著者
金井 守
出版者
田園調布学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

研究3年目の22年度は、これまでの研究成果をソーシャルワーク世界会議、社会福祉学会で発表した。また、サービスの質と権利擁護に関係しサービス利用契約の現状と課題を探るため、7施設・1団体を訪問し、事業者へのヒアリングを行い、契約書等の資料を収集した。さらに、これらの分析を行い、民法や権利擁護その他の文献研究を通して3カ年の研究のまとめに取り組んだ。(1) サービス提供事業者の契約に対する取り組みについて、事業者等へのヒアリング、収集した契約書等から以下のことが認められた。(1)事業者が、利用者との契約を通した権利義務関係の発生の意義を認め、契約締結をサービス利用の主要な入口として評価していること。(2)利用者の契約締結の支援、利用料支払い、入院や退所時の支援など契約を取巻く生活状況に課題があること。(3)身体拘束の禁止等国が定めた運営基準に基づく規定を除き、契約書の中にサービスの質に直接的に触れる規定が見あたらず、サービスの質の担保に課題があること。(2) 収集した契約書等資料の分析や文献研究の結果、以下の点が認められた。(1)利用者はサービスの受け手の地位から契約を通して権利主体としての地位を獲得したこと。(2)福祉・介護サービスの利用が契約関係を通して市民法上の権利として認められること。(3)利用者の契約締結能力、代弁、身上監護など、利用者の権利擁護が課題であること。(4)権利擁護ネットワークの構築を通してコミュニティー強化を展望。(3) 理論上の課題として、以下の点が挙げられる。(1)契約を通した福祉・介護サービスの利用への転換は、福祉・介護領域におけるパラダイム転換を伴う重要で基本的な変化であること、(2)福祉・介護サービス利用者が権利主体として認められることから、事業者・家族等の関係者は利用者の権利擁護に努める責任が生じていること、(3)市民法を中心とする「権利・法」概念とそのシステムが福祉・介護領域に進出したことから、福祉・介護領域では、利用者の権利主張と権利擁護が重要な課題として浮上していること。
著者
佐藤 嘉倫 近藤 博之 尾嶋 史章 斎藤 友里子 三隅 一百 石田 浩 三輪 哲 小林 大祐 中尾 啓子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

地位達成過程の背後にある制度に着目することで、不平等を生み出すメカニズムのより深い理解をすることが可能になる。たとえば、貧困にいたるプロセスは男女で異なるが、それは労働市場と家族制度における男女の位置の違いを反映している。また、日韓の労働市場の制度の違いにより、出産後、日本の女性のほとんどが非正規雇用者になるが、韓国の女性は正規雇用、非正規雇用、自営の3つのセクターに入る、という違いが生じる。
著者
関口 章
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

