著者
林田 天 米田 光希 山本 美薫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

⒈ 研究背景・目的日本は世界有数の火山大国である。火山の下にはマグマだまりが形成されているが、その位置を正確に知ることは難しい。そこで、本研究では、地震波形を使ってマグマの位置を推測するため、2段階に分けて検証を行う。まず、火山下を通った地震波がどんな影響を受けるのか明らかにしたのち、その結果を使ってマグマだまりの位置を推測する。今回は熊本県を中心とする九州地方に対象を絞った。2016年に熊本県で大規模な地震が起こったため、余震を含めた多くの地震データを手に入れることができる。また、九州地方の地震波は比較的震の浅いものが多いため、後に記す地震データの選定条件に一致しやすい。2.原理・仮説地震波には初期微動を引き起こすP波と主要動を引き起こすS波の2種類が存在する。P波は個体・液体・気体のすべての物質内を伝播していくが、てS波は固体中のみしか伝播することができない。そのことを考えると、液体であるマグマだまりを通過した地震波は、波形の位相が不明瞭になると考えられる。「波形の位相が不明瞭」というのは、P波とS波の境目がはっきりしないような形になっているもののことをさす。また、断層と垂直方向に進む地震波は波形の位相が明瞭になることが明らかにされている(本多,1954)。つまり、断層と垂直方向に進む地震波で火山を通るものの位相が不明瞭ならば、その地震波はマグマから何等かの影響を受けていると考えられる。しかし断層とおよそ45度方向に進む地震波ではマグマに関係なく不明瞭になることも知られている(本多,1954)ため、今回は区別が明瞭に出るはずの断層から垂直な方向に進む地震波に着目する。この仮説が正しければ、波形が不明瞭になっている地震波から、マグマだまりの位置や深さを推測することができる。2.研究内容 ⑴ 検証1:火山下を通った地震波がどんな影響を受けるのか明らかにする。 ・方法 ①気象庁HP内の「震度データベース検索」を使い、以下の条件を設定して研究に使用できる地震を探す。この時、九州地方の火山の分布を調べておく。・M3以上であること ・震源深さが30km以下であること・九州地方の陸地で発生した地震であること・震源地から観測点に地震波が到達するまでに、火山下を通過すること マグニチュードの制限は、規模が小さく波形の位相がもともと不明瞭になりやすい地震を選ばないようにするために設定した。震源深さについては、深さおよそ30kmの位置にはモホロビチッチ不連続面があり、その面を境に波の性質が変わってしまうと考えて検証データから省いた。 ②①で集めた地震について、気象庁HPからそれぞれの断層の動いた向きを調べ、断層の動きが比較的はっきりしているものだけを選ぶ。 ③「防災科学技術研究所Hi-net高感度地震観測網」から、⑴,⑵で選定された地震のイベント波形数値データをダウンロードする。 ④③で集められたデータを、WIN2という波形解析専用ソフトウェアを使って解析する。このソフトウェアを使うと、各観測点の波形・震源地情報・震源地と各観測点のマップを手に入れることができる。 ⑤各地震について、位相が不明瞭になっている地震波を選びだし、その観測点をマップにプロットする(図7)。 ⑥断層の方向と比較し、波形が不明瞭になることと火山の存在が関係するかについて考える。・研究結果・考察いくつかの地震で、断層に垂直な波線において、火山を通過する場合に位相が不明瞭になるという感触が得られた。本来ならば位相が明瞭になるはずの断層方向から垂直な波線で、逆のことが起きているということであるから、火山の下のマグマだまりによる影響があった可能性が高い。つまり、仮説通り、マグマを通る地震波は、位相が不明瞭になるということがいえる。この検証結果を使って次の検証を進めていく。⑵ 検証2:マグマだまりの位置を推測する ・方法① 地図ソフトGMTを使用して、北九州地方の白地図を作る。② 波形が不明瞭になった各観測点・震央の位置を、①の白地図にプロットして線で結ぶ。・結果・考察完成した地図を見るだけではマグマだまりの位置を明確にすることはできなかったが,波線が阿蘇山の付近で密度が高くなることは確認できた。5.今後の課題 ⑴ 検証1 データ数が少ないため、さらにデータ数を増やし結果をより強固なものにする。 また、発表の際結果を目に見えてわかる形にするための工夫が必要になる。⑵ 検証2検証1と同様、データ数が少ないためさらにデータを増やす。また、今の検証方法だとマグマの位置を検証することが困難なので、地震データの集め方やデータ処理の仕方を考え直す必要がある。
著者
平山 祐 山本 正嘉
出版者
日本トレーニング科学会
雑誌
トレーニング科学 (ISSN:13494414)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.63-75, 2011

