著者
横山 真貴子
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

幼児の「ことばの力」と絵本とのかかわりの関連を検討した結果、家庭での絵本体験が豊かな幼児は、保育の場での絵本とのかかわりも多く、発揮される「ことばの力」も概して高かった。一方、家庭での絵本体験があまり豊かでない幼児の場合、両者との関連は見られなかった。また園での絵本体験は、家庭での絵本体験量を増やし、多様に変化させており、家庭の経験を補い、幼児と絵本との出会いを創り出す保育者の役割の大きさが指摘された。
著者
石黒 二
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.98-106, 1971-06-30

この研究は中学生のOA.A,UAが,課題定位と自我定位の2種の動機づけ教示のもとで,言語材料の記憶にどのような差異をもたらすかを確かめるためになされたものである。なおこの場合実験者が被験者と知りあい関係にある教師であるか否かによって起こると考えられる動機づけ教示の効果の違いとも関連させて検討がなされた。はじめに立てた作業仮説は一部を除き,次のようにほぼ立証された。(1)動機づけの強さに関する被験者の自己評定および復習の有無に関する自己報告の結果を総合すると,教師の実験者による自我定位的動機づけ教示のもとで,自我包含的構えをとる被験者がもっとも多くなる。教師でない実験者による自我定位,教師の実験者による課題定位の順でこれに続き,教師でない実験者による課題定位のときにもっとも低い動機づけとなる。またOAはUAよりも学習後の復習の習慣においてまさる傾向がある。しかし実験事態における動機づけの強さでは,自己評定に関するかぎり,教師でない実験者による自我定位の場合を除き,OAとUAの間に有意な差がみられない。(2)いずれの動機づけ教示のもとにおいても,学習直後の再生成績はOAがもっともよく,A,UAの順でこれに続いている。この傾向は24時間後の把持検査の成績においても変わらない。(3)いずれの実験者のもとにおいても,学習と把持の成績は,課題定位のそれよりも自我定位のそれの方がまさる。しかしその差はOAよりもAとUAにおいて顕著である。(4)いずれの成就値群においても,課題定位と自我定位の間の再生成績の差は,教師の実験者のときよリも,教師でない実験者のときにより大きくなる。すべての教示条件におけるOA群,および教師でない実験者による自我定位の各群において,把持量の有意な減少が認められなかった。OA群は正答率が高くて成功感を伴ないやすいこと,教師でない実験者による自我定位では,教師の実験者による自我定位ほどに緊張が過度にならないことなどがその原因と推定された。また教師の実験者による自我定位のA,UA両群において把持量の減少があったことは,過度の緊張により,再生禁止の回復がおくれたためと解釈された。UAがOAよりも,実験者が教師か否かによって再生成績に受ける影響が大きいであろうという推測は,確証を得るに至らなかった。
著者
長野 順子
出版者
美学会
雑誌
美學 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.51-61, 1981-06-30

Im zweite Schritt der Kants Analyse der asthetishcen Urteilskraft handelt es sich um den Anspruch auf die subjektiven Allgemeingultigkeit, den das Urteil uber das Schone erheben musse. Die Aufklarung dieser scheinbar paradoxen Bestimmung <<die subjektive Allgemeingultigkeit>> soll, meine ich, die wesentliche Struktur des asthetischen Urteils ins klare bringen. Die Lust, die der Bestimmungsgrund des asthetischen Urteils ist, grundet sich selbst auf dem freien Spiele der Vorstellungskrafte zu einer Erkenntnis uberhaupt. Diese Vermogen-die Einbildungskraft fur die Anschauung und der Verstand fur den Begriff-sind beide fur menschliche Erkenntnis unentbehrlich. Und ihre Stimmung als subjektive Bedingung des Erkennens muss sich ebensowohl allgemein mitteilen lassen, als es eine jede bestimmte Erkenntnis ist. Nun die harmonische Stimmung oder das freie Spiel hat hierbei, ohne jede Einschrankung des bestimmten Begriffs, die zutraglichste Proportion zur Belebung der beiden Vermogen untereinander. Dieses freie Spiel macht das ursprunglichste Seinsmodus des gegen dem Objekte stehenden Subjekts uberhaupt aus. Also ist der Allgemeinheitsanspruch des asthetischen Urteils nichts anderes als die Behauptung einer Allgemeinheit der Subjektivitat unseres Subjekts.
著者
宮川 葉子 MIYAKAWA Yoko
出版者
淑徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

