著者
高木 絢加 武田 一彦 御堂 直樹 駒居 南保 山口 光枝 永井 成美
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.49-58, 2013 (Released:2013-05-23)
参考文献数
32
被引用文献数
4 3

【目的】温かい飲食物摂取後の,「体の温かさ」や体温の変化を検討した報告は少ない。本研究の目的は,温度の異なるスープをサンプルとして,飲食物の温度が摂食者の主観的温度感覚と深部・末梢体温に及ぼす影響を調べることである。【方法】前夜から絶食した若年女性20名に,異なる日の朝9時に,65°Cスープ摂取,対照として 37°Cスープ摂取,スープ摂取なし(ブランク)の3試行をランダムな順序で実施した。26°Cの実験室で検査衣を着用した安静状態の被検者の,サンプル摂取10分前から摂取65分後までの主観的温度感覚,深部体温(鼓膜温),末梢体温(手先温,足先温),心拍数を測定した。スープ摂取後には嗜好調査を実施した(大変おいしい[10点]~大変まずい[0点])。【結果】嗜好得点は,65°Cスープでは37°Cスープより有意に高かった。摂取後の鼓膜温,足先温,心拍数の変化量は,65°Cスープ, 37°Cスープ,ブランクの順に高値で経時変化した(Sample effect, Sample×Timeとも有意)。各測定時点の多重比較からは,65°Cスープでは,主観的温度感覚は摂取直後で 37°Cスープやブランクと比べて有意に高値であること,鼓膜温は摂取20分後まで,足先温は摂取15分後まで 37°Cスープと比べて有意に高値であることが示された。【結論】37°Cスープとの比較から,65°Cスープ摂取後の鼓膜温や足先温の上昇はスープの温度の影響を受けていると考えられた。3試行の結果から,飲食物に含まれるエネルギー基質や美味しさなどの要因に加え,飲食物の温度自体も主観的温度感覚や体温に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
五十嵐 正博 中谷 龍王 林 昌洋 中田 紘一郎 粕谷 泰次
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.826-829, 2002-11-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
7
被引用文献数
1

Moelleringのノモグラム (ノモグラム) によるvancomycin (VCM) の初期投与設計は, 目標平均血中濃度が約15μg/mLとなるため, ピーク濃度が中毒濃度に達することはほとんどない。本研究では, ピーク濃度とトラフ濃度の2点およびトラフ濃度1点だけの測定値を用いたBayesian法の予測精度を比較し, 日常診療でのVCM血中濃度測定をトラフ濃度のみにすることが可能であるかを検討した。対象としたのは, 1995年4月から2000年7月までtherapeutic drug monitoring業務を行った30症例のデータである。トラフ濃度1点だけによる予測精度は, トラフ濃度 (n=12) においてmean prediction error (ME)=-4.08μg/mL, mean absolute prediction error (MAE)=4.44μg/mL, root mean squared prediction error (RMSE)=5.42μg/mL, ピーク濃度 (n=11) においてME=2.87μg/mL, MAE=7.04μg/mL, RMSE=8.89μg/mLであり, ピーク濃度とトラフ濃度の2点による予測精度は, トラフ濃度 (n=12) においてME=-3.30μg/mL, MAE=3.90μg/mL, RMSE=4.93μg/mL, ピーク濃度 (n=10) においてME=0.57μg/mL, MAE=5.03μg/mL, RMSE=6.74μg/mLとなった。この両者における予測精度の差はトラフ濃度で1μg/mL未満, ピーク濃度で3μg/mL未満とわずかで, 有意差はなかった。したがって, VCMの最大投与量が要求される重篤なMRSA感染症などの症例を除けば, 日常診療におけるVCMのTDMはトラフ濃度だけの測定により適切に実施できることが明らかとなった。
著者
三宅 邦夫 久保田 健夫
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.21-25, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
34

遺伝的・環境的要因による調節機構の破綻が神経発達障害の発症や病態に関与していることが知られている。エピジェネティックな遺伝子発現機構の中心分子をコードする MECP2 はレット症候群の原因遺伝子であるだけでなく,自閉症や成人精神疾患にもかかわることがわかってきた。また,これらの病態に神経細胞とともにグリア細胞も関与していることが判明し,これらの患者から作製された iPS 細胞を用いた治療薬開発研究も盛んになりつつある。さらに妊娠中の喫煙や飲酒,残留性有機汚染物質の曝露によって生じた胎児の DNA メチル化異常が,自閉症や注意欠陥 / 多動性障害などの発達障害の発症要因となりえることも明らかにされつつある。このようなエピジェネティックな変化には可逆性があることから,これを修復する薬物よる治療法の確立が期待されている。
著者
山田 昌弘
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.13-22, 2005-02-28 (Released:2010-02-04)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

