著者
中村 哲 永尾 翔 田村 裕和 山本 剛史
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.287-292, 2022-05-05 (Released:2022-05-07)
参考文献数
29

陽子と中性子は電荷の有無という大きな違いがあるがほぼ同じ質量をもち,さらに核力に対する振る舞いもほぼ同じである.例えば陽子1個と中性子2個から構成される三重水素(3H)と陽子2個と中性子1個からなるヘリウム3(3He)は鏡映核の関係にあり,ほぼ同じ質量(約2,800 MeV/c2)をもつが,この両者の質量差から,陽子と中性子の質量差およびクーロン相互作用の効果を除外して,核力による3Hと3Heの束縛エネルギー(それぞれ約8 MeV)の差を求めると,わずか0.07 MeV程度しかない.これは陽子・陽子間と中性子・中性子間の核力の強さがほとんど等しいことを示している.このような陽子と中性子の入れ替えに対する核力(そして原子核)の対称性を荷電対称性(Charge Symmetry)という.核子だけで構成される通常の原子核に,最も軽いハイペロンであるラムダ粒子を束縛させたものをラムダハイパー核と呼ぶ.半世紀ほど前に実施された実験結果に基づいて,通常の原子核では良く成り立っている荷電対称性が4ΛH(三重水素にラムダ粒子が束縛した系)と4ΛH(ヘリウム3にラムダ粒子が束縛した系)の間で大きく破れているのではないか,と言われてきたが,その証拠とされる実験結果の一部は統計量,分解能のどちらも不十分であり,ラムダハイパー核における大きな荷電対称性の破れの有無は確定していなかった.この状況を打破すべく,我々は最新の実験技術を駆使した2つの実験をドイツMAMI電子加速器施設と茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCで行った.MAMIにおいては薄い9Beフォイルに1.508 GeVの電子ビームを照射した.生成されたハイパー核の破砕反応から生じた4ΛHハイパー核は,その多くが標的中に静止して弱い相互作用により4He+π-に2体崩壊する.このとき放出されるπ-の運動量を精密に測定することにより,親核である4ΛHの基底状態の質量を過去の実験より10倍良い分解能で測定することに成功し,電子ビームを用いて生成したラムダハイパー核の崩壊π中間子分光法という新しい実験手法が確立した.この測定により4ΛH,4ΛHeの基底状態(スピン0)のラムダ束縛エネルギーに対して,その存在が示唆されていた大きな荷電対称性の破れが確かに存在することを明らかにした.一方,J-PARCハドロン施設においては,従来の4ΛHeの励起エネルギー測定で使用されていたNaI(Tl)検出器の25倍の分解能をもつゲルマニウム検出器群Hyperball-Jを用いて4ΛHeのスピン1の励起状態からスピン0の基底状態への脱励起に伴うγ線を精密分光することに成功した.この結果から4ΛHeの励起状態(スピン1)と基底状態(スピン0)のエネルギー間隔は従来信じられていた値と大きく異なり,4ΛHと4ΛHeの励起エネルギーに大きな荷電対称性の破れがあることを示した.さらに,励起状態(スピン1)のラムダ束縛エネルギーでは荷電対称性の破れは小さいことも分かった.これら2つの新測定により,質量数4ラムダハイパー核において確かに荷電対称性が大きく破れていることと,その破れ方がスピンに依存するという新たな知見が得られた.この現象はまだ理論的に説明できず,核力(バリオン間力)の我々の理解が不十分であることをさらけ出した.謎の解明に向けた研究が進められている.
著者
山本 裕子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.364-380, 2018-09-30 (Released:2018-12-26)
参考文献数
15

