著者
大河内 博 吉田 昇永 柳谷 奏明 新居田 恭弘 梅澤 直樹 板谷 庸平 緒方 裕子 勝見 尚也 高田 秀重
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

1.はじめにプラスチック生産量は年々増加しており,総生産量は1950年には年間200万トンであったが,2012年には3億トン,2050年には400億トンに達すると推計されている(Zalasiewicz, et al., 2016).その結果,河川を通じて大量の海洋ブラスチックゴミが発生している.ブラスチックゴミのうち,直径5 mm以下のプラスチック片の総称であるマイクロプラスチック(microplastics,; MPs)は,海洋生物が餌と誤認して摂食する物理的障害とともに,プラスチック添加剤や環境中で表面に吸着した有害有機化合物が体内に移行して生体に影響を与えることが懸念されている.2.大気中マイクロプラスチックの現状 最近では河川,水道水,ペットボトル,道路粉塵,室内空気でもMPsが検出されている.米国の推計によると,MPsが体内に取り込まれる経路は食物と呼吸が同程度でそれぞれ年間6万個程度,ペットボトル水から年間9万個を摂取している(Cox et al. , 2019).ただし,大気中マイクロプラスチック(Airborne microplastics; AMPs)の計測例は限られており,その実態はよく分かっていない.AMPsに関する先行研究はフランス・パリ郊外(Dris et al., 2016, 2017)や中国・広東省(Cai et al., 2017)で行われている.ただし,大部分は大気エアロゾルではなく,フォールアウトである.都市部におけるAMPsの形状は繊維状が多く,フィルム状,破片状,発泡体は少ない.同定されている主要材質はポリプロピレン,ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレートである(Dris et al., 2016, 2017; Cai et al., 2017, Liu et al., 2019).大気エアロゾル中AMPsの報告例は数例に限られるが,パリ(フランス)では室内空気で1 – 60 本/m3の繊維が存在しており,その66 %がセルロースなどの天然繊維である(Dris et al., 2017).一方,屋外空気では0.3 – 1.5 本/m3(50 – 1650 µm)の繊維が浮遊している.イラン南岸部アサルイエの都市大気でも大部分は繊維であり,空気では0.3 – 1.1 本/m3(2 -–100 µm)であるが,天然繊維か合成繊維(プラスチック)かは不明である(Abbasi et al., 2019).上海(中国)の都市大気では0 – 4.18 個/m3(23 – 9555 µm)であり,67 %が繊維状である(Liu et al., 2019a).また,同地点で0.05 – 0.07 個/m3(12 – 2191 µm)であり,43%が繊維状という報告もあり(Liu et al., 2019b),かなりばらつが大きい.AMPs研究はほとんどが都市大気に関するものであるが,最近になってマイクロプラスチックが大気を通じて輸送され,フランス・ピレネー山脈で365個/m2/日(65 µm以上)の沈着量であることが明らかにされた(Allen et al., 2019).この沈着量は都市部とほとんど変わらないことから,大気を通じたマイクロプラスチック汚染が広域的に起きていると可能性を示すものであり,NHKでも取り上げられた.また,山間部では都市部とプラスチック形状が大きく異なり,破片状,フィルム状AMPsが多く,繊維状AMPsは少ないことが明らかにされている.3.大気中マイクロプラスチック研究の課題現状では研究者が独自の方法で行った結果を報告しており,単純に比較することはできない.したがって,AMPsの採取法,前処理法,同定法に関する統一的手法開発が求められている.講演では, AMPs計測用の大気中エアロゾル捕集材,前処理法,計測手法に関する我々の検討結果について紹介するとともに,都市大気および自由対流圏大気中AMPsの実態について,その一端を紹介したい.
著者
道堯 浩二郎 平岡 淳 鶴田 美帆 相引 利彦 奥平 知成 山子 泰加 岩﨑 竜一朗 壷内 栄治 渡辺 崇夫 吉田 理 阿部 雅則 二宮 朋之 日浅 陽一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.641-646, 2018-11-20 (Released:2018-11-28)
参考文献数
16

