著者
岡本 幹三
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

診断技術の進歩と予後の改善によって多重がんの発生が増加しているが、多重がん患者の生存予後については余りわかっていない。今年度は、1979年から2003年までの25年間に亘る鳥取県がん登録資料を活用して単発がん患者と多重がん患者の生命予後について比較した。多重がん患者1,146名、単発がん患者15,022名について、罹患年齢、死亡年齢および第1がん罹患から死亡までの生存期間を求め、生存予後の比較はCox回帰による生存分析を用いておこなった。なお、多重がんの判定基準はIARC/IACRの規則に従い判定し、死亡票からの多重がんは除外した。その結果、多重がん患者は、第1がんの罹患年齢および死亡年齢とも単発がん患者に比して1歳弱高齢であった。第1がん罹患から死亡までの生存期間は、多重がん患者は4.3年で単発がん患者の2.8年に対して1歳弱長かった。Cox回帰による実測生存率曲線の比較では、10年生存までは、多重がん患者が単発がん患者より高い生存率を示し、その後第2がんの影響で逆転した。部位別には、特に直腸、胆嚢・胆管、膵臓、肺、前立腺で同様の傾向が観察されたが、食道、胃、結腸、肝臓、喉頭、乳房、子宮では顕著な違いは見られなかった。逆に皮膚、腎など、膀胱、甲状腺では単発がん患者が高い実測生存率を示した。以上の結果から、多重がん患者が単発がん患者より長生きすることが示唆された。おそらく、これは、第1がん罹患後の治療方法やライフスタイル(喫煙・飲酒)などによる影響が関与しているものと思われる。今後は、これらの点について検討していきたい。
著者
濱田 季之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

世界最大規模で発生している魚毒食中毒であるシガテラの予防ならびに治療を目的として、薬用植物、海洋無脊椎動物、海藻からのシガテラ解毒物質の探索を行った。マレーシア産海綿から有機化学的手法を用いて分離・精製を行い、5種類のブロモピロール類縁体を単離した。沖縄産キダチトウガラシCapsicum frutescens L.から5種類のカプサイシン類縁体を単離した。6種類の合成物を加えた11種類のカプサイシン類縁体と一緒にシガテラ解毒活性試験を行い、構造活性相関を行った。さらに、紅藻由来のブロモインドール化合物について、構造活性相関研究を行った。
著者
白濱 正博
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

植物由来接着剤(以下バイオボンド)を用いて、骨に対する生体親和性を立証し、世界初の骨接合用の接着剤としての可能性を検証する研究を行った。接着剤としてバイオボンドは生体親和性に優れ、炎症反応はコントロールと全く変わらない結果であったが、親水性に乏しく血液や浸出液が骨とボンド間に侵入すると接着力が著しく低下し、骨折治療に耐えうる程の固定力は得られなかった。バイオボンド自体に親水基を付加する改良も加えたが、接着性自体も低下し実用化は難しいと考えられた。
著者
高橋 徹
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

能動的低代謝とは、一部の哺乳類が故意に基礎代謝を低下させる現象である。能動的低代謝は冬季や飢餓を生延びるための省エネルギー生存戦略であり、継続期間によって冬眠(数週間)と休眠(数時間)に分類される。冬眠ではリス、休眠ではマウスが代表動物である。これら安全な低代謝の原理を理解し人為的に医療応用できれば、重症患者の一時的延命などが実現し得る。しかし、冬眠・休眠が誘導される仕組みは全く不明なままである。基礎代謝(生命活動維持に最低限必要な代謝)の可逆的な抑制というこの驚異的な現象は、いかにして成されるのか。本研究ではその誘導中枢が脳に存在すると仮説し、冬眠・休眠の神経経路・誘導因子特定を目指す。
著者
志水 泰武 椎名 貴彦
出版者
岐阜大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、細胞保護作用のある低温ショックタンパク質CIRPに着目し、冬眠動物での発現調節機構を解明することを目的とした。冬眠動物であるハムスターの主要臓器において、平常体温時にPCR法で3本のバンドとして増幅されるCIRP mRNAが冬眠中には1本となること、このような選択的スプライシングは冬眠準備期ではなく体温低下期に起こった。スプライシング調節は、人為的な低体温でも確認できた。非冬眠動物(ラットとマウス)においてもCIRPのスプライシング調節が起こり、低体温に誘導できた。これらの成果は、冬眠の有用な特性を医療応用する基盤となると考えられる。
著者
桜井 武
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

