著者
小林 俊秀 村手 源英 石塚 玲子 阿部 充宏 岸本 拓磨
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

生体膜に於いて脂質はランダムに配列しているのではなく、脂質二重層の内層と外層の脂質組成は異なり、内層のみ、外層のみをとっても特定の脂質がドメインを形成している。しかし生体膜における脂質の詳細な分布状態はほとんど明らかになっていない。私たちは特定の脂質、あるいは脂質複合体や脂質構造体に特異的に結合するプローブを開発するとともに、それらのプローブを用い、超高解像蛍光顕微鏡、免疫電子顕微鏡法等さまざまな顕微鏡手法を用いて、脂質ラフトをはじめとする脂質ドメインの超微細構造を解析し、また細胞分裂や細胞接着等や種々の病態における脂質ドメインの動態を併せて観測することにより脂質ドメインの機能の解明を試みた。
著者
大澤 陽介
出版者
東京都立駒込病院(臨床研究室)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

スフィンゴ脂質シグナルは種々の細胞機能に関与している。そこで、大腸がんの肝転移モデルをマウスで作成し、スフィンゴ脂質を調節する酸性スフィンゴミエリナーゼの役割を解析した。酸性スフィンゴミエリナーゼは腫瘍のマクロファージを増加させることにより抗腫瘍効果を示すことを見出した。この効果は、悪性黒色腫の肝転移モデルでも認められた。また、肝臓内のマクロファージは肝線維化や原発性肝細胞癌に対してもβカテニンシグナルを介して重要であることを見出した。スフィンゴ脂質はマクロファージの機能を調節しており、種々の病態の治療標的になりうることが示唆された。
著者
村山 絵美
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究課題は、ユタの「口寄せ」に注目し、「死者の声」を聞くと観念される行為が、依頼者のグリーフワークに与える影響について検討することを目的とするものである。平成26年度は、最終年度であるため、過去2年間の研究成果を踏まえた上での追加調査に重点が置かれた。具体的には、①平成26年6月に実施したフィールド調査、②追加資料の文献調査が挙げられる。まず、フィールド調査では、これまでに聞き取り調査を実施した関係者に、追加での聞き取りを行い、不明箇所を確認することができた。また、沖縄戦の慰霊の日である6月23日に、これまでの調査対象者に関連する慰霊祭に参加し、参与観察を行った。文献調査では、継続的に調査を行ってきた沖縄県立図書館郷土資料室を中心に追加調査を実施した。これにより分類作業のなかで明らかとなった不明箇所を確認することができた。今年度はフィールド調査、文献調査共に予定していた追加調査を実施することができたが、調査結果をまとめる予定であった後半の期間に療養を要する事態となり、これまでの成果を十分にまとめることができなかった。回復を待って、今後、随時成果をまとめ、公表していきたい。本研究課題の調査を通して、沖縄の戦後におけるユタの「口寄せ」に関する社会的な需要の状況を確認することができた。体系的な資料の整理などは、沖縄のシャーマニズムと近代化との関係を考える上でも、重要な成果といえる。ユタと依頼者とのやり取りのなかで「口寄せ」などのグリーフワークの役割を検討した研究は少ないため、研究の端緒を開くことができた意義は大きい。
著者
山本 寛 長瀬 隆英 新藤 隆行
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

Adrenomedullin(AM)ヘテロ接合体ノックアウトマウス(AMKO)とその同腹子(野生型)を用いてOvalbumin(OVA)腹腔内投与により感作した喘息モデルマウスを作製した。対照群には生理食塩水の投与を行った。マウスを麻酔・人工換気下におき気道内圧、気流を測定し、肺抵抗、肺コンプライアンスを算出した。気道反応性を評価するためメサコリン(MCh)吸入負荷を施行した。その結果、AMKOマウスにおいて有意に気道過敏性が亢進していることが判明した(EC200RL : saline-treated・AM^<+/+>, 16.81±2.01mg/ml ; saline-treated AM^<+/->, 16.73±2.34mg/ml ; OVA-treated・AM^<+/+>, 7.95±0.98mg/ml ; OVA-treated AM^<+/->, 2.41±0.63*mg/ml, respectively, *P<0.05 vs. the other groups)。MCh負荷前後の組織AM濃度を検討したところ、AMKO群ではMCh負荷後のAM濃度が有意に低く、組織AM濃度の不足が気道反応性の亢進に関与している可能性が示唆された。また、肺組織の形態学的解析を行ったところ、OVA感作AMKO群では野生型群と比較して有意に気道内腔が狭窄しており、気道周囲の平滑筋層の面積の増加、気道上皮細胞層の面積の増加もあわせて認められた。したがって、AMの不足が何らかの機序で気道周囲の平滑筋を腫大・増生させたり気道上皮細胞を膨化させるため、結果として気道内腔が狭窄すると考えられた。なお、気道周囲の好酸球浸潤の程度、気道分泌・杯細胞増生の程度、TH1、Th2系サイトカイン、ロイコトリエンについても検討したが、AMKO群と野生型群の間に有意な差は認められなかった。
著者
佐々木 淳
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

