著者
小倉 拓郎 早川 裕弌 田村 裕彦 守田 正志 小口 千明 緒方 啓介 庵原 康央
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.166, 2021 (Released:2021-03-29)

1.はじめに 防災学習は,初等教育における総合的な学習の時間において,従来の各教科等の枠組みでは必ずしも適切に扱うことができない探究的な学習として,地域や学校の特色に応じた解決方法の検討を通した具体的な資質・能力を育む課題学習の一例として挙げられている1).ハザードマップは防災学習でよく用いられるが,浸水高や震度分布などの複雑なレイヤ構造を有するため,児童らが一般的に苦手とする基礎的な地図の判読スキルのみならず,重なり合う地図上の情報を適切に取捨選択して理解する能力が要求される.そのため,発災現場などの非日常体験をより直感的に想像できる授業実践や教材の開発が求められる. そこで,実際に自然災害の生じた地域における小学校の児童を対象とし,校区内での被災状況をハザードマップと地形模型を援用した3Dマッピングにより把握することから,地域環境を見つめなおすという防災学習を実践した.本報告では,その実践の過程や学習内容,児童の気づきについてまとめる.2.授業実践の内容 本実践は,2019年度に横浜市立千秀小学校の総合的な学習の時間および図画工作科で計8時数実施した.ここでは,2017年度の小学校6年生が,航空レーザ測量にもとづく標高データ由来の地域の大型地形模型(縮尺1/1000)を製作したため2),これを3Dマッピングの基盤として用いた.一方,防災情報の基礎として,横浜市栄区洪水ハザードマップに描かれている浸水最大規模のレイヤ情報をスチレンペーパーで作成し,地形模型の上に貼り付けることで,通常は2次元の地図で提供されるハザードマップの情報を3次元的かつ実体的に表現した. 本地域では,令和元年台風19号の通過により,校区内で浸水被害や倒木,信号機の風倒などがみられた.児童らは校区内の台風通過後や過去の被災状況について,通学路や自宅周辺の観察や近隣住民への聞き取り調査を実施し,内容と位置をメモや写真にまとめた.調べた内容は地図と模造紙にも記入した(図1).また,被災内容を記したピクトグラムを作成し,調べた位置情報をもとに地域の大型地形模型の上に設置した(図2).その上で,授業の最終段階では,担任教諭や外部協力者としての大学教員・大学院生を交えて,被災した場所の位置や分布の特徴について議論した.3.結果と考察 児童らは地図に被災状況を並べる作業を通して,浸水箇所が河川に近いことや,信号機・テレビアンテナ等の損傷が住宅地に多いことに気づいた.その結果,校区内の地域でも,被災種類に地域性があることを理解した. その後,児童らは,自ら調査した情報を地形模型の上に乗せる作業を行うことによって,地形の凹凸と被災種類の関係に興味をもった.その結果,信号機の風倒箇所が谷部に集中していることに気づいた.地形に注目する中で,自然地形と人工地形の形状の違いについても関心をもち,地図と照らし合わせながら地形改変(宅地開発)や同じ標高の面(段丘面)について確認していた.また,道路や田畑が浸水した箇所は,ハザードマップで描かれていた浸水想定で浸水高が高い傾向を示す箇所に集中していることに気づいた.そこで,本地域の地形の成り立ちについて教員が説明し,旧河道であることを理解した. このように,大型地形模型を利用することによって,児童らに2次元の地図上での議論では浮かび上がらなかった,地形と被災内容の3次元的な空間関係を考える傾向が見られ,3Dマッピングによる考察の深化が観察された.3次元表現を行うことで,水平方向の位置関係や被災種類と土地利用との関係に対する関心から,垂直方向の関心にも目が届き,模型を上から俯瞰するだけでなく,しゃがむ,視点を変え斜め方向から360°回りながら眺める,といった身体を動かしながら対象を理解しようとする行動が見られたことも,3次元的な自然現象の想像・理解につながったと考えられる.4.文献1)文部科学省 2017. 小学校学習指導要領解説.2)田村裕彦・早川裕弌・守田正志・小口千明・緒方啓介・小倉拓郎 2020. 総合的な学習の時間を活用した地理・地形教育の実践−地域文化資源を用いた小規模公立小学校への地域学習から−, 地形, in press.
著者
小倉 優海
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.68-72, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
20

近年,企業はキャラクターを積極的に広告に起用しており,さらに,広告エンドーサー研究においても,キャラクターエンドーサーに関する議論が活発に行われており,キャラクターエンドーサーは注目すべき研究対象である。それらの現状を踏まえると,これまでに得られたキャラクターエンドーサーに関する知見を整理し,今後の研究で検討すべき課題を明確化する必要があると言える。そこで,本論では,キャラクターエンドーサーに関する既存研究を(1)キャラクターエンドーサーの分類,(2)キャラクターエンドーサーの有効性,(3)キャラクターエンドーサーの効果を調整する要因という3つに分けて,概観する。そして,キャラクターエンドーサー研究が今後検討すべき課題として,(1)新たな調整変数の識別,(2)キャラクターエンドーサーの負の影響の検討(3)新たな従属変数への注目を指摘する。
著者
都倉 武之
出版者
慶應義塾福沢研究センター
雑誌
近代日本研究 (ISSN:09114181)
巻号頁・発行日
no.24, pp.107-176, 2007

