著者
本間 弘次 中村 栄三 加々美 寛雄
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1。薩南諸島海域の火山島・海底火山の岩石のRb・Sr・NdとSmの含量、およびSrとNdの同位体比を分析・測定し、一連の火山岩の成分変化の主要部分がマグマの分化によるものであること、島弧横断方向における微量元素を中心とする化学的変化が、マントルペリドタイトの部分溶融度の差にもとづく初生マグマの違いを反映するものであること、Sr-Nd同位体システマティックスは単なる2成分混合モデルでは説明できず、MORB源-堆積岩源スラブ成分からなるマントル源混合と島弧型マグマ-地殻岩石からなる地殻内混合の組み合わせ=2段階2成分混合モデルを考えなければならないことを明らかにした。2。琉球島弧系の新生代火山岩類では、後期更新世以降の、火山前線と背弧海盆の火山岩類はマントル配列を右上側に離れしかも高^<87>Sr/^<86>Sr低^<143>Nd/^<144>Nd比で特徴づけられる。硫黄鳥島の含石英安山岩はマントル配列のやや近くに位置する。一方第三紀のもの(トカラ列島平島のものを含む)はマントル配列に近い組成をもつ。尖閣諸島の現世アルカリ岩類はホットスポット型で、マントル配列上ないしその左下方に位置する。高苦土安山岩は比較的に海嶺玄武岩に近い同位体組成をもつ。これら同位体的特徴とその多様性は、1次的なものであり基本的にマグマ源物質の性質を反映している。マグマ源の性格は古第三紀から現世まで、それぞれの地質セッティングによって変化している。現世島弧-背弧系火山岩類のSr-Nd同位体システマティックスでの2成分混合モデルによれば他の島弧火山岩に比べ琉球系火山岩の^<87>Sr/^<86>Sr比が高く^<143>Nd/^<144>Nd比が低いのはスラブを構成する堆積物が大陸起源成分に富むことおよびマグマの変化の1部に地殻岩石が関わっているためである。これらは琉球島弧系が大陸縁にある若い沈み込み帯であってしかもやや厚い地殻をもつことと密接な関係にある。
著者
小粥 祐子
出版者
昭和女子大学
雑誌
學苑 (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
vol.808, pp.16-27, 2008-02

The interiors of samurai residences are known for their reflection of elaborate, intricate and dignified taste of craftsmanship. Among them, naturally, the Honmaru residence of Edo castle, together with the Ooku (Great Interior), represents the supreme level of artifacts of the time. The Ooku Taimenzyo, consisting of Zyodan and Gedan, is one of the buildings of the Ooku where public receptions of Shogun and his wives were held. The author examined more than 10 public or private old documents and plans of the Ooku Taimenzyo made in the last days of the Tokugawa shogunate, and collated the records to show what the walls, sliding doors, ceilings, nail covers and fanlight carvings were like. This paper shows the detailed charts of the above accounts and suggests their supremacy. For example, every item was adorned with beautiful drawings by the day's top-notch chartered painter Kano Seisenin. The most intricate and gorgeous style was the coved and coffered ceiling called Oriage Goutenzyo which doubtless, was the outcome of the day's highest technology. Embossed and repeatedly plated high quality nail covers were also elaborate.
