著者
近藤 哲夫
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的はエピジェネティクス修飾により甲状腺癌細胞にTTF-1 を誘導する有効的な方法の確立、TTF-1 による甲状腺機能分子の再誘導の検証、TTF-1の腫瘍抑制効の解明である。結果として一過性発現、安定発現細胞株ともにTTF-1の強制発現のみによっては甲状腺機能分子の発現や甲状腺ホルモン産生を誘導することはできなかった。一方でTTF-1発現誘導により甲状腺癌細胞の増殖抑制がおこることが確認された。cDNAマイクロアレイによってTTF-1発現誘導により有意に増加する遺伝子群と減少する遺伝子群が確認された。 本研究の成果によりTTF-1には腫瘍抑制的機能が存在することが示唆された。
著者
齋藤 義正 大江 知之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

我々は、これまでに難治性がんの代表である胆道・膵臓がん患者由来のがん細胞を対外で培養・維持することに成功し、さらに薬剤スクリーニングにより水虫の治療薬である抗真菌薬が胆道・膵臓がん細胞の増殖を抑制することを明らかにした。本研究では、抗真菌薬を基盤とした胆道・膵臓がんに対する革新的な新規治療薬を創出するため、増殖抑制効果の分子機序の解明、抗真菌薬の合成展開、動物実験での効果の検証などを行う。
著者
上原 章寛
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

塩化カルシウム6水和物は、常温で液体の濃厚電解質である。濃厚電解質中でのイオンの挙動は希薄な電解質水溶液中と異なる挙動を示すため、本研究ではこの液体を「常温無機イオン液体」と名付け、次のことを明らかにした。ウランイオンはU(VI)からU(V)に電気化学的に還元され、その後不均化反応によってU(VI)及びU(IV)を生成する。また、希薄な電解質中では短寿命のU(V)は常温無機イオン液体中では比較的長寿命で同化学種を電解吸光分光法により検出することに成功した。U(VI)を含む水相と酸化還元体を含む有機相の界面において水相中のU(VI)の還元及び有機相の還元体の酸化に起因する電子移動電流を検出した。
著者
酒井 和子
出版者
久留米大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

透析患者のLOH症候群に起因する、アルツハイマーもしくは抑うつに対して有効な治療はかくりつされていない。我々は透析患者におけるカルニチン濃度と抑うつ状態の程度と相関していることを見出した。血液透析患者に対するL-カルニチン補充療法が、認知機能・抑うつ状態を改善しうるかについて検討した。対象は1年以上血液透析を受けている透析患者。26人全患者に対してカルニチンを静脈注射、または経口で投与した。うつの指標となるSDSスコアは女性では有意差を認めないが、男性では3か月後に有意差をもって改善した。これらの結果、L-カルニチン投与により男性透析患者において抑うつ状態を改善する可能性が示唆された。
著者
知見 聡美
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

大脳基底核と小脳はどちらも、随意運動を行う上で非常に重要な役割を果たしており、変調を来すことによって運動が著しく障害されることが広く知られている。運動の指令は、大脳皮質の一次運動野、補足運動野、運動前野などの運動関連領野から脊髄に送られるが、大脳基底核と小脳もこれらの皮質領域から運動情報の入力を受け、情報処理を行ったあと、視床を介して大脳皮質に情報を戻すループ回路を形成することにより、これらの大脳皮質領域の活動調節に寄与している。本研究は、大脳基底核から視床への情報伝達と、小脳から視床への情報伝達が、随意運動を制御する上で果たす役割について明らかにすることを目指す。
著者
渡部 洋 松川 節 古松 崇志
出版者
大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

元代から明代初期までの多言語史料(碑文華夷訳語)を解読分析し、史料の1つ達魯花赤竹公神道碑銘の注釈書(「漢文・モンゴル文対訳「達魯花赤竹君之碑」(1338 年)訳注稿」2012 pp107-238)を『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』第29号に掲載した。
著者
福嶋 健二 船井 正太郎 塩崎 謙 三角 樹弘
出版者
東京大学
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2022-06-16

