著者
江田 真毅 小池 裕子 佐藤 文男 樋口 広芳
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.57-64, 2011-09-30 (Released:2013-09-30)
参考文献数
15
被引用文献数
4 7

アホウドリ Diomedea albatrus は伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島の南小島や北小島で繁殖する危急種の海鳥である。1979年以降,鳥島で生まれたほとんどの個体が両脚に標識をされているにもかかわらず,1996年以降,鳥島の初寝崎において未標識の1個体が観察されている。2005年度の繁殖期まで,アホウドリ誘致用に設置された特定のデコイのそばに毎年巣をつくったこの鳥は,デコイにちなんで「デコちゃん」と呼ばれている。若鳥のうちに標識が両脚から外れることは考えにくいため,この鳥は尖閣諸島で生まれた個体であると考えられてきた。近年の私たちのミトコンドリアDNAの制御領域2を用いた研究によって,アホウドリには2つの系統的に離れた集団(クレード1とクレード2)が含まれていたこと,尖閣諸島で採集された資料はクレード2の個体からなること,鳥島で生まれた個体の多くがクレード1に属することが示唆されている。この鳥の巣で羽毛を採取して解析した結果,この鳥の制御領域2の配列は,これまでに知られていた配列とは異なるものの,クレード2に属することが明らかになった。このことは,デコちゃんの出生地が鳥島ではなく,尖閣諸島であることを支持するものである。デコちゃんは鳥島で生まれた個体とつがいを形成し,2009年度の繁殖期までに2羽の雛を巣立たせている。しかし,2つの系統が交配しているかどうかを判断するためには,両性遺伝する遺伝子マーカーによる研究が必要である。
著者
佐藤 真実 村上 亜由美 岸松 静代 谷 洋子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.17, pp.159, 2005

<br>【目的】福井県における魚介類の利用状況と調理について調査を行い,とくに県内で使用される地方独特の魚の種類や行事などに利用する魚の調理方法について明らかにすることを試みた。<BR>【方法】越前(海岸部,主に漁業)10名,奥越(山間部,主に農業)10名,坂井(海に面した平野部,農業と漁業)11名,福井(地方都市)12名,嶺南(海岸部,漁業と商業)9名の5地域,計52名の20歳代から70歳代の居住者を対象に,アンケート調査及び聞き取り調査を行った。とくに地方独特の魚の種類や調理方法についてまとめ,写真撮影を行った。<BR>【結果】福井県で食べられる地方独特の魚の種類としては,みずべこ,がまえび,みずだこ,せいこがになどがある。みずべこはかに漁の底引き網にかかる深海魚であるが,吸い物や味噌汁に,がまえびは味が甘えびに類似しており刺身やフライに,みずだこは刺身に,せいこがにはゆでて卵やかにみそをそのまま食べる。行事などで食べられる地方独特の調理法としては,まさばの丸焼き(越前や嶺南では浜焼き鯖,奥越では半夏生の鯖と呼ばれる),へしこ(さばやいわしの糠漬け),まがれいの塩焼き(天神講に食べられる),身欠きにしんの昆布巻き(正月,盆,祭りに食べられる),にしんの麹漬け(12月から正月にかけて食べられる),だだみ(たらの精巣)の味噌汁,かつお節をもりつける雑煮などがみられた。
著者
佐藤 嘉彦
出版者
横浜国立大学教育学部附属理科教育実習施設
雑誌
横浜国立大学教育学部理科教育実習施設研究報告
巻号頁・発行日
vol.5, pp.15-25, 1989-03-25

