著者
吉田 安規良 吉田 はるか
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-30, 2020

<p>平成時代の理科を教える教師教育を振り返り,その中で得た気づきを新しい―令和―時代の理科教育の創造へとつなげる一助とするために,本報では,日本理科教育学会の学術雑誌『日本理科教育学会研究紀要』・『理科教育学研究』で"平成"時代に報告された理科を教える教師教育に関する研究を整理した。その結果,理科を教える教師教育に関する研究報告は,発行年別に見ると,1997(平成9)年,1998(平成10)年,1999(平成11)年以外で,巻別に見ると,第38巻,第39巻,第41巻以外に,総計111編掲載されていた。この111編は,①日本理科教育学会教育課程委員会報告(5編),②教員志望学生の現状に関する調査研究(28編),③現職教員の現状や要望,授業の実態を把握する調査研究(39編),④教員志望学生を対象とした理論的,実践的研究(20編),⑤現職教員を対象とした理論的,実践的研究(8編),⑥諸外国の教師教育に関する研究(8編),⑦その他(3編)に大別された。そのほとんどが,教職志向の学生と現職教員に関する事例的な報告であり,理科を教える教師教育者の専門性開発を扱ったものやコア・サイエンス・ティーチャーに関するものは無かった。対象校種は小学校に関するものが多く,科目内容的には天文学に関するものが地学で目立った。平成時代の日本理科教育学会における理科を教える教師教育に関する研究成果には,様々な背景をもった理科を教える教員志望学生や現職教員に対する教育や自らの経験だけに依拠しない形で対応できる理科を教える教師教育者の専門性開発に繋がる,令和時代の理科を教える教師教育の礎となるものが数多くあり,その深化と発展,さらには社会への提案と還元が期待される。</p>
著者
稲葉 昭英 吉武 理大 大久保 心 吉田 俊文 大橋 恭子 夏 天 小正 貴大
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大規模な公共利用データを用いて貧困低所得層の世代的再生産に関する計量分析を行った。その結果、ひとり親世帯の子(中学3年生)の教育アスピレーション(進学期待)が低く、成績が悪く、勉強時間が少ない傾向がみられた。とくにこの傾向は父子世帯の子に大きかった。多変量解析の結果、母子世帯の子に見られる差異は所得の低さからほぼ説明されえたのに対して、父子世帯の子に見られる差異は所得からは説明されえなかった。
著者
吉田裕昭 橋本周司 中村真吾
雑誌
第76回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.1, pp.627-628, 2014-03-11

強化学習において、入力数が多く複雑なシステムが最適な制御器を獲得する手法の一つとして、モジュール型強化学習が提案されている。しかし、モジュールに用いる入力を決定し、設計を行うのは設計者自身であることから、設計者が学習に関する最低限の知識を有する必要があるなどの問題がある。本稿では、この問題に対して遺伝的アルゴリズムと寄与率という新たな指標を定義することによって自動的にモジュールが組み上がるアルゴリズムを提案する。
著者
熊野 純彦 木村 純二 横山 聡子 古田 徹也 池松 辰男 岡田 安芸子 吉田 真樹 荒谷 大輔 中野 裕考 佐々木 雄大 麻生 博之 岡田 大助 山蔦 真之 朴 倍暎 三重野 清顕 宮村 悠介 頼住 光子 板東 洋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2018年度は、本研究の主要達成課題のうち、「各層(家族・経済・超越)の各思想の内在的理解」を中心とする研究がなされた。近現代日本の共同体論を再検証するにあたっては、2017年度で取り組まれた「和辻共同体論の参照軸化」に加え、家族・経済・超越それぞれの層に関連する思想を巡る形成の背景に対しても、テクストに内在した読解を通じて光を当て直す必要がある。以下、そうした問題意識のもとに取り組まれた、2018年度の関連実績のうち主要なものを列挙する。(1)研究代表者の熊野純彦は、著書『本居宣長』において、近世から現代に至るまでの代表的な思想家たちによる宣長の思想の受容過程を丹念に整理・検証することで、それを近代日本の精神史の一齣として提示することを試みた。それを踏まえたうえで改めて宣長のテクストの読解を行い、今日の時代のなかでその思想の全体像を捉えかえそうとしたところに、本業績の特徴がある。(2)研究分担者宮村悠介は、主に本研究の研究分担者からなる研究会(2018年9月)にて、研究報告「家族は人格ではない 和辻共同体論のコンテクスト」を行い、和辻倫理学の形成過程におけるシェーラーの影響と対話の形跡を、具体的にテクストをあげつつ剔抉した。これは、翌年度の課題である「思想交錯実態の解明」にとってもモデルケースとなる試みである。(3)超越部会では台湾の徐興慶氏(中国文化大学教授)を招聘、大陸朱子学と、幕末から近代に至るまで様々な思想に陰に陽に影響を及ぼしてきた水戸学の影響関係について知見をあおいだ(「「中期水戸学」を如何に読み解くべきか 徳川ミュージアム所蔵の関係資料を視野に」2018年)。これにより、広く東アジアの思想伝統と近世以降現代に至るまでの日本思想の受容・対話の形跡を実証的に検証することの重要性を改めて共有できたことは、本研究の趣旨に照らしても重要な意義を持つと思われる。
著者
吉田 周 平井 規央 上田 昇平 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1-14, 2020-05-31 (Released:2020-06-13)
参考文献数
55