HBs抗原の測定法が改良され検出感度が高くなっているが,HBs抗原低値陽性例では偽陽性が危惧される.偽陽性の疑われる例を判定困難例とし,HBs抗原濃度別の判定困難例の頻度を明らかにすることを目的とした.41,186検体を対象にHBs抗原を化学発光免疫測定法で測定し,後方視的に検討した.判定困難例の基準をHBc抗体,HBe抗原・抗体,HBV-DNAすべて陰性,後日採血された検体でHBs抗原が陰性,の全条件を満たす例とし,HBs抗原濃度別の判定困難例の頻度を検討した.HBs抗原は1,147検体(2.8%)で陽性であった.判定困難例は6検体で,HBs抗原濃度(IU/ml)は,全例0.05以上0.20未満であり,0.20以上例には基準を満たす例はなかった.以上より,HBs抗原低値陽性例は偽陽性の可能性に留意する必要があることが示唆された.
著者
吉田 明夫 小林 昭夫 塚越 利光
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.401-406, 2006-03-31 (Released:2010-03-11)
参考文献数
23
被引用文献数
1

Areal strain increased noticeably in the region around the northern boundary of the Izu Peninsula in September to December 2000 when a lot of low-frequency earthquakes occurred beneath Mt. Fuji. In the same time the seismic activity in eastern Yamanashi Prefecture became low. Since increase of the areal strain indicates reduction of the pushing force of the colliding Izu block, the decrease of seismicity in eastern Yamanashi Prefecture is easily understood. Further, because diminution of the tectonic stress beneath Mt. Fuji implies reduction of the confining pressure in the magma reservoir, we think it is probable that degassing took place in the magma to build up high pressure in the focal region near the chamber which caused the remarkable activity of the low-frequency earthquakes. We suggest the noticeable increase of the areal strain in late 2000 might be produced by a mechanical separation of the Izu block from the Philippine Sea plate or detachment of the crust of the Izu block as proposed by Seno (2005).
著者
中井 由佳 徳山 絵生 吉田 都 内田 享弘
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.1175-1182, 2009 (Released:2009-12-21)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本特集では、種々の配合変化の中から、FDAからALERTが出されている、注射用セフトリアキソンナトリウム製剤とカルシウム含有製剤との配合変化に着目して、(1)カルシウム濃度、(2)温度、および(3)振とうの度合いが与える影響について、肉眼的・実体顕微鏡下の観察および光遮蔽型自動微粒子測定装置を用いた不溶性微粒子数 (以下、微粒子数と略す) 測定により評価した成果について述べた。10mg/mLの注射用セフトリアキソン生理食塩溶液10mLに最終のカルシウムイオン濃度が0.5、1、1.5、2、2.5mmol/Lとなるよう2%塩化カルシウム注射液を加え、薬剤が均一になる程度に緩やかに振り混ぜた後、20℃、25℃、30℃の温度条件下に保存した。混合溶液中の微粒子数を光遮蔽型自動微粒子測定装置により計測したところ、微粒子数はカルシウムイオン濃度と経過時間に比例して増加する傾向を認めた。混合直後では、すべてのサンプル中の微粒子数は日本薬局方 (以下、局方と略す) の許容範囲内であったが、混合1時間後では、すべての温度で、カルシウムイオン濃度2mmol/L以上で局方の許容微粒子数を超えた。配合変化に及ぼす温度の影響については温度が高いほど大きい粒子径の不溶性微粒子を実体顕微鏡下確認できた。逆に温度が高いほど微粒子数は少なかった。また、この事実は、沈殿物重量の測定結果と矛盾しなかった。また、振とうを与えることで微粒子数は有意に増加した。体内濃度を想定した1,000μg/mLの注射用セフトリアキソン生理食塩溶液10mLに最終のカルシウムイオン濃度が1.25mmol/Lとなるよう2%塩化カルシウム注射液を加えた溶液中の微粒子数の検討では、微粒子は有意に増加した。上記結果より、カルシウム濃度だけでなく、保存温度や振とうもセフトリアキソンとカルシウムの沈殿に影響を及ぼした。
著者
金井 豊 三田 直樹 竹内 理恵 吉田 信一郎 朽津 信明
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1-2, pp.1-15, 2006-04-21 (Released:2015-12-11)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