Leaves of five forma of Hydrangea macrophylla group listed below were anatomically investigated and many variations were found in the epidermal and mesophyll tissue. (1) Hydrangea macrophylla var. macrophylla forma macrophylla (2) H. macrophylla var. macrophylla forma normalis (3) H. macrophylla var. megacarpa forma megacarpa (4) H. macrophylla var. acuminata forma acuminata (5) H. macrophylla var. angusta forma angusta There was no difference in the anatomical characters between two forma of H. macrophylla var. macrophylla. Their leaves were composed of one-layered epidermis, in which the outline of the cell walls was straight, and ten or more cell-layers of the mesophyll, of which adaxial two-three layers were palisadal. In other three forma, also, the epidermis was one layer of cells, but the outline of cell walls was curved inwardly or outwardly. The palisade tissue was composed of only one layer of cells. It is known that section Hydrangea possesses unicellular hairs with a hillock-like structure at their base (STERN, 1978). Besides the hairs, unicellular hairs without a hillock-like structure at their base were found. These variations are fully expected to have an important significance, when an intra-specific relationship of H. macrophylla or/and an inter-specific one of the genus Hydrangea will be discussed in future.
著者
佐藤 貢司
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.305-309, 2019-07-01 (Released:2019-07-01)

近年注目を集めいているIPランドスケープにおいて知財分析は重要な要素であり,従来行われている統計的な分析に加え,より多様な観点・切り口での情報分析が求められる。本稿では筆者の営業経験に基づき心掛けている営業視点なるものを,社内でのIPランドスケープ実践においてどのように活用しているかを紹介する。具体的には,営業視点を用いた知財分析の重要性を述べると共に,被引用情報に対する5つの切り口や発明者情報を用いた研究組織の推定などの事例,更には知財分析と対で重要な「伝え方」についての事例も紹介する。

1 0 0 0 陣中の竪琴

著者
佐藤春夫 著
出版者
富山房
巻号頁・発行日
1939
著者
大内 弘造 佐藤 和幸 宮島 紀芳 荒木 敏明 秋山 裕一
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.843-847, 1981

<I>i</I>BuOH及びiAmOHの高生産株を得る目的で, 清酒酵母協会701号に紫外線照射を行って突然変異を誘発し, NV及びNL含有培地で集殖することによって, NV, NL耐性株を分離した。<BR>代表的耐性株NLV90-6は親-株と同じ発酵力を持ち, NV, NL各20mM含有培地でも非含有培地における親株の増殖速度と同じ増殖能を示した。<BR>親株の<I>i</I>BuOH及び<I>i</I>AmOH生合成能はNV, NLの添加によって減少したが, 耐性株には減少しないものがあった。ただし, それらも<I>i</I>BuOH, <I>i</I>ArnOHの高生産株ではなかった。<BR>清酒もろみの発酵では親株より<I>i</I>BuOHは幾分多く, また<I>i</I>AmOHは幾分少なく生成し, A/B比には明らかな差が生じた。<BR>製成酒の官能評価では親株と同等であったが, 親株にくらべてアミノ酸度が多いことが特徴であった。<BR>清酒もろみ, 麦芽汁及びブドウ果汁の発酵中のアミノ酸消長からみて, アルギニン等の例外を除きアミノ酸の取り込みが親株よりも遅いことが推察された。<BR>NV及びNLの消費量を調べた結果, 親株の半分以下であった。また, <SUP>14</SUP>C-ラベルを使用し, バリン, ロイシン及びリジンの取り込み速度を調べた結果, 親株の1/2以下であった。<BR>以上の結果, 得られた耐性株は窒素源の膜透過性異常変異株と結論された。<BR>最後に麦芽の提供と麦芽汁の調製に御協力いただいたニッカウヰスキー株式会社辻謙二氏に感謝する。
著者
松本 祐介 甲斐 恭平 山田 隆年 中島 明 佐藤 四三
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.1786-1790, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

