著者
松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、統合失調症(精神分裂病)の記憶機能に注目し、これが統合失調症の病態といかなる関わりがあるかを明らかにするために行った。報告者の研究により統合失調症では、記憶や言語機能を反映する事象関連電位反復効果に異常があることが見いだされているが、今回は特にこの反復効果が、統合失調症に特徴的である思考障害の基盤にある認知神経異常として現れると考え実験を行った。対象は、健常対照者10名、統合失調症患者19名で、患者はDSM-IVの基準を満たし、検査時には寛解期にあった。いずれの被検者に対しても研究について書面でのインフォームドコンセント行った。思考障害の評価にはホルツマンらの思考障害評価尺度を用いた。統合失調症患者は、この尺度に基づき思考障害群9名と非思考障害群10名に分けられた。反復効果課題施行中の事象関連電位が測定された。刺激は、かな二文字からなる単語で、標的は動物を意味する単語、非標的はそれ以外の単語を用いた。非標的の半分は初回提示の後に反復され、その半分は直後に反復される直後反復で、残り半分は平均5単語おいて反復される遅延反復であった。思考障害群では、有効な反復効果は認められず効果の大きさは刺激提示後300-500ミリ秒の平均振幅で健常群と比べ有意に減弱した。非思考障害群は部分的に反復効果を認め、効果の大きさは健常者と思考障害群との中間であった。反復効果の頭皮分布は、思考障害群では健常群や非思考障害群で認められる正中有意の分布を示さなかった。反復効果は、記憶や言語などの認知機能と関わりが深いことが知られており、特に刺激提示後400ミリ秒近辺の電位はN400成分と関わりが深いことが知られている。本研究の結果、思考障害を有する統合失調症患者では、N400の調整機構が障害されており、記憶や言語と関わる認知機能が思考障害の基盤にある可能性が指摘される。
著者
松本 和紀 進藤 克博 松岡 洋夫 松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

本研究は脳内で行われる言語情報処理の早期の「知覚処理」から後期の「意味処理」への変換の仕組みとその相互作用を電気生理学的に解明していくために、事象関連電位を用いて早期の知覚情報処理に関わるNA電位と意味・記憶処理と関わるERP反復効果を指標に研究を行った。今年はNA電位とERP反復効果を健常者と精神分裂病者を対象に調べた。実験1:外国文字とかな文字との比較-刺激は非読外国文字、無意味かな単語、有意味かな単語の三種類。刺激は二文字からなり200m秒、2〜3秒の間隔で提示された。被験者はある意味範疇に属する単語に対してボタン押し反応をした。NA電位は非標的刺激に対するERPから単純反応課題に対するERPを差分して得られた。結果、NA電位は、三種類の刺激間で差が認められず、早期知覚処理では、意味の有無、日本語・外国語の違いなく同等に処理が行われることが分かった。健常者と分裂病者の比較では、分裂病者でNA電位の遅延が認められたが、刺激間の差はなかった。実験2:ERP反復効果とNA電位の比較-刺激は二文字からなるかな単語で、標的は動物の意味をもつ単語で非標的はそれ以外のかな単語。非標的の半分は初回に提示される単語で、残り半分は直後反復される単語と平均5単語間隔をおいて遅延反復される単語とに分けられた。単純反応課題も施行され、実験1と同様の方法でNA電位が計測された。結果、反復単語に対してCzを中心に全般性にERPが陽性方向へシフトするERP反復効果が認められた。NA電位とERP反復効果とは振幅や潜時に相関は認められなかった。一方で精神分裂病では、直後反復でのERPで反復効果の減弱が認められた。この結果、知覚の早期処理と記憶処理とでは、ある程度独立した機構が並行した処理を行っている可能性が指摘され、精神分裂病では知覚の早期処理の遅延と、記憶や意味と関連する電気生理学的活動の減弱が推定された。
著者
石橋 正浩 二文字 理明 岩切 昌宏 石田 晋司 ベンクト G・エリクソン キルスティ クウセラ
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

精神障害者の地域生活を支える支援,とりわけサービス利用者と援助者との間でおこなわれる共同意思決定のプロセスについて,スウェーデンの専門職であるパーソナル・オンブズマンの制度と役割を整理し,その機能を日本で展開する可能性について,相談支援専門員を対象にした調査をもとに考察した。両国とも利用者の主観的ニーズと自己決定を最大限尊重しようとする援助者の姿勢は共通であるが,利用者の自己決定を支えるセーフティネットの広がりには違いがある。
著者
川井 拓摩 寺西 俊裕 有木 康雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1996, 1996-09-18

