著者
山浦 潔 伊藤 文就 池田 修 長谷川 匡俊
出版者
一般社団法人 日本接着学会
雑誌
日本接着学会誌 (ISSN:09164812)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.92-96, 2008-03-01 (Released:2014-06-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1

汎用的樹脂ポリエチレンテレフタレート(PET)上にインジウム-錫酸化物(ITO)を被覆した導電性透明フィルムに紫外線を照射し,PETの劣化に対するITOの影響を調べた。試料は劣化による重量減少を示し,ITOで被覆されたPETフィルムの重量減少率はPETフィルム単独の場合を上回っていた。さらに,XPSの測定結果はITOとの界面でPETフィルムが分解している事を示した。両結果とも,ITOによる分解促進を示唆する結果である。また,可視紫外光の照射によるITO及びTiO2電極の電位変化を水溶液中で測定したところ,照射によって電極電位は両者とも卑電位方向に変化した。これらの結果から上述のPETの分解がITOの光触媒的な作用(酸化)である可能性がある。この作用を考慮し,エポキシ樹脂接着剤を用いて接着したITOと樹脂フィルムに紫外光照射を行ったところ,接着強度にもITOの影響が観察された。
著者
伊藤 豊 竹内 誠人 見上 柊人 川村 洋平
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.136, no.5, pp.33-39, 2020-05-31 (Released:2020-05-27)
参考文献数
34
被引用文献数
1

Productivity, safety and its improvement is also an integral part of a good mining operation. In recent times, due to constraints on time and cost, it has become increasingly harder to conduct training and safety inductions at mine sites. For the purpose of overcoming these limitations, the use of virtual reality (VR) is proposed for mining education and training. VR has already been introduced in the education and training of miners overseas, and quantitative studies on the effects of using VR for miner's education and training have been made. However, Japan has only one such application of VR for mining education, namely, “Virtual Mining Practice System” which was produced by Akita University, and there are relatively few cases where VR has been introduced in the Japanese mining industry. Furthermore, there has been no quantitative study to date on the effects of education using VR for mining education. Therefore, the objective of this study is to investigate the effects of a class that utilizes a VR application developed for mining education (Mining VR), as well as evaluate its learning outcomes. In this study, a method called randomized controlled trial (RCT) is used for evaluating Mining VR's effectiveness. Study participants are divided two groups randomly where one class makes use of Mining VR and another class using other non-VR material. After the classes are completed, a test is conducted and the average results of each group are compared by T-test. The results of this experiment showed that there were no statistically significant differences in skill of “understanding” and “knowledge retention” comparing two groups. On the other hand, results suggested that Mining VR has improved students'“ motivation” for class when using Mining VR.
著者
伊藤 廣紀 蒔苗 耕司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F3(土木情報学) (ISSN:21856591)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.II_36-II_42, 2013 (Released:2014-03-19)
参考文献数
14

近年スマートフォンの普及により,位置情報を利用したARアプリケーションの需要が高まっている.しかし,携帯端末上におけるAR技術の利用は処理コストが高く,それに耐えうる高速な手法が求められている.中でもオクルージョン処理は,仮想物体を違和感無く重畳するために欠かせない処理であるが,現実空間の奥行きデータをリアルタイムで取得する必要がある.本研究では,現実空間から取得した地物モデルデータによってオクルージョン処理を行う手法を提案した.結果として,携帯端末の携行性を犠牲にすることなく,オクルージョン処理を行うことができた.問題点として,センサーやモデルデータについて,高い精度が求められることがわかった.今後はデータを動的に取得する手法や,ズレを補正するための手法について,研究していく必要がある.
著者
丸、瑠璃子 谷島 一嘉 白石 信尚 伊藤 雅夫
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

