著者
富田 晋介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

この研究は、東南アジア大陸山地部を事例に、今後いかに自然資源の利用を行っていけばよいのかという問題に対して、過去数十年間に地域で行われてきた自然資源管理・利用を長期のフィールドワークとリモートセンシングを用いて経年的・定量的に復元し、慣習的な管理・利用の仕組みの形成過程に着目して、取り組んだ。この報告では、1.家族における水田の保有と分与がどのように行われてきたのか、2.水田の分与システムが社会階層の形成にどのように関係してきたか、3.水田の分与システムが耕地面積の拡大にどのように影響してきたかの3点について報告する。調査村では、開拓可能な水田面積の減少による世帯間の経済格差の固定化が、耕地拡大の背景のひとつになった可能性があった。一方で、市場経済が浸透し、商品作物と裏作などの新しい技術が導入され、それまで用いられていなかった乾季の水田や森林が土地として価値をもつようになった。このような土地の資源化は、水田面積による世帯階層の固定化を、土地利用の集約化と耕地の拡大によって緩和したと考えられる。
著者
金 誠培 梅澤 喜夫 田尾 博明
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.435-446, 2009-06-05

最近の遺伝子工学の発展に伴い,遺伝子操作された蛍光発光タンパク質を標識として様々な融合タンパク質プローブが設計・合成され,リガンド活性計測等に応用されてきた.今日,生体・生細胞に適用できる分子イメージング技術は,生理活性を持つ小さい分子の同定から,タンパク質-タンパク質間結合,タンパク質の構造変化までの幅広い計測ニーズに対応できるものとして応用されている.本総合論文では,著者らが最近数年間成し遂げてきた生物発光イメージング研究を紹介する.例えば,転写因子の核内移行や細胞質内非ゲノム的なタンパク質-タンパク質間相互作用を,独自のタンパク質スプライシング法を用いて計測した.また,一つの分子内に,リガンドセンシングタンパク質と発光タンパク質を集積した形態の一分子型生物発光イメージングプローブを開発した.その後,このプローブをマルチカラー化して,複数の信号伝達過程を同時にイメージングできるように発展させた.更に,生物発光プローブそのもののリガンド感受性を高める手法として,円順列置換や小さい発光酵素を用いた分子設計技術を紹介する.本総合論文を通じて,多くの分析化学者の方にこの分野の面白さをぜひ分かって頂きたい.
著者
小野坂 仁美
出版者
愛媛大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、痴呆性高齢者が人形やぬいぐるみなどの非生物や偶像等を「生きている人、あるいは動物」として認知し、それら対象に対してなんらかの関わりを持とうとする現象を「人形現象」と操作的に定義している。そこで、本研究の目的は、この「人形現象」について、痴呆の病態と認知との関連の有無、痴呆性高齢者のなかでこの現象がみられる割合や傾向、生活歴や病態との関連などを系統的に調査し、当該現象を明らかにすることである。そして、当該現象について明らかになったことをふまえて、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用できる方策を検討することが次の目的である。当該現象を明らかにするために、脳血管性痴呆の高齢者165名とアルツハイマー型痴呆42名、Pick病7名、ビンスワンガー症候群2名を対象に、形態の異なる3種類の人形を示した上で参加観察法を用いて人形に対する反応の傾向についての調査を行った。結果は、形態の異なる人形の中で最も反応したのは、どの痴呆においても乳児に似せて作った人形であった。人形を見て人形と認知しない割合は脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆はほぼ同じであったことが判明した。人形として認知しないのは重度の痴呆者が最も多かった。人形に対する関心の高さと継続度は重度の痴呆者が一過性であるのに対し、中等度の痴呆者は継続して人形に対する関心と関わりを維持した。性差でみると、人形に対する関心の高さと関わりについては圧倒的に女性が優位であり、直接自分の乳房に人形の口を当てて哺乳した行為さえ見られた。また、中等度の者は、人形と認知できた上で過去の生活史の回想につながるものが多かったいう結果が得られた。回想については、脳血管痴呆者は人形を「わが子」として認知し世話をするのに対し、アルツハイマー型痴呆者の場合は、人形を見て自分自身が子供に退行し自分の親あるいは子供時代を回想する者が多かった。他者との関係から見ると、人形を介してケア提供者との関わりが容易になり増える反面、人形を人形と認知する他の痴呆者から嫌がらせや叱責を受けたりなどの迫害的行為が見られた。以上のことから、人形を痴呆性高齢者のケア及びレクリエーションとして活用するのは、「子役割」として人形を用いる場合は、脳血管性で中等度痴呆の女性が最も適切であることがわかった。アルツハイマー性痴呆者に用いる場合は、退行が進む可能性に注意する必要がある。また、他の痴呆者やケア提供者との関係性などの環境を整備した上で行うことが重要であることが示唆された。
著者
PERRY 史子 榊原 和彦 福井 義員
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