柳沢家の文芸、特に和歌における公家と武家の文化交流の実際を探った。1.東京駒込の六義園の造園意図を知るために、柳沢文庫蔵「楽只堂年録」収載の「六義園記」及び、吉保作自筆の巻子本「六義園記」の二本を翻刻。結果、吉保は和歌の浦と玉津嶋、対岸の藤代峠一帯までもを射程距離に入れた大規模な構想で六義園を造り上げていたこと、京都の新玉津嶋社を園内に勧請していたこと、黄檗山万福寺住持悦峰和尚の提案で西湖孤山の放鶴亭を真似た東屋を妹背山に建てていたことなどが明らかになった。2.大和郡山市社会教育課保管の類題和歌集「続明題和歌集」について調査研究した。新出史料である。吉保息男吉里の編纂と思われる該本は、約7000首の和歌を春・夏・秋・冬・恋・雑に分類したかなり大部な典型的類題和歌集。霊元院と東山院を筆頭に、おもには当代の公家と武家の和歌を収録する。江戸期における公家と武家の和歌文化の接点の実際を知ることのできる貴重な資料である。当該研究期間内には、「詠者目録」「題名目録」「春」「夏」「秋」「冬」の翻刻を終えたので、引き続き「恋」「雑」の翻刻及び全貌の調査研究を行いたい。3.吉保側室正親町町子の出自は不明であったが、父は正親町公通、母は水無瀬氏信女で、江戸城大奥総取締役に至った右衛門佐であることを証明できた。町子は正統な三條西実隆の子孫であったのである。彼女が『松陰日記』に多く『源氏物語』を引くのも三條西家の源氏学の学統に連なっていたからであった。『松陰日記』の本格的研究は是非なされなくてはならない。
著者
小粥 祐子
出版者
昭和女子大学
雑誌
學苑 (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
vol.820, pp.51-58, 2009-02-01

The Tokugawa Shogun and their families lived in Ooku (Great Interior), Honmaru Residence inside Edo Castle. This research analyzes the composition of the decorative interior of 4 specific buildings located on the west side of Ooku which employed ten different plans in their construction during the Manen Period, 1860. Many walls and ceilings of the rooms of the buildings are covered with papers called shohekiga on which pictures have been drawn, or papers called karakami on which various colorful patterns have been printed. The author examines the use of shohekiga and karakami in every room in the targeted buildings and demonstrates that they are used in three different ways depending on the room in which they are located. They are; Type 1: shohekiga put on both ceilings and walls or sliding doors, Type 2: shohekiga on ceilings and karakami on walls or sliding doors, and Type 3: karakami on both ceilings and walls or sliding doors. In the formal official rooms Type 1 is most commonly seen. Type 2 is seen in rooms used for Shoguns and their wives' daily informal living. Type 3 is seen mainly in rooms used by servants or attendants. Based on these observations, the author suggests that the degree of quality of materials is proportionate to the hierarchy of residents in Ooku.
著者
阿部 彰
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の萌芽的特性を発展させ、次年度以降の本格的な調査研究への取り組みを目指して、本年度は、第一にこれまでの研究成果をまとめ、第二に、研究方法の改善のため活動を継続発展させ、第三に、総合研究体勢の確立のための事前調査、連絡調整を行った。各作業項目の研究概要と成果は、下記のとおりである。1. 関連文献資料および映画フィルム等の補充調査と整理文学作品、学校沿革史から運動会に関する記事を選び、時代における特色をとらえるとともに過去および現在の運動会プログラム、運動会の場面を描写した既存の映画フィルムを全国規模で収集し、整理した。2. 映像収録の継続と分析方法の改善本年度は、従来の豊中市内の小中学校2校(豊中市立庄内小学校、豊中市立第四中学校)のほか、大阪府下2校(大阪府南河内郡太子町立山田小学校、大阪府南河内郡美原町立みはら大地幼稚園)をあらたに収録対象とし、9月下旬から10月初旬にかけて収録を行った。いずれも、3台のカメラによる同時撮影を行いそれぞれ分析・編集業務(解説字幕を挿入)を経て、ダイジェスト版を制作した。収録映像の分析を通じて、視点と分析枠組みを吟味し、次年度以降に予定している本格調査に備えた。3. 総合的研究体勢の確立のための準備次期計画による本格調査研究に備えて、全国の研究者と共同研究を進めるための連絡、調整を深めると共に、調査・収録対象地域設定のための事前調査と関係情報の収集を積極的に行った。(以上、約800字)
著者
木村 幸男
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, 1992-02-15
著者
市川 哲 三浦 敏弘
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