Self-practice/Self-reflectionプログラム(SP/SR)とは、認知行動療法の新しいトレーニング法である。自らの問題に対して認知行動療法の技法を使って取り組み(Self-practice)、そのプロセスを振り返って記述する(Self-reflection)ことによって、スキルの知識や技法の習熟だけでなく、体験的理解が促され今後に生かすべきことを自分で見つける省察力が育まれることが明らかになっている。本研究では、SP/SRプログラムの日本語版を確定し、心理職のトレイニーの省察力がこのプログラムによって高まるかを確認する。
著者
庄司 優 保嶋 稔
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

遺伝子多型の分布には人種差があり高血圧連鎖連関研究への影響が無視できない。すなわち、研究対象によりその病態的意義が異なる可能性がある。その理由として遺伝子・遺伝子や遺伝子・生活習慣の間の相互関係の差の関与が推察されているが、この問題にいかにアプローチしていくかについてこれまで明確な方向性は打ち出されていない。一方、分子人類学におけるヒト系統樹マーカーの研究が進んでいる。特にミトコンドリアとY染色体の多型が各々母系と父系のマーカーとして重視されている。本邦においてはY染色体Alu反復多型(YAP)Alu挿入が縄文系由来を、Alu欠失が弥生系由来を示唆すると考えられている。ある集団のある遺伝子多型に片寄りを認める場合、ヒト系統樹マーカーと連鎖している可能性が仮定できる。そこで本研究では青森県下16市町村より無作為に抽出し本研究に同意の得られた男性303例を対象とし、この仮説を検証した。YAP Alu挿入型は対象の約38%で、本州の他の地域の報告と差は認められなかった。高血圧感受性マーカーとして重要な遺伝子多型とYAPの連鎖の有無について検討したところ、YAPのAlu挿入型とAlu欠失型において、15遺伝子多型中3遺伝子多型(内皮型一酸化窒素合成酵素4b/a多型、アルデヒド脱水素酵素-2 Glu487Lys多型、ミトコンドリアC16223T多型)の遺伝子型で分布の差が認められた。さらに、香港大学との協同研究を行い、香港男性ではYAPのAlu欠失型が殆どであることと、内皮型一酸化窒素合成酵素4b/a多型のa対立遺伝子が偏在していることを確認した。また、YAP自体と高血圧とは連関を認めなかったが、内皮型一酸化窒素合成酵素4b/a多型とはYAPのAlu挿入型でのみ連関を示した。今回の研究では3つの遺伝子多型がYAPと連鎖不平衡を示した。これらの多型は、YAPが出現した以降に発生しYAPと歩みを共にしてきた可能性が示唆される。また、ヒト系統樹マーカーによる対象集団の層別化が実現すると、連鎖連関研究の臨床的意義が一層明確になる可能性が期待される。
著者
花村 一朗 仁田 正和 飯田 真介 谷脇 雅史 後藤 麻友子 JOHN Shaughnessy
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヒト骨髄腫細胞株を用いた検討では、染色体1q21領域の増加/増幅の多くは1番染色体そのものまたは長腕の増多に伴って起きたものであり、jumping/tandem translocationといった複雑な転座様式をとったものは約30%であった。未治療MM例とは異なり細胞株においては1q21の増加の有無や増幅様式の差と、13q14欠失、17p13欠失、Ig領域との染色体転座で脱制御されるCCND1やFGFR3、c-MAF、MAFBなどとの間に有意な相関は認めなかった。このことは、細胞株は進行期の病変から樹立されることが多いためと思われるが、MMにおいて1番染色体長腕その中でも特に1q21は特異な領域であることが改めて示唆された。
著者
中田 光 井上 義一 中垣 和英 田澤 立之
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

