著者
高井 潔司 諏訪 一幸 遊川 和郎 渡邉 浩平
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

中国のマスメディアは90年代、市場経済の導入、進展に伴って大きく変容した。主流メディアは、従来の党の宣伝機関から大衆の求める情報や娯楽を提供する商業メディアへと変わりつつある。他方、メディアが市場経済の推進を支え、政治や社会の変容をももたらそうとしている。本研究では新聞業界の変容を中心に調査、分析を行った。高井論文は中国マスメディアの構造変動の総論にあたり、マスメディアの変容を総括するとともに、それによって引き起こされた社会の変動、政治との緊張関係を分析した。遊川論文は、経済専門紙に焦点を当て、市場経済の進展に経済専門紙の成長が不可欠であったことを裏付け、経済紙の発展状況について、詳しいデータを挙げて、議論を展開している。しかし、中国のメディア改革の一定の制約の下で、経済紙は様々な課題に直面しており、現状分析を基に今後の課題を列挙した。一方、諏訪論文は党機関紙を中心とする新聞発行集団に焦点を当て、新聞改革の深層に迫るとともに、集団内の機関紙(大報)と都市報など(小報)との相互依存関係だけでなく、その緊張関係にも着目し、新聞発行集団の問題点を分析した。渡辺論文は新聞経営とりわけその収入源の大半を占める広告を分析し、その変遷から中国の新聞の今後の展開についても論及している。
著者
奥田 沙織 宇田川 幸則 姜 東局 瀬戸 裕之 伊藤 浩子 傘谷 祐之 ブィティ マイラン バトボルド アマルサナ 石川 勝 小川 晶露
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

主にアジア諸国において、面接によるインタビュー調査を中心に元留学生への追跡調査を行うことにより、背景の異なる国々からの留学生への、従来の日本の法学教育の効果と限界を究明し、それを明らかにした。その結果に基づき、これまでの日本人だけを対象としてきた日本の法学教育方法に、国境・年齢を超えたグローバルな法学教育を組み込んでゆくための方法論を模索し、発信型法学教育への転換に必要な観点について論じた。
著者
中條 直樹 塚原 信行
出版者
名古屋学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

研究分担者塚原信行(愛知県立大学・非常勤講師)、研究協力者水野晶子(愛知淑徳大学・非常勤講師)、ムサエフ・ターライベク(当時名古屋大学大学院国際開発研究科・後期課程在学中、現在マレーシア国民大学・講師)と代表者でスタートしたプロジェクトは、中央アジアの英雄叙事詩の文献の収集を開始した。キルギスの「マナス」は世界最長の英雄叙事詩の口承文芸であり、語部により長短がある。本プロジェクトでは文字化された「マナス」の収集により、4分冊の1編と3分冊の2編と1巻本の「マナス」を2冊およびその解説書を、またキルギスの“EL AD-ABIATY"(People's Literature)SERIESのうち9冊を収集した。さらに“Go'ro'g'li"(Ташкент),“Алцамыс Батыр"(Алматы),“Кобыланды Батыр"(Алматы),“Камбар Батыр"(Алматы)を収集したもののいずれもキルギス語・カザフ語・ウズベク語により記述されており、記述の「マナス」の比較対象研究、またその電子化の試みは向後の課題としたい。ムサエフ・ターライベクによる『叙事詩マナス・コンコーダンス』(CD)はこの間の成果の一つであり、これは氏の出身国キルギス共和国でも高く評価されている。一方、我が国では「マナス」については、『マナス少年編・青年編・壮年編』(平凡社東洋文庫)がこの間に翻訳出版され、有用であった。また中央アジアに関わる文献に関しても広く収集に心がけ、「アイハヌム」(2001-2008:加藤九祚個人雑誌)も入手し、今後の参考にすることにした。
著者
和崎 聖日
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.458-482, 2007-03-31

