著者
堀川 修平
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.51-67, 2016-10-20 (Released:2017-11-10)
参考文献数
44

本稿の目的は、日本のセクシュアル・マイノリティ〈運動〉における「学習会」活動の役割とその限界を明らかにすることである。IGA/ILGA日本を設立し、〈運動〉を牽引してきた南定四郎によって1984年から1994年まで断続的になされていた活動である「学習会」は、今日に続く〈運動〉の「出発点」であったと考えられるが、IGA/ILGA日本初期の活動ならびに南の〈運動〉理論に着目した研究は十分になされていない。よって、南が関わった〈運動〉の機関誌や〈運動〉に関わる論稿などの「記録」と、南への半構造化インタビューで得られた「記憶」を対象に分析する。「記憶」と「記録」から見えてきたのは、南の当事者性が、青年期に読書などの「学び」を通して、「同性愛者である」というものから「被抑圧者である同性愛者」というものへと変化していき、それが〈運動〉理論に深く結びついていることであった。生きづらさを理由の一つとして上京した南は、鶴見俊輔、「声なき声の会」と出会い、〈運動〉観を築く。その後IGA/ILGA日本を設立した際に、「日常的なコミュニケーションの場をつくる」という〈運動〉の手法を取り入れて、学習会活動を始めたのである。学習会は、参加者が「同性愛者である」ということに「自覚的」になれるような「学び」の場として構成され、「被抑圧者である同性愛者」としての当事者性を獲得することが目指された。しかし、南の〈運動〉は、参加者である若者のニーズや〈運動〉観に必ずしも一致せず、「分裂」という結果を導いている。ただし、「分裂」したものの、南の〈運動〉理論は、アカー(動くゲイとレズビアンの会)などの次世代団体にも伝播していった。次世代の〈運動〉の原動力となる人びとを育てることが出来た学習会によって、その後〈運動〉が次の時代を迎えることになったのである。本研究の意義は、十分な評価がされてこなかった〈運動〉初期の南の役割を再評価できた点に見出せる。
著者
堀江 興
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.57-68, 1997-06-05 (Released:2010-06-15)
参考文献数
22
被引用文献数
1

A second half of the 1950s, Tokyo Metropolitan City Planning Council approved the underground parking garage construction at the part of Hibiya Park in the central area of Tokyo. In this council, many members discussed the right and wrong of the parking garage construction concerning the fundamental law, ownership, supervision, toll system and management by private enterprise. On march 1957, this planning and project were approved at the Council. The Japan Highway Corporation (public sector) began the construction this parking garage and spent one year and eight months. The total cost was about thousand and forty million yen. This garage began the operation on June 1960, and is now managing by private enterprise.
著者
佐々木 秀文 春日 井貴雄 小林 学 堀田 哲夫
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.861-863, 1995-10-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
5
被引用文献数
1

今回私どもは経肛門的直腸内異物の1例を経験したので報告する. 症例は37歳男性で, 自分でラムネのびんを肛門から挿入後, 摘出できなくなった. 当院入院後, 腰椎麻酔下にびんを摘出した.
著者
中堀 伸枝 関根 道和 山田 正明 立瀬 剛志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.190-201, 2016 (Released:2016-05-14)
参考文献数
35
被引用文献数
17

目的 近年,核家族化や女性の労働参加率の増加など,子どもの家庭環境をめぐる変化は著しく,子どもの食行動や生活習慣,健康に影響を与えていると考えられる。本研究では,家庭環境が子どもの食行動や生活習慣,健康に与える影響について明らかにすることを目的とした。方法 対象者は,文部科学省スーパー食育スクール事業の協力校である富山県高岡市内の 5 小学校の全児童2,057人とその保護者を対象とした。2014年 7 月に自記式質問紙調査を実施した。総対象者中,1,936人(94.1%)から回答が得られ,そのうち今回の研究に関連した項目に記載もれのない1,719人を分析対象とした。家庭環境を,「母の就業」,「家族構成」,「暮らしのゆとり」,「朝・夕食の共食」,「親子の会話」,「子の家事手伝い」,「保護者の食育への関心」,「栄養バランスの考慮」,「食事マナーの教育」とした。家庭環境項目を独立変数,子どもの食行動,生活習慣,健康を従属変数とし,ロジスティック回帰分析を行った。結果 母が有職であり,共食しておらず,子が家事手伝いをせず,保護者の食意識が低い家庭では,子どもが野菜を食べる心がけがなく,好き嫌いがあり,朝食を欠食し,間食が多いなど子どもの食行動が不良であった。親子の会話が少なく,子が家事手伝いをせず,保護者の食意識が低い家庭では,子どもが運動・睡眠不足があり,長時間テレビ視聴やゲーム利用をしているなど,子どもの生活習慣が不良であった。暮らしにゆとりがなく,親子の会話が少なく,子が家事手伝いをせず,保護者の食意識が低い家庭では,子どもの健康満足度が低く,朝の目覚めの気分が悪く,よくいらいらし,自己肯定感が低いなど,子どもの健康が不良であった。結論 子どもの食行動の良さ,生活習慣の良さおよび健康には,良い家庭環境が関連していた。子どもの食行動や生活習慣,健康を良くするためには,保護者の食意識を高め,親子の会話を増やし,子に家事手伝いをさせるなどの家庭環境を整えていくことが重要である。
著者
堀江 秀樹 木幡 勝則
出版者
Japanese Society of Tea Science and Technology
雑誌
茶業研究報告 (ISSN:03666190)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.89, pp.23-27, 2000-08-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

