著者
鑓水 兼貴 田中 ゆかり 三井 はるみ 竹田 晃子 林 直樹
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、首都圏における方言分布の形成過程の解明を目的とする。これまでの研究で、アンケート調査システムや、方言データベースのシステムを作成してきたが、そうした研究ツールを統合して、新しい調査・分析システムを構築する。首都圏における非標準形の分布を把握するためには、多くの言語項目、多くの回答人数による調査から分析する必要がある。過去の首都圏の方言資料と、新規の調査結果を組み合わせた分析を行うために、新しいツールの開発を行う。本研究において開発する調査・分析システムを利用して、これまでの研究で提案してきた首都圏の言語動態モデルについて検証を行う。
著者
峪口 有香子
出版者
四国大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、瀬戸内海域をフィールドとした方言研究の先駆的な業績である藤原与一・広島方言研究所編(1974)『瀬戸内海言語図巻』のデータベース構築を目指し、総計241のデジタル言語地図を完成させる。また、実時間上の言語変容を解明するため、申請者が実施した瀬戸内海域での追跡調査結果のデジタル言語地図化を併せて行う。大量の方言データを包括的に分析できるツールとして、地理情報システムの分野で開発されたGISを導入し、空間的補間の方法を時空間にまで拡張することによって言語変化の状況を探る。方言の衰退の実態や共通語化の進行状況を把握するとともに、瀬戸内海域言語伝播のパターンを解明する。
著者
竹田 晃子 大木 一夫 作田 将三郎 鑓水 兼貴
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

伝統的方言が急速に衰退する現在、従来のような方言話者への面接調査は困難になっており、近い将来、方言研究は過去の資料を元に行われると予想されている。一方、戦後の方言研究は、明治・大正・昭和期の貴重な資料を放置してきた。方言を含む日本語の研究を発展・継続させるために、調査資料が失われないうちに、過去の調査資料を積極的に分析対象とした方言研究を始める必要がある。本研究は、旧東北帝国大学教授・小林好日による「東北方言通信調査票」約7,500冊を整理・入力・公開することで調査データを後世へ引き継ぎつつ、分析結果を論文化することで現代の面接調査では得られない言語事実や方言史を解明することを目的とする。
著者
横大道 聡
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、言論市場にさまざまな仕方で関与・介入している公権力の現状を踏まえたうえで、そうした政府の活動を憲法論として的確に位置づけるとともに、その意義と憲法上の限界について明らかにすることを目的とした研究である。具体的には、(1)政府が、特定内容の表現を強制するという仕方によって言論市場に参入する場合、及び(2)言論市場に「規制」ではなく「助成」という仕方で介入する場合、そして、(3)言論市場に直接発言者として参入する場合について、それぞれ憲法的観点からその統制の可能性と方途についての考察を行い、その展望を明らかにした。
著者
木下 直子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、いわゆる「慰安婦」問題において、日本人で「慰安婦」とされた女性の存在が不可視化されたメカニズムを分析した博士論文を発展させるものである。博士論文では、1970年代以降の日本のフェミニズム運動と1990年代初期の「慰安婦」問題解決運動等の資料の言説分析をおこなった。本研究では資料収集やインタビュー調査を継続しながら、新たに確認することができた資料である、日本人「慰安婦」被害者であった当事者の手記類の読み込みを重点的に進めた。これらの成果をまとめ、計画通り、本研究の最終年度である2016年度末に単著として出版することができた。
著者
長田 洋和
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

神経発達症,とりわけ,自閉スペクトラム症,あるいはまた注意欠如・多動症を有する児・者は,その病理・心理的特徴から,インターネット病的使用の傾向を持ちやすいことが示唆されてきている。インターネット病的使用には,反社会的行動の背景にあるCU特性(callous-unemotional traits)との関連があると思われることから,人生早期に行動特徴が現れる,自閉スペクトラム症あるいはまた注意欠如・多動症を有する児においてCU特性の有無とインターネット病的使用傾向があることとCU特性との関連を探索的に研究した。
著者
大木 研一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

研究の目的であげた二つの目的を実行するため、光遺伝学を駆使してスパインレベルの機能イメージング法を開発し、個々のシナプスに入力する情報を可視化し、その変化を継続的に観察し、脳の情報処理の素過程と、学習・記憶の素過程をシナプスレベルで解明する。さらに、細胞集団のイメージングと組み合わせて、これらの素過程がネットワーク全体としての学習にどのように寄与しているのかを解明する。最後に、細胞集団を光遺伝学を用いて人工的に活性化し、細胞集団の活動が知覚・学習と因果関係を持つかどうかを検討する。
著者
川部 勤 松島 充代子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