近年「材料を切っていきます」や「煮込んであげましょう」のように,手順や方法を説明するような接客場面で補助動詞が多用される.本稿はこの現象が待遇意識の変化の現れの一つとして捉えられることを,大学生への質問紙調査を通して示したものである.調査は接客場面をいくつか示し,1)提示された選択肢の中でどのような表現を好むか,2)その表現にどのような印象を抱いているか,の2段階で実施した.1)の結果,大学生は接客場面において,非敬語よりは敬語を,また短い形式よりも長い形式を好む傾向があることが示された.2)からは,敬語にはもっぱら「丁寧さ」のみを感じているが,補助動詞には「丁寧さ」に加えて「親しい」「楽しい」「優しい」等の近接化に関わる印象を抱いていることが示された.これらの近接化に関わる印象は,各補助動詞の本来の意味からもたらされるものである.同時に補助動詞がしばしば縮約形で用いられることも影響している可能性がある.また調査2)の結果を「距離」の観点から整理すると,補助動詞は水平方向に適度な距離感をもたらすものであると言える.以上のことから,補助動詞の多用は,ポジティブ・ポライトネス・ストラテジーと同じく「共感・連帯」によって配慮を表す志向性(〈寄り添い志向〉)の一つの表れであり,待遇意識の変化の方向性と合致していると結論付けられることを述べた.
著者
山本 晃之 上村 直樹
出版者
一般社団法人日本医薬品情報学会
雑誌
医薬品情報学 (ISSN:13451464)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.295-300, 2017 (Released:2017-03-17)
参考文献数
10

Objective: The dispensing fee revision of April in 2016 made a review of the assessment of inquiries about prescriptions.  The requirement was added by articles that seemed to be pharmaceutically necessary, showing an increase of responsibility for pharmacists.  Based on this, we performed a discussion while collecting the cases of inquiries about prescriptions.Method: Among the inquiries about prescriptions performed at Jinjo Pharmacy for 4 months starting from April in 2016, we selected 83 cases where a prescription was changed by the pharmacist’s recommendation, based on pharmaceutical information such as drug duplication or drug interaction and confirmation of leftover medicine.  Then, we compared them with the study of inquiries about prescriptions performed by the Japan Pharmaceutical Association in 2015.Result/Consideration: Inquiries about dose were the leading content, followed by those about duplication with other drugs of same indications and appropriateness of dose considering the adjustment of number of days due to residual drug, which showed the importance of medicinal history and prescription records.  It is considered necessary to renew the contents of the prescription record properly, based on the information acquired, while at the same time changing the pharmaceutical history based on those records.  It is thought that an inquiry about prescriptions will be performed appropriately by making a judgment based on such information. In order to do that, updated knowledge about medicine and updated information about drugs is necessary.  In comparison of the two studies, both showed that the drug information on “safety” and “dose and dose regimen” accounted for a large part of inquiries.  Further consideration on them will be necessary.
著者
尾形 優 金子 健太郎 後藤 慶太 河野 かおり 山本 真千子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.227-234, 2017-01-20 (Released:2017-02-07)
参考文献数
26

冷え症において, 冷え症群と非冷え症群とを循環動態指標および自律神経活動指標を用いて比較し, 冷え症の生理学的メカニズムを明らかにすることを目的とした. 対象は若年健常女性20名 (冷え症群12名, 非冷え症群8名) とし, 晩秋 ・ 冬季に測定を実施した. 生理学的指標として, 心拍数 ・ 血圧 ・ 末梢皮膚温 ・ 末梢血流量 ・ 鼓膜温 ・ サーモグラフィ ・ 四肢血圧脈波を用いた. 自律神経活動指標は, 心拍変動を用いて周波数解析を行い, 副交感神経活動指標と交感神経活動指標を求めた. データの分析は両群間を指標ごとに比較 ・ 検討し, 加えて各群における鼓膜温と各末梢皮膚温との差を両群間で比較した. その結果, 冷え症群は非冷え症群にくらべて副交感神経活動指標が低値で, 交感神経活動指標が高値であった. 末梢循環においては, 冷え症群の血流量低下と皮膚温低下も明らかであった. よって, 冷え症者は安静時の副交感神経活動が小さく, 交感神経活動の緊張により安静時すでに末梢の循環機能低下が起きていることを明らかにした.
著者
山本 佳久 鎌野 衛 深水 啓朗 古石 誉之 鈴木 豊史 梅田 由紀子 牧村 瑞恵 伴野 和夫
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.625-631, 2005-08-10 (Released:2011-03-04)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

