著者
植竹 智 山崎 高幸 下村 浩一郎 吉田 光宏 吉村 太彦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

本研究は,レプトンのみからなる水素様純レプトン原子:ミューオニウム (以下Mu)の精密分光により,電弱統一理論の精密検証および新物理探索を行うことを目標とする.具体的には,(1) Muの1S-2S間遷移周波数の精密二光子レーザー分光;(2) 基底状態超微細分裂の精密マイクロ波分光;(3) 荷電束縛系のエネルギー準位に電弱効果が及ぼす影響を摂動2次の項まで取り入れた高精度理論計算;の3つを行う.実験精度を先行研究より大幅に向上させ,基礎物理定数であるミュー粒子質量の決定精度を大きく向上させると共に,理論と実験の比較を通じて電弱統一理論の精密検証と新物理探索を目指す.
著者
井口 元三 高橋 裕
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自己免疫性下垂体疾患の患者を集積して、抗PIT-1抗体症候群で一例の男性症例と、世界で初めての女性症例一例を加え、合計5症例を報告した。また、IgG4関連下垂体炎が、IgG4関連自己免疫性膵炎症例の5%に合併することを明らかにした。抗PIT-1抗体症候群患者の全例に胸腺腫瘍を新たに見出し、胸腺腫瘍細胞中にPIT-1タンパクが異所性に発現していることが原因であることを証明した(Sci Rep.2017)。この事から、自己免疫性下垂体疾患の原因として。腫瘍随伴症候群のメカニズムが関与する「胸腺腫関連自己免疫性下垂体疾患」という全く新しい概念を提唱した。
著者
山嵜 輝 吉川 大介
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、レヴィ過程と時間変更レヴィ過程をファイナンスの諸分野に応用することで、正規分布を基礎とする古典的なファイナンス理論の拡張を試みた。レヴィ過程は非正規な確率過程のクラスであり、資産価格や株式配当の非連続的な変動(ジャンプ)を表現できる。また、時間変更レヴィ過程はレヴィ過程に確率的時間変更を導入した確率過程である。本研究では、デリバティブの価格付け、交換経済における資産価格付け、最適配当政策、U字型プライシング・カーネルの再現の4つの問題を扱った。各問題に対して、数理解析による理論研究と数値シミュレーションによる計算研究を実施して論文にまとめた結果、4本の論文が国際学術誌に掲載された。
著者
細矢 直基 前田 真吾
出版者
芝浦工業大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

生体組織の病変を早期に発見するために,生体組織を外部から加振し,その際の応答を核磁気共鳴画像法 (Magnetic Resonance Imaging: MRI) により,生体組織に伝播する波動を可視化し,その弾性率を評価する方法として,Magnetic Resonance Elastgraphy (MRE) が検討されている.しかし,広範囲な弾性値を持つ様々な生体組織に対応するためには,十数Hz~数十kHzまでの広帯域な周波数成分を含む入力が必要であるが,加振器のような接触式デバイスでは非常に軟らかい生体組織に対して広帯域な周波数成分を含む入力を作用させることができない.本研究では,所望の音響放射パターン(指向性)に単一デバイスで制御できる,直径数mmの大きさの誘電エラストマーアクチュエータ (Dielectric Elastomer Actuator: DEA) を用いた音源デバイスを創成する.平成29年度は,風船型球面DEAを実現した.柔軟電極をカーボンブラック,誘電エラストマーをアクリル系とし,空気圧により膨らませることで球面DEAとした.この風船型球面DEAスピーカの形状を計測したところ,真上から見た形状は直径15 mmの円,真横から見た形状は長径15 mm,短径12 mmの楕円であった.膨張前の薄膜DEA(円板)の面積が78.5 mm^2,風船型球面DEA(楕円殻)の表面積が2459.2 mm^2であるので,3033 %拡大することに成功した.また,この風船型球面DEAの音響放射特性,振動特性を計測することで,音源デバイスとして有効であることを検証した.さらに,音響放射特性と風船型球面DEAスピーカの振動モード形との関係を調べた.
著者
坂下 史
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、近代イギリスの民間団体のひとつである農業協会の諸活動に、従来とは異なる角度から光を当て、その社会的な役割や意味を解明する。農業協会の多くは18世紀半ば以降に地方都市に設立され、情報の結節点になったとされる。その活動は狭義の農業振興にとどまらなかった。これは当時の農業が、農学として学問の一部を構成し、食料増産や産業振興を通じて経済に直結し、さらに国家や人類社会の福利の問題にも連なる分野であったことに関係する。本研究は、農業協会の活動から、工業化、都市化、国民国家化の時代に都市と農村を繋いだ交流圏の機能を明らかにするとともに、それを支えた地域社会の知識人の姿を浮かび上がらせる。これによって工業、都市、国家に偏重した従来のイギリス近代像の相対化に寄与することを目指す。本研究は、研究期間を通じて、次の四点を主たる内容として研究を進める。a.)当該時期のイギリスにおける改革全般と農業協会の活動に関する文献・史料の収集、b.)事例研究の対象である「バースおよび西イングランド農業協会」の活動を解明するための文献・史料の収集、c.)研究協力者との定期的な研究交流、そして、d.) 研究成果の順次的な公表、である。これまで、上記のうちのa.)、b.)を順調に進め、c.)に関しても28年度には研究者招聘を実施した。d.)については業績欄を参照。29年度の実績は次の通り。a.):関連二次文献の調査収集。電子データベースを利用したパンフレットと定期刊行物の調査。b.):英国の図書館、文書館での調査。「バースおよび西イングランド農業協会」関係の史料に加えて、全国の農業協会を束ねることを目的にロンドンに設立された「農業委員会Board of Agriculture」の議事録および文通記録の手稿文書の調査も行った。c.):研究協力者とはイギリスで面談し引き続き研究交流を実施した。
著者
西垣 一男 三宅 在子 鳩谷 晋吾 久末 正晴
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