本稿は、首都タシュケントの「乞食」自身の体験を記述・分析・考察することにより、ペレストロイカとソ連解体(以下、体制転換)というウズベキスタン社会全体における大きな構造転換と都市民衆の微細な生活営為とを結んで論じることを目的とする。体制転換後のウズベキスタンでは、主に資本主義市場経済への移行に伴うマクロな構造的変化によって、「新しいウズベク人」と呼ばれる富裕層が誕生する一方、数多くの人々が突然の貧困と生活水準の低下を経験している。そうしたなか、人々は、主に親族や近隣住民たちとの間で、互助講や私的譲渡など相互扶助の網の目を維持・形成・拡大することによって、現金を決定的に欠いた厳しい現実に対処している。しかしながら、そうした生活営為の網の目から漏れた存在として、現実に「乞食」は存在する。加えて「乞食」は、ソヴィエト時代には社会主義政策のもと原則として禁止され、時に逮捕対象とさえなっていた存在であったが、現在では体制転換に伴うイデオロギー転換によって解禁された資本と宗教の接点に位置する存在として登場している。なぜなら「乞食」は、時代的な諸変化に適応できなかった経済的「敗者」だが、1989年の公式な「反イスラーム政策の停止」を大きな契機として広範に再生した宗教により、その正当性を補うことを可能としている存在だからである。本稿は、タシュケントの「乞食」の生活世界を検討することにより、ウズベキスタンにおける現在の貧困と都市社会におけるイスラーム再生の関わりを示し、都市下層の人々にとってのより日常的な共同世界のあり方を検討する。
著者
BAKHRONOVA Munisa (2010) バフロノヴァ M (2009) BAKHRONOVA MUNISA (2007-2008)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は、11月17日~12月16日まで28日間ウズベキスタン、サマルカンド市内の旧市街に位置する伝統的な4つのマハッラ(Xuja・Zudmurod(タジク人が主に居住)、Qoraboy Oqsoqolマハッラ(タジク人とユダヤ人が居住)、Ozodマハッラ(ジプシー、タジク人が居住)、Obodマハッラ(トゥルクメン人、タジク人が居住))において最終的なフィールドワークを実施した。さらに、それぞれの4つのマハッラ内で行われる女性のみの集まり、Bibi SeshanbeやBibi Mushkulkushodに参加し、行事を仕切る女性のリーダーにも聞き取り調査を行いました,今までの質問票調査、インタービューの最終結果をまとめ、それぞれのマハッラのリーダー(Oqsoqol,Noib)、サマルカンドのコミュニティ社会、マハッラの歴史などに詳しいサマルカンド国立外国語大学、Samiboey Xurshed教授、文献調査の検索などに協力をえたウズベキスタンの首都タシュケントのIjtimoiy Fikr(Public Opinion Study Center)の方々にお会いし、最終的な調査結果の報告をした。本研究のウズベキスタンのコミュニティ社会の研究にどのような貢献をもたらすことができるのか、成功と欠点について皆さんの意見、指摘などを聞いた。最後に、サマルカンド国立外国語大学の英語学部3、4年生向けのSamiboev教授のセミナーにも参加し、最後に30分の研究発表をする機会あった。また、2011年1月12日~22日まで11日間欧州の首都ブリュッセルのシンクタンクCentre for European Policy Studies(CEPS,世界でのトップ10位に入る非常に優れたシンクタンクの一つである)。最近では、中央アジア出身の博上課程の優れた若手研究者がCEPSに数人集まっており、1月に行われた集まり会に参加することができ、自分の研究を紹介する機会を与えられた。
著者
岡 洋樹 高倉 浩樹 北川 誠一 黒田 卓 木村 喜博
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

旧ソ連圏に属したモンゴル、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、グルジア、ロシア連邦サハ共和国について、社会主義期から体制崩壊後の歴史記述・認識とその教育面への反映の状況を、収集した文献と、現地研究者との協力を通じて比較検討することによって、相互の共通性と特色を解明する。とくにソ連圏崩壊後に各国で顕著な民族主義的歴史記述や教育が創出している歴史認識の特徴と社会主義期との継承関係を解明する。
著者
菅野 裕臣 菅原 睦 柳田 賢二 池田 寿美子 ムハメ フセーゾヴィチイマーゾフ ラシド ウマーロヴィチユスーポフ アリ アリーイェヴィチジョン マネ ダヴーロヴィチサヴーロフ マハンベト ジュスーポフ アジズ ジュラーイェフ ブルット インノケンチイェヴィチキム 劉 勲寧
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

クルグズスタンとウズベキスタンのドゥンガン人計4名を日本に招聘してドゥンガン人に関する国際集会を持ったが,これはドゥンガン人研究者の初めての日本訪問であり,これを基礎に日本ドゥンガン研究会が発足することになり,その論集を作成することが出来た.さらに研究組織は上記2国を訪れ,またウズベキスタンのウズベク人,カザク人,高麗人研究者を招聘して,中央アジアの多言語状況についての研究・報告を行った.
著者
川島 一夫
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