A general method of administering powdered medicines to infants is to add a spoonful of water to the powder to make a paste and then making the paste into small dumpling-sized balls. We investigated the optimal amount of water for making a paste for 35 kinds of powdered medicine which included fine granules, granules and dry syrups. The optimal water amount was expressed as an amount per gram of powder. Approximately 80% of the powders examined in this study required 0.2-0.4 mL of water per gram of powder to make a paste that would form small balls. Optimal water amounts were calculated for amounts of powder ranging between 0.1 and 1.5 grams by proportion and when the calculated amounts of water were added, small dumpling sized balls could be formed. In the same way, we also calculated amounts of water required for powdered mixtures of several medicines for 6 prescriptions often prescribed in our pharmacy from corrected standard volumes for each medicine in the mixture. The amounts of water added on this basis achieved the required paste state for all of the powder mixtures used. These results suggest that the optimal water amount for powdered medicines of various weights can be estimated from standard volumes of water by proportion. Thus, optimal water amounts determined by our method may be useful for the administration of mixed powdered medicines to infants.
著者
山本 徳栄 近 真理奈 伊佐 拓也 根岸 努 森 芳紀 前野 直弘 小山 雅也 森嶋 康之
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.493-499, 2017-09-25 (Released:2017-09-30)
参考文献数
17

2008年1月から2016年11月の期間中,埼玉県動物指導センターに収容されたイヌとネコから直腸便を採取し,腸管寄生虫類の検索を行った。イヌは1,290頭中296頭(23.0%)が寄生虫類陽性で,検出種とその陽性率はイヌ鞭虫(15.0%),イヌ鉤虫(6.4%),イヌ回虫(2.1%),イヌ小回虫(0.2%),マンソン裂頭条虫(2.0%),瓜実条虫(0.2%),日本海裂頭条虫(0.1%),縮小条虫(0.1%),Isospora ohioensis(1.3%),ランブル鞭毛虫(0.5%),Cryptosporidium canis(0.5%),腸トリコモナス(0.2%)およびIsospora canis(0.1%)であった。ネコは422頭中216頭(51.2%)が寄生虫類陽性で,検出種とその陽性率はネコ鉤虫(25.1%),ネコ回虫(17.8%),毛細線虫類(1.7%),マンソン裂頭条虫(18.2%),瓜実条虫(1.9%),テニア科条虫(0.5%),壺形吸虫(6.9%),Isospora felis(5.2%),Isospora rivolta(1.4%),Cryptosporidium felis(0.7%)およびToxoplasma gondii(0.2%)であった。また,2000年4月から2015年10月の期間中,同施設に収容されたネコから採血し,T. gondiiに対する血清抗体価を測定した。ネコにおけるトキソプラズマ血清抗体は,1,435頭中75頭(5.2%)が陽性であった。
著者
山本 哲 山本 定光 久保 武美 本間 哲夫 橋本 浩司 鈴木 一彦 池田 久實 竹内 次雄
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.173-177, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
6

北海道函館赤十字血液センター(以下函館センター)の製剤部門は2006年に北海道赤十字血液センター(以下札幌センター)に集約され,管内供給は北海道ブロックの需給コントロールによって管理されることとなった.製剤部門の集約は,在庫量の少ない血小板製剤に影響が現れやすいと考えられたので,同製剤の緊急需要(当日受注)に対する供給実態について,受注から配送に至る経過に焦点をあて回顧的に調査した.当日受注で,在庫分に由来すると思われる配送所要時間が2時間未満の血小板製剤の割合は集約直後の2006年度で減少したものの,在庫見直し後の2009年度は2005年度並みに回復した.在庫分がなく札幌からの需給調整に由来すると思われる所要時間6時間以上の割合は2005年,2006年に比べ,2009年度では半減した.時間外発注で1時間以内に配送した割合も在庫見直し後の2009年度に有意に増加し88.5%に達した.製剤部門の存在は,血小板製剤の緊急需要に対し,一時的な在庫量の増加をもたらすものの安定供給の主要な要因とはならず,適正な在庫管理が最も重要な要因であることがわかった.血小板の緊急需要に対しては,通常の需要量を基礎にして在庫量を設定すること,需要量の変化に応じてそれを見なおすことにより対応が可能であった.供給規模が小さく,在庫管理の難しい地方血液センターでは,血小板製剤の広域の需給調整を活発にすることで経済効率を保ちつつ医療機関の需要に応えるべきと考える.
著者
山本 祥之
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.109-118, 2017-03-25 (Released:2017-06-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