症例は73歳,男性.3年2カ月前から当院内科にて慢性膵炎として外来通院していた.当初よりCTにて膵背側に嚢胞性の腫瘤があり膵仮性嚢胞の疑いで経過観察されていたが1年前より徐々に腫瘤が増大し血中CA19-9の異常高値(5,240U/ml)を認めた.悪性腫瘍との鑑別が困難なため手術目的で当科紹介となった.開腹すると膵背側の腫瘤は約4cmで周囲の組織にはさほど炎症所見が無く腫瘍性病変を考え膵体尾脾切除,胆嚢摘出術,膵管胃吻合を施行した.病理組織学的検査にて病変は大小2個の嚢胞より成り嚢胞壁は重層扁平上皮で覆われ所々にリンパ濾胞も有しておりリンパ上皮嚢腫(Lymphoepithelial cyst)と診断された.経過は良好で術後2カ月のCA19-9は11.4U/mlと正常化した.今回われわれは慢性膵炎の経過中に偶然発見され膵仮性嚢胞の疑いで経過観察の後に手術となった症例を経験した.病変が経過とともに増大していることと慢性膵炎を伴っていることからその成因を推測する上で示唆に富む症例であった.
著者
佐藤 幸雄 熊代 克巳
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.p61-69, 1985-12

セイヨウナシの葉やけ発生要因と考えられる気孔運動機能の鈍化が,他の果樹にも認められるかどうかを知るため,ナシ,リンゴ,モモ及びブドウを用いて,葉の比較蒸散量及び蒸散抵抗を調べた。得られた結果の概要は次のとおりである。1.葉齢の進行にともなう気孔運動能の鈍化は,葉やけの発生しやすいナシ「バートレット」が最も著しく,6月下旬にすでにその微候が認められ,7月中旬から急速に進行した。しかし葉やけの発生が認められないモモ「缶桃5号」は,8月下旬においてもなお気孔の運動機能が鋭敏であった。ブドウ「コンコード」は,8月上旬以降に機能鈍化が認められたが,「バートレット」ほど顕著ではなかった。またリンゴ「ふじ」も8月上旬以降に機能鈍化の微候を示したが,その程度は比較的軽かった。2.ナシの品種別比較では,「バートレット」の機能鈍化が最も著しかった。「新水」は7月中旬に「バートレット」と同程度の機能鈍化を示したが,それ以降はさほど進行しなかった。また「幸水」は,8月中旬以降に急速に機能鈍化が進行し,9月上旬には「新水」とほぼ同程度となった。3.夏季の高温乾燥条件下における着生葉の蒸散抵抗は,「缶桃5号」が最も高く,次いで「ふじ」,「コンコード」,「幸水」,「新水」,「バートレット」の順に低下し,「バートレット」が最低であった。またいずれの果樹も新梢の基部葉は先端部葉に比べて低かった。4.葉やけ発生率と気孔の運動機能との関係をセイヨウナシについて調べた結果,発生率の高い品種ほど機能鈍化が著しい傾向がみられた。しかし「プレコース」のみは機能鈍化が著しかったが,葉やけ発生率は低かった。
著者
内川 英興 吉田 伸 古川 孝之 佐藤 健史 鈴木 裕
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集 第16回情報プロフェッショナルシンポジウム
巻号頁・発行日
pp.85-90, 2019 (Released:2019-06-14)

独自の特許価値評価手法によるツールを用い、各種業界の企業について特許力を判断し、その結果を応用した例について述べる。この種の検討はいわゆるIPランドスケープ(経営に資する知財活動)として注目を集めている。特許価値評価をベースに、対象企業の特許力を業界全体での位置付けや競合他社と比較する。本報告では、特許庁から公表されている書誌事項からの価値評価データに対し、統計学における中心極限定理を用いて価値偏差値の正規分布化処理を行って客観性を向上させたデータを得ている。この手法ではこれまでの価値評価システムとは異なり、相対比較や価値の合算による総合力の見積もりなどを公平に行える。得られた特許価値データを活用し、対象とする企業の業界における特許力評価に経営情報を付加して経済性を関連付けた。さらには企業のM&A、アライアンス等を仮想し、検討時の一指標とする例等を検討したので紹介する。
著者
佐藤 正典 加藤 哲哉 清家 弘治 伊谷 行
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ:日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.30-39, 2016-08-30 (Released:2017-02-07)
参考文献数
25

