著者
原田 慈久
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

低温域の水の電子状態を軟X線発光分光を用いて観測し、水素結合の切断に相当するピークが氷の領域でも一部残り、これが内殻正孔ダイナミクスによるものである可能性を示した。一方、アセトニトリル-水混合系においては、低温域で水混合のミクロ不均一性が増大しても電子状態の変化は小さく、ゆらぎのサイズは軟X線発光で電子状態変化を捉える領域に比べて十分大きいことが示唆された。
著者
天川 裕史 高畑 直人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

二次イオン質量分析計(SIMS)によるホウ素同位体比の基礎的な分析手法の検討を行い、標準試料(NIST951)と併せ幾つかの実試料(海水、温泉水、大気の凝縮水)のホウ素同位体比の測定を行った。SIMS(使用機器はNanoSIMS)の測定にはシリコンウェハー上で試料溶液を赤外線ランプで乾固したものを供した。その際、従来は測定試料中のホウ素の散逸を防ぐため、ホウ素を除去した海水の添加を行う手法が推奨されてきた。しかし、NanoSIMSによる分析においては海水を標準試料や温泉水に添加するとホウ素のビーム強度はむしろ何も添加しない場合に比べ著しく低下し、この手法は必ずしも有効ではないことが示された。海水試料については単に乾固したものとその上に金の蒸着を行ったものの分析を行った。金の蒸着を行っていない海水のδ^<11>B値を直近のNIST951の測定値を用い計算すると+32〜+73となり、推奨値の+39.5とは異なる値となった。一方、金の蒸着を行った海水のδ^<11>B値を同様に金の蒸着を行ったNIST951の測定値を用い計算すると+44〜+46となり、より推奨値に近い値となった。金の蒸着にはブランクめ問題が懸念されるものの、確度の高い分析を行う上では有効かもしれない。温泉水試料のδ^<11>B値は+2.6と+5.6となり、Kanzaki, et. al.(1979)やNomura, et. al.(1979)やNomura, et. al.(1982)による日本の火山ガスの値の範囲(+2.3〜+21.4)の値となった。また、大気試料のδ^<11>B値(+1.7)は、Miyata, et. al.(2000)により報告されている東京大学海洋研究所周辺で採取した大気試料の分析値(-5.1、-1.8、+5.0)と大きくは異なっていない。これらの事実は、NanoSIMSは天然試料のホウ素同位体比の分析に十分堪えうることを示している。
著者
渕野 由夏
出版者
福岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は、訪問看護師の職業性ストレスが睡眠障害に及ぼす影響(因果関係)を明らかにすることを目的とした縦断的研究を行った。平成17年度に実施した質間紙調査に協力の得られた333名のうち、質問紙に氏名・所属等の記入がなかった者を除く319名を調査対象とした。調査方法は平成17年度と同様の方法の郵送法による質問紙調査(NIOSH職業性ストレス調査票と独自に作成した睡眠調査票からなる調査票)を実施した。その結果、216名から回答が得られ(回収率67.7%)、今回はこのうち男性を除く211名を解析対象者とした(有効回答率97.7%)。はじめに、NIOSH職業性ストレス調査票の各尺度の得点を平成17年度実施調査(以下、前回調査)結果および平成18年度実施調査(以下、今回調査)結果から個人毎に尺度別に算出し、前回調査に比べ今回調査の方がストレスが減少した者を「ストレス改善群」、ストレスが増加した者を「ストレス悪化群」とした。次に、睡眠状況に関する項目の合計点(以下、睡眠状況得点)と睡眠感に関する項目の合計点(以下、睡眠感得点)についても、前回調査および今回調査の調査結果から個人毎にそれぞれの得点を算出し、睡眠状況、睡眠感各々ついて、前回調査に比べ今回調査の方が改善した者を「改善群」、変化がなかった者を「変化なし群」、悪化した者を「悪化群」とした。そして、ストレス改善群、ストレス悪化群と睡眠状況。睡眠感の改善群、変化なし群、悪化群の関連についてχ^2検定により検討を行った。その結果、睡眠状況については、職務満足感はストレス悪化群の方がストレス改善群に比べ、睡眠状況悪化群の割合が有意に高く(p<0.05)、また、役割葛藤、量的労働負荷についても同様の傾向がみられた(p<0.1)。また、睡眠感については、役割葛藤、職務満足感のストレス悪化群の方がストレス改善群に比べ、睡眠感悪化群の割合が有意に高く(p<0.05)、また、量的労働負荷、上司からの社会的支援についても同様の傾向がみられた(p<0.1)。したがって、役割葛藤、職務満足感、量的労働負荷、上司からの社会的支援が悪化すると、睡眠状況・睡眠感の悪化に関連したり、関連のある傾向があることから、これらの職業性ストレスは訪問看護師の睡眠障害へ影響を及ぼす要因(因果関係のある要因)であることが明らかになった。
著者
中嶋 敦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、芳香族有機分子ナノ集合体について、内部温度を制御した有機結晶や薄膜の電子物性を微視的に理解するための構造相転移現象を解明することを目的として研究を推進した。平成21年度は、孤立分子とバルクの橋渡しを実現する観点から分子の有限多体系に着目し、特に温度を規定した環境下で、その構造の秩序性を解明するための実験研究に取り組んだ。特に、有機金属クラスターをプローブとすることによって、表面上に形成される2次元自己組織化単分子膜(SAM)の2次元融解に関する成果を得た。アルカンチオールSAMにおいて注目されることは、2次元炭化水素鎖が表面上で「相」に対応する秩序状態をもつかという点である。この自己組織化したSAMの秩序性の挙動を明らかにするために、鎖長の異なる様々なアルカンチオールSAM基板を調製し、その表面上にバナジウム(V)-ベンゼン(Bz)1:2組成サンドイッチクラスター正イオンV(Bz)_2^+を10-20eV程度の入射エネルギーで打ち込み、蒸着されたサンドイッチクラスターの熱力学的安定性や配向特性を評価した。昇温脱離スペクトルの測定からSAMの炭素鎖長がC4からC22まで長くなるにつれて、脱離しきい温度が高温側にシフトし、ナノクラスターの脱離の活性化エネルギーは、C4-,C8-SAMで約60.0kJ/molであったが、C22-SAMでは、化学吸着熱に匹敵する~150kJ/molへと著しく増大していることがわかった。また、反射型赤外スペクトル測定から、C22-SAMのように鎖長が長い場合には、V(Bz)_2クラスターは蒸着時にSAM内に進入することによって捕捉されることがわかった。そして、室温以上まで固体基板上に固定される原理は、アルキル分子鎖の自己組織化に基づく秩序化によっていることを明らかにした。これらの成果を含めて、第四回公開シンポジウム(5/30-31、東京)、および、国際シンポジウム(1/7-9、京都)においてポスター発表を行ない、さらに、成果報告会(3/7-8、東京)において研究成果について講演を行った。
著者
中山 正昭 金 大貴
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