エラー!平成18年度に引き続き、19年4月〜20年3月までは、特発性肺胞タンパク症(自己免疫性肺胞タンパク症)の末梢血及び気管支肺胞洗浄液中のマクロファージ、リンパ球のFACS解析を行った。末梢血では、リンパ球中でもT細胞とNK細胞の減少が見られた。サブセットではCD8陽性細胞が減少していた。CD4T細胞のうち、memory, effectorの数は減少していないが、naiveT細胞が減少していた。興味深いことにCD4T細胞の一部はautoMLRで増殖期に入っており、活性化していることが示唆された。CD19陽性B細胞では、B1cell, B2cellの割合は健常者と変わりないが、CD138陽性形質細胞の割合が上昇していた。単球では、CD86陽性細胞の割合は変わらないが、抑制性のシグナルに関与するPDL1の発現が低下していた。この低下は、単球をGM-CSF存在下で培養することで、回復した。以上のことから、本症では、抗GM-CSF自己抗体の存在により、単球マクロファージのPDL1の発現が低下し、抑制性のシグナル伝達障害により、T細胞の活性化やB細胞の成熟促進がおこるのではないかと思われる。一方、患者肺胞洗浄液では、リンパ球の増加が見られ、洗浄液中のMCP-1濃度と相関していた。また、抗GM-CSF自己抗体価とMCP-1濃度に相関が見られた。肺においては、GM-CSFシグナル伝達障害により、MCP-1濃度が上昇し、リンパ球の遊走と流入が起こると思われる。
著者
竹松 正樹 下 相慶 VOLKOV Y.N. 崔 ぴょん昊 羅 貞烈 金 くー 金 慶烈 蒲生 俊敬 磯田 豊 DANCHENKOV M GONCHAREKO I CREPON M. LI RongーFeng JI ZhougーZhe ZATSEPIN A.G MILLOT C. SU JiーLan 尹 宗煥 OSTROVSKII A 松野 健 柳 哲雄 山形 俊男 野崎 義行 大谷 清隆 小寺山 亘 今脇 資郎 増田 章 YUNG John-fung BYOG S-k. NA J.-y. KIM K.r. CHOI Byong-ho CREPON Michel 崔 秉昊 金 丘 オストロフスキー A.G YURASOV G.I. 金子 新 竹内 謙介 川建 和雄 JIーLAN Su FENG Li Rong FEI Ye Long YARICHIN V.G PONOMAREV V. RYABOV O.A.
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.本研究の特色は、研究分担者間の研究連絡・交流を促進し、研究成果の統合を図るに止まらず、研究課題に対する理解を格段に深めるのに必要な新しいデータセットの取得を提案し、実行することにある。実際、前年度の本研究主催の国際研究集会(福岡市)に於いて策定された計画に従い、平成6年7月に、日・韓・露の3国の参加を得て、日本海全域に亘る国際共同観測を実施した。この夏季観測では、海底までの精密CTD、化学計測、ドリフタ-の放流、測流用係留系(3本)の設置・回収と並んで、分担者の開発した特殊な曳航体を用いてクロロフィル、O_2、CO_2及び表層流速の測定が試みられた。特筆すべきは、日本海北部のロシア経済水域内の3点において、11ヶ月に及び長期測流データを取得したことである。これは、日本海誕生以来、初めて、日本海盆の中・深層の流動特性を明らかにしたもので貴重である。なお、現在、3本の係留計(うち1本にはセディメントトラップ付)が海中にあって測流中である。更に、冬期の過冷却による深層水の生成過程を調べる目的で、平成7年3月1日から、ウラジオストック沖において、3国共同観測が実施された。これは、次年度以降に予定されている本格的な冬季観測の準備観測として位置づけられている。2.現地観測による新しいデータセット取得の努力と並んで、室内実験に関する共同研究も活発に実施された。即ち、昨年度の研究集会での打ち合わせに従って、日・韓・露でそれぞれ冷却沈降過程に関する実験を進めるとともに、平成6年10月にはロシア・シルショフ研究所からディカレフ氏(研究協力者)を日本に招き、また、研究代表者が韓国漢陽大学を訪問し研究途中成果の比較検討を行った。この共同研究においては、特に、自由表面を確保する冷却(駆動)方法が試みられ、従来の固体表面を持つ実験と著しい差異があることを見出した。しかし、こうした実験結果を現実の沈降現象と結びつけるには、冬季における集中的現地観測の成果を持たねばならない。3.昨年1月の研究集会での検討・打合わせに従って、日・韓・仏・中・(米)の研究者により、日本海及び東シナ海域に関する数値モデル研究が共同で進められた。その成果として、東韓暖流の挙動(特に離岸現象)を忠実に再現できる新しい日本海数値モデルを開発するとともに、黒潮を含む東シナ海域の季節変動のメカニズムを解明するための数値モデル研究がなされた。4.夏季観測の際に放流したドリフタ-(アルゴスブイ)の挙動は韓国・成均館大学及び海洋研究所で受信され、衛星の熱赤外画像と高度計データは九州大学で連続的に収集された。こうした表層に関する情報を有機的に結合し、検討するため、平成7年1月に成均館大学の崔教授が九州大学を訪問した。5.以上の共同研究活動の全成果を多面的に検討し統合するために、平成6年11月7〜8日の2日間に亘り、韓国ソウル大学に於いて開催された国際研究集会に参加した。この集会には、日本・韓国・ロシアから、一般参加も含めて、約70名の参加者があった。参加者の専門分野が、海洋物理、化学、海洋工学及び生態学と多岐にわたっていることは学際性を標ぼうする本研究の特色を象徴するものである。アメリカからも2名の特別参加があり、本研究が口火を切った日本海及び東シナ海に関する学際的・国際的研究に対するアメリカの並々ならぬ関心が表明された。なお、ここで公表・検討された成果は、逐次、学術誌において印刷公表される予定である。過去2年に亘る本研究成果の総括もなされたが、そこでは、本研究が取得した新しいデータセットは、問題に解答を与えるというよりも、むしろ、新たな問題を提起する性質のものであることが認識された。そのため、最終セッションでは、提起された問題を解明して行くための今後の方策(主に現地観測)が詳細に検討された。
著者
岡林 孝作
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、遺物論的視点に立った古墳時代木棺研究の一つの試みとして、その製作材料である木材の樹種に注目した検討をおこなった。具体的には、古墳等から出土した遺存木棺材の木材科学的な樹種同定作業を進め、資料を蓄積するとともに、木材科学的な同定により樹種が判明した出土木棺材の調査例を全国的に集成し、用材選択の地域性・階層性と時期的変化を分析した。資料収集の結果、全国で165例の樹種同定例を集成した。針葉樹が91%、広葉樹が9%で、針葉樹が圧倒的に多い。なかでもコウヤマキの使用が突出しており、全体の51%を占めるが、その分布域が近畿地方を中心として西は岡山県から東は愛知県にかけての太平洋側の地域にほぼ限定されることが顕著な顕著な地域的傾向として認められる。その他の樹種としては、スギ、ヒノキがやや多く、カヤ、サワラと続くが、コウヤマキにみられるような明確な使用の選択性は認められない。近畿地方を中心とした地域では、前期〜中期にはコウヤマキの使用率が90%に近い高率を示す。コウヤマキの使用率は後期になると80%程度になり、6世紀末〜7世紀初頭頃を境にして選択的な使用はみられなくなる。この状況の要因は、コウヤマキ材の大量消費による資源の枯渇であったと考えられる。後期におけるコウヤマキ材の不足状態は、木棺自体の小型化や、部材の軽薄化、細長い板の接ぎ合わせ行為などから裏付けられる。コウヤマキ材の選択的使用地域の枠組みが古墳時代を通じて変化せず、その使用のあり方に一定の階層性も反映していることから、古墳時代にはコウヤマキ材を供給する何らかの木材移送システムが存在していた可能性が高い。また、6〜7世紀にはコウヤマキの自生しない朝鮮半島南部の百済王陵へ棺材としてのコウヤマキ材の供給もおこなわれており、そうしたシステムへの王権の関与を示唆する事実として興味深い。
著者
清水 暢子 松永 昌宏 長谷川 昇 梅村 朋弘 山田 恭子 望月 美也子 加藤 真弓
出版者
石川県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

