著者
五十嵐 治一 川人 光男
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.1104-1113, 1994-06-25
被引用文献数
5

視覚情報処理における光学の逆問題の解法として,標準正則化理論によるアプローチが有名である.しかし標準正則化理論ではエネルギー関数が2次形式に制限されており,正則化パラメータも経験的に定めているのが実情である.本論文では,こうした視覚情報処理における逆問題のみならず,一般的な逆問題の解法として2層確率場モデルを用いた一つの方法を提案する.2層確率場モデルでは,二つの確率場が階層構造をなしており,下層の確率場の状態が与えられたときに上層の確率場の状態の起こりやすさを表した条件付き確率によって緩やからに結合されている.本方法では,シミュレーテッドアニーリングによりエネルギー関数の最小状態を求めると共に,正則化パラメータなどのエネルギー関数中の重み係数の値を適切な値に自動調節することが可能である.例題として,原画像に関する正確なエッジ情報を用いて観測画像から原画像を復元する.2次元濃淡画像の修復問題を取り上げた.アニーリングによるエネルギー最小状態の探索処理と,エネルギー関数中の重み係数の調整アルゴリズムは,ともに並列化されており,SIMD型の並列計算機であるコネクションマシン(CM-2)を用いて大きな画像(128×64)を対象にすることが可能となった.計算機実験により,本論文で提案する逆問題の解法の正当性を検証することができた.
著者
長崎 栄三 国宗 進 太田 伸也 五十嵐 一博 滝井 章 近藤 裕 熊倉 啓之 長尾 篤志 吉川 成夫 久保 良宏 上田 雅也 牛場 正則 日下 勝豊 塩野 友美 島崎 晃 島田 功 榛葉 伸吾 西村 圭一 早川 健 藤森 章弘 牧野 宏 松元 新一郎 望月 美樹 森 照明 藤村 和男 半田 進 家田 晴行 松田 泉 浅沼 健一 小俣 弘子 清水 壽典 村越 新 安部 浩一 飯嶌 一博 久永 靖史 山根 浩孝 山口 啓
出版者
公益社団法人日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.11-21, 2008-04-01
被引用文献数
5

算数・数学教育における新たな目標として「算数・数学の力」を考えた.算数・数学の力とは,算数・数学のあらゆる活動に関わるはたらきで,大きく「算数・数学を生み出す力」,「算数・数学を使う力」,「算数・数学で表す力」,「算数・数学で考え合う力」の4つの力で構成される.初めに,我が国の算数・数学科の教育課程の史的分析,算数・数学のカリキュラムの国際比較,算数・数学教科書の研究,数学的な考え方・問題解法の史的分析,社会の算数・数学教育に関する意識の分析を行った.その上で,算数・数学教育の目的・目標に算数・数学の力を位置付けた.そこでは,算数・数学教育の目標を概念理解と能力習得とで均衡を図った.そして,算数・数学の力を,算数・数学的内容との一体化,算数的活動・数学的活動の重視などの原則の下で構造化し,その質の高まりを具体化するための算数・数学の力の水準の重要性を指摘した.
著者
渡辺 哲郎 五十嵐 弘 松本 邦臣 関 誠夫 間瀬 定明 関沢 泰治
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:03851559)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.291-296, 1977-08-20
被引用文献数
11

新規なタイプのイネいもち病防除剤につき研究したところ有効なプロベナゾール(オリゼメート^[○!R], 3-allyloxy-1, 2-benzisothiazole-1, 1-dioxide)を水銀, 燐, 塩素を含まない物質として見いだした.本物質は400ppm液としてイネに散布することにより予防的効力を発揮する.またイネの根を経由する適用法であるところの土壌処理, 土壌灌注, 薬液への浸根あるいは水面施用のいずれによっても有効であった.とくに興味あることは根を通じての施用法の場合に10アール当たり200g以下というかなり少ない薬量で十分な薬効を発揮することである.このことは本物質がこれらの施用法による利用にきわめて適しているものと考えられた.これに反し母核である1, 2-benzisothiazole-1, 1-dioxideは散布法あるいは灌注法においてプロベナゾールよりはるかに劣り, 誘導体としたことによる有利性が認められた.なお, プロベナゾールの数種作物の生育に対する悪影響は各種施用ルートにより試験されたが, 実用上の薬量ではまったく認められなかった.
著者
遠部 慎 松田 朝由 小野 寿美子 畑山 智史 五十嵐 聡江
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会研究発表会講演集 第21回廃棄物資源循環学会研究発表会
巻号頁・発行日
pp.78, 2010 (Released:2010-11-07)

