- 著者
-
小野 有五
- 出版者
- 日本第四紀学会
- 雑誌
- 第四紀研究 (ISSN:04182642)
- 巻号頁・発行日
- vol.55, no.3, pp.71-91, 2016-06-01 (Released:2016-08-03)
- 参考文献数
- 114
1990年,日本のなかでもっとも生存が脅かされている絶滅危機種,シマフクロウとの出会いを契機に,第四紀学の純粋な科学者であった研究者が研究者=活動者に変化していった過程を述べ,政策決定など社会との関係において科学者を区分したPielkeの四類型に基づいてそれを分析した.その結果,政策決定には関わろうとしない“純粋な科学者”や“科学の仲介者”から,自らをステイクホルダーとして政策決定に参与しようとする“論点主張者”,さらには“複数の政策の誠実な周旋者”に筆者自身の立ち位置が変化していったことが,千歳川放水路問題,二酸化炭素濃度の増加問題,高レベル放射性廃棄物の地層処分問題,原発問題の4つの環境問題において明らかとなった.原発問題については,特にその安全性に直接関わる活断層研究との関連を調べた結果,日本第四紀学会の複数の会員が,原発を規制する政府の委員会において,原発周辺の活断層の評価だけでなく,活断層の定義にも決定的な役割を演じていたことが明らかになった.このような事実は,とりわけ,2011年3月11日の福島第一原発の過酷事故以来,現在の日本社会における日本第四紀学会の重要性と責任の大きさを強く示唆している.日本第四紀学会は,3.11以前からの長年にわたる学会員と活断層評価との関わりについても明らかにするとともに,原発の安全性に関わる活断層やそのほかの自然のハザードについて,広くまた掘り下げた議論を行い,社会に対して日本第四紀学会としての“意見の束”を届けるべきであろう.