学習とは、学習データの入力から出力までのプロセスを多数の学習パラメータで表現し、学習パラメータを変分によって最適化することである。学習のクォリティは大別すると2つの要素で決まっている。すなわち、過学習を避けつつより一般性のある関数空間を扱える表現と、ベクトル空間内で複雑な構造を持った学習データに対する適切な最適化である。本研究では、表現に対するアプローチとしてゲージ場の理論の様々なテクニックを用い、最適化のための入出力データが内在するトポロジカルな特徴に着目することによって、両者に変革的な進歩をもたらすことを目指す。
著者
喜田 聡
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

認知症克服は世界的課題である。主症状の一つが夕方に会話困難、徘徊、妄想的言動等の症状か増悪する「夕暮れ症候群」であるが、この機構は不明である。また、認知症の記憶障害は「想起(思い出せない)障害」である可能性も指摘されている。一方、代表者は生物時計に障害を与えた遺伝子変異マウスでは夕方に想起能力が低下すること、生物時計が想起を制御することを示しており、この成果から「夕暮れ症候群は生物時計の異常による時間帯依存的な想起障害と関連する」との仮説を立てた。本研究では、この仮説に基づき、生物時計の異常による想起障害の観点から夕暮れ症候群の機構解明を目的として、生物時計の障害と認知症との関連を追求する。
著者
高久 暁
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ドイツの音楽家・音楽学者エタ・ハーリヒ=シュナイダー(1894~1986)は、日本における職業的で本格的なチェンバロ演奏の祖となった古楽演奏のパイオニア、外国人による日本伝統音楽研究の先駆者、シェイクスピアの全ソネットや日本の昔話を翻訳した翻訳家、著名なスパイ、リヒャルト・ゾルゲと親密に交際し、東京裁判の傍聴記録を残した「時代の証言者」など、音楽家や音楽研究者の枠を超えたさまざまな側面を持った人物であるが、その業績の全体像はいまだに明らかになっていない。当研究は彼女の再評価を目的として、彼女の業績と経験の総体を書誌を作成してまとめ、現代における彼女の存在の重要性を社会に問うものである。
著者
山崎 晃司 坪田 敏男 小池 伸介 清水 慶子 正木 隆 郡 麻里 小坂井 千夏 中島 亜美 根本 唯
出版者
ミュージアムパーク茨城県自然博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ツキノワグマの行動生態研究の多くは,秋の食欲亢進期に行われており,春から夏の行動はよく分かっていない。本研究では,各種新型機材を利用し,冬眠明け後の春から夏の野生グマの生理状態の把握と共に,その行動生態の解明を試みた。その結果,夏期には活動量,体温,心拍計共に低下することを確かめた。春は低繊維,高タンパクの新葉が利用できたが,その期間は極めて短かった。夏は食物の欠乏期として捉えられ,夏眠のような生理状態に入ることでエネルギー消費を防いでいたと考えられた。本研究は,秋の堅果結実の多寡だけでは説明できていない,本種の夏の人里への出没機構の解明にも役立つことが期待できる。
著者
吉村 均
出版者
(財)東方研究会
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

チベット仏教各宗派はラムリム(菩提道次第)に基づき学習・実践をおこなうが、それはインドのナーガールジュナ(龍樹)による苦しみからの解放の方法としての仏教の体系化に基づくもので、無我とトンレン(自分の楽を与え他の苦を受け取る)の瞑想を核とするロジョン(心の訓練法)はそのエッセンスである。近年の欧米での仏教への関心はその実践性にあるが、上記の理解を踏まえて日本仏教の道元や親鸞の教えを読み直すことで、現代社会における可能性を探った。
著者
細野 敦之
出版者
福島県立医科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

