著者
佐藤 かな子 長井 二三子 青木 直人 西島 基弘
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.120, no.12, pp.1429-1433, 2000-12-01
被引用文献数
5

Alkyl p-hydroxybenzoates such as isobutyl p-hydroxybenzoate (PHBA-iBu), butyl p-hydroxybenzoate (PHBA-nBu), isopropyl p-hydroxybenzoate (PHBA-iPr), propyl p-hydroxybenzoate (PHBA-nPr), ethyl p-hydroxybenzoate (PHBA-Et), and methyl p-hydroxybenzoate (PHBA-Me) are widely used as preservatives, stabilizers and antiseptics for medical supplies, cosmetics, foodstuffs etc. We determined the binding affinity of alkyl p-hydroxybenzoates to human estrogen receptor α (ERα) and β (ERβ) by non-RI receptor binding assays. PHBA-iBu had a high binding affinity for ERα (IC_<50> : 6.0×10^<-6>M, the relative binding affinity (RBA) : 0.267) and ERβ (IC_<50> : 5.0×10^<-6>M, RBA : 0.340). These IC_<50> values and RBA were almost the same as those of bisphenol A. The ranking of the estrogenic potency of alkyl p-hydroxybenzoates for both ERs is different; that is, PHBA-iBu>PHBA-nBu≒PHBA-iPr≒PHBA-nPr>PHBA-Et≫PHBA-Me. Alkyl p-hydroxybenzoates bound with equal relative affinity to both ERα and β proteins. Alkyl p-hydroxybenzoate having a long alkyl side-chain showed a high affinity for ERα and β. These findings suggest that p-hydroxybenzoates may be endocrine disruptors.
著者
笹田 正明 藤井 正美 斉藤 威 コトフ Yu.D ゼレンチコフ N.I.
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.13-18, 1999-01-22
被引用文献数
3

White defects(W.D.)on CCD determine the lifetime of TV camera on a manned space station. CCD is sensitive to cosmic ray compared with other semiconductor devices. Two TV cameras are terminated after 4 years operation in "MIR", even though other equipment are using after 9 years operation. The results of flight experiment and ground irradiation experiment are compared with each other to generate dark-current increasing. When pass an ion or neutron in a Pixel, it generate the "Flash" event as single event. Multi Pixel Flash phenomena is discussed.
著者
斎藤 之男 石神 重信 SHIGENOBU Ishigami
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度(1)スイッチを使わない老老介護を目標に,これまでの基礎研究をベースにバイラテラルサーボによるオムツ交換支援ロボットの試作を行った。(2)おむつ交換は,赤子のオムツ交換姿勢がよく,股部を5cm上昇するのに体重の約1/2が先端にかかり,本システムは,約35kgfの出力(関節部で120kgf)の高出力が得られた。(3)オムツ交換支援ロボットの総重量は,約35kgfであるから,自重と同じ出力が得られたことになり,このような条件は,産業用ロボットに対しても,始めての成果である。平成12年度(1)一般の風呂へ老人を入浴させる介助用ロボットの設計を行った.自由度3の内,2自由度にバイラテラルサーボ系による動力を挿入した。設計条件は,体重60kgfとし,車椅子からの移乗により団地サイズへの入浴を目指した。(2)バイラテラルサーボ系の改良点として空気が入ることがあり,平成11年度より改良を行っているものの長期使用に際しては,シリンダの曲がり,ピストンの曲がりが生じ,設計変更を行った。平成13年度(1)本システムは,福祉用ロボットとして従来不可能であった体重を直接保持することのできるシステムから平成12年度の入浴介護支援ロボットの再検討を行った。(2)バイラテラルサーボに用いるシリンダを実用に耐える設計に改良し,試作・実験を行った。(改良品は,オムツ交換支援ロボット用として利用し,2001年10月に開催されたロボフェスタ神奈川2001に出展した。)(3)新たに二関節同時駆動用シリンダの開発を行った。(4)頸椎損傷者を対象とした上肢動力装具の設計を行った。
著者
山中 克夫
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

