著者
石田 利永子 本田 晋也 高田 広章 福井 昭也 小川 敏行 田原 康宏
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.4_219-4_243, 2012-10-25 (Released:2012-11-25)
被引用文献数
2

近年,組込みシステムの分野においてもマルチプロセッサシステムの利用が進んでいる.組込みシステムはシステム毎に求められる性質が異なり,リアルタイム性が要求されるシステムや,スループットが求められるシステム,両方の要件を同時に要求されるシステムも存在する.既存の組込みシステム向けマルチプロセッサ用RTOSは,いずれか一方の要求を満たす実装がされている.そこで,TOPPERS/FMPカーネルは,両方の要求を満たすよう設計実装を行った.リアルタイム性を確保するため,RTOSが自動的にロードバランスを行うことはしない.しかし,スループット向上と,システムに最適なロードバランス方式をサポートできるように,アプリケーションからの要求(APIによる要求)によりタスクを実行するプロセッサを変更するマイグレーション機能を提供する.本稿では,TOPPERS/FMPカーネルのマイグレーション機能の設計と実装について述べる.設計・実装したマイグレーション機能を使用して,アプリケーションレベルで複数のロードバランス方式を実現できることを確認した.

2 0 0 0 OA 脳の病態解明

著者
貫名 信行 岩坪 威 井原 康夫 祖父江 元 西川 徹 岩坪 威 井原 康夫 祖父江 元 西川 徹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

「病態脳」の研究期間において学問領域を新たに展開し得た業績としては前頭側頭葉認知症や筋萎縮性側索硬化症ALSの病態関連分子としてのTDP-43の同定である。本研究班はこれに貢献するとともにALS関連分子として同定されたFUS/TLSの機能解析において先駆的な研究を展開し、またALSにおけるRNA editing病態の解析といった世界的にもユニークな研究を展開した。また神経変性疾患におけるタンパク質分解系の役割としてオートファジーの研究を展開し、その治療応用などの方向性も示した。アルツハイマー病やパーキンソン病の病態の基礎研究を進展させるとともにさまざまなモデル動物も作製できた。精神疾患においてはゲノム異常と関連する研究において先端的な研究を行い、新たな精神発達遅滞遺伝子の同定や一部の統合失調症の家系解析から新たな病態仮説を提唱した。またゲノム工学を用いた自閉症マウスモデルの作製にも成功した。さらにこれらの疾患関連遺伝子の遺伝子導入やノックアウトにより作製されたモデルマウスの行動異常解析が系統的に行われるようになり、今後の研究展開の基盤ができた。これらの研究の成果の一部はすでにNature, Nat Cell Biol, Nat Biotech Nat Struct Mol Biol, Cell等の一流国際誌やJ. Neurosci, Biol Psychiatryといった一流専門誌に多く発表され、これらを含む約1700編の英文論文が発表された。「統合脳」の一翼として活動することにより、病態脳科学という領域を形成し、今後の統合的脳疾患研究の基盤を形成することが出来た。またこれらの成果を一般に向け公開するとともに、「包括脳」として今後より広く研究支援活動を行うことも可能となった。本年度は5年間の「病態脳」研究成果をまとめ、冊子およびCDとして報告書を作成し、領域内外に公開した。
著者
山田 利治 河原 康 佐野 大輔 渡邉 裕之 小澤 総喜 神谷 祐司
出版者
Japanese Society of Oral and Maxillofacial Surgeons
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.248-252, 2008-04-20
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

We report a rare case of brain abscess secondary to mandibular odontogenic infection. A 50-year-oldman developed an abscess of the infratemporal fossa, masticatory myositis, and temporal myositis caused bylower first molar marginal periodontitis. Incision and drainage were performed by an intraoral approach, andantibiotics were administered intravenously. On the 8th disease day, vomiting occurred, but responded to anantiemetic drug. On the 9th disease day, extraction of lower first molar and adrasion was performed, resulting inthe alleviation of local symptoms. However, a persistent headache occurred, CT and MRI scans revealed a brainabscess and subdural abscess in the temporal lobe, immediately above the skull internal base. The patient wasgiven a diagnosis of brain abscess caused by odontogenic infection. The abscess almost disappeared after conservativetherapy administered at the department of brain surgery, and no sequelae were noted. The abscess apparentlyexpanded directly and continuously from the skull base through the foramen ovale and foramen spinosum.This case emphasizes the need to diagnose brain abscess and subdural abscess as complications of odontogenicinfection.
著者
塚原 康子 平高 典子
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

