著者
木村 伸吾 KIM Hee-Yong
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近年、ニホンウナギ(Anguilla japonica)のシラスの採捕量は減少しており、その要因として乱獲、生息環境の破壊、海洋変動現象などがあげられている。しかし、最近20年間の採捕量の減少は、乱獲や環境破壊などに伴う長期的な減少とは大きく異なっていることから、エルニーニョに代表される短期的で突発な海洋変動現象に注目が集まっている。本研究では、ニホンウナギ資源と産卵海域における海洋変動現象の係わりに焦点を絞り、エルニーニョ発生に伴う海洋環境の変動がウナギ幼生の輸送拡散過程に与える影響を定量的に明らかにすることを目的とした。そのために、エルニーニョの発生年と非発生年に分けて構築された北太平洋の大循環数値シミュレーション結果を用いて、ニホンウナギ幼生の輸送拡散シミュレーションを行い、それに対する資源量変動の応答メカニズムについて解析を進めた。流動場として使用したデータは、過去50年間にわたって計算された1/10度グリッドの再解析流速場データである。この物理モデルにニホンウナギの産卵場である北緯15度東経140度の地点に幼生に見立てた粒子を水深100m以浅に投入し、表層までの間で日周鉛直移動する幼生の能動的な移動を加えて、幼生の輸送拡散に関する数値シミュレーションを行った。その結果、エルニーニョ非発生年には幼生と見立てた粒子のうち約40%が黒潮流域に到達するのに対して、エルニーニョ発生年にはその個体数が半減することが分かった。さらに、産卵の指標となる塩分フロントの位置に対応して産卵海域を変化させた場合には、その違いが三倍にもなることが分かった。したがって、近年のシラスウナギの来遊量の変動は、エルニーニョの発生に伴う輸送過程における流動環境の変化に大きく依存していることが明らかとなった。本研究成果は、シラスウナギの来遊量予測に寄与するものと考えられる。
著者
備前 宏紀 木村 大介 村松 歩 山本 祐輔 原地 絢斗 水野(松本) 由子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.270-278, 2023-06-15 (Released:2023-06-15)
参考文献数
32

単一脳領域と脳内ネットワークの2つの視点から,運動学習過程における脳機能変化と運動学習の遅速の違いによる脳機能変化の差異を解明し,運動学習を作業療法に応用するための基礎資料を得ることを目的に,賦活量と媒介中心性を運動学習前後で比較検討した.その結果,運動学習後に右背外側前頭前野,左前頭眼窩,左右前頭極の賦活量は減少し,左背外側前頭前野の媒介中心性は上昇した.また,運動学習の遅速による脳機能変化の差異では,右背外側前頭前野の媒介中心性の変化に違いを認めた.これらの領域をモニタリングすることは,作業療法の実践歴に加え脳機能の観点からも,対象者に合わせた作業療法介入を検討する上での基礎資料になりうる.
著者
古賀 佳代子 木村 裕美 西尾 美登里 久木原 博子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.634, 2020 (Released:2020-03-06)
参考文献数
24
被引用文献数
3

地域包括支援センター(以下,地域包括)は,業務量の過大や職員不足,離職問題等が報告されており,保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員それぞれの専門性が発揮できていない。保健師も保健師間相互の連携の希薄さ等を実感し今後の保健活動への懸念を感じている。本研究では,地域包括保健師の研修教育体制を確立するための基礎資料の示唆を得るために,専門性を明らかにすることを目的とした。A県内の地域包括に所属している経験年数3年以上の保健師8名を対象とし,テキストマイニングKH Coderで分析した。その結果,「相談を受け,関係性を大事にし,判断する能力」,「認知症高齢者や精神疾患,医療的知識,在宅生活を知ることが必要」,「介護予防事業の支援」,「保健師が訪問やサロンに行って皆と一緒に活動」,「地域で包括的に保健指導等の活動が求められる仕事」の5クラスターが抽出された。専門性を発揮するためには,保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員の3職種それぞれの専門性を活かしてチームアプローチを包括的に支援することが望ましい。また,教育体制として,ビジョンを立てることや相談できる人・スーパーバイズの必要性,キャリアパスの「見える化」を整備することで,地域包括の機能がさらに発揮できると示唆を得ることができた。
著者
木村 周平 松村 幸輝
出版者
The Society of Instrument and Control Engineers
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.659-667, 2006-06-30 (Released:2009-03-27)
参考文献数
24
被引用文献数
1