応募者らが新たに見出した、脳内の視床下部に局在する神経細胞群は、人工的に興奮させるとマウスを冬眠様の状態にすることが可能である。その神経回路網や、低体温、低代謝を誘導するメカニズムを明らかにし、将来的に冬眠状態を医療に応用するための技術を開発する基礎的なデータを得る。
著者
大野 眞男
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

近代日本の国語政策をG.Thomasによる純化論の観点から類型化した上で、明治期の国語調査委員会及び文部省による標準語政策は第一次世界大戦前のヨーロッパの帝国的国家語を志向した改革的純化論に当たるものとして位置づけられること、大正・昭和期以降の柳田国男を中心とする民俗研究における国語観は第二次世界大戦後のヨーロッパ新興国家の国語観を意識した民俗的純化論であったこと、さらに、標準語教育が破綻した学校教育現場で地域方言を郷土を象徴する教材としてとらえるようになったことを明らかにし、これらの民俗的純化論の姿勢が戦後の民主的な共通語政策の前提となっていったことを歴史的に明らかにした。
著者
小林 伸行
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の潜伏感染タンパクSmall protein encoded by the Intermediate stage Transcript of HHV-6(SITH)-1をマウスアストロサイトに発現させることでうつ様行動を引き起こした。その脳で遺伝子発現を調べたところ、炎症性サイトカインの変化はなかった。一方、気分障害患者では血液中炎症性サイトカインmRNA発現とうつ症状は相関を示した。以上より、中枢神経と末梢血での遺伝子発現は必ずしも一致せず、末梢での炎症反応が波及的に中枢神経に影響し、SITH-1発現を誘導することでうつ症状を引き起こす可能性が考えられた。
著者
猪井 新一 板垣 信哉 マホニー ショーン 吉田 孝
出版者
奥羽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、日本人英語教師(JTE)及び英語指導助手(AET)が協同して行うテイームテイーチング(TT)の背後には「教師の役割」や「英語教授・学習」に関して相対立する考え方(信念)が存在するという前提に立ち、両者の考え方の類似点・相違点を探り、JETプログラムの改善に向けて文部省に提案を行うことである。平成11年度はTTに関するアンケート作成、配布及び回収、データ入力を行った。平成12年度はデータの量的分析及び理論的枠組みを用いての質的分析を行い、分析結果を国内外の学会で発表した。量的分析の結果からは「英語教授・学習」等に関わる数多くの項目に関して、JTEとAET間には相対立する考えが存在することが統計的に証明された。質的分析においては、JETプログラムの目的が伝達手段としての英語教育と、国際理解としての英語教育の間で揺れ動いていることが明らかにされた。TTの問題点を論じる際、JTE及びAETは実は同じ問題を異なる視点から捉えていたり、逆に異なる問題を同じ視点で認識している場合があり、そのために不必要な誤解が生じていることを明らかにした。以上のような分析からJETプログラムの改善に向けていくつかの提案を行った。1.TTの授業の打ち合わせを行うために、JTE側の時間的ゆとりが必要であること、AETはベーススクールを持つこと。2.JETプログラムは中学校・高校で国際理解教育というよりはコミュにケーション手段としての英語教育に力点をおくべきである。そのためにも、入学試験にリスニング等を採用すること、ワンショットレッスンを減らすことが必要である。3.JTEが効果的にTTを実施していくには研修および海外渡航経験が重要であり、そのための勤務上、財政上の支援が必要であること。4.同種の調査・研究では量的分析と同時に、一定の理論的枠組みに沿った質的分析が必要であること。
著者
逵本 吉朗
出版者
国立研究開発法人情報通信研究機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、単一光子間の和周波発生(SFG)を用いた量子もつれ交換高度化の世界初の原理検証実験を目標に研究を行っている。この目標を達成するためには、量子もつれ光子対の高効率な生成・検出システムの確立と、高効率かつ安定なSFGモジュールの作成を含めた量子インターフェースを開発することが必要である。今年度は、周期分極反転ニオブ酸リチウム導波路(PPLN/W)をサニャック干渉計へ組み込み、高輝度量子もつれ光子対源および高効率なSFGモジュールを開発した。まず、中心波長 775nmのモードロックレーザでPPLN/Wを励起し、量子もつれ光子対を生成した。次に、得られた光子対を中心波長1535nm/1565nm・波長幅0.9nmの周波数フィルタで狭窄化し、この帯域内での同時検出レートを超伝導単一光子検出器(SSPD)で検出した。量子もつれ光子対の検出レートは最大で1.4MHzに達し、光子対の高効率な生成・検出システムの確立に成功した。この成果については現在論文を執筆中である。また、SFGモジュールの立ち上げを行った。92%以上という非常に高い効率でレーザ光を結合させることに成功し、第二高調波発生(SHG)の規格化変換効率1129 [%/W]を得た。これにより、SFGモジュール単体で見ても先行研究よりも高いSFG変換効率を有していることを確認した。さらに、PPLN/Wにより生成したSHG光を励起光源として応用し、非常に大きい平均光子数(1程度)を有する量子もつれ光子対の生成に成功した。これまでの研究で、この様な量子もつれ光子対を用いることで、その非局所性を最大限に利用することができるというシミュレーション結果を得ており、その予測を実験的に裏付けることに成功した。この成果については米国物理学会誌Physical Review Aに掲載された。
著者
飯塚 義之
出版者
金沢大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

