著者
和田 章義
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.1453-1482, 2021 (Released:2021-12-16)
参考文献数
81
被引用文献数
5

2018年、日本に上陸した台風チャーミーは進路転向後に急衰弱した後、数日間その強さを維持した。続いて台風コンレイはチャーミーによって冷やされた海域を急衰弱しつつ通過した。これら2つの台風が急衰弱した海域は、海洋中規模渦が豊富な海域である。これら2つの台風の強度変化における冷水渦の役割とその類似点及び相違点を理解するため、2km水平解像度非静力学大気モデルと大気波浪海洋結合により数値シミュレーションを実施した。また冷水渦の強度を観測により確証できないため、チャーミーの弱化に有意に寄与する規模を仮定した人工冷水渦を埋め込んだ海洋初期値及び日付の異なる海洋初期値を用いた感度実験を実施した。コンレイに対しては、日付の異なる海洋初期値の代わりに、9つの大気初期値に対するアンサンブルシミュレーションを実施した。2つのシミュレートされた台風の急衰弱における海洋場の役割は、どちらも台風通過時の海水温低下による海洋貯熱量の低下と関係していた。チャーミーとコンレイに対するシミュレーション結果のほとんどは、成熟期または衰退期の期間、過剰発達傾向を示した。チャーミーの過発達は不十分な海面水温低下により生じており、人工冷水渦は海水温低下の促進を助長した。一方でコンレイの過発達は台風進路シミュレーションの失敗に関連していた。コンレイの進路が適切にシミュレートされることにより、コンレイはより多くの時間、海水温低下域上を移動することとなり、鉛直シア上流側における地表面付近及びインフロー境界層、台風中心への内部コア域における水蒸気輸送の減少を通じて、弱化を強めることとなった。2つの台風に見られた共通点として、中心における下降流と関連する断熱加熱の減少が台風弱化と密接にかかわっていた。
著者
和田 由紀子 小林 祐子
出版者
新潟青陵大学
雑誌
新潟青陵大学紀要 (ISSN:13461737)
巻号頁・発行日
no.5, pp.67-75, 2005
被引用文献数
1

本研究では,バーンアウト(燃え尽き症候群)と対人関係の感情的側面がどのように関連するのか明らかにするために,全国の緩和ケア病棟に勤務する看護師を対象に質問紙による調査を行った.使用した尺度は日本語版バーンアウト尺度、情動的共感性尺度、他者意識尺度である.この3尺度の全尺度得点・下位尺度得点の相関関係、及びバーンアウト全尺度得点の高低15%の対象について分析・検討したところ、全体としてバーンアウト尺度の「情緒的消耗感」と他の2つの尺度間に関連がみられないこと、高バーンアウト群は低バーンアウト群に比べ感情的な影響の受けやすさがあり、他者の外面やイメージを意識しやすいということが示唆された.
著者
和田 一郎
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.63-70, 2021-06-20 (Released:2021-07-26)
参考文献数
8

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,社会の様々な領域に多大な影響を及ぼしている.わが国の政策の特徴を社会福祉や政策科学で活用されるアナロジー(analogy)の視点をもとに検討した.その結果,わが国の統計は実態を表していない,世界基準の政策対応ができない,現場の過酷な負担によりシステムが維持されている,地方自治体が国の政策と異なる方向性が取れる,非専門家が社会を混乱させる,集中投資や支援ができずに結果として他の分野に影響を及ぼすことが明らかになった.これを今回のCOVID-19 対応に適応すると,統計の課題,世界標準の政策対応ができない,政策の目的と手段が混乱する,人の命を軽視する世論誘導の増加,リソース不足により最適な対策が取れず悪化し他の分野に影響を及ぼすなどの課題となった.よって COVID-19 による社会への影響の被害にあった個人へのケアや補償が十分実施されず経済や社会の回復が遅れることが推測された.今後の対応として,一定レベル以上の感染症は災害として対応する,危機管理組織の設立と経験の蓄積,適切な統計情報の運用について提示し,危機になってからではなく普段からの準備を行い被害にあった方々の発見や支援等のシステムも併せて検討すべきと提言した.これらはすべて政治によって解決できるものである.つまりわが国の課題はすべて政治に集約できるため,政治による適切な政策が実行されない限り,現状の国民に過度に負担がかかる社会は長期的に続くと予測した.
著者
塩見 岳博 斎藤 岳士 石原 光則 和田 光博 林 茂彦 府中 総一郎 神成 淳司
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.35-44, 2021-07-01 (Released:2021-07-01)
参考文献数
20