痴呆高齢者の中には暗いすみの壁に方便したり,洗面台に座って大便をしたりしまう者が存在する。これは,中枢性の異常や泌尿器そのものの異常による失禁とは性質が異なり,いわゆる「勘違い」による現象である。現在のところ,この問題のメカニズムや対処法について科学的に検討した報告はみあたらない。そのため,医療・福祉の現場では,経験的な方法や口コミ情報に頼っている。平成12年度では、老人病院外来でアルツハイマー型痴呆と診断された高齢者1名についてフォローアップし、どのような間違いが起こり、家族はどのような点で失敗しているのか分析を行った。さらに、認知心理学的な視点から、対処法を考え、その効果をみた。対象は、70歳の男性であった。6年ほど前から物忘れが起こるようになり、現在、長谷川式簡易評価スケールで0点、Mini-Mental State Examination(MMSE)で3点(復唱のみが正解。物の名称も答えられない状態)であった。特に見当識面で非常に重篤な問題を呈しており、スリッパをテーブルにおいたり、植木を家の中に入れてしまったりと、行動のフレーム自体が崩壊しているような状態であった。トイレについては、特に夜間に、隣の場所である洗面台やお風呂と間違い、用を足そうとしてしまう状況であった。家族の対処法を尋ねると、トイレの明かりをつけ、オリエンテーションをつけようとしていたが、一向に問題が改善しない状況にあった。これはトイレの明かり自体を誰かが「入っている」と知覚したのだと考え、逆に周囲の洗面所、風呂場の明かりをつけ、トイレの明かりを消す方法を提言した。その結果、トイレの場所の誤りは改善した。これらの誤認識についてアフォーダンス理論と関連させ、考察を行った。
著者
中村 菜々子
出版者
兵庫教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

人工透析患者34名対象の面接調査と632名対象の質問紙調査を実施して、血液透析と腹膜透析の恩恵と負担の情報を整理し医療者の効果的な支援を検討した。研究の結果、(1)患者自身が認識する両透析療法の恩恵と負担の内容と重みづけ、(2)透析種別に異なる治療上のストレスに対する効果的な対処行動、(3)医療者の関わりがセルフケアに与える影響は患者の個人特性(依存性、自律性)で異なることが明らかになり、各透析の特徴と患者の特性を考慮した支援内容や方法が提案された。
著者
堀江 一之 高橋 賢 川口 春馬 町田 真二郎
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(B)
巻号頁・発行日
1998

今年度は、昨年度から引き続き行ってきている単一色素を含む両親媒性高分子ユニマーの光化学ホールバーニングの研究に加えて、(1)高効率発光デンドリマーの合成とその単一微粒子分光および、(2)蛍光法による刺激応答性微粒子の単一微粒子観察とその評価を行った。前者については、コアにジフェニルアントラセン、表面にピレンを有する2世代のデンドリマー分子を合成した。溶液中337nmの光で主にピレンを励起した場合、デンドロンではピレンのエキシマー蛍光が観測されるが、デンドリマーではピレン由来の発光は全くみられず、コアからの発光のみが観測された。デンドリマー稀薄溶液から基板上に作成した凝集体微粒子は、溶液中よりも短い寿命を示した。また溶液中、凝集体いずれの場合も、エネルギー移動に由来する発光の立ち上がりは観測されず、エネルギー移動が非常に高速に起こると結論した。後者については、表面にpoly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAM)を有し、環境に応じて粒径を変化させるコアシェル型微粒子のゲル内部もしくはヘア末端に、蛍光プローブであるダンシル基を導入し、シェル層のミクロな極性・粘性を評価した。水-アセトン混合溶媒中での微粒子の粒径は、通常の(コアシェル型でない)PNIPAMゲルと同様の挙動を示した。しかし、プローブ周囲の極性・粘性を反映する蛍光ピーク波長は、水中で微粒子とゲルとでは大きく異なり、微粒子のプローブ周囲が疎水的であると示唆された。水-メタノール、水-DMSO混合溶媒系でも同様の結果となった。共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡により、微粒子個々の観察を行ったところ、コアに相当する部分がシェル層より明るい像が得られた。以上の結果より、疎水性プローブであるダンシル基は、水中ではポリスチレンコア近傍に寄り集まると考えられる。
著者
富田 克利 河野 元治
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