日本を含め多くの地域で、発掘収蔵品、特に岩石同定調査はほとんど行われておらず、正しい化学分析による、客観的な岩石の記載に不備があった。本研究では携帯型蛍光X線分析装置(pXRF)を用い石製遺物の化学的分析と岩石同定を行うことで、先史時代の石材の把握と地質考古学的検討を試みている。第1年度は研究対象地域を、日本でも縄文時代の大規模遺跡として広く認知されている富山市の同市北代遺跡(縄文時代中期)および小竹貝塚遺跡(縄文時代初期)に注目して、同地域から出土した石斧の石材分析に取り組んだ(2017年11月)。北陸地方はヒスイ文化の中心地でもある。一方、同じくヒスイの原産地でもあるミャンマー中部地域の先史時代(新石器~青銅器時代)の遺跡から発掘された石製遺物についても、現地でのpXRF分析を試みた(2018年1月)。更にタイ、チュンポーン(2018年3月)での現地から出土した石製遺物の分析を行った。これまで日本の縄文時代石製遺物については、多くが蛇紋岩あるいは緑色岩を用いて製作されていると認識されていたが、今回の分析によって、蛇紋岩製石斧はごく少数しかなく、ほとんどのものが角閃石岩、その中でも多くがネフライト(緑閃石岩)製であることがわかった。縄文前期から中期にかけてヒスイ製の装飾品は存在することあれ、量的にはネフライトが大多数であった。一方、ミャンマーでは、安山岩、蛇紋岩を用いた石斧も確認できたが、これまでに分析したなかで約15試料がネフライト製の腕輪が認められた。また今回はじめてヒスイ製の装飾品を1つ確認することができた。一方、タイ南部のチュンポーンでは、青銅器時代も重要拠点遺跡(Khao Sek)から、ネフライト製のリンリンオー耳飾りと双獣頭ペンダントを確認できた。これまでの東南アジアの調査でもっとも南西から出土したものとして報告準備中である。
著者
櫻井 彰人 Serjam Chanakya
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

金融市場の資産価格の短中期(分~時間)予測の高精度化を目的とする。特に外国為替交換比率(EUR/USD, USD/JPY)の分足とtickについて詳細な検討を行った。(1) 1分~90分足について予測モデルを作成し、長期に渡る予測可能性には収益反転が関わっていること、また収益反転にはフラクタル的であることを示した。(2) 分足およびtickそれぞれに、収益反転を説明し収益分布を回帰するモデルを作成した。2001年~2015年の実データに対し、よい回帰となっていることを数値実験により確認した。
著者
鈴木 輝彦
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、複数の遺伝子導入用ベクターを同一の遺伝子受容部位へ同時に導入する手法Simultaneous/sequential Integration of Multivector system (SIM system)を開発した。本手法により、最大3つのプラスミドベクターを同時にヒト人工染色体(HAC)の遺伝子受容部位へ導入することが可能となった。この方法を用いることにより細胞のリプログラミングや分化段階の解析などに必要な複数の遺伝子を効率的に HACに導入し利用することが可能となった。
著者
北野 勝則 北城 圭一 青柳 富誌生
出版者
立命館大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-06-29