家族は必要かという問いかけには, 多様な意味が含まれている。そこで, 個人にとっての必要性のレベルとして, 「意味」と「機能」の二つに分けて考える。特に, 現代社会においては, 機能上の欲求に還元できない, 家族に関わる意味上の欲求 (アイデンティティ欲求) を考察しなければならない。第一の近代・家族においては, 機能上の欲求とアイデンティティ欲求が結合されていた。それは, 「家族の機能的な欲求を充足することが, アイデンティティ欲求を充足させることになる」という形をしたイデオロギー (家族神話) によって, 維持されていた。しかし, 第二の近代の進行とともに, 個人化が進展し, あらゆる家族に関する規範や神話が批判にさらされる。家族神話が失われれば, 家族に関する不満が一気に噴出し, 家族に関わる欲求充足が「市場競争」にさらされることになる。その結果, 家族によるアイデンティティ欲求が満たせない人々, 機能的欲求が満たせない人々が出現する。
著者
深見 開 深潟 康二 平 邦彦
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
流体工学部門講演会講演論文集 2019 (ISSN:24242896)
巻号頁・発行日
pp.OS8-01, 2019 (Released:2020-07-25)
被引用文献数
4 4

We use machine-learning-based super-resolution analysis to reconstruct high-resolution flow field data from grossly coarse low-resolution data, for three-dimensional fully developed turbulent channel flow at Reτ = 180. The training data is obtained by three-dimensional direct numerical simulation (DNS). We use an average pooling operation used commonly in image tasks, to prepare the coarse input data set. As a machine learning model, the hybrid downsampled skip-connection multi-scale (DSC/MS) model based on convolutional neural network is utilized in this study. Remarkable about this model are its robustness against rotation/translation of the flow images and its ability to consider multi-scale property of turbulence. The super-resolved flow fields recovered through the proposed machine learning model are in agreement with the reference DNS data in terms of velocity color distributions, root mean squared values of velocity fluctuations and L2 error norm defined as the difference between the reference DNS data and super-resolved flow field. The maximum wavenumbers of streamwise and spanwise energy spectrum recovered by machine learning are increased by the super-resolution reconstruction. The proposed method holds great potential for various applications in experimental and numerical situations to handle the fluid big data efficiently, e.g., PIV measurements and subgrid-scale modeling of large-eddy simulation.
著者
御堂 直樹 仰 暁清 池田 浩二
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.182, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】温かいスープはそのエネルギー量から予測される以上の満腹感をもたらすことが報告されている。その要因としては、品温、風味、粘度、油脂量等が複合的に関与していると考えられるが、明確になっていない。本研究では要因の1つと推測される品温に着目し、満腹感との関連を評価した。品温から受ける感覚は、夏と冬では異なると考えられることから、季節の違いについても併せて検討した。【方法】健常な成人16名(男性7名、女性9名、28.6±5.8歳)を対象とし、異なるサンプルは別の日に評価するクロスオーバー法にて評価を実施した。サンプルは、市販の粉末キノコスープ1食を150 mlの熱湯に溶かし、65℃(温スープ)または10℃(冷スープ)まで冷却したものとした。対象者にはスープを朝食の代わりに摂取してもらい、Visual Analog Scale (VAS)により、官能、満腹感、食欲および満足感の評価を行った。同様の評価を、夏(室温28.0±0.0℃、外気温28.8±2.6℃)と冬(室温17.3±1.3℃、外気温0.4±0.7℃)に実施した。【結果】夏の評価では、温スープと冷スープによる満腹感は摂取直後に上昇し、徐々に低下するという同様の推移を示し、双方の間で有意差は認められなかった(直前9.4±3.3 vs. 8.1±2.5 mm、直後53.5±7.2 vs. 56.3±7.2 mm、30分後32.6±6.0 vs. 37.4±6.1 mm、60分後15.5±4.8 vs. 14.9±4.0 mm)。一方、冬の評価では、温スープは冷スープに比べ、摂取直後および30分後の満腹感が有意に高かった(直前10.0±3.4 vs. 7.1±1.7 mm、直後61.5±7.4 vs. 50.3±6.6 mm、30分後40.3±6.7 vs. 29.0±5.1 mm、60分後15.5±4.7 vs. 15.2±4.6 mm)。満足感についても同様の傾向が認められており、満腹感または満足感を目的変数、官能評価各項目を説明変数とした重回帰分析の結果、摂取30分後の満腹感や満足感はおいしさと相関した。従って、季節に合った品温のスープのおいしさが、満腹感や満足感をもたらす要因の少なくとも1つであると考えられた。
著者
玉置 勝司 石垣 尚一 小川 匠 尾口 仁志 加藤 隆史 菅沼 岳史 島田 淳 貞森 紳丞 築山 能大 西川 洋二 鱒見 進一 山口 泰彦 會田 英紀 小野 高裕 近藤 尚知 塚崎 弘明 笛木 賢治 藤澤 政紀 松香 芳三 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.369-386, 2013 (Released:2013-11-14)
参考文献数
22
被引用文献数
4 3