プロポフォールの長期投与によりその麻酔・鎮静作用に対して耐性が生じると示唆されているが、その機序は明らかではない。カンナビノイド受容体はプロポフォールの麻酔・鎮静作用に対する耐性形成にもCB1受容体の変化が関与している可能性がある。本研究は、ラットを用いてプロポフォールの長時間投与によりCB1受容体のmRNA転写物量、タンパク発現量、ならびに受容体の細胞内局在が変化するか否かをそれぞれreal-time PCR法、ウェスタンブロット法、免疫染色法を用いて明らかにすることが目的である。これらによって、プロポフォールの麻酔・鎮静作用に対する耐性形成の機序を明らかにする。
著者
窪田 香織 桂林 秀太郎 岩崎 克典
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

抑肝散には神経栄養因子様作用があり、神経保護や神経突起(軸索)伸展・神経新生作用を持つ可能性が示唆されていたが、変性神経に対する保護・機能改善効果の詳細は未だ不明であった。そこで当研究では、ニューロン・アストロサイト共培養系オータプス培養標本を用いてAβ処置による神経変性モデル、Sema3A処置による軸索特異的変性モデルなどの新規神経変性モデルを構築した。次にこの神経変性モデルを用いて神経変性や軸索伸展に対する抑肝散の効果を確認した。抑肝散には軸索変性に対して改善作用があることが示唆された。さらにこの効果には神経栄養因子BDNF, NGFのほか軸索伸張阻害因子Sema3Aの関与も示唆された。
著者
上杉 繁 玉地 雅浩
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

新しい原理にもとづく身体動作支援ツールも射程に捉え,全身に張力を伝播する機能をどのように拡張することで,身体のある部分から身体全体へ,身体全体から部分へという関係に作用して,運動機能の向上へつなげることができるのかという問題に取り組む.そこで,身体内部で生じている筋膜の作用を身体表面に外化し,その機能を操作・計測可能とする独自の方法を考案する.そして,①実験用張力伝播スーツの開発方法を明らかにし,②張力伝播が効果的な運動の抽出とそのメカニズムの解明を行い,その成果に基づいて,③運動用張力伝播スーツの開発と効果検証を行う.
著者
渡部 潤一 有松 亘
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

オールトの雲に属する天体が、背景の恒星を隠す掩蔽現象を検出するための観測技術を、既存のシステムをアップグレードすることによって確立する。これにより、大型望遠鏡でも直接観測が不可能であったオールト雲の天体を掩蔽の観測によって実現し、その空間分布特性およびサイズ分布特性に史上初めて観測的制約を得ようと試みるものである。
著者
成澤 知美 松岡 豊 越智 英輔
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ライフスタイルの欧米化、がん治療の進歩により長期生存が期待される乳がんサバイバーは増加の一途である。心理的負担(がん再発不安と抑うつ)は、がんサバイバーにおいて最も頻繁に経験される未だ満たされていないニードであり、その対策が急務である。本研究課題は、乳がんサバイバーの全身持久力向上を目指して申請者らの研究チームが開発した運動プログラムによる介入の心理的負担に対する効果をランダム化比較試験で検討することで、従来の心理療法及び薬物療法を中心とした医療から当事者のライフスタイル変容を介した新しいヘルスケアモデルの基盤作りに挑む。
著者
冨樫 進
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、中国より日本へ移入された戒律思想、及びその媒体となる言語表現が、奈良時代末期から平安時代初期の日本文化にいかなる影響を与えたかという点を追究したものである。仏教信者の実践規範となる戒律については、奈良時代においては中国における制度の忠実な導入が重視されていたが、平安時代には必ずしも中国の戒律実践に拘泥しない傾向が顕著となっていく。その主な理由として、空海がもたらしたインドの文字・悉曇が仏教的世界観の発達を促進するとともに、中国文化の相対化をもたらした点が指摘できる。
著者
相馬 保夫
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究は,第一に,ヴァイマル期における産業合理化と労働者・労働組合との関係,第二に,労働者生活圏の変容と労働者文化・大衆文化との関係をテーマとした。1.相対的安定期に始まる産業合理化は,ルール炭鉱では,坑内労働の機械化と労働組織の再編成によって,電機・機械工業では,フォード・システムに倣う大量生産方式の端緒的導入によって,労働者の伝統的な労働の世界を変えた。それは,労働運動の基礎となっていた旧来の熟練を掘り崩し,労働者の連帯の構造を破壊した。産業合理化に対して,ドイツ労働総同盟(ADGB)は,生産性の上昇による生活水準の改善という方向で積極的に対応し,これまでの社会主義的な大衆窮乏化論に代えて大衆購買力論を打ち出した。しかし,ADGBの経済民主主義論では経営民主主義は軽視されており,合理化による生産点での労働者文化の変質についての認識は乏しかった。2.1920年代における労働者生活圏については,労働者街の変容と労働者文化,青年労働者層と大衆文化という点について検討した。大都市ベルリンでは,都市計画により中心部の再開発が緒につくとともに,郊外には集合住宅団地が建設され,これによって従来の労働者街は変容していった。一方,ルールの炭鉱住宅にも社会的変容の波は押し寄せていたが,労働者文化と生活圏の一体性はなお比較的よく保たれており,生活の場での労働者の連帯感はかえって強まった。このような社会的変容のなかで青年労働者層は,世界恐慌期に不安定な生活を送っており,両親の世代とは異なる生活観と政治意識を有していた。彼らこそ,労働者文化と大衆文化との間で方向を見定められないこの時期の労働運動文化のディレンマを体現していたといえる。
著者
杉本 渉 宮丸 文章
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