アセチレンのsp炭素をケイ素原子に置き換えたケイ素-ケイ素三重結合化合物「ジシリン」を世界に先駆けて安定に合成することに成功し、その分子構造を決定している。炭素-炭素三重結合化合物アセチレンが直線構造を持つのとは対照的にジシリンはトランス折れ曲がり構造を持ち、三重結合を形成する二つのπ結合は非等価であり、そのπ軌道準位はアセチレンのそれと比較すると著しく高いなどの特徴を有する。今回、ジシリンの物性、及び反応性を明らかにすると共にそれらに対する置換基の電子的、立体的効果を評価した。特に、今回、ジシリンと炭素-窒素三重結合を有するニトリル類との反応性を検討したところ、炭素パイ電子系と全く異なる反応性を示すことを明らかにした。1. 三重結合ケイ素化合物ジシリンに対して過剰量のトリメチルシリルシアニドを無溶媒条件下、室温で加えると、溶液の色は赤褐色へと変化した。ベンゼン中から再結晶することでジシリンービス(シリルイソシアニド)錯体の紫色結晶が得られた。一方、ジシリンのヘキサン溶液に対して2当量のトリメチルシリルシアニドを加えた場合、微量のビス(シリルイソシアニド)錯体とともに1, 4-ジアザ-2, 3-ジシラベンゼン類縁体が主生成物として得られた。2. ポリアセチレンの化学ドーピングによるソリトンやポーラロンの発生などの諸物性との関連から、ケイ素-ケイ素三重結合化合物、ジシリンのアルカリ金属による-電子還元反応を検討した。その結果、カリウムグラファイト、^tBuLiとの反応で容易に電子移動を起こし、安定なジシリンアニオンラジカルを生成することを明らかにした。これらのアニオンラジカルの分子構造や電子状態をX線構造解析、ESR測定、理論計算などを用いてアニオンラジカルの諸物性を明らかにすることができた。最終目標のポリジシリンの合成には至っていないが、新しいπ電子化合物三重結合ケイ素化合物ジシリンの興味ある反応性を明らかにすることができた。
著者
鍾 淑玲
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は台湾の近代流通構造および小売業展開の特徴を明らかにすることを目的として、まず、台湾における現地資本と外国資本の小売企業の競争状況、主要小売業態の上位企業の経営概況、そして、小売国際化の特徴を把握した。個別企業研究は、2大コンビニエンス・ストア・チェーンの展開による小売国際化、大手自転車メーカーの流通チャネル政策による流通近代化、外資系小売企業の中国市場参入の実態と影響を考察し、最後に台湾の流通政策と伝統的な商業集積の近代化との関係を明らかにした。
著者
高橋 秀依 南目 利江
出版者
帝京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では、新規な糖の連結法の開発を行い、それによって新たな機能を有する糖関連生物活性物質を創出することを目的としている。まず、血糖効果作用を有するエーテル結合糖であるcoyolosaの構造を基本とし、その類縁体合成を行った。coyolosaはメキシコのヤシの木の根から得られた天然物で、ピラノースが6位同士でエーテル結合した極めて珍しい構造を有している。このようなエーテル結合糖の安定供給をめざし、還元的エーテル化を用いて化学合成を行った。また、生物活性の検討によってエーテル結合糖に血糖効果作用があることを確認した。続いて糖のその他の部位(2〜4位)にエーテル結合を形成すべく、オキシランの開環反応を利用したエーテル結合形成を試みている。オキシランの開環にあたっては位置選択性が重要であるが、糖の環状に形成されたオキシランの場合は糖の水酸基の立体化学及び反応条件(塩基性もしくは酸性)が影響し、適切な基質及び反応条件を用いることで所望する位置選択性がもたらされることを明らかにした。また、この研究の過程で新しいグリコシド結合形成反応を見出し、エーテル結合とグリコシド結合を併せ持つハイブリッド型の糖の連結を行った。さらに、ピラノースの1位にメチル基を導入した1C-メチル糖のグリコシル化及びカルバメートによる糖の連結を行い、様々な連結様式による糖鎖構造の創出を行った。これらの検討によって得られた糖類の生物活性を他機関において検討していただいている。
著者
関口 章
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

ケイ素などの第3周期以降の高周期典型元素におけるπ電子系化合物(多重結合化合物)は炭素などの第2周期元素π電子系化合物に比べ、占有π軌道準位が著しく高く、非占有π*軌道準位が著しく低いという特徴を持つ。またケイ素-ケイ素σ結合(単結合)の軌道準位は炭素-炭素π軌道準位に匹敵するほど高く、ケイ素-ケイ素単結合で連なったポリマー(ポリシラン)では主鎖を形成するσ電子が、炭素π共役系におけるπ電子のように非局在化するσ共役を発現することも知られている。従って、ポリアセチレンのケイ素類縁体であるポリジシリンでは、高周期元素特有の非局在化したσ電子によるσ共役に加えてπ共役の複合化による新規な物性発現も期待される。本研究では、筆者らが初めて安定な化合物として合成・単離することに成功したケイ素-ケイ素三重結合化合物(ジシリン)の反応性を検討してきた。有機リチウム開始剤によるアニオン重合を行うべく、種々の有機リチウム試剤との反応を行ったところ、tert-ブチルリチウムでは1電子移動とそれに引き続く水素移動を経て、水素置換ジシレニルリチウム種を与え、単独重合は進行しなかった。また、ジシリンの重合活性の向上を目指して新規な置換基を導入したモノマー(ジシリン)の合成検討を行った。その結果、ジアルキル(アリール)シリル基を導入したジシリンは、spケイ素が空間的に接近するアリール基に対して反応活性であり、spケイ素が空間的に接近するアリールC-H結合へ挿入を経て異性化するため、ジシリン自体を安定に単離することが出来なかった。一方、トリアルキルシリル基を導入した第2のジシリンを安定に合成することには成功し、その分子構造を単結晶X線結晶構造解析で決定した。
著者
大賀 圭治 辻井 博 米倉 等 福井 清一 岩本 純明 松本 武祝
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

