著者
廣瀬 宗孝 助永 憲比古 岡野 一郎 岡野 紫 中野 範 恒遠 剛示 棚田 大輔 佐藤 和美 乾 貴絵
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.507-515, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
43

慢性疼痛の発症とその持続には,中枢神経系の神経可塑性が重要であるが,血液における自然免疫の役割も注目されている.このため慢性疼痛の血液マーカーを見つける研究が行われており,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)もその候補の一つである.末梢神経が損傷されると,炎症誘発期では中枢神経系のBDNFは増加し,抗炎症期になると低下すると考えられている.中枢神経系のBDNFは血液中に漏出するため,このような中枢神経系におけるBDNFの変化は血液中のBDNF濃度に反映するとの考えがある.しかし,われわれが行った慢性腰痛症患者の臨床研究では,抗炎症反応が増加すると血液細胞のBDNF遺伝子におけるエピジェネティックな変化で血清BDNF値は低下することが明らかとなり,BDNF値の低下と痛み症状の数の増加に相関関係が認められた.慢性疼痛患者の血中BDNF濃度は,その時々の自然免疫状態など他の因子との関係も鑑みることで血液マーカーとなる可能性がある.
著者
塚崎 栄里子 岩上 将夫 佐藤 幹也 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-055, (Released:2020-12-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的 精神的苦痛を有する集団における,精神疾患での通院と種々の背景の関連を明らかにする。方法 平成25年度国民生活基礎調査の匿名データ(健康票,世帯票)に含まれる97,345人の中で,15歳以上65歳未満である56,196人のうち,精神的苦痛をあらわすKessler Psychological Distress Scale(K6)の合計点が5点以上の17,077人(男性7,735人,女性9,342人)を研究対象者とした。健康票・世帯票の質問項目の中から,精神疾患を理由とした通院に関連しうる項目として,K6合計点(5~24点),年齢,性別,飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,世帯所得,教育状況,就労状況,他疾患での通院の有無を選択した。「うつ病やその他のこころの病気」による現在の通院の有無をアウトカムとし,多変量ロジスティック回帰分析を行い,各因子の通院「有り」に対する調整後オッズ比(aOR)および95%信頼区間(95%CI)を求めた。結果 研究対象者17,077人のうち,精神疾患で現在通院していると回答したのは914人(5.4%)であった。通院している人のK6合計点の平均値(±標準偏差)は12.6(±5.1)点であり,通院していない人の平均値8.8(±3.8)点より有意に高かった。年齢ごとでは35~44歳で最も通院率が高かった。通院をしていると回答した人の女性の割合は58.3%で,通院していないと回答した集団より有意に多かった。飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,就労状況,他疾患での通院の有無が,精神疾患での通院の有無とのカイ二乗検定で有意差が認められた。多変量解析の結果,飲酒,3人以上での家族との同居,仕事や家事は通院を阻害する方向に関連を示した。K6合計点が高い人や,35~44歳,高校以上の教育,喫煙,他疾患での通院をしている人がより多く通院している傾向にあった。結論 自己治療になりうる飲酒や,時間的余裕を妨げうる仕事が精神科への通院を阻害する可能性が示された。必要な通院を推進するには,若年者や高齢者,高校以上の教育を受けていない,飲酒しているといったハイリスク集団を意識した上で,社会的体制の充実,精神疾患に関する情報の普及が必要である。
著者
田中 陽一 大住 倫弘 佐藤 剛介 森岡 周
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.117-122, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
21

地域在住の慢性疼痛症例に対し,疼痛強度の日内変動と日々の心理状態・身体活動量の調査を行った.症例は事故により右腕神経叢を損傷し,受傷以降右上肢に自発痛を有していた.14日間の調査の結果,疼痛の日内変動と身体活動量との関連では,低強度活動(家事や歩行などの立位を含む運動)が多いと疼痛強度が低下し,低強度活動が少ないと疼痛強度が増加する傾向が確認された.今回の低強度活動は,症例が日々の生活において重要度が高いと判断した「散歩」や「デイサービスの利用」などであることから,本人が重要と感じ,かつ低強度の運動時間を維持できる活動を行うことが,疼痛強度の低下に寄与したのではないかと考えられる.
著者
佐藤 綾 上田 哲行 堀 道雄
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.21-27, 2005
参考文献数
16
被引用文献数
1