児童の愛他心の形成における欲求ー価値理論の検討著者は、川島(1989)において、愛他行動の発達における、情況的抑制要因と促進性個人内要因について検討を行い、発達的に2つの異なる要因が影響することを明らかにしてきた。前年度では、その検討結果と、高野(1989)の欲求ー価値理論との関係において、児童の情動反応としての愛他心の形成において、影響する欲求ー価値の関係を調査しクラスタ-分析による検討を行なった。本年度はその結果ににもとづき、2つの実験を行なった。第1実験では、愛他行動の発達の過程において、その動機づけの理由としてどのようなものが影響しているのかについて検討した。そこで検討されたことは、1愛他心についての基準の形成の過程で、社会的あるいは物的な報酬のどちらが各年齢段階で影響しているか。2Mussen(1977)らのいう内面化された動機や自己報酬(内在的報酬)は、どの段階から効果を持つようになるのか。3愛他行動の内在化の過程において緊急度とコストによって分けられた3種の愛他行動は異なった動機の発達をする、ということであった。その結果、寄付行動で、社会的強化を愛他行動の基礎とする児童が増加し、自己強化をその動機であるとする児童は、四年生で最大となり、六年生で減少していることが明らかとなった。第2実験において、欲求ー価値理論に基づいた、児童の愛他行動における要求の認知について検討を行なった。第1実験と同様の絵画を用いて愛他行動場面での要求の認知の検討が行なわれた。その結果、年齢の主効果が有意であった。すなわち、愛他行動の場面での要求の認知は、年齢とともに上昇した。また、愛他行動の種類によって異なる傾向が見られた。すなわち、救助行動は、どの学年においても、要求の認知が高い傾向が見られた。
著者
樫村 志郎 山崎 敬一 南方 暁 棚瀬 孝雄 米田 憲市
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

紛争処理は広く合意型と裁定型に分けることができる.合意型の紛争処理においては,紛争処理過程の開始,進行とその結果が紛争当事者による承認ないし規範受容に結合されている(ただし,裁定型の紛争処理でも,紛争解決の最終結果の規範的妥当性が,制度的規範により構築されるにとどまり,その過程や結果の解釈等は,かなり紛争当事者の規範受容によって構築されたり影響されたりする).本研究では,合意型の処理において当事者の間のどのようなコミュニケーションがなりたっているのかを知ることを主眼として,エスノメソドロジーの知見を参考にしながら,複数の研究を行った.(1)まず,法社会学の研究と理論における,非公式紛争紛争研究のレビューを行った.(2)その上で,理論的分析としては,法的コミュニケーションを単なる相互了解としてではなく,法的場面を存立させるための根源的かつ基盤的作用をもつものとしてとらえる社会学的視角の総合と洗練を行った.(3)以上の理論的分析の上にたつ,経験的分析としては,まず,紛争当事者と法的専門家が公式・非公式の紛争処理の準備のために事件の分析を行う法律相談場面.紛争当事者と紛争解決者が合意にもとづく紛争解決を達成するために事件の分析を行う調停場面(シミュレーション)をとりあげて,詳しい分析を行った.(4)この経験的知見を確かめるために,人が日常的場面を理解しようとする際に規範へと言及する場面を半実験的に構成し,法制度的場面と比較した.これらの結果として,本研究は,理論的ならびに経験的分析を組み合わせて,合意型の紛争処理過程が,独特の制度的規範構造のもとで起こるコミュニケーションとして,日常的なコミュニケーションと区別されることを示すことに成功した.
著者
寺嵜 弘康 丹治 雄一
出版者
神奈川県立歴史博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

横浜正金銀行リヨン出張所初代主任の川島忠之助資料(書簡、書類、写真など)を調査し、目録の作成と撮影作業、書簡619通の翻刻作業をおこない、川島忠之助資料の全容を明らかにすると同時に、横浜正金銀行の欧米支店における活動実態について新資料を提示した。
著者
菊山 逸夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.572-580, 1978-06-01