シュウ酸は舌に残る不快味を示す。各種緑茶中のシュウ酸含量を調べたところ,玉露で1%以上,煎茶では0.9%程度,番茶・ほうじ茶ではそれ以下の値を示した。また荒茶を火入れ処理しても,処理前後でシュウ酸の含量は変化しなかった。シュウ酸は40℃程度の低温でも,浸出液中に溶出されやすかった。茶浸出液中のシュウ酸濃度が高ければシュウ酸味が強いとは必ずしもいえず,リン酸等他のイオンがシュウ酸味に影響するものと推察された。
著者
堀越 昌子
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.6, pp.389-394, 2012-06 (Released:2013-10-08)
著者
横井 元治 青木 和夫 堀内 邦雄
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.116-124, 2017-08-20 (Released:2019-01-24)
参考文献数
9

自動二輪車(以下,二輪車)における狭路極低速走行(以下,一本橋走行)は基礎運転能力向上のために必須の技術であるが,その訓練方法は指導者の経験に基づいたものになっており,動作メカニズムは解明されていない.そこで本研究では,初級群と熟練群におけるライダーの動作と車体の挙動の差を明確にし,一本橋走行の指導向上につなげていくことを目的とした.実験は熟練度の異なる14名のライダーにおいて,二輪車を用い走行制限の高い狭路での走行を実施した.その結果,継続した低速での走行を可能としていた熟練群は,一本橋走行中に,(1)大きなハンドル転舵角領域を活用し走行する.(2)頭部のロール動作を少なくしている.(3)ハンドルの上下方向の荷重を活用し走行する.という3つの特徴的な操作および動作が確認できた.以上の結果から,ハンドルの上下方向の荷重を活用して頭部ロールを抑制することが,一本橋走行技術の向上につながり,新たな指導法として有効である可能性が示唆された.
著者
礒濱 洋一郎 堀江 一郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.139-143, 2018 (Released:2018-02-01)
参考文献数
12
被引用文献数
4

