著者
白岩 正 谷口 省三 井川 明彦 樫間 裕司 黒川 秀基
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.11, pp.1617-1622, 1983

(±)-α-メチルベンジルアミンの有機酸塩のラセミ体構造を調べ,優先晶出法による光学分割の可能性について検討した。塩形成に用いた有機酸は,ベンゼンスルホン酸(BS),p-メチルベソゼンスルホン酸(MBS),p-エチルベンゼンスルホン酸(EBS),スルファニル酸(SU),p-t-ブチル安息香酸(TBB),フェノキシ酢酸(PA),イソ吉草酸(IVA),ビバル酸(PI),メタクリル酸(MC)および2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(HMP)である。これらの有機酸塩のラセミ体と光学活性体の融点,溶解度および赤外吸収スペクトルの比較によってラセミ体構造を調べた。しかし,これらの方法では(±)-TBB塩のみがラセミ混合物であることが推定できただけで,その他の塩のラセミ体構造を推定することは困難であった。そこで,ラセミ体と光学活性体の融解エンタルピー(ΔHf)を比較し,さらにラセミ化合物の生成自由エネルギー(ΔGφ)を求めた。BS,MBS,EBS,SU,PA,MCおよびHMP塩においてはΔHf(±)>ΔHf(-)になったが,IVAならびにPI塩ではΔHf(±)<ΔHf(-)になった。しかし,これらの塩のΔGφ はすべて負の値を示したことから,その(±)-塩はいずれもラセミ化合物を形成していることがわかった。とくに,PI塩のΔGφ の絶対値はその他の塩のそれらにくらべてきわめて小さいので,(±)-PI塩は安定性の乏しいラセミ化合物であると推定されるTBB塩ではΔHf(±)<ΔHf(-)になり,ΔGφ の値も正の値を示したので,そのラセミ体はラセミ混合物であることが確認された。なお,以上の(±)一塩のラセミ体構造は,融点の二成分系状態図からも確認した。以上の結果から,(±)-TBB塩がラセミ混合物であることがわかったので,テトラヒドロフラン中,20℃で優先晶出法によって光学分割した。その結果,90%以上の光学純度の(-)-TBB塩を分割することができた。
著者
矢田 喜大 松浦 真也 前川 明弘 立野 雄也 徳本 勇人 川岡 孝督 神嵜 康之
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会研究発表会講演集 第31回廃棄物資源循環学会研究発表会
巻号頁・発行日
pp.217, 2020 (Released:2020-11-30)

近年,有機性廃棄物を発酵させ,得られたバイオガスを燃料として発電を行うバイオガス発電が注目を集めている.バイオガス発電事業においては,投入した廃棄物とほぼ同量の発酵残渣(以下,消化液とする)が発生する.消化液は窒素成分を含有するため,一部は液肥等として活用されるが,肥料の需要変動や臭気等の問題から排水処理が行われる場合も多く,その際には窒素含有量を排水基準値以下に低減させる必要がある.本研究では,消化液の窒素成分濃度を低減させるため,多孔性を有する天然鉱物や廃棄物を吸着材として用いる手法について検討を行った.併せて,消化液中の菌叢の変化や存在する菌種を確認するために,菌叢解析を実施した.その結果,天然ゼオライト,竹炭及び活性白土を吸着材として用いると,消化液のアンモニア性窒素濃度が減少することや,吸着材の投入により消化液の菌種が大きく変化しないことなどが確認できた.
著者
細川 明日香
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.13, pp.280-253, 2015-03-01

本稿は、花車の起源と花車図の成立、図像や意味の変遷を論ずるものである。花車図とは、花車すなわち、花々を積んだ大八車を表わすものである。この図像は江戸時代初期から見られ、その作例は優に一〇〇を超える。しかしながら、現在に至るまで、その起源や出現、成立時期は詳らかになっていない。加えて、図像の変遷を追い、その変容について述べるものもほとんどない。そこで本稿では、まず、花車図の出現・成立当初の作例を検討することで、未だ見解の一致が見られない花車の起源について所見を述べる。次に、花車図が成立したと思われる寛永年間から、およそ二五〇年後の一九世紀末までに表された花車図を三つの時期にわけ、その変遷を辿る。最終的には各時期の特徴を析出し、機能及び受容の様態の変化を明らかにする。
著者
岩崎 仁美 幸田 利敬 武中 美佳子 松本 尚子 山根 学 矢本 富三 助川 明 武富 由雄 高田 哲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G2Se2067, 2010