難症例の1つに咬み合わせ異常感や違和感があり,その訴えに対応する客観的所見が確認できない症例に遭遇することがある.通常,咬合紙,ワックス,シリコーンなどを用いて確認はするものの,咬合接触状態に特に異常は見つからない.さらに,患者の咬合に関する執拗な訴えに対して歯科医師が患者に問題の部位を確認してもらい,患者の指示により咬合調整を行ってしまうといった患者の感覚主導型治療に陥ってしまうことがある.その結果,患者の訴えは改善しないばかりか,逆に悪化することもさえもある.そして,患者と歯科医師の信頼関係が壊れ,思わぬ方向に陥ってしまうことも珍しくない. このような患者が訴える咬合に関する違和感に対して,社団法人日本補綴歯科学会,診療ガイドライン委員会において,平成23年度「咬合感覚異常(症)」に関する診療ガイドラインの策定が検討された.診療ガイドラインの策定に際し,委員会の作成パネルによるガイドライン策定を試みたが,咬合感覚異常(症)に関する十分に質の高い論文は少なく,診療ガイドラインの作成には至らなかった.そこで,本委員会のパネルで協議した結果,「咬合感覚異常(症)」に対する日本補綴歯科学会としてのコンセンサス・ミーティングを開催して本疾患の適切な呼称の検討を行った.また事前のアンケート調査結果から,このような病態を「咬合違和感症候群(occlusal discomfort syndrome)」とした. 今回のポジションペーパーは,今後の診療ガイドラインの作成とそれに対する研究活動の方向性を示す目的で,過去の文献と咬合違和感症候群患者のこれまでの歯科治療の経過や現在の状況について実施した多施設による患者の調査結果をもとに作成された.
著者
松本 俊彦
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.133, no.6, pp.599-615, 2013-06-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
26
被引用文献数
3 6

In Japan, a national countermeasure has been forwarded since the enactment of the Basic Act on Suicide Countermeasures in 2006 and the Comprehensive Suicide Prevention Initiative in 2007. The distinctive policy of the Japanese countermeasure is expressed as the word, “comprehensive,” which means that suicide prevention may not only be carried out only by mental health measures but also by comprehensive measures including chance of administrative practices. This policy is proper, although mental health measures appear to be too simple inclining to psychiatric treatments for the classic type of “depression” by a pharmacotherapy. The authors have insisted that mental health measures including psychiatric treatments are also required to be more comprehensive. This paper describes that benzodiazepine (BZ)-abuse problems including overdosing by suicidal intents have got worse recently as psychiatric clinics have increased and most of BZ abusers obtain the abused drugs form psychiatrists. This current situation indicates that pharmacists need to monitor psychiatrists' prescribing behavior and qualities of psychiatric treatment is required to be refined, suggesting pharmacists may be one of the “Gate Keeper,” as supporting resources for suicide prevention. Additionally, this paper explained that basic attitudes and responses acquired by pharmacists as a supporter for suicide prevention.
著者
赤羽 由起夫
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.104-118, 2012-10-31 (Released:2017-03-31)
被引用文献数
2