糖代謝が胎児新生児の発育にどのように関連しているか知る目的で,妊婦静脈(M.V),分娩時母体股動脈(M.A),〓帯静脈(U.N),新生児静脈より採血した赤血球の解糖系酵素(G-6-PDH, PK, F-6-PK)活性を,ultraviolet法により測定し次の結果をえた. 1) 妊娠各月数における酵素活性の変化に一定の傾向はみられず,正常婦人のそれとも差はなかつた. 2) 酵素活性の母児相関 G-6-PDH活性:r=0.609, F-6-PK活性:r=0.792, PK活性:r=0.548で,これらの相関はすべて有意であつた. 3) 出生体重とG-6-PDH活性 満期産児では体重の重いものほど高い活性をしめした.しかし早産未熟児では低体重にもかかわらず,巨大児と同程度の高活性であつた. 4) 分娩時間とG-6-PDH活性について,M.Aでは15時間を越えると低値をしめすものが多く,予定帝王切開群では経腟分娩群に比べ低値をしめした(P<0.05). U・Vでは時間による変化はみられず,分娩様式においても差はなかつた. 5) Embden-Meyerhof pathwayとP.M.SのratioをF-6-PK/G-6-PDHで表わすと,M.A=11.0, U.V=5.5で,胎児のP.M.S優位が証明された. 6) 新生児の各酵素活性に男女差はなかつた.G-6-PDH活性はU.Vに比べ日令7日で30%の低下がみられた.F-6-PK, PKでは日令変化はなかつた. 7) 特発性高ビリルビン血症をおこした新生児で,光線療法をした児に活性変化はなかつたが,ACTH投与児ではG-6-PDH活性の低下をみた(P<0.05). 以上よりP.M.Sは胎児体重と密接な関係があると推察された.また母と児の酵素活性が相関していることから,母体のP.M.Sを活発にすれば胎児体重を増加せしめうるのではないかと考える.
著者
杉山 康憲
出版者
愛媛大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の研究計画に基づいて「糖尿病モデルラットを用いた糖尿病発症および合併症に関するプロテインキナーゼの探索」を行った。本実験で使用した糖尿病モデルラットであるOLETFおよびコントロールラットであるLETOは大塚製薬徳島研究所より分与して頂いた。OLETFラットおよびLETOラットの雄を糖尿病発症前の12週齢、糖尿病発症後の25週齢および40週齢的合併症が発症すると考えられる老齢の60週齢に解剖し、脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、すい臓、精巣を摘出した。各臓器抽出液を調製し、抽出液中に存在するプロテインキナーゼをマルチPK抗体を用いて検出した。その結果、各臓器抽出液から多数のプロテインキナーゼのバンドが検出された。このうちM1C抗体を用いて25週齢のOLETFラットを解析すると、すい臓において約110kDaおよび約200kDaのバンドが検出され、これらのバンドはLETOラットでは検出されなかった。これらの結果から、この約110kDaおよび約200kDaのバンドは糖尿病の発症に関わるセリン/スレオニンキナーゼであると考えられた。また、40週齢のLETOラットをYK34抗体を用いて解析すると、精巣において約150kDaのバンドが見られたが、OLETFラットでは検出されなかった。これらの結果は、約150kDaのチロシンキナーゼがLETOラットと比較してOLETFラットで発現量が顕著に減少することから、糖尿病発症後において精巣で見られる男性生殖器の機能不全に関わるプロテインキナーゼである可能性が考えられる。現段階では、これらのプロテインキナーゼの同定はできていないが、今後これらを同定することで糖尿病の発症や合併症の解明に繋がると予想される。
著者
花枝 美恵子
出版者
麗沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.対内直接投資が政策論議の対象となった背景が日米独では異なっている。米国では経常収支の赤字が背景であったのに対し、ドイツにおいては産業立地国としての自国の競争力の喪失の有無とそれへの対応策が背景となっている。米国の貿易指向性に対し、ドイツは雇用指向的といえる。日本の政策論議に関してはドイツとの類似性が高いことがその特徴である。2.日本の直接投資における内外不均衡問題に対する従来の分析視点は二つの意味で問題がある。第一に対内直接投資を重視し、日本企業の対外直接投資行動に見られる問題性への言及がないこと。第二に企業行動の能動性が十分明示的に示されていないことがそれである。3.ミクロの行動原理の基となるものとして企業統治に注目する、との分析視点をとるとこうした問題点を改善でき、直接投資をめぐる政策論議に建設的な貢献を行なうことが可能となる。従って、現在日本で問題となっている対内直接投資の不均衡問題の分析に当たっては、従来一般的であったマクロ的接近方法や、企業戦略に重点を置いたミクロ的接近方法に加えて企業統治の視点からの分析も行うべきである。4.日本の対内直接投資政策に関しては、精査的対応の対象となる領域は企業の直接投資行動に影響を及ぼす制度的条件が中心となるべきである。環境変化への迅速な対応をやりやすくするためのリストラ促進政策や、新規事業への参入のための事業連結をしやすくする制度的枠組の整備といった範囲での対応策が有効であるだろう。
著者
堀内 桂輔
出版者
大分医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1 ケージドATPパルス光分解法をもちいて、硬直状態においたスキンドファイバ筋標本を等尺的に収縮させ、張力の経過を記録した。温度は一定、8℃。実験の主眼は、カルシウムイオン(Ca)濃度を種々に変えたときの張力経過の違いを調査することであった。2 ATP光遊離で張力はまず必ず低下し、その経過はCa濃度によらなかった。Ca濃度が充分に高い(pCa<5.8)ときは、その短い弛緩のあとに張力が定常プラトーにのぼった。Ca濃度が中間(7.0<pCa<6.0)であるとき、初期弛緩の後の張力上昇は、まず定常レベルを一過性に越えてその後に定常レベルへ向かって減少するという経過を示した。この一過性収縮における張力上昇のハーフタイムにはCa濃度が高いほど長いという性質があった。3 中間Ca濃度において観察した一過性収縮は次のような簡単な反応モデルで模倣できることが分かった。R+ATP→Q、X←→Q←→A、ただしR、X、Aはそれぞれ硬直、弛緩、収縮の状態、Qは「収縮前状態」であり、Ca制御はXQ間遷移にのみ働くとする。4 ケージドCaやケージド燐酸の実験における張力過渡応答へCa濃度の効果を予測する上でも、ここに提案したモデルが有意義であることが分かった。光分解液にADPを添加しておくと、ATP遊離における収縮のCa感受性が高まることが分かったが、これは上記モデルでは理解できないことであった。
著者
津田 敏隆 MADINNENI Venkata Ratnam MADINENI VENKAT RATNAM RATNAM MADINENI VENKAT
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