【目的】医療専門家の教育は、1965年に提唱されたBloomらの3分野、認知領域・精神運動領域・情意領域に基づいており、理学療法士養成は概ね知識と技術、専門的態度の3つから構成されている。近年、医療界全体で医療従事者の対人スキル・コミュニケーション、専門家としての態度をいかに養うかが大きな課題となり、その到達目標も定められてきている。一方、目標達成のためには、個々の学生が指導者側の指導をどのように受け止めるかも重要で、受け止め方の傾向を熟知し、学生の特性に応じた指導を行うことが大切である。そこで我々は、理学療法実習を終了した学生を対象に絵画連想法であるP‐Fスタディを実施し、実習における態度評価との関連を検討した。<BR><BR>【方法】平成20年度に実習を全て終了し、卒業が見込まれた学生のうち協力が得られた69名、男性50名(20~47歳、平均28.9歳)、女性19名(20~49歳、平均27.6歳)を対象とした。心理テストはP-Fスタディを用い、自分が起こした事象に対する他者からの指摘と、他者が起こした事象によって生じるフラストレーションに対する反応を採点し、評点因子毎に標準得点を算出した。実習態度評価については、「指導者の助言を受け入れることができる」という項目に着目した。実習評価者による差を排除するため複数の実習における平均値を個人の得点とし、その中央値よりも高い24名を上位群、低い15名を下位群とした。P‐Fスタディより得られた各評点因子を、実習評価の上位群・下位群間で比較し、Mann-WhitneyのU検定(p≦0.05)を用いて分析した。<BR><BR>【説明と同意】本研究が単位取得に関わらないことを示すため、実施は単位認定後とし、今後の臨床実習指導に役立てる旨を伝え、同意の得られた学生にのみ実施した。尚、得られた情報は、個人の特定が不可能な状態で研究に使用し、解析後は破棄した。<BR><BR>【結果】(1)上位群では、「問題解決を図るために他の人が何らかの行動をしてくれることを強く期待する反応」が下位群より有意に高かった。(2)同様に、上位群においては、「自責・自己非難の気持ちの強さに関係する反応」が下位群より高い値をとった。(3)「一般の常識的な方法で適応できるかをみるための指標」についても上位群が下位群より高得点であった。(4)他の指標に関しては両群間に有意差を認めなかった。<BR><BR>【考察】上位群では適度な自己反省心を持ち、問題解決に向けて自分から援助・助力を求めることができるが、下位群では自己反省心にやや乏しい傾向があり、適切に必要な助力を求めることができず、問題解決のための積極的姿勢が乏しいのではないかと示唆された。原因を自分に求め、自分の努力によって問題を解決しようという反応や、規則や習慣に従って解決を待つという忍耐強さに関わる反応においては両群間で有意差がないことからも、単に反省して従順であることではなく、困難な場面では助力を求める積極的な姿勢が指導者に評価されていた。一方、自己反省心が強すぎる場合には、自分自身を過度に攻撃する可能性、また他者への期待が高すぎる場合には、依存心の強さと捉えられる場合もあるため、評価にあたっては個別に判断する必要があると思われた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今後は、実習前後での変化や、実習中に問題が生じる学生についても検討し、学生の特性に応じた指導に繋げていきたい。
著者
早川 明夫
出版者
文教大学
雑誌
教育研究所紀要 = Bulletin of Institute of Educational Research (ISSN:09189122)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.55-63, 2006-12-01

小中校の歴史教科書・教師用指導書・学習参考書などの大半は、「国風文化」の発生・発達を遣唐使の停廃とリンクさせて叙述している。これはこんにちの歴史学界の水準から大きく乖離している。そこで、教科書等の分析とあわせて、遣唐使と「国風文化」に関する先学の研究成果を踏まえ、「国風文化」の授業における留意点を示したい。
著者
澤村 良二 櫻井 映子 山本 美枝子 立川 真理子 長谷川 明
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
衛生化学 (ISSN:0013273X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.267-273, 1982-10-30 (Released:2008-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

