著者
鈴木 亮 前迫 ゆり 松山 茂
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.101-107, 2020

<p>本研究は,長期間シカの採食を受ける環境において,不嗜好植物クリンソウ個体群に対するシカ採食圧の程度を,防鹿柵を用いた野外実験で評価した.2年の野外実験の結果,柵外の全調査個体は葉が採食を受け地上部が消失した.一方,柵内個体は全て生存し,花茎が柵外まで伸長したのにも関わらず,花茎への採食は確認されなかった.次に,ガスクロマトグラフィーを用いてクリンソウ内の主要な化学物質の抽出と同定を試み,その化学物質濃度の地域差(シカ高密度地域と低密度地域)および器官差を比較した.その結果,フラボンが主要物質として検出され,その濃度は葉に比べて花で有意に高かったが,地域間の差はわずかであった.これらの結果から,フラボンは繁殖器官の防衛に寄与している可能性があるが,本研究の結果からはフラボンがシカにとって有毒であると断定はできなかった.今後は他の不嗜好植物への採食の程度や,シカが植物の化学防衛を克服するメカニズムについても明らかにする必要がある.</p>
著者
小幡 翔 端山 昌樹 前田 陽平 武田 和也 津田 武 横井 慶 猪原 秀典
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.616-622, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
11

骨蝋は骨面からの出血に対する止血素材としてよく用いられているが,稀ではあるものの慢性炎症や骨治癒阻害などの合併症も見られることがある。今回,開頭術後,十数年の経過を経て前頭洞炎を発症したと思われる2例を経験した。両症例ともに病変はCTでは軟部陰影の中に低吸収域で,またMRIではT1強調画像,T2強調画像いずれも無信号ないし低信号で描出され,副鼻腔内病変として非典型的な所見を呈していた。一例は手術記録が不詳であったため骨蝋の同定は困難であったが,一例では骨蝋の使用についての記載が認められた。いずれに対しても診断,および症状改善のために手術を行った。一例は前頭洞手術(Draf type III)を施行し,病変部より排膿を認め,内部には骨蝋を疑う黄白色の異物残留を認めた。残る一例はDraf 2bで前頭洞を開放したところ,膿貯留を認めず,骨蝋残留を認めた。いずれの症例でも術後は再発なく,良好な経過をたどった。過去の報告によれば,骨蝋は骨治癒阻害と細菌クリアランス低下により,十数年に渡って慢性炎症が遷延するとされる。そのため,開頭術後など骨蝋使用の経過があるか予想される症例では,異物性の炎症や膿瘍形成を鑑別にあげ,症状によっては手術による骨蝋除去を行う必要がある。
著者
前田 実利 鶴我 佳代子 及川 純
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.91-102, 1995
被引用文献数
1

We conducted broadband seismic observations of artifical explosions on December 1, 1994, in the Kirishima volcanic area, southern Kyushu, Japan. We clarified the dominant characteristics of wave-propagating paths in this area and the potential of broadband seismic observations for artifical sources. We analyzed seismograms at three sites located around one of the shot points (near Karakuni Dake) at distances shorter than 1.3 km.
著者
前川 一恵 桑田 惠子 星山 佳治
出版者
一般社団法人 日本在宅医療連合学会
雑誌
日本在宅医療連合学会誌 (ISSN:24354007)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.10-17, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
16