ニュース映像をマルチメディア情報資源としてディジタル化し、索引付けして分類する研究を行なっている。この研究では、テロップ中の文字を認識して形態素解析し、二文字以上の名詞をキーワードとして抽出し、このキーワードを索引としてニュース記事に付与するとともに、政治・経済などの10分野に分類している。これまでの報告では、テロップの文字切り出し率は92.2%であったが、文字認識率が53.1%と低く、これが原因となって、索引付与率と記事分類率が78.1%、62.5%と低い結果になっていた。文字認識率が低い理由としては、学習に使っている文字フォントと、テロップとして使われている文字フォントの違い、テロップ中の文字に重畳する雑音があげられる。今回、平滑化フィルタを使ってこの雑音を除去する処理を行ない、文字認識率が向上するとともに、索引付与率、記事分類率が向上したので報告する。
著者
是永 かな子
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は多文化共生社会スウェーデンにおけるインクルージョン教育の展開を、実践的、制度的、歴史的観点から分析することを目的とする。本年度は、主にインクルージョン教育が成立する背景と展開過程を検討した。具体的にはノーマライゼーションが提唱され、義務教育学校としての基礎学校が創出された1960年代以降現在に至る、通常学級での個のニーズに応じた教育の展開を分析した。本年度の研究活動は、スウェーデンでの実地調査および研究交流と、日本国内での国際交流と学会発表および論文執筆であった。まず、平成19年4月にはスウェーデン・パティレ市の知的障害特別学校長、特別教育家らを高知大学に招聘し、附属特別支援学校の教員や通常小学校の教員を交えて、日本の特別支援教育とスウェーデンのインクルージョン教育について意見交換を行った。次に平成19年10月22日-31日に渡瑞して、実地調査および資料収集を行った。それらは第一にスウェーデン・パティレ市のインクルージョン教育の実践についての調査研究であり、第二にマルメ市の大学病院内ハビリテーリングにおける障害をもつ子どもを支援する個別サービスチームの編成など医療と教育の連携体制の整備の検討、第三に自閉症学校を訪問して分離的教育措置による個に応じた教育の保障の考察、第四にイェーテボリ大学教育学部図書館におけるインクルージョン教育関連文献の収集、第五にイェーテボリ大学教育学部のJan-Åke Klassonらと意見交換を行いインクルージョン教育に関する最新の研究動向を把握すること、である。最後に、平成20年3月にも渡瑞して、同様の内容で学会発表、実地調査および資料収集を行った。日本国内での学会発表は8月4,5日の日本発達障害学会、2007年9月22,23,24日の日本特殊教育学会、2007年9月29,30日の日本教師教育学会であった。日本国外での学会発表は2008年3月6,7,8日の北欧教育学会であった。また、研究の成果を分担執筆として公表した。
著者
上原 知幸 前原 進也 二文字 俊哉 佐藤 孝 大河 正志 丸山 武男 川村 静児
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. LQE, レーザ・量子エレクトロニクス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.71, pp.41-44, 2007-05-18

宇宙の様々な極限状態で起こる現象を最も早く人類に届けてくれるものの1つは重力波である.この波は光速で重力の潮汐力が進む波であり,1916年にアインシュタインが一般相対性理論より理論的にその存在を予言した.重力波の存在は連星中性子星PSR1913+16の軌道周期の観測により存在は確かめられているが,直に重力波が検出されたわけではない.この重力波の直接的な存在証明のために高感度なレーザー干渉計の開発が必要である.干渉計のための周波数安定化システムとして,原子分子の吸収線を用いた周波数安定化がある.しかしこの周波数基準は,吸収縮の性質から長期間の周波数安定化の基準としては良好であるが,制御信号の急峻さにおいては良いとは言い難い.そこで我々の研究室で開発されたPEAK方式を採用し制御信号を改善した.
著者
中村 満紀男 二文字 理明 窪田 眞二 鳥山 由子 岡 典子 米田 宏樹 河合 康 石田 祥代
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、インクルーシブ教育の社会的背景と理論的基盤について、アメリカ合衆国・英国・北欧について検討した。インクルーシブ教育(インクルージョン)は、先進風・途上国を間わず、国際機関や各国の中央政府が支持している現代における世界的な教育改革運動であるが、その真の意味は必ずしも正確に把握されていない。同時に、インクルーシブ教育運動が世界的に拡大してきた背景とそれを支えている理論についても、共通的基盤と多元的部分に整理して解明されていない。この複雑さが整理されないまま、インクルーシブ教育が差異ではなく、障害のみに焦点化して捉えられる場合、日本における特別支援教育に例示されるようにインクルーシブ教育のモザイク的理解に陥ることになる。こうして、インクルーシブ教育とは、社会的・経済的・教育的格差、文化的・宗教的差異、エスニシティの相違によって生じる社会からの排除を解消し、社会への完全な参加を促進し、民主制社会を充実・実現するために、通学者が生活する近隣コミュニティに立地する通常の学校において共通の教育課程に基づき、すべての青少年を同年齢集団において教育することである。またインクルーシブ教育は、これらの目的を達成するための方法開発も併せて追求している点にも特徴がある。このように、教育改革運動としてのインクルーシブ教育は、差異やそれに基づく排除を解消するための、政治・経済・宗教・文化等、広範囲に及ぶ社会改革運動であり、画期的な理念を提起していて成果もみられるが、既成の枠組みを打破するまでに至っていない。同時に、理念の普遍化が実現方法の画一化に陥っていて、理念とは裏腹の排除を生んでいる例など、今後の課題も多い。
著者
二文字 理明 ウルムステット イエルディ
出版者
大阪教育大学養護教育教室
雑誌
障害児教育研究紀要 (ISSN:03877671)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.99-107, 1986-02-28