海軍軍楽長・吉本光蔵(1863~1907)の日記を精読し、以下の研究成果を得た。(1)ベルリン留学時代の日記(1900~1902年)から吉本のベルリンでの音楽体験を把握した。海軍軍楽隊が1908年に始める東京音楽学校への依託生制度はベルリン音楽院の軍楽学生制度をモデルにした可能性が高い。20世紀初頭のヨーロッパには、川上音二郎一座らの興行や吉本が作成した五線譜を通して日本音楽の情報が流布した。(2)日露戦争中の日記(1904~1905年)から第二艦隊旗艦・出雲に乗艦中の軍楽隊の活動状況を把握した。軍楽隊は定例の奏楽以外に作戦遂行や戦死者追弔にも奏楽し、兵員による琵琶・尺八の私的演奏もあった。
著者
室岡 瑞恵 桑原 康裕 春山 成子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.138-148, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
5

アムール川は主に中国とロシアの国境を流れる国際河川である.中流域では高い頻度で洪水が起こっているが,定期観測データがほとんど無く,洪水の実態は明らかにされてこなかった.本研究ではアムール川中流域のハバロフスクにおける降水量データと流量データを基に洪水の数値解析を行い,現地での聞き取り調査と照合した.さらに,地形分類図を作製した上でJERS-1/SARデータにより湿地図を作製し,遊水地としての機能を多く果たす地形を明らかにした.その結果,月降水量の頻度は指数分布に従っており,5・10・20・50・100年確率降水量を算出することができた.また,降水量と流量の関係はロジスティック曲線に従っており,理論上,降水量96.5mm/月を超えると河川氾濫が始まることがわかった.当該地域の地形は丘陵地,氾濫原,自然堤防,低位及び高位段丘に分類できた.この中で湿地が多く分布するのは氾濫原で,湿地面積と降水量に相関がみられ,遊水地としての機能を大きく果たしていることがわかった.
著者
和田森 直 石原 康利
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.220-225, 2011-02-10 (Released:2011-12-13)
参考文献数
31

A measurable depth of the blood glucose level by using photoacoustic spectroscopy (PAS) was discussed experimentally in order to improve detection sensitivity. Since a measurable depth of the PAS based on a modulation frequency of the chopped light irradiated to a sample, the relationship between modulation frequency and the thickness of a sample was evaluated. In our experiments, the photoacoustic detector consisted of an acoustic resonant pipe and an optical microphone, and a two-layer model composed of silicone sheets with the different optical absorption were used. We varied the thickness of the upper-layer for the two-layer model from 0.50 to 5.00 mm at each modulation frequencies to investigate the relationship between the measurable depth and the modulation frequency. As results, it is shown that the measurable depth was 2-3 mm with modulation frequency of 1.6-1.9 kHz. Furthermore, the reason for the measurable depth to be deeper than the thermal diffusion length of a sample was discussed. From these analyses of thermoelastic wave, the relation between the photoacoustic signal propagation and the measurable depth in a tissue was clarified.
著者
岩崎 祐貴 折原 良平 清 雄一 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.27, 2013

近年,ブログやtwitterなどソーシャルメディアの普及により誰でも気軽に情報発信できるようになった.それに伴い頻繁に炎上が起こり,ブログの閉鎖や個人情報の特定といった被害に合うリスクが高まっている.そこで本研究では,実際に炎上したtwitterやブログ記事を収集,分析することで炎上の原因を調査した.また,今後の炎上を防ぐため,過去の炎上事例を教師データとした機械学習の適用方法を提示する
著者
杉原 康正 伊藤 富夫 洞口 祐
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン (ISSN:03743470)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.270-279, 1965

色切換格子つきの単電子銃カラー受像管カラーネトロンを開発し, 色再生方式に線順次式のカラーネットシステムを用いた新しいカラー受像機を実用化した.回路はすべてトランジスタ化し, ポータブルカラーテレビとしてまとめた.ここにその動作原理, 各回路の設計概要, 構造, 特長について紹介する.
著者
全 泰賢 川村 隆浩 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.2485-2493, 2012-11-15

