著者
木山 愛莉
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
人間文化研究
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-13, 2006-03-01

近代中国は列強の侵略によって瓜分(分割)される危機に立たされていた。中国を亡国の危機から救うため,いちもく早く国民性の問題に気づいた梁啓超は,進んだ西洋の技術を取り入れることだけでは限界があることに気づき,独立国家を建設するため,まず国民性を改造し,独立自尊の国民を育てなければならないと考えた。梁啓超は,明治時代の日本における14年間に及ぶ亡命生活を体験し,当時の日本の思想家から多大な影響を受けながら,西洋思想も受容し,それを彼の国民性改造の取り組みにも生かされた。本稿は彼が国民性の改造において,もっとも注目した奴隷根性と愛国心という相対する二つの概念を軸に分析し,彼の国民性改造の思想を明らかにせんとしたものである。彼は,中国が数千年にわたって極めて衰え弱まったことについて,最大の原因は中国の古い慣習などによる人々の心に染み込んだ奴隷根性にあると分析し,その奴隷根性こそ,人々の自由人としての人格を奪い,自ら自己の権利を放棄するという弊害をもたらしたと指摘した。彼は国民性を改造するに当たって,最大の課題はその奴隷根性を取り除くことであると認識し,民権,つまり自由権の伸張を主張した。それは古い慣習を打ち破り,古人の束縛から抜け出して,他人に頼らず,自己の独立を確立することである。梁啓超は個人の独立を推し進めてこそ,はじめて一国の独立が実現できると認識し,己を愛する心から国を愛する心を喚起し,民衆に国家の一員である自覚を持つよう呼びかけたのである。
著者
山口 誠二 ヤマグチ セイジ Yamaguchi Seiji 中井 隆介 ナカイ リュウスケ Nakai Ryusuke 高玉 博朗 タカダマ ヒロアキ Takadama Hiroaki
出版者
中部大学生命健康科学研究所
雑誌
生命健康科学研究所紀要 (ISSN:18803040)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.65-72, 2016-03

チタン金属(Ti)及びその合金は、生体親和性に優れ、高い機械的強度を示すので、整形外科や歯科の分野において人工関節や人工歯根などに広く使用されている。しかし、これらの金属は、骨と結合しない、骨粗鬆症骨に適用しにくい、感染症の感染源となり得るなど、様々な課題を抱えている。筆者らは、 Tiに骨結合能を付与できると報告されているNaOH-加熱処理を改良して様々な機能性金属イオンを導入することにより、上述の課題を同時に解決し得る多機能生体活性Tiの開発を進めている。TiをNaOH水溶液に浸漬後、Caと共にSr、Mg、Li、Znなど様々な機能性金属イオンを含む混合溶液に浸漬した。その後、加熱処理を施し、再度、金属イオンを含む水溶液に浸漬した。処理後のTiは、擬似生体環境下でこれらの金属イオンを7日まで徐放し、骨結合能の指標となる骨類似アパタイトを3日以内に旺盛に形成した。Sr、Mgを導入したTiを家兔大腿骨に埋入したところ、処理後のTiはいずれも生体内で周囲の骨形成を促進し、早期に骨と結合した。これらの処理を施したTiは導入した金属イオンの種類に応じて生体内で様々な機能を果たすので整形外科及び歯科用インプラントとして有用であると期待される。
著者
保坂 哲朗 栗本 実咲 沼田 真也
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 = The international journal of tourism science (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.10, pp.57-64, 2017-03

昆虫は地球上の生物多様性の大部分を占め、生態系のサイクルにおいて重要な役割を担うにも拘らず,世界一般的に認知度や好感度の低い生物である.昆虫に対するネガティブなイメージは欧米社会で特に顕著であり,人々が昆虫の保全に関心を持たない大きな要因となっている。一方で,日本は古くから昆虫に親しむ世界でも稀な文化を持ち,現在も昆虫に関連した多くのツーリズムが存在する「昆虫文化先進国」である.したがって本稿では,日本における昆虫を対象とした鑑賞文化の歴史,現代の昆虫ツーリズムの内容,海外の鑑賞文化との比較によって,日本の昆虫文化の特徴を浮き彫りにする.さらに、日本の昆虫ツーリズムの課題と世界の昆虫保全に向けた可能性について展望する.
著者
田村 奈央
出版者
日経BP社
雑誌
日経パソコン (ISSN:02879506)
巻号頁・発行日
no.487, pp.80-93, 2005-08-08