著者
小林 猛 大塚 隆信 河合 憲康
出版者
中部大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1. MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法における免疫誘導効果(小林)MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法をマウスのメラノーマモデルで実施し、Heat Shock Proteinが関与する癌細胞特有の免疫誘導があることを確認した。2. MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法の臨床研究(小林)前年度に実施したMCLの安全性試験の結果を基にして、中部大学にてGMP基準に準拠した患者用MCLの調製を行った。倫理委員会の審査体制が整った戸畑共立病院がん治療センターにおいて、MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法の臨床研究を開始した。喉頭部に直径7cmもの腫瘍がある患者に、最初は通常のサーモトロンRF-8による温熱治療を行い、腫瘍部位の温度は42.1℃までしか加温されないことを確認した。6日後にMCLを腫瘍部位に投与してからサーモトロンRF-8による温熱治療を行った所、44.3℃まで腫瘍部位が加温されることを認めた。さらに、in vitroの細胞実験で、42.1℃と44.3℃の加温を30分間行い、癌細胞の死滅率は44.3℃の方が10,000倍も高いことを確認した。現在、この患者の経過観察中である。3. MCLを使用した温熱療法のための倫理委員会への提出書類の整備(大塚および河合)名古屋市立大学において、大塚は整形外科領域の骨肉腫などに対するMCLの投与方法や投与量の設定根拠などを定めた。同様に、河合は前立腺がんなどを対象とした場合のMCLの投与方法や投与量の設定根拠などを定めた。
著者
高橋 邦夫
出版者
社団法人溶接学会
雑誌
溶接学会誌 (ISSN:00214787)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, 1998-07-05
著者
松本 金矢 森脇 健夫 根津 知佳子 後藤 太一郎 磯部 由香 滝口 圭子 中西 良文
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

先行研究や実践活動で実績のある拠点校(5校区)を中心に、教育現場や隣接領域の実践現場のニーズを調査し、それに応じた領域を超えた教材・活動を開発・展開した。開発した教材は、現場との協働において教育実践に活用された。その実践報告を基に公開研究会を開催し、その有効性が検討された。得られた成果は、学会発表(33件)・論文発表(36件)として公開され、関係研究者の評価を得た。
著者
川島 慶雄 横川 新 中村 道 芹田 健太郎 栗林 忠男 安藤 仁介
出版者
大阪大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

本研究は、過去10年にわたる継続的な研究の一環であり、わが国の国際法に関する実践をできるかぎり網羅的に調査・検討し、その成果を体系的に整理・公表することによって、これまで外国の事例に依拠しがちであった日本の国際法研究に新たな資料的裏付けを提供することを目的としている。その際、国際法の対象領域が極めて広いことから、日本の諸事例が国際的にみて特に有用性の高い領域を選択すべきことに留意した。昭和62・63年度の研究においては、すでに完成した「国家承認」及び「国交再開・政府承認」の研究に続き、「国家領域」に関する国際法的実践の分析を手掛けた。本研究では、対日平和条約第2条及び第3条による領土処理の対象となった領域を中心に、現在なおその帰属について周辺諸国と係争中である領域や、第二次大戦終了後に日本に復帰した領域、更に第二次大戦終了前に日本が何らかの形で支配していた領域についても検討を加えている。具体的には、対日平和条約に直接係わる領域として、朝鮮(第2条(a)項関係)、台湾及び澎湖島(同(b)項関係)、千島及び樺太(同(c)項関係)、太平洋諸島(同(d)項関係)、南極地域(同(e)項関係)、新南群島及び西沙群島(同(f)項関係)及び南西・南方諸島(同第3条関係)である。この中には、歯舞、色丹、国後、択捉四島の帰属をめぐるいわゆる北方領土問題、竹島及び尖閣諸島の帰属問題、国際連盟時代に日本の委任統治地域であった太平洋諸島の法的性質の問題、沖縄・小笠原諸島の潜在主権の問題などが含まれている。更に、日本の領土ではないが、日本が統治権を行使した山東半島及び遼東半島の租借地の問題も併せて検討している。本研究は、以上の各領域について、その歴史的経緯や問題点を分析し、今秋「国家領域(領土)-日本における国際法事例研究-」として一連の研究の第3巻を出版する予定である。
著者