1. 石川県羽咋郡甘田海岸において, 打ち上げ海藻を利用する小型動物相と, それを餌とする高次捕食者であるイカリモンハンミョウ成虫の捕食行動を調査した.海浜性のイカリモンの成虫は, 石川県では6月中旬∿8月に見られ, 砂浜の汀線付近で餌探索する.2. 打ち上げ海藻より採集された小型動物には, ハマトビムシ科の幼体, ヒメハマトビムシ, フトツヤケシヒゲブトハネカクシ, ケシガムシ属が多く見られた.3. イカリモンの成虫の捕食行動を, 個体追跡により観察した結果, イカリモンは, ハマトビムシ類の幼体を多く追跡あるいは捕食していた.また, 砂浜に埋めたピットホールトラップからは, 多くのハマトビムシ類の幼体が得られた.4. 本研究より, 打ち上げ海藻(一次資源)-ハマトビムシ類(腐食者)-イカリモン(捕食者)という砂浜海岸における生物間関係の一つが明らかとなった.
著者
佐藤 未帆 村上 陽子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成30年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.112, 2018 (Released:2018-08-30)

【目的】 わさび(山葵)は、我が国固有の香辛料である。根、茎、葉全体に辛味があり、特に根の辛みは強く、特有の高雅な風味がある。そのため、日本料理ではこれを新鮮な状態でおろして、「つま」として用いられる。また、根茎を磨砕したものは山葵餅、山葵羊羹などの菓子にも使用されている。静岡県は国内有数のわさびの産地の一つであるが、一部の地域において餅を搗く際にわさびを添加する風習がある。これは、わさびを添加することによって餅が柔らかくなり、食べやすさが向上するとともに、長期間保存できることが経験的に伝承されているためである。しかし、わさび添加による影響について詳細な記述や論文はほとんどないのが現状である。そこで、わさびの添加が餅の物理特性に及ぼす影響について検討した。【方法】 試料として、もち米はこがねもち(精白米)、わさびは静岡県産の本わさびを用いた。わさびは、使用時におろし器(鮫皮)にておろして用いた。もち米は、蒸溜水で洗浄後、20℃で5時間吸水させた。その後、30分間水切りを行い、蒸し器にて40分間強火で蒸し上げた。蒸し上がったもち米をすり鉢に移し入れ、米粒がなくなるまですりこぎで搗いた後に二等分し、一方は無添加、一方にはわさびを添加し、わさびが均一に混ざるまでさらに搗いた。また、無添加の試料についても、同回数さらに搗いた。物理特性は、調製当日の試料と1日間保存した試料について、卓上物性測定器により測定した。【結果】 調製当日の物性をみると、かたさは、わさびを添加した餅とわさび無添加の餅との間に有意差はみられなかった。一方、1日間保存した場合、わさびを添加した餅は無添加の餅と比べて、かたさが有意に低下した。
著者
髙橋 誠 高山 慎太郎 須賀 秀行 門村 将太 小島 雅和 岩尾 一生 武田 清孝 佐藤 秀紀 小林 道也 齊藤 浩司
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.140, no.1, pp.81-90, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3

We previously reported the association of the estimated glomerular filtration rate (eGFRcreat) calculated from the serum creatinine level (S-Cr) measured using the Jaffe method with the GFR (eGFRcys) estimated from the serum cystatin C level (CysC). However, few studies have compared the eGFRcreat using the enzymatic method with the eGFRcys. It is unclear whether there are differences in the results of renal function assessment. The purpose of this study was to compare the eGFRcreat calculated from the S-Cr with the eGFRcys calculated from the CysC in patients in whom the S-Cr and CysC were simultaneously measured using the enzymatic method, examine the correlations of respective parameters, and clarify physiological factors involved in differences among the parameters. The subjects were 1334 patients treated in 5 institutions. The mean values and correlation coefficient were statistically analyzed using Student's t-test and Pearson's test, respectively. Influential factors between formulae were analyzed using multiple regression analysis. The mean eGFRcreat was 67.0 mL/min/1.73 m2, being significantly higher than the mean eGFRcys (63.2). Multiple regression analysis showed that factors influencing differences in the S-Cr and CysC included the sex, age, serum albumin, and blood urea nitrogen BUN/S-Cr. Furthermore, factors involved in the overestimation of the eGFRcreat in comparison with the eGFRcys included the serum albumin and BUN/S-Cr. The differences between the eGFRcreat calculated from the S-Cr and eGFRcys were less marked than when adopting the Jaffe method in our previous study. However, the eGFRcreat were higher than the eGFRcys in patients with malnutrition or dehydration.
著者
松本 敏治 崎原 秀樹 菊地 一文 佐藤 和之
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.263-274, 2014