豊かな都市生活環境を創り出す一つの大きな要因である、誰でもがアクセスできる都心公共空間、アーバン・インテリアを対象とし、その空間計画やデザインの方向性を見出す事を目的として、具体的な研究対象地を設定して実態調査を実施した。その実態把握・分析に基づき、都市空間の中でのアーバン・インテリアの位置付け、空間形態の類型、空間的特徴を導き出した。さらに、空間の重なりも含めてアーバン・インテリア空間の実態を総合的に、簡単に把握できるように、GISを応用した視覚的表示システムを構築した。
著者
石原 陽子 中島 徹 富田 幸子 荻原 啓実
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.気管内投与したナノ粒子の体内動態について検討したところ、投与3日目では肺胞腔沈着と肺胞マクロファージによる貪食が、7日目ではI型肺胞上皮細胞や基底膜への沈着や血管腔への移行が認められた。10日目では、I型肺胞上皮細胞、血管腔、肝臓クッパー細胞、嗅球で検出され、沈着部位が広範であることが示唆された。2.ナノ粒子としてディーゼル排ガス暴露実験を行ない、生体影響評価の際の指標を検討した。生理的指標として心拍数、不整脈数、HRV,体温等が、分子生物学的指標としては炎症関連サイトカイン類、ANP,BNP等が選択された。しかしながら、これらの指標と心不全との関連性は、明確ではなかった。3.ディーゼル粒子とその表面を有機溶剤で処理した粒子の炎症性サイトカイン遺伝子発現を指標とした検討では、単位重量当たりの効果は無洗浄粒子に比較して洗浄粒子の影響が強かった。洗浄粒子は無洗浄粒子と比較して単位重量当たりの粒子数が多いことから、この結果には粒子の物理的特性が関与していることが考えられた。4.ディーゼル粒子表面の有機成分の心肺機能と炎症作用について検討したが、心拍数、自律神経、血圧、体温には著しい影響は認めず、気管内投与直後に炎症細胞の軽度な浸潤を認めたが、その影響は速やかに回復した。5.ナノ粒子のリスク評価では、最初の吸入・沈着部位としての肺局所のみならず心臓、神経、脳等への全身影響について、粒子の化学的・物理的特性も充分に考慮して評価する必要があることが示唆された。
著者
山田 啓一
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

周辺車両ドライバの状態に応じた運転支援システムのコンセプトを提案し,そのようなシステムが周辺車両ドライバの状態に適応的ではない従来型のシステムと比べ,より効果的に運転支援が行えることを明らかにした。そして,そのようなシステムを実現するための要素技術として,後続車両の車両挙動からその車両を運転するドライバの反応時間や不注意運転傾向の度合いを推定する手法などを提案した。
著者
中辻 隆
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

冬期路面における渋滞時交通特性に関し、1)凍結路面での追従特性を実走行試験データに基づき、反応時間、潜在衝突性などの追従挙動特性、あるいは衝撃波特性について夏期路面との相違を定量的に明らかにした。2)市販の交通シミュレーターのAPI機能を用いてUnscentedカルマンフィルターを用いて交通需要や交通状態を逆推定する手法の開発を行い、3)上の成果を用いてフィードバック手法に基づく旅行時間予測モデルの開発を行った。
著者
高木 相 藤木 澄義 谷口 正成 鈴木 伸夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告高度交通システム(ITS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.112, pp.65-72, 2000-11-30
被引用文献数
2

本研究は、交通問題でもっとも重要かつ関心事である交通渋滞の生成と解消の過程を明らかにし、交通信号制御の適正化を計るための交通シミュレータの開発を目的としている。本文では、交差点における車両群の挙動を、車両の時空間特注(t-sダイヤグラム)で定式化する。一つの交差点に着目して、車両群の挙動をt-sダイヤグラムによりモデル化し、車両の挙動を規制するパラメータと交通流の関係をショックウエーブ論から導出する。交差点に入る車両群と出る車両群の入出力関係を定式化して、渋滞の生成、解消の時空間特性を明らかにする。シミュレータ開発のために必要なパラメータ群と必要な関係式を取りまとめて示す。A traffic congestion problem is one of the most annoying things in today's motorizied society. However, since the traffic behaviors are so difficult to analyze, no adequate counter measures have yet been applied to solve it. In this paper, the authors show analytically the behaviors of vehicles passing thorough single intersecting point which is controlled by a traffic signal, for that the time-space (t-s) diagram is used as a model and the shock wave theory is applied. The results of the analytical formulations may become a base to a practical road traffic simulation.
著者
黒田 展之
出版者
関西学院大学
雑誌
法と政治 (ISSN:02880709)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.67-108, 1997-03

The great earthquake hit Hanshin region in early morning of january 17. 1995. In this paper, we try to analyse, by comparative historical approach, emergency legislation and crisis control in the Kanto and the Hanshin Great Errthquakes. The following is the outline of the paper.
著者
桐谷 佳恵 内藤 正志 内田 和宏 赤司 卓也 杉山 和雄 渡邊 誠 小野 健太
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-10, 2005-05-31
参考文献数
8
被引用文献数
2