In the reaction of hypochlorite with amino acids, chloramine is formed at the first stage, and then decarboxylation and oxidation occur. Thus, either corresponding aldehyde and ammonia or corresponding nitrile is formed from amino acids. In the present studies, the products in the reaction mixture of glycine with hypochlorite at neutral condition are determined quantitatively. When the molar ratio of hypochlorite to glycine was less than 1, the residual chlorine and glycine were stable in the reaction mixture ; thus no ammonia and no aldehyde were formed. At the molar ratio ranging from 1 to 3, cyanide and cyanogen chloride were produced. Maximum formation of cyanide was observed at the ratio of about 2, but its yield was only 20% of glycine. When hypochlorite reacted on glycine at the molar ratio of 3, cyanogen chloride was produced in a quantitative yield. Cyanogen chloride was degraded by subsequent addition of excess hypochlorite. From these results, it is concluded that the nitrile formation is a main reaction of glycine with hypochlorite.
著者
伊澤 光 古川 明 丸山 澄 堤 博文 小室 歳信
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.89-97, 2019 (Released:2019-01-31)
参考文献数
12

We experienced a case of successful identification of an unknown body found at breakwater based on root canal treatment. After matching the dental findings of the body to the treatment history of individual's dental records, 23 teeth showed agreement in findings. Although 8 teeth did not agree in findings, they were consistent in terms of dental treatment history. There was inconsistency in the remaining tooth. This tooth was determined as intact, but the dental records indicated the existence of a resin composite restoration on that tooth. However, that inconsistency never became a critical determinant factor. Comparison of periapical radiographs of the body with the dental records revealed that the right mandibular first premolar teeth showed considerable similarity to the images of a broken endodontic instrument and a alveolar bone resorption caused by the leakage of root canal sealer at the middle of the root. Given the above information, we concluded that the identification as the same individual is reasonable. It was thought that a case where the findings of a dental medical accident helped to confirm the identity was unusual.
著者
中川 明仁 佐藤 豪
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.38-45, 2010-08-31 (Released:2010-08-18)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究の目的は,Cloningerの気質4次元から自己志向的完全主義の各側面への影響を男女別に検討することであった。重回帰分析の結果,男女共通して気質次元の「固執」が完全主義の全側面へ正の影響を及ぼしていた。また,男性のみの結果として,「新奇性追求」と「報酬依存」が「失敗懸念」に負の影響を及ぼし,「報酬依存」は「完全性欲求」にも負の影響を及ぼしていた。一方,女性は「損害回避」が「失敗懸念」および「完全性欲求」に正の影響を及ぼしていた。本研究の結果より,多次元的な自己志向的完全主義の基盤に存在すると考えられる気質特性には,男女共通する気質と男女間で相違する気質が存在することが示唆された。
著者
吉長 裕司 金川 明弘 川畑 洋昭
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.3252-3255, 2003-12-15

大学生を対象としたタッチタイピング教育において,打鍵能力に加えて学習者の初期熟達感(慣れの意識)を測定した.「少し慣れた」以上の初期熟達感に達した日と,練習目標とした自己流タイピングの入力時間を更新した日との関係に着目し,学習者を,(1)「慣れた日」が「更新した日」より早い群,(2)「慣れた日」と「更新した日」が同じ群,(3)「更新した日」が「慣れた日」より早い群の3群に分類した結果,3群間の自己流タイピングの入力時間に1%水準で有意差があることが確認された.この結果に基づき,各群の習熟特性を考察するとともに,学習者の自己流タイピングと初期熟達感を考慮に入れた練習目標の設定方法を提案した.
著者
細川 明 瀬尾 康久
出版者
The Japanese Society of Agricultural Machinery and Food Engineers
雑誌
農業機械学会誌 (ISSN:02852543)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.86-92, 1975 (Released:2010-04-30)
参考文献数
8