医学的管理が充実している日本の高齢者であっても、認知症予備群から認知症へ移行する数は増加の一途である。一方、チェンマイ県での認知症罹患率は、日本の6分の1程度に留まっている。そこで本研究の目的は、タイ北部農村部とタイの都市部の高齢者、日本の北陸地方の農村部と都市部の高齢者の、認知機能面、身体機能面、社会生活面、栄養摂取面、精神心理面、保健行動面を評価し、その影響要因について、また、継続して3年間の認知機能経年変化値や脳血流量変化量を従属変数に、生活習慣や環境、社会背景を説明変数として何が認知機能の経年変化に影響を与えているかを比較検討することであった。日本側の農村部および都市部在住の高齢者の調査から、ミニメンタルステートテスト(MMSE)の値と言語流暢性課題と運動課題を同時に行う二重課題実施中の前頭前野の脳血流との間に有意な関連がみられ、近赤外分光法(NIRS)を使用した前頭前野血流変化量は認知機能低下の予測因子として重要な指標となり得ることが示唆された。また高齢者の宗教観および社会的孤立が認知機能に及ぼす影響についての調査結果から日本の都市部と農村部ではMMSEとMOCAの認知機能検査結果に違いはなかったが、農村部では信仰有りが有意に高く、「信仰の有無」、「高齢者のうつ」、「社会的孤立状態」は認知機能の経年変化の予測因子になり得ることが示唆された。一方、タイ,チェンマイ市内都市部と農村部の3か所の高齢者サロンに通所する高齢者へ、半構成的インタビューを中心に行った結果からは、「老いることの意味」について全員が「老い」をポジティブに受け止めていた。タイ高齢者の宗教心が老いへ向かう態度や日々の生活への態度にポジティブに関連している可能性があった。宗教的背景が他者とかかわる機会を持たせ、「人の役に立つ」ことを満たすために、高齢であっても孤立しない環境である可能性があった。
著者
大森 哲郎 井上 猛
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