インターネットはすっかり我々の生活に定着したが、便利になればなるほど、それを悪用する者が増える。実際、インターネットでの詐欺被害は年々深刻化している。しかし、手口や適切な対処法を知っておけば決して怖くない。あの手この手で忍び寄る犯罪者からあなたを守るのは、あなた自身しかいない。
著者
釜谷 昌幸
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.856, pp.17-00316-17-00316, 2017 (Released:2017-12-25)
参考文献数
20

This study is aimed at applying the performance-based maintenance (PBM) concept to determine inspection schedule. Previously, the time-based maintenance concept has been applied to determine the inspection schedule for nuclear plant components. In the PBM concept, frequency of inspection is determined by operation time before the inspection. Duration before the next inspection is extended if the component indicates no cracking for a long time. In this study, the change in structural reliability due to applying the PBM concept was investigated by probabilistic fracture mechanics analyses. In order to calculate the probability of leakage or fracture (failure probability), growth of fatigue cracks initiated at the primary coolant pipe of pressurized water reactor nuclear power plants was simulated considering variations in yield and tensile strengths, fatigue crack growth rate, initial crack shape and so on. It was demonstrated that the failure probability was reduced by performing inspections according to the time-based maintenance concept. Frequency rather than detectability of inspection had a larger impact on reducing the failure probability. It was shown that, by applying the PBM concept, the number of inspections could be reduced significantly without increasing the failure probability. It was concluded that the PBM concept could optimize the inspection schedule.
著者
大場 渉 奥田 知靖 菅 輝 塩川 満久 沖原 謙
出版者
沖縄大学
雑誌
沖縄大学人文学部紀要 (ISSN:13458523)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.17-27, 2011-03-31

本研究は、バスケットボールの公式試合中における各選手とボールの移動距離と移動速度を明らかにし、体力的トレーニングの効果的なコーチング資料を提供することを目的とした。分析対象の試合は、第○○回全国高等学校総合体育大会女子準決勝A高校対B高校(74-68でA高校勝利)であり、撮影された画像を基に、DLT法を用いた三次元画像解析法により全選手とボールの移動距離・移動速度を算出した。その主な結果は次の通りである。1)高校女子選手の移動距離の平均と標準偏差は5587±171mであった。2)高校女子選手の最高移動速度の平均と標準偏差は7.03±0.51m/sであった。3)最高移動速度に対する移動速度割合の度数分布から、ゲーム中の運動強度割合は高強度:中強度:低強度は5:4:1であった。これらの結果から、バスケットボールにおけるコンディショニングや戦術に関する若干の指導上の示唆が得られた。

2 0 0 0 OA J-GLOBAL knowledge:

著者
渡邊 勝太郎 木村 考宏 川村 隆浩 松本 尚也 佐藤 智宣 櫛田 達矢 松邑 勝治
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集 第12回情報プロフェッショナルシンポジウム
巻号頁・発行日
pp.109-114, 2015 (Released:2015-12-04)
参考文献数
8

JSTでは、文献、特許、研究者等の情報資産を生かし、日本国内の研究開発の成果・現状をエビデンスベースで把握する、知識インフラ構想を進めている。この一環として、JST情報資産をRDF化したサービス「J-GLOBAL knowledge」を構築した。本発表では、J-GLOBAL knowledgeの概要とJSTで利活用の現状について紹介する。
著者
兼久 勝夫 Awan Rustamani Maqsood 鄭 文儀 積木 久明 白神 孝
出版者
岡山大学資源生物科学研究所
雑誌
岡山大学資源生物科学研究所報告 (ISSN:0916930X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.17-26, 1995