本研究では,筆ポリゴン,農地ピンおよび土壌図のデータを組み合わせた全国版統合農地データAPIを提案する.農業に関連する各種データや連携基盤の現状と課題を整理した上で,農業生産において基盤となる農地データの利便性向上を図るため,全国の農地データの統合を行った.対象は筆ポリゴン,農地ピンおよび土壌図の3つのデータで,筆ポリゴンをベースとし,他の2つのデータの統合を試みた.結果として,ベースとした筆ポリゴン31,591,036件のうち5,999,291件について,3つのデータが統合でき,成功率は19.0%であった.残りのデータが統合ができなかった原因は,統合対象となるデータの欠落や,統合対象が複数存在するなどのフォーマットの違いによるものであり,その解決には対象とした農地データを整備するルールの統一が求められる.統合した農地データは,農業データ連携基盤WAGRIを通じて,全国版統合農地データAPIとして提供した.その出力形式には,地理情報システム(GIS)における標準フォーマットであるGeoJSONとWebMapTileService(WMTS)を採用し,一度の要求で3つのデータが同時にに取得できたことから,利便性の向上が確認された.今後,統合した農地データが幅広く利用されるための課題としては,データ統合の速度向上や多くのデータを一括でダウンロードする仕組みへの対応などが考えられる.
著者
和田 由貴 坂崎 絢子
出版者
日経BP社
雑誌
日経マネー (ISSN:09119361)
巻号頁・発行日
no.338, pp.74-77, 2011-01

編集部 はい。第2回の栄えある大賞に輝いた「岐阜のみやびさん」は、まさに節約生活をゲームのように楽しんでいらっしゃいました。今回は大賞のほかに「年代別ドケチ賞」をご用意。年代ごとの特徴も出ていて面白かったです。和田 特に20代の岡本さんや30代の天野さんなどのアイデアを見て、「新時代のケチ」が出てきたな、と感心してしまいました。
著者
塚本 学 小林 大輔 岩城 俊雄 和田野 晃
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.374, 2003

シアノバクテリアは,無機炭素濃縮機構(CCM)を持ち効率良く光合成を行っている.この CCM の構成要素としてカルボキシゾームが挙げられる.現在までに様々なカルボキシゾーム変異株が報告され,これらは High CO<SUB>2</SUB> 要求性を示す. 本研究では,このような High CO<SUB>2</SUB> 要求性株に対して外来 Ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxgenase (RuBisCO)を導入し,High CO<SUB>2</SUB>要求性の改善を検討した.<br><I>Synechococcus</I> PCC7942においてカルボキシゾームレスミュータント(CL)を作成した.CLは High CO<SUB>2</SUB> 要求性,CO<SUB>2</SUB> 親和性の低下,0.5% CO<SUB>2</SUB> 環境下における顕著な生育阻害という3つの特徴が見られた.この変異株に外来 RuBisCO を導入するため発現ベクターを作成した.プロモーターとして 6803psbAII promoter を,外来 RuBisCO として <I>Chromatium vinosum</I> RuBisCO を用いた.これらが導入された CL(CL-AX)で,RuBisCO 活性が約5倍増加し,最大光合成速度は約 2.5 倍に増加した.さらに CL-AX では,0.5% CO<SUB>2</SUB>条件下において生育阻害が緩和された.
著者
高橋 翔太郎 和田 圭二
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌D(産業応用部門誌) (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.142, no.1, pp.33-40, 2022-01-01 (Released:2022-01-01)
参考文献数
21
被引用文献数
1