鹿児島県内の多くのシラス崖の表面からシラス試料を採取し、どのような粘土鉱物が生成しているかを調べた。その結果、比較的最近崖が崩れた場所での崩落したシラス中の粘土鉱物はスメクタイトと10Å-ハロイサイトが認められ、その含有量は、崩落しないで残っている崖の部に含まれている粘土鉱物の含有量に比べてはるかに多量であることがわかった。出水市の針原地区え大規模な地すべりが起こったが、この地域から採取した土砂中にも多量の10Å-ハロイサイトが含まれていた。また、最近大規模な地すべりを起こした鹿児島県吾平町で採取した土砂中のも多量の10Å-ハロイサイトが含まれていた。このように崖崩れを起こした土砂中には膨潤性粘土鉱物が例外なく含まれたいた。このことは、多くの雨が降った後、膨潤性粘土鉱物の層間に水が入り、粘土鉱物が膨潤したためにそれまで土砂中の粒子と粒子がくっついていたものがはがされ、土砂中に割れ目が生じると同時に水を含んだために重量が増し、崖の崩壊が起こったものと思われる。大分県湯布院花合野では大規模な温泉地すべりがみられるが、この地域の土砂中にはスメクタイトが多く含まれていた。このスメクタイトも膨潤性粘土鉱物であり、この粘土鉱物が地すべりを起こしている要因になっていることがわかる。以上のように膨潤性粘土鉱物の存在が地すべりや崖崩壊の原因になることがわかったので、天然のシラスを出発物質にして、シラスからどのようにして膨潤性粘土鉱物が生成するのかを調べるために、合成実験を行った。天然でシラス崖の表面に生成している膨潤性粘土鉱物は、それほど温度も高くなく、大気圧下で生成しているので、低温低圧の条件下での合成実験を試みた。その結果、200℃以下での水熱条件下でスメクタイトの合成に成功したし、大気圧下でのスメクタイトの合成にも成功した。今後この実験を継続して行っていくと同時に、シラスの崖崩壊を起こすのは、どのくらいの膨潤性粘土鉱物が含まれていると危ないかを予知できるように、膨潤性粘土鉱物の含有量と崖崩壊の関係をさらに詳細に検討する予定である。
著者
浅川 智恵子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.1844-1852, 1993-08-15
被引用文献数
6

パーソナルコンピュータの普及に伴い、福祉の世界で、コンピュータを使えば障害の一部もしくは、多くの部分が代行できるのではないかという期待が高まっている。実際、障害者を支援する目的で、さまざまな機器の研究、開発が進められている。筆者らはその中で、視覚障害者の情報源の拡大、職域の拡大および教育環境の改善を目標にソフトウェアの研究、開発を進めてきた。本論文では、教育環境の改善を目標に試作した点字英和辞書検索システムについて、点字データの作成からシステム開発に至るまでの経過を報告する。一冊の図書を点訳すると、そのぺ一ジ数は数倍から数十倍になる。辞書のような1ぺ一ジ当たりの情報量の多い書籍になると、数百倍になるといわれている。そのため、点字本をどうやって保存、利用するかは視覚障害者にとって大きな問題である。また、数百巻に及ぷ点字辞書を引くことは大変な作業である。そこで、量的な問題から、中級クラス以上の英語辞書の点訳および出版はこれまで行われていない。そのため、大学や大学院等の高等教育機関で英語を勉強していくことは大変困難であり、語彙数の豊富な、内容の充実した英和辞書をコンパクトな形で使用したいという強い希望があった。このような問題を解決するため、筆者らが開発した点宇編集プログラムBEを使ってコンピュータ点訳された、小学館発行のプログレッシブ英和中辞典を利用して、点字英和辞書検索システムの研究開発を行った。本システムの使用にあたっては6点点字が完全にサポートされており、視覚障害者は通常のキータッチを知らなくても使用可能であるまた、検索した内容を確認するため、点字ピンディスプレイの接続を可能にした、これにより、視覚障害者は、通常読み書きしている点字と全く同様の形で、本システムを利用することができる。辞書データのサイズは約15MB、トライ法を参考に作成したインデックスは約3MBとなり、全体で20MB必要とするだけである。これは、ノート型のパーソナルコンピュータでも稼動可能な容量であるため、上記にあげた問題点をすべて解決することができた。点字ビンディスプレイはパーソナルコンピュータのディスプレイとは違い、一回に一行しか表示できないため、検索された単語の説明文をすばやく読めるよう、いくつかのジャンプコマンドを用意し、調べたい意味や熟語等をすばやく捜し出せるようにした。本システムは現在全国69の盲学校および10人の盲学生に利用されている。
著者
井上 克弘 横田 紀雄 村井 宏 熊谷 直敏 望月 純
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.265-274, 1993-06-05
被引用文献数
17