To examine the structure of the butterfly assemblage in a residential area developed in a Satoyama landscape, transect counts of butterflies were carried out for five years from 2012 to 2016 in the Iwakura-Ichihara area of Kyoto City. Thirty-eight species were observed with five dominant species, Pieris rapae, Zizeeria maha, Eurema mandarina, Ypthima argus and Colias erate, accounting for 77.4% of the total population. Although no red-listed species were found, several Satoyama coppice species such as Erynnis montana and Japonica lutea were observed in the study site. Analyses based on past records and land-use changes demonstrate that the butterfly assemblage has been simplified with the reduction of the Satoyama landscape.
著者
糸井 志津乃 安齋 ひとみ 林 美奈子 板山 稔 吉田 由美 風間 眞理 刀根 洋子 堤 千鶴子 奈良 雅之 鈴木 祐子 川田 智惠子 小池 眞規子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.442-451, 2020-07-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
41

目的 本研究では病院で活動しているがんピアサポーターが大事にしていることを明らかにすることを目的とする。方法 質的記述的研究方法を用いた。研究協力を承諾した患者会団体から研究参加候補者の紹介を受けた。研究参加に同意したがんピアサポーター10人に半構造化面接を2014年7月から10月に実施した。逐語録より,がんピアサポーターが大事にしていることを抽出した。文脈を単位としてコードを生成し,さらにサブカテゴリー化,カテゴリー化を行い分析した。本研究は目白大学研究倫理審査委員会の承認を得て,その内容を遵守して実施した。結果 研究参加者は病院を活動の場とし,個別相談,がんサロンで活動中の40歳代から70歳代の10人(男性2人,女性8人)のがんピアサポーターである。医療機関で活動しているがんピアサポーターが大事にしていることとして,129コード,11サブカテゴリーから5つのカテゴリーが生成された。カテゴリーは【傾聴しありのままを受け止め,利用者が方向性を出せるようにする】【医療者とは違う立場をわきまえ,対応する】【心持ちを安定させ,生活とがんピアサポート活動とのバランスを考える】【知識や技術を担保し,自分を磨き続ける】【医療者,病院との信頼関係を築く】である。結論 病院で活動しているがんピアサポーターが大事にしていることは,以下のようであった。まず,利用者を対象に,【傾聴しありのままを受け止め,利用者が方向性を出せるようにする】【医療者とは違う立場をわきまえ,対応する】である。これは“がんピアサポート活動の実践中に利用者のために大事にしていること”であり,大事にしていることの中心を成している。次に,がんピアサポーター自身を対象に,【心持ちを安定させ,生活とがんピアサポート活動とのバランスを考える】【知識や技術を担保し,自分を磨き続ける】である。これは“がんピアサポート活動の継続と質の向上のために大事にしていること”であり,支援体制や学習環境の整備が課題である。さらに,【医療者,病院との信頼関係を築く】である。これは“がんピアサポート活動を円滑にするために大事にしていること”である。医療者・病院との信頼関係の重視は,病院でのがんピアサポート活動の特徴と言える。本研究の結果は,がんピアサポート活動を振り返る視点になると考えるが,今後の課題としてがんピアサポーター養成講座への活用の検討が必要である。
著者
吉田 えり 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B14002, (Released:2014-07-07)
被引用文献数
2 5