本論の目的は,少年犯罪と精神疾患の関係の語られ方の内容とその歴史的な変遷の分析を通じて,1990年代以降の少年犯罪の医療化の特徴を明らかにすることである.そのために本論が分析資料として用いるのは,終戦から現在までの『朝日新聞』,『毎日新聞』,『読売新聞』の縮刷版から選出した精神疾患に言及のある少年犯罪の記事,および精神疾患についての記事である.分析の結果,明らかになった知見は,次の三点である.第一に,終戦から1970年代までに少年犯罪と関係づけられて語られた主な精神疾患には,精神分裂病,精神病質,精神薄弱,ノイローゼがある.第二に,1990年代以降に少年犯罪と関係づけられて語られた主な精神疾患には,行為障害と発達障害がある.第三に,1990年代以降の少年犯罪の医療化の背景には,第一に,精神疾患が指摘されやすい「普通の子」による少年犯罪が社会問題化したことと,第二に,教育問題までも包含する精神疾患として行為障害と発達障害の概念が登場したことがあげられる.
著者
甲斐 智大
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.95-111, 2023 (Released:2023-10-03)
参考文献数
22

2022年度から新学習指導要領に基づき,高等学校において必修科目「地理総合」の実践が始まっている。これまで高等学校で実施されてきた教科「地理」では知識理解に重点がおかれてきた。それに対して「地理総合」では地図などを活用した「知識活用・課題解決」的な学習が強く要求されている。そこで,地理教員の不足を鑑み,地理関連学会では高等学校の教員に向けた支援コンテンツ拡充の試みが展開されている。しかし,一連の支援コンテンツは一部の教員と研究者によって拡充されており,必ずしも高校生や「地理総合」を担当しうる教員の地理に対する理解・認識や実態を踏まえたものではない。そこで,本稿では高校生および高等学校教員の地理や地図に対する認識について検討した。その結果,中学生時代に地図帳を活用した経験を持つ者は限定的であり,地図を用いた考察に対して苦手意識を持つ者が目立つことを示した。そのうえで,こうした状況にある生徒に対して「地理」を指導することになる教員の実態について検討すると,彼らの理解度も低く,なかでも現代的課題に関する理解度はとりわけ低いことが示された。こうした実態を踏まえると,新学習指導要領が要求する目標を達成するためには,一部の教員による地理専門教員に向けた支援コンテンツの拡充に加えて,地理の基本事項や,地図を用いた考察を前提とした主題や問の設定のための支援が求められることが明らかとなった。
著者
米谷 民明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.113, 2020-02-05 (Released:2020-08-28)

追悼藤井保憲先生を偲ぶ
著者
Teruhisa Kinoshita Shoko Sahara Tomomi Amano Masashi Ito Takashi Sakakibara Norio Takimoto Yukari Osada Keisuke Oka
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.62, no.19, pp.2919-2922, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

We herein report a case of peritoneal dialysis-associated peritonitis caused by Lysinibacillus sphaericus in a 40s-year-old patient. Treatment was initiated with intermittent intraperitoneal cefazolin and ceftazidime. Later, both peritoneal dialysate and blood cultures detected L. sphaericus, so the antibiotic was changed to ampicillin (ABPC). The patient was treated with a combination of intraperitoneal intermittent and intravenous ABPC for 7 days, followed by 14 days of amoxicillin. The patient experienced no adverse events and no recurrence for 30 days. The patient had four dogs, and the infection was deemed likely to have been caused by environmental contamination and inadequate catheter replacement.
著者
中島 英彰
出版者
公益社団法人 日本ビタミン学会
雑誌
ビタミン (ISSN:0006386X)
巻号頁・発行日
vol.94, no.9, pp.469-491, 2020-09-25 (Released:2021-09-30)
被引用文献数
1

