著者
山田 誠
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.493-507, 2007 (Released:2018-01-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本稿は,日本の人文地理学の歩みと,今日それを取り巻く諸条件について紹介する。1910年代から欧米の方法論の咀嚼を通じてしだいに成果を積み上げてきた日本の人文地理学は,今日,新しい立場・対象・方法の研究が若い世代から現れ,また成果の海外への発信の機会も増えている。しかし,伝統的な人文地理学からの過度の断絶もときに見られるのは懸念材料である。
著者
山田 晟
出版者
日本法哲学会
雑誌
法哲学四季報 (ISSN:24338583)
巻号頁・発行日
vol.1951, no.7-8, pp.291-314, 1951-02-05 (Released:2008-11-17)
参考文献数
21
著者
安田 雅俊 関 伸一 亘 悠哉 齋藤 和彦 山田 文雄 小高 信彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.227-234, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2

現在沖縄島北部に局所的に分布する絶滅危惧種オキナワトゲネズミTokudaia muenninki(齧歯目ネズミ科)を対象として,過去の生息記録等を収集し,分布の変遷を検討した.本種は,有史以前には沖縄島の全域と伊江島に分布した可能性がある.1939年の発見時には,少なくとも現在の名護市北部から国頭村にいたる沖縄島北部に広く分布した.外来の食肉類の糞中にオキナワトゲネズミの体組織(刺毛等)が見つかる割合は,1970年代後半には75–80%であったが,1990年代後半までに大きく低下し,2016年1月の本調査では0%であった.トゲネズミの生息地面積は,有史以前から現在までに99.6%,種の発見時点から現在までに98.4%縮小したと見積もられた.
著者
高橋 里美 園田 睦 山田 隆治 福満 智代 丸目 弥生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1500, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】パーキンソン病(以下PD)の非運動症状は,認知機能障害・精神症状(抑うつ・幻覚)・アパシー・自律神経障害等があり理学療法の実施やQOLの妨げとなっている。PDでは黒質-線条体ドパミン系と病期の進行と共に中脳-皮質-辺縁系ドパミン系の2つのドパミン系に変性が起こる。後者の投射系は前頭葉腹内側部,扁桃体,帯状回等に投射されている事から前頭前野の機能異常が起こり,認知機能や報酬,意思決定等に影響を及ぼすと考えられている。近年,運動療法で認知機能や抑うつの改善が報告されているが,PD患者の非運動症状に対する運動療法については報告が少ない。今回の研究は,PD患者の非運動症状の中で,特に認知機能,抑うつ,アパシーに着目し運動療法での変化を検討する事を目的とした。【方法】対象はPD患者11名(男性3名,女性8名,71.6±9.2歳,Hoehn-Yahr分類のStageII8名,III2名,IV1名)とした。(罹患期間は5年未満6名,9~11年4名,26年目1名であった。)評価は,認知機能にはMini Mental State Examination(以下MMSE),抑うつには自己評価式抑うつ性尺度(以下SDS),アパシーにはやる気スコアを使用し,運動療法介入の開始時及び4週後で行った。運動療法はストレッチ・筋力増強運動・バランス運動・歩行運動・有酸素運動とした。運動療法の介入時間は,外来患者は週3回20~40分,入院患者は週5~6回約60分実施した。有酸素運動はエルゴメーターまたは自由歩行を約20分実施した。統計処理はWilcoxon符号付順位和検定を使用し,運動療法介入前後での比較を行い,有意水準は5%未満とした。【結果】MMSEでは開始時24±3.7点,4W時25.5±2.8点であり有意な差は認められなかった(p=0.06)。SDSでは開始時45.9±6.5点,4W時39.7±8.6点であり有意に小さい値となった(p<0.01)。また,やる気スコアでは開始時14.1±7.1点,4W時9.8±7.0点であり有意に小さい値となった(p<0.01)。【考察】今回の結果でMMSEでは有意な差は認められないものの運動療法介入によって認知機能の改善があることが示唆された。先行研究では運動療法においてドパミン細胞が存在する黒質でのグリア由来神経栄養因子(以下GDNF)生成細胞の発生を誘導する事が示されている。また運動療法において脳由来神経栄養因子(以下BDNF)やGDNFなどの神経細胞の成長に必要な神経栄養因子が増加する事や,海馬萎縮の抑制・容量の増加が報告されている事から,認知機能の改善にはこれらの神経栄養因子が関与している事が示唆される。また,SDSにおいては有意に小さい値となり,うつ症状の改善を認めた。抑うつにおいては,前頭前野において報酬系の役割もある事から,この報酬系処理が運動によるドパミンの放出促進に働き,また,うつ病患者への有酸素運動はセロトニン代謝の賦活によるうつ症状の改善の報告から,運動療法介入により,うつ症状の改善に繋がったと考えられる。運動療法によりGDNF,BDNFの増加で栄養サポートメカニズムを通してドパミンシステムの可塑性の促進に繋がり,ドパミン系へ影響を及ぼしPD患者の認知機能・抑うつが改善したと考えられた。やる気スコアでは運動療法介入後に有意に小さい値となり,アパシーの改善を認めた。PD患者におけるアパシーは,ドパミン等の神経伝達の異常や前頭葉-基底核ネットワークでの障害で起こるとされており,これらにもドパミン系への影響により改善したと思われる。運動療法を施行することで認知機能,抑うつ,アパシーが改善し,理学療法への関心や意欲の向上をもたらすことで,理学療法介入が円滑に実施可能となった。【理学療法学研究としての意義】PD患者における運動症状に注目しがちであるが,理学療法を施行するうえで非運動症状による阻害因子の影響は大きい。そしてPD患者の非運動症状に対して薬物療法による治療エビデンスが殆どであり,本研究の結果から運動療法介入による非運動症状の改善が期待され,理学療法の発展に寄与するものと考える。
