- 著者
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市村 恵一
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.116, no.10, pp.1093-1099, 2013-10-20 (Released:2013-11-26)
- 参考文献数
- 24
- 被引用文献数
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漢方薬には効果が早く表れるものもあるが, 一般に漢方薬はマイルドに効くという概念があるせいか, すぐ効果が表れなくても患者は許してくれる. 診察の度に患者と一緒に薬の効き目をいろいろな面から検討することで, 良好なコミュニケーションがなされ, 良い医師患者関係を築くことができるのが何よりも好ましい. 感冒時の発熱を解熱させる方法には二通りある. 一つは直接解熱させるNSAIDsなどの解熱鎮痛薬を用いる方法で, もう一つはいったん体を温めて発汗させることにより体温を冷やす漢方薬の麻黄剤を用いる方法である. 両者の解熱効果を比較した研究では漢方薬の方が早く解熱し, 平均薬剤数, 平均処方日数, 総薬剤費ともに漢方薬使用の方が少なかったという報告がある. 感冒に対してはその時期, 体調によりさまざまな漢方薬が用いられる. めまいでは, 不安の強いときは苓桂朮甘湯, 頭痛や胃腸症状があるとき, 手足の冷えがあるときは半夏白朮天麻湯, 座っていても「くらっ」とするとき, 雲の上を歩いている感じ, 吸い込まれそうな感じがするときには真武湯を用いるとよい. 外耳道湿疹には消風散か治頭瘡一方を用い, アレルギー性鼻炎では小青竜湯をまず用いて, その効果をみて, 効果が不十分と感じたら, 炎症が強ければ麻黄や石膏の多い薬剤に変更し, 寒証らしい場合は附子剤の併用か, 麻黄附子細辛湯に変更する. 慢性副鼻腔炎では若年者, 成人では葛根湯加川芎辛夷が, 中高年では辛夷清肺湯が第一選択薬で, 虚証例では荊芥連翹湯が選択される. 頭頸部癌患者の免疫状態の悪化に対して十全大補湯, 補中益気湯, 人参養栄湯などが, 術後, 化学療法時の食思不振に対して六君子湯が, 化学療法による口内炎や下痢に対して半夏瀉心湯や温清飲が用いられる. 耳鳴は漢方でも最も効き目の悪い症状の一つであるが, 直接効果よりも間接効果狙いでアプローチする.