励起子状態が極めて安定な銅ハライドと ZnO を活性層として、薄膜型マイクロキャビティ(微小共振器)を作製し、励起子-光子強結合によるキャビティポラリトンの制御を行った。励起子-光子相互作用を反映するラビ分裂エネルギーを活性層厚と光子場形状によって系統的に制御することに成功し、室温においてもキャビティポラリトンが安定に存在することを実証した。さらに、ポラリトン凝縮に起因するポラリトンレーザー発振を確認した。また、 ZnO マイクロピラミッドの自己組織化成長を確立し、 発光増強効果を確認した。
著者
河原 大輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、アメリカ映画におけるポスト古典映画の諸相を明らかにするべく、近年積極的に行われてきたポスト古典論争の再検討を、とりわけインディペンデント映画研究、ニューメディア論との比較検討から重点的に行った。インディペンデント映画研究においては、とりわけ、ポスト古典初期ともいえる60年代後半からそのキャリアをスタートさせたデイヴィッド・リンチを主たる研究対象とし、彼の作品の製作・配給・上映形態がいかなる変化を遂げてきたのかを検証した。そこで明らかになったのは、深夜上映からブロックバスター、テレビドラマ、ウェブサイトへと、変則的ながらもゆるやか移行を見せるリンチの製作態度が、ポスト古典論を展開する理論家が提示してきた現代アメリカ映画の諸特徴と連動するのみならず、90年代以降のニューメディア論とも共振しているということである。また、テレビドラマのパイロット版を映画として公開したり、ウェブサイトでの公開用に撮影したデジタル映像を映画館でフィルム上映したりする近年のリンチの変則的な製作態度を、オールド・メディアとしての映画からインターネットをはじめとするニューメディアへの移行という直線的なメディア史の記述方法に疑問を投げかける重要な事例として検討した。これらの結果判明したことは、現代はむしろ、ヘンリー・ジェンキンスが説くように、新旧のメディア双方が乗り入れ、奇妙な同居を見せる時代として理解されるべきであり、このように理解したとき、リンチの映画および60年代以降のポスト古典映画は旧来の古典映画とニューメディアを段階的に繋ぐ領域として、より広義にはポストモダンへの移行を記述するメディアとして、意義深い視点を提供するであろうということである。研究成果は日本映画学会および日本アメリカ学会において順次発表される予定である。
著者
氏家 愛子 長谷部 洋 千葉 美子 柳田 則明
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.163-169, 2007
被引用文献数
11