In this study, the authors propose a simple method for estimating stray capacitance of toroidal inductors. The proposed method calculates the total stray capacitance of a toroidal inductor based on the stray capacitance between the winding and the core, calculated by considering the insulation (plastic case and plastic molding) that contains the magnetic core. The frequency characteristics of the toroidal inductor can be calculated by substituting the calculated stray capacitance in the analytical model of the inductor, which takes into account the frequency dependence of the complex magnetic permeability of the magnetic material. In order to evaluate the proposed method, toroidal inductors were fabricated based on carbonyl iron dust, amorphous and nanocrystalline magnetic cores. Comparison between measured and calculated impedances clarify that the proposed method can calculate the stray capacitance of toroidal inductors with practical accuracy.
著者
荒井 朋子 川勝 康弘 中村 圭子 小松 睦美 千秋 博紀 和田 浩二 亀田 真吾 大野 宗佑 石橋 高 石丸 亮 中宮 賢樹 春日 敏測 大塚 勝仁 中村 智樹 中藤 亜衣子 中村 良介 伊藤 孝士 渡部 潤一 小林 正規
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.239-246, 2012
参考文献数
54

地球近傍小惑星(3200)Phaethonは,ふたご座流星群の母天体であるが,彗星活動は乏しく,彗星と小惑星の中間的特徴を持つ活動的小惑星(あるいは枯渇彗星)と考えられている.また,ふたご座流星群のスペクトル観測から報告されているナトリウムの枯渇及び不均質は,太陽加熱の影響よりも局所的部分溶融を経た母天体の組成不均質を反映している可能性が高い.部分溶融の痕跡を残す原始的分化隕石中に見られる薄片規模(mm-cmスケール)でのナトリウム不均質は,上記の可能性を支持する.従って, Phaethonでは局所的な加熱溶融・分別を経験した物質と,始原的な彗星物質が共存することが期待される. Phaethonは,太陽系固体天体形成の最初期プロセスを解明するための貴重な探査標的である.また,天文学,天体力学,小惑星・彗星科学,隕石学,実験岩石学などの惑星科学の多分野に横断的な本質的課題解明の鍵を握る理想的な天体である.本稿では,小惑星Phaethon及び関連小惑星の科学的意義と探査提案について述べる.
著者
松本 進平 和田 正義
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.527-531, 2014 (Released:2018-01-25)
参考文献数
3

電気自動車普及のためには,低価格化と少ないバッテリ容量でより長距離の走行を可能にするための高効率化が必須である.本論文では,DCモータとCVT(無段変速機)を組み合わせた低価格な省エネルギー駆動システムを提案し,シミュレーションによる妥当性の検証結果を報告する
著者
和田 訓佳 大竹 浩靖 小泉 安郎
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
年次大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.229-230, 2002

The onset nucleate boiling and the point net vapor generation on subcooled flow boiling, focusing on liquid subcooling and liquid velocity were investigated experimentally and analytically. Experiments were conducted using a copper thin-film (35μm) and subcooled water in a range of the liquid velocity from 0.27 to 4.6m/s at 0.10MPa. The liquid subcoolings were 20,30 and 40K, respectively. Temperatures at the onset nucleate boiling obtained in the experiments increased with the liquid subcoolings and the liquid velocities. The increase in the temperature o* ONB was represented with the classical stability theory of preexisted nuclei. The measured results of the net vapor generation agreed well with the results of correlation by Saha and Zuber in the range of the present experiments. The temperature at the ONB decreased with increasing the size of surface roughness. The NVG was independent on the surface roughness.
著者
和田 忍
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.93, pp.107-133, 2019