京都府中部に位置する船井郡6町(八木町、園部町、日吉町、丹波町、和知町、瑞穂町)の生涯スポーツ事業の行政評価と参加者による評価について調査を行った(「生涯スポーツ事業に関する行政担当者の意識」調査:平成9年度実施。「生涯スポーツの実施とその評価に関する住民意識調査」:平成10年度実施)。これらの調査とその分析によって得られたいくつかの知見には以下のようなものがある。1. 6町で生涯スポーツ事業として56事業が実施されていた。そのうち53事業が継続事業、2事業が新規事業、1事業が単年度事業であり、8割近い44事業が行政担当者により「問題がなかった」と評価されていた。2. 行政担当者はこれらの事業を行政評価する必要を自覚していたが、その客観的な評価基準をもっていなかった。3. したがって、行政評価は担当者の主観にゆだねられているが、こうした状況のもとでは、参加者や関係団体の声を聴くことがその客観性を保証していると考えられる。4. 生涯スポーツを(1)一人で行うスポーツ、(2)少人数で行うスポーツ、(3)地域の運動会、(4)町や体育振興会等が行う事業、の4種に区別したが、それらのスポーツに参加する住民は参加しない住民よりも生涯スポーツを地域づくりとの関係でとらえる傾向が強かった。5. 運動会参加者と事業参加者の90%以上がそれらのスポーツに満足しており、また80%以上がそれらのスポーツが近隣の人々との親睦を深める上で有効であると考えていた。
著者
江崎 光男 奥田 隆明 岡本 由美子 長田 博 金城 盛彦 伊藤 正一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

当該研究期間である平成12〜14年度の3年間、北京、上海、甘粛省を中心に、中国のマクロ経済発展、地域開発および持続的発展に関連する諸問題について現地調査を実施し、名古屋において3回のワークショップを開催した。これまでの3回のワークショップで報告された研究成果を中心に、『21世紀中国における持続的成長の課題-数量的評価』という標題の4部25章および付論(資料データ)よりなる最終報告書が作成される。第1部は「地域経済発展の課題」であり、中国の地域開発(特に西部大開発)における比較優位構造、労働移動、物流政策、中小企業・農村工業発展、WTO加盟に伴う課題に関する計量モデル分析および定量的実証分析が提示される。第2部は「持続的発展の課題」であり、中国西部地域における生態環境、水資源管理、SO2排出の問題および中国全体の都市問題、日中環境協力の課題が数量的に展望・検討される。第3部は「甘粛省の事例研究」であり、甘粛省の開発計画、開発戦略、労働市場、持続可能な発展が定量的実証的に分析される。第4部は「マクロ経済社会発展の課題」であり、中国の社会保障、教育投資、WTO加盟と貿易、直接投資、生産性、観光発展、失業問題に関する制度分析、計量分析が提示される。報告書は、全体として、中国の経済・社会・地域発展の現状と将来(2010年まで)に関する数量的評価・分析を主たる内容とする。
著者
中西 新太郎
出版者
横浜市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