Vi har tidigare publicerat en "Svensk-Japansk Ordlista i Specialpedagogik" (Shogaiji-Kyoiku-Kenkyu-Kiyo. No.7, Osaka Univ. of Education. 1984). Nu har vi som tema "Socialvård" och har försökt att gjöra en Svensk-Japansk Ordlista i detta ämne Vi hoppas att vårt försök skall hjälpa japaner att förstå svenska utan att behöva gå via engelskan. Vid urvalet av uppslagsord, använde vi främst nedanstående källor. 1) Svenska Institutet, Sociala Termer --- Liten Svensk-Engelsk Ordlista, 1980. 2) Lundström, U., Liten Svensk-Engelsk Ordlista för Socialarbetare. Socialförvaltnings bibliotek, Göteborg, 1976. 3) Socialdepartementet, Catalogue of Social Services, 1977. Men även andra källor har använts, och för att ge order deras verkliga mening har vi ibland tillagt en förklarande sats. Som vi sagt tidigare, är vårt försök att gjöra en ordlista ej perfekt. Ordlistan måste antagligen korrigeras på något sätt i framtiden.
著者
近藤 久史 二文字 理明
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

スウェーデンの「あなたへ」シリーズを活用して、小学校高学年を中心に授業実践を試みた。ほぼ同一の教材を使用し、ほぼ同一の理念、近似の方法で実践を行っても、学校の雰囲気や担任教師の個性によってそれぞれに魅力のある授業が展開されることが実証できた。絵本のもつ力強いメッセージ性もさることながら、児童が変容すると共に教師もまた自らを変容させてこそ、絵本から発する価値観が心に響くことになる。「心に響く共感」の共有体験がその後の児童の生活にどのように生きてくるかはこれからの児童の成長を見守らねばならない。
著者
二文字 理明 INGEMAR Emanuelsson JAN-AKE Klason BENGT Eriksson
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

スウェーデンにおけるインクルーシブ教育はノーマライゼーション思想に発する「人間としての尊厳」および「すべての者のための一つの学校」という理念を掲げて展開されてきた。「場の統合」を経て「個の統合」を実現してきた。しかし、1990年時点でも「個の統合」の実現の割合は、養護学校の全児童生徒の8.7%に留まる。1990年以降は、社会民主労働党の弱体化と連動して、インクルーシブ教育を支持する言説にも陰りがみられる。カールベック委員会の基本的な構想の破綻はその象徴であろう。理念の標榜と、学校における障害者の処遇の実態との乖離に悩む現実が改めて明らかになった。
著者
公文 裕子
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.9-25, 1995-03-25

化粧…この二文字の言葉のもつ意義と思考ほど,人間それぞれの実に様々な考え方,表現法や主張を含むものはないと思う。古今東西を問わず,私達が現世に生まれ生きてゆく過程の中で,個人差はあるにせよ,誰もが美しいものへの願望,美意識,「美しく〜したい」との夢や楽しみ,また精神の高揚から化粧をするのである。これは人として,時代は変われど素直な気持ちでもあろう。人間が生きゆく,社会生活の中において化粧の必要性のある人,不必要と思う人の認識度,尺度は人様々であるが,ここで改めて,私達は何故化粧をするのかということ,すなわち「化粧とその心理について」触れてみたい。開学3年目を迎えて,本学の私の担当分野である美粧(1)・(2)の中での指導時の所感も含め,公開講座,講演,研修時に,この化粧の心理と感想を,幅広い年代層の方々にご協力いただいて,現代の化粧に対する認識性と化粧の心理効果を追求してみた。ここに感想をいただいた全国の多くの方々に,この誌上で改めて謝辞を述べると共に,この調査結果を含めた,上記表題のテーマを考察してみたい。
著者
二文字 俊哉 嵯峨 孝 伊藤 伸一 佐藤 孝 大河 正志 丸山 武男 榛葉 實
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. LQE, レーザ・量子エレクトロニクス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.65, pp.31-36, 2001-05-11

半導体レーザの発振周波数安定化を行う場合、発振スペクトル幅は広がるが半導体レーザの注入電流に直後微小変調を加える方法が一般に用いられてきた。しかし、わずかな発振幅の広がりも応用分野によっては取り除く必要がある。そこで、我々はRb吸収線のファラデー効果を用いて基準周波数に微小変調を加えることで、レーザの発振スペクトル幅を広げることなく安定化する方法を検討してきた。今回は、その微小変調の大きさと発振周波数の安定度の関係を調べ、我々が考案した"PEAK方式"へ応用することを検討したので報告する。