著者
宮前 健太郎
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2021-04-28

明治期に年間10万人を超える死者を出した伝染病・コレラは高い致死率と感染力、患者の凄惨な病状から、当時の人々にかつてない恐怖をもたらした。それゆえに、伝染病としてのコレラそのものと並んで問題化したのが、伝染病をめぐる流言蜚語である。日本各地で発生した地域住民による隔離病院襲撃や警察との衝突、いわゆる「コレラ一揆」も、元々は「隔離された患者は生き肝を奪われる」、「警察官は消毒と称して病原菌を散布している」といった流言の流布によって起きたものである。申請者は今後これまでの研究内容を踏まえつつ、コレラをめぐる流言の特徴や成り立ち、背景、それを解消するために行われた啓蒙活動の諸記録を検討していく。
著者
渡辺 努 青木 浩介 阿部 修人 中嶋 智之 阿部 修人 塩路 悦郎 中嶋 智之 廣瀬 康生 戸村 肇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

わが国では過去20年にわたって物価下落が進行している。毎年の物価下落率は1%程度と小さく,ゆっくりとしたデフレだが,極めて長い期間続いているというのがその特徴である。この長期デフレの原因は,原価が変化しても価格を据え置くという企業行動にある。先進各国の企業は価格を毎年1-2%引き上げるのがデフォルトなのに対して,日本企業は90年代末以降,価格据え置きがデフォルトになっている。価格や賃金の引き上げに関する社会規範が変化したためと考えられる。一方,家計サイドでは,生まれてこの方デフレしか経験したことのない若年層を中心に,今後もデフレが継続するという予想が根強く,これがデフレ脱却を難しくしている。
著者
榎本 知郎 花本 秀子 長戸 康和 松林 清明
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ヒトを含む霊長類における精子競争の様相を組織学的に探る試みを行った。ゴリラ(N=11)、チンパンジー(11)、オランウータン(6)、ヒト(6)の精巣標本を、オトナの死亡個体から採取した。HE、PAS-ヘマトキシリンで染色したほか、テストステロン免疫染色も行った。その結果、ゴリラは、(1)11個体中6個体で精子形成がみとめられないこと、(2)精子形成が認められる精巣でも、間質が非信に豊富であること、(3)いずれもテストステロン染色によく染まるライディヒ細胞が非常に多く認められた。チンパンジーでは(1)精上皮が非常に厚く、各段階の精子形成細胞が多数あり、成熟期の精子細胞も豊富で、精子形成が非常に活発であること、(2)間質は疎でライディヒ細胞が少ないこと、またオランウータンでは、(1)精子形成は比較的活発であること、(2)間質もかなり豊富であること、(3)精子細胞の先体が大きいこと、などが明らかになった。ゴリラ(N=11)、チンパンジー(N=5)、オランウータン(N=4)、ヒト(N=1)の精巣標本について、精子発生指数(SI)と:減数分裂指数(MI)を算定した。ゴリラ11頭の平均SIは、チンパンジー、オランウータンより有意に低かった(マン-ウィットニー検定)。また、ゴリラの平均MIは、チンパンジー、オランウータンより、有意に低い値を示した。ゴリラは、チンパンジーの40分の1、オランウータンの8分の1の精子しか産生しておらず、またヒトは、ゴリラの6倍、チンパンジーの7分の1の精子を産生していると推定された。
著者
鹿子木 康弘 高橋 英之 松田 剛
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,視線入力インタフェース技術を用いた独自の参加型認知実験パラダイムを構築し,今まで方法論的な限界により検証不可能であると考えられていた乳児の他者に対する道徳的ふるまいを明らかにすることを目的とする。本研究により,従来研究から漠然と示唆されていた乳児の道徳性の 実証が可能になるとともに,乳児の行動そのものを測るという乳児研究手法のコペルニクス 的転回が実現できると期待している。また,乳児の道徳的行動を直接観測することで,分断 が叫ばれる現代社会に横たわる様々な問題の背後に存在する道徳性や暴力性の発達的要因の解明がより進むことも期待される。
著者
高岸 治人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本プロジェクトの目的は、心の理論と呼ばれる他者の心的状態を推測する認知能力と社会行動(利他性)の関連を検討することにある。本年度は昨年度実施した自閉症スペクトラム障害を抱えた成人(ASD参加者)を対象にした実験で測定した眼球運動の解析を行った。課題は自分より多い金額を受け取る人(Xさん)と自分より少ない金額を受け取る人(Yさん)が存在するという状況の中で、Xさんの取り分をどのくらい減らすか、もしくはYさんの取り分をどのくらい増やすかを回答するという方法で行った。実験の結果、まずASD参加者は、精神疾患や発達障害を持たない健常参加者よりもYさん(自分より少ない金額受け取る人)の取り分を増やさない傾向を持つことが明らかになった。また、注視時間に関してもASD参加者はYさんの利益に注意を払わない傾向を持つことが明らかになった。これらの結果は、ASD参加者は行動レベルでも認知レベルにおいても利他性に関して健常参加者とはまた違った傾向を持つことを示している。次に第二実験としてオキシトシンをASD参加者へ投与することで利他性が促進されるかどうかを確かめる研究を実施した。オキシトシンはこれまで授乳時、分娩時に重要な役割を果たすホルモンであると考えられてきたが、近年の研究の結果、他者に対する信頼や心の理論といった社会性を促進させる働きを持つことも明らかになった。またこれらの結果を受け、近年、ASDの改善薬として注目が集まっている。実験では、20名のASD参加者に対してオキシトシンを投与し、投与前後の利他性の程度を測定した。結果に関しては現在分析中である。
著者
松中 哲也
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