The scale worm Hesperonoe hwanghaiensis Uschakov and Wu, 1959 (Annelida: Polynoidae) is recorded from eastern Japan, based on four specimens collected from Akkeshi Bay, Hokkaido, and Kashima-nada, Ibaraki Prefecture. In Akkeshi Bay, three specimens (body length of a complete specimen: 40 mm, body width without parapodia: 4.0–4.5 mm), which are the largest of all Japanese specimens including previous records, were found from mud and sand sediments at intertidal flats, where a mud shrimp Upogebia major (De Haan, 1841) was collected simultaneously. In Kashima-nada, a complete mature male specimen (body length: 23 mm, body width without parapodia: 2.7 mm) was collected by dredging at subtidal sandy bottom at a water depth of 7.6 m, where another mud shrimp Austinogebia narutensis (Sakai, 1986) was collected simultaneously. The morphological characteristics of these specimens basically agreed with those of the previous records on the specimens collected from western Japan, with a diagnostic characteristic of the presence of a row of the more conical macrotubercles (up to 28 in an elytron of the complete specimen from Akkeshi Bay, and up to 3 in that from Kashima-nada) on the posterior surface of the elytra in the larger specimen. The present result suggests that the scale worm is commensal with not only U. major but also A. narutensis in its habitats extending from intertidal flats in semi-enclosed inner bays to subtidal bottom in open coasts.
著者
二階堂 諒 杉 正夫 太田 順 田村 雄介 新井 民夫 佐藤 洋一 高増 潔 鈴木 宏正
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2005年度精密工学会春季大会
巻号頁・発行日
pp.165, 2005-03-10 (Released:2005-10-06)

著者らのグループは,セル生産システムを知能化,機械化して人間作業者を情報面,物理面の両面から支援するシステム“Attentive Workbench”を提案している.AWBの構成要素である自走式トレイ群は,物品の搬送を担当するが,搬送対象物の大きさや形によっては複数のトレイが集まって大きな形態を生成し,協調搬送を行う.この形態生成を効率良く行うヒューリスティクスを提案し,その有効性を検証する.
著者
三木 文雄 生野 善康 INOUE Eiji 村田 哲人 谷澤 伸一 坂元 一夫 田原 旭 斎藤 玲 富沢 磨須美 平賀 洋明 菊地 弘毅 山本 朝子 武部 和夫 中村 光男 宮沢 正 田村 豊一 遠藤 勝美 米田 政志 井戸 康夫 上原 修 岡本 勝博 相楽 衛男 滝島 任 井田 士朗 今野 淳 大泉 耕太郎 青沼 清一 渡辺 彰 佐藤 和男 林 泉 勝 正孝 奥井 津二 河合 美枝子 福井 俊夫 荒川 正昭 和田 光一 森本 隆夫 蒲沢 知子 武田 元 関根 理 薄田 芳丸 青木 信樹 宮原 正 斎藤 篤 嶋田 甚五郎 柴 孝也 池本 秀雄 渡辺 一功 小林 宏行 高村 研二 吉田 雅彦 真下 啓明 山根 至二 富 俊明 可部 順三郎 石橋 弘義 工藤 宏一郎 太田 健 谷本 普一 中谷 龍王 吉村 邦彦 中森 祥隆 蝶名林 直彦 中田 紘一郎 渡辺 健太郎 小山 優 飯島 福生 稲松 孝思 浦山 京子 東 冬彦 船津 雄三 藤森 一平 小林 芳夫 安達 正則 深谷 一太 大久保 隆男 伊藤 章 松本 裕 鈴木 淳一 吉池 保博 綿貫 裕司 小田切 繁樹 千場 純 鈴木 周雄 室橋 光宇 福田 勉 木内 充世 芦刈 靖彦 下方 薫 吉井 才司 高納 修 酒井 秀造 西脇 敬祐 竹浦 茂樹 岸本 広次 佐竹 辰夫 高木 健三 山木 健市 笹本 基秀 佐々木 智康 武内 俊彦 加藤 政仁 加藤 錠一 伊藤 剛 山本 俊幸 鈴木 幹三 山本 和英 足立 暁 大山 馨 鈴木 国功 大谷 信夫 早瀬 満 久世 文幸 辻野 弘之 稲葉 宣雄 池田 宣昭 松原 恒雄 牛田 伸一 網谷 良一 中西 通泰 大久保 滉 上田 良弘 成田 亘啓 澤木 政好 三笠 桂一 安永 幸二郎 米津 精文 飯田 夕 榊原 嘉彦 螺良 英郎 濱田 朝夫 福山 興一 福岡 正博 伊藤 正己 平尾 文男 小松 孝 前川 暢夫 西山 秀樹 鈴木 雄二郎 堀川 禎夫 田村 正和 副島 林造 二木 芳人 安達 倫文 中川 義久 角 優 栗村 統 佐々木 英夫 福原 弘文 森本 忠雄 澤江 義郎 岡田 薫 熊谷 幸雄 重松 信昭 相沢 久道 瀧井 昌英 大堂 孝文 品川 知明 原 耕平 斎藤 厚 広田 正毅 山口 恵三 河野 茂 古賀 宏延 渡辺 講一 藤田 紀代 植田 保子 河野 浩太 松本 慶蔵 永武 毅 力富 直人 那須 勝 後藤 純 後藤 陽一郎 重野 秀昭 田代 隆良
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.914-943, 1987
被引用文献数
2