著者
吉村 和也 山田 実 永井 宏達 森 周平 梶原 由布 薗田 拓也 西口 周 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ea1009, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 高齢者の転倒は要介護に至る主たる要因の一つに挙げられており、本邦において大きな社会問題になっている。各自治体では、転倒予防を含め積極的な介護予防事業が展開されているが、その事業の転倒予防効果については十分な検証がなされていない。我々は、これらの事業を積極的に開催している地域では、事業参加者だけでなく、波及効果によって参加していない高齢者も含めて健康意識が高まり、その結果転倒発生率が抑制されるという仮説を立てた。そこで本研究では、各自治体が地域で実施している様々な介護予防事業(ここでは運動機能向上教室や転倒予防のための啓発活動のこと)への参加者数とその地域の転倒発生率との関連を明らかにし、その効果を検討することを目的とする。【方法】 本研究では京都市左京区在住の要支援・要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者24,964名を対象に、平成23年4月から8月までに回収した「基本チェックリスト」を分析対象とした。回収された6,970名(返送率27.9%)のうち、検討項目に関する欠落データを含まない6,399名を解析した。左京区を小学校区ごとにAからTの20の地域に区分し、転倒発生率を順位別した。従属変数に過去一年間での転倒の有無を、調整変数として年齢、性別、BMIを、そして独立変数にAからTの20の各地域をダミー変数化して投入した多重ロジスティック回帰分析を行い、転倒発生率が高い地域を「high risk地区」、その他の地域を「moderate地区」とした。次に、区内で実施された転倒予防に関わる事業の状況を調査するために、区内で介護予防事業を実施している9つの行政委託機関(左京区社会福祉協議会、京都市左京区地域介護予防推進センター、区内7つの地域包括支援センター)を対象に平成22年度に実施した転倒予防に関わる事業についてのアンケートを配布し、そのうち回答が得られた7機関の事業を分析対象とした。それぞれの事業を「運動教室」「啓発活動」「運動+知識教示教室」の3つの形態に分類し、地域ごとに各形態の参加者数を算出した。なお解析には、参加者数を各地域の面積で補正した値を用いた。統計解析はhigh risk地区とmoderate地区の両区間においてMann-WhitneyのU検定を用いて比較検討を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】 全地域における転倒発生率は22.5%(最低:D地域18.7%、最高:B地域39.0%)であった。ロジスティック回帰分析によって、転倒発生率の最も低いD地域に対して有意に転倒発生率が高かった、B(転倒発生率39.0%、オッズ比2.78)、R(31.3%、2.05)、S(31.4%、1.79)、T(27.5%、1.64)の4地域をhigh risk地区とし、high risk地区以外の16地域をmoderate地区とした。high risk地区で開催された事業の参加者数の中央値は、運動教室で0.59人/km2、啓発活動で6.01人/km2、運動+知識教示教室で14.02人/km2であった。moderate地区では、運動教室で5.54人/km2、啓発活動で72.79人/km2、運動+知識教示教室で203.75人/km2であった。high risk地区とmoderate地区で比較したところ、moderate地区において介護予防に関わる事業への参加者数は多く、特に運動+知識教示教室では有意に参加者数が多かった(p=0.021)。【考察】 これまでにも転倒予防事業については運動教室や啓発などの有効性を示したものが報告されている。今回の研究の結果では転倒発生率はこれらの事業への参加者数が多いほど低下する傾向がみられた。さらに今回はその両者を含有した運動+知識教示教室が有効な結果を得ている事が明らかになった。これらは想定された結果ではあるが、運動、啓発単独でもそれなりの効果を得られることが示唆され、今後は費用対効果などの見地からも転倒予防事業を検証する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 近年、理学療法士の介護予防や行政の分野での活躍を目にする機会が増えてきており、今後さらに期待される分野でもある。全国の高齢者のうちおよそ7割以上が一次予防の対象となる高齢者であり、彼らに対する介護予防施策は重要なテーマの一つである。本研究は横断研究のため、これらの取り組みによる介入効果まで示すことはできない。しかし、転倒予防において、ポピュレーションアプローチの有用性や運動と知識教示の組み合わせが有効であることが示唆されたことは、理学療法士が地域に介入していくうえで重要な知見であるといえる。
著者
内山田 康
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.38, 2009