日本海において底層水の水温上昇と貧酸素化が観測され、地球温暖化によって深層循環が弱まりつつあることが示唆されている。深層循環停止と貧酸素化に伴う海洋生態系変化が懸念されている。本研究は地球温暖化に対する日本海深層循環の応答性を検知できる底層水の滞留時間評価法を確立する。日本海におけるI-129深度分布を広域的に明らかにし、I-129を深層循環トレーサーとして用いて底層水の滞留時間を推定する。
著者
北村 達也 真栄城 哲也 竹本 浩典
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

鼻腔は複雑な形状をもっており,さらに大小さまざまな副鼻腔が接続されている.鼻をつまんで声を出せば声質が変わることからもわかるように,鼻腔や副鼻腔は音声の生成に大きく寄与しているが,従来,鼻腔や副鼻腔の影響は軽視され,それらの音響特性は十分に検討されてこなかった.本研究では,X線CTデータを用いて詳細な3次元形状を抽出し,音響計測や音響シミュレーションなどによって音響特性や個人差を明らかにする.
著者
半田 節子 石神 昭人
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

アルツハイマー病患者の脳(海馬とその周辺)では、シトルリン化蛋白質の異常な蓄積が確認された。また、プロテオーム解析によりグリア繊維酸性蛋白質(GFAP)、ビメンチンがシトルリン化されていることを同定した。さらに、アルツハイマー病の早期診断を行う臨床検査診断薬となるシトルリン化GFAPを高感度に検出するELISAシステム(酵素免疫測定法)を構築した。
著者
保田 諭
出版者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

固体電気化学デバイスである、固体高分子形燃料電池(PEM-FC)と固体高分子形水素ポンピング(PEM-ECHP)を組み合わせた省エネルギーでの重水素ガス濃縮デバイスを開発する。初めに、それぞれのデバイスで重水素ガスが高効率で濃縮する電極触媒を開発する。PEM-FCで発電したエネルギーをPEM-ECHPの駆動エネルギーに利用し、これらデバイスをカスケード接続することで、省エネルギーで重水素ガス濃縮が可能なデバイスを開発し、その動作機構の知見を得る。これにより、半導体産業や医薬品開発に重要な重水素ガスの低コスト製造法の礎を築く。
著者
福嶋 健二
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

磁場をかけると物体が回転する現象はアインシュタイン・ドハース効果と呼ばれ、100年を超える研究の歴史がある。また逆に回転する物体に磁化が生じる現象はバーネット効果と呼ばれ、理論的・実験的に詳しく研究されてきた。これらの効果は、スピンと軌道角運動量が相互作用により混じり合うことで磁化が回転に転換したり、またその逆のプロセスとして理解される。ところが相対論的な物理系では、スピンと軌道角運動量の分解そのものが非自明である。そこで本研究では、これらの効果の理論的な枠組みについて、相対論的な拡張を目指している。
著者
福山 欣司
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