アングロ・サクソン後期にイングランドで活躍した聖職者アルフリッチ(Ælfric)は多くの古英語散文を書き残したことで有名である。そのアルフリッチが書き残した説教である『聖人伝』(Lives of Saints)には,アセルスリース(St Æthelthryth),スウィズン(St Swithun),オズワルド王(St Oswald),エドマンド王(St Edmund)という4人のアングロ・サクソン期のイングランドにまつわる聖人の説話が含まれている。(ローマン・ブリテン時代の殉教者であるオールバン(St Alban)を含めると5人である。)アルフリッチがこれらの聖人を採用した理由の1つとして,アングロ・サクソン期のイングランド人になじみ深い聖人の伝説を通じて,彼らのキリスト教への崇拝意識を高めるという目的が考えられる。また,これらの説教にはイングランド人に対してキリスト教への篤い信仰を求めると同時に,ヴァイキングの脅威といった当時のイングランドの辛辣な状況を諭す内容も含まれている。そして,Godden (1994)は『聖人伝』以前に作成された『カトリック説教集』(Catholic Homilies)よりも『聖人伝』の方がヴァイキングの影響を強く受けた内容になっていると述べている。本稿では,イングランド土着の聖人という特定の説話における内容および語彙の調査から,アルフリッチのヴァイキングに対する意識を考察する。アルフリッチは,時を経て再び勢いを増すヴァイキングに対し,自身の著作を通じて積極的に関わり,ヴァイキングの脅威をイングランド国民に伝えようとしていた様子が窺える。
著者
大橋 朋史 富丸 慶人 丸橋 繁 友國 晃 浅岡 忠史 和田 浩志 江口 英利 土岐 祐一郎 森 正樹 永野 浩昭
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.185-191, 2016-03-01 (Released:2016-03-18)
参考文献数
12

症例は44歳の女性で,24歳時にBudd-Chiari症候群と診断され,経過観察されていた.34歳時に肝硬変の進行のため,脳死肝移植登録(医学的緊急度:3点)を行った.その後,11年の移植待機後,44歳時に肝機能悪化に伴い医学的緊急度を3点から6点にランクアップし再登録した.その約1か月後に脳死ドナーが発生し,脳死肝移植術を施行しえた.手術から1年経過した現在,肝機能を含め全身状態良好で,外来経過観察中である.本症例では脳死肝移植を施行することが可能であったものの,欧米と比較して移植待機期間は極めて長いものであった.この長期待機期間は本邦における脳死ドナー不足によるものであり,脳死移植医療における現在の深刻な問題であると考えられた.
著者
和田 悟朗 伊藤 千賀子
出版者
The Chemical Society of Japan
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.1694-1699, 1957

非電解質の水溶液に対する電解質の塩析作用をあらわす式としてさきに本文(1)式をみちびいたが,本報ではこの式の低用例として16種類の1-1型電解質水溶液へのジエチルエーテルの溶解度の測定値と計算置との比較を行った。電解質の塩析作用の大きさの順は本文(4)の順となる。またMillerの求めた電解質の水和数hおよびイオン接近距離αの値を用い,パラメーターΔS1を適当にえらんで計算した溶解度は電解質のmolality m=0.1~1.0の範囲内では0.1の誤差範囲内で実測値とよく一致するが,電解質の高濃度で乃をそのまま用いると,溶媒の全本秀子がすべてイオン水和水になるという矛盾を生じ,(1)式は物理的意義を失い,計算値は負の浩解度を示すだけでなく,イオン水和層内における局部溶解度S1も負となる。Si=Oとなるようなイオン水和数hoを定義してみると,種々のイオンのhoはアルカリ金属イオン,ハロゲンイオンに関して規則性を示し,前者ではイオン水和エネルギーの小さいほど,後者ではイオン水和エネルギーの大きいほど大きい値を有し,電解質の塩析作用の程度を予想することができる。
著者
高野 邦彦 尾花 一樹 和田 加寿代 田中 武 久保田 智紀 佐藤 甲癸
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.26, no.54, pp.5-8, 2002-07-25

動画ホログラフィとは,動く三次元物体を空中に浮遊させることができる技術である.ピクセル構造を有する表示素子を用いた動画ホログラフィにおいては,再生像の大きさ及び視域は表示素子のピクセルの数及び細かさに比例する.そのため,現在入手可能なLCDパネル(20um程度)を用いて大きな立体動画像を表示することは困難である.この問題の解決を図るために,結晶書込み,レンチキュラスクリーン,レンズ系を用いた再生法が検討されてきた.しかし,これらの方法では共通して,装置構成が複雑になっていた.それに対して,提案手法では散乱物質(本稿では水蒸気)そのものをスクリーンとして用い,これをカラー動画ホログラフィに拡張したことにより,装置を大幅に単純化した状態で比較的大きなカラー立体動画像を観察することが可能となった.