・領域内A03班において、てんかん患者に対する治療の過程で計測された皮質脳波(ECoG)データに対し、情報理論的手法であるpermutation entropy(順列エントロピー)およびsymbolic transfer entropy(シンボリック移動エントロピー)を適用し、解析を行った。その結果、発作開始期には、電極間の相互作用より電極内部のダイナミクスの影響が大きいなど、発作期と発作間欠期における脳活動ダイナミクスの違いを特徴づけることに成功した。・様々な解析手法が非侵襲脳活動データに適用されているが、その結果が示すものについては不明な点が多い。脳活動に直接的な摂動を与えることが可能となる経頭蓋磁気刺激(TMS)による脳活動変化が検出可能かについて、permutation entropyおよびsymbolic transfer entropyを用いて解析した。その結果、上記手法はTMSの有無による脳活動の差を検出可能であること、後頭部に適用したTMSが前頭部に影響を与えることなどを明らかにした。・TMS-頭蓋脳波同時計測により、安静時には微弱な脳波の位相振幅ーカップリングが変調されるかを検証した。運動野、あるいは、視覚野に単発、あるいは、5 Hz、11 Hz、23 Hzでの5連発の反復刺激を行った。その結果、反復TMSの周波数での位相とガンマ波の振幅がカップルする位相ー振幅カップリングがTMSを印加しない場合に比べてより強くなる現象が見られた。過渡的な位相―振幅カップリングを効率よく検知する新規計測解析手法を提案した。
著者
岡崎 龍太
出版者
電気通信大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本課題の目的はポータブル環境において,聴覚を触覚刺激提示によって補助・向上させることである.最終年度である本年度は下に述べた2項目において,これまでの研究成果の取りまとめをおこなった.一つ目は,聴覚と触覚の知覚可能な周波数範囲の隔たりに着目した触覚提示手法である.触覚の知覚可能周波数範囲は0 Hzから高々1000 Hz程度であり,音波形をそのまま触覚提示に用いると,音周波数の上昇に伴って触覚刺激が消失する.この問題に対して,提示する振動を低音域にしぼって身体全体へ高強度で提示したり,音の高低を振動提示部位の高低に置き換えるなどの手法が提案されているが,提示振動の強度や範囲が制限されるモバイル端末においてはこのような提示は困難である.そこで本研究では提示する振動に対して,ピッチシフト処理を行い,オクターブ低い刺激を振動提示する手法を提案した.生成した振動を音楽と合わせて体験した際の主観的な音楽体験評価を行った結果,これまで振動提示が困難であった比較的周波数の高い音を含む音楽に対して提案手法を用いて触覚提示することで,音楽に対する主観的な評価が有意に向上することが明らかになった.二つ目は,全身体感音響装置のモバイル化を目的としたものである.従来の体感音響装置に共通の問題である装置の大きさ,重さ,拘束性といった問題を解決するため,ユーザの骨を介して身体の広範囲に振動を提示する手法を提案した.これまでに,鎖骨が最も簡便かつ効率よく振動を体内へ伝達可能であることを検証した.また提案手法と従来手法で用いられてきた部位に対して振動提示を行い,ユーザが主観的に知覚する振動の「心地よさ」および音楽コンテンツへの影響に関して検証を行った.その結果,提案手法は物理的にも主観的にも身体広範へ振動を伝搬可能であり,またそれによってユーザが知覚する主観的な音楽体験が向上することが明らかになった.
著者
公文 誠 FURUKAWA Tomonari
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

能動的に動作する耳介を持つロボットシステムを用いた音源定位法を検討した.音源方向の推定には,事前測定した音響データベースとの照合による方法を考え,不確かさを確率モデルを導入した推定手法を提案した.実際の能動耳介ロボットによる実験を通じて,提案手法がロバストな音源定位が可能であることが示された.また,ロボット動作に伴う騒音の影響を検証し,基本的な動作生成法について研究を行った.
著者
福本 江利子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

研究者をとりまく環境変化の中で、研究評価において研究生産性の尺度として普及している論文数や引用数等の量的指標は、必ずしも研究の創造性や革新性を加味していない。本研究では、量的研究評価指標のみに拠らず、研究や科学の営為の根幹である研究生産性の意味そのものに立ち返り探究を進める。本研究では、①研究者にとっての研究生産性の内実、②パブリケーション戦略、そして③研究評価や大学組織を含む研究者をとりまく環境・制度・文化の①②への影響、に着目し、大学の研究者対象のサーベイ調査及び事例研究を実施する。研究を通じて、研究政策や大学経営、科学技術論等への学術的貢献に加え、大学や政策の現場への示唆を示す。
著者
森本 行人
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