全日本選手権または大学生選手権で入賞経験を持つカナディアンカヌー選手を対象として,通常の水上練習や筋力トレーニングと並行して,カナディアンカヌー用のエルゴメーターを用いて高強度のインターバルトレーニングを行わせた.その際,このトレーニングを通常酸素環境下で行う群(N 群,n=9)と,常圧低酸素室を用いて低酸素環境下(高度2000 ~ 3000m 相当)で行う群(H 群,n=9)の2 群を設けた.両群とも,トレーニングは週に3 ~ 4 回の頻度で3週間行った.その結果,N 群もH 群も,カヌーエルゴメーターを用いて測定した有酸素性能力(最大酸素摂取量)と無酸素性能力(10 秒間の全力漕時のパワー)がいずれも改善し,さらに200m 漕と500m 漕のタイムも改善した.ただし,200m 漕タイムの改善については,H 群の方がN 群よりも有意に大きかった.したがって,カヌーエルゴメーターを用いた補強トレーニングは,通常酸素環境で行ってもさまざまな作業能力の改善につながるが,低酸素環境で行えばそれに加えて,無酸素性および有酸素性の両能力がいずれも関与する200m 漕の成績をさらに大きく改善できる可能性が考えられた.
著者
山本 喜一郎 大森 正明 石井 清士 森岡 孝朗
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.7-10, 1972-04-30 (Released:2010-03-09)
参考文献数
6

青森県三戸町泉山地先の馬淵川で採集した下りウナギにサケまたはカラフトマス下垂体を投与し十分成熟させた10個体についてその孕卵数を数えた。その結果, 体長71.8cm卵巣採集時の体重860g, 成熟度指数54.6%のもので1, 166, 070粒, 体長85.5cm体重2, 020g, 成熟度指数66.3%のもので3, 023, 040粒と算定され, 自余の個体の孕卵数はこの両者の間の数値を示した。
著者
伊藤 雄大 髙田 麻季 飯田 真之 宇田 篤史 住吉 霞美 秋山 恵里 丸上 奈穂 丹田 雅明 野間 千尋 山本 和宏 五百蔵 武士 木村 丈司 西岡 達也 久米 学 槇本 博雄 矢野 育子
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.236-243, 2018-05-10 (Released:2019-05-10)
参考文献数
18
被引用文献数
2

Team-based learning (TBL) is an active learning method which has been designed to help students solve problems both by themselves and as a team. In this study, TBL was introduced in the journal club (gathering to read and discuss medical papers) for pharmacists, and its effectiveness was compared with that of a traditional lecture. The subjects, 29 pharmacists at Kobe University Hospital, were randomly allocated to the lecture group and TBL group. The pre-test was conducted two months before the journal club, and the post-tests were conducted immediately and one month after the journal club. There was no significant difference in the background data of the pharmacists between the lecture group and the TBL group. The score differences between the pre-test and the post-test immediately after the journal club were not significant (11.4 ± 2.3 points (mean ± SD) in the TBL group, 8.8 ± 4.2 points in the lecture group, P = 0.14). The post-test scores immediately after the journal club in the TBL group (19.6 ± 0.5 points) were significantly higher compared with those in the lecture group (17.8 ± 1.5 points) (P < 0.01), and the learning effect provided by TBL tended to be maintained one month after the TBL. In conclusion, TBL was an alternative method of the ordinal lecture and may be a useful learning method for pharmacists to read medical papers critically compared with the ordinal lecture.
著者
船坂 陽子 松中 浩 榊 幸子 山村 達郎 山本 麻由 錦織 千佳子
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.299-308, 2005 (Released:2011-05-17)
参考文献数
19
被引用文献数
2