昭和59、60、61年度科学研究助成により作成した空気置換式人体体積計の精度向上を図りの体学学生を中心に、男性175名、女性22名の被検者について体容積および諸形態を計測した。計測データから、各種階層 (性別、身長別、体重別、年令別) の被検者郡について、体比重と体型との関連性について検討した。また、女性6名について、CT横断面像から大腿部および腹部3部位の皮下脂肪面積を求め、体比重との関連性について検討した。1) 高精度人体容積計の精度 (信頼測定範囲、最低50ml) に見合った体重測定を可能にするために、読取限度1gの高精度電子秤量計 (Sartorius F150g) を購入し測定精度の向上を図った。2) 男性170名、女性22名のを対象に実測した体比重は、男子1.0592±0.0157女性1.048±0.033であり男性において高値を示す。この時の皮脂厚 (腹部、背部、上腕部の合計) は、男子44.2±23.4、女性44.6±16.5であり、いずれも体比重との間に高い正の相関が認められた。3) 男子大学生170名の体比重を体重別に集計すると、体重の平均-1.5σ以下で1.0704±0.0041、- (0.5〜1.5) σで1.0692±0.0065、±0.5σで1.0593±0.0104+ (0.5〜1.5) σで1.0508±0.0196、+1.5σ以上で1.0381±0.0179となり、明らかに過体重群において低い値を示している。4) 中年 (45〜55才) 女性6名におけるの体比重は (1.0106 1.056) 、1.0379±0.0179であり、女子大学生の1.048±0.033に比べて、明らかに低い値を示している。また、皮脂厚も61.4mmと、女子大学生に比べて有意に厚くなっている。他の形態計測値からも、中年女性の肥満傾向は明らかである。5) CT画像から求めた皮下脂肪面積と体比重との相関係数は、大腿部及び下腹部 (臍点下部5cm) で高値を示した。
著者
原 徹 田中 啓一 前畑 京介 満田 和久 山崎 典子 大崎 光明 大田 繁正 渡邉 克晃 于 秀珍 山中 良浩 伊藤 琢司
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.289-291, 2009-12-30 (Released:2020-01-21)
参考文献数
8
被引用文献数
1

透過型電子顕微鏡(TEM)におけるEDS分析のエネルギー分解能を大幅に向上させることを目的として,超伝導遷移端センサ型マイクロカロリメータをTEMに搭載した分析電顕を開発した.実験機として単素子検出器を無冷媒式冷凍機で駆動する検出器を製作し,現在,TEMの性能を損なわずにシリコンKα線の半値幅として7.6 eVを達成しており,多くの近接したピークを分離した測定が可能になっている.
著者
伊藤 重剛
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
vol.425, pp.113-122, 1991