瀬戸内海に所在する豊島において、私達は考古学的な調査、研究活動を継続的に行ってきた。豊島における考古学的な調査研究は、例えば、産業廃棄物不法投棄現場である「豊島水ヶ浦」の復元、離島におけるパブリックアーケオロジー、現在その技術体系が失われつつある豊島石の整理などに繋がり、きわめて現代的な意義を有している。さらに、近年新たな研究成果の報告、近隣の小豊島においても新資料の発見が相次ぐ中、豊島周辺において、考古学的な広報、普及活動は重要な課題となっている。 これまでに、学会発表や島の学校などでの取り組み、里海探検隊と共同作業があるが、フィールドでの活動部分については、いくつかの課題が残されていた。本発表では、豊島でのフィールド活動の一端を紹介する。
著者
佐藤 雄隆 金子 俊一 五十嵐 悟 丹羽 義典 山本 和彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.202, pp.15-22, 2001-07-11
被引用文献数
1

継続的に情景を撮影した画像時系列において新たな出現物体を検出し背景から分離するための画像パタン検出技術は, 環境監視, メディア処理などの様々な分野において重要となりつつある.本研究では, 明度変動の影響を抑えながら, ピクセル単位の分解能で局所的なテクスチャを評価するRRFを提案し, 本来のテクスチャ・パタンのみの類似を検出するという特性を実現している.これにより, 出現物体のもつ明度分布に依存せず, しかも影などの不良条件による明度変動の影響を低減した背景差分を実現している.理論的検討および実画像を用いた実験を行い, 手法の有効性を示す.
著者
長谷川 聡 菊池 亮 五十嵐 大 濱田 浩気 千田 浩司
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. IOT, [インターネットと運用技術] (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.27, pp.1-7, 2015-05-14

近年,プライバシを保護しながら統計分析を行うことができる技術として,データを撹乱してプライバシを保護し,その後データの分布を推定して得る (再構築と呼ぶ),撹乱再構築法が注目されている.従来の撹乱再構築法では,元データに対する一切の仮定をおかず,元データの分布を推定することから,精度良く再構築を行うためには大量のデータを必要としていた.しかしながら,実際には再構築に十分なデータ数がない場合も多く,そのような際でも精度よく再構築したいニーズがある.そこで,十分にデータがない場合でも精度よく再構築を行えるよう,分布の推定によく用いられる有限混合モデルと呼ばれる確率分布を仮定した新たな再構築法を提案する.
著者
山本 美智子 松田 勉 須賀 万智 古川 綾 五十嵐 崇子 林 雅彦 杉森 裕樹
出版者
日本社会薬学会
雑誌
社会薬学 (ISSN:09110585)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.8-17, 2013-12-10 (Released:2015-06-26)
参考文献数
12

The Medication Guides for Patients (MGPs) are being offered as information on prescription drugs for patients by the Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW). The MHLW published the Risk Management Plan in April, 2012, and it noted that the MGPs should be utilized in usual risk minimization activities. It is not clear, however, whether the MGPs are efficiently utilized in actual settings. Hence, we conducted a questionnaire survey of the pharmacists in the pharmacies with dispensing and the hospitals in Mie and Yamagata prefectures to investigate the actual circumstances of MGPs utilization and to understand the existing barriers associated with the use of the MGPs as medication instructions for patients. We sent the questionnaires by mail and obtained responses from 444 facilities (33.9%) of 1,309 facilities. The recognition level of the MGPs was about 30 percent in the dispensing pharmacies, and about 50 percent in the hospitals. The MGPs were utilized as a common communication tool with the patients in approximately 20 percent of the facilities. Many respondents requested that the frequency of important and other adverse reactions should be described in the MGPs, and wider ranges of MGPs should be further implemented.Moreover, our data suggests the problem is that the present MGPs are mainly applied to special types of patients, such as those with higher literacy level or those who requested a detailed explanation. Thus, it is apparent that it is necessary to review the MGPs contents again to improve their practical benefits and disseminate them more widely.
著者
前川 喜久雄 菊池 英明 五十嵐 陽介
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLC, 言語理解とコミュニケーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.521, pp.25-30, 2001-12-14
被引用文献数
3