これまでに、複数の抗がん剤内包リポソーム製剤が開発され、その臨床的有効性が示されてきた。近年、新たにイリノテカン内包リポソーム製剤であるOnyvide®が、転移性膵がんに対して5-FUとロイコボリンとの併用療法として米国で承認された。本稿ではこの新規リポソーム製剤の特徴および臨床開発経緯について概説する。
著者
山本 由美子
出版者
日仏社会学会
雑誌
日仏社会学会年報 (ISSN:13437313)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.85-105, 2016-11-30 (Released:2018-01-31)

Cet article a pour but de cerner l’idée de condition infantile en France en s’appuyant, dans le même temps qu’il les examine, sur les relations entre l’enfant à naître, la médecine, l’éthique et la société. Dans cette démarche, nous nous référons aux termes « fœtus tumoral » et «arrangement » utilisés par le sociologue L. Boltanski. Nous nous intéressons d’abord au concept traditionnel de « l'enfant sans vie » en France, et nous en retraçons l’évolution de l'époque moderne à nos jours. Ensuite, nous étudions la question du rapport de l'enfant mort-né par acte médical et des biotechnologies. Avec la médicalisation de l’engendrement, nous remarquons qu'il y a une série de système d'élimination de l'enfant à naître. De plus, nous essayons de mettre en lumière le regard sur la naissance et la manière de penser le bien-être social tels que l'État ou la société française les conçoivent aujourd'hui. Pour conclure, nous discutons deux questions à propos du diagnostic prénatal de trisomie fœtale. Le premier point concerne le fait que la classification du fœtus en tant qu’« arrangement » est toujours une représentation linguistique dépendant du médecin. Le second pointe le fait que l’engendrement aujourd'hui fait l'objet d'évaluations publiques, mais que les résultats de celles-ci sont toujours imposés à la femme comme individu.
著者
山本 英二 渡邉 匡一 山田 健三 佐藤 全敏 西田 かほる
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、これまで荒唐無稽で信憑性に欠けるとして研究対象と見られてこなかった偽文書や由緒書を活用して、近世日本における歴史認識と記憶の問題について取り組んだ。具体的には、長野県木曾郡王滝村御嶽神社を事例に、これまで19世紀以降に展開すると考えられがちであった由緒を、17世紀にさかのぼって分析・検討した。本研究では、従来の研究では手薄であった寺社縁起と由緒の関係に着目して、その由緒を論じた。またアーカイブズ学の方法論を活用して、史料群自体が有する歴史的言説について明らかにした。今回の研究では、戦前・戦後を通じてその全貌が明らかでなかった御嶽神社の古文書整理を完遂することができた。
著者
山本 雅貴
出版者
日本結晶学会
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.55-63, 2023-02-28 (Released:2023-03-08)
参考文献数
39

In modern life science research, structural information on proteins is indispensable for understanding the mechanisms of their biological functions. Many protein structures have been determined by X-ray crystallography, which has been developed in conjunction with molecular biology experiments and synchrotron radiation development. Since the Nobel Prize in Chemistry in 2017, the rapid progress of cryo-EM hardware and analysis software has led to the use of cryo-EM single-particle analysis for structural analysis. In this article, we compare the features of protein crystallography and cryo-EM single-particle analysis and discuss the best method for protein crystallography.
著者
蔭山 雅洋 山本 雄平 田中 成典 柴田 翔平 鳴尾 丈司
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本知能情報ファジィ学会 ファジィ システム シンポジウム 講演論文集 第34回ファジィシステムシンポジウム
巻号頁・発行日
pp.49-54, 2018 (Released:2019-01-09)