内在性レトロウイルス(ERV)は宿主ゲノムに残された古代レトロウイルス感染の痕跡である。ERVの存在が宿主への危害となる事例や、ERVが宿主進化の原動力となっている事例について発見した。また、新規猫白血病ウイルス(FeLV)の受容体を発見した。「1」FeLVのGag遺伝子領域に非相同配列が組み込まれている新規組換えFeLVを発見した。FeLVが獲得した配列をX-regionと名付け、それはFcERV-gamma4に由来することが示された。FcERV-gamma4の9つの遺伝子座を分離・同定した。プロウイルスは感染性を喪失していたが、RT-PCRによって様々な臓器に発現していた。「2」FcERV-gamma4由来のX-regionを保持する組換えFeLVは、17検体において検出され、リンパ腫の発生と関連していた。X-regionはFcERV-gamma4の5’-非翻訳配列を含んでいた。「3」X-regionが共有していた領域に一致する配列が、ヒト、チンパンジー、マーモセット、メガネザル、ブタのゲノムにも存在することを発見し、この配列をCS-sequenceと名付けた。CS-sequenceが系統学的に独立したERVsにおいて共有され、種の進化に重要な役割を果たしていることが示された。FcERV-gamma4は家猫の生体内で発現していることも含めて生体で何らかの機能的役割を果たしており、FeLVへのトランスダクションの発見からその分子の異常発現は病気との関わりがあることが明らかになった。「4」新規FeLV株(FeLV-Eと命名)の受容体を明らかにした。受容体はRFCという葉酸を運搬する分子である。この発見はウイルスの病原性を解明するのみならず、ウイルスデリバリーシステムの革新的技術を提供する。
著者
McHugh Thomas
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

The overall goal of this project is to better understand memory. To achieve this we will combine techniques to label and monitor groups of neurons encoding a specific event in an animal’s life. This approach allows us to focus on how groups of neurons organize their activity during learning and recall of information. Our experiments will clarify how their connections and dynamic interaction underlie memory in healthy brain and uncover new interventions to treat memory loss that accompanies aging and disease.
著者
新崎 盛暉 大橋 薫 大嶺 哲雄 高良 有政 平良 研一 佐久川 政一
出版者
沖縄大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1985

今年度は, 昭和60年度の沖繩本島・久米島地区, 昭和61年度の宮古・八重山地区において実施した「家族の実態と意識に関する調査」の集計結果を各班・全体会議等で解析・検討するとともに, 過去2年間の各自担当領域の調査研究成果の発表と相互の意見交換を重ねながら研究を進めた.その結果, 戦後沖繩における産業経済および社会の展開様式には, 27年余も続いた米国統治が大きく影響し, それは現在でも完全に払拭されてないなことが確認された. 同時に, 復帰後の社会変動も著しく, 政治・経済・社会・文化の諸相において「本土化」の様相が強くなっていることも確認された. したがって, 家族生活や親族組織等も変容の過程にあり, 家族問題も多様化・複雑化している. しかし, 生活や行動様式の基層においては, 沖繩的特性の残存も認められる. また, 当該問題の関連領域の総体においては本土化=標準化傾向が強くみられるものの, 人口・家族構成, 就業構造, 相続形態, 配偶者選択, ユタへの対応等においては沖繩内部における地域的差異も依然として存在することが確認された.
著者
伊藤 友一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