目的:男性看護師においては,首尾一貫感覚(Sense of Coherence,SOC),ストレス反応,SOCとストレス反応との関連を明らかにした研究は見当たらない.本研究では,病院に勤務する男性看護師のSOC,ストレス反応,SOCとストレス反応との関連性を明らかにすることを目的とした.対象と方法:男性看護師51名と女性看護師51名を解析対象者とした.女性看護師は,年齢を±1歳で,有する資格を看護師あるいは看護師と保健師で,勤務部署を「内科系病棟」「外科系病棟」「その他の病棟」の3区分で,男性看護師にマッチさせた.調査項目は,属性,SOC,職業性ストレス簡易調査票,勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(Brief Scales for Coping Profile,BSCP)であった.SOCとストレス反応との関連は,心理的あるいは身体的ストレス反応を従属変数として,重回帰分析で検討した.結果:男性看護師の年齢の中央値は27歳で,四分領域は24–30歳であった.臨床経験年数の中央値は4年で,四分領域は2–7年であった.SOCの総得点には,男女間の差が認められなかった.男性の心理的な仕事の負担(質)は女性に比べ少なく,職場環境によるストレスは高かった.ストレス症状では,男性の抑うつ感が強かった.ストレス反応に影響を与える因子では,男性の上司・同僚からの支援度は女性に比べ低かった.BSCPの下位尺度では,男性の「他者への情動発散」と「回避と抑制」は女性に比べ高く,「問題解決のための相談」は低かった.SOCの総得点は男女とも,ストレス要因9因子,影響因子4因子,BSCP6下位尺度,年齢で補正しても,ストレス反応の心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に有意な関連を認めた.SOCの下位尺度である処理可能感は,男性においてのみ心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に関連性が認められた.結論:SOCは,性差を認めなかった.抑うつ感は男性の方が強かった.SOCの総得点と心理的ストレス反応・身体的ストレス反応との関連性は男女とも同様の傾向を示したが,SOCの下位尺度の関連性には性差を認めた.
著者
大平 昌彦 青山 英康 吉岡 信一 加藤 尚司 太田 武夫 吉田 健男 長谷井 祥男 大原 啓志 上畑 鉄之丞 中村 仁志 和気 健三 柳楽 翼 五島 正規 合田 節子 深見 郁子 板野 猛虎
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5-6, pp.502-509, 1970-02-28 (Released:2009-08-24)
参考文献数
18

In a restricted area of the northern part of Okayama Prefecture, Yubara Town, an outbreak of SMON (subacute myelo-optico-neuropathy) was observed from the beginning of 1967. An epidemiological investigation has been made on this outbreak and the results are as follows:(1) Concentration of cases occurred in the summer of 1968, though cases have been reported sporadically in the area from the beginning of 1967. The incidence ratio against the population was 659/100, 000 during 22 months.(2) The incidence was the highest in summer and the ratio in females was 3 times higher than in males. Concerning age group, males showed a peak in the thirties, whereas in females many cases were evident between the twenties and sixties.(3) Relatively enclosed districts are apt to expand over a period of time. Cases which occurred in neighboring families as well as those within the same families tend to give the impression that the disease coule be infectious.(4) Among the cases, a close contact relation was observed.(5) Physical exhaustion before the onset of the disease was observed to be 43.2% among the total cases.(6) In occupational analysis, a higher rate was revealed among workers who had close human relations such as hospital workers and public service personnel.(7) The tendency to other diseases of the nervous system as well as those of the digestive organs was checked by inspecting receipts of the National Health Insurance from the beginning of 1965. Nothing related to SMON was recognized before the outbreak.(8) Diseases of the intestinal tract and tonsillitis were observed in higher rates in the history of the patients.(9) The investigation of environmental conditions has revealed the fact that there is a higher rate of incidence in families who do not use service water compared to those who do.
著者
吉田 邦彦
出版者
有斐閣
雑誌
民商法雑誌 (ISSN:13425056)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.185-232, 1998-11
著者
小嶋 由香 Várnai Anikó Eijsink Vincent G. H. 吉田 誠
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.32, no.188, pp.J111-J119, 2020-07-25 (Released:2020-07-25)
参考文献数
95

木材腐朽菌は、森林生態系における木質バイオマスの主要な分解者であり、セルラーゼや溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)などの多様な酵素を細胞外に分泌することで木材細胞壁中のセルロースを分解する。興味深いことに、褐色腐朽菌と呼ばれる木材腐朽菌の一群は、数種の例外を除いて、結晶性セルロースを分解するために重要なセルラーゼであるセロビオヒドロラーゼ(CBH)を欠損しているが、LPMOをコードする遺伝子は広く保存されている。このことは、褐色腐朽システムにおけるLPMOの重要性を示唆していると考えられる。本総説では、木材腐朽菌による木材分解プロセスについて概説した後、LPMOの発見に至るまでの歴史的経緯、およびLPMOの特性に関する最新の知見について述べる。さらに、褐色腐朽菌由来のLPMOに関する我々の研究を紹介し、褐色腐朽システムにおけるLPMOの生理学的役割について論じる。最後に、褐色腐朽システムの進化の過程におけるLPMOの重要性についても議論する。
著者
吉田 みつ子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.49-59, 1999-03-25 (Released:2012-10-29)
参考文献数
37
被引用文献数
10 7