意識が無意識や狂気をコントロールできないのと同じように、ダルマ(法)がコントロールできない部分が思いがけない飛躍を起こすのではないか。これを起こしている主体は何か?それはどのような性格のものなのか?非倫理的な生命力は、人びとが思い描くのとは質的に異なるアッサンブラージュを作っているのではないか?予測不可能で脱人間中心主義的な生成の性格を民族誌的に記述することを試みる。
著者
内山田 康
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.37, 2009

「もの、動き、アッサンブラージュ」というテーマの中心に、動きがあり、その前にはものが、その後にはアッサンブラージュが配置されている。ひとは、ものの中に、動きの中に、アッサンブラージュの中に分配されている。計画や意図ではなく、動き、スピード、強度、無意識が、感覚が重要な仕事をするだろう。民族誌的なケースを通して、人間中心主義的な接近方法では捉えきれない存在の生命的な過程を記述する人類学を試みる。
著者
幸田 仁志 甲斐 義浩 来田 宣幸 松井 知之 山田 悠司 森原 徹
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.143-146, 2019-10-15 (Released:2019-10-17)
参考文献数
15

〔目的〕本研究の目的は,高校生野球選手における上腕近位部周径と肩関節挙上筋力との関係性を検討することとした。〔方法〕硬式野球部に所属する高校生125名を対象とした。測定項目は,投球側の上腕近位部周径と肩関節挙上筋力,および投球肩障害の有無とした。統計解析には,ピアソンの相関係数を用いて,上腕近位位部周径と肩関節挙上筋力との関係性を,健常群と投球肩障害群のそれぞれで検討した。〔結果〕健常群では,上腕近位部周径と肩関節挙上筋力との間に有意な正の相関関係が認められた。一方,投球肩障害群では,上腕近位部周径と肩関節挙上筋力との間に有意な相関関係は認められなかった。〔結語〕上肢の筋力を積極的に強化している高校生野球選手においても,上腕近位部周径は肩関節挙上筋力を反映する指標となることが示された。また,肩関節に何等かの異常がある場合では,その関係が認められない可能性が示唆された。
著者
山田 啓之 羽藤 直人
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.63-66, 2019-04-30