災害時や渋滞時には、交通情報を可変的に表示できる情報板が必要となる。本研究は、現状の高解像度LED式道路交通情報板の半数以下のLED数で迂回路を表示できる可変情報板のデザイン指標を得ることを目的としている。具体的には、地図構成要素の形状と色彩に関する指標である。直交表による実験計画法を用いて、「表示板の見やすさ」、「迂回路表示のわかりやすさ」など、表示板の見やすい表現を模索し, デザイン要件を決定した。その結果、道路形状、迂回路形状と表示方式、地名表示、ルートマーク、現在地表示、文字表示の仕方、文字や道路及び背景の色彩、などについての基本指標が明らかになった。本研究から得られたデザイン指標は、新しい道路情報提供を実現する情報板作成に貢献し、従来よりも低コストの可変情報板作成の可能性を示すものとなる。
著者
小川 禎一郎 中島 慶治 渡辺 秀夫 井上 高教
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

高感度でかつ情報量の多い機器分析装置を開発することは、現代分析化学の最重要課題の一つである。本申請課題は、分子が非対称的に配向している系にレーザーを照射すると、波長が入射光の半分の2倍波が発生する現象をもとに、固体・液体表面や界面の分子やそれらに吸着した分子の構造と配向を決定し、さらにその定量化を行うための高感度な機器を試作することを研究目的とし実施した。補助金により照射するレーザー光の角度や偏光を精密制御するためゴニオメーターと試料の位置を正確に微動するための精密ステージを購入し、新しい光学系を組み立てた。試料表面へのレーザーの入射角を自由にかつ連続的に変えることができ、表面分子からの2倍波の強度のレーザー入射角度依存性を測定できるようになった。これにより分子の表面に対する配向角度をより精密に(近似を行うことなく)決定できるようになった。また、入射角に対する強度依存性から、分析の目的のための最適角度を決定できるようになった。補助金により直流高電圧安定化電源を購入し、レーザー2光子イオン化装置の高感度化を計った。より高い電圧を印可することにより、飛び出した電子の捕集効率が高ま理、より高感度な分析が可能となった。これらの装置を活用して高感度分析を行い、次のような検出下限を得た。レーザー2光子イオン化法……水溶液表面のピレン……0.2fmol金属板表面のBBQ……0.1pmolレーザー2倍波発生法……ガラス表面上のDEOC……0.2pmolこれらの値はいずれも従来法より大きく優れたもので、研究の目的はほぼ達成した。
著者
加藤 誠巳 大西 啓介
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.347-348, 1991-02-25

近年、都心部においては車の台数の大幅な増加と狭隘な道路網のため慢性的な渋滞が生じている。そのため、リアルタイムの渋滞情報を考慮し、特定の道路区間に集中しないように各車を分散させ、渋滞を緩和させるようなシステムの開発が望まれる。本稿ではリアルタイムで渋滞情報が得られるものと想定し、この渋滞を考慮した経路探索及び車載を想定した経路誘導を行なうシステムについて検討した結果について述べる。
著者
福井 宣規 錦見 昭彦 實松 史幸
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

樹状細胞は、形態、表面マーカー、機能から形質細胞様樹状細胞(pDC)と骨髄型樹状細胞(mDC)の2つに大別される。mDCは抗原を捕捉しT細胞に提示することで、獲得免疫の始動に重要な役割を演じている。一方pDCは、TLR7/TLR9を介して核酸リガンドを認識し、大量のI型インターフェロンを産生すると言う点で、近年注目を集めている細胞であるが、その活性化機構の詳細が十分に解明されているとは言い難い。Atg5の欠損マウスではpDCの活性化が障害されることから、オートファジーがなんらかの形でこの活性化に関わる可能性がある。また、TLR7/9は未刺激の状態ではERに存在するが、ERを移出後TLR7/9は限定分解をうけることが最近報告された。それ故、このタンパク分解がTLR7/9の活性化に関わっている可能性も考えられる。このため、本年度はpDCの活性化におけるオートファジーとTLR9の限定分解につき解析を行った。このため、LC3トランスジェニックマウスの骨髄からpDCを分化させ、レトロウイルスベクターを用いてYFPを融合したTLR9を発現させた後、Cy5でラベルしたCpGを取り込ませたところ、TLRとCpGが刺激後6時間でLC3ポジティブのドットと共局在することを見出した。しかしながら、生化学および電顕を用いた解析からCpG刺激によるオートファジー亢進の所見は得られなかった。一方、TLR9の限定分解についてもレトロウイルスベクターを用いた強制発現系で解析したが、CpG刺激の如何に関わらずN端を欠失したTLR9が認められることから、この限定分解がTLR9の活性化と直接リンクしているという証拠は得られなかった。