洞窟内の沈殿物や河床に生成する沈殿物に棲息する微生物などを日本各地から採取し,その中の微生物のマンガン酸化活性を調べた.更にマンガン酸化能を持つ微生物の分離を行い,その分離株について分類や16S rDNA による同定を試みた.また,予察的にボーリングコア中のマンガン酸化細菌の調査を行った. その結果,洞窟や河床からの沈殿物からはグラム陽性桿菌の Bacillus や Curtobacterium,グラム陰性桿菌の Burkholderia 等が分離された.ボーリングコアでは 20 m以深においても微生物の存在が確認され,堆積性の地下環境でも微生物研究が重要であることが示された.更に,微生物生態学的に様々な条件下における微生物のマンガン酸化活性についての実験を行い,最適環境条件等を調査した. 微生物は核種移行に関わる化学環境に直接・間接的な形で影響を与えるため,微生物の総量,種類とその特質,生存環境と活性の有無とが重要な課題である.このようなデータは微生物の種類ごとに相違すると考えられるため,系統的にデータを収集してデータベース化を進める必要がある.
著者
吉田 達司 古川 宏
雑誌
第82回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, no.1, pp.443-444, 2020-02-20

モバイルアプリケーション(アプリ)はユーザが同意することで,端末内の様々な情報を取得している.アプリの多くは,ユーザが同意(アクセス許可)する際に詳細な情報を提示していない.そのため,ユーザがアクセス許可の意思決定をするためには,アプリについて調べた上で,許可するか否かを決定しなければならない. 本研究では,アクセス許可の意思決定前にユーザの個人状況に合わせた支援情報を提供するツールの検討を行っている.本稿では,ユーザの個人状況とアクセス許可時にユーザが求める情報について中高生を対象として調査を実施し,収集した情報の相関関係から,ユーザの個人状況を考慮した支援情報を決定する手法の検討を行った.
著者
吉田 雅巳
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-8, 2009-03

本稿では日本におけるネット上いじめ問題を海外のサイバーブリング(CB)研究を参考にしながら考察した。CBは決して校内だけで起こる問題ではなく,そのため学校の認識や対応の準備が生まれにくい。また,「発見」「対応」はともに,方法的,技術的,組織的に困難な問題である。そこで本稿では,海外知見を参考に,学校の対応としての「対策」「介入」を紹介し,学校における議論の焦点化をはかるための資料を提供した。
著者
吉田 猛
出版者
新潮社
雑誌
新潮45
巻号頁・発行日
vol.32, no.9, pp.166-175, 2013-09
著者
西村 裕一 宮地 直道 吉田 真理夫 村田 泰輔 中川 光弘
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.451-460, 2000-10-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
31
被引用文献数
11 10

北海道東部の霧多布湿原において,湿原堆積物の掘削調査から泥炭層中に連続する層厚3cm以下の砂層を発見した.この砂層は,海側から内陸側に向かって層厚や粒径を減じ,比較的層厚の大きな地点では級化構造を呈する.また,乾燥化や塩分濃度の低下に伴って発生する珪藻化石を産出することから,この砂層を津波堆積物と認定した.砂層の下位には泥炭層を挾み,1739年の樽前a火山灰(Ta-a)と1694年の駒ヶ岳C2火山灰(Ko-c2)の2層の火山灰層が確認された.これらの火山灰層の年代をもとに泥炭の堆積速度を求めたところ,この砂層の年代はおよそ1810~50年代と推定された.1843年に,北海道東部の厚岸を中心に46名の犠牲者を出した北海道南東岸沖地震津波の歴史記録があり,この津波の前後に規模の大きな津波が霧多布湿原一帯に押し寄せた記録はないことから,本砂層は1843年の津波によりもたらされた堆積物と考えられる.
著者
南石 晃明 土田 志郎 飯国 芳明 二宮 正士 山田 優 金岡 正樹 淡路 和則 内山 智裕 八木 洋憲 西 和盛 澤田 守 竹内 重吉 藤井 吉隆 木下 幸雄 松下 秀介 佐藤 正衛 星 岳彦 吉田 智一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-11-18