イオントフォレーシスによるビタミンC誘導体の日光性黒子や雀卵斑などの色素斑に対する効果を確認するために,2種類のイオントフォレーシス装置を用いた臨床試験を実施した。5%リン酸L-アスコルビルナトリウムを,院内用のイオントフォレーシス装置にて医師が週1回3ヵ月,家庭用のイオントフォレーシス装置にて被験者自身が1日1回4ヵ月,それぞれ片顔にイオントフォレーシスを施行し,もう一方は対照側として無塗布および単純塗布のhalf face法とした。皮膚所見ならびに画像解析の結果,イオントフォレーシス側において,それぞれ32例中31例,37例中37例に有効性を認め,対照側よりも高い改善効果を得た。また,分光測色計を用いた皮膚色の測定によって皮膚が明るくなることが,さらにレプリカを用いた皮膚表面の形態観察によって皮溝と皮丘から形成される頬部のきめが均一になることがわかった。以上のことから,イオントフォレーシスは,ビタミンC誘導体の色素斑に対する効果を高めるとともに,皮膚色やきめをも改善することが明らかとなった。
著者
落合 桂一 山本 直樹 濱谷 尚志 深澤 佑介
雑誌
研究報告モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム(MBL) (ISSN:21888817)
巻号頁・発行日
vol.2019-MBL-91, no.5, pp.1-6, 2019-05-16

スマートフォンの利用状況から利用者の状態推定を行う研究が盛んに行われている.従来研究ではカテゴリごとのアプリ利用回数や利用時間などの基本統計量が特徴量として利用されていた.しかしながら,アプリの使用履歴からは基本統計量に限らず,アプリの利用順序やアプリ間の関係性など多様な特徴表現が生成可能であると考えられる.そこで本研究では,深層学習によるアプリ利用ログからの特徴抽出を行い,分類問題により特徴抽出の有効性を評価する.深層学習モデルとして LSTM や Graph Convolutional Networks など複数のモデルを検証する.
著者
山本 欣司
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.101, pp.1-9, 2009-03

宮本輝「泥の河」はこれまで、板倉信雄と松本喜一の出会いから別れまでを描いたものであり、信雄が身近に経験し、父親から聞かされもした死の問題や、「舟の家」の人々との交わりの中で目覚めた信雄の性と成長の問題がテーマの主軸をなすと捉えられてきた。しかし拙稿では、小説の構造を丹念にふまえ、そのような解釈の問題点を指摘するとともに、自分なりの把握を示した。さらに拙稿では、小栗康平監督による映画「泥の河」が、どのようにして貧しさを背景とする子ども達の短い交流を主題化したかを論じた。
著者
北城 圭一 山本 義春 宮下 充正
出版者
一般社団法人 日本生体医工学会
雑誌
BME (ISSN:09137556)
巻号頁・発行日
vol.12, no.7, pp.40-48, 1998-07-10 (Released:2011-09-21)
参考文献数
36
被引用文献数
1
著者
山本 康貴 馬奈木 俊介 増田 清敬 近藤 功庸 笹木 潤 宋 柱昌 吉田 祐介 赤堀 弘和
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

EUでは、環境に配慮した農業生産を行うなどの一定要件を満たした農業生産者に補助金等を支払うというクロス・コンプライアンス(CC)を適用した農業政策が実施されている。本研究では、CC受給要件を、農業由来の環境負荷などの外部性効果とみなして評価し、CC受給要件の内容設計に資する手法の開発や適用を試みた。農業生産活動由来の環境負荷に及ぼす環境影響を経営段階のミクロレベルや国全体のマクロレベルで定量評価できる手法の開発と適用を行い、CCを適用した新たな農業政策の設計に資する基礎知見を得ることができた。
著者
山本 智子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.4-12, 2009
参考文献数
36