Clavulanic acid (以下CVAと略す) とticarcillin (以下TIPCと略す) の1: 15の配合剤, BRL28500 (以下BRLと略す) の呼吸器感染症に対する有効性と安全性をpiperacillin (以下PIPCと略す) を対照薬剤として, welI-controlled studyひこより比較検討した.<BR>感染症状明確な15歳以上の慢性呼吸器感染症 (慢性気管支炎, びまん性汎細気管支炎, 感染を伴った気管支拡張症・肺気腫・肺線維症・気管支喘息など) およびその急性増悪, 細菌性肺炎, 肺化膿症を対象とし, BRLは1回1.6g (TIPC1.5g+CVA0.1g) 宛, PIPCは1回2.0g宛, いずれも1日2回, 原則として14日間点滴静注により投与し, 臨床効果, 症状改善度, 細菌学的効果, 副作用・臨床検査値異常化の有無, 有用性について両薬剤投与群間で比較を行い, 以下の成績を得た.<BR>1. 薬剤投与314例 (BRL投与161例, PIPC投与153例) 中, 45例を除外した269例 (BRL投与138例, PIPC投与131例) について有効性の解析を行い, 副作用は293例 (BRL投与148例, PIPC投与145例) について, 臨床検査値異常化は286例 (BRL投与141例, PIPC投与145例) について解析を実施した.<BR>2. 小委員会判定による臨床効果は, 全症例ではBRL投与群78.8%, PIPC投与群79.4%, 肺炎・肺化膿症症例ではBRL投与群 (79例) 82.1%, PIPC投与群 (73例) 79.5%, 慢性気道感染症症例ではBRL投与群 (59例) 74.6%, PIPC投与群 (58例) 79.3%の有効率で, いずれも両薬剤投与群間に有意差を認めなかった.<BR>3. 症状改善度は, 肺炎・肺化膿症症例では赤沈値の14日後の改善度に関してPIPC投与群よりBRL投与群がすぐれ, 慢性気道感染症症例では胸部ラ音, 白血球数, CRPの3日後の改善度に関してBRL投与群よりPIPC投与群がすぐれ, それぞれ両薬剤投与群間に有意差が認められた.<BR>4. 細菌学的効果はBRL投与群68例, PIPC投与群57例について検討を実施し, 全体の除菌率はBRL投与群75.0%, PIPC投与群71.9%と両薬剤投与群間に有意差は認められないが, Klebsiella spp. 感染症においては, BRL投与群の除菌率87.5%, PIPC投与群の除菌率16.7%と両薬剤群間に有意差が認められた. また, 起炎菌のPIPCに対する感受性をMIC50μg/ml以上と50μg/ml未満に層別すると, MIC50μg/ml未満の感性菌感染例ではBRL投与群の除菌率69.6%に対してPIPC投与群の除菌率94.7%とPIPCがすぐれる傾向がみられ, 一方, MIC50μg/ml以上の耐性菌感染例ではPIPC投与群の除菌率12.5%に対して, BRL投与群の除菌率は66.7%と高く, 両薬剤間に有意差が認められた.<BR>5. 副作用解析対象293例中, 何らかの自他覚的副作用の出現例はBRL投与群5例, PIPC投与群11例で, 両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>6. 臨床検査値異常化解析対象286例中, 何らかの異常化が認められた症例は, BRL投与141例中45例 (31.9%), PIPC投与145例中28例 (19.3%) で, 両薬剤投与群間に有意差が認められた. 臨床検査項目別にみると, GPT上昇がBRL投与140例中26例 (18.6%), PIPC投与140例中14例 (10.0%), BUN上昇がBRL投与128例中0, PIPC投与127例中4例 (3.1%) と, それぞれ両薬剤投与群間での異常化率の差に有意傾向が認められた.<BR>7. 有効性と安全性を勘案して判定した有用性は, 全症例ではBRL投与群の有用率 (極めて有用+有用) 76.3%, PIPC投与群の有用率の74.8%, 肺炎・肺化膿症症例における有用率はBRL投与群81.0%, PIPC投与群75.3%, 慢性気道感染症症例における有用率はBRL投与群70.0%, PIPC投与群74.1%と, いずれも両薬剤投与群間に有意差は認められなかった.<BR>以上の成績より, BRL1日3.2gの投与はPIPC1日4gの投与と略同等の呼吸器感染症に対する有効性と安全性を示し, とくにβ-lactamase産生菌感染症に対しても有効性を示すことが確認され, BRLが呼吸器感染症の治療上有用性の高い薬剤であると考えられた.
著者
佐藤 知己
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