ビタミンDは、血中のカルシウム及びリン酸濃度の維持及び骨密度の維持を司っているが、2000年代以降、最近の日本人の特に若年女性の間で深刻なビタミンD欠乏が問題となってきている。ビタミンDは通常の生活において、魚やキノコなどの食物から摂取するほかに、日光浴による太陽紫外線照射によって、肌で生成することが可能である。1日に必要なビタミンDを産生することのできる日光浴時間に関して、これまで各機関や学会等は大まかな目安を示すにとどまり、緯度や季節、時刻によって大きく異なる紫外線強度に対応した最適な日光照射時間の目安を示すことは必ずしもできていなかった。我々は、放射伝達計算モデルSMARTS2を用いた計算により、ある場所・日時での地表に到達する太陽紫外線強度E (λ) を、280-400 nmの波長範囲で1 nm間隔に計算を行った。このようにして求まった地上に到達した波長別紫外線強度E (λ) に、国際照明委員会(Commission internationale de l’éclairage: CIE)によるビタミンD生成紫外線作用スペクトル曲線で示される相対影響度 SVitD (λ)を乗じ、紫外線領域で積分することにより、ビタミンD生成紫外線量 IVitD (W/m2)を求めた。これに、過去の文献で示された単位UV-B照射によって皮膚で生じるビタミンD生成係数を乗じることにより、人体で生成すると想定されるビタミンD量を求めた。さらに、1日に必要なビタミンD生成量を10 μgと仮定したときに必要となる日光照射時間を求めた。同様に、皮膚に紅斑を生じさせる最少紅斑紫外線量(1 MED: Minimal Erythemal Dose) IEry (W/m2)に達する日光照射時間ついても計算で求めたところ、長そで(600 cm2の皮膚を露出)で日光浴をし、10 μgのビタミンDを生成するのに要する時間の約3倍であることを突き止めた。今回の計算によって求められたビタミンD生成量や日光照射時間、1 MEDに達する時間等の計算結果は、「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」というHPから、日本11か所において実際の紫外線観測データをもとに、準リアルタイムで情報提供を行っている(https://db.cger.nies.go.jp/dataset/uv_vitaminD/ja/index.html)。これらのデータを参考に、各季節各地点でふさわしい時間の日光浴を行うことが、健康な生活を送るうえで推奨される。
著者
町田 昌彦 岩田 亜矢子 山田 進 乙坂 重嘉 小林 卓也 船坂 英之 森田 貴己
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.12-24, 2023 (Released:2023-01-18)
参考文献数
54

We estimate the inventory of tritium in two sea areas corresponding to coastal and offshore ones around Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (1F) on the basis of the measured seawater tritium concentrations monitored constantly from 2013 to Jan. 2021 by using the Voronoi tessellation scheme. The obtained results show that the offshore area inventory and its temporal variation amount correspond to approximately 1/5 and 1/50 of that of the treated water accumulated inside 1F, respectively. These results suggest that the amount of tritium included in seawater as the background is non-negligible in evaluating the environmental impact of releasing the accumulated treated water into the sea area. We also estimate the offshore area inventory before the 1F accident and find that it had exceeded the 1F stored inventory over 30 years from 1960s to 1980s, being approximately 4 times larger in the peak decade 1960s. This finding means that we had already experienced more contaminated situations over 30 years in the past compared with the conservative case emerged by just releasing whole the present 1F inventory. Here, it should also be emphasized that the past contamination situation was shared by the entire world. We further extend the estimation area to include the offshore area from Miyagi to Chiba Prefectures and find that the average area inventory is now comparable to half the present 1F inventory. Finally, we estimate the internal dose per year by ingesting fishes caught inside the area when the 1F inventory is added only inside the area and kept there for one year. The result indicates that it approximately corresponds to 1.0 × 10−6 of the dose from natural radiation sources. From these estimation results, we find that all the tritium inventories stored inside 1F never contribute to significant dose increment even when it is instantly released into the area.
著者
妻木 進吾
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.489-503, 2012-03-31 (Released:2013-11-22)
参考文献数
26
被引用文献数
4 4

本稿の目的は, 大阪市の被差別部落A地区で実施した調査に基づき, この地域の再不安定化プロセスとその要因について検討することを通して, 貧困や社会的排除現象の解明と対応策の構想に, 地域という変数が欠かせないことを示すことである.貧困と社会的排除が極端に集中していたA地区の状況は, 長期にわたる公的な社会的包摂事業によって大きく改善した. しかし, 事業終結後, アファーマティブ・アクションとしての公務員就労ルートが廃止され, その時期が日本社会の雇用不安定化の時期と重なっていたこともあり, 若者の就業状態はふたたび不安定化した. 安定層の地区外流出と不安定層の流入という貧困のポンプ現象がこうした傾向に拍車をかけた.貧困層の集積は, それ自体がさらなる機会の制約となる. 被差別部落では, かねてから貧困が地域的に集積していたことによる履歴効果, そして当事者運動が引き出した公的事業の意図せざる帰結として, 個的な生活向上・維持戦略の定着を阻む生活文化が存在し, 達成モデルも限定されてきた. 地区内の「なんとかやり過ごす」ネットワークは事業終結と担い手の流出によりその機能を弱体化させている. 貧困・社会的排除は地域的に集積し, 地域的に集積したそれらはマクロな社会変動や政策, さらには階層・階級文化などには回収されない固有の機制として, 貧困のさらなる集積や深化をもたらしていく.