現在の我が国の医療において,ほとんどの医師が治療手段の一つとして漢方薬(エキス製剤)を用いている.その中には,腹部外科手術後のイレウスの予防のための大建中湯や,化学療法剤による副作用対策に用いられる牛車腎気丸など,古典的な使用法とは明らかに異なるものも多い.現代の医療において用いられている漢方薬の中には,西洋薬にはない優れた効果を発揮したり,医療経済学的なアドバンテージが認められたりしたために,広く用いられるようになったものも多い.漢方薬がその永い歴史の中で,先人達の知恵を集約した優れた医薬品であることを考えると,上述の例のように,現代医療の中で新たな適用を見出され,医師と患者の双方にとって有益なものとして利用されるようになることは不思議ではない.しかし,このような漢方薬の新たな適用は,漢方薬の使用法に関する指南書たる「傷寒論」や「金匱要略」といった古典的書物に記載されているはずはない.従って,現代の医療において,漢方薬をさらに効果的かつ安全に用いていくためには,その作用機序の科学的な解明が不可欠である.近年,脳外科領域では,頭部外傷などに伴って生じる慢性硬膜下血腫の患者に対する五苓散の使用が飛躍的に増加している.五苓散の古典的な適応は,「水毒証」の改善であり,口渇,尿不利,下痢および嘔吐などに用いられていることを考えると,慢性硬膜下血腫への使用は,現代医療における新たな使用法であると言える.実際,五苓散の投与によって血腫が消失したとの症例報告や1),外科的に血腫を摘出した後に五苓散を投与すると有意な再発防止に繋がるとの報告もなされている2).慢性硬膜下血腫に対する従来の治療方針は,外科的に血腫を摘出することが基本であり,薬物治療を考える場合は,脳圧降下のために浸透圧利尿薬をはじめとする利尿薬を用いるとともに,副腎皮質ステロイド薬により炎症反応に対処するのが一般的である.五苓散の慢性硬膜下血腫に対する有効性を考えるためには,本方剤がこれらの西洋医学的な薬物治療に相当する薬理作用プロファイルをもつか否かを検証すべきであろう.近年,著者らは,五苓散などの利水薬すなわち水分代謝調節作用をもつ漢方薬の作用が,水チャネルとして知られるアクアポリン(AQP)と密接に関係していることを見出し,この関係をさらに詳細に明らかにするための基礎薬理学的研究を展開している.本稿では,本方剤のAQP機能あるいは発現調節を介した水輸送抑制作用,抗炎症作用および血管新生抑制作用について紹介したい.
著者
堀内 俊郎
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部インド哲学仏教学研究室
雑誌
インド哲学仏教学研究 (ISSN:09197907)
巻号頁・発行日
no.13, pp.87-101, 2006-03

In his Vyākhyāyukti (VyY), Chapter 4, Vasubandhu maintains that Śākyamuni Buddha, a historical figure, is an illusory manifestation (nirmāṇakāya). Having dealt with the former half of Vasubandhu's discussion in my preceding paper, I tried to elucidate here the latter half of the same topic. In this article, first I pointed out that the latter half of Vasubandhu's Buddhakāya-theory found in his VyY was later cited in Sāgaramegha's Bodhisattvabhūmivyākhyā (BBhVy). In his discussion of Buddhakaya-theory, Vasubandhu clarifies the theory of upāyakauśalya ""skillful means"" in detail. By citing two scriptures relevant to this theory, Vasubandhu illustrates the fact that the upāyakauśalya theory is proclaimed not only in Mahāyāna, but also in Śrāvakayāna. Before the citation from those scriptures, a sentence of four lines is also quoted with an introductory phrase gzhan yang ""furthermore"". Comparing the sentence with its corresponding passage found in BBhVy, the sentence composed of four lines in VyY may possibly be understood as originally a verse. Then, what can be questioned is the identification of the citation from both scriptures. As for the second sūtra therein called Ri dags zlog gi mdo, Skilling [2001] assumes that Ri dags zlog must be Migalaṇḍika who is said to have committed the fourth pārājika, i.e. killing, and concludes that the corresponding texts to this sutra are found in Vin, Vol.III.68 and SN, Vol.V.320 (54.9.Vesālī). I am indebted to him for the assumption of Ri dags zlog as Mi(ṛ)galaṇḍika; however, I rather conclude that the source of this Ri dags zlog gi mdo is Saṃyuktāgama, No.809, the Chinese correspondent of SN, Vol.V.320 (54.9.Vesālī). In order to demonstrate this fact, I examined the Chinese translation of the personal name ""Migalaṇḍika-samaṇakuttaka/Mrgadaṇḍika-parivrājaka"" who is said to have been the first person in the Buddhist community that has committed the fourth pārdāika, i.e. killing. From this examination, I have drawn the conclusion that the name Lù-lín-fàn-zhì-zĭ 鹿林梵志子 found in Saṃyuktāgama, No.809 must originally be Lù-lín-fàn-zhì-zĭ 鹿林梵志子, which exactly corresponds to ""Mṛgadaṇḍika-parivrājaka"".
著者
中村 葵 村田 伸 飯田 康平 井内 敏揮 鈴木 景太 中島 彩 中嶋 大喜 白岩 加代子 安彦 鉄平 阿波 邦彦 窓場 勝之 堀江 淳
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.35-39, 2016-04-30 (Released:2016-07-29)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