研究実施期間の5ケ月間、a東京オリンピックのナショナルな統合に関する検討、b植民地朝鮮におけるスポーツを通した統制・同和動向の検証、c朝鮮人の運動会、体育・スポーツイベントを通した抵抗ナショナリズムの検討を行ってきた。課題aに関しては、高度成長期のただ中で開催された東京オリンピックが、国民統合の強力な装置であったことを検証し、戦後日本のナショナルな民国統合にとってオリンピックという国際的スポーツイベントがきわめて重要な役割を果たしていたことを、当時の資料検討にもとづいてあきらかにすることができた。課題b,cに関しては、朝鮮総督府学務局などの史料にもとづき、同化政策が謳われていたにもかかわらず、現実には植民地朝鮮における体育政策が兵式体操を中心とし、日本人と朝鮮人との競技が禁止されていたこと、「教練」が抵抗の温床になるとして行われなかったことなど、植民地統制の一環としての性格を帯びていたことを確認した。また、そうした統制政策に抵抗して植民地下においても民族主義体育の運動が継続していたこともあわせてあきらかになった。戦前と戦後のスポーツ・ナショナリズムには言うまでもなく性格の相違が看取されるが、スポーツ史にそくした検証をつうじ、スポーツイベントを手段とする国民統合の継承・連続と断絶という両様の位相をあきらかにする展望が開けてくる。上記の研究をつうじて、日本における近現代スポーツ・ナショナリズムのそうした位相を解明する有益な手がかりをえることができた。
著者
近藤 勲 木原 俊行 長畑 秀和 山本 秀樹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、平成6、7、8年度の3カ年にわたり、情報教育普及をめざし現職教員向け研修プログラムの開発を目的に実施された。開発理念としては、"情報教育=コンピュータ教育または情報処理教育"という図式から脱却して、情報教育を教員の基礎教養と見なした。つまり、市販のコンピュータソフトの利用技術の習得だけでなく、情報の概念・性質などの他、情報教育の必要性が理解できるよう意図した内容と構成とした。以下に3カ年の研究の経過並びに成果を整理する。1)中学校技術・家庭科の「情報基礎」の学習内容をFCAIにより自作CAI教材化し、中学生に試行させ学習効果を見た。つまり、中学2年生と3年生を対象に、自作CAI教材の学習効果を測定し、プリ・ポストテストの得点をもとに学習効果を測定したところ、顕著な学習効果が見られた。この結果をもとに、あわせて教師による自作教材の必要性の可否を検討し、操作技術・制作技術・企画構成技術は、調和を持って習得することが不可欠であるとの結論を得た。2)中学校教員及び中学生を対象にインターネットを含むコンピュータへの関心の程度及び現状の意識を質問紙法によってアンケート調査した。この調査結果を分析した結果から、教師及び生徒のパーソナルコンピュータへの期待や意識の実情を把握し、研修用プログラムパッケージ作成に反映させた3)自作CAIソフト作成のため、市販ソフト、例えば、「ハイパーカード」、「ディレクター」による学習ソフトの自作に必要な解説書とビデオソフトを制作した。4)自作した解説書並びにビデオソフトを学生並びに現職教員を含む大学院生に試用させ、その有用性・改良点について、口頭または記述によって回答を求めた。
著者
朝倉 昭
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.438-443, 1972-08-01
著者
石川 雅章 小野 博志 王 歓 でん 輝 DENG Hui WANG Huan 石川 雅章 でんぐ 輝
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

