著者
宇内 康郎 伊東 昇太 古川 正 本田 常雄 中野目 有一 河合 真 北村 勉 釜谷 園子 樋口 輝彦 大嶋 明彦 平沼 郁江 山下 さおり 崎岡 岩雄 村田 琢彦 白山 幸彦 小滝 ミサ 中村 良子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.18-29, 1998-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
41

最近, 精神・神経系と免疫系との関連や類似性が注目され, 免疫能と脳の局在との関係, 免疫細胞と神経細胞との関係が次第に明らかになっている.そこで今回は, 精神機能と免疫機能との関係を追求する一環として, 主として精神状態と免疫機能との関係を横断的に調査し, その後対象を中等度以上のうつ状態にしぼり, 縦断的に免疫機能と精神状態との関係を総合的に調査した.対象は昭和大学藤が丘病院を1991年11月から1993年3月までに受診した初診患者で, 自己免疫疾患, 感染症, がん, 肝臓疾患, 血液疾患, 皮膚疾患, アレルギー性疾患などを除外した17歳から65歳までの症例である.精神状態像との関係では16名 (男性12名, 女性4名) , うつ病の経過との関係では8名 (男性4名, 女性4名) が選ばれた.免疫機能の指標として, T細胞数, B細胞数, CD4, CD8, CD4/CD8比, Phytohemagglutinin (PHA) によるリンパ球幼若化検査, 更に精神状態との関係では液性免疫 (IgG, IgA, IgM, IgD, IgE) , うつ病の経過ではIL2レセプター数 (マイトジェン刺激後のリンパ球IL2レセプター数) , IL2反応能試験, NK細胞活性, 白血球数, リンパ球数が測定された.うつ病の評価はハミルトンのうつ病評価尺度が用いられ, 測定は初診時と状態改善時に行い, その期間は3週間から19週間に及び, 両時点においてうつ状態と免疫機能との関係を比較検討した.精神状態像と免疫機能との関係では明確な関係は見出せなかったが, うつ病の経過との関係では, うつ病時には, PHAによる幼弱化反応の減少が8例中7例に, またIL2反応能の低下, CD8の減少, CD4/CD8比の上昇が8例中6例に認められ, うつ病時には免疫機能が低下することが示唆された.以上の結果を現在までの報告と比較し, うつ病時に免疫機能が低下する機序について考案した.
著者
平出 貴乗 米山 文彦 落合 秀人 中澤 秀雄 林 英司 北村 宏
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.399-404, 2008 (Released:2008-08-05)
参考文献数
16
被引用文献数
4

2000年12月から2006年9月までに魚骨による消化管穿孔を8例経験したので臨床的検討を加え報告する.年齢は59歳から89歳で男性7例,女性1例.穿孔部位は回腸4例,横行結腸2例,S状結腸2例であり,全症例に対して手術を行なった.慢性炎症型4症例のうち穿孔部不明症例が3例存在したが,魚骨の確実な摘出により治癒することが確認された.MDCT導入以前では術前に石灰化も含め病変を指摘できた症例は40%であったが,導入以降は魚骨同定率,術前診断率ともに100%でありその有用性が確認された.魚骨穿孔は,詳細な病歴聴取およびMDCTの施行により術前の確定診断が比較的容易となったが,魚骨遺残により再手術が必要となる症例もあり,急性腹症の鑑別診断として念頭におかなければならない疾患の一つであると考えられた.
著者
氏原 真弓 石黒 洋明 小玉 肇 西谷 皓次 池田 政身 北村 嘉男
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.112, no.9, pp.1229-1240, 2002-08-20 (Released:2014-12-27)