将来経験するであろう事象について想像する能力は,エピソード的未来思考(以下,未来思考)と呼ばれている。うつ病臨床群では,未来思考において構築されるイメージの具体性が低下するという特徴が確認されている。うつ病の治療においては,場面想定法など未来思考を含んだ治療が存在するが,そもそもイメージする能力の低下が治療効果に影響していることが考えられるだろう。したがって,うつ病における未来思考の特徴について,より正確な理解が求められている。抑うつ感は過去の事象に対して,不安感は未来の事象について抱くものとされる。また,うつ病臨床群や不安症臨床群においては,ネガティブな事象に自動的に思考が向かってしまうという症状が知られている。このことから,過去・未来といった時間的概念とネガティブ・ポジティブといった感情価が結びついてしまっているために,ネガティブな自動思考が生じやすくなっている可能性が考えられる。例えば,未来とネガティブという概念が結びついていたならば,未来思考の際に自ずとネガティブな思考になってしまうことが考えられる。そこで,まずは健常者を対象に,潜在連合テスト(implicit association test)と呼ばれる課題を用いて,時間概念と感情価の連合について検討した。結果として,健常者においては,抑うつ傾向や不安傾向の高低に関わらず,未来に対してポジティブ,過去に対してネガティブな概念が相対的に形成されていることが示された。また,不安の種類(全般性不安と社交不安)による概念的連合の違い(具体的には,「社交不安傾向が低い場合には,全般性不安傾向が高いほど未来をポジティブに捉えられなくなる」というパターン)は見られたものの,抑うつ傾向高群と不安傾向高群の間に有意な概念的連合の違いは確認されなかった。 今後は,臨床群で実際にどのような連合が形成されているかを検討する必要がある。
著者
奥屋 武志
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

手描きアニメーションの合成工程によって生じる形状の特徴を3DCGで再現するため、多視点行列を用いた投影変換手法の開発を行った。具体的な課題として、(1)消失点移動、(2)遠近感強弱調整、(3)影のレンダリング、(4)ユーザインタフェースの開発を行った。本研究の成果により、モデルの三次元を編集することなく見かけの形状の変形が可能となり、作画アニメーションの合成を3DCGで効率的に再現可能となった。
著者
一ノ瀬 篤
出版者
愛媛大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1987年度(継続研究第二年目)研究計画に従って, 1932年から1945年に至るイギリスの貨幣・金融史年表を, 次のような手順で作成した.(1)主要な出来事について, その生起年月日と内容を複数文献について確認する.(2)これに基いて年表を作成し, かなり詳細な解説を付ける.(3)冒頭に概観のための小論文を付ける.今回取り上げた主要内容は下記の通り.5%戦争公債借換え発表(1932年6月), 為替平衡勘定設置(1932年7月), 英米戦債最終支払い(1933年12月), アメリカ金本位制法成立(1934年1月), 米英仏三国通貨協定宣言(1936年9月), 1939年「通貨及び銀行券法」(1939年2月), 外国為替管理令制定(1939年9月), 大蔵省預金受取証書導入(1940年7月), 公債利率の最高限度引下げ(1941年7月), ケインズ案公表(1943年7月), 大蔵省による証券上場規制(1944年6月), 工業金融会社, 商工金融会社の設立発表(1945年1月), 金買上げ価格引上げ(1945年6月), 米英金融協定成立(1945年12月), ブレトン・ウッズ協定(1945年12月)
著者
林 啓子 浦山 修 高島 尚美 山内 惠子 樋之津 淳子
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では「笑い」が2型糖尿病患者の血糖コントロールに及ぼす影響を明らかにするために、漫才や落語で笑った前後における血糖値の変化(短期効果)と日々の生活の中で笑う機会を増やすことで高血糖状態が改善されるかどうか(長期効果)の2本立ての研究計画を立て実施した。1年目はプロの漫才師の協力を得て、短期効果の検証をおこなった。60歳代の8名の糖尿病患者における笑い前後の血糖値の変化を自己血糖測定法(SMBG)により観察した。短期効果の実験は今回で3回目であり、再度食後2時間血糖値上昇が抑制されることを実証した(笑いの無い状況における血糖変動に比べ-31.4mg/dl)。2年目は24名の2型糖尿病患者を被験者として(60歳代、男性12名、女性12名、非インスリン治療)月1回「笑い」を含む糖尿病教室を9回開催した。この教室では日々笑うことを奨励し、さらに笑いに関与する顔面筋群(大頬骨筋、眼輪筋、口輪筋)の動きをよくする体操(笑み筋体操)を考案し指導した。被験者には体重、食事、運動(歩数)そして笑いの状況を日誌として記録してもらった。血糖変動の原因が明らかである者(薬物変更等)や出席回数が少なかった者を除いた17名について前年同時期の血糖変動と比較したところ、HbA1cの年間平均が前年より改善した者12名(-0.25%±0.22)、不変または悪化は5名(+0.09%±0.08)であった。期間中、本人が笑ったと目覚した日数は月平均10日〜20日だったが、13日以下になるとHbA1cが上昇する傾向が認められた。POMS短縮版による心理状態の変化では「緊張・不安」が改善した。糖尿病教室に参加した被験者の日誌からは日々の療養生活を改善しようとする前向きな書き込みが多く見られるようになった。血糖コントロールは日常生活のさまざまな要因により変化するため、笑いとの因果関係を客観的指標により明確にするには至らなかったが、「笑い」を指導内容に加えた糖尿病教育プログラムは血糖値の改善に効果があることが示唆された。
著者
田口 康大
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、人間と社会との関係についての分析を経ながら、これまでの基礎教育理論を批判的に再構築することにある。その際の分析の中心となるのは、1.人間は欲望や情動といった自己の非理性的側面とどう関わっていけるか、2.人間は他者の感情とどう関われるか、3.道徳と感情との関係、これら三つの問題である。具体的には、公的生活と私的生活との関係、自己と他者との関係において人間がいかに振舞い、振舞ってきたかについての考察である。常に変遷する人間の振舞いと、自己や他者、社会の意味合いについての変化についての考察は、今日の人間観及びそこからよってくる教育観を批判的に相対化することを可能とするとともに、歴史の変化を踏まえたいかなる教育理論の構築に貢献することが可能であると考える。以上のような目的の元、本年度は「折衷主義哲学」の思想史的変遷についての研究を重点的に行った。日本に限らず、世界的にも折衷主義哲学は軽視されてきたが、今日の社会状況下で、プラグマティックな側面をもつ折衷主義哲学は評価しなおされ始めている。目の前にいる他者とのコミュニケーションから始まる思考の重要視、抽象的な概念に自分を適合させるのではなく、実際のコミュニケーションの経験から得られた自己の見解の暫定的な保持の重要視、そのような他者との実践と経験を重んじる理論は、過度の抽象的思考に囚われ、他者なきナルシズム的な人格の増加の一途をたどっている社会状況、およびそれを背景とした教育の営みを再考するうえで示唆を与えうると考えられる。
著者
高橋 純一
出版者
京都産業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