近年,商品やサービスを販売するECサイトの市場規模がますます拡大している.しかし,多くのECサイトの商品検索機能はカテゴリ絞り込みやキーワード検索に限られており,単語での特徴指定が困難な商品の検索においては難がある.たとえば,ECサイトの中でも特に売上げが伸びている服飾系の商品においては,ユーザは事前にブランド名やデザイン種別などの商品知識を頭に入れる必要があり,それによって商品群を絞り込んだ後にも何十というサムネイル画像を順番に見ていかなければならない.そこで本研究では,ユーザが閲覧した衣服(デザイン)の履歴を,商品画像の局所特徴量と商品説明文中のキーワードから,我々が事前に用意した服飾オントロジ上にマッピングする.そして,オントロジ内の距離計算によってユーザのデザインに関する嗜好を推定し,ユーザ嗜好に沿った衣服を抽出・推薦するエージェントシステムを提案する.また,推薦精度に関する評価実験を行い,70%超の再現率を達成していることを確認した.E-commerce market has been expanding, recently. However, search functionality for products in most of e-commerce sites are limited to keyword search and category selection, thus there is a problem to search for the product, to which it is difficult to specify its characteristics by words. In terms of a fashion product whose sales have been increasing year after year, users are required to learn the keywords like brand names and design terms in advance, and after just narrowing a list of the products they need to check small thumbnail images of enormous items one by one. Therefore, we propose an 'agent' service, which maps the user's browsing history of the product designs to the prepared fashion ontology based on local features of product images and keywords in product descriptions. Then, it estimates his/her favorite designs by calculating distances in the ontology and recommends the unseen items to the user. Also, we conducted an experiment for the recommendation accuracy, and confirmed more than 70% of recall.
著者
橋本 和幸 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.94, no.11, pp.1762-1772, 2011-11-01
被引用文献数
1

近年,政策やサービスなどの評判を調査するためにアンケート形式による調査が増加しているが,回収率が低落傾向にあることや,人的コストが増加するなどの問題が生じている.一方,Web上にはユーザの意見を含む評価情報が多数存在している.そこで本研究では,評判傾向予測システムの構築を目的として評判傾向の時間的変化とその原因をマイクロブログから抽出する評判傾向抽出エージェントの実現を目指す.特に本論文では,評判傾向の抽出と評判傾向が変化した原因の抽出に注力する.評価情報の感情を抽出するセンチメント分析に着目し,回帰式から評判傾向の変化点を抽出した後に,変化点におけるトピックをチャンキングにより抽出する手法を提案する.本手法は,従来の評価判定法であるp/n判定にセンチメント分析を組み合わせることで,p/n判定単体よりも人手による調査と相関の高い時系列変化を抽出できる点が特徴であり,政治及びテレビドラマに関するコンテンツを対象に実際の支持率,視聴率に対する評価実験を実施した結果,政治(自由度調整済決定係数R'^2(p/n判定単体:0.22,提案手法:0.60)),テレビドラマ(自由度調整済決定係数R'^2(p/n判定単体:0.26,提案手法:0.56))ともに相関の高い時系列変化を抽出できることが確認できた.
著者
小林 隆一 千葉 浩行 藤原 康平 渡部 雄太 滝沢 耕平 桑原 聡士 竹村 昌太
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2020年度精密工学会春季大会
巻号頁・発行日
pp.680-681, 2020-03-01 (Released:2020-09-03)

近年、AMの電気的応用への期待が高まっている。我々は構造物であり、かつ電気的特性も求められる導波管に着目した。樹脂AMでは光造形、材料噴射、粉末床溶融結合(めっきによって表面に導電性を付与した)、金属AMでは粉末床溶融結合を用いて導波管を造形した。各導波管の75-110GHzの透過損失を測定したところ、市販の導波管と比較すると性能は劣るものの、粉末床溶融結合(樹脂)の損失が最も小さい結果となった。
著者
鈴木 亮一 島田 昌和 森本 匡洋 神野 信夫 鈴木 周二 余戸 拓也 原田 恭治 道下 正貴 原 康
出版者
Japanese Society of Veterinary Anesthesia and Surgery
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.45-52, 2023 (Released:2023-10-17)
参考文献数
30

3歳4ヶ月齢の避妊雌のドーベルマン・ピンシャーが、右後肢の跛行が進行していたため紹介来院した。整形外科的検査では股関節の可動域が減少し、右大臀筋および大腿部骨格筋の萎縮が明らかに認められた。コンピュータ断層撮影では右坐骨腹側から右大腿骨転子窩尾側に伸びる骨塊が認められた。Von Willebrand病1型遺伝子のDNA検査では遺伝子変異は認められなかった。骨塊は外科的手術により切除され、組織学的に化骨性筋炎と診断された。運動機能は顕著に改善し、術後363日目においても再発は認められなかった。
著者
中川 伸 陳 冲 萩原 康輔 平田 圭子 藤井 優子
出版者
公益財団法人 石本記念デサントスポーツ科学振興財団
雑誌
デサントスポーツ科学 (ISSN:02855739)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.67-75, 2023-02-22 (Released:2023-03-09)
参考文献数
12