本研究は、我が国のホスピスにおいて、看護婦が死にゆく患者及びその死にどのように対応しているか、その対応にはどのような「死」観が関与しているか、について明らかにしたものである。1ホスピスに勤務する看護婦14名を対象に、参加観察法と半構成的面接法によってデータを収集した。分析はデータをコード化、カテゴリー化することによって行い、その結果の一部として以下のような看護婦の「死」観と対応を抽出した。[良い看とり] は、看護婦相互の間で共有されていた患者の死の迎え方の理想像を示すものであり、看護婦は〈身体的症状がコントロールされた死の過程/穏やかな死に際〉〈死までの過程を有意義に過ごした死〉〈家族が納得する死〉〈臨終時に家族に見守られた死〉を望ましい死の迎え方だととらえていた。[良い看とり] は、看護実践の指針となっており、患者がそのような死を迎えることが出来るようかかわろうとしていた。また、看護婦が[良い看とり]ととらえたかどうかが彼らが抱く感情にも影響をもたらし、[良い看とり] の場合には肯定的感情を、そうならなかった場合には否定的感情を抱いていた。また看護婦は無意識のうちに患者に対して [良い看とり] となるよう期待していた。
著者
緒方 克守 吉田 遼司 米田 雅一 竹下 尚志 中山 秀樹 篠原 正徳
出版者
社団法人 日本口腔外科学会
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.719-725, 2019-11-20 (Released:2020-01-20)
参考文献数
22

Traumatic carotid-cavernous sinus fistula (t-CCF) is an arteriovenous fistula formed by the tearing of the internal carotid artery running in the cavernous sinus, accompanied by head/maxillofacial injuries. Patients with this disease rarely show spontaneous closure and often require urgent endovascular treatment. We report a case of t-CCF that developed following jaw and zygoma fractures and was successfully treated by manual carotid compression. A 35-year-old man was referred to our hospital to undergo treatment for multiple maxillofacial fractures. On the first day after injury, open reduction and internal fixation of the mandible were conducted with the patient under general anesthesia. On the fifth day after injury, diplopia of the left eye suddenly appeared. On the seventh day after injury, left exophthalmos/edema of the left upper eyelid/left abducens nerve palsy/bilateral ptosis, and hyperemia of the bulbar conjunctiva appeared. On the 15th day after injury, cerebral angiography revealed a definitive diagnosis of t-CCF. Supervised manual carotid compression during the waiting period before endovascular treatment led to improvement in various symptoms from the 19th day after injury. Cerebral angiography, which was performed again for endovascular treatment, revealed that arteriovenous fistula resolved spontaneously. Therefore, treatment was discontinued, and the patient was followed up with a conservative approach. By 9 months after injury, all symptoms, including left oculomotor nerve palsy had disappeared. There was no evidence of recurrence 10 years after injury.
著者
鈴木 隆雄 杉浦 美穂 古名 丈人 西澤 哲 吉田 英世 石崎 達郎 金 憲経 湯川 晴美 柴田 博
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.472-478, 1999-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
27
被引用文献数
54 44

比較的健康な地域在宅高齢者527名を対象として, 面接聞き取り調査, 身体属性の測定, 腰椎骨密度および歩行能力などの運動能力を1992年の初回調査時に測定し, その後5年間追跡調査を行ない, その間での2回以上の複数回転倒者について, その関連要因の分析を行なった.その結果, 2回以上の複数回転倒者では非転倒者あるいは1回だけの転倒者に比較して初回調査時において, 自由歩行速度, 最大歩行速度, 握力などの運動能力や, 皮下脂肪厚, および老研式活動能力指標総得点などで有意な差が認められた. さらに, 5年間での追跡期間中の複数回転倒の有 (1), 無 (0) を目的変数とする多重ロジスティック回帰モデルによる分析を行なった結果,「過去1年間の転倒経験」が最も強い正の, そして自由歩行速度および皮下厚が負の有な関連として抽出された.このような地域高齢者を対象とする縦断的追跡研究の結果から, 転倒や転倒に基因する多くの骨折に対して,「過去の転倒経験」を問診で詳細に聞き取ることや, 簡便な「自由歩行速度」を測定することにより, 転倒ハイリスク者をスクリーニングすることが可能であり, ひいては転倒・骨折予防に極めて有効な指標となることが考えられた.