症例は48歳,女性.約13年間.甲状腺機能亢進症のためプロピルチオウラシル(PTU)を服用していた.300mg/日にて開始して4年後の冬に,感冒様症状に続いて喀血を伴う呼吸困難と高度の貧血を来し,次いで突発性難聴も生じた.尿潜血,便潜血,RA-test陽性,抗核抗体陽性を認めた.甲状腺機能が正常化してPTUの投与が中止されたところ,これらの症状は消失した.その後甲状腺機能亢進症状が再燃しPTUの投与が再開されたが,150mg/日以上服用すると,上強膜炎あるいは強膜炎が出現した.数年前から紫斑が下腿に出没し,嗄声も出現した.1.5年前より300mg/日に増量されたところ,貧血が次第に進行し,不明熱,多関節痛および小腸出血を来した.下肢には環状およびび漫性の紫斑,打ち傷様紫斑が生じた.病理組織像で真皮全層の細動静脈,毛細血管および真皮深層の小動脈にleukocytoclastic vasculitisを認めた.プレドニゾロン30mg/日よりの漸減療法にて,紫斑の新生はなくなり,多関節痛,筋痛も激減したが,尿潜血は続き,15mg/日で経過観察中に血痰が出現した.Myeloperoxidaseに対する抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA)は406EU/mlの高値を示した.PTUの投与の中止により全ての症状が消失し,MPO-ANCAが低下したことより,PTUによるANCA関連血管炎と診断した.これまでに報告された抗甲状腺薬によるANCA関連血管炎45例を検討したところ,皮疹は44%で見られ,手指や下肢の有痛性紅斑,丘疹,潰瘍および下肢の広範な紫斑が主な皮膚症状であった.半月体形成性糸球体腎炎や肺出血を伴うことが多く,microscopic polyangiitisと同様の病像を呈した.PTU等抗甲状腺薬による血管炎には,全身性のANCA関連血管炎とIII型アレルギーが推測される皮膚のleukocytoclastic vasculitisがある.PTUは選択的に好中球に集積され,好中球のMPOにより非常に反応性の高い物質に代謝されるため,それが好中球の核や細胞質の構成成分の構造に変化をもたらし,抗核抗体やANCAが産生されるようになると推察した.
著者
横尾 直樹 北村 好史 竹本 研史 重田 孝信 和形 隆志
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.1994-1998, 2007-08-25 (Released:2008-08-08)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

バリウムによる検診胃透視後5時間で発症した急性虫垂炎の1例を経験した. 症例は75歳, 男性. 検診胃透視終了5時間後より左側腹部痛と嘔気を自覚し当科受診. 臍左下部中心に下腹部全体の軽度圧痛を認め, 腹部X線写真にて結腸全域にわたる多数の憩室と共に虫垂全長がバリウムで満たされていた. S状結腸憩室炎の診断で即日入院の上保存的治療を開始したところ, 徐々に症状・所見の改善を認めた. しかし, 30時間後から腹痛が再度増強し, 48時間後には腹膜刺激症状を呈するに至り, この時の腹部X線写真にて虫垂からのバリウム漏出および虫垂壁の不整像が明らかとなった. 上記所見より緊急開腹術を施行したところ, 糞石を有する急性虫垂炎による穿孔性腹膜炎と判明した. 虫垂が完全にバリウムで描出されていようとも, 虫垂内糞石がある限り急速に虫垂炎へと進展しうることを銘記する必要があると考え, 若干の文献的考察を加え報告する.
著者
北村 英哉
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.156-166, 2008 (Released:2008-12-17)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

In this article, recent researches on affect in social cognition are introduced and discussed. First, affect has an adjustable function and the ‘Feeling as Information’ model assumes the role of affect for daily judgments. An empirical study will be presented, confirming the informative function of affective states. Second, affect has a role of regulating the continuation and persistence of performance. Affective states provide information for stop-rule. Third, the relation of affect to cognitive style and the motivational function of affective states will be discussed. Fourth, a novel technique of measuring implicit attitudes using a misattribution procedure is presented. Finally, a SAC model, an integrative model of affect and cognition, will be shown and discussed.
著者
北村 和子 池添 博彦
出版者
帯広大谷短期大学
雑誌
帯広大谷短期大学紀要 (ISSN:02867354)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.71-78, 2008-03

今日、社会福祉の分野では多くの外来語が使用されている。その多くが英語起源のものであるが、中にはその他の語も認められる。用いられる外来語の語源を、ラテン語およびギリシャ語まで遡って調べてみた。ゲルマン語からの借用語と思えるものはドイツ語を、ロマンス語からの借用語と考えられる語は相当するフランス語、またイタリア語、スペイン語を求めた。外来語は借用される間に元の意味が変化し、意味の拡張や、特殊化が生じたりする。特に日本語に移入される場合、移入時や使用される領域の違いによって、意味の変容が生ずることがあるので、それについても論じている。
著者
福光 一夫 北村 征治 木内 恵子 谷口 晃啓 宮本 善一 平尾 収
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.99-103, 2003-04-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
9