Investigations of different types of banana ripening rooms have been made to collect data for aiming at the automation of process of banana ripening and some discussions were given to current commercial processing of banana ripening.1. Actual conditions of banana ripening rooms concerning CO2 and C2H4 concentration, ripening room temperature, pulp temperature of bananas, relative humidity during banana ripening have been obtained.2. Those data have shown that current processing of banana ripeing in practice is conducted by skilled operators' own way.3. Constant air circulation in a ripening room is remained as a future study for uniformity and more accurate control of room temperature during banana ripening. Combined effects of temperature, concentration of CO2 and C2H4, variety of bananas and other factors as well as individual effect are also left for a further study.
著者
齋藤 康人 柳澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭広 礒部 美与 高橋 光美 洲川 明久
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.14, pp.21-27, 2007 (Released:2007-05-15)
参考文献数
24

肺癌術後心肺合併症に影響する因子や術後離床日数及び在院日数との関係について術式別に検討した報告は少ない。今回我々は一側肺全摘除術患者の術前・術中因子が術後心肺合併症に影響するか,また,術後心肺合併症の有無が術後離床日数及び在院日数に影響したかを検討した。対象は当センターで肺癌による一側肺全摘除術を施行し術前術後リハビリテーションを行った連続42例とした。対象を術後心肺合併症非合併群(N群)と心合併症群(C群),肺合併症群(P群)に分類し,術前・術中因子,術後離床日数・在院日数を比較した。術前・術中因子の比較では術側,N群とC群との間での麻酔時間,N群とP群との間でのFEV1.0%に有意な差が認められた(p<0.05)。術後離床日数・在院日数の比較ではN群とC群との間で術後離床日数に,N群とP群との間で術後在院日数に有意な差が認められた(p<0.05)。以上より,手術中の不整脈や循環不全などにより麻酔時間が延長した症例やFEV1.0%が低下している症例では,慎重かつ重点的な術前術後リハビリテーションアプローチが必要と考えられた。また,C群では術後離床までの日数が遅延していたことから,今後は心合併症症例に対する術後リハビリテーションプログラムや実施基準について長期的に検討していきたい。
著者
小川 明子
出版者
名古屋大学大学院国際言語文化研究科
雑誌
メディアと社会 (ISSN:18800831)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-18, 2017-03-31