当直医へのコール ●Bell麻痺:一側の顔面神経麻痺のみを呈し,他の脳神経麻痺などの随伴する症状がない症例 ●Ramsay Hunt症候群:顔面神経麻痺のほかに難聴やめまいも呈している症例 ●外傷性麻痺:事故などで頭部外傷を受傷した症例 ●脳梗塞:一側の顔面神経麻痺を呈しているが,前頭筋の麻痺がない症例
著者
山田 圭佑
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会誌 (ISSN:13405551)
巻号頁・発行日
vol.137, no.2, pp.81-84, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)
被引用文献数
2

1.はじめに「卓球ロボット」と聞くと,どのようなロボットを想像するだろうか。ドイツの産業用ロボットと卓球選手が対戦する動画を見た方もおられるだろうし,人型ロボットが卓球をする姿を想像される方もおられるだろう。本稿で紹介する卓球ロボットは,人とロボットが卓球の
著者
川本 龍一 土井 貴明 山田 明弘 岡山 雅信 鶴岡 浩樹 佐藤 元美 梶井 英治
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.861-867, 1999-12-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
15 22

地域在住の高齢者を対象に, 主観的幸福感とその背景因子を解明するための横断調査を実施した. 対象は, 地域在住の自記式回答可能な高齢者であり, 調査は, 松林らの香北町健康長寿研究で用いられたと同様の Visual Analogue Scale を用いたアンケートを使って行われた.地域在住の自記式回答可能な高齢者2,379人中2,361人 (99.2%) より回答を得た. そのうち回答不備例を除く分析可能な対象は, 1,873人 (78.7%), 男性860人, 平均年齢72.7 (95%信頼区間: 72.3~73.0) 歳, 平均主観的幸福感69.1 (67.6~70.5), 女性1,013人, 平均年齢72.8 (72.4~73.1) 歳, 平均主観的幸福感68.5 (67.2~69.7) であった. 主観的幸福感と背景因子との関係については, 主観的幸福感は同居家族のいる人 (p=0.0051), 配偶者のいる人 (p=0.0240), 血圧の高くない人 (p=0.0096), 脳卒中歴のない人 (p=0.0039), 医師による定期的内服治療を受けていない人 (p=0.0039), 運動習慣のある人 (p<0.001), 仕事をしている人 (p<0.001) ほど有意に大きかった. 主観的幸福感と各種スコアーとの関係については, 主観的幸福感はADL, 情報関連機能, 手段的・情緒的支援ネットワーク, 健康状況, 食欲状況, 睡眠状況, 記憶状況, 家族関係, 友人関係, 経済状況の値が高いほど有意に大きかった (各々p<0.001). 主観的幸福感を取り巻く背景因子を説明変数とする重回帰分析では, 手段的支援ネットワーク (p<0.001), 情緒的支援ネットワーク (p=0.0254), 健康状況 (p<0.001), 記憶状況(p=0.0027), 友人関係 (p<0.001), 経済状況 (p<0.001) は有意な正の偏相関を示した. 抑うつ状態 (SDS) と主観的幸福感との関係では, SDSが重症 (高得点) になるほど主観的幸福感のスコアーは有意に小さかった (p<0.001).地域に在住する高齢者の主観的幸福感の向上のためには, 今回明かにされた背景因子の改善を計り, 今後経年的に経過をみて行くことが必要であろう.
著者
山田 真伸 長谷川 睦 石井 ゆりこ
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3038, 2009