日本産のカエル類に対する酸性雨の影響について調べるために、数種のカエルについて飼育実験を行った。今回は特に卵期と幼生期における影響について、アオガエル科のカジカガエル(Buergeria buergeri)、モリアオガエル(Rhacophorus arboreus)、シュレ-ゲルアオガエル(R. schlegelii)の3種を重点的に調査した。B. buergeriについては野外で採取した1ペアを実験室で産卵させて得た受精卵を実験に供した。R. arboreusとR. schlegeliiについては、野外に産みつけられている1卵塊を採取し、それを実験に供した。受精卵に対する酸の影響を調べるためにB. buergeriの受精卵をpHを3.0〜6.0に調整した飼育水にそれぞれ30卵ずつ入れ、20℃で孵化率を調べた。同じ実験をニホンアマガエル(Hyla japonica)とダルマガエル(Rana porosa brevipoda)についても行い、種間比較をした。その結果、pH3.5以下では3種とも孵化率0%となりB. buergeriでは4.0でも孵化率0%であった。これらより高いpHではいずれも場合も孵化率100%であった。幼生に対する酸の影響を調べるために、pHを3.0〜6.0に調整した飼育水に孵化直後の幼生(B. buergeri、 R. arboreus、およびR. schlegelii)を30匹または20匹ずつ入れ、20℃で飼育し、幼生の生存率と成長速度を調べた。その結果、B. buergeriでは、pHが低くなるにつれて生残率が低下する傾向があったが、他の2種については差は見られなかった。また3種ともpH5.0以下ではコントロールと比較して上陸時の体長が有意に小さかった。以上の結果から、オタマジャクシが流水で成長するB. buergeriは、他の種と比較して酸性に対する耐性がやや低いと考えられる。また、今回実験した3種すべてにおいてpH5.0を下回するような酸性条件では、卵や幼生にダメ-ジを与える可能性があると考えられる。
著者
澤瀬 隆 熱田 充 柴田 恭明 馬場 友巳
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

我々はリン酸カルシウムを貝殻の成分として有するミドリシャミセンガイの貝殻-貝柱間の強固な接着機構に着目し,バイオミメティックス技術を応用することで,生体材料であるチタンに同様の軟組織との結合能を付与することを目的として研究を開始した.平成17年度においてはチタン表面へのアパタイト/ラミニンの析出及びラミニン含有アパタイトコーティングディスクを用いたin vitroにおける細胞培養に関する研究を行い,その結果は昨年の報告書に記載した通りである.引き続き本年度はファイブロネクチンコーティングディスクにより線維芽細胞を用いたin vitroでの検討,ならびに同様の処理・コーティングを行ったスクリューインプラントを用い,ラット口蓋粘膜への埋入実験を行い,in vivoでの検討も加えた.その結果接着タンパクであるファイブロネクチンの存在により線維芽細胞の有意なケモタキシスが観察され,またインプラントに直行する線維の走行を可能とした.しかしながらバイオミメティックスという本題に振り返ると,貝殻-貝柱間において観察された,貝殻内面再表層と貝柱筋線維を繋ぐような10-15μm程度の膜様構造を再現することは困難であった.この膜様構造は,興味深いことに歯根表面と歯槽骨とを繋ぐ歯根膜と類似の構造を呈し,独立した組織を連結するためには,この2層構造が鍵となるのではないかとの仮説に至っている.今後,発展の一途をたどる再生医療とのコラボレートも視野に入れ,本研究を一層深めることが必要である.
著者
青木 清
出版者
上智大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1987