Aphids sometimes severely infest wheat plants, mainly sucking phloem sap and disrupting tissues, and in a few cases act as virus vectors. There are resistant and susceptible varieties of wheat against aphids. DIMBOA (2,4-dihydroxy-7-methoxy-1,4-benzoxazin-3-one) is a substance causing resistance to animals including aphids. The change in the amounts of DIMBOA with growth in eight wheat varieties was estimated in 1990 and 1991. Wheat seeds were sown at mid-November in the former year and harvested in mid-June. Aphids appeared from early April, increased with the growth of the wheat, and finally decreased with the senescence of the wheat. Rhopalosiphum maidis appeared early in the season, R. padi appeared late, Schizaphis graminum and Sitovion akebiae appeared intermittently in the season. S. graminum appeared more frequently on wheat than barley. DIMBOA was detected from wheat but not from barley. Gramine (N,N-dimethyl-indole-3-methanamine) was detected from barley, and is known as an important resistance substance. However gramine could not be detected in wheat. DIMBOA was found in higher amounts in young wheat, and gradually decreased with growth. A clear relationship between the aphid population and DIMBOA amounts could not be observed. However, all the wheat varieties used in this experiment seemed to have resistance against aphids. The resistance was compared with barley susceptible lines. DIMBOA was presumed to share the property of resistance with aconitic acid in wheat.コムギもオオムギと同様に系統・品種によってアブラシによる寄生の程度に差がみられた。数百のコムギ品種について、寄生程度の調査を1989年に予備的に行い、選別した8品種について、1990年と1991年にコムギの抵抗性物質とされているDIMBOAの消長を調べた。寄生程度の比較調査は1989年から1992年まで調べ、年と場所による変動を調べた。数千のオオムギの系統間においてはアブラムシ類の寄生数で百倍以上の差があり、抵抗性と感受性の系統を容易に選別できている。しかし、コムギにおいては数十倍の寄生数を示す系統は見出せなかった。系統間に年と場所での抵抗性と感受性の差が見られても、遺伝的であることが確認された系統はなかった。オオムギと比較して、供試した数百のコムギ系統の中には、アブラムシの寄生が非常に多い感受性系統はなく、供試した全てが多少とも抵抗性の形質を示した。コムギの抵抗性物質であるDIMBOAは冬期2月下旬で約1μg/g新鮮葉の含量であり、生育に伴って減少した。減少の程度は系統間で差が余りなかった。換言するとDIMBOAのない、あるいは極端に少量の系統はなく、全ての系統で抵抗性の一因となっていると考察された。コムギにおいては、オオムギで顕著な抵抗性物質と考えられているインドールアルカロイドのグラミンは検出されなかったが、オオムギで検出されなかったDIMBOAが顕著な抵抗性成分として検出され、これによって両ムギの質的な差異が示された。コムギはもう一つの抵抗性物質である水溶性のアコニット酸をオオムギの約10倍も含有しており、コムギではDIMBOAとアコニット酸の両者がアブラムシ抵抗性物質として作用していると考えられた。
著者
石上文正
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 電子版 (ISSN:21858373)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-16, 2016-03-31

2015 年6 月23 日、安倍晋三首相は、「戦後70 年沖縄全戦没者追悼式」に参列した。この行事を扱った英国のThe Guardian の記事を、「節合」ではなく「結合」という概念を用いて分析した。その結果、この記事の主たるテーマは、安倍首相・政権への批判であり、その理由・原因の第一は、平和憲法の解釈の変更を伴う安保法案制定の動きであり、第2 は、基地の過重負担とそれと深く関わっている基地移設問題であることが判明した。安倍首相への批判に併せて、安倍首相のイメージを悪化させるためのさまざまな手段(たとえば、安倍首相への戦争イメージの付与)が用いられている。同記事の最後に「性奴隷もしくは慰安婦」に関するトピックが結合されていて、「節合」概念を考えるために、この結合が「必然的」なものか「非必然的」なものかについても議論した。
著者
大越 愛子
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.28-36, 2011

戦争や武力紛争時に生じる性暴力に関しては、多くの論ずべきテーマがあろう。本論考では、この性差別的世界で、長い間沈黙を強いられ、スティグマ化されてきたが、ついに20世紀末に、彼女たちの経験してきた苦悩と加害者への怒りを語ることを決意されたサバイバーたちの観点に、焦点を当てたい。私は20年前、最初にカムアウトされ、日本軍と兵士たちを厳しく告発された、いわゆる日本軍「慰安婦」制度のサバイバー金学順の証言を忘れることはできない。特に、彼女がその惨めな生活のために「女の歓び」を奪われたと話されたことに衝撃を受けた。私はこの証言は、性暴力の核心をつくと考え、それを論じたが、今から思えば不十分なものであったと思う。これに関して、ポストコロニアル・フェミニスト岡真理から、そうした証言が「男性中心的な性表現」でなされることの矛盾を指摘された。だが私の意図は、サバイバーが性的主体として立ちあらわれ、発話されたことの衝撃を伝えることにあったのだと、当論文で改めて主張したい。サバイバー証言をいかに聞き取るかを考えるためにも、この種の議論は重要だろう。さらに、こうしたサバイバーたちの証言への応答責任として開催された日本軍性奴隷制を裁く「女性国際戦犯法廷」の意義を論じたい。これは近代の戦争と軍事システムという構造的暴力を裁く画期的な試みである。しかしこの「法廷」は、日本政府や少なからぬ論者によっても無視され続けてきた。10年経った現在、この「法廷」を受け継ぐ試みが新たに起こりつつある。構造的暴力と闘い続けるという倫理的責任が、私たちにいっそう強く求められているということだろう。
著者
新谷 紀人 橋本 均 馬場 明道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.4, pp.274-280, 2004 (Released:2004-03-25)
参考文献数
35
被引用文献数
4 5 1