日本人と中国人は、文化を背景とする民族は異なるものの人種的にはモンゴロイドに属し、極めて近縁とされる。顎・顔面頭蓋の成長発育には、遺伝的要因に加え環境的要因が少なからず関与し、部位によってその程度が異なる。本研究は北京医科大学口腔医学院小児歯科と協同して、中国人双生児の歯列咬合や顎・顔面頭蓋の遺伝的成長発育様式を調査し、日本人小児と比較することにより、モンゴロイドの顎・顔面頭蓋の形態変異について考察を深めようとするものである。平成6年度は北京市内で双生児を収集し予備調査を行ったところ、女児が男児よりも多く応募し、費用の観点から、調査対象を中国人女児双生児に限定することとした。また平成6年度と8年度では、顎・顔面頭蓋の成長発育にとっての環境的要因につながる中国人小児の生活習慣や食習慣を各地で調査した。都市化の進んだ地域とそうでない地域の間で、さらに、都市化した地域でも両親の職域によってこれらの習慣に比較的差異がみられた。あらかじめ、DNAフィンガープリント法により中国人女児双生児の卵性診断を済ませておき、平成7年から9月と12月に、計約90組の双生児資料採得を2年間にわたり行った。その内容は問診表記入、身長体重測定、口腔内診査、側貌および正貌頭部X線規格写真撮影、パノラマX線写真撮影、印象採得などである。平成9年2月現在、歯列模型と側貌頭部X線規格写真の分析を中心に研究が進行中である。歯列模型では口蓋の三次元形状分析を、顕著な不正咬合がなく側方歯群が安定し、かつ歯の欠損のない17組について行った。口蓋の計測には、格子パターン投影法による非接触高速三次元曲面形状計測システム(テクノアーツ、GRASP)を使用した。1卵性双生児群と2卵性双生児群での分散比から(双生児法)、歯頚部最下点間距離では左右第1大臼歯間においてのみ遺伝的に安定する傾向がみられ(p<0.05)、乳犬歯間、第1乳臼歯間、第2乳臼歯間では両群間に有意差は認められなかった。また、それぞれの口蓋の深さについても両群間で有意差は認められなかった。一方、口蓋の容積については、全体および左右乳犬歯より後方の容積が遺伝的に安定する傾向にあったが(p<0.01)、左右乳犬歯より前方の容積は、両群間に有意差が認められなかった。すなわち、混合歯列期の口蓋は遺伝的に制限された一定の容積のもとに、その構成成分である幅や深さは変異しやすいことが示唆された。側貌頭部X線規格写真上には、日本小児歯科学会による「日本人小児の頭部X線規格写真基準値に関する研究」と同様の計測点計測項目を設定し、当教室の頭部X線規格写真自動解析システムにて入力分析した。各双生児組の一人を用いた半縦断的な角度的および量的計測結果を、上記基準値と年齢幅が近似するよう三つのステージに分類し、日本人小児の成長発育様式と比較検討した。さらに双生児法により、各計測項目とその年間変化量などについて遺伝力を算出した。角度的分析から、混合歯列期中国人双生児の顎顔面頭蓋概形は日本人小児とおおむね近似していたが、前脳頭蓋底に対する上下顎歯槽骨前方限界は中国人小児が僅かに近心位にあり、上下顎中切歯歯軸傾斜はやや小さかった。また混合歯列前期のみであったが、前脳頭蓋底に対する下顎枝後縁角は中国人小児が有意に大きく、下顎角は有意に小さかった。一方、量的計測項目は全体的に中国人双生児の方が小さめであったが、日本人小児との身長差を反映していることも考えられる。量的計測項目の遺伝力は混合歯列中、後期と増加する傾向にあり、前脳頭蓋底で70%弱、鼻上顎複号体と下顎骨は70〜80%台であった。これら遺伝力は、男児や男女児双方を扱った他の双生児研究よりもやや大きく、本研究が、男児よりもネオテニ-的である女児のみを対象としたことと関連しているかもしれない。下顎骨のなかでは、下顎骨長が下顎骨の前後の高さよりも、遺伝的要因の占める割合が高くなると推定された。下顎骨構成成分間での遺伝力の差は、下顎骨が遺伝的に制限された一定の長さのもとに形態形成しやすいことを示唆していると考えられた。今後は、当教室に保管されている日本人双生児や北米白人双生児資料との比較研究を鋭意進めていく予定である。
著者
山田 武
出版者
千葉商科大学
雑誌
CUC view & vision (ISSN:13420542)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.21-25, 2008-03

ニュースや新聞などを見ていると医療保障制度に関わる話題を見たり聞いたりしない日はありません。以前であれば大きく取り上げられることのなかった診療報酬の改定だけでなく、高齢化と医療費の関係、医師の偏在、医療事故、メタボリック症候群対策、混合診療、薬害などさまざまなトピックが取り上げられています。医療保障制度の危機や崩壊として大々的にクローズアップされることもあるようです。医療保障制度は非常に複雑なため全体像をつかむのが難しい側面もあります。以下では国民医療費から医療保障制度について考える糸口を探します。