魚類の中枢神経系は, 他の脊椎動物と比較して単純で神経生理学的な面からの解析に適していると考えられるところから, 日本産ウグイとメダカを用いて視覚性眼振運動(Optokinetic nystagmus:OKN)を制御する中枢神経機構について, 電気生理学的, 行動生理学的に解析した.1.自発性眼球運動と, 白黒の縦縞模様のスクリーンの回転によって誘発される2種類のOKNにおける, ウグイの動眼神経核内での単一ニューロン活動を記録して, その活動様式を調べた. 白黒の縦縞のスクリーンを, 時計方向に回転させた時反応した41個のニューロンは, 水平面上の眼球運動をおこすとともに, 3つの活動様式を示した. その三つの様式は, (1)魚の鼻側方向の急速眼球運動時に高頻度発射するタイプ, (2)(1)とは反応タイブが似てはいるが, 急速眼球運動時に限って特異的に高頻度を示すバーストタイプ, (3)通常は眼球の位置に関係のないある一定の頻度で発射していて, 急速眼球運動の間だけ活動が休止するボーズタイプである. これら(1)(2)(3)のニューロンでは, サッケード(自発性眼球運動, における急速運動)と視運動性眼振の急速相との間には, ニューロン活動に違いが見られなかった.2.OKNに直接関与する運動系の神経系を明らかにする為に, ウグイの脳の視床-前視蓋領域に局所的電気刺激を与えて, 視覚からの入力のある時と同じOKNを発現させ, その機能的役割について調べた. 両側の視床-前視蓋領域のうち右側領域を電気刺激すると常に引き起される眼振は時計回転方向のものであり, 左側領域では反時計回転方向となった. 視床-前視蓋領域の部位では, 終脳核群と互いに連絡があり対象同定に関与している.3.野生型ヒメダカの孵化直後から成魚までの視運動反応の発達を調べ, 発達に変化のみられる日令に従って中枢神経系の発達を電気生理学的に解析して制御機能を明らかにした.
著者
佐藤 れえ子 御領 政信 小林 沙織
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

猫多発性嚢胞腎の嚢胞形成機序を明らかにするために、腎嚢胞細胞PKD1遺伝子変異によるツーヒット変異を証明し、嚢胞細胞増殖シグナル伝達経路をブロックする分子標的薬を決定して、猫における至適投与量を模索した。その結果、嚢胞ネットワークを通じて全国より血液検体と死亡症例の腎臓を収集でき、PKD1遺伝子のPCR-RFLP法とダイレクトシークエンスによる遺伝子検査の結果、腎嚢胞細胞PKD1遺伝子にホモ型変異を検出し(エクソン29、c.9891)ツーヒット変異が生じていることを明らかにした。治療薬にはcAMP pathwayを抑制するトルバプタンを選択し、短期投与と長期投与を実施して投与量を決定した。
著者
上西 智子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究の目的は、健康経営を実践している企業が、従業員に対して行っている健康づくりの取組で得られた成果をもとに、新たなビジネス領域へ事業展開するプロセスを明らかにすることである。具体的には、健康経営を実践している企業が、従業員や一般消費者の健康づくりの世界にどのように入り込んで健康づくりに資するのか、またどのような健康文脈を形成し、その価値を共創し展開させているのか、インタビュー調査を通してそのプロセスを実証的に明らかにする。
著者
金藤 正直
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

企業が従業員の健康保持・増進に関与し、健康保険料の増加や疾患リスク上昇に伴う生産性の低下を防ぐための健康経営について、経済産業省は重要な経営課題の1つと位置づけている。しかし、従業員の職務上のストレス削減や能力向上が、企業全体の離職率低下、医療費負担抑制、生産性向上をもたらし、さらには業績向上も実現させる健康経営の可能性を定量的に分析し、評価するような研究は、国内外においても十分に進んでいるとは言い難い。そこで、本研究では、従業員の健康リスク削減により、企業の業績向上を実現させる健康経営システムに資する会計モデルの構築を目指す。
著者
三島 修治 平林 耕一 清水 公裕 江口 隆 三浦 健太郎 松岡 峻一郎 濱中 一敏 原 大輔
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では、主に肺腺癌に対する新たな治療戦略の一つとしての新規キメラ抗原受容体発現遺伝子改変T細胞療法(CAR-T療法)の開発を目的とします。私たちはすでに、このCAR-T細胞が新たに標的とする抗原を特定し、この標的に対して特異的に結合しうるタンパク質の遺伝子配列を複数同定しています。本研究では、肺腺癌の腫瘍細胞株を用いた実験に加え、マウスを使った動物実験により、この新規CAR-T細胞の有効性を検証します。