本稿は、包括的な子どもの権利保障を目的に、「国連子どもの権利委員会(UNCRC)」による「乳幼児の権利(GENERAL COMMENT No.7(2005)Implementing child rights in early childhood)」との関係において、日本の小児医療にInformed Assent(I.A.)を採用するにあたっての課題を提示した。I.A.は、「親の許諾(Parental Permission)」と「患児の賛同(Patient Assent)」という小児医療に特有の2概念から成る。具体的な適用例では、乳幼児は、「親の許諾」のみの適用を奨励されている。さらに、アメリカ合衆国の小児科医によって提示されたI.A.理念には、「子どもの患者の権利」とも「適切なケアの提供」とも異質な、また、法的責任にも対応していない、「医師と親との責任のシェア」(Decision-making involving the health care of young patients should flow from responsibility shared by physicians and parents.)という記述が盛り込まれている。一方、UNCRCによる「乳幼児の権利」は、乳幼児を「社会的主体(Social Actor)」とし、また、乳幼児期を「子どもが条約において保障されたすべての権利を認識する重要な時代」と位置づけている。さらに、乳幼児の力を肯定的に評価すると共に、能力の未熟さ故の乳幼児の権利制限を問題視し、乳幼児の権利の保障を強く求めている。I.A.の採用にあたっては、「子どもの権利」の視点や、臨床経験(実践知)や研究成果に基づいた小児科医による乳幼児の力の評価やその力の独自性を指摘する見解もふまえ、乳幼児観の転換や、乳幼児の未熟さを子どもの権利の支援要素へと転換することが課題になる。また、医療専門職が提示する医療に係る理念の影響についても検討を要する。
著者
山本 聡 坪田 祥子 宗形 亜美 内木場 文男
出版者
一般社団法人エレクトロニクス実装学会
雑誌
エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集 第20回エレクトロニクス実装学会講演大会
巻号頁・発行日
pp.23-25, 2006 (Released:2008-01-11)

現在小型ロボットの構造において、制御を行うための電子基板と運動を行う可動部は別々である。将来小型化を目指しミリメートルサイズのロボットを実現するためには、電子基板に可動部をダイレクトに実装することが望ましい。我々は形状記憶合金を原料とした人工筋肉ワイヤーを基板上に直接実装した昆虫型ロボットの試作を行い評価した。 人工筋肉ワイヤーは電流を流すと収縮し、電流を切ると元に戻る性質がある。これを利用し昆虫型ロボットの脚部に使用した。アルミナの細い絶縁菅に人工筋肉ワイヤーを通し、ワイヤーの端部は金属金具でかしめ、基板にこの金属金具をはんだで直接実装した。脚部を6本作製した。基板にはPICマイコンを搭載し、自律型の昆虫型ロボットを作製した。 その結果大きさ47mm、横32mm、高さ25mmのものができ、自律歩行させることが可能になった。
著者
熊本 吉一 小泉 博義 黒沢 輝司 山本 裕司 呉 吉煥 鈴木 章 松本 昭彦 近藤 治郎 清水 哲 梶原 博一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.1429-1434, 1984-11-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
10

急性腸間膜血管閉塞症は,絞扼性イレウスと共に腸管の血行障害をきたす代表的な疾患である.最近我々は塞栓摘除術のみで救命せしめた上腸間膜動脈塞栓症の1例を経験したが発症より手術による血流再開に至るまで3時間40分と短時間であったため腸切除を免れた.また横浜市立大学第1外科のイレウス症例中,術前に動脈血ガス分析をおこなった33例を検討したところ,腸切除を免れた.すなわち腸管が壊死に陥らなかった症例ではbase excessはすべて-2.8mEq/l以上であった.このことより絞扼性イレウスの手術適応決定の指標としてbase excess測定が有用であるとの結論を得たが,本来イレウスにおける手術適応の決定は遅くとも腸管の可逆的な血行障害の時点でなければならず,この点よりbase excessのみでの適応決定は慎重でなければならないと考えられた. これらの経験をもとに,腸管の血行障害における有用な補助診断法としての的確な指標を検討するために犬を用いて上腸間膜動脈を結紮する実験をおこなった.その結果,早期診断の一助として, total CPK, base excessが有用であるとの結論を得た.
著者
鶴田 隆祥 高橋 智一 鈴木 昌人 青柳 誠司 山本 晃久
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.109-110, 2014

注射針の細径化が求められているが,細径化は座屈を容易に招来する.鍼灸治療では刺手で針を側方から支え,押手で針を皮膚直上にて支えるとともに皮膚に張力を与えることで,座屈を防止している.本研究ではこれにヒントを得て,針を筒内に保持し,筒を皮膚に押し付け,針を少しずつ繰り出す機構を提案する.支えが無い皮膚から上の針の長さを実質ゼロにすることで座屈荷重を高め,座屈を防止する.
著者
清水 理佳 岩崎 寛 山田 宏樹 山本 聡 新村 義昭
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.348-351, 2004 (Released:2005-11-22)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