1997年1月1日から1999年12月31日の3年間に当センター小児集中治療室(PICU)に入室した545例の年齢別,疾患別在室日数を調べた。平均年齢は2.3歳,平均PICU在室日数は10.6日であった。年齢別では新生児症例が全体の19.6%を占め,在室延日数の45.1%を占めた。新生児症例のうち27.1%は入院期間内にPICUに再入室していた。疾患別では左心低形成症候群,先天性横隔膜ヘルニァ,臍帯ヘルニアなどの先天性疾患で新生児手術症例のPICU在室期間が長かった。PICUに占める新生児症例の割合は,我が国での周産期医療の進歩とともにさらに増加すると推察された。診療報酬の試算結果では特定集中治療室管理料加算日数を現状の14日から21日に延長し新生児症例については60日にすることで,PICU在室延日数の88%が加算対象となった。PICU不足問題に対して医療経済面からも効果を期待するためには,加算日数を大幅に増やした小児集中治療室算定基準を設ける必要がある。
著者
川村 直子 北村 達也 Naoko KAWAMURA Tatsuya KITAMURA
出版者
甲南大学
雑誌
甲南大学紀要. 知能情報学編 = Memoirs of Konan University. Intelligence & Informatics Series (ISSN:18830161)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.111-122, 2021-02-10

音声障害のリハビリテーション(音声リハビリ)で行う音声訓練において,発声時の顔面の皮膚振動感覚は効率の良い発声状態を表すとして重視されている.しかしながら,顔面の皮膚振動感覚はあくまで患者の主観に基づいた感覚であり,指導する言語聴覚士が患者の顔面の皮膚振動を把握することは現状では難しい.さらに,音声訓練中の顔面の皮膚振動について検証した報告は今のところ見受けられない.そこで,本研究では,音声リハビリ経験のある言語聴覚士を対象に,顔面の振動感覚を重視する3つの音声訓練法を用いて,スキャニング型レーザドップラ振動計により発声時の顔面の皮膚振動速度パターンを計測したので報告する.
著者
北村 純一
出版者
兵庫教育大学
巻号頁・発行日
2009-03

学位論文内容の要旨
著者
北村 英哉
出版者
日本感情心理学会
雑誌
エモーション・スタディーズ (ISSN:21897425)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.4-12, 2021-12-30 (Released:2022-01-13)
参考文献数
50

This article highlights the social concept of pollution or impurity and its use as a justification for discrimination and exclusion. First, the history of the concept of pollution is reviewed. Second, a development of two scales measuring the tendency towards pollution related thoughts, the Purity Orientation–Pollution Avoidance (POPA) Scale and the Avoidance of Resentment Scale (ARS), is explained. Third, an experimental study using these scales is introduced. Then, the relationships between four purity/pollution factors and exclusive behaviors were investigated using structural equation modelling. The results revealed that the pollution avoidance tendency enhances anxious feeling towards immigrants, but this relationship is mediated by a type of belief that “natural things are the best,” which stems from pollution avoidance motivation. Finally, this article summarizes how the concept of pollution can cause discriminations and exclusions, and discusses solutions for the problem.
著者
北村 克郎
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.123-162, 2017 (Released:2017-11-20)
参考文献数
20

国際バカロレアの四つの教育プログラムはアクティブ・ラーニングを基にしている。その中でも、初等教育プログラムには最もよくアクティブ・ラーニングの性格が表れている。 初等教育プログラムと他のアクティブ・ラーニングとの一番大きな違いは、教科の枠を超えたテーマについての探究と、概念的な学びである。特に概念的な思考と学びをアクティブ・ラーニングに活用するための可能性を探究することは、アクティブ・ラーニングを発展させることに大きく貢献すると考える。 ところで、初等教育プログラムの概念的な学びに用いられる八つの概念は、対象の本質の把握に向かって深化していく認識の、どの段階に相当するかが明らかではない。八つの概念は単に羅列されているに過ぎない。そこで、私はヘーゲルの論理学の推理論に依拠しつつ、各概念の妥当性と限界性を明らかにしようと考える。そして、各概念を用いて、「教科の枠を超えたテーマ」のセントラル・イデアに向かってどのような概念的思考が可能かを具体的に考察するつもりである。 翻って、各概念的認識には、どのような要件が必要かも併せて明らかになるはずである。
著者
勝二 達也 金 智隆 林 晃正 北村 栄作 岡田 倫之 中西 功 椿原 美治 岸川 政信 桂田 菊嗣
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.89-93, 1995-01-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
17

意識障害が約1か月間遷延し, 多臓器不全を合併しながらも救命しえた熱中症の1例を報告する. 症例は14歳, 男性. 平成5年8月17日, サッカー部の練習中, 突然呼吸困難, 意識障害をきたした. 入院時, 意識レベル3 (JCS), 直腸温40.8℃, 発汗停止し, 呼吸不全を認め, さらに急性腎不全, 肝不全, DICを合併し多臓器不全に進行した. 9日間の高度意識障害と, さらに1か月に及ぶ軽度から中等度の意識障害を伴ったが, 持続的血液濾過, 血液透析, 血漿交換療法等の血液浄化法により多臓器不全の管理を行い, 救命するに至った.熱中症は現在でも致死率の高い疾患であり, 特に意識障害が遷延する場合は, 極めて予後不良である. 迅速な体温冷却と多臓器不全の管理が重要であり, 血液浄化療法を行うにあたって, 体温冷却を念頭におくことが望ましい.