データ空白域とされてきた赤道域の成層圏の大気特性を解明することを目指し、インドネシア西スマトラの赤道大気レーダー観測所を中心に行われた気球(ラジオゾンデ)集中観測結果、ならびにCHAMP衛星によるGPS掩蔽データを用いた研究を行った。とりわけ、対流圏・成層圏の物質循環や大気波動エネルギーの上方輸送に重要な役割を果たす熱帯域対流圏界面の微細構造の特性解明、ならびに赤道域で活発な積雲対流により励起される多くの大気波動のうち特にエネルギー・運動量の上方輸送を担い大気大循環の駆動力となっている大気重力波および赤道ケルビン波の特性を研究した。インドネシア域の5ヶ所で2004年4-5月に行われたラジオゾンデ集中観測の結果を用いて、慣性重力波の鉛直構造および時間変動を事例解析した。対流圏上部・成層圏下部において卓越した重力波(周期2-3日、鉛直波長は3-5km)が認められた。波動エネルギーは高度約20kmで最大となるが、必ずしも時間連続ではなく間欠的であった。重力波の水平伝播特性を5観測点間で相互相関解析し、水平波長約1,700kmで東南東の方向に伝播していたことが分かった。長波放射(OLR)の衛星データを用いて雲分布の時間・空間変動を調べ、インド洋からインドネシア海洋大陸に向けて東方伝播する積雲対流群が重力波励起に関与していることを示した。また、ラジオゾンデとGPS掩蔽データを併用して、対流圏上部・成層圏下部におけるケルビン波の特性を解析し、東西波数1,2で東進する成分が特に卓越していることを示し、その気候学的特性を明らかにした。ケルビン波は対流圏界面の温度構造に大きな変動を与えており、対流圏界面高度および極小温度が周期的に変動することが分かった。なお、東西波数が1ないし2の全球規模のケルビン波に加えて、局所的な波動擾乱も起こっており、積雲対流がその励起源となることを示した。これらの研究成果を国際学術誌に論文公表した。