本稿では日本語の韻律ラベリングスキームであるJ_ToBIを拡張した新スキーム、X-JToBI(eXtended J_ToBI)を提案する。新スキームでは分節音ラベリングが実施されていることを前提として、J_ToBIの問題点であったtoneラベル位置と物理的イベントの不一致を解消した。さらに自発音声の韻律ラベリングを実施するために必要とされる多くの拡張を施した。この拡張には、BPMインベントリの拡張と表示方法の変更、BIラベルの詳細化、フィラー用ラベルの提案、卓立のラベリング法などが含まれる。
著者
正木 彰伍 五十嵐 大 菊池 亮 齋藤 恆和 千田 浩司 廣田 啓一
雑誌
研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC) (ISSN:21888655)
巻号頁・発行日
vol.2015-CSEC-69, no.28, pp.1-6, 2015-05-14

パーソナルデータの安全な利活用には,データの安全性と有用性の両立が必要である.安全性については代表的な k-匿名性や,k-匿名性を確率的な指標に拡張した Pk-匿名性が提案されるなど,匿名化技術が広く研究されている.一方で,匿名化データの有用性についての議論は未だ限定的である.特に,レコード数などのデータの特徴と有用性の関係性を明らかにすることは,実用上非常に有益である.しかし,これまで行われてきた,ウェブ上で公開されている実データなどを用いた実験では,用いるデータの特徴が限定的になり,議論が困難となっていた.そこで本稿では,多くのデータを包含する一般的な模擬データモデルを利用した評価法を提案し,この模擬データに,Pk-匿名化を適用した実験を行う.さらに実験結果から,有用性と模擬データモデルのパラメーターの関係について調べ,特定のパラメーターから有用性を予測できることがわかった.
著者
五十嵐 信
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
資源と素材 (ISSN:09161740)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.679-688, 1994-08-25 (Released:2011-01-27)
参考文献数
5

Akabira Colliery has been opend since 1938. The mine has many minable coal seams and is recentry extracting six seams, of them. The seams incline steeply toward syncline axis which runs across the central part of the mine from south to north. The mine has continued to product annualy washing coal from 1Mt to 2Mt since 1960's on a condition that there were mining trouble and safty caused by many faults and a lot of methane gas flow.In 1986, a change of coal situation that a demand of domestic coal took a sudden turn for the decrease because on an amendment of coal policy in Japan made Akabira Colliery determine to improve the basic structure of mining and safty. As the result, the structure of ventilation and transportation was simplified and made more efficient. And mining inside the shaft saftypillar has become a necessity. Heavy mechanised mining system replaced manual one. Akabira Colliery has become a new mine and come to be able to continue production in spite of severe situiation of domestic coal. Since the shaft is apt to be influenced or possibly damaged by ground movements, the prediction of shaft behavior due to mining, the monitoring of shaft deformations, and the repair of shaft damage should be executed as precisely as possible.This report shows experience of a drastic remodeling of mining structure and safty one which was carried out at Akabira Colliery from 1986 to 1994.
著者
種村 健太郎 五十嵐 勝秀 松上 稔子 相崎 健一 北嶋 聡 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.146, 2010 (Released:2010-08-18)

個体の胎生期~幼若期は脳の発生期~発達期に相当し,その基本構造と共に,神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナルによ り神経回路が形成される時期である。従って,この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルかく乱は,異常な神経回路形 成を誘発し,それが成熟後の異常行動として顕在化する蓋然性がある。しかしながら,従来の成熟動物を主対象とした神経行動毒性試 験では,その様な遅発性の異常を検出し難い。そこで,我々は暴露タイミング,情動・認知行動解析,及び神経科学的物証の収集の最 適化により,遅発性中枢神経毒性の発現メカニズム解析と効率的な検出システムの構築を進めている。今回,アミノ酸系神経伝達物質 受容体シグナルをかく乱するイボテン酸(テングダケ毒成分)の結果を報告する。 胎生期(胎生14.5日齢),幼若期(生後2週齢),及び成熟期(生後11週齢)のマウスに対して,イボテン酸(1mg/kg)を単回強制経口投 与(胎生期は母獣投与による経胎盤暴露)した。いずれの群にも,一般状態の異常を認めなかったが,生後12~13週齢時の行動解析に おいて,幼若期投与群に,オープンフィールド試験と明暗往来試験における不安関連行動の逸脱,条件付け学習記憶試験における音 連想記憶能の低下,プレパルス驚愕反応抑制試験における顕著な抑制不全が認められた。投与後2,4,8及び24時間における,海馬 のPercellome法による網羅的遺伝子発現解析の結果,幼若期投与群では,神経系発達において重要な役割を演じるGnRHシグナルや CRHシグナル及びEph受容体シグナルへの影響が,成熟期投与群と比べて極めて大きいことが明らかとなった。これらは幼若期の海馬 の感受性がイボテン酸に対して高いことを示し,また,そのプロファイルは成熟後の遅発性の中枢神経行動毒性発現の分子メカニズム 解明の端緒となる情報をもたらすと考えられた。
著者
佐藤 有紀 五十嵐 祐 吉田 俊和 SATO Yuki IGARASHI Tasuku YOSHIDA Toshikazu
出版者
名古屋大学大学院教育発達科学研究科
雑誌
名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要 (ISSN:13461729)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.39-47, 2013-12-27 (Released:2014-03-06)