セイヨウミツバチの帰化による在来種ニホンミツバチの影響を調査した。野外での観察実験と人工授精法による種間交雑実験を行ったところ、交雑女王蜂は繁殖様式を雌性単為生殖へと変化していた。両種が生息している地域では、ニホンミツバチの遺伝的多様度は低かった。これらの結果から、ニホンミツバチは種間交雑により単為生殖を行うようになり、遺伝的多様性の低下の原因となっている可能性が示唆された。
著者
増田 周子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度は①インパール作戦と火野葦平、②河童伝説と火野葦平文学について研究をすすめた。以下、今年度の研究状況について具体的に記す。①インパール作戦と火野葦平に関しては、2017年9月にルーマニア・ブカレストで開催された国際シンポジウムで、火野のインパール作戦『従軍手帖』の詳細と、作品『青春と泥濘』について基調講演を行った。その後討議をし、活発な意見交換をすることができた。この国際シンポジウムでは、ローマ大学在職の、戦争文学研究者とお会いすることができ、交流を深め、知見が広がった。大変よい機会を得たと考えられる。また、『火野葦平インパール作戦従軍記』(2017年、集英社)の「解説」「解題」「年譜」を担当し、火野のインパール作戦についての全貌を知ることができた。そのうえで、関西大学東西学術研究所で開催された研究例会で、インパール作戦時に、動員された現地の原住民を描いた「異民族」という作品と、火野のインパール作戦『従軍手帖』との関連や、作品のテーマに関する研究発表をおこなった。②河童伝説と火野葦平文学については、主に、北九州市門司区に言い伝えられた河童伝説である海御前伝説と火野文学との関係について研究をすすめた。平家方が壇ノ浦で入水自殺をはかった後、実在する平教経の妻は、北九州市門司区大積海岸に流れ着き、河童となって大積天疫神社に祀られ、海御前と呼ばれた。これが、海御前伝説である。火野はこの伝説をもとに、河童小説「白い旗」、「海御前」などを描いている。2017年度はこの二作について、詳細に研究を行った。大積天疫神社、大積海岸などを訪れ、海御前の碑を探索しフィールドワークをすることができた。以上、火野葦平の文学について、多様な観点で研究を推進でき充実していた。
著者
丹治 保典 宮永 一彦
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