本研究では、自閉症スペクトラム児(ASD)・知的障害児(ID)・定型発達児(TD)の方言使用について、国立特別支援総合研究所の研修受講者、および近畿・四国・九州の特別支援教育関係教員を対象にアンケート調査を実施した。さらに、高知市内の特別支援学校(知的障害)の教員に、担当する個別の児童生徒の土佐弁語彙と、対応する共通語語彙の使用程度の評定を求めた。また、調査1の回答者に対してASD・ID・TDへの自身の方言使用程度についてアンケート調査を行った。結果は、1)すべての調査地域でASDの方言使用はID・TDにくらべ少ないと評定された。2)高知においてASDの方言語彙使用は非ASDに比べ顕著に少なかった。3)教師による方言は私的な場面でのTDへの話しかけで多用され、学校場面でのASDおよびIDへの話しかけにおいては減少していた。これらの結果について、方言の社会的機能の側面から考察を加えた。
著者
山本 雄大 佐藤 潤美 大渕 憲一
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.85.12044, (Released:2014-06-01)
参考文献数
33

The present study examined the negative evaluations and discrimination against smokers among the Japanese. In Study 1, 52 students rated one of four target-persons differentially depicted in terms of gender and smoking habit using scales to measure coolness, sociability, intellectuality, and earnestness. The results showed that participants rated smokers more negatively than nonsmokers except for sociability. Those who perceived smoking as controllable rated smokers’ earnestness even more negatively, suggesting that the negative evaluations are partially moderated by the perceived controllability of smoking. To examine a hypothesis that negative evaluations of smokers would mediate discrimination, in Study 2 we measured how participants (96 students) responded to target persons asking for a loan or a job, as well as their ratings of the targets on the Big Five personality dimensions. The results support the hypothesis of mediation.
著者
樋口 雄三 河野 貴美子 小谷 泰則 林 義貢 樋口 博信 佐藤 眞志 百瀬 真一郎
出版者
国際生命情報科学会
雑誌
Journal of International Society of Life Information Science (ISSN:13419226)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.216-222, 2001-03-01

気功法の異なるレベルの高い気功師3名により遠隔送気を行い、約2〜4km離れたそれぞれ2名づつの受信者における静脈血中のコルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、β-エンドルフィンなどの変動を測定した。遠隔送気40分後において血漿コルチゾール及びノルアドレナリンが有意に減少し、アドレナリンも減少傾向を示した。これらのことから受信者はストレスが緩解し、リラックスし、交感神経活動水準が低下していることが考えられる。遠隔送気時においても対面時と同様な変化が認められ、遠隔送気が受信者に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
著者
佐藤 祐基
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2013-03-25

本論文では,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害に関する臨床的研究を行った.まず,第1 章では,児童・青年期の気分障害と広汎性発達障害の概要について紹介し,本論文の目的について述べた.第2 章では,小児科発達障害クリニックの中にある児童精神科外来を初診した児童・青年期の大うつ病性障害の症例47 例を対象に,後方視的なカルテ調査を行った.児童・青年期の大うつ病性障害は,広汎性発達障害や不安障害,注意欠如・多動性障害などの併存障害と,相互に密接な関係があることが推察された.特に,従来考えられてきたよりも広汎性発達障害との併存率は高いと思われた.また,大うつ病性障害で受診し,社会的ひきこもりの症状をもつ場合は併存障害に注意して診断を検討する必要があると考えられた.転帰については,1 年以上の治療を継続することが症状の改善に有効であることが明らかとなった.ただし,併存障害がある場合は,ない場合と比べて,症状が改善しづらい傾向があることが示唆された.第3 章では,児童・青年期の双極性障害について,児童期と青年期の比較をしながら,診断や併存障害,経過,および転帰について検討することを目的とした.児童・青年期の双極性障害の症例30 例を対象に,後方視的なカルテ調査を行った.診断については,特定不能の双極性障害が最も多かった.併存障害として,広汎性発達障害が最も高い割合で確認された.転帰については,平均して約2 年7 カ月の治療期間に,半数以上の症例が改善を示した.児童期発症の双極性障害は,広汎性発達障害と注意欠如・多動性障害の併存が多く見られ,躁病相とうつ病相が混合した経過をたどりやすいと考えられた.青年期発症の双極性障害は,不安障害を単独で併存する場合が多く,経過については児童期と比べて躁病相とうつ病相の区別が明瞭となりやすいと考えられた.第4 章では,気分障害と広汎性発達障害を併存した青年期の事例について,筆者が臨床心理士の立場から臨床心理学的援助を行うことで,学校適応が高まった経過について振り返り,効果的な支援について検証することを目的とした.心理面接は週1 回,1 時間という枠組みで,約2 年間に渡って行われた.心理支援を独自に工夫することによって,学校など社会的な場面での適応が改善されるようになった.結論として,第5 章で本論文のまとめを行った.児童・青年期の気分障害は,広汎性発達障害などの併存障害と,相互に密接な関係があることが推察された.児童・青年期の気分障害の転帰については,一定期間の治療を行うことで,半数以上の症例が改善していた.気分障害と広汎性発達障害が併存した場合の実際の支援については,臨床心理学的援助を個人の症状に合わせて行うことによって,社会適応の改善に繋がる場合があることが示された.