THEやQSに代表される世界大学ランキングの評価項目の中に、論文の被引用数にもとづく評価項目があるが、これはScopus等の論文・引用データベースがもととなっている。その収録誌の多くは英語論文であり、それ以外の言語で書かれた論文についてはほとんど収録されず、評価の対象となっていない。本研究では、上記データベースに収録されていない論文も含め低コストで客観的な定量的指標について、検証を繰り返した結果、ダイバーシティ・ファクター(DF)のバージョンアップ版であるiMD(index for Measuring Diversity)を共同開発した。ここに至るまで、書誌情報より収集した数値をデータベース化、専門家へのインタビュー調査および有識者によるピアレビューを経た。iMDは、次の計算式で算出するものである。log_n(α×C+β×A)【A : 所属機関数、C : 所属機関の立地国】αとβはCとAの重み付け係数である。これにより、iMDは、学術誌等の1年ごとの多様性を著者所属とそれらが立地する国という観点から、必要に応じた重み付けで定量化することが可能となった。なお、Aの値の幅が大きすぎるため、iMDでは対数スケールを採用した。これにより、従来は、データベースを保有する会社などにアウトソースした被引用数や、どの雑誌に掲載されたとしても、1本は1とカウントされ論文の本数で評価されていた研究業績について、分野や使用言語に関係なく算出可能となり、人文社会系分野のニーズに部分的に答えうる新たな指標を開発することができた。さらに、2月15日に人文社会系分野における研究評価についてのシンポジウムを開催し、外部有識者とiMDの有効性について意見交換を行った。iMDは全てのニーズに応えられるものではないが、本研究を通じて、iMDは個人や組織の研究力をより多面的に、総合的に把握する一助となると考えられる。
著者
三木 健寿
出版者
奈良女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

恐怖や不安記億の再生は交感神経活動の変化を伴うがその詳細は不明である。睡眠REM期には記憶の再生と固定が行われており、睡眠REM期の海馬神経活動と交感神経活動の関係は、記憶の再生と交感神経活動変動との因果関係を検討するモデルとなる。本研究は、睡眠REM期における海馬CA1領域の神経活動と地域血流量の変化の定量化し、睡眠REM期と覚醒運動時の行動ステージとの差を検討し、睡眠REM期の特徴を明らかにすることを目的とした。また、腎および腰部交感神経活動との相関性について検討した。Wistar系の雄ラットを用い、脳波、海馬CA1神経活動、海馬CA1領域血流量、動脈圧、中心静脈圧、心電図、筋電図測定のための電極、プローブ、カテーテルを慢性留置した。海馬CA1神経活動は、4極のステンレススティールMicro-wire arrays電極によリ計測した。海馬CA1神経活動は、REM機が最も低く他の行動ステージに比べて有意に低かった。一方、睡眠REM期の海馬CA1領域血流量は、ノンレム期に比べて増加した。以上、睡眠REM期の海馬CA1神経活動は、睡眠-覚醒の行動サイクルの中で最も低い値を示すが、血流量は最も高い値を示すことが明らかになった。本研究は、睡眠REM期海馬CA1領域の血流量は神経活動低下時に増加していることを明らかにした。脳神経細胞では、一般に神経活動とその領域の血流量は同じ方向に変化する(neuro-vascular coupling)と考えられている。しかし、睡眠REM期にはneuro-vascularのuncouplingが生じている。従って、睡眠REM期には海馬の錐体細胞以外の代謝(グリアなど)の細胞の代謝亢進が考えられる。すなわち、睡眠REM期には記憶情報処理自体の活動が抑制され、その周辺機能の亢進が生じている可能性を示唆する。
著者
大谷 浩一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

健常人を対象にし、幼少時期に受けた両親からの養育的要因が、人格特徴・対人関係敏感性に与える影響について検討した。健常日本人を対象に、幼少時期に受けた養育環境、人格特徴全般、対人関係敏感性をそれぞれParental Bonding Instrument(PBI)、Temperament Character Inventory (TCI)、Interpersonal Sensitivity Measure(IPSM)を用いて評価した。本研究より、幼少時期に両親から受けた非機能的な養育的要因は、性特異性を持って、うつ病と関連する人格特徴および対人関係敏感性に影響を与えることが示された。