本研究の目的は,歩行中のスマートフォンの操作が歩行に及ぼす影響を明らかにすることである。対象は,健常成人28名(男性16名,女性12名)とした。方法は,通常歩行と歩きスマホの2条件下にて,屋内で約20m の歩行路を歩いてもらい,そのうちの2.4mを測定区間とした。なお,測定機器には,歩行分析装置ウォークWay を用い,歩行パラメータ(歩行速度,歩幅,重複歩長,立脚時間,両脚支持時間,歩隔,足角)を比較した。その結果,歩きスマホは通常歩行に比べて,歩行速度,歩幅,重複歩長が有意に減少,立脚時間と両脚支持時間は有意に増加,歩隔は増加傾向を示した。以上のことから,歩きスマホでは,歩幅や重複歩長が短縮し,立脚時間や両脚支持時間は延長することで,歩行速度が低下することが明らかとなった。
著者
久保 加織 吉田 愛 石川 直美 堀越 昌子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成22年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.174, 2010 (Released:2010-08-27)

目的 輸入柑橘類には、防カビ剤としてポストハーベスト農薬が使用されることが多い。本研究では、日本で食品添加物として使用が認可されている防カビ剤のなかの一つであるイマザリルのレモン各部位での残留濃度を調べた。さらに、イマザリルが添加されている米国産レモンを用いて、保存や洗浄、調理によってどの程度その量が変化するかについて調べた。 方法 試料には、2005年~2009年に京都市内あるいは大津市内の小売店から購入した国産および米国産のレモンを用いた。イマザリルは、厚生労働省公定試験法に基づいて抽出後、高速液体クロマトグラフィーにより分析した。レモンの保存は、10℃に設定した冷蔵庫内で行った。洗浄は、水洗やゆでこぼしのほか、洗剤や重曹、酢酸、エタノールを用いて行った。レモンの調理として、レモンティー、レモンのハチミツ漬け、レモンのすりおろした皮とレモン汁を加えたマドレーヌを調製した。 結果 イマザリル使用の米国産レモンからは、イマザリルが基準内濃度で検出され、内皮や果汁に比べると外皮の残留量が高かった。10℃保存では、国産レモンは約1ヶ月で傷みがみられたが、米国産レモンに変化はみられず、4カ月保存後もイマザリル量の減少はなかった。レモンを水洗した後のイマザリル量は47.6%に減少した。レモンをハチミツに漬けたり、紅茶に加えたりすることで、ハチミツや紅茶にイマザリルが溶出し、50ml紅茶に10gのレモンを30秒間浸漬した時の紅茶への溶出は47.1%であった。焼成後のマドレーヌからもイマザリルが検出され、残存率は51.0%であった。以上のことから、洗浄や調理を行ってもかなりの量のイマザリルが食品中に残存することがわかった。
著者
中江 竜太 佐々木 和馬 金谷 貴大 富永 直樹 瀧口 徹 五十嵐 豊 萩原 純 金 史英 横堀 將司 布施 明 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.398-402, 2019-10-20 (Released:2019-10-20)
参考文献数
12