1.はじめに前報では古典古代の神域の配置計画について分析し,とくにヘレニズム期およびローマ期の神域が,グリッドを用いて平面が計画されていることを述べた。最初グリッドで基本計画が決定されると,次の段階で様々な微調整が行われ,さらに詳細部が決定されていくと仮定し,現在遺跡に見られる建築遺構について,最終的な寸法がどのような手順を経て決定されたかを実証した。本稿では,このグリッドあるいはそのグリッドの1単位であるモジュールを使用して,神域のみならず単体の建築も設計されたことを示し,また最終寸法が決定されるまでの過程を実証する。2.オリンピアのレオニダイオンレオニダイオンはオリンピック競技の参加選手や役員の宿泊施設として,紀元前4世紀の中頃に建設された。建物各部の寸法を,古代尺の1ftを0.3m前後と考えてこれに換算し,この換算値による各部の比の値ができるだけ簡潔で,できるだけ端数のない寸法となるような1ftの値を探す。分析の結果,中庭列柱の真々距離29.67mを100ftと仮定したイオニア尺に相当する0.2967mが,1ftの値としてもっとも合理的な値と判明した。これをもとにして,設計の手順を次のように推定した。最初にまず,設計の基本モジュールを35ftと決めグリッドを設定した。このグリッドは各部屋の基本寸法とされ,それぞれ6個ずつが正方形をなす形で配置された。そしてこの部屋群の内側と外側それぞれに,奥行き20ftのペリスタイルの列柱廊を廻した。この時点で内側列柱の長さは真々で100ft,外側列柱の長さは同じく250ft,並んだ部屋群は内側140ft外側210ftの大きさとなった。ところが,西側に配列された部屋の前にそれぞれ奥行き20ftの前室が付加され,最終的に東西方向の外側列柱の長さは270ftと変更された。ドリス式の内側列柱は真々100ftの長さで,柱数は各辺12本である。標準柱間は微調整ののち9_<1/16>ft,隅の柱間は9_<3/16>ftと決定された。現在の柱直径と柱間の関係から判断して,本来は集柱式であったと考えられ,その関係を当てはめて柱の直径は最終的に2_<15/16>ftとされた。イオニア式の外側列柱については,基本計画で真々長さ250ftと270ftとされた。また真々柱間は7_<1/2>ftとされていたが,最終的に7_<9/16>ftおよび7_<17/32>ftと微調整された。3.エピダウロスのギムナジオンヘプフナーによると,年代は紀元前3世紀とされている。オリンピアのレオニダイオンと同じ方法で1ftの俑を想定して,設計の手順を推定する。まず最初に,35ftを1モジュールとして,グリッドが設定された。そしてこれによって,東側と西側の外提長さが227_<1/2>ft(6.5モジュール),北側と南側のそれが210ft(6モジュール),東・西部屋幅,南部屋幅が43_<1/8>ft(1.5モジュール),北部屋幅十柱廊幅が42_<1/2>ft(1.25モジュール),中庭列柱廊長さが140ft(4モジュール)と決定された。さらに中庭ペリスタイルの列柱の真々長さが. 100ftの完数の値で決定された。ここまでが,一応第一段階となり,35ftのグリッドを用いて全体の基本的な形が決定された。次に第二段階に入り,部屋の割り付けが決められる。南側の部屋割りは,主室(Y)に建物の東西幅を9等分しその7/9をあて,両側にある3室には1/9をあてている。つまり1:7:1の比で分割している。東側の一連の部屋(Q, R, S, T, U)とそれに対応する部屋(H, I, J, K, L)は基本的に3モジュールの大きさで,それを東側の部屋群では1:8:1に分割し,西側では60ftという完数と43_<3/4>という1.5モジュールに相当する寸法に分割した。北側の部屋群は第一段階の分割をそのまま踏襲した。4.結論以上の考察から,これら二つのペリスタイルの建物が,どちらも1モジュールを35ftとするグリッドプランで,計画されたことが明らかになった。35ftという寸法がどちらにも共通していることから,これはヘレニズム時代の初期から中期にかけての,こうしたレオニダイオンのような宿泊施設やギムナジオンなどの,実用的な建物の部屋の基本単位として,標準的な大きさのひとつだったと考えられる。一旦基本計画が決められると,その後は簡潔な比例を用いたり,完数のftの寸法を用いたりしながら,各部分の寸法を決定し,最後に隅の柱間などの微調整が行われた。
著者
伊藤 正俊 木下 美和子
出版者
Meeting of Osaka Dermatological Association
雑誌
皮膚 (ISSN:00181390)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.252-255, 1988 (Released:2010-08-25)
参考文献数
5

乾皮症10例, 尋常性魚鱗癬2例, アトピー性皮膚炎2例, 及び進行性指掌角皮症9例の計23例に尿素10%含有クリーム (フェルゼア®) を用い臨床効果を検討した。その結果, 極めて有用5例, かなり有用13例, やや有用5例の成績が得られた。疾患別では尋常性魚鱗癬, 及びアトピー性皮膚炎で著しい効果を認めた。しかし, 乾皮症, 進行性指掌角皮症の一部の症例では皮疹の改善があまり著明でない症例を認めた。全例で副作用は認められなかった。
著者
大島千佳 中山功一 伊藤直樹 西本一志 安田清 細井尚人 奥村浩 堀川悦夫
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2013-MUS-100, no.1, pp.1-6, 2013-08-24

シンセサイザのボコーダの機能を利用し,発声をリアルタイムに長調や短調の音楽に変換することによる,気分の変化について調べた.音楽はさらに MusiCuddle というシステムを利用し,ユーザの発声と同じ音高から開始された.実験の結果,気分の変化に関して,短調と長調の和声フレーズの条件の間で,「陽気な」 「悲観した」 に差異が認められた.ここから,憂鬱な気分であっても,自分の発声が強制的に楽しい気分を誘う音楽に変換されると,気分が楽しくなることが示唆された.
著者
村山 篤子 古田 和浩 金子 慶子 田中 照也 伊藤 直子 山崎 貴子 岩森 大 堀田 康雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.174, 2007