本論文は,番組審議会に焦点を当てる。番組審議会は,放送法ですべての放送事業者に義務づけられる制度である。局側が任命する学識経験者らが,局の諮問に応じて番組を視聴して意見を述べ,事業者側はそこで出された意見を尊重し,必要な措置をとることが定められているのだが,現状は,審議員の人選方法や,審議内容などに疑問も少なくなく,また放送局の側からも形骸化しているという愚痴や批判を聞く。しかし,番組審議会をめぐるまとまった研究はこれまでほとんどなく,審議会で何が語られているのかという研究は管見の限り見当たらない。そこで本稿では,内容分析,テキスト計量分析を併用しながら最も全国に影響力を持つ在京民放テレビ局6社の番組審議会概要を題材に,番組審議会での議論の現状を明らかにするとともに課題を抽出することを目的とする。
著者
栁澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭弘 齋藤 康人 高橋 光美 鹿倉 稚紗子 洲川 明久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1117, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】当センターは高度専門医療を担っており一般病棟268床の他,第二種感染症指定医療機関として51床の結核病床を有する。結核患者に対してのリハビリ介入も行っており,理学療法部の24年度新規依頼件数1223件のうち結核患者27件であり,全件数の2.2%を占めている。結核患者の理学療法実施にあたり,N95マスクを装着し他患者との接触を避けるため隔離病棟でのベッドサイド対応で感染予防を行っている。N95マスクの使用頻度は高いが,装着方法についてはマニュアルに記載されている程度で十分教育されてはいない。N95はフィルターの性能を示すものであり,装着後のマスクと顔の密着性は保証されていないため,米国では最低年1回のフィッティングテスト実施を勧告している。感染リスク抵減のため,N95マスクの正しい装着方法をマスターする事・自分の顔に合うマスクを見つけることを目的として,フィッティングテストを行う事が必要である。今回リハビリ部門において,N95マスクを使用しての定量的フィッティングテストを施行し教育効果の検証を行った。【方法】対象は当センターのリハビリスタッフ7名(PT6名・リハ医1名)。N95マスクは2種類使用した(マスクA:3M三つ折りマスク,マスクB:KOKENハイラック350型)。定量的測定は,労研式マスクフィッティングテスターMT-03型を使用(大気じんを使用してマスク内外の粉じん量の測定により漏れ率を測定)した。漏れ率5%以下で適合すると判定した。1回目の測定は,全員にマスクAを通常使用している方法で装着してもらい行った。2回目の測定は非適合の者に対し装着の方法・息の漏れがないか確認するためのユーザーシールチェック方法の指導後行った。3回目の測定は全員にマスクBを使用して行った。1回目の測定の際,装着方法が正しいか・ユーザーシールチェックを行えているか観察した。また,アンケートを行い基本的な装着方法を知っていたか・N95マスクの交換頻度等について調査した。【説明と同意】対象者には施行内容について主旨の説明後,同意を得て実施した。またアンケートは個人情報に配慮した。【結果】1.マスクAでは7名中3名が適合した。適合者平均0.88%(0.7~1.11%)・不適合者平均7.97%(5.02~9.99%)であった。不適合者の指導後の再測定では全員適合であった(全体平均1.52%)。2.マスクBでは全員適合した。全体平均0.54%(0.38~0.88%)。3.観察にて装着そのものができていなかったのは2名・装着やユーザーシールチェックまでできていたのは4名であった。できていた4名のうち不適合は2名であった。4.アンケートでは,N95マスクの装着方法を知っているは2名・だいたい知っている4名・知らない1名であった。ユーザーシールチェックまで意識して行っているのは1名・行っていない(知らない)3名であった。N95マスクの交換頻度は毎日5名・1週間ごと2名であった。【考察】マスクAでの適合者は,ユーザーシールチェックを意識して行えていた者・無意識で行っていた者・装着もできていなかったが偶然顔の形で適合した者が1名ずつであった。マスクBでは,装着方法の指導後の結果であったため適合者が増えた結果となった。ユーザーシールチェックに関しては,4名が行えていた。意識して行っているのは1名で他は無意識で行っていた。無意識で行っていたうち適合したのは1名であり,しっかり意識付けして行う事が必要である。N95マスクの交換頻度は,使い捨てが原則であるが実際にはばらつきがあった。衛生面でも統一した知識の共有が必要である。当センターでは,N95マスクを3種類採用しているが装着感のみで自己選択している現状である。しかし1種類のもので検証した結果,適合の割合は個々の顔の形や大きさにより8~9割程度のみとの報告もある。自分にフィットする製品を知っておくことも必要である。アンケートより今回定量的測定を行った事で,漏れを数値で確認でき客観的にわかりやすかった・結果が良かったので安心した・ユーザーシールチェックを行うことで,漏れる場所のポイントが分かり漏れが改善した等の反応があった。国内での結核罹患率は欧米諸国と比べると依然として高く,未だ年間2万1千人以上が新規に登録されている。また結核病床を有する病院での医療従事者の結核罹患率は,一般の発生率の3倍とされている。感染予防のためにも正しいN95マスクの装着方法について継続的な教育が大切である。【理学療法学研究としての意義】N95マスクの装着に関して定量的なフィッティングテストを行う事で,視覚的に正しい装着方法を学習できる。感染リスク軽減のために正しいマスクの装着についての教育・啓発は必要なことであると考えられる。
著者
秋葉 崇 小川 明宏 寺山 圭一郎 土谷 あかり 中川 晃一 榊原 隆次 丸岡 弘
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.695-699, 2017 (Released:2017-10-23)
参考文献数
16
被引用文献数
2