カイロプラクティックという軽微な外力により両側頸部内頸動脈解離を来したと考えられた1例を経験したので報告する. 症例は41歳の女性, 痙攣を主訴に救急搬送された. 頭部CTでくも膜下出血を, 脳血管撮影でくも膜下出血の原因と考えられる左内頸動脈瘤を認めた. また両側頸部内頸動脈解離を認めた. 同日脳動脈瘤クリッピング術を行ったが, 翌日脳梗塞が出現した. その後の病歴聴取で27日前からのカイロプラクティックへの通院歴が判明し, 両側頸部内頸動脈解離の原因であると考え, 脳梗塞の原因も左頸部内頸動脈解離からの血栓塞栓症と考えた. 抗血小板薬で治療を行い第29病日にリハビリ病院に転院した. 発症3ヵ月後のMRAでは両側頸部内頸動脈解離は軽快した.
著者
田篭 慶一 中川 法一 生友 尚志 三浦 なみ香 住谷 精洋 都留 貴志 西川 明子 阪本 良太 堀江 淳 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1131, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 変形性股関節症患者の多くはDuchenne跛行のような前額面上での体幹の姿勢異常を呈する.この原因については,外転筋力や可動性の低下など股関節機能の問題によるものと考えられてきた.しかし,長期にわたり同じ跛行を繰り返すことにより,股関節のみならず体幹にも問題が生じている可能性がある.本研究では,末期股関節症患者における体幹機能障害を明らかにするため,端坐位での側方傾斜刺激に対する体幹の姿勢制御反応がどのように生じるか,側屈角度の計測により検討したので報告する.【方法】 対象は,末期股関節症患者25名とした(平均年齢59.0±9.5歳).患側と健側を比較するためすべて片側症例とし,健側股関節は正常または臼蓋形成不全で疼痛や運動機能制限のない者とした.また,Cobb角10°以上の側弯がある者,神経疾患等の合併症がある者,測定中に疼痛を訴えた者は対象から除外した. 方法は,まず側方に最大15°傾斜する測定ボード上に端坐位をとり,測定ボードを他動的に約1秒で最大傾斜させた時の体幹側屈角度を計測した.次に水平座面上に端坐位をとり,反対側臀部を高く引き上げて骨盤を側方傾斜させる運動を行い保持した際の体幹側屈角度を計測した.測定は閉眼で行い,足部は接地せず,骨盤は前後傾中間位となるようにした.運動は,まずどのような運動か確認させた後各1回ずつ実施した. 体幹側屈角度を計測するために第7頸椎(C7),第12胸椎(Th12),第5腰椎(L5)の棘突起および左右上後腸骨棘,肩峰にマーカーを貼付し,測定時に被験者の後方より動画撮影した.得られた動画から安静時および動作完了時のフレームを抽出し,画像解析ソフト(ImageJ1.39u,NIH)にて側屈角度を計測した.なお,側屈角度はマーカーC7,Th12,L5がなす角を胸部側屈角度とし,左右上後腸骨棘を結んだ線分に対するTh12とL5を結んだ線分のなす角を腰部側屈角度とした.さらに,左右上後腸骨棘を結んだ線分の傾きを骨盤傾斜角度,左右の肩峰を結んだ線分の傾きを肩峰傾斜角度とした.体幹側屈の方向については運動方向への側屈を+,反対側への側屈を-と定義し,それぞれ安静時からの変化量で表した. 統計処理は,各運動における胸部および腰部の側屈角度,骨盤および肩峰の傾斜角度の平均値を患側と健側で比較した.また胸部と腰部の側屈角度についても比較した.差の検定には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理規定に則り実施した.対象一人ひとりに対し,本研究の趣旨および内容を書面にて十分に説明し,署名をもって同意を得た.【結果】 測定ボードで側方傾斜させた際の体幹側屈角度は,患側が胸部-10.3±5.7°,腰部-6.6±3.3°となり骨盤傾斜は12.4±4.3°,肩峰傾斜は-3.8±6.5°となった.健側では胸部-9.6±4.5°,腰部-7.2±4.1°となり骨盤傾斜は13.6±4.1°,肩峰傾斜は-2.0±5.7°となった.各項目において患側と健側で有意差はみられなかった.また,患側では腰部より胸部の側屈角度が有意に大きく(p<0.05),健側では有意差はみられなかった. 反対側臀部挙上による体幹側屈角度は,患側が胸部-8.4±6.5°,腰部5.1±5.0°となり骨盤傾斜は19.8±5.3°,肩峰傾斜は14.7±7.8°となった.健側は胸部-12.3±5.6°,腰部1.4±4.9°となり骨盤傾斜は23.0±4.9°,肩峰傾斜は12.0±8.3°となった.胸部および腰部の側屈角度,骨盤傾斜角度において患側と健側の間に有意差がみられた(p<0.05).また患側,健側ともに胸部と腰部で差がみられた(p<0.01).【考察】 今回,測定ボードにて他動的に座面を側方に傾斜させた場合の反応として,患側は胸部の側屈が腰部に比べ大きくなった.これは,腰部での立ち直りの不十分さを胸部の側屈で補う様式となっていることを示していると考えられる.この原因としては腰部の可動性低下や筋群の協調性低下などが考えられるが,腰部の側屈角度は健側と差がなかったことから,両側性に腰部側屈可動域制限が生じており,それが今回の結果に影響していると思われた.一方,自動運動として反対側臀部挙上を行った場合の反応については,患側は健側に比べ骨盤傾斜が少なく,腰部の同側への側屈が大きくなった.これは,患側では健側と比べ十分なcounter activityが生じていないことを示していると考えられる.すなわち,可動性のみならず体幹筋群の協調性にも問題がある可能性が示唆された.今回の結果から,片側股関節症患者においては体幹の姿勢制御に関する運動戦略の変容を来していることが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】 変形性股関節症患者の姿勢異常には様々な要因があると考えられるが,股関節機能のみでなく総合的アプローチが必要であり,体幹機能について評価・研究することは重要である.