特集・慶應義塾創立百五十年・慶應義塾福沢研究センター開設二十五年一 はじめに二 井上角五郎の密書提出(一) 二通一組の「密書」(二) 密書提出の経緯三 密書の発覚四 角五郎拘引と福沢邸家宅捜索五 裁判経過と入獄(一) 予審(二) 東京軽罪裁判所(三) 東京控訴院(四) 上告取り下げと大赦六 むすび
著者
杉下 佳辰 朝倉 康夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_215-I_223, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
21

インフラストラクチャーのような相互依存性を有するシステムにおいては,ひとつのシステム内の局所的な障害による影響が複数のシステムに波及し,大規模な障害に発展する現象(カスケード故障)が発生する恐れがある.本研究では,電力網と通信網の相互依存関係を想定したモデルを拡張し,フローを考慮した過負荷による故障と依存性を考慮した故障を表現し,相互依存ネットワークにおけるカスケード故障のシミュレーションモデルを構築した.2003年のイタリア大停電を背景とした条件をモデルに入力して数値計算を行った結果,単体の場合に頑健なネットワークであっても,相互依存性によって脆弱性が大きく増大する危険性があることが示唆された.ネットワークの脆弱性を適切に評価するためには,相互依存性による影響を考慮することが必要不可欠である.
著者
山野 裕美 倉渕 隆 安岡 正人
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.80, no.712, pp.535-541, 2015 (Released:2015-07-11)
参考文献数
15
被引用文献数
1

The aim of this study is to propose pollen prevention measures in buildings by examining the mechanisms of indoor concentration decay theoretically with pollen grains as the main target, and estimate indoor concentration using theoretical formulas. We first analyzed the mechanism of the indoor pollen concentration, and verified predictive formulas based on actual measured values. Next, assuming the outdoor pollen concentration, the indoor concentration was estimated. It was shown that by making assumptions for the outdoor concentration and conditions, the indoor concentration could be estimated using a theoretical formula.
著者
廣瀬 智也 清水 健太郎 小倉 裕司 山野 修平 大西 光雄 鍬方 安行 嶋津 岳士
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.53-61, 2013 (Released:2013-06-07)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

【はじめに】慢性肝不全に対しては分枝鎖アミノ酸(BCAA)などのアミノ酸が通常使用されるが,急性肝不全症例にその使用は推奨されていない.一方,急性肝不全時のアミノ酸値の変化を詳細に検討した報告は少ない.【目的】急性肝不全時の血中アミノ酸値を検討すること.【対象と方法】2004 年から2007 年に当センターに入院した急性肝不全症例において,血中アミノ酸値と臨床経過を後ろ向きに解析した.【結果】対象は8 例で,全例劇症肝炎の定義を満たしていた.年齢は中央値38.0 歳(IQR34.5-40.8),性別は男5 人,女3 人.入院時の血中総アミノ酸量は中央値10305.0 nmol/ml と極めて高値であった.血漿交換,透析などの治療過程において総アミノ酸値は低下し,BCAA 値は正常もしくは低値を示す症例が見られた.【結語】劇症肝炎時は,血中アミノ酸値は全体に高値をとり,治療過程において低下する.アミノ酸の投与時期や投与方法に関しては今後の検討課題である.
著者
坂倉 杏介 川口 ゆい 渡邊 淳司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.2772-2781, 2009-12-15

筆者らは,身体の内外を移動するように感じられる音を提示し,聴覚によって位置づけられる自己の感覚を再認識するワークショップ(「HERE/HEAR『いることと聴くこと』のワークショップ」)を企画,実施した.本論文では,このワークショップにおける体験デザインの指針を,ハードウェア,音響コンテンツ,ワークショップシナリオの視点から論じ,実施結果を考察する.ハードウェアは,3つの音響装置:トランジスタラジオ,超音波スピーカ,環境スピーカで構成され,参加者はシュラフに身を包み,床に横たわりながら,これらからの音を聴いた.音響コンテンツは大きく,1)環境を再現する音,2)身体内部音・感情と関連する音,3)声・言葉,の3種類に分けて構成された.ワークショップの実施にあたっては,それぞれに分類される音響コンテンツを聴いた後,その感覚を参加者同士で対話,共有し,徐々に体験を深める形式で進めた.ワークショップを通じて,参加者は,音と自己の位置づけ,それにともなう感情や身体状態の変化への気付きなど,聴覚とそれに強く関連した自己の存在に関する感覚をそれぞれのやり方で感じることができた.
著者
倉田 将希 高道 慎之介 佐伯 高明 荒川 陸 齋藤 佑樹 樋口 啓太 猿渡 洋
雑誌
研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:21888663)
巻号頁・発行日
vol.2021-SLP-136, no.31, pp.1-6, 2021-02-24