農薬の毒性は害虫に特異的ではなく、近年主流のアセチルコリン作動系農薬もヒトや生態系への影響が懸念されている。農薬が生体に及ぼす影響は多岐にわたり、神経系への毒性だけでは正確に有害性を検討することは困難である。本研究では農薬による生体防御反応の誘導能および免疫応答の攪乱作用に着目し、比較的安全とされるネオニコチノイド系農薬を含めアセチルコリン作動系農薬の影響を生体側から解明する。平成29年度は生体防御反応の誘導能を中心に解析を行った。ストレス応答系としてHO-1の発現、異物代謝系としてオートファジーの誘導(LC3-IIの誘導およびp62の発現)を評価することにより生体防御反応の誘導能の解析を行った。農薬は有機リン系農薬のダイアジノンおよびネオニコチノイド系農薬のアセタミプリドを使用した。細胞はマウスマクロファージ細胞株RAW264.7細胞を用いた。ダイアジノンはRAW264.7細胞においてストレス応答系のHO-1および異物代謝系のオートファジーを強く誘導することが明らかとなった。一方、アセタミプリドについてはHO-1の誘導はほとんど認められなかったが、オートファジーについてはダイアジノンと比較すると非常に弱いものの、オートファジーの誘導が認められた。以上の結果より、同じアセチルコリン作動系農薬であっても生体防御反応の誘導能の程度が異なり、異なる作用機序が存在する可能性が示唆された。
著者
斉藤 日出治 佐藤 正人 金 静美
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

民間団体「海南島近現代史研究会」の一員として3年間で5回海南島を訪問し、侵略犯罪の犠牲となった方々から、日本政府・日本軍・日本企業によって被った被害の状況について話を伺った。この聞き取りを通して、殺害された方々の氏名、人数を確認すると同時に、住民虐殺、食料・資源・土地・家財・家畜・諸資源などの略奪、諸産業の支配、性暴力、強制労働などの実態を記録した。さらに、このような日本国家の侵略犯罪が敗戦後70年にわたって明らかにされてこなかったことが戦後日本社会のありかたにどのようなかたちで投影されているのかを検討し、日本の近代社会を植民地主義の視座から再考した。
著者
中島 晶 眞野 成康 富岡 佳久 山口 浩明
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

新たに見出された薬物トランスポーターSLC10A4の安定発現細胞を作製し、胆汁酸であるケノデオキシコール酸およびウルソデオキシコール酸の輸送に寄与することを明らかにした。SLC10A4を発現している小脳由来TE671細胞を用い機能解析を行った結果、プロテアーゼであるトロンビンによってタウロコール酸の輸送活性が上昇することを発見し、その基質結合能が既知の胆汁酸トランスポーターに比較して高いことを明らかにした。
著者
青柳 諒
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

環境・バイオエネルギー分野での高性能・低環境負荷型の反応プロセスの構築を目指して、種々の反応系に対して、高機能(高い触媒活性、反応の選択性、複数の反応を同時進行など)な生体触媒固定化高分子ゲルを創製する。種々の生体触媒(微生物、酵母、および酵素)の固定化手法、高分子の特性、ゲルの構造などのパラメータが触媒活性や連続反応プロセスへの適用可能性に及ぼす影響を明らかにする。得られた知見から生体触媒固定化ゲルの設計指針に関する学術基盤を構築する。
著者
私市 正年 清水 学 川島 緑 小牧 昌平 東長 靖 赤堀 雅幸 小林 寧子 栗田 禎子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本報告は、現代イスラーム運動や民主化問題の背後にある民衆の役割と宗教運動について、歴史性と現代的諸状況とを総合的に比較しながら、その実態の分析を行なった調査・研究の成果概要である。東長と私市は、スーフィズムと聖者崇拝の原理と思想的本質の分析をすることによって、それが民衆イスラームを包含する多元的性格を有していることを解明した。小牧と川島は、それぞれ遊牧社会のアフガニスタンと農耕社会のフィリピンを事例にして、近代から現代初頭に関する新資料の調査、解読により、近代以降の当該社会の民衆がナショナリズムやイスラーム政治思想の形成に重要な役割を果たしていることを明らかにした。栗田は現代スーダンを事例に、イスラーム復興と民主化への動きにおいて民衆の担う役割を分析した。小林はインドネシアにおける宗教法改正案を分析し、その背後に民衆の「市民社会的権利」を拡大する努力を見出した。清水と赤堀の成果は、それぞれ中央アジアのイスラーム運動とエジプトの遊牧民を事例にして、地域ごとに異なるイスラーム運動の多様性および遊牧社会のイスラーム価値観の変容を明らかにした。両者の成果はステレオタイプ的イスラーム理解に対する鋭い批判であり、この視点こそ「民衆と宗教運動」の研究の意義、イスラーム社会を相対的に理解する重要性を示しているといえよう。また私市「北アフリカ・イスラーム主義運動の歴史」は、大衆に支えられた社会運動としてのイスラーム主義運動の総括的研究である。本研究プロジェクトを効率よく推進するため、高橋圭(研究協力者)が「民衆と宗教運動」に関する文献リストを作成した。また、民衆が関与するNGO活動の重要性にかんがみ、岡戸真幸(研究協力者)がエジプトの同郷者集団の調査を実施した。
著者
私市 正年
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究計画に沿って以下のことを行った。1.ケドゥーリー、ゲルナー、アンダーソン、スミスらの著作を読み、独立運動と密接に関わるナショナリズムの理論の整理を行った。2.Zawiya al-Hamilの教育プログラムを調べ、イスラーム教育における政治的イデオロギーの要素を抜き出した。特にテキストとして使われたKhalil b.Ishaq:Mukhtasar al-Alama Khalilのjihadの章を読み。そこで記述されたジハードの内容を小ジハードと大ジハードに分けて分析した。分析から得られた事実は、武装闘争を是認する小ジハードに関する教育は生徒たちに一定のイデオロギー的影響を与えた、との暫定的結論を出した。4.Zawiya al-Hamilの19世紀末の生徒名簿を分析した。171人の名簿の出身地を調べると、ブーサーダ地区を中心にしたアルジェリア中部が最大多数であるが、ほぼアルジェリア全域に広がっていることがわかる。さらに、モロッコのフェスやマラケシュ地方の出身者もみられる。このことから、ザーウィヤのイスラーム教育がアルジェリアの全域に及び、教育と独立運動との間にイデオロギー的関係があったと判断される。ただし、他のザーウィヤにおける教育内容の分析をしないと一般化することができるのか、断定は難しい。5.1930年代から1950年代の植民地期におけるコーラン学校の数と生徒数については、Kamel Katebの論文(Insaniyat, vols.25-26, 2004)を読み、1932年から1951年の間に、生徒数は、学校数は2.4倍、生徒数は2.85倍に増加していることがわかった。
著者
私市 正年
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