4種類の導電性ナノシート(K-RuO2,Na-RuO2,K-IrO2,還元型酸化グラフェン)のTHz領域における電磁応答特性を調べ,新規THz光学デバイスへの応用性を検討した。THz領域における透過率を測定し,シートインピーダンスを算出した結果,K-RuO2はTHz領域において比較的高い導電性を示すことが示された。K-RuO2ナノシート膜は波長に対して非常に薄い領域にTHz波を吸収させることができるため,THz領域の薄膜吸収体として応用が期待できる。一方,メタマテリアルへの応用について検討した結果,導電率が最も高いK-RuO2ナノシートでもメタマテリアル構造には適していないことが示唆された。
著者
伊藤 菊一
出版者
岩手大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

植物は哺乳動物とは異なり、自らの体温を調節することなく、外界の気温と共にその体温が変動するものと考えられてきた。ところが驚くべきことに、ある種の植物には、自ら発熱し、体温を調節するものが存在する。本研究においては早春に花を咲かせる発熱植物である「ザゼンソウ」に着目し、本植物の熱産生に関わるシステムを明らかにするための研究を行った。はじめに群落地および人工気象室におけるザゼンソウの発熱変動データーを収集し、肉穂花序の恒温維持に関わる特性を検討した。その結果、ザゼンソウの肉穂花序は約60分を1周期とする体温振動を示すことが明らかになった。興味深いことにこの体温振動は、外気温の変動を原因とする体温の変化により引き起こされ、しかも、この体温振動が誘導されるための体温変化の閾値は0.3℃であると見積もられた。植物界でこのような微少温度変化を認識し、恒温性を維持できる生体応答システムはザゼンソウ以外には報告がない。この研究成果は、2001年夏に米国で開催されたアメリカ植物生理学会年次総会で招待講演を行った。次に、このザゼンソウに特徴的な体温振動過程における発熱関連遺伝子のmRNA発現量について検討した。発熱関連遺伝子としては、哺乳動物で非ふるえ熱産生の原因遺伝子であることが明らかになっている脱共役タンパク質(uncoupling Protein : ucp)のザゼンソウホモログ、および、植物の発熱原因遺伝子であるとされているシアン耐性呼吸酵素(alternative oxidase : aox)遺伝子をターゲットとした。特にaox遺伝子は従来ザゼンソウ肉穂花序より単離されておらず、本研究においてその単離を行った。ノーザン解析により、肉穂花序の体温振動過程におけるucpおよびaox遺伝子の発現を調べたところ、それぞれのmRNAの蓄積量には大きな変動がなく、体温の変動は発熱関連遺伝子の転写レベルでは調節されていないことが推察された。