藪田 貫 浅倉 有子 菊池 慶子 青柳 周一 桑原 恵 沢山 美果子 曽根 ひろみ 岩田 みゆき 中野 節子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では通常の分担者による研究会の積み重ねという形を取らず、日本の各地で「江戸の女性史フォーラム」を順次開催し、地域の女性史研究の成果と資料に学ぶというスタイルで3年間、進めた。その結果、大阪(2005.7)徳島(2005.12)、鳥取(2006.5)、東京(2006.7)、福岡(2006.12)、金沢(2007.9)、京都(2007.11)の7ケ所で開催することができた。その成果は、いずれも報告書の形で公表されているが、地域に蓄積された女性史の成果の掘り起こしと交流に貢献できたと確信する。とくに藩制史料の中から奥女中を含め、武家の女性の発掘が進み、菊池(柳谷)・浅倉・桑原らが中心となって「藩社会の中の女性」が一つの新しい潮流となっている。また活発な研究活動は、国内外の学会発表という形でも結実した。国内では立教大学日本学研究所の公開シンポジュウム(2006.5)に沢山と藪田が、ジェンダー史学会・女性史総合研究会共催のシンポジュムには曽根ひろみ(協力者)が、それぞれパネリストして参加した。国際的な学術交流では、鳥取と京都のフォーラムにアメリカとオーストリアから研究者を招き、また藪田が、ケンブリッジ大学での研究会「江戸から明治の女性と読書」(2006.9)、ボストンでのアメリカ・アジア学会分科会「19世紀日本の売買春と政治」に報告者として参加した。研究課題としてあげた研究者の世代交代を進め、若手研究者を養成するという点では、若い大学院生のフォーラムへの参加も少なく、残念ながら十分な成果を挙げていない。また分担者の研究の成果にもムラがあり、地域的にもまたライフコースについても、均等に成果を上げるには至らなかった。反省点であり、今後の課題である。
著者
松崎 瑠美
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近世後期における武家の女性の実態やジェンダーの仕組みについて、薩摩藩島津家を事例として、分析を進めた。その結果、側室の中には、藩内で正室格として処遇される者が存在したが、幕府への公式な手続きを経た正室と違い、幕府との儀礼という政治的役割は担えなかったこと、幕府との儀礼や島津家の縁組決定過程の分析から、大名家の「奥」と江戸城大奥とを結ぶ奥向のルートの構築過程と、表向のルート及び奥向のルートの利用形態を具体的に明らかにした。また、当該時期・地域の庶民の家について、建築構造面から家の間取りを比較し、「表」と「奥」に明確に区分された大名家の家と、区分のない庶民の家という階層性の違いを明らかにした。さらに、近代初期における島津家について分析した。その結果、邸宅における「表」と「奥」の空間分離や、「表」と「奥」それぞれに対応した職制の存在が見られ、近世のジェンダーの仕組みが引き継がれていた。また、一家の掟である家憲の分析によると、明治期の家憲では、母親が未成年の家主の後見人となり得たが、大正期の家憲では、後見人は親族・分家の男性に限定された。これは法制面での変化であるが、実態面での変化はどうであったのかを今後明らかにする必要がある。以上のように、今年度の研究では、近世後期と近代の一時期における武家社会の女性やジェンダーについて明らかにした。今後も、通時的な視点で引き続き幕末期や近代の分析を進めていきたい。
著者
Groff David K.
出版者
国際短期大学
雑誌
紀要
巻号頁・発行日
vol.23, pp.49-63, 2008
著者
山本 博文 佐藤 孝之 宮崎 勝美 松方 冬子 松澤 克行 横山 伊徳 鶴田 啓 保谷 徹 鶴田 啓 保谷 徹 横山 伊徳 小宮 木代良 杉本 史子 杉森 玲子 箱石 大 松井 洋子 松本 良太 山口 和夫 荒木 裕行 及川 亘 岡 美穂子 小野 将 木村 直樹 松澤 裕作
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、江戸時代および明治時代に編纂された史料集を網羅的に蒐集し、その記事をデータベースとして一般公開すること、蒐集した史料の伝存過程および作成された背景について分析・考察すること、を目的としている。本研究は、従来、交流する機会のなかった異なる分野の研究者が、1つの史実を通じて活発な議論を戦わせる土壌を作り、近世史研究の進展に大きく寄与することになった。
著者
内田 貴司 矢崎 天一 安岡 義純 鈴木 克己
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SCE, 超伝導エレクトロニクス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.274, pp.41-46, 2000-08-22

94GHzミリ波用の薄膜スロットアンテナを結合させたYBCOホットエレクトロンボロメータ(HEB)を製作し、ミリ波検出特性について検討した。まず、ビデオ検波特性から製作した素子のミリ波検出機構について検討した。遷移領域から常抵抗状態の温度領域ではボロメトリックな検出機構が支配的であった。しかし、超電導遷移温度(T_c)近傍では磁束クリープ運動に起因すると思われる非ボロメトリックな検出機構が支配的であり、印加電流を増加するに従いこの機構が顕著に現れた。次に、ボロメータとしての動作が支配的な素子を用いてミクシング特性を検討した。94GHzでのヘテロダインミクシングにおいて約0.65×10~<-9>[s]のフォノン緩和時間をもつボロメータミクサが実現でき、3.0GHzまでのIF信号を観測した。
著者