今年度は「蝦夷記」のアイヌ語の研究を重点的に行い、18世紀のアイヌ語の音声、音韻、文法、語彙の分析を行ったその結果、これまでに知られていなかった点として、いくつかの言語的特色が明らかになった。すなわち、まず、音声的な面について言えば、今日の/h/に対応する位置に、パ行の仮名が用いられている場合が、偶然とは思えない頻度で存在することが明らかとなった。また、今日のaに対応する位置にオ段の仮名が書かれている例も多数みられ、これらは、今日のアイヌ語の発音とは異なる発音であった可能性を示すものと考えられ、アイヌ語の変遷を考える上で貴重な示唆を与えるものである。文法的な点について言えば、人称接辞の存在が、既にこの時代の日本人によっても認識されていたことを示すと思われる記載が見つかった。このことは、アイヌ語の観察の精度が高いことを示すものと言うことができ、本資料の信頼性を推測する有力な手がかりとなるものである。語彙的な面では、従来、あまり明らかではなかった社会言語学的な言語変種が、この時代のアイヌ語には極めて多数存在していたことが明らかになった点が特筆される。すなわち、指示対象の種類、使用者の社会的な立場、使用される場面に応じて、同じ対象に対して実に様々な語彙が存在していたことが明らかになった。これらはいずれも今日のアイヌ語方言では全く知られていないか、痕跡的にしか残っていない特色であり、アイヌ語の歴史的変遷、アイヌ語の文法構造を探る上で貴重な手がかりを提供するものである。また、この資料の中には、現代の資料、たとえば『アイヌ神謡集』の中の難読語を解明する上で有力な手がかりを提供するものが含まれていることも同時に示した。なお、アイヌ口頭文芸の1人称体の起源の考察においても、古文献の資料が役立つことも示した。