中部ジャワの「定点観測村」で、持続的農業発展の条件を明らかにするための詳細な調査を実施した。農家経済に関する基本的データ収集と同時に、農外労働市場、多様な金融制度、近年注目されている社会林業の制度と運用実態等についてデータ収集を行った。主な知見は以下の通りである。(1)農産物価格や資材価格など、農業を取り巻く環境変化に対する農家の反応は機敏である。また農家は、さまざまなリスク回避措置を経営内に組み込んでいる。(2)水田利用は集約的である。しかし地力循環という点で大きな問題をかかえている。(3)農家構成員の就業先選択は通説のように「無差別」ではない。また、農業部門における家族労働と雇用労働の質については完全に代替的ではないと見なされている。(4)農家の作付け農作物の選択基準においては、自給目的が強くでており、商品経済的観点は弱い。(5)親戚・隣人間での金銭的相互扶助に関しては、共同体規範の強い影響がうかがえる。(6)回転講への参加目的は、低所得層は貯蓄・融資、高所得層は隣人とのコミュニケーションにある。共通して返済率は高く、貧困層の生活水準の向上に貢献している。(7)沿岸丘陵部の天水依存地域では、持続的農業開発の条件はより厳しい。しかし、作物と林木とを巧みに組み合わせた持続的な生産方式が定着している。(8)多様な相互扶助組織がなお機能しており、ソーシャル・セーフティーネットとしての役割を果たしている。(9)国有林経営では、最終生産物を国と農家・農家グループが分収する新たな制度が導入され、農家に持続的な森林管理を動機づけるものと注目されている
著者
岸本 弘
出版者
東京経営短期大学
雑誌
東京経営短期大学紀要 (ISSN:09194436)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.175-191, 2001-03-31