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著者
北村 新三 喜多 一
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.94-99, 2001-01-10 (Released:2009-11-26)
参考文献数
27
被引用文献数
3
著者
渡邉 瑞也 北村 高之 藤田 修英 鈴木 皓晴 杉山 夏来 清水 勇三郎 徳川 城治 中尾 保秋 山本 拓史
出版者
一般社団法人 日本脳神経外傷学会
雑誌
神経外傷 (ISSN:24343900)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.37-40, 2016-08-10 (Released:2020-04-27)
参考文献数
16

A patient over 60 years old who had suffered gunshot wound to the head was transported to our hospital by emergency medical helicopter service. Computed tomography (CT) revealed the bullet had entered from the right parietal region, penetrated the brain, and lodged in the left parietal bone, leaving numerous bone and metal fragments scat-tered within the brain. Acute subdural hematoma (ASDH) on the left side had caused midline shift. Emergency decompressive craniectomy was performed to remove the hematoma and extract the bullet. Acute brain swelling occurred during dural closure, so evacuation of the necrotic brain and extensive duroplasty with artificial dura were also performed. Unfortunately, the patient died of central herniation the day after surgery. As gun ownership is strictly regulated under the Firearms and Swords Law, gunshot wounds are extremely rare in Japan. In particular, treatment of gunshot wounds to the head is hardly ever experienced. ASDH is rare after gunshot wound to the head, with only one case on the entry side, but the present case occurred on the opposite side to the point of entry. In general, ASDH is caused by tearing of the bridging veins in the subdural space and/or bleeding from the contusional brain. In the present case, the subdural hematoma on the opposite side to the point of entry was caused by continuous bleeding from the left parietal bone fracture extending into the subdural space through the dura tear.Knowledge of the treatment of patients with gunshot wounds to the head may become more important in the future in Japan. We report this case along with a review of the pertinent literature.
著者
北村 泰佑 後藤 聖司 髙木 勇人 喜友名 扶弥 吉村 壮平 藤井 健一郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.499-503, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3 4

患者は86歳女性である.入院1年前より認知機能低下を指摘され,入院2週間前より食思不振,幻視が出現し,意識障害をきたしたため入院した.四肢に舞踏病様の不随意運動を生じ,頭部MRI拡散強調画像で両側基底核は左右対称性に高信号を呈していた.血液検査ではビタミンB12値は測定下限(50 pg/ml)以下,総ホモシステイン値は著明に上昇,抗内因子抗体と抗胃壁細胞抗体はともに陽性であった.上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎を認めたため,吸収障害によるビタミンB12欠乏性脳症と診断した.ビタミンB12欠乏症の成人例で,両側基底核病変をきたし,不随意運動を呈することはまれであり,貴重な症例と考え報告する.
著者
北村 紗衣
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

当特別研究員の研究課題は、シェイクスピアを中心としたイギリス・ルネサンスの悲劇における女性表象である。2009年度は前年度に引き続き、このテーマに関する考察を深めるべく研究を進めた。本年度は昨年度に引き続き修士論文の一部を発展させ、シェイクスピアの恋愛悲劇『アントニーとクレオパトラ』におけるクレオパトラ像のあり方をそれ以前のクレオパトラを扱った悲劇群と比較し、シェイクスピアの作品は古代からルネサンスまでの「クレオパトラ文学」とも言えるような伝統の中にどのように位置づけることができるかを分析した論文「イギリス・ルネサンスにおける『クレオパトラ文学』--シェイクスピアのクレオパトラとその姉妹たち」を執筆し、『超域文化科学紀要』に投稿した。投稿後、その内容を5月31日の日本英文学会にて発表した。また、シェイクスピア劇がアメリカ映画においていかに受容されているかについての予備的な研究を開始し、5月23日の大澤コロキアムにて"Shakespeare in High School : The Taming of the Shrew and 10 Things I Hate About You"というタイトルで発表を行った。この他、シェイクスピアにおける共感覚(synesthesia)的な比喩に関する予備的な研究を開始し、7月5日に京都造形大学で行われた表象文化論学会第4回大会にて「共感覚の地平-共感覚は『共有』できるか?」という研究パネルを組織し、「感覚のマイノリティ-共感覚と共感覚者をめぐるフィクション」と題して文学における共感覚の一般的表現に関する発表を行った。