富士山麓森林水文試験地のブナ林とヒノキ幼齢および壮齢林において,林外雨,林内雨,樹幹流および土壌浸透水を採取し,水質分析を行った.また,林外雨量,林内雨量,樹幹流下量と各雨水の化学成分の濃度から,ブナ林およびヒノキ林の林相部分の養分収支について考察した.その結果,次の点が明らかになった.1)富士山麓の雨水中にはかなりのレベルの大気汚染物質(SO_4^<2->, NO_3^-, NO_2^-, NH_4^+)が含まれていた.各無機イオン海水中の Na^+ に対する富化率から,Mg^<2+>, Na^+, Cl^- は風送塩起源,SO_4^<2->, NO_3^-, NH_4^+ は工場や自動車など排気ガス起源であるということが判明した.雨水中の SO_4^<2->, NO_3^- 濃度が高い場合は雨水の酸性が強かった.このうち,NO_3^- (NH_4^+ も部分的に硝化作用を受け NO_3^- に変化する)の一部は樹木の養分として吸収利用されていると考えられる.ブナは樹体が塩基類に富,酸性雨に対して高い中和機能を示した.2)ブナからは多量の塩基成分とくに K^+, Ca^<2+> が降雨に伴って,雨水中に溶出した.雨水によるブナの樹体からの K^+ の浸出は落葉機にとくに顕著であった.Ca^<2+> の一部は樹体に付着している風成塵などの乾性沈着物から溶出したものであると推定した.雨水の H^+ はブナの樹間,樹幹を通過・流下する過程でかなり中和され,林内雨および樹幹流の RpH 値が高くなった.一方,ヒノキからの塩基成分の雨水中への溶出はブナに比べるとかなり小さかった.また,林外雨の RpH 値はヒノキの林内,樹幹を通過・流下する過程で低下した.これはブナに比べ樹体からの塩基類の溶出が小さいこと,またヒノキの樹体から水溶性有機酸の浸出があったためだと考えられる.3)土壌浸透水の水質は,調査地域の土壌母材である富士山起源の玄武岩質火山灰やスコリアの岩石学的性質の影響を強く受け,Ca^<2+>, Na^+ 濃度が高かった.土壌浸透水中の Ca^<2+>, Na^+, SO_4^<2-> 濃度は下層ほど高く,下層への浸透が容易に進行していることがうかがわれる.一方,土壌浸水中の NO_3^- 濃度は土壌全体で低く,樹根により植物養分として吸収利用されていると考えられた.また,塩基類に富む玄武岩質火山灰土壌のもつ高い緩衝能のため,土壌浸透水のpH はほぼ中性で,樹種や土壌層位による水質の違いは余り認められなかった.
著者
國 雄行
出版者
神奈川県立博物館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