私は言語学や言語心理学の専門家ではないが、子どもの言語発達にたえず興味を持ち、心理学的に考察し、研究してきた。その点でチョムスキーからはじまってビッカートンやダイヤモンド、更には最近のピンカーやサックス等に続く一連の優れた研究からたいへん貴重な刺激を受け、それにそった短い論文も幾つか発表させてもらった。この紀要第8巻で発表させていただいた「A Comparative Study of Sign Language and Spoken Language」(手話言語と口話言語の比較研究)もその一つである。本研究も、これらの学者たちが一連の研究結果をもとに共通に推測している「子どもが言語を獲得するのは、子どもの脳にあらかじめ埋め込まれた遺伝的青写真(ピンカーは更にすすんで本能と言っている)によるのではないか」という仮説について考察した。その結果、「子どもが言語を獲得するのは、遺伝的青写真や本能というよりも、ピアジェやミンスキーらの研究が示しているように、子どもの脳にあらかじめ仕組まれている思考(認知機能)の発達が下地となる。そしてそれと並行して発達してくる彼らの言語器官が、それを下地にしながら(すなわち思考の発達に促され)、周囲のおとな(はじめは母親)が使う言語(聴覚障害者の場合は手話)を使って、彼らと会話し始める。」そのように考える方が妥当なことを、他ならぬ前者らの研究そのものも示している。
著者
松本 博
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,建築材料や殺虫剤・化粧品等の使用による生活行為の甲で放散されるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)等の室内化学汚染物質を除去し,清浄な室内空気質(IAQ)を維持するための新しい制御方法として,材料の物理的な吸着・脱着効果を利用した室内空気清浄システムの開発とその基本的な化学物質除去性能を明らかにすることを目的とする。平成16年度は前年度の成果を受けて,システムの基本性能試験および運転・制御法の検討,実大空間を対象にしたシステムのVOC除去性能,ならびに実用化のためのシステム性能の改善について検討した。以下に,その概要を示す。(1)プロトタイプの各種吸着材のVOC除去性能試験およびシステム運転・制御法の検討:前年に引き続き,市販の吸着性能の高いと思われる各種材料(軽石,レカトンなど)のVOC除去性能試験を行い,システムの最適なオンライン運転・制御方法を検討した。その結果普及型PCにより容易に制御可能なシステムが構築可能なことを明らかにした。(2)実大居室を用いた汚染質除去性能の実証試験:本学実験室に設置された実大居室(2.7×2.7×2.3m)を用いて,2ユニットタイプ吸脱着型空気清浄装置(吸着材として,ハニカム状活性炭および繊維状活性炭フィルターを使用)のVOC除去性能およびその評価法に対する実証試験を行い,実用可能性の検討を行った。また,長期運転時の特性や材質の劣化などの変化を調べた。(3)空気清浄装置の改良とその性能試験:実用化を目指した装置の小型化,装置の性能向上のための改良および新規に不織布活性炭フィルターを用いたVOC除去性能試験,などについて検討した。(4)本研究で開発したVOC除去性能の定量的評価法を,観葉植物のVOC除去性能試験法や換気効率の測定法に応用し,様々な環境条件下における特性を明らかにした。以上の成果は,国内外の学会等に発表した。
著者
松山 隆司 東海 彰吾 杉本 晃宏 和田 俊和 波部 斉 川嶋 宏彰
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

3次元ビデオ映像の能動的実時間撮影・圧縮・編集・表示法の開発を目指して、平成13年度〜15年度の3年間の研究により以下の成果を得た。(1)Myrinet高速ネットワークでPC30台を結合し、IEEE1394首振りカメラ25台を持つ能動的実時間3次元ビデオ映像撮影用PCクラスタシステムを開発した。(2)首振りカメラを準視点固定型パン・チルト・ズームカメラとしてモデル化し、高精度にキャリブレーションを行う手法を開発した。(3)3平面視体積交差法およびPCクラスタを用いた並列パイプライン処理システムを開発し、毎秒10フレームを超える処理速度で人体動作の3次元ディジタル化を実現した。(4)より高精度な3次元形状復元、高精細テクスチャマッピングの実現を目指した、人体部位の分散協調的ズームアップ撮影のための多視点カメラワークの最適化法を考案した。(5)視体積交差法で得られた3次元形状の復元精度向上のため、弾性メッシュモデルの動的変形による高精度3次元形状復元アルゴリズムを開発した。(6)対象の観察視点・視線情報を利用した高品質テクスチャマッピングアルゴリズムを考案した。(7)複数のランバーシアン参照球を用いた光環境センシシグ法(複数光源の推定法)を考案した。(8)スケルトン・キューブ(枠のみからなる立方体)を用いたセルフシャドウに基づく光環境センシング法を考案した。(9)3次元ビデオと全方位パノラマ映像を素材として使った3次元ビデオ映像のインタラクティブ編集システムを開発した。(10)正多面体展開図を用いた全方位パノラマビデオ映像の符号化法を開発しMPEG会議へ標準化提案を行った。(11)3次元ビデオ映像の圧縮法を考案しMPEG会議へ標準化提案を行った。
著者
作原 猛誌
出版者
聖泉大学
雑誌
聖隷学園聖泉短期大学人文・社会科学論集
巻号頁・発行日
vol.1, pp.139-150, 1987-02-20