The random number generator is one of the important components of evolutionary algorithms. Therefore, when we try to solve function optimization problems using the evolutionary algorithms, we must carefully choose a good pseudo-random number generator. In the evolutionary algorithms, the pseudo-random number generator is often used for creating uniformly distributed individuals. In this study, as the low-discrepancy sequences allow us to create individuals more uniformly than the random number sequences, we apply the low-discrepancy sequence generator, instead of the pseudo-random number generator, to the evolutionary algorithms. Since it was difficult for some evolutionary algorithms, such as binary-coded genetic algorithms, to utilize the uniformity of the sequences, the low-discrepancy sequence generator was applied to real-coded genetic algorithms. The numerical experiments show that the low-discrepancy sequence generator improves the search performances of the real-coded genetic algorithms.
著者
富田 知子 神山 資将 及川 麻衣子 木村 康一 永松 俊哉
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.11-18, 2022 (Released:2023-03-31)

美意識とは、「美」に対する感覚や判断力を意味するが、その概念は地域や風土、あるいは文化や歴史などによって、様相に違いがあると言われている。1)これまで富田らは日本での美容に関する「美意識」のあり方について調査を行い、年齢や立場によってその捉え方が違うことを示してきた。まず日常生活の中で自身の思う美意識と実生活の一致について、学生と高齢者を比較した場合、高齢者の「自身が思う美意識」と「実生活」との一致が強く示唆された。2)次に理美容師の「美意識」についての検討では、年代によってとらえ方に違いがみられた。このことから、教育や経験によって「美意識」を獲得していくことが推測できる。今回、山野美容芸術短期大学の美容教育の核となる授業「美道論」に注目し、その受講前後での「美意識」の捉え方を比較検討した。
著者
木村 優輝 木宮 隆 吉田 周平 伊藤 瑞姫 保科 由智恵 西川 正純
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00005, (Released:2023-06-14)

食用ウニ類は外観から生殖巣重量や生殖巣指数を予測することが困難である.本研究では,青果物の内部品質の非破壊評価に広く用いられている透過方式の近赤外分光装置を用いて,キタムラサキウニ(Strongylocentrotus nudus)の生殖巣重量および生殖巣指数の評価手法の開発を試みた.試料は,2021年および2022年に宮城県石巻市または女川町で水揚げされたキタムラサキウニ216個体を用いた.得られた近赤外吸収スペクトルを主成分分析で解析したところ,2次微分処理を行ったスペクトルの第1主成分の寄与率は90 %であり,そのローディングベクトルでは,主に脂質の吸収帯である930 nm付近に負のピークが観察された.また,Partial Least Squares回帰分析を行った結果,2次微分スペクトルを用いた生殖巣重量の検量モデルの評価結果は,因子数4,相関係数0.78,標準誤差4.4 gであった.同様に生殖巣指数では,因子数4,相関係数0.76,標準誤差4.6 g/100 gであった.これらの結果から,生殖巣重量および生殖巣指数を非破壊・非接触的に評価できることが示唆され,これは生殖巣の脂質が検知されることによるものと考えられた.本手法を用いた非破壊評価システムの構築により,天然については身入りの良好な個体を出荷し,身入りの悪い個体は海に放流あるいは養殖に向ける等,新たな判断基準として活用することができる.
著者
濱口 満英 植嶋 利文 丸山 克之 松島 知秀 木村 貴明 中尾 隆美 石部 琢也 豊田 甲子男 村尾 佳則
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.59-65, 2018-07-17 (Released:2018-07-20)
参考文献数
51