食品中のサッカリン(SA),ソルビン酸(SOA),安息香酸(BA),パラオキシ安息香酸エチル(PHBA-Et),同イソプロピル(PHBA-isoPr),同プロピル(PHBA-Pr),同イソブチル(PHBA-isoBu)および同ブチル(PHBA-Bu)について,超音波および振とう抽出を前処理に用いたHPLC-PDAによる一斉分析法を検討した.抽出溶媒に,アセトニトリル-水(1 : 1)を使用した添加回収率は 78∼120% であり,従前の方法で回収率の低い傾向が見られた魚介類乾製品のSAは96%,高タンパク質食品のPHBA-Esは86∼89%,高油脂含有食品のPHBA-Esは 80∼92% と大幅に改善できた.本法の定量下限値は10 μg/gであった.また,これらの同定法として,LC/ESI-MS/MS-MRM分析について検討を行い,ネガティブモードでのプリカーサーイオン>プロダクトイオンを用いて同定できた.HPLC分析での保持時間が近接する異性体のPHBA-isoPrとPHBA-Pr, PHBA-isoBuとPHBA-Buも分別して同定可能であった.
著者
平出 正孝 齋藤 徹 松宮 弘明
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

水中の各種疎水性有機汚染物質を、迅速かつ高効率に除去するため、アドミセルを調製した。アルミナと陰イオン界面活性剤、シリカと陽イオン界面活性剤から調製したアドミセルの内部は疎水的であり、疎水性有機汚染物質が容易に捕集された。また、水酸化アルミニウムと陰イオン界面活性剤の併用により、有機汚染物質や殺菌剤が効果的に除去できた。捕集後いくつかの汚染物質は、バクテリアにより分解されることが分かった。
著者
那須 義次
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-28, 2000-01-01

Bactra(Chiloides)cerata(Meyrick)キモンヒメハマキ(新称)前翅開張10-12mm.前翅の地色は灰褐色;基部から2/3の間に3-4個の黄褐色の斑紋がある(まれに不明瞭)ことで,同属の他の種と識別は容易である.分布:インド(アッサム),スリランカ,タイ,ベトナム,小スンダ列島,フィジー,パラオ諸島,西南ニューギニア,台湾,日本(本州,九州,琉球).日本新記録.寄主植物:不明.Eucosma lacteana(Treitschke)ホソバシロヒメハマキ(新称)前翅開張12-14mm.E.metzneriana(Treitschke)トビモンシロヒメハマキに外部表徴では類似するが,より前翅が細く,小さいこと,斑紋が不明瞭なこと,雄交尾器のuncusが3角形であること,valvaのくびれ部(neck)が狭いこと,雌交尾器のlamella postvaginalisが長方形であることで識別できる.分布:ヨーロッパ,ロシア,モンゴル,日本(北海道).日本新記録.寄主植物:キク科:ヨモギ属の種.日本ではヨモギの花序から飼育されている.Rhopobota okui Nasu(新種)ソヨゴチビヒメハマキ(新称)前翅開張9-12mm.外部表徴ではR.kaempferiana(Oku)ヤマツツジマダラヒメハマキに類似するが,より前翅が小さいこと,中帯がより広いこと,肛上紋が白っぽいことで識別できる.雌雄交尾器での識別は容易である.分布:日本(本州).寄主植物:モチノキ科:ソヨゴ(果実).Parepisimia catharota(Meyrick)ミナミキオビヒメハマキ(新称)前翅開張12mm.本種は近縁種のP.relapsa(Meyrick)に類似するが,中帯が同幅であること,前縁翅頂近くの三角紋が小さいこと,雄交尾器では幅広いcucullusを持つこと,valvaのcostaに突起を持たないことで識別できる.分布:アンダマン諸島,タイ,台湾,日本(琉球).日本新記録.寄主植物:不明.
著者
菅 和利 大澤 和敏 赤松 良久 恵 小百合 大久保 あかね 岡本 峰雄
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

観光資源が主たる資源のパラオ共和国においては、宅地造成、農地開墾(焼畑)など土地利用形態の変化に伴う赤土流出と自然環境への影響は総合的視点から検討すべき課題である。本研究ではパラオ共和国での国土管理の指針を提供することを目的とし、赤土流出量の現地観測とモデル計算とを行った。造成地からは、草地・裸地の約300倍の年間約700t/haの赤土流出量が観測された。観測値はモデル計算での推定結果とよく対応していた。また、環境保全の観点から旅行者数と環境容量についての検討も行った。