Today, most Japanese corporations implement a merit pay or pay-for-performance system in order to enhance job performance. This study investigated the effect of pay-for-performance system on employees’ preference for organizational citizenship behavior using the hypothetical Prisoner’s Dilemma. Based on regulatory focus theory (Higgins, 1997), we focused on reward expectation for performance (e.g., promotion) and performance pressure (e.g., fears of failure), both of which presumably affect employees’ approach motivation in a different way. We hypothesized that employees’ reward expectation for performance increases their preference for organizational citizenship behavior while performance pressure decreases it. Three hundred and nineteen Japanese employees completed a take-home questionnaire; however, we only examined 175 of those (126 men and 49 women) who were working under management by objectives. Logistic regression analysis confirmed our hypotheses, suggesting that under pressure employees prioritize their individualized objectives rather than cooperate with others for a common goal. Expectation for reward increased employees’ preference for cooperative behavior when a situation calls for dealing with a coworker’s favor. Furthermore, these results were seen only for employees under pay-for-performance system such that those under the traditional system showed the reverse trend. Future studies should examine situational factors as well as each employee’s approach motivation.
著者
川本 善和 檜山 礼秀 根本 美佳 島 弘光 河原 一茂 島田 和基 吉成 勝海 浅野 澄明 桟 淑行 五十嵐 孝義 齋藤 仁弘 西山 實
出版者
Japan Prosthodontic Society
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.632-641, 2001-10-10
被引用文献数
15 3

目的: 本研究の目的は, 高フィラー型硬質レジン修復物の補修時に追加築盛を行う際の表面処理条件が曲げ接着強さに及ぼす影響を明らかにすることである.<BR>方法: 高フィラー型硬質レジンとしてエステニア (エナメル質用レジンEE, 象牙質用レジンED) を用い, 製造者指示に従い重合した被着体 (2×2×12.5mm) に, 処理なし (NT), シラン処理 (S), ボンディング処理 (B), シラン処理とボンディング処理を併用 (SB) の条件で表面処理を行った後に, 直接法 (D) ではクリアフィルAP-Xおよび間接法 (I) ではEEによる追加築盛を行って重合し, 曲げ接着試験用試験体 (2×2×25mm) を作製した. 作製した試験体は, 37℃で24時間水中保管後に3点曲げ試験を行い, 曲げ接着強さとした.<BR>結果: 被着体EEおよびEDの両者で, 直接法はD-S≒D-SB>D-B>D-NTの順に, SとSB間を除き有意 (one-way ANOVA, P<0.05) に大きな値を示し, 間接法はI-SB>I-S>IB>I-NTの順に有意に大きな値を示した. また, 破断面のSEM観察では, D-NTおよび1-NT以外のすべての処理条件で, 被着体および追加築盛体での凝集破壊が認められた.<BR>結論: 直接法および間接法の両者で, SBとSが最も効果的で, 次いでBが有効であった.
著者
五十嵐 圭日子 鮫島 正浩
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.218-222, 2014-04-01 (Released:2015-04-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

植物資源からの燃料や化成品生産を実現するためには,セルロースの効率的な分解が必須であると考えられているが,セルラーゼによるセルロースの加水分解速度は非常に遅く,セルロース系バイオマス変換プロセスのボトルネックとなっている.そこで筆者らは,プロセッシブなセルラーゼによる結晶性セルロースの分解メカニズムを明らかにするために,1秒未満の時間分解能およびナノメートルの空間分解能を有する高速原子間力顕微鏡を用いたセルラーゼの単分子観察を行ったところ,トリコデルマ菌由来セロビオヒドロラーゼIの分子が,結晶セルロースの表面に沿って一方向にスライドするように観察された.また,その動きは活性をなくした変異酵素では見られなかったことから,本酵素がセルロースを加水分解しながらプロセッシブに進んでいるというこれまでの生化学的な結果が,初めて分子レベルで証明された.個々の分子の動きは「動く」ステップと「止まる」ステップを繰り返していたが,時間とともにセルロース表面における酵素分子の渋滞が生じ,セルロースの分解速度が遅くなることが明らかとなった.