稲田 奈津子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1、天一閣博物館・中国社会科学院歴史研究所天聖令整理課題組校證『天一閣蔵明鈔本天聖令校證附唐令復原研究』(中華書局、2006年11月)が刊行されたことを受け、喪葬令の全体的再検討をおこなった。特に唐令の条文排列の問題を中心に、前掲書における呉麗娯氏の復原案を再検討するとともに、旧稿における自説の訂正・補強をおこなった。その研究過程で、律令制研究会(池田温氏主宰)および儀礼史研究会(金子修一氏主宰)において口頭報告し、そこでの成果をふまえ、論文「北宋天聖令による唐喪葬令復原研究の再検討-条文排列を中心に-」をまとめた。2、奈良時代儀礼を復原する上で重要な参考資料となる正倉院宝物に関して、東京大学所蔵の巻子本『正倉院御物写』の分析を糸口に検討をおこなった。その成果は、第26回正倉院文書研究会において口頭報告し、論文「森川杜園『正倉院御物写』と日名子文書」(『正倉院文書研究』11号掲載予定)にまとめた。3、唐代の皇帝喪葬儀礼史料である「大唐元陵儀注」の分析を継続しておこなった。本史料の主要部分の分析は本年度でほぼ完了し、近年中に註釈および考察を集成した単行本を刊行する予定である。4、国内調査は計5回実施し、九州国立博物館・奈良文化財研究所等における資料調査をおこなった。国外調査としては、中国北京故宮博物院や陵墓などの周辺史跡において資料収集および調査をおこなった。5、律令制・儀礼史関係図書を中心とした資料の収集をおこなった。
著者
三上 正男 長田 和雄 石塚 正秀 清水 厚 田中 泰宙 関山 剛 山田 豊 原 由香里 眞木 貴史
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ダストの気候インパクトの定量的評価を高精度に行うことが出来るダストモデルの開発を、(1)発生過程の観測解析、(2)ダスト輸送途上の解析、(3)ダスト沈着量の観測解析と(4)ダストモデルの高度化のための技術開発により行った。(1)では、粒径別鉛直ダスト輸送量の評価法を確立し、ダスト発生モデルの検証を行い、スキームの最適化を行った。また(2)衛星及び地上ライダーの解析から、アジア域ダストがサハラ等に較べて高高度・長距離にわたって輸送される実態や、輸送中のダストでは粒径分布変化よりも内部混合の進行による形状変化が重要であることを明らかにした。さらに(3)乾性・湿性沈着観測ネットワークによる沈着フラックスの観測データを用いて、全球ダストモデルMASINGARの粒径分布とモデルのダスト発生過程の改良を行うと共に(4)高精度データ同化システムと衛星ライダー観測値を組み合わせ、全球ダスト分布の客観解析値を作成し、東アジアのダスト発生量のモデル誤差推定を行なった。また同同化システムにより、モデルの再現性を大幅に向上することが可能となった。これらにより、発生・輸送・沈着各過程を寄り現実的に再現できるモデルを開発することが出来た。
著者
黒崎 順二 園田 立信 小野 茂 松山 宏 山中 将弘
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.324-329, 1982-10-28
被引用文献数
4

牛を高温環境で放牧する場合の管理法を究明する一環として,高温時における放牧行動の実態並びに高温時の放牧と呼吸数との関係を調査した。調査には宮崎大学住吉牧場のホルスタイン種の搾乳牛を用い,草地はバヒアグラスの優占草地で,10時30分から16時30分まで放牧し,調査を行なった。主要な調査結果は以下のとおりであった。1.6月下旬,7月および8月には,気温がそれぞれ27.0〜30.5℃,31.5〜35.0℃および29.5〜31.0℃の高温となり,このため牛は牧草地における採食と庇蔭林内における休息とを頻繁に繰り返し,放牧時間内における採食時間の割合が非常に少なくなった。これに対し,6月上旬,9月および10月の気温は,それぞれ24.5〜27.0℃,24.5〜27.0℃および21.0〜26.0℃で,採食と休息との繰り返しはほとんどみられず,また放牧時間の大部分が採食時間で占められるなど,高温時とは著しく異なった行動を示した。2.休息時の呼吸数は高温時期の6月下旬,7月および8月が6月上旬および9月よりも多くなり,10月はそれらよりも少なかった。その高温時には休息時間の経過に伴って呼吸数が著しく少なくなった。また,採食から休息に変るときは呼吸数が増加し,休息から採食に変るときは減少していたが,それらの呼吸数の変異は大きく,一定していなかった。このことは呼吸数自体が採食を阻害していないことを示す例証と考えられた。採食中の呼吸数は,季節的および個体的差異がみられるが,同一季節で同一個体の呼吸数はほぼ一定で大きくは変動しなかった。
著者
井田 喜明 長田 昇 沢田 宗久 小山 悦郎 鍵山 恒臣
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.p325-345, 1989-09
被引用文献数
5