本稿では,音声変換ユーザに目標話者のキャラクタ性を獲得して発話させるためのシステムを提案する.深層学習に基づくリアルタイム音声変換は,人間の発声器官の物理制約を超えて,ユーザの音声から所望のキャタクタ性を持つ音声への高精度な変換を可能にしつつある.しかしながら,音声のパラ言語情報(抑揚・強勢など)の変換は未だ困難であり,ユーザの音声のパラ言語情報が変換音声に直接的に反映されてしまう.また,通常の発話において,人間は自己聴取音の聴取との相互作用により自らの言語情報・パラ言語情報を制御するが,リアルタイム音声変換を用いた発話において,そのような相互作用をもたらす機構は存在しない.そこで本稿では,変換音声をユーザにリアルタイムにフィードバックする自己聴取音制御システムにより,変換音声に所望のキャラクタ性を付与するようユーザを発話変容させるシステムを提案する.実験的評価では,一人称視点(音声変換ユーザ視点)と三人称視点においてシステムおよび変換音声を評価し,(1) 演技経験の少ないユーザに対してシステムの有用性が高いこと,(2) F0 を目標キャラクタに近づけるだけで十分な発話変容効果がみられることを示す.
著者
小倉 英樹
出版者
大阪市立大学日本史学会
雑誌
市大日本史 (ISSN:13484508)
巻号頁・発行日
no.7, pp.221-224, 2004-05

一 : 雑穀とは、米や麦を除いたヒエ・アワ・キピなどの総称をさす(『日本国語大辞典』小学館)。本書は、その雑穀をテーマとして、文献史学・考古学・歴史地理学・民俗学などの多角的アプローチから、先史から近現代までの畑作農耕やそれに基づく生活文化を明らかにした論文を収録している(ハタケは「畠」、「畑」と両方あるが、史料用語を除き書名に則り「畑」に統一する)。……
著者
小倉 剛久 平田 絢子 林 則秀 久次米 吏江 伊東 秀樹 武中 さや佳 水品 研之介 中橋 澄江 山下 奈多子 今村 宗嗣 亀田 秀人
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.374b, 2014 (Released:2014-10-07)

【背景】全身性エリテマトーデス(SLE)において,発症・再燃と季節の関係が認められるとすれば,臨床上重要な知見であるばかりでなく,病因・病態の解明にもつながるものと考えられる.【目的】SLEにおける発症・再燃と季節の関連性について明らかする.【対象・方法】ACR分類基準を満たすSLE患者122例(男性14例,女性108例)を対象に,診療録より発症・再燃月を調査した.再燃は疾患活動性の新たな出現,もしくは悪化を認め,3ヶ月以内にステロイド薬の新たな開始もしくは50%以上の増量および免疫抑制剤の変更,開始を行った場合とした.【結果】発症は秋に少ない傾向があった.再燃は春に多く,秋に少なかった.また複数回再燃した症例では,再燃時期が近似した.春の再燃では紅斑が多かった.【結論】SLEの発症,再燃は季節に関連性が認められ,春期に多かった.
著者
小林 浩 佐倉 東武 水谷 栄彦
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.p47-52, 1983-01

婦人科領域悪性腫瘍における血清フェリチン測定の診断的意義を検討する目的で,血清フュリチン濃度,正常組織および癌組織,さらに異所性絨毛癌培養細胞(SCH)内フェリチン濃度を比較検討し,以下の結果を得た. 1)血清フェリチン値は,成人男性120.4±80.3ng/mlに対し,成人女性70.3±29.8ng/mlと有意差を認めた(p<0.01). 2)良性疾患では,鉄欠乏性貧血14.3±2.8ng/ml,子宮筋腫16.0±3.8ng/m1と有意に低値を示し(p<0.01),急性肝炎280.O±25.3ng/mlは有意に高値を示した(p<0.01). 3)悪性腫瘍では,卵巣腺癌335.3±328.1ng/ml,胃癌原発Krukenberg腫瘍839.1±358.2ng/ml,子宮頚部扁平上皮癌725.4±310.4ng/ml,急性骨髄性白血病1090.0±485,1ng/mlおよび原発性肝癌416.2±93.3ng/mlにおいて有意に高値を示した(p<0.01). 4)同時に測定した腫瘍マーカー,α-fetoprotein(AFP),carcinoembryonic antigen(CEA)およびplacental-leucine aminopeptidase(P-LAP)との相関係数はそれぞれ,0.213,0.465および0.263であり,相関関係は認められなかった. 5)正常ヒト成人におけるフェリチンの臓器分布に関しては,脾および腎臓に高濃度含まれ,脳・膵や肝臓など多数の臓器にほぼ均等な濃度で存在し,最も低い臓器は胎盤と心臓であった. 6)7ヵ月胎児各臓器フェリチン濃度は,腎・肺や腸に高く,心臓・胃に低いが,すべてその濃度は胎盤の1/2以下の低濃度であった. 7)卵巣癌組織(原発性,転移性)フェリチン濃度は,正常卵巣組織の約1/3の濃度を示し,また培養細胞SCHではさらにその濃度は低く,癌組織フェリチン濃度の1/3~1/4の値を示した.卵巣癌組織と胎盤組織のフェリチン濃度はほぼ一致した.