従来のアルジェリア・ナショナリズム運動の研究では、ザーウィヤなど民衆的イスラーム組織は否定的、ないしは植民地支配に協力的であった、と説明されてきた。しかし、al-Ruh紙の分析によって、民衆的イスラーム施設ザーウィヤの青年たちがFLNよりも先に、行動主義的主張をし、独立運動を担うイデオロギーを構築したことが明らかになった。この事実は、従来のナショナリズム運動と独立運動の研究に根本的な修正を求めるものである。本資料の重要性に鑑み、テキスト全文と資料解題をつけてal-Ruh-Journal des jeunes Kacimiという書名で2017年出版(Dar al Khlil社)をした。
著者
中村 達 古川 誠一
出版者
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

寄生蜂が様々な方法で寄主の免疫作用に対抗し、寄生に成功するのが知られているのに対して、同じ捕食寄生性昆虫である寄生バエについてはほとんど研究されていない。本研究では、ヤドリバエがどのように寄主免疫作用をくぐり抜けて寄生成功するのか明らかにするため、寄主体内での幼虫周辺や寄主の変化について経時的に調査した。寄主に侵入後、ハエ幼虫はバリア構造物と名付けた寄主組織からなる構造物に包囲されることがわかった。このバリア構造物は内側が寄主の血球由来、外側が脂肪体細胞由来で、ハエ幼虫はこの構造により、寄主によるメラニン化などの免疫反応から逃れていると考えられた。
著者
柏柳 誠 松岡 一郎
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

フェロモン受容細胞は神経細胞の一種であり、フェロモン情報を中枢に伝えるためには、電気的信号に変換することが必須であるが、その性質はほとんど不明であった。カメのフェロモン受容細胞が存在する鋤鼻器感覚上皮にアデニル酸シクラーゼの活性化剤であるforskolinを与えたところ、フェロモン受容細胞で神経インパルスの増加が見られたことから、フェロモン受容細胞にアデニル酸シクラーゼとcAMP依存性チャネルが存在することが示唆された。そこで、電気生理学的にcAMP依存性チャネルの存在の確認し、さらにその性質を解析した。カメのフェロモン受容細胞に各種濃度のcAMPを投与したところ、濃度依存的に内向き電流応答が生ずることを見出した(J. Neurosci.,1996)。濃度依存性は、嗅細胞で得られたものと類似していた。この際、膜コンダクタンスは上昇した。内向き電流が生じている時にランプ波を与えることにより逆転電位を調べたところ、カメの嗅細胞の逆転電位に近い値が得られた。以上の結果から、カメのフェロモン受容細胞には嗅細胞と同様のcAMP依存性チャネルが存在することが明らかになった。カメの鋤鼻器感覚上皮から調製した膜標品を用いて、アデニル酸シクラーゼ活性のforskolinおよびGTP依存性を調べた。フェロモン受容細胞におけるアデニル酸シクラーゼ活性は、嗅上皮と同様であった(Biochem. Biophys. Res. Commun.,1996)。さらに、forskolinをフェロモン受容細胞に与えたところ、副嗅球から誘起脳波を測定できたことから、cAMP依存性経路を介した応答が中枢に伝達されることを確認した(Chem. Senses, 1996)。ヘビなどでは、フェロモンがcAMP濃度を変化させることが報告されていることから、爬虫類におけるフェロモン受容はcAMPを介して行われている可能性が考えられる。
著者
森 泰生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