視察法および赤外線センサー運動量測定装置を用いて移所運動や常同行動を観察し、覚醒剤反復投与による行動過敏性(逆耐性)形成のさいの、グルタミン酸の関与を行動学的に検討した。また覚醒剤大量投与時にみられるドーパミン(DA)やセロトニン神経変性のメカニズムを、DAとグルタミン酸の放出動態を指標に、脳内透析実験を用いて研究した。覚醒剤とNMDA受容体競合的拮抗薬の併用反復投与は、非競合的拮抗薬の場合と同様に、行動過敏性形成を阻止することを明らかにした。このことから行動過敏性形成におけるNMDA受容体の関与が一層明確になった。覚醒剤を大量投与すると、DA放出は線条体と側坐核の両部位で昂進するが、グルタミン酸放出は線条体のみで昂進することを示した。DA神経変性は線条体に限局するので、グルタミン酸放出の昂進はこれと関連する可能性がある。セロトニン神経変性は、両部位において等しく認められるので、グルタミン酸放出の昂進は直接には関連しないと思われる。NMDA受容体拮抗薬は、セロトニン神経変性もDA神経変性と同様に抑制するが、その作用点は今後の検討課題である。さらに、NMDA型グルタミン酸受容体刺激に引き続き細胞内では一酸化窒素(NO)の生成が促進され、これが生理的に重要な意味を有するという最新の知見に導かれて、一酸化窒素合成阻害薬が覚醒剤の急性行動効果や行動過敏性形成にどのような影響を及ぼすかについて検討した。その結果、急性行動効果については、移所運動促進作用および常同行動発現作用ともある程度抑制することを示した。また行動過敏性形成については、移所運動の過敏性には影響がないが、常同行動に関しては、いくぶん減弱させることを見い出した。以上の実験所見から、覚醒剤精神病の発現にグルタミン酸神経伝達が関与していることが示唆される。
著者
中井 泉 由井 宏治 阿部 善也 木島 隆康 星野 真人
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

色材の分析で最も信頼できる物質情報を与える、絵画分析に適した世界最先端のポータブル粉末X線回折計と、日本画の染料の分析に有用な光分析装置を開発した。その応用として小布施の北斎館に収蔵の葛飾北斎の浮世絵、男浪、女浪の実地分析を行って、色材の概要を明らかにし、成果はNHKでTV放映された。優れた回折計の開発により、ノルウエーのオスロ国立美術館に招待され、開発した回折計を用いて、世界的な名画、ムンクの「叫び」を分析しムンクが用いた色材について、重要な知見をえることができた。さらに放射光を使った絵画の透過イメージング法を開発し、大原美術館のマティスの絵を分析し、塗り込められた下絵を解き明かした。
著者
小野 紀明 堀田 新五郎 小田川 大典 藤田 潤一郎 森川 輝一 平野 啓一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