うつ病の薬物療法,精神療法などが進歩し一定の効果を示してきている.しかし,無効な患者が多く存在し,日常生活や社会生活の障害を改善するためには未だ不十分であるため,実臨床では補完療法などの開発,改良が重要になってきている.本研究では,心肺運動負荷検査 (Cardiopulmonary Exercise Test, CPX) の客観的な指標により運動量を明確化し,既報に比較して運動強度・時間・回数が大きく軽減化された運動プログラムのうつ病に対する有効性を検討することを目的とした.慢性または反復性うつ病患者8名 (うつ病6名,持続性抑うつ障害2名) を対象に8週間の運動プログラムを行い,その前後に抑うつ症状,不安症状などの臨床評価を実施した.その結果,介入後に抑うつ症状が寛解に近い状態になり,状態不安および社会適応度の改善もみられた.少数の被験者ながら既報に比較して運動強度・時間・回数が大きく軽減化され,それでも効果が見られることから,これらの結果が今後大規模臨床試験において確認されれば,うつ病の補完療法の大きな進歩になると思われる.
著者
石井 隆 葉山久世 加藤ゆき 篠田授樹 池内俊雄 松本令以 萩原 康夫
出版者
日本野鳥の会 神奈川支部
雑誌
BINOS (ISSN:13451227)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.9-20, 2013-12-01 (Released:2014-11-10)
参考文献数
2
被引用文献数
1

1 2012 年以降の野生化したカナダガンの有害捕獲について報告した。2 山梨県富士河口町河口湖での、袋網捕獲で必要な手続きをまとめた。鳥獣保護法、自然公園法、河川法、土地所有者の許可等が必要で、約1 年の準備期間を要した。3 袋網作成の材料の検討を行い、袋網設置までの手順をまとめた。4 6 月14 日からの袋網設置の準備作業についてまとめた。5 6 月29 日の袋網捕獲の記録をまとめた。カヌー 6 艘、動力船1 艘、地上チーム10 名の体制で捕獲を行った。6 捕獲した個体の安楽殺は静脈経由で麻酔薬を投与し、電解質液を注入して心停止させた。7 袋網捕獲にあたっての留意点をまとめた。網の設置場所、規格、水上での追い込み等に関して記載した。
著者
四井 美月 Liang Kuo-ching 廣原 茉耶 北沢 桃子 吉村 道孝 江口 洋子 藤田 卓仙 岸本 泰士郎 榊原 康文
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第32回 (2018) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.4C2OS27b02, 2018 (Released:2018-07-30)

精神疾患の診断は現在,問診に基づく医師の主観的判断によって行われている.このような現在の診断方法は医師の経験に強く依存するため,正確な診断を行うための客観的な診断方法を開発する必要があると言われている.したがって我々の目標は,デバイスによって記録されたデータからうつ病患者の重症度を客観的に計算する深層学習手法を構築することである. 本研究では,うつ病患者と健常者を音声データで分類する深層学習プログラムを開発する.
著者
数土 武一郎 清原 康介
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.438-443, 2020-01-01 (Released:2020-07-21)
参考文献数
14

指差呼称は安全確認やヒューマンエラー防止を目的として,指差しを行い,その名称や状態を声に出して確認することである.我が国では,指差呼称は有効な安全対策として各業界で推奨され,医療現場や製造業等で幅広く実施されている.本研究では,医薬品製造の実生産ラインにおいて,指差呼称の実施回数を増やした際の作業員の肉体的・精神的疲労度およびヒューマンエラーの発生回数の変化について検討した.D製薬会社福島工場の製造作業員30名を対象に,1日の作業終了後に腕,口,目,足,精神の疲労度をVisual Analog Scaleにより10日間測定した.その後,作業中の指差呼称実施回数を通常の3倍として10日間勤務してもらい,同様に疲労度を測定して従前と比較した. その結果,指差呼称実施回数を3倍とした期間は,通常回数の期間と比較して,腕,目,精神の疲労度が有意に上昇した(p<0.05).口と足の疲労度には有意な変化は見られなかった.一方,ヒューマンエラーは全研究期間をとおして一度も発生しなかった. 以上の結果より,指差呼称実施回数を増やすことは作業員の疲労度を増大させる一方で,短期的にはヒューマンエラーの発生回数に影響しない可能性が示唆された.ただし,本研究の調査期間は計20日間と短く,ヒューマンエラー発生回数の差を把握するには十分な観察期間ではなかった可能性がある.今後はより長期的なモニタリングを行い,指差呼称の実施回数とヒューマンエラーの発生との関係を評価していく必要がある.