本研究の目的は、次世代農業経営革新の基礎となる人材育成システム構築に有益な知見を、学際的かつ国際的な視点から体系化することである。主な研究成果は以下の4つに区分できる。第1にスイス、フランス、ドイツ、デンマーク、イギリス、オランダ、スペイン等の欧州主要国の職業教育訓練の現状と課題について明らかにした。第2に、わが国の先進農業経営に人材育成の実態と課題を統計分析と事例分析を組合わせて明らかにした。第3に知識・情報マネジメントの視点から、情報通信技術ICT活用および農作業熟練ノウハウ継承について明らかにした。第4にこれらの知見の基礎的考察と含意を考察し、次世代農業人材育成の展望を行った。
著者
吉田 文
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.11-37, 2018

<p> 学生の多様化という問題が,どのように認識されどのように論じられたか,1960年代と2000年代の日本を対象に,各種の審議会の答申をもとに,イギリスとの対比で検討した.日本では,学生のメリトクラティックな選抜という観点が強く,高等教育の拡大は,能力のない学生の増加とみなされ,学生層の多様化に関しては否定的な見解が主流である.他方で,イギリスでは,1960年代以来,高等教育の拡大は,不利な背景をもつ学生層への教育の機会の提供として捉えられ,それの実現に向けての施策がとられてきた.こうした差異が生じる理由は,議論の前提としての社会的公正という理念の受容,教育拡大を社会的効用と関連して考える観点,教育拡大の結果を示す高等教育研究の蓄積によるといってよいだろう.</p>
著者
池田 里奈 吉田 圭佑 髙橋 諒 松澤 暢 長谷川 昭
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地震の応力降下量は,地球内部の応力サイクルの理解の上で重要なパラメータである.小中地震の応力降下量は,従来,Brune (1970), Sato & Hirasawa (1973), Madariaga (1976)などの震源過程モデルの当てはめにより推定されてきたが,近年では,観測ネットワークの発達により小中地震の破壊伝播過程そのものについての推定もある程度可能になってきている.本研究では,2011年3月11日から2018年10月31日までに福島-茨城県境周辺で発生した小中地震 (Mw 3.3-5.2)の破壊伝播指向性を調べ,さらにそれを考慮して応力降下量の推定を行った. 初めに,経験的グリーン関数法を用いて,対象地震 (348個)の観測波形を近傍で発生したひとまわり小さな地震の波形でdeconvolutionすることにより,各観測点での見かけの震源時間関数を求めた.その結果,本研究で解析対象にした小中地震の多くに,見かけの震源時間関数の継続時間や振幅に明瞭な方向依存性が確認できることがわかった. 次に,楕円形断層の非対称破壊を含む一般化した震源過程モデル (Dong & Papageorgiou, 2003)を用いて,見かけの震源時間関数のコーナー周波数とその方向依存性から断層サイズと応力降下量,破壊の進展方向を推定した.楕円形断層の非対称破壊を導入することにより,従来の円形断層の対称破壊モデルよりも理論コーナー周波数の残差を大幅に減少させることができた.解析を行った348個の地震のうち,306個の地震が有意な破壊伝播指向性を持つことが分かった.破壊の進展方向には偏りがあり,本研究で解析した地震には,破壊が南東方向へ進展したものが多いことが分かった. 推定した断層サイズから求めた応力降下量は,対称破壊モデルを仮定して求めたものより系統的に大きな値を示した.このことは,円形断層の対称破壊伝播を仮定した場合には,同じ継続時間でも破壊域が大きくなり,断層サイズが過大評価されると考えられることから理解できる.推定した応力降下量の平均値は20.2 MPaであり,先行研究によりこの地域で推定されている最大剪断応力の大きさと同程度であった.このことは,個々の小地震が,断層面上の剪断応力の殆どを解消していることを意味するのかもしれない.
著者
井筒 直樹 福家 英之 山田 和彦 飯嶋 一征 松坂 幸彦 鳥海 道彦 野中 直樹 秋田 大輔 河田 二朗 水田 栄一 並木 道義 瀬尾 基治 太田 茂雄 斎藤 芳隆 吉田 哲也 山上 隆正 中田 孝 松嶋 清穂
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-22, 2008-02