[目的]在宅復帰を目指す高齢患者の摂食・嚥下機能の回復への看護援助の内容を明らかにする .[方法]地域包括ケア病棟に勤務する看護師 130 名を対象に , 摂食・嚥下機能の回復への援助 4 因子 43 項目に加えて , 在宅復帰に向ける食事への援助 3 因子 20 項目で構成した自記式質問紙調査を実施した .[結果]摂食・嚥下機能の回復への援助項目で実施割合が最も高かったものは ,「患者の覚醒状況の観察」(95. 0%)であった . 在宅復帰に向ける食事への援助項目では ,「入院前の認知機能の情報収集」(90.0%)であったが ,【 患者・家族への食事指導 】は 50%以下が 4 項目あった . 実施割合が低い項目は , 食具に関する援助項目と , 作業療法士への相談 , 食前の唾液腺マッサージや口腔内のアイスマッサージであった .[考察]患者の摂食・嚥下機能の回復を目指しては , 食具への知識や, 作業療法士との連携を増やす必要が示唆された. また, 高齢者が退院後も摂食・嚥下機能を維持していくためには , 患者・家族指導の実施割合を高める必要が考えられた .
著者
二村 美也子 古場 伊津子 前澤 聡 藤井 正純 若林 俊彦
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.356-362, 2015-09-30 (Released:2017-01-03)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【はじめに】多言語話者で言語共通領域と特異領域の存在が知られているが, その関係について見解は一定ではない。【症例】再発左前頭葉腫瘍を有する48 歳男性。母語はポルトガル語で第二言語は日本語。成人以降日本に移住・日本語獲得し, 以後日本語を主に使用。覚醒下開頭腫瘍摘出術を施行。術中マッピングでは左下前頭回三角部で, 両言語で喚語困難を呈した (共通領域) 。また左中前頭回では, ポルトガル語のみ喚語困難や音の歪みがみられた (母語特異領域) 。【考察, 結論】本症例の特記すべき所見は, 共通領域と特異領域両者を認め, かつ中前頭回に母語特異領域を認め, 第二言語より母語で機能野の広がりが大きい点である。多言語話者の言語領域については, 母語・獲得時期・習熟度の他に, 環境下の使用頻度についてもその構成に影響を与える可能性があり, 多様と考えられる。機能温存目的のマッピングの際は, 各々の言語で評価する必要がある。
著者
井上 亮太郎 保井 俊之 前野 隆司
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.215-222, 2020 (Released:2020-04-30)
参考文献数
35

This study is to induce by the factor analysis the factors of wakuwaku, the positive emotions at work,and to get them structured by the covariance structure analysis. The authors identified five factors composed by twenty-five items as factors of wakuwaku, and then discovered that it is the circulating structure by using the covariance structure analysis. They quantitively validated those factors and its structure by the confirmative factor analysis and the PANAS analysis to prove the efficacy of the structure.
著者
開元 多恵 渋谷 まゆみ 前田 英雄
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.309-314, 2010 (Released:2010-11-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1

コレステロールを添加した高脂肪食を投与し,タラの芽摂取がラットの血清および肝臓の脂質に与える影響を調べる目的で実験を行った。タラの芽は凍結乾燥し,粉末は600μmのふるいを通し,一部はエチルアルコールによる抽出に用いた。タラの芽粉末,抽出物,抽出残渣は別々に高脂肪食に添加し,20%カゼイン食(普通食)と比較した。Sprague-Dawley系雄ラット(4週齢)は食餌によって5群に分け,4週間飼育した。5%タラの芽粉末およびエチルアルコール抽出物や抽出残渣を添加しても摂食量や体重増加,血清中の肝臓や腎臓機能を表す指標についても差は認められず,添加による影響はほとんどないと考えられた。高脂肪食での飼育により,肝臓の脂質含量は顕著に増加し,血清のHDL-コレステロールは低下したが,タラの芽粉末あるいはアルコール抽出残渣を添加した群では,肝臓のトリアシルグリセロールの増加が抑制された。これらの結果からタラの芽には肝臓の脂質代謝に有効な成分が含まれている可能性が示唆された。(オンラインのみ掲載)
著者
前田 耕助 習田 明裕
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.61-70, 2018