庭園における適切な維持管理計画を策定する際の資料となることを目的とし、維持管理作業が植栽植物の生育に与える影響を調べた。その結果、土壌改良などの維持管理作業により光合成能が上昇するなどの傾向が見られた。また、植物生長ソフトAMAPを用いて管理の有無による景観シミュレーションを行った結果、庭園内の樹木は,維持管理作業によって、その樹形が保たれていること等が推測された。
著者
山本 泰三
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1234, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹スタビリティーの一部は、腹部を筒状に包み込んでいる腹横筋による腹腔内圧の調整によって獲得されている。姿勢変化による腹横筋の針筋電図を用いた評価では、Hodgesが仰臥位より座位にて収縮量が増加していることを、Jukerは座位と立位にて最大収縮の4%収縮していることを報告している。本研究の目的は、姿勢変化による腹部周径の変化と腹壁筋の厚さの変化を比較し、腹壁筋の収縮様態が求心性か遠心性かを推定することである。【方法】対象は、腰部、腹部に病変を持たない健常男性10名で、年齢は29.5±4.7歳であった。腹部の周径は、へその高さに手縫い糸を巻きつけた後に計測した。腹壁筋は、超音波診断装置(東芝社製femirio8)を使用し、表層画像が測定できる14MHzリニアプローブを右前腋窩線で周径を測定したラインにあてて、安静呼気終末に静止画を撮影した。腹壁筋の厚さは、内蔵スケールにて外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋を計測した。測定肢位は、仰臥位、背もたれのない座位、立位に加えて、傾斜台を用いて内蔵が腹壁を圧迫しない45°頭低位の4種類とした。統計的検討は、分散分析(p<0.01)の後、Post-hocテストを行った。【結果】腹部の周径は、仰臥位で80.4±7.2mm、背もたれのない座位で86.6±7.7mm、立位で83.4±7.1mm、45°頭低位で75.5±6.4mmであった。分散分析の結果、姿勢変化の主効果が認められ(p<0.001)、45°頭低位、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなった。腹横筋の厚さは、仰臥位で3.7±0.7mm、背もたれのない座位で3.6±0.7mm、立位で3.9±1.0mm、45°頭低位で3.8±0.4mmであった。内腹斜筋の厚さは、仰臥位で11.6±2.0mm、背もたれのない座位で12.5±2.7mm、立位で12.2±2.5mm、45°頭低位で10.7±1.8mmであった。外腹斜筋の厚さは、仰臥位で8.4±2.5mm、背もたれのない座位で7.7±1.7mm、立位で7.2±2.0mm、45°頭低位で7.6±2.3mmであった。腹壁筋の厚さは、4種類の姿勢変化による主効果は認められなかった。【考察】姿勢変化による腹部周径は、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなっているのに対して、腹壁筋の厚さは、変化していなかった。先行研究のように姿勢変化により腹横筋の活動電位が増加しており、かつ、筋の長さが延長されて、筋の厚さが変化していなかったので、収縮様態は遠心性収縮が推察される。抗重力姿勢になれば、内蔵は腹壁を圧迫する。内蔵による腹壁の圧迫が少ない45°頭低位では、腹部周径が最も細かったにも関わらず、腹壁の厚さは変化していなかった。腹横筋をはじめとする腹壁筋は、筋の弾性による静止張力を加えた遠心性収縮により効率的張力を発生させていると推定される。
著者
山本 洋子 橋本 明彦 冨樫 きょう子 高塚 純子 伊藤 明子 志村 英樹 伊藤 雅章
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.821-826, 2001-04-20
参考文献数
17
被引用文献数
16

掌蹠膿疱症における歯性病巣治療の有効性を調べるために,新潟大学医学部附属病院皮膚科で掌蹠膿疱症と診断した60症例について検討した.本学歯学部附属病院第二補綴科で歯性病巣を検索したところ,54例に慢性根尖病巣または慢性辺縁性歯周炎を認め,歯科治療を開始した.皮疹の経過観察を行い,「治癒」,「著明改善」,「改善」,「軽度改善」,「不変」,「悪化」の6群に分類し,「改善」以上の皮疹の軽快を認めた症例を有効群とした.口腔内アレルゲン金属除去ないし扁桃摘出術を行った症例を除いた31例について,歯性病巣治療の有効性を検討した.有効率は,歯性病巣治療終了群では70.6%,歯性病巣治療途中群では57.1%,両者を合わせた「歯性病巣治療群」では64.5%であり,無治療群の14.3%に比べて有意に有効率が高かった.有効群では歯性病巣治療開始後比較的早期に治療効果を認めること,罹病期間が長期でも治療効果が速やかに現れる症例があることより,歯性病巣は掌蹠膿疱症の主要な発症因子の1つであると考えた.本症では,従来のような扁桃炎などの耳鼻咽候科的な感染病巣および歯科金属アレルギーの検索とともに,自覚症状の有無に関わらず歯性病巣の検索も行い,個々の患者ごとに適切な治療方針を決定することが重要である.
著者
佐藤 康晴 清野 文雄 小笠原 啓一 山本 佳孝 佐藤 徹 平林 紳一郎 清水 賀之
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.129, no.4, pp.124-131, 2013-04-01 (Released:2014-04-14)
参考文献数
20
被引用文献数
5 9