【目的】<BR>アレクサンダー・テクニーク(以下、AT)は、19世紀のオーストラリア人、F.M.アレクサンダーがはじめたものである.ATとは、抑制のプロセスを適用し、頭部と脊椎の関係に着目し四肢を解放することにより、頭頚部の動きが身体全体をリードするようになり、人間本来の身体機能に近づくことを追求したものである.頭部と脊椎、特に頭頚部は姿勢制御において重要な役割を果たし、理学療法でも治療対象部位となる.そこで今回、AT概念を取り入れた手技(以下、手技)をAT生徒であり理学療法士(以下、PT)の筆者が行い、その前後での姿勢制御機能の変化を重心動揺計にて検討した.<BR>【方法】<BR>対象は、研究趣旨を説明し同意を得た健常者11名(男性5名、女性6名、平均年齢29.8±6.4歳、平均身長167.1±7.1cm)とした.方法は、重心動揺計(Active Balancer EAB-100、酒井医療)を用い、手技(背臥位、座位)前後での静止立位時の重心動揺測定を行った.測定は、日本平衡神経学会の基準に従い、開眼閉脚60秒間とした(サンプリング周波数20Hz).測定項目は総軌跡長、外周面積、実効値面積、単位面積軌跡長とした.統計処理には、t検定を用い、各測定項目を手技前後で比較した.<BR>【結果】<BR>総軌跡長は、手技前937.0±84.1mmから手技後909.8±98.9mmと有意差は認められなかった.外周面積は、266.7±150.2mm<SUP>2</SUP>から213.3±111.8mm<SUP>2</SUP>と有意に減少した(p<0.05).実効値面積は、186.8±151.8 mm<SUP>2</SUP>から118.7±78.4 mm<SUP>2</SUP>と有意に減少した(p<0.05).単位面積軌跡長は、4.3±1.8mmから5.2±2.1mmと有意に増加した(p<0.05).<BR>【考察】<BR>結果より、手技後に重心動揺の大きさを示すパラメーターの外周面積、実効値面積は有意に減少し静止立位の安定化を示唆した.さらに重心動揺の性質を示すパラメーターの単位面積軌跡長が有意に増加した.単位面積軌跡長は、重心動揺における姿勢制御の微細さを示すパラメーターとされ、この微細な制御は固有受容器姿勢制御機能によるもので、増加を示すことは姿勢制御機能が向上したと考察できる.これは手技後に、ATで重要視される頭頚部の位置関係が適切となり、固有受容器の筋紡錘が高密度に含まれる頚部深層筋が賦活されたことが考えられる.それに伴い身体重心線が理想的配列に近づき、骨構造を通しての体重支持が可能となり、各関節内にも多く含まれる固有受容器が賦活されたことも姿勢制御機能向上の一因と考えられる.<BR>【まとめ】<BR>健常者に対して手技を行うことにより、静止立位時の重心動揺における姿勢制御機能への効果が示された.しかし、本来ATは認定教師が行い最も効果が期待できるものであり、単純に姿勢制御のみへの効果を示すものではない.筆者はあくまでも約3年間AT教師からレッスンを受けたAT生徒という立場のPTである.今後もATで得た知識をPTとして臨床展開していきたい.
著者
三冨 博文 中野 弘雅 勝山 直興 伊東 宏 小川 仁史 柴田 朋彦 山田 秀裕 尾崎 承一 米山 喜平
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.208-213, 2010-06-30 (Released:2016-02-26)
参考文献数
12
被引用文献数
1

症例は74歳女性.平成10年に関節リウマチと診断し,当科で入退院を繰り返していた.平成20年4月上旬より労作時呼吸困難が出現.その後,呼吸困難は徐々に増悪し,4月25日に即日入院.入院時,頻脈,頻呼吸あり.胸部Xpと心臓超音波検査より心タンポナーデと診断し心囊穿刺を施行.心囊水の検査結果よりタンポナーデの原因をリウマチ性心外膜炎と診断し,メチルプレドニゾロン40mg/日を開始.その後,心タンポナーデの増悪なく6月3日に退院となった.