&emsp;足部への異なる温度刺激が前頭前野の脳血流量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. 健常成人25名の足部に40℃, 16℃, 30℃の温度刺激を180秒間実施し, 近赤外分光法による左右の前頭前野の脳血流量の変化と温度の感じ方, 気持ちよさの主観的評価を行った. 結果, 左前頭前野の群内比較では, 40℃の温度刺激は安静時にくらべて温度刺激開始から120秒で脳血流変化量が増加し (<i>P</i><0.05), 群間比較では, 開始から60秒と120秒で40℃の温度刺激は16℃の温度刺激にくらべて大きかった (<i>P</i><0.05). 一方右前頭前野は変化を認めなかった. 主観的指標では, 40℃は「温かい」感覚刺激で「快感情」を伴い, 16℃は「冷たい」感覚刺激で「快ではない感情」を伴った. これらより足部への「温かい」感覚刺激による「快感情」は, 「冷たい」感覚刺激による「快ではない感情」より左前頭前野の脳血流量を増加させるが, 右前頭前野の脳血流量に変化を及ぼさないことが明らかとなった.
著者
前田 光泰 蟹井 瞳 加納 政芳 中村 剛士
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本知能情報ファジィ学会 ファジィ システム シンポジウム 講演論文集
巻号頁・発行日
vol.28, pp.713-714, 2012

本稿では、マリオの行動則を、進化計算によって獲得する手法について検討する。
著者
山前 恵美子 相馬 良直 室田 東彦 山前 正臣 溝口 昌子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.43-48, 2004

抗Jo-1抗体に代表される抗aminoacyl-tRNA synthetase抗体が陽性の多発性筋炎/皮膚筋炎患者では,筋炎のほかに間質性肺炎,関節炎,Raynaud現象などが高頻度に認められ,臨床的なサブセットとして認識されることから,antisynthetase症候群と呼ばれる.症例は64歳男性.筋力低下,関節痛,倦怠感と共に,両手の指腹,手指側縁と関節背面に落屑と亀裂を伴う角化性病変が出現.爪郭の出血点を伴うが,ほかに皮膚筋炎を示唆する皮疹はない.手指の皮疹は組織学的には慢性湿疹様で,satellite cell necrosisを伴っていた.血清CPK 6687 IU/<i>l</i>,筋電図で筋原性変化,筋生検にて変性と萎縮.間質性肺炎あり.抗Jo-1抗体陽性より,antisynthetase症候群と診断.手指の病変はantisynthetase症候群に伴ったmechanic's handと診断した.mechanic's handの過去報告例を集計し,antisynthetase症候群との関連について考察した.
著者
磯前 順一
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.193-216, 2015-09-30 (Released:2017-07-14)

近代ナショナリズムに対する批判が、人間の歴史的真正さへの志向性を相対化することに成功し、宗教概念論という新たな研究潮流を生み出した。その背景には一九六〇年代後半に始まるフランス現代思想の、ポストコロニアリズムあるいは植民地主義を介した一九九〇年代の動きがあった。こうした流れの中で、近代を中心とする日本宗教史の言説が流布しているが、一方で近世以前の時期に対する研究は影を潜め、近代が作り出した過去の言説として、近世以前の時期は扱われるにとどまった。同時にそうした固定化された日本宗教史研究は、ポストコロニアル研究などのもつ社会に不平等性に対する批判力を抹消させ、形骸化された制度史研究に宗教概念論の批評性を無効化させてきた。本稿ではこうした近年の傾向に一石を投じるために、非近代西洋的な余白として近世の信仰世界や民俗宗教を研究する可能性を理論的に模索する。
著者
須磨崎 真 磯谷 正敏 原田 徹 金岡 祐次 前田 敦行 高山 祐一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.58-62, 2015 (Released:2015-07-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

症例は30歳,男性.下腹部痛を主訴に来院した.Multi Detector-row Computed Tomography(以下MDCT)所見より病変は上腸間膜動脈により栄養され,回腸の腸間膜付着部に位置することから重複腸管を疑い,同日腹腔鏡下回腸部分切除術を施行した.回腸末端から約80cm口側の回腸に付着する嚢胞性病変を認め,体外にて病変を含めた12cmの回腸を部分切除した.病変部は回腸壁の腸管膜側に付着した6×4cm大の球形の嚢胞性病変であり,消化管内腔との交通は認めなかった.組織学的所見では小腸粘膜と粘膜下層,固有筋層よりなる嚢胞壁を有し,筋層の一部を腸管と共有していたことから回腸重複腸管と診断した.成人発症の重複腸管は比較的稀であり,臨床像も生じる部位によって様々であることから術前診断は容易ではない.本邦における成人発症の小腸重複腸管の臨床的特徴を検討する.