<BR><B>【目的】</B><BR> 生体活動により、生物内に強い酸化作用を有する過酸化物(ラジカル)が発生する。野菜は、この過酸化物を打ち消すために、体内で還元力の強いビタミンCを生成する。一方、野菜を厳しい環境ストレス化におくことで、それに対抗するために、酵素の働きを活性化させて、抗酸化物質「ビタミンC」をより多く生成して体を守ろうとする。今回、これらのメカニズムを応用した低温スチーム調理方法を考案した。<BR> <B>【方法】</B><BR> ビタミンCを有する野菜として、春菊およびほうれん草を用いた。これらの野菜を、スチーム機能を有する家庭用オーブンレンジを用いて、庫内温度を40℃程度にコントロールし、低温スチーム調理にて加熱をおこない、ビタミンC含有量の差を測定した。<BR> <B>【結果】</B><BR> その結果、春菊では低温スチーム調理温度が約37℃~47℃で10分、ほうれん草では約38℃~48℃で27分の加熱で、野菜内のビタミンC含有量が増加する結果を得た。これは、この温度帯において、野菜が環境ストレスを受け、それに対抗してビタミンC生成酵素の働きが活性化されたためであり、37、38℃未満では十分な環境ストレスを与えられず、また47、48℃より高温になると生体活動が抑制されてしまうためであると考える。また、これらの野菜を電子レンジ加熱調理すると、生の状態から電子レンジ加熱した場合に比べて、低温スチーミングによって一旦ビタミンC含有量を増加させた後に電子レンジ加熱をした場合の方が、調理後のビタミンC残存量が多かった。<BR> このことより、40℃程度で短時間の低温スチーム調理を施すことで、春菊やほうれん草のビタミンCを増加させることができ、より多くのビタミンCを摂取することができる。
著者
伊藤 寿茂 丸山 隆
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.85-94, 2004-08-25 (Released:2017-05-26)
参考文献数
50
被引用文献数
3

Seasonal and diel flow patterns of glochidia of the freshwater unionid mussel Pronodularia japanensis in a paddy field ditch were investigated by using drift nets (5×20cm frame, 0.113mm mesh). The glochidia were collected from May to September, maximally in July, mainly during the daytime and equally at both the surface and bottom layers of the study ditch. The flow distance was estimated to be less than about 180m. Dead glochidial shells were collected until October, equally during the day and night. Consequently, the use of drift nets was found to be valuable for investigating the flow patterns and spawning seasons of Pronodularia japanensis glochidia.
著者
伊藤 均
出版者
日本食品照射研究協議会
雑誌
食品照射 (ISSN:03871975)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1-2, pp.9-13, 2006-09-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
10
被引用文献数
1

More than 80% of food poisoning bacteria such asSalmonellaare reported as antibiotic-resistant to at least one type antibiotic, and more than 50% as resistant to two or more. For the decontamination of food poisoning bacteria in foods, radiation resistibility on drug-resistant bacteria were investigated compared with drug-sensitive bacteria. Possibility on induction of drugresistant mutation by radiation treatment was also investigated. For these studies, type strains ofEscherichia coliS2, Salmonella enteritidisYK-2 and Staphylococcus aureusH12 were used to induce drug-resistant strains with penicillin G. From the study of radiation sensitivity on the drug-resistant strain induced fromE. coliS2, D10value was obtained to be 0.20 kGy compared with 0.25 kGy at parent strain. OnS. enteritidisYK-2, D10value was obtained to be 0.14 kGy at drug-resistant strain compared with 0.16 kGy at parent strain. D10value was also obtained to be 0.15 kGy at drug-resistant strain compared with 0.21 kGy at parent strain ofSt. aureusH12. Many isolates ofE. coli0157: H7 or other type ofE. colifrom meats such as beef were resistant to penicillin G, and looked to be no relationship on radiation resistivities between drug-resistant strains and sensitive strains. On the study of radiation sensitivity onE. coliS2 at plate agars containing antibiotics, higher survival fractions were obtained at higher doses compared with normal plate agar. The reason of higher survival fractions at higher doses on plate agar containing antibiotics should be recovery of high rate of injured cells by the relay of cell division, and drug-resistant strains by mutation are hardly induced by irradiation.
著者
吹田 徳雄 伊藤 憲昭
出版者
公益社団法人 電気化学会
雑誌
電氣化學 (ISSN:03669440)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.137-144, 1960-04-05 (Released:2019-09-11)
著者
塩寺 さとみ 伊藤 雅之 甲山 治
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.15-29, 2020 (Released:2020-05-21)
参考文献数
124

