持つアサガオでは,それぞれカルコン異性化酵素(CHI)とカルコン合成酵素(CHS)が触媒する反応過程でアントシアニン色素生合成が遮断されていることが強く示唆された.また,吹掛絞の斑点部分では,完全に色素生合成系が活性化していると思われた.さらに,F2 の赤紫花と吹掛絞の斑点部分に含まれるアントシアニン構成が個体毎に異なることから,これまで報告されていない未知の遺伝的背景が WBA の生合成を制御している可能性が高い.
著者
志田 基与師
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_101-2_114, 1988-10-09 (Released:2009-03-06)
参考文献数
28
被引用文献数
2

権力を,権利や意思という概念と関連させて考察するためには,社会的決定関数という社会装置に基づくのがよい.社会的決定関数は,社会状態を,社会にたいして開かれた機会集合から人々の選好の組を参照しつつ,一義的に導き出す手続きであり,その機能に着目すれば制度と等置できる.権力とは,社会的決定の中に自らの意思を貫徹する能力と理解できるから,この関数の入力の一つである意思と出力である社会的決定とを比較することにより,その記述を与えることができる.たとえば,他者の意思がどんな配置になっていようと特定の社会状態を帰結できる行為者は一定の権力を有しているといえよう.ある個人の選好と社会的決定の一致の度合から,われわれは,狭義の権力,権限,権利という次第に強さを増す一連の権力概念を提案した.ところでこの入出力の対応は制度である社会的決定関数によって定まっているから,権力は制度の属性として記述を与えられることになる.それゆえ,権力は制定の一部分である.それは,社会的決定関数が,幾分かは個別の個人行為者による部分的な決定へと分解可能なものであることに基づいていて,われわれはそこに権力関係を読み取るのである.権力の布置は,したがって,人々の選好の布置に基づいているわけではなく,社会的決定関数の関数形の一部であり,これを選好の布置に依存すると考えるのはいわゆるカテゴリー錯誤を犯すものである.権力関係はまた社会的決定関数のもつ形式的特性によって制約をうけるし,逆に権力関係のあり方が社会的決定関数に制約を加えることもある.その例としてSenのLiberal Paradoxと戦略的操作の可能性が挙げられる.
著者
阿部 典子
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学・藤女子短期大学紀要. 第II部 (ISSN:02869470)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.13-21, 1974-12

本研究に於いてパイクラストの薄層形成ともろさについて油脂量を0%〜100%までの9段階の配量と油脂の種類としてバター,パイバター,ネオマーガリン,コーンマ-ガリン,ショーートニソグ,マリーナ, ラーマを用いて折り重ねを2〜6回まで行なった場合の影響及びバターとコーンマーガリンの混合による成品への影響について検討し,次の結果を得た。1)パイクラストの薄層の形成ともろさは,油脂量に左右され油脂量50%以下ではパイ特有の連続した層形成は困難で厚く硬い。100%は薄層で連続的でありもろいが,味は油脂量が多いため油っぽい。外観は100%よりは劣るが80%,70%が好まれる。2)油脂の種類としてはバターを用いた場合には生地を十分冷却(7℃)して焙焼すると薄層となり浮きがよい。焼き色,風味は他の油脂より優れている。パイバターは層状は良好であるが風味はバターより劣る。コーンマーガリンはパイバターのように安定した層を形成し,風味はパイバターより良好で融点37℃で比較的高くパイ用の油脂として使用出来ることが認められた。ネオマーガリン,ショートニング,マリーナ,ラーマはパイ作りには不向きと認められた。3)油脂の種類と折り方の関係はバター,ネオマーガリンでは重ね4回、5回が層形成がよい。パイバターは重ねの影響を受けず常に安定した組織を形成する。コーンマーガリン,マリーナ,ラーマは重ね3回、4回が浮きがよくこれより重ねが多過ぎても少な過ぎても層の明瞭さが失なわれる。ショートニングは重ね2回,3回がパイ様であるが,重ねが多くなると不連続なビスケット状となる。油脂の種類によって伸展性と固定化が異なるので油脂の性質に応じた重ね数を選択する必要を認めた。4)バターとコーンマーガリンの混合に於いてバターにコーンマーガリンを10%混合すると重ねが少ない2回,3回が薄層で連続的な層となるが混合割合が変ると油脂の固定化が悪く不連続な層を形成する。コーンマーガリンは混合物よりむしろ単独で使用した方が膨化や薄層形成には良好であることが認められた。
著者
吉田 憲司 藤本 毅 小島 真一 稲本 浩
出版者
社団法人 日本口腔外科学会
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.192-198, 1984-02-20 (Released:2011-07-25)
参考文献数
27

In 1962, Kempe first described a clinical picture of children who have received physical abuse from their parents or foster parents as a battered child syndrome.We recently experienced a case of the battered child syndrome with oral candidiasis and mandibular fracture. A female infant of 1 year and 1 month post partum was referred to our hospital because of malnutrition and multiple unexplained trauma. Radiological studies revealed subdural hematoma and mandibular fracture, while the intraoral examination revealed extensive pseudomembrane and severe stomatitis.The patient was suspected of battered child syndrome and hospitalized so as to isolate from her mother. General management subsequently performed including chemotherapy, fluid therapy, blood transfusion and supply of nutrients saved the patient from death.
著者
辻本 雅史 野村 亨 杉本 均 前平 泰志 月原 敏博 安井 真奈美 今井 一郎 リシン ツェワン
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

平成9〜11年度の各年度、メンバーとテーマに関係する研究者を招き、研究会を開き、調査報告・情報交換および現地調査の打ち合わせを行った。9年度のブータン第1次調査では以下の諸調査を行い全体概要を掌握につとめた。(1)ブータン文部省等多数の政府の教育関係担当者、JICA関係者、国連開発計画(UNDP)代表者等と面会し、必要な資料類の収集と国内の学校(幼稚園から大学まで)のすべての教科書232冊を購入。(2)中央ブータン(ブムタン)地方で民宿・寺院泊し、生活実態の体験と聞き取り調査。(3)各種の学校、病院、チベット仏教寺院などを訪問調査。(4)ブータンの言語と文化の状況調査と分析。10年度の第2次調査は3班に分かれて各主題に沿って以下の調査を行った。(1)進行中の教育改革の実態と問題点の調査と資料収集。(2)教育改革と文化伝統(宗教や生活習慣)の関係の調査。(3)教員養成の実態と問題点の把握。(4)ブータン農村部の成人教育の聞き取り調査。(5)比較対照としてネパールの教育の実態と問題点の把握。(6)ネパール農村の子どもの生活と教育の調査。11年度の第3次調査は2班に分かれて以下の現地調査を行った。(1)ブータンとネパールの識字教育および成人教育の参与観察による実態調査と聞き取り及び資料収集。(2)各種の学校訪間による追跡・補足調査。(3)ブータン青年の意識に関する調査。(4)ブータン、ネパールにおけるチベット難民と教育調査。