科学観測用に使用されているゼロプレッシャー気球には,昼夜のガス温度差により夜間に浮遊高度が低下するという根本的な問題がある.これに対して,排気口がなく体積変化がほとんどないスーパープレッシャー気球は,バラストの必要がないため浮遊時間を大きく延ばすことが可能となる.しかし,皮膜に要求される強度が大きいため,小型の球形スーパープレッシャー気球を除いては実用化ができていなかった.我々は,この問題を解決することができるLobed-pumpkin 型気球を考案し,試験開発を行ってきた.多くの地上膨張試験,実際の飛翔環境における加圧破壊試験を繰り返した結果,設計上および製造上に多様な問題があることがわかり,順次これらの解決を図った.その結果,要求される性能を有するスーパープレッシャー気球の設計および製造方法が確立された.
著者
太田 茂雄 松坂 幸彦 鳥海 道彦 並木 道義 大西 晃 山上 隆正 西村 純 吉田 健二 松島 清穂
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
宇宙科学研究所報告 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
no.34, pp.1-15, 1997-03

低温性能に優れたポリエチレンフイルムの出現により, プラスチック気球による宇宙科学の観測は大幅な進歩を遂げてきた。気球の容積も10^6m^3級のものが実用化され, 2&acd;3トンの観測機器を搭載して高度40km程度の観測が行われるようになってきた。最近ではその成功率はほぼ100%に近い。ポリエチレン気球は優れた安定性を持っているが, ゼロプレッシャ気球であるために夜間気球内のガス温度が低下して, バラストを投下せねば一定高度を保つ事はできない。バラストの投下量は緯度にもよるが, 日本のような中緯度の上空では一晩に10%弱のバラスト投下が必要である事がこれまでの数多くの実験で確かめられている。したがって数日間の浮遊の後には, バラストは使い果たし, 観測を続けることはできない。この欠点を避けるために提案されたのがスーパープレッシャ気球である。スパープレッシャ気球は内圧のかかった気球で, 夜間気球内のガス温度が低下しても, 内圧が低下するだけで容積は変わらず, 水平浮遊の高度を保つ事ができる。バラストの投下が不必要で, 長時間にわたる観測が可能になる。ただし, 内圧がかかるために気球被膜はゼロプレッシャ気球に比べて, 強度の高いものが必要となり, またガスの漏洩があってはならない。最初に着目されたのはポリエステルフイルム(マィラー)である。ただし, マイラーはポリエチレン気球に比べると低温性能がわるく, また気球製作も難しいので, 現在のところ実用上は5000m^3程度の小型の気球のものにとどまっている。より性能の優れた気球用フイルムの研究は現在世界各国で行われており, 近い将来, 高性能の気球が出現し, 観測項目によっては人工衛星にくらべて極めてコストパーフォーマンスのよい気球が出現するものと考えられている。わが国では, クラレ社のEVALフイルムに着目し, その性質を調べると共に, 実際に気球を試作してその性質を調べている。EVALフイルムの際立った特徴はマイラーとほぼ同じ程度の強度を持つと同時に, 熱接着が可能な事, 特異な赤外線吸収バンドを持っている点である。スーパープレッシャ気球の材料として有望である。また同時に, 赤外線吸収バンドの関係で, 夜間での気球内ガス温度の低下がポリエチレン気球に比べてほぼ半減し, バラストの消費量が著しく節約できる事が期待出来る[1]。1996年の初めに小型のEVAL気球の試験飛翔を行なったが, その結果は良好であった。今後, 更に小型気球の飛翔試験を行い, 大型化して長時間観測のための優れた性能を持つ長時間観測用の気球を完成したいと考えている。ここではまず長時間観測システムの現状を概括する。ついでEVALフイルムについての特性, 特に熱接着法, 低温における接着強度と赤外の吸収バンドについて述べる。最後に昨年行われた, 試験飛翔の結果の解析, ついで将来のEVAL気球の展望について触れる事とした。資料番号: SA0167081000