平成25年に文部科学省が報告した運動部活動での指導のガイドラインでは, 指導者が効果的な指導を行うには, 自身の経験に頼るだけでなく, スポーツ医・科学の研究の成果を積極的に習得し, 活用することが重要であるとされている. 近年では, センサ技術やIT技術の発展により, 計測装置の小型化が進み, バッティング直後に, スイングの結果を即時にフィードバックできる計測装置が開発されている. この計測装置では, 取得された計測データから打者のバットスイングの特徴を計測することが可能となる. しかしながら, アマチュア野球選手の指導現場では, 未だに, 科学的なデータに基づいた指導方法は, 確立されていない. その原因として, これまで我が国の野球において, 合理的な指導と非合理的な指導が混在していることに加えて, 算出された数値に対する解釈が難しいことが考えられる. そこで, 本研究では, これまで得られたデータに基づき作成した評価シートの提示が高校野球選手の打撃に関する理解および意欲に及ぼす効果を検討し, スイング計測装置を用いた打撃指導に役立てることを目的とする.
著者
辻井 岳雄 山本 絵里子 渡辺 茂
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.41-48, 2008-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
40

抗ヒスタミン薬は, アレルギー疾患の治療薬として広く臨床で用いられる薬物であるが, 旧世代の抗ヒスタミン薬 (例 : ケトチフェン) は, 眠気・ふらつき・認知パフォーマンスの低下などの副作用を招くことが指摘されてきた。一方, 新世代の抗ヒスタミン薬 (例 : エピナスチン) は, 抗アレルギー作用が強く, かつ中枢神経の抑制作用が低いことが知られている。本論文は, 記憶認知とその神経相関に及ぼす抗ヒスタミン効果について, 近赤外分光法 (NIRS : near-infrared spectroscopy) を用いた最新の研究成果を紹介し, 特に小児神経薬理学の分野におけるこの手法の有効性について議論した。
著者
山本 輝太郎 石川 幹人
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.31-36, 2016 (Released:2018-04-07)
参考文献数
7

現在インターネット上で展開している「疑似科学とされるものの科学性評定サイト」における活動内容を紹介し,科学リテラシー向上に向けた科学教育の重要性を主張する.本稿では特に,蔓延する疑似科学にまつわる諸問題に対応するための,教育成果の「社会的な活用」という側面に焦点を当てた.これまでに収集した知見から,疑似科学に関連する問題の多くは,社会的な人間関係と深く関わっていることが推定できる.そのため,単なる科学的知識の蓄積だけでない実践的な問題解決能力も,これからの教育成果には求められるだろう.こうした社会状況において,科学教育の実践としての「疑似科学」はよい教材として機能することが期待でき,本稿を通してその意義を検討したいと思う.
著者
小野広一 山本秀也 木原康樹
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.33-38, 2019-03-20 (Released:2019-04-10)
参考文献数
11

【背景】我が国では年間約5万人が新たに植込み型心臓デバイス(CID)植込み治療を受けているが,死後,火葬時の取り扱いについては一定の見解がない.CIDを取り出さずに火葬可能であれば,安心してCID植込み患者を自宅で看取ることができる.【目的および方法】火葬時のCIDの取り扱いについて,中国地方の現状を調べるため,中国地方5県(鳥取・島根・岡山・広島・山口)の162火葬場の管理者(76事業所)に,火葬時の取り扱いについて電子メール・ファックス・電話で調査した.【結果】摘出なしでは火葬不可が8事業所9ヵ所(5.6%),病院で亡くなる場合などでは可能な限り摘出を希望するが,事前の申請があれば摘出なしでも火葬可が42事業所93ヵ所(57.4%),事前の申請があれば摘出なしでも火葬可が27事業所60ヵ所(37.0%)であった.【結論】火葬時の事前申請は必要であるが,中国地方では94.4%の火葬場でCIDを摘出しなくとも火葬が可能であった.(心電図,2019;39:33~38)