一、わが国における桐材使用製品と物品税高級な総桐タンスのほとんどは材質のすぐれたアメリカ桐を100%使用し、価格も一棹100万円以上のものが多い。またすべての家具、特に和ダンス、整理ダンスなどの内面 (引き出し、側板など) は桐材を使用する。これは衣類の保存に適するとか、軽くて運び易いといった利点に加えて、材料比率で50%以上の桐材を使用すれば20%の物品税を免除するという桐業界保護政策の一環に由るものである。二、以上アメリカ桐原木買付の実態を実情に即して説明したが、最近では港から相当遠隔の山の中-そこでは切っても搬出が難しい-でないと発見されず、おのずから国内輸送費の増大、インフレに伴う Logger への伐採労賃の高騰、ならびに1985年9月のG-5 (先進5ケ国蔵相会議)以降の急激なドル安、円高に基因する供給側の意図的な値上げ攻勢などにより著しく輸入量は減少し、アメリカの桐供給源としての地位が低下するに至った。一方国内需要の面においては、最近の住宅事情による家具のユニット化の影響をうけ、現在以上の需要の伸びを期待することは不可能に近いというのが業界筋の悲観的な観測である。古くより日本人に親しまれてきた桐製品が今後関係業界と消費者との緊密な協力により新しい用途が開発され、再び国内市場に活性化を与える日の近からんことを願うものである。
著者
上野 一彦 長澤 泰子 津田 望 松田 祥子 牟田 悦子
出版者
東京学芸大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

本研究では、中枢神経系の発達やかたよりから、コミュニケーション能力の遅れ、種々の知的学習能力の習得困難、さらには行動面での不適応症状をもちやすいことなどから、近年注目されている学習障害(LD)児を対象とし、その実態解明と具体的な指導方法探究のために、主として二つの側面からの研究を行なった。1.LDに関する心理学的能力のデータベースの作成と、それにもとづく能力分析による類型判別の試み。5才〜12才のLD及びボーダラインLDに関する200例のWISCーR、ITPA、TKビネーの心理検査結果によるデータベースを作成した。WISCーRを中心とした群得点分析から、全体的能力水準と処理能力の欠陥特性を考慮した3つの典型類型及び3つの重複類型からなる類型モデル図を作成し、その臨床的妥当性についての検証を試みた。同時に、12のWISCーR、10のITPAの各下位検査変量、計22の変数データについての多変量解析を試み、類型判別と診断基準の因子的妥当性についても知見を得た。2.感覚様相の処理特性からくるコミュニケーション行動中の受容能力および表出能力の発達のかたよりにたいする具体的援助の一方法として、同時提示法によるサイン言語法の開発とその適用研究。現在、英国の障害児教育現場で広く普及しているMAKATON法の日本版作成作業を進めた。この方法は、キーワード法によるサインシステムを採用し、話しことばとサインとシンボルの同時提示による言語発達プログラムである。現在、第1から第9ステージにおける約330の核語集の選定、基本的サインの作成作業を終え、類型分類によるLD児の指導グループ適用研究から、顕著な指導効果が認められた。
著者
原田 敏治
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.37-56, 1995-03-31

本稿では先進農業国のニュージーランドにおける灌漑事業の成立と停滞の条件について考察する. これまでニュージーランドの牧羊業や酪農業が, 高い生産性を維持してきた背景には, ヨーロッパ人の入植以来の牧草地や飼料作物の輪作の改良, 家畜の繁殖率の向上がある. しかし近年, 国際的な畜産品価格の低迷や, アメリカ合衆国やオーストラリアとの競合で, より高い生産性を要求されている. ニュージーランドの主要な灌漑地域は, 南島のカンタベリー平野にある. ここでは1935年にランギタタ川から分水路が引かれ, いくつかの灌漑事業が計画されたが, 第二次世界大戦で多くの事業は遅延し, 本格的な普及は戦後に持ち越された. 1957年に公共事業法が改正されて, 灌漑事業の採否に関する農民の投票が, それまでの面積比から1農家1票制に改められて, 灌漑をより必要とする小規模農家の意向が強く反映されるようになったことも, カンタベリー平野で灌漑事業が本格化する一因となった. 1980年代になって, 農業に対する公共投資が削減された結果, 新しい灌漑事業の着工は停止され, 受益地域の個人の農場内のボーダーストリップの拡大は, 補助金の全廃で困難になっている. そして, 灌漑会社の財政改善のための水利費の値上げで, 一部の灌漑農家が乾燥地農業に戻ることも懸念されている.
著者
中島 路可 柴田 彩 水谷 義 上田 那須雄 山本 二郎
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