PACAPは神経伝達物質·神経調節因子としての作用のほか,神経栄養因子様の作用や神経発生の調節作用が示唆されている神経ペプチドである.これまで主として脳室内投与実験からPACAPの高次脳機能調節作用の一端が示唆されてきた.しかし,薬理学的濃度よりも極めて低濃度でも作用が認められることから,PACAP投与実験の結果が生体内におけるPACAPの働きとして普遍化できるものではなかった.そこで最近著者らは,PACAPの遺伝子欠損マウス(PACAP-KO)を作成し,主として行動薬理学的解析により本マウスの種々の高次脳機能を解析した.PACAP-KOは新規環境や新規物体刺激に対する反応性が変化しており,不安レベルの低下あるいは好奇心の亢進が認められた.また各種中枢神経作用薬に対する反応性が変化していることも見い出された.PACAP-KOでは記憶·学習の分子基盤として考えられているin vivo LTP形成や,記憶·学習行動にも異常が見い出された.また雌性PACAP-KOでは交配時の行動異常に起因すると考えられる妊孕率の低下が認められた.以上の結果により,多様な高次脳機能の調節にPACAPが関与することが示されたとともに,内因性PACAPの予想外の生理機能が見い出された.また,これらの精神運動行動の異常はある種のヒト精神疾患の一面を反映すると考えられることから,本マウスがこれらの疾患の発症メカニズム等を解析する上で有用なツールとなる可能性が示されたと言える.
著者
久野 靖 和田 勉 中山 泰一 Yasushi Kuno Tsutomu Wada Yasuichi Nakayama
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌. 教育とコンピュータ = IPSJ transactions. TCE
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.48-61, 2015-06-19 (Released:2016-07-25)

情報および情報技術は現代社会の基盤となっており,社会の構成員がこれらの内容を身につけてから社会に出ることが重要となってきている.世界の多くの国がこのため,情報教育に注力してきているが,それらの内容とわが国の現状には隔たりがある.本稿では積極的な情報教育を進めている各国の状況を整理・分析し,そのうえでわが国の情報教育が目標とすべきことと,初等中等段階における情報教育の体系的なカリキュラムについて提案する.
著者
Hironori IWAI Shoken ISHII Seiji KAWAMURA Eiichi SATO Kenichi KUSUNOKI
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.96A, pp.3-23, 2018 (Released:2018-02-19)
参考文献数
61
被引用文献数
4

During the Tokyo Metropolitan Area Convection Study for Extreme Weather Resilient Cities (TOMACS), many isolated convective storms developed in the southern Kanto Plain on August 17, 2012. The aim of this study was to clarify the dynamics leading to the convection initiation of one of them using different remote sensing instruments. Before the convection initiation, a southeasterly flow transported water vapor inland from Tokyo Bay and the well-mixed and a cumulus-cloud-topped convective boundary layer developed. A convergence line in the form of a sea breeze front (SBF) also moved inland from Tokyo Bay. A near-surface air parcel was lifted to its lifting condensation level (LCL) by an updraft in a convergence zone with a 3 km horizontal scale, which formed the west edge of the convergence line. The saturated air parcel at the LCL was then lifted to its level of free convection (LFC) by the updrafts associated with thermals below the cumulus cloud base. A Ku-band radar detected the first echo of hydrometeors about 6 minutes after the air parcel reached its LFC, then the convective cell developed rapidly. When an SBF arriving from Sagami Bay passed under the cell, the updraft over the nose of the SBF triggered a new precipitation cell, but no intensification of the preexisting cell was observed.