活性酸素種ROSや親電子分子種は生命体にストレスを与えるが、細胞シグナル分子としても注目されている。私たちは、複数のTransient Receptor Potential (TRP) Ca2+透過カチオンチャネルがレドックス感受性を有し、細胞死、細胞化学遊走等の生体応答を惹起することを示した。本研究はレドックス感受性TRP群が果たす炎症における役割を明らかにした。特に、TRPM2は多様な炎症性細胞応答の鍵シグナル調節因子であることが分かった。O2をも感知するTRPA1の高酸化感受性も示した。レドックス感受性TRP群の生理学的意義の解明は、TRPの臨床医学上の治療標的としての重要性を示唆する。
著者
古荘 義雄
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、「電荷支援型水素結合」と呼ばれる極めて強い非共有結合的相互作用を用いて、新たなソフトマテリアルを構築する方法論の開拓に取り組んだ。特に、合成高分子を基盤とする超分子ポリマーゲルの構築に集中的に取り組み、アミジン基をもつポリマーとカルボキシ基をもつポリマーを溶液中で混合したのちに溶媒を留去するだけで簡単に、電荷支援型水素結合の三次元ネットワーク構造を有する超分子ポリマーゲルが得られることを見出した。これらの超分子ポリマーゲルは温度変化に対して可逆的に粘弾性を変化させ、また、多くの場合、低温では流動性を示さず、貯蔵弾性率が1 MPa以上のゴム状領域を示すことがわかった。
著者
井上 健 井上 高良 出口 貴美子
出版者
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ある同一の遺伝子内の異なる変異が、異なる表現型を呈する別個の疾患の原因となる現象をアレル親和性と呼ぶ。アレル親和性の分子基盤の理解には、各疾患の分子病態の解明が必要である。我々は、転写因子SOX10の変異が、アレル親和性効果によりWS4とPCWHの2つの異なる疾患を引き起こすことを明らかにし、in vitroでの分子病態解析により、SOX10におけるアレル親和性の分子基盤を明らかにしてきた。本申請では、さらにBACトランスジェニックマウスの手法を用いてPCWHの組織細胞レベルでの分子病態を明らかにし、in vivoでのSOX10アレル親和性の分子基盤を明らかにした。
著者
小薗 英雄 隠居 良行 久保 英夫 三浦 英之 前川 泰則 芳松 克則 木村 芳文 金田 行雄 小池 茂昭
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2016-05-31

1. 非定常および定常Navier-Stokes 方程式の調和解析学的研究:3次元空間内の有限個の閉曲面で囲まれる多重連結領域における定常Navier-Stokes 方程式の非斉次境界値問題に対して,可解性と安定性について論じた.特に与えられた境界値が一般化された流量条件を満たす場合に考察し,領域の調和ベクトル場に関係するある変分不等式を満たせば可解であることを証明した.この結果は,Leray-Fujita の不等式による既存の存在定理をすべて含むものである.安定性に関しては,主流が剛体からの摂動であれば,大きな流れであっても漸近安定であることを示した.また,境界がコンパクトではい一般の非有界領域において,通常のLp-空間とは異なる新たな~Lp-空間を導入し,Helmholtz 分解の一般化とStokes方程式の最大正則性定理を確立した.応用として,任意のL2-初期データに対して強エネルギー不等式をみたす乱流解を構成した.2.非圧縮性粘性流体中における走化性方程式系の適切性:n 次元ユークリッド空間Rn において,Keller-Segel 方程式系とNavier-Stokes 方程式の双方が混合した場合について考察し,小さな初期データに対して時間大域的軟解の存在,一意性およびその時間無限大における漸近挙動を証明した.解のクラスとしては,スケール不変な函数空間におけるものであり,特に弱Lp-空間が基礎となっている.応用として,斉次函数である初期データに対する自己相似解の存在が得られた.3.3次元空間における定常Navier-Stoes方程式におけるLiouville型定理:3次元空間においてDirichlet 積分有限の範囲で,定常Navier-Stokes 方程式の解のアプリオリ評価を,同積分と同じスケールを有する渦度ベクトルの無限遠方の挙動によって確立した.その応用として,渦度が無限遠方で距離の5/3乗よりも早い減衰を示すならば,自明解に限るというLiouvelle型定理を証明した.