1 0 0 0 OA エバール気球

著者
太田 茂雄 松坂 幸彦 鳥海 道彦 並木 道義 大西 晃 山上 隆正 西村 純 吉田 健二 松島 清穂 OHTA Sigeo MATSUZAKA Yukihiko TORIUMI Michihiko NAMIKI Michiyoshi OHNISHI Akira YAMAGAMI Takamasa NISHIMURA Jun YOSHIDA Kenji MATSUSHIMA Kiyoho
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集: 大気球研究報告 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.1-15, 1997-03

低温性能に優れたポリエチレンフイルムの出現により, プラスチック気球による宇宙科学の観測は大幅な進歩を遂げてきた。気球の容積も10^6m^3級のものが実用化され, 2&acd;3トンの観測機器を搭載して高度40km程度の観測が行われるようになってきた。最近ではその成功率はほぼ100%に近い。ポリエチレン気球は優れた安定性を持っているが, ゼロプレッシャ気球であるために夜間気球内のガス温度が低下して, バラストを投下せねば一定高度を保つ事はできない。バラストの投下量は緯度にもよるが, 日本のような中緯度の上空では一晩に10%弱のバラスト投下が必要である事がこれまでの数多くの実験で確かめられている。したがって数日間の浮遊の後には, バラストは使い果たし, 観測を続けることはできない。この欠点を避けるために提案されたのがスーパープレッシャ気球である。スパープレッシャ気球は内圧のかかった気球で, 夜間気球内のガス温度が低下しても, 内圧が低下するだけで容積は変わらず, 水平浮遊の高度を保つ事ができる。バラストの投下が不必要で, 長時間にわたる観測が可能になる。ただし, 内圧がかかるために気球被膜はゼロプレッシャ気球に比べて, 強度の高いものが必要となり, またガスの漏洩があってはならない。最初に着目されたのはポリエステルフイルム(マィラー)である。ただし, マイラーはポリエチレン気球に比べると低温性能がわるく, また気球製作も難しいので, 現在のところ実用上は5000m^3程度の小型の気球のものにとどまっている。より性能の優れた気球用フイルムの研究は現在世界各国で行われており, 近い将来, 高性能の気球が出現し, 観測項目によっては人工衛星にくらべて極めてコストパーフォーマンスのよい気球が出現するものと考えられている。わが国では, クラレ社のEVALフイルムに着目し, その性質を調べると共に, 実際に気球を試作してその性質を調べている。EVALフイルムの際立った特徴はマイラーとほぼ同じ程度の強度を持つと同時に, 熱接着が可能な事, 特異な赤外線吸収バンドを持っている点である。スーパープレッシャ気球の材料として有望である。また同時に, 赤外線吸収バンドの関係で, 夜間での気球内ガス温度の低下がポリエチレン気球に比べてほぼ半減し, バラストの消費量が著しく節約できる事が期待出来る[1]。1996年の初めに小型のEVAL気球の試験飛翔を行なったが, その結果は良好であった。今後, 更に小型気球の飛翔試験を行い, 大型化して長時間観測のための優れた性能を持つ長時間観測用の気球を完成したいと考えている。ここではまず長時間観測システムの現状を概括する。ついでEVALフイルムについての特性, 特に熱接着法, 低温における接着強度と赤外の吸収バンドについて述べる。最後に昨年行われた, 試験飛翔の結果の解析, ついで将来のEVAL気球の展望について触れる事とした。