熱帯泥炭湿地林は東南アジア、中南米、アフリカの低緯度地域にみられる森林である。その内訳はインドネシアでもっとも多く、全体の47%を占める。定期的、もしくは季節的な冠水によって落葉落枝の分解が抑制されることにより、林床に厚く泥炭と呼ばれる未分解の有機物が蓄積されており、貧栄養かつ低pHという特徴で知られている。泥炭湿地林には固有種や希少種が多くみられると同時に、その過酷な環境に適応した特殊な構造や機能を持つ植物が多くみられる。また、種組成や種特性は泥炭の深さやピートドーム内の場所によって大きく異なる。泥炭は15 mの深さに達することもあるため、泥炭湿地林は巨大な炭素と水の貯蔵庫という意味でもこれまで重要な役割を果たしてきた。このように、泥炭湿地林は、気候条件・水文環境や、泥炭、水、植生のあいだの微妙なバランスの下、長い年月をかけて成立し維持されてきた。人為的な撹乱がこのバランスに与える影響は著しく、その意味で泥炭湿地林は他の生態系よりも脆弱であるといえる。 泥炭湿地林の環境は農業や様々な土地利用には不向きであるため、これまで長年の間、開発の手を免れてきた。しかし、東南アジア地域では、1980年代頃より泥炭湿地林の排水をともなう大規模な農地開発等により急速にその面積の減少や森林の劣化が進み、正常な生態系機能は急速に失われつつある。泥炭湿地林の排水によって開発が行われる際には、これまで維持されてきたバランスが大きくくずれ、泥炭の分解や地中火、人為火災延焼による大気中への温室効果ガスの放出やこれに付随する地盤沈下が生じる。さらに火災による煙害は地域社会のみならず近隣諸国にも影響を与える国際的な環境問題となっている。大規模な排水、および火災の被害を受けた泥炭湿地林ではその回復は非常に難しい。さらにインドネシアでは、土地開発と経済発展、土地所有権や移民問題など様々な問題が複雑に絡み合う状況が泥炭湿地林の保全や回復を一層困難にしている。そこで本稿では、東南アジア地域の熱帯泥炭湿地林に焦点を当て、人為的撹乱が泥炭湿地林に与える影響とその回復の可能性、そして泥炭湿地林の将来について議論する。
著者
平林 聡 徳江 義宏 伊藤 綾 ELLIS Alexis HOEHN Robert 今村 史子 森岡 千恵
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.44-49, 2016 (Released:2017-01-30)
参考文献数
42
被引用文献数
3 4

川崎市川崎区を事例に,都市樹林評価モデルi-Tree Ecoを試行し,その解析結果および都市樹林管理業務への活用について考察した。モデルの改変,パラメータの設定を行い,一般に公開されているデータを入力データとして用いることで,街路樹による炭素蓄積・固定量,住宅の冷暖房使用増減量,大気汚染物質除去量とそれによる健康被害軽減,雨水流出量の削減を推定した。また,それらの貨幣価値は,参考値であるが年間約530万円と推定された。
著者
伊藤 ふみ子 田代 和子 Fumiko Itoh Kazuko Tashiro
雑誌
淑徳大学看護栄養学部紀要 = Journal of the School of Nursing and Nutrition Shukutoku University (ISSN:21876789)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.69-77, 2020-03-16