当初の計画ではプラオ(西洋犂)を内国勧業博覧会に出品していた埼玉県北足立郡大谷村向山の吉田為次郎と福島県安積郡郡山町の斉藤庄五郎について調査を進めていく予定であった。吉田については埼玉県文書館の調査により、ある程度の分析が進んだが、斉藤については未詳のままである。ただ斉藤について調査を進めていく過程で興味深い事実につきあたった。この調査をするにあたり、福島県文化センター歴史資料館に所蔵されている『県庁文書』の分析から開始したが、その際、福島県の場合は、西洋農具は農民ではなく(元)士族に貸与、又は払下げれていた事実が判明した。すなわち福島県は安積等の原野を開墾する者たちを中心に西洋農具の貸与や払い下げを行なったのであり、西洋農具の導入政策と士族授産が密接に結びついていたことが明らかとなった。また、北海道各地の博物館・資料館等を調査するにあたり、西洋農具があらゆる場所で展示されており、農具の性質、使用法等を学ぶことができたのは大きな成果である。東京近辺の調査では、立川の砂川源五右衛門(北多摩郡長)が大日本農会と密接に関連しながら、桑園をひらく際に西洋農具を使用していたことが明らかとなった。しかし、現在、史料発掘中であり、詳しい内容はわからない。今後も引き続き調査を行い、西洋農具の導入政策を研究していきたい。
著者
西村 秀樹 米谷 正造 清原 泰治 大隈 節子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

グリーン・ツーリズムでは、地域の自然・文化・生業を地元の人たちから直接学ぶ「体験学習」が目玉になっており、その体験できないことを自分の身体で体験するということは、これまでの学校教育の枠にはとどまらない新しいかたちの「知」を自主的に獲得していくことにつながり、自立していく能力を養っていくことになる。これは、まさに「総合学習」の趣旨にかなっているが、その身体で体験する「総合学習」はどのような知の形態を特徴とするのだろうか。本研究では、高知県四万十川中流域(四万十市一帯)を調査フィールドとしてとりあげ、自然と生活・生業および文化との多様なつながりを学習できる「体験学習」を分析する。それによって、身体的行為を媒介させた生活体験を基点にして意味の連関が果てしなくつなげられていくという体系化された「知」を掘り起こすこと、およびそうした身体を基点に広げられた意味連関から生まれる臨機応変な対処能力・問題解決能力こそが「生きる力」であることを明らかにしていった。そうした「知」は、具体的には中山間地域が現在置かれている状況や都市部にはない「豊かさ」を支えている自然環境に関するものであり、それを体験的に理解することによって自らのライフスタイルを見直し、また社会と自分との関わりを考えていけるような可能性を内包する知なのである。
著者
阿部 誠文
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.29-43, 1997-09

旧ソ連抑留俳句のうち、欧露に抑留された高木一郎と桜井江夢の秀句・佳句を選び、解釈・鑑賞を交えながら分析し、俘虜の生活と心情を明らかにした。俘虜という絶望的な状況にありながら、祖国・故郷に帰るということに一縷の望みを託し、故郷を思いながら、それを心の支えとして前向きに生きたのであった。「誰か故郷を」という題も、そうした俘虜の心情を代弁したものである。まだ、俳句史のなかで位置づけられていない俘虜の俳句の、その文学的再検討をうながしたい。
著者
兵頭 慎治
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1. ヒトにおける子宮内膜内Side population cellの発現と着床不全との関連性についてヒトの子宮内膜においてもSide population cellの発現はマウスと同じように変化するのか。愛媛大学医学部附属病院産婦人科不妊外来受診患者および同院良性疾患手術患者より文書にて同意書を作成した上で子宮内膜および末梢血を採取し、それぞれに含まれるSide population cell数をフローサイトメトリーを用いて測定した。採取時期は月経期・卵胞期・黄体期にわけて採取した。また検体採取時に経膣超音波検査断層法を用いて子宮内膜の厚さを測定し、血漿中のEstradiolおよびProgesterone濃度をCLIA法にて測定した。それぞれの月経周期におけるSide population cellは子宮内膜上皮・子宮内膜間質・末梢血のいずれにおいても黄体期に高値を示した。しかしながら子宮内膜の厚さとSide population cellとの間には末梢血においては相関性がみられた(r^2=0.151,p<0.05)が子宮内膜上皮・子宮内膜間質においては相関性がみられなかった。さらに末梢血におけるSide population cellの数と血漿中のEstradiolおよびProgesteroneとの間に正の相関が認められた(r^2=0.171,p<0.05;r^2=0.218,p<0.01)。さらにフローサイトメトリーを用いて分離したSide population cellを10^8Mの17β-estradiolを含むDMEM/HamF12培地で培養し、7週間後には間質・上皮から分析したSide population cellから5cells/dishの間質細胞への分化が認められた。子宮内膜由来のSide population cellは、子宮内膜の増殖・分化に関与している可能性が考えられる。
著者
渡邊 理恵
出版者
山口大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究では、M1が粒子内へ大量に存在する仕組みが、粒子形成前のM1多量体形成にあると仮定し、免疫沈降法を用いて細胞内で形成されるM1-M1複合体を検出した。FlagタグあるいはHAタグを付加した2種類のM1を細胞内で発現させ、抗Flag抗体で免疫沈降後、抗HA抗体を用いて検出した。免疫沈降サンプル調整時のpHを変化させたところ、長い紐状粒子を作りやすいインフルエンザウイルスUdorn株(H3N2)のM1では、細胞溶解液のpHに関わらずHAタグを持つM1が沈降した。一方、球状粒子を作るWSN株(H1N1) M1では、pHが変化すると、沈降するHA-M1の量が変化した。
著者
金田 幸恵 耿 驃 吉本 直弘 藤吉 康志 武田 喬男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.135-154, 1999-02-25
被引用文献数
1