単一個体から採取した卵塊からウジ→蛹→成虫へと変態させ、それぞれの過程に於ける個体の腸内細菌叢を培養法及びPCR-DGGE法により解析した。6種の抗生物質を含むLB寒天培地上に、ウジ、蛹、成虫それぞれ12個体から分離した腸内細菌懸濁液を塗布し、抗生物質を含まないLB培地上と各抗生物質を含む培地上に形成されたコロニー数を比較することで、薬剤耐性化率を求めた。各変態の過程において高い割合で抗生物質耐性能を示した菌体が分離された。特にAmpicillin,Cefpodoxime,Kanamycinに対し耐性を示した菌体の割合が高く、ウジと蛹から分離した菌体叢の耐性化率はほぼ等しかった。一方、成虫から分離した腸内細菌叢は、使用した6種の抗生物質すべてに対し70%以上の高い耐性化率を示した。ウジと蛹から単離した菌体の染色体DNAを分離し、16SrRNAをコードするDNA領域のシーケンスを行ったところ、多くがProteus mirabilisと100%の相同性を示した。P.mirabilisは広く自然界に存在し、ヒトの腸管常在菌であり病院感染としての尿路感染を起因し、腎盂腎炎をもたらすことで知られている。P.mirabilisの各抗生物質に対する最小生育阻止濃度を測定したところ、極めて高い値を示した。また、多剤耐性化も進んでいた。一方、成虫腸内細菌叢からはS.saprobhyticus, S.cohniiなどのバクテリアに加え、C.tropicalisやI.orientalisなどの真菌類が単離された。人間にとって最も身近な存在であるイエバイから高頻度で多剤耐性菌が検出されたことから、これら多剤耐性菌がイエバエを介して広く伝播される可能性が強く示唆された。
著者
佐藤 知己
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

今年度は「蝦夷記」のアイヌ語の研究を重点的に行い、18世紀のアイヌ語の音声、音韻、文法、語彙の分析を行ったその結果、これまでに知られていなかった点として、いくつかの言語的特色が明らかになった。すなわち、まず、音声的な面について言えば、今日の/h/に対応する位置に、パ行の仮名が用いられている場合が、偶然とは思えない頻度で存在することが明らかとなった。また、今日のaに対応する位置にオ段の仮名が書かれている例も多数みられ、これらは、今日のアイヌ語の発音とは異なる発音であった可能性を示すものと考えられ、アイヌ語の変遷を考える上で貴重な示唆を与えるものである。文法的な点について言えば、人称接辞の存在が、既にこの時代の日本人によっても認識されていたことを示すと思われる記載が見つかった。このことは、アイヌ語の観察の精度が高いことを示すものと言うことができ、本資料の信頼性を推測する有力な手がかりとなるものである。語彙的な面では、従来、あまり明らかではなかった社会言語学的な言語変種が、この時代のアイヌ語には極めて多数存在していたことが明らかになった点が特筆される。すなわち、指示対象の種類、使用者の社会的な立場、使用される場面に応じて、同じ対象に対して実に様々な語彙が存在していたことが明らかになった。これらはいずれも今日のアイヌ語方言では全く知られていないか、痕跡的にしか残っていない特色であり、アイヌ語の歴史的変遷、アイヌ語の文法構造を探る上で貴重な手がかりを提供するものである。また、この資料の中には、現代の資料、たとえば『アイヌ神謡集』の中の難読語を解明する上で有力な手がかりを提供するものが含まれていることも同時に示した。なお、アイヌ口頭文芸の1人称体の起源の考察においても、古文献の資料が役立つことも示した。
著者
笹岡 利安 和田 努 恒枝 宏史
出版者
富山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

閉経期の情動と糖代謝調節の異常におけるエストロゲンとオレキシンの意義を検討した。雌性マウスでは、雄性とは異なり、高脂肪食負荷による代謝異常から防御された。雌性ではオレキシンが欠損したときのみ糖代謝異常を呈した。高脂肪食負荷した卵巣摘出-オレキシン欠損マウスはさらに過度の体重増加および耐糖能異常を呈した。そこで、高脂肪食負荷した卵巣摘出マウスにエストロゲンを脳室内投与すると耐糖能は改善した。しかし、高脂肪食負荷した卵巣摘出-オレキシン欠損マウスではエストロゲンによる耐糖能改善作用は消失した。以上より、雌性マウスの糖・エネルギー恒常性はエストロゲンとオレキシンの両者により維持されることを示した。