【目的】独居高齢者の社会的孤立に関する文献を概観することでその動向を明らかにし、独居高齢者に対する課題を検討する。【方法】CiNii Articlesを用い「高齢者」、「独居」、「社会的孤立」をキーワードに検索し得られた53文献のうち、会議録・報告書を除く21文献が検討対象となった。【結果】独居高齢者に関する研究は、社会福祉学が最も多く次いで看護学であった。その他、リハビリテーション学や情報学といった多様な分野での研究がみられたが、協働・連携して研究に取り組んでいるものは少なかった。研究内容は「社会的孤立・孤独死の実態とその要因の検討(15文献)」、「社会的孤立対策の取り組みの実態(3文献)」、「孤立死予防活動をしている民生委員の体験(1文献)」、「社会的孤立に至るプロセス(2文献)」の4分類に整理された。【考察】独居高齢者の支援には各々の分野が連携・協働して研究に取り組むことの重要性が示された。性差では男性の独居高齢者において、社会的孤立におかれている場合が多く性役割意識関係や仕事で培われたプライドが影響していることが推測された。今後の孤立予防対策として、退職前から地域社会での交流を促すような対策を講じる必要がある。
著者
伊藤 亮
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

音声を用いた種内コミュニケーションを行わない動物が、音声コミュニケーションを用いる動物と同じような音声学習を行っている可能性を示すという観点から、鳴かないトカゲ類であるキュビエブキオトカゲによる他種警戒声盗聴行動の発達的変化と、その盗聴能力について調査した。その結果、キュビエブキオトカゲの盗聴行動には明確な発達的変化があることが示された。この盗聴行動の発達的変化は音声学習によるものであることが示唆される。そのため、キュビエブキオトカゲにおいて音声と嫌悪刺激との間に連合学習が成立するか否かを検証した。しかし、音声と嫌悪刺激との連合学習を示す結果は得られなかった。
著者
伊藤 千春 岩崎 靖 高橋 俊彦
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.29-37, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
47

This study compared behavioral characteristics and job stressors of operators and managers of small and medium-sized enterprises (SMEs), examining the causal relations with factors contributing to mental illness. An anonymous web questionnaire survey was implemented targeting 600 individuals including presidents, directors, and individuals above the position of section chiefs of SMEs. Of them, 370 individuals were targeted for analysis, including 143 male presidents with less than 50 employees under them, 140 male managers, and 87 female managers. The covariance structure analysis results revealed that “malfunctional coping” in male presidents and managers had a positive influence on “job stressors,” and job stressors have a positive correlation with “mental illness.” However, for female managers, the path coefficient for “job stressors” with “malfunctional coping” was not significant and was not positively correlated with mental illness.Thus, male presidents and managers did not seek support from or appeal to others, or tried to do their best without complaining, which heightened job stressors and strengthened vulnerability to mental illness. However, female managers’ coping without seeking support or appealing to others had no influence on job stressors and did not cause any indirect vulnerability to mental illness.
著者
伊藤 隆 安田 行信 戸谷 康信 高納 修 下方 薫
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.32, no.10, pp.1005-1009, 1983-10-30 (Released:2017-02-10)

解熱鎮痛剤に対して過敏性を示すことが気管支喘息症例に稀ではないことは良く知られている.またこれらの症例では, 着色剤であるタートラジンに対しても過敏性を示し交差過敏性を示すことが多いとされている.しかし解熱鎮痛剤に過敏性を示さないでタートラジンのみで誘発される喘息症例は稀である.今回私どもは薬剤による喘息症状の誘発が疑われた46才の男性に内服負荷試験をおこない, 本症例がアスピリン, メフェナム酸などの解熱鎮痛剤との交差過敏性がないタートラジン喘息であると診断した.さらにタートラジン負荷時に経時的な採血をおこない, 血漿ヒスタミン値の変動を検討した.その結果, 前値O.94ng/mlであったのが一秒量が20%以上低下した時点で1.98ng/mlと上昇をみた.また負荷前での多核白血球からのSRSの遊離は2133uであった.本症例の予後はタートラジンの除外により良好であった.