The motion of a single MH-bubble in quiescent fluid was examined experimentally. If a methane-gas bubble is placed under the condition that hydrates nucleation can initiate, typically at high pressure and low temperature, a thin methane hydrate film is formed on the bubble surface and it alters the motion of the bubble in the fluid drastically. It behaves as if solid did.To clarify the fluid dynamics of MH-bubbles, we devised the special apparatus which enabled us to observe the three dimensional behaviours of the MH-bubbles under high pressure condition. The three dimensional motions of the MH-bubbles were captured by two high-speed cameras whose resolution was 1024*1024 pixel at 500Hz. To analyze the motions of the MH-bubbles, Direct Linear Transformation Method was adopted.Equivalent diameter of the MH-bubble was altered from 3.8 to 7.8 mm, which corresponded to the range from 555 to 1155 in Reynolds number, by replacing the nozzles with different diameters.The MH- bubbles in this range exhibited the zigzag motion, while methane bubbles the spiral motion. Main findings in this research are as follows:(1) The aspect ratio, the height to width ratio, decreased linearly with the increment of the equivalent diameter of a MH-bubble. This reflects the fact that the shape of the MH-bubble shifts from spherical to ellipsoidal. (2) Strouhal number which characterizes the zigzag motion of the MH-bubbles increased with Reynolds number. (3) The drag coefficients were measured up to the Reynolds number of about 1000. The drag coefficient of a MHbubble departs from the standard drag curve when the shape deformation become notable. After that, it rise in accordance with the progress of the deformation. These phenomena also have been observed in the behaviour of a bubble with a surfactant.
著者
藤澤 令夫 小澤 和道 美濃 正 山本 耕平 木曽 好能 酒井 修
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

昨年度に続いて本年度も各研究分担領域で「壊疑」のもつそれぞれの意味と役割を究明し, 西洋哲学における壊疑論の歴史的変遷を跡づけることに努めた. 古代ギリシアでは後期に懐疑派が現れるが, この派の哲学の全体的特徴はセクストス・エンペイリコス著『ピュロン哲学の概要』に述べられている. それによれば懐疑哲学では判断保留とそれに伴う平静な悟脱の心境が問題とされ, 特にその判断保留の十箇の方式をめぐってはその著の第14章で詳述されている. 教父哲学ではアウグスティヌスによる新アカデミア派の懐疑論克服が問題とされるが, 彼の『自由意志論』第2巻では「神の存在論証」と相俟って真理の超越的独存性が立証され, 真の認識の成立根拠が確証される. 彼の影響下にある中世哲学では基本的には懐疑の問題は主要な関心事とはならなかった. このような哲学としてはトマスの哲学が取り上げられ, 彼のessentia概念の二義性が抽象説との関係において論じられる. 近世ではデカルトが一切のものに対して徹底して懐疑を行なった末にcogito ergo sumという不可疑的な真理の発見に到るが, これに対するストローソンの批判が考察される. 彼のデカルト批判によれば, cogito ergo sumを成立させる「私」という個体の存在は「私」以外の他の個体の存在を既に前提とする. つまり, 個体指示表現が有意味であるためには, 個体とそれ以外の個体との識別可能性の原理の働くことを認めねばならないと言えよう. 現代の英米哲学においても懐疑論に関係する多くの問題がみられる. その一つに, 経験的認識の証拠による不十分決定underdeterminationの問題が挙げられる. 今日の反実在論の多くはこの「証拠による不十分決定」に依拠している点である意味での懐疑論の変種とみなすことも不適切とは言えない. 又, 懐疑論・弁証法・解釈学・ニヒリズム相互の関係も本研究において深く問題としてきた哲学的・倫理的課題である.