1993年7月25日未明に台風9304が紀伊半島南端に最接近し、その後四国に上陸したことに伴い、半島南東斜面に多量の降水が観測された。この台風に伴い形成された対流性降水雲の地形による変質過程が、2台のドップラーレーダを用いた観測により調べられた。7月24日1900LSTから25日0000LSTにかけてのドップラーレーダ観測期間中、多くの対流性降水雲が上陸した。それらのレーダエコーは、様々な発達段階で海岸に達したにもかかわらず、海岸の10-20km手前で強まり、海岸線付近でいったん弱まった後、上陸後に再び強化されるか、あるいは広がるという共通の特徴を示した。また、対流性エコーは、海上で強まる前、海岸から30-40km沖付近で後面上部で強まり、その後、海岸に近づくにしたがって、進行方向前面のエコーが強まるという特徴も見出された。2台のドップラーレーダの観測データから導出された海上の水平風を時間平均したところ、平均風速は海岸に近づくにつれ減衰すること、海岸から約10km海上に10^<-4>s^<-1>以上の水平収束域が存在することが見いだされた。以上の観測事実にもとづき、また一般風に対する半島の地形効果に関する数値実験の結果も考慮して、対流性降水雲の地形による変質過程と効率的な降水形成過程が議論された。海上から接近、上陸する対流雲に対するこのような地形効果の総合的な結果として、紀伊半島南東斜面に多量の降水がもたらされたと考えられる。
著者
牛越 惠理佳
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

これまでに,体積一定の摂動条件のもと,Stokes方程式の速度場に対するHadamard変分公式の導出に成功した.また,体積一定であることに加えて,摂動条件に若干の仮定を加えることによって,速度場だけでなく,圧力に対する変分公式を導出することができた。しかしながら,未だこの証明方法は煩雑で,Hadamard変分公式の応用を考察するためには,証明方法の更なる簡略化および摂動条件に新たに加えられた仮定を取り除く必要性を感じ,研究を行った.そして実際,体積一定の摂動に対して,Stokes方程式の速度場および圧力に対する変分公式の証明の簡略化に成功した.しかしながら,シンプルな証明を確立したことによって,これまでに得ることの出来なかった,速度場および圧力の第二次変分までをも導出することに成功した.この手法に,所謂bootstrap argumentを用いることによって,任意の高階に対する変分公式の導出が可能になると予想される.これらの結果をまとめ,論文として投稿した,以上の研究成果をもって,国内研究集会へ積極的に参加し,研究分野の近しい数学者と議論を行い,変分公式の次なる発展を模索することを心がけた.変分公式は,領域摂動問題において,基本的でありかつ不可欠である.実際に,変分公式を応用して,固有値の領域依存性を解析した多くの結果が存在する.様々な数学者との議論を通して,今後の研究へ大きな影響を与えるような知見を得ることが出来た.