沈香の生成に微生物が関与していることに着目し、沈香生成菌と考えられているカビ及びバクテリヤ51種類を選び、デヒドロアビエチン酸、ファルネソ-ル、ネロリド-ル、テトラリン、ヌ-トカトン、カウレンなどを基質として微生物変換を行った。デヒドロアビエチン酸では2ー位、7ー位、16ー位の水酸化がそれぞれ高収率で起こることを見出した。ファルネソ-ルではIFO7706(Fusarium oxysporumf)により3,7,11ートリメチルー2,6,10ードデカトリエン酸が、IFO3521(Pseudomonas aureofaciens)により3,7,11ートリメチル2,10ードデカトリエン1,7ージオ-ルが高い選択性で得られ、合成法としても利用できることを示した。ネロリド-ル、テトラリン、カウレンについては良い結果は得られなかった。テトラリン、カウレンについては基質が水に溶けないことに問題があり、水酸化、リン酸エステル化によって水溶性として変換を行いたいと考えている。ヌ-トカトンについては現在生成物を分離、構造決定を行っている。またデヒドロアビエチン酸の液晶としての利用の可能性を見るためにデヒドロアビエチン酸の化学変換を行い、デヒドロアビエチン酸の13ー位のアミノ基への変換及び各種置換フェノ-ル類とデヒドロアビエチン酸のエステルを合成し、液晶性を検討している。また、資源開発の目的で松柏類の樹脂成分の検索をコウヤマキ、白松について行い、とくにコウヤマキについては日本列島の日本構造線と成分の相関について調査を行っている。
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
ドクメンテーション研究 (ISSN:00125180)
巻号頁・発行日
vol.30, no.12, pp.597-598, 1980-12-01
著者
吉野 和芳
出版者
神奈川工科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は,要介護高齢者や障害者の意図理解を目的として,色の異なるパッチを複数付けたカラーパッチ手袋を利用し,動作を伴うジェスチャ表現における手の形状,手指や腕の動きを検出する手法について検討した.具体的には,本年度の成果は次の2点にまとめることができる.1.カラーパッチ手袋を利用した腕の動き追跡と手指形状推定方法の検討ジェスチャ表現を行っている話者の上半身をビデオカメラで撮影した映像からカラーパッチ手袋上に張り付けたカラーパッチ部分を抽出し,それらの抽出されたカラーパッチ群の映像上での重心を求め,その重心の軌跡から腕の動きを検出することを行った.このとき,映像内では話者の上半身部分を撮影しているために抽出されるカラーパッチのサイズが小さくなり手指形状の推定が困難となることから,コンピュータによる制御が可能なアクティブカメラで話者の手指部分のみを前述の重心軌跡をもとに追跡撮影し,その映像から手指形状の推定を行った.2.連続映像からのジェスチャ単語分割とマカトンサインへの適用追跡撮影された話者の手指部分の連続映像からそれぞれ映像内のカラーパッチ群を抽出し,それらのカラーパッチの色の組合わせの遷移を求め,その遷移状態にしきい値を設定してジェスチャの単語を分割することを行った.さらに,両手分のカラーパッチ手袋を作成し,マカトンサインの推定を試みた.その結果,単語数の増加により推定率は低下するものの適用可能であると期待できる.