〔目的〕足関節底背屈運動が血行動態と自律神経系に与える影響を検討し,起立性低血圧の対処法としての一助とすること.〔対象と方法〕対象は健常男性8人(年齢28.8 ± 5.3歳)とした.プロトコルは,5分間の安静座位の後,1分間の足関節底背屈運動を行い,再度5分間の安静座位を保持した.その間,循環動態と自律神経の反応を評価した.〔結果〕心拍数,一回拍出量,心拍出量は,安静時の値と比較して,足関節底背屈運動中の値が有意に高値を示した.また,その効果は運動後1分まで持続した.LF/HF,HFなどの自律神経系の反応は,有意な変化が認められなかった.〔結語〕足関節底背屈運動の即時効果が認められ,その効果は1分程度持続した.足関節底背屈運動が,起立直後の血圧低下を回避する方法としての一助となる可能性が示唆された.
著者
五十嵐 祐介 平野 和宏 鈴木 壽彦 田中 真希 石川 明菜 姉崎 由佳 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100131, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は整形外科疾患において代表的な疾患であり、関節軟骨の変性や骨棘形成など様々な臨床症状を呈する。膝OAの増悪には多くの因子が関与しており、主に肥満や膝関節の安定性、膝関節屈曲及び伸展筋力、膝関節のアライメント、歩行時におけるlateral thrustなどとされている。一方、膝OAの進行予防に関する因子として、膝OA患者の歩行や階段昇降などの動作時に膝関節屈曲筋力と伸展筋力の比であるH/Q (ハムストリングス/大腿四頭筋)比を筋電図で検討した結果、各筋のバランスが膝OA進行予防に重要であるとの指摘がされている。しかし、膝OAの増悪因子と考えられるlateral thrustと膝関節屈曲筋力、伸展筋力のバランスを表すH/Q比との関連を検討した報告は見当たらない。そこで今回、当大学附属4病院にて共通で使用している人工膝関節全置換術患者に対する評価表から、術前評価のデータを使用し、後方視的にlateral thrustとH/Q比との関係を検討することとした。【方法】対象は2010年4月から2012年8月までに当大学附属4病院において膝OA患者で人工膝関節全置換術の術前評価を実施した199肢(男性:33肢、女性:166肢、平均年齢74.1±7.3歳)とした。測定下肢は手術予定側及び非手術予定側に関わらず膝OAの診断がされている下肢とした。筋力の測定はHand-Held Dynamomater (ANIMA社製μ-tas)を使用し、端座位時に膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できるよう専用の測定台を作成し、ベルトにて下肢を測定台に固定した状態で伸展と屈曲を各々2回測定した。測定値は2回測定したうち最大値を下腿長にてトルク換算し体重で除した値を使用した。また、lateral thrustの有無は各担当理学療法士が歩行観察により評価した。統計学的処理はlateral thrust有群(以下LT有群)と無群(以下LT無群)の2群に分け屈曲筋力、伸展筋力、H/Q比をそれぞれ対応のないt検定にて比較した。【倫理的配慮】本研究は、当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。【結果】LT有群95肢(男性:22肢、女性:73肢、平均年齢74.1±7.4歳、平均伸展筋力99.9±42.2Nm/kg、平均屈曲筋力30.1±15.83Nm/kg、平均H/Q比0.34±0.23)、LT無群104肢(男性:11肢、女性:93肢、平均年齢74.5±6.5歳、平均伸展筋力95.5±47.9 Nm/kg、平均屈曲筋力35.4±21.5 Nm/kg、平均H/Q比0.44±0.38)となり、屈曲筋力とH/Q比において2群間に有意差を認めた(p<.05)。【考察】LT有群は、LT無群と比較し屈曲筋力及びH/Q比にて有意に低値を示した。lateral thrustに対し筋力の要因を検討したものでは、大腿四頭筋の最大筋力値が高いほどlateral thrustが出現しにくいという報告や、一方で大腿四頭筋の最大筋力値はlateral thrustの出現に関与しないという報告もあり、筋力の観点からは統一した見解は未だ示されていない。今回の結果にて有意差は認められなかったが伸展筋力ではLT有群の平均値がLT無群よりも高値であったことや、屈曲筋力にて有意差が認められたことは先行研究と同様の傾向を示すものはなく、lateral thrustを単一の筋力のみで検討するには難しいのではないかと考える。本研究でlateral thrustとH/Q比において有意差が認められたことより、各筋力の最大値以外にも比による筋力のバランスという観点も重要であり、lateral thrustが出現している膝OA患者に対するトレーニングとして、最大筋力のみでなく主動作筋と拮抗筋のバランスを考慮したアプローチも重要であると考える。今後はlateral thrustとH/Q比の関係を更に検討するために、歩行時における各筋の活動状態やlateral thrustの程度、立脚期における膝関節内反モーメントなどの評価にて考察を深めていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、最大筋力でのH/Q比がlateral thrustの出現に関与する一因である可能性が示唆され、理学療法研究として意義のあることと考える。今後、更に考察を深めていくことでlateral thrust の制動に効果的なH/Q比の検討につなげていきたい。