火山噴火予知計画の一環として,地震研究所では,草津白根山の湯釜,涸釜,水釜火口の周囲に,6観測点からなる常設的な火山観測網を展開した.観測の中心は地震動であるが,地中温度,噴気温度,電気伝導度についても,連続観測を試行している.観測データは,無線テレメータにより,東京の地震研究所まで常時伝送される.地震研究所で受信したデータは,富士山や伊豆大島のデータと一緒に,ミニコンピュータにより,リアル・タイムで処理される.地震動のデータは,先ず振巾のレベルにより,次にノイズレベルや着震時刻も考慮して,地震かどうかの判定がなされる.更に,周辺の広域徴小地震観測網のデータと比較して,火山内部の地震かどうかが判断される.震源はオフラインで計算され,データに最もフィットするP波速度として2.5km/sが得られた.草津白根山では,1988年9月末から10月にかけて,火山性地震がやや群発的に発生した.その震源は,水釜火口南東部に集中した.その後,地震の震源は浅くなり,ほぼ同じ地点で間欠的な火山性微動が活発化した.1989年1月6日になると,連続的な微動が湯釜火口付近で起こり,24時間近くも継続した.それに伴って,湯釜火口の北西火口壁の付近の湖面下で,熱水か水蒸気(又は水蒸気を主体とする火山ガス)の急激な噴出があり,若干の火山灰が火口湖面およびその近傍に散布された.この小噴火の後には,震源が水釜火口南東部に集中する傾向は弱まった.水釜火口の南東部における火山性地震と火山性微動の活動は,マグマや水蒸気の移動と対応し,1月6日の小噴火の準備過程であったと推定される.A permanent network system for observations of volcanic activities have been installed in the vicinity of the Yugama, Karegama and Mizugama craters of Kusatsu-Shirane volcano. The system provides seismological data as well as preliminary results of continuous observations of underground temperatures, fumarolic temperatures and underground electric conductivities. All the data are continuously transmitted to the Earthquake Research Institute by a radio-wave telemetering system. The data are subject to real time processing in a mini-computer along with data of Fuji and Izu-Oshima volcanoes. Seismic events are first picked up, based on the amplitude level of the ground motions, and then examined in more detail, taking into account the noise levels, the arrival times and whether it occurred inside or outside the volcanic area. In the calculation of hypocenters, a P-wave seismic velocity of 2.5 km/s, which is best fit to the arrival times of the seismic waves, is assumed. Swarm-like seismic activity was observed from the end of September through October, 1988 at Kusatsu-Shirane volcano. Most of the determined hypocenters during this activity were concentrated below a specific point southeast of the Mizugama crater. In the following period, hypocenters were shifted to the shallower part of the same area, and the episodic volcanic tremors were more frequent. On January 6, 1989, a continuous volcanic tremor suddenly occurred and lasted for almost 24 hours. This tremor was accompanied by a silent extrusion of hot steam or water at the northwest part of Yugama crater with a small amount of volcanic ash distributed over the Yugama crater lake. After this small eruptive event, the hypocenters of volcanic earthquakes became more scattered. It is inferred that the volcanic earthquakes and tremors centered southeast of the Mizugama crater reflect the underground migration of magma or hot steam, and were precursors of the eruptive event on January 6.