研究課題について、社会思想史学会で二度の「政治と文学」研究セッションを組織したほか(2008、2009年)、芥川賞作家の平野啓一郎氏をゲストに招いて「政治と文学」座談会を実施した(2010年)。また、それぞれのメンバーが研究課題についての個別研究を刊行した。代表的なものとして小野紀明『ハイデガーの政治哲学』(岩波書店、2010年)と森川輝一『〈始まり〉のアーレント』)岩波書店、2010年)が挙げられる。
著者
大石 了三 江頭 伸昭 伊藤 善規 江頭 伸昭 伊藤 善規
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ポリエン系抗真菌薬のアムホテリシンBは、腎細胞膜のコレステロールに結合してポアを形成し、細胞内へのNa^+流入ならびに、小胞体およびミトコンドリア由来のCa^<2+>上昇を引き起こすことで、腎細胞にネクローシスを引き起こすことが明らかとなった。加えて、アムホテリシンBによる腎細胞内のCa^<2+>上昇およびミトコンドリア機能障害には、MAPキナーゼの活性化が重要な役割を担っていることが明らかとなった。
著者
渡辺 伸一 飯島 伸子 藤川 賢 渡辺 伸一
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本報告書は、カドミウム汚染による健康披害、土壌汚染、農業被害に関する社会学的調査の研究成果をまとめたものである。カドミウム汚染は、他の重金属公害に比べて全国的に多発しているが、本調査では、中でも代表的な事例である富山県神通川流域、長崎県対馬佐須地域、群馬県安中碓氷川流域の3事例を対象とし、比較考察すると同時に、全国的状況の総合的把握を目指した。本調査は、イタイイタイ病(イ病)およびカドミウム中毒に関する公害史の試みの一つでもあるが、環境社会学的視点から、とくに、被害者、家族、地域住民、行政、医学者、研究者等の各主体による認識と対応、および、公害にかかわる被害の社会的増幅・拡大(被害構造)を、地域ごとの違いを含めて明らかにすることに留意した。報告書では、前半で富山イ病を中心とする全国状況の把握、後半の各章で各地域の歴史と現状をそれぞれ紹介する。カドミウム中毒は、骨への激甚な被害をもたらすが、より微量でもカドミウム腎症(近位尿細管障害)の原因となることが明らかになってきた。それは、土壌汚染やカドミウム汚染米等の農業被害の問題ともかかわる。そのためもあり、カドミウムによる健康被害をめぐる医学論争は、イタイイタイ病訴訟や「まきかえし」の時代から30年以上たつ現在も継続している。本調査では、この論争をめぐる社会的要因を探ると同時に、論争の背後での被害者への影響を確認した。
著者
村井 純子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

DNA複製の異常(複製ストレス)は、がん遺伝子の活性化やDNA障害型抗がん剤など様々な原因によって引き起こされ、遺伝子変異やがん化の促進、がんの薬剤耐性獲得の要因となる。よって、複製ストレスにさらされる細胞を排除することができれば、がんの発症、進展、再発の抑制が可能となる。近年、全く新しい複製ストレスの抑制因子として特定されたSchlafen 11(SLFN11)について、がん抑制遺伝子としての機能を細胞レベルと個体レベルで検証する。特に、マウスにSLFN11のホモログが見つかっていないことから、SLFN11の遺伝子導入マウスを作成し、がん抑制機能を研究する。
著者
佐藤 洋一郎 篠原 和大 浅井 辰夫 中村 郁郎 岡村 道雄 工楽 善通
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

日本各地の遺跡からは多量のイネ種子が出土しているが,その大半は黒化し炭化米と呼ばれている.故佐藤敏也氏が1960年代から1985年ころに収集した炭化米(これを佐藤コレクションという)を中心としてそれらの情報、とくに遺伝情報を1次資料化し,将来のデータベース化に備えようというものである.なお佐藤コレクションに含まれるサンプル総数は100万粒を超えるほど膨大なものであることがわかった.今年度はその最終年度であり、主にDNA分析に力を入れてまとめを行った.DNA分析を行った遺跡は全部で17遺跡(北海道から沖縄までの32都道府県にまたがる)で、そこから出土した計207粒の炭化米を研究に用いた.これら炭化米の多くは熱を受けて炭化したのではないことが外見上から確かめられた.DNA抽出はSSD法ないしはアルカリ法で行い,増幅はPCR法によった.その結果,古代の日本列島のイネのほとんどすべてがジャポニカであったこと,また約40%ほどの確率で熱帯ジャポニカの系統が含まれていることなどが明らかになった.熱帯ジャポニカは、場所、時期を問わず出土しており,当時の日本列島にひろく分布していたものと思われる.あわせて福岡市雀居遺跡から出土した炭化米はその220粒程度を対象に分析を行った.このうち12粒から,ジャポニカであることを示すDNA断片が増幅された.ただしそれらが熱帯ジャポニカであるか温帯ジャポニカであるかの判定はできなかった.