外傷患者に対しては受傷後から出血を意識し, いかに活動性出血を制御するかが重要である. そのためには, 大量出血を早期に予測することが必要である. 大量出血の予測には, 血圧や脈拍, shock index, trauma associated severe hemorrhage (TASH) score, assessment of blood consumption (ABC) score, Traumatic Bleeding Severity Score (TBSS), 血清乳酸値, fibrin/fibrinogen degradation products (FDP), フィブリノゲン値, Focused Assessment with Sonography for Trauma (FAST), CTがある. また, 凝固能の判断にはthromboelastography (TEG®) やthromboelastometry (ROTEM® delta) による止血モニタリングが有用である. 病院前輸液に関しては, 受傷後から病院搬送まで30分未満であれば搬送が優先されるが, 傷病者の病態によっては有用な可能性もあり総合的な判断を求められる. 大量出血判断時はpermissive hypotension, トラネキサム酸, 大量輸血療法, フィブリノゲンの投与を考慮し外科的加療なども含めた総合的なマネージメントが必要となる.
著者
田原 海 栗原 直人 松田 英士 佐々木 康裕 木村 裕子 大野 昌利 筒井 りな 松浦 芳文 飯田 修平
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 関東支部
雑誌
Progress of Digestive Endoscopy (ISSN:13489844)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.138-139, 2017-06-09 (Released:2017-07-19)
参考文献数
4

An 81-year-old man who had been diagnosed as having situs inversus totalis and had suffered from repeated episodes of sigmoid volvulus was admitted with a history of right upper quadrant abdominal pain. Physical examination showed no evidence of peritoneal irritation. A plain radiograph of the abdomen showed a markedly dilated sigmoid colon with an inverted U-shaped appearance. Abdominal CT showed situs inversus totalis, no free air, no ascites, and a whorled appearance of the sigmoid mesentery, with dilated bowel loops. Based on these findings, the patient was diagnosed as having recurrence of sigmoid volvulus. Colonoscopy performed for repositioning showed converging mucosa signifying the distal point of the torsional obstruction, and a dilated section of the bowel with gas and feces proximal to the obstruction in the sigmoid colon. After endoscopic decompression, colonoscopy showed no evidence of mucosal ischemia. We treated this case successfully as we would have a case of sigmoid volvulus without situs inversus.
著者
齋藤 直哉 木村 信啓 濱松 辰雄
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
石油学会 年会・秋季大会講演要旨集 創立50周年記念国際シンポジウム/第38回石油・石油化学討論会
巻号頁・発行日
pp.9, 2008 (Released:2009-01-05)

当社ではC4留分を二量化してイソオクテンを製造するプロセスを開発し、商業生産を開始している。本プロセスで用いる触媒は、自社開発の新規リン酸触媒であり、高い二量体選択性を持つ。得られたイソオクテンのリサーチ法オクタン価は115ときわめて高く、ガソリン基材として利用できるほか、ジイソブチレンを高濃度に含むため、化学品の原料としても有用である。
著者
家城 隆次 工藤 翔二 岡村 樹 平山 雅清 植竹 健司 木村 仁 加勢田 静 池田 高明 深山 正久 小池 盛雄
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-6, 1991-02-20 (Released:2011-08-10)
参考文献数
10

過去13年間の肺癌における組織型の比率の変遷について検討を行った. 対象は1976年~1988年の13年間に当院で病理組織学的に診断の確定した肺癌患者, 955名 (男711名, 女224名) で, 腺癌患者が45%, 扁平上皮癌患者が33%であった. 肺癌患者は増加しており, その組織型においては, 扁平上皮癌比率の減少と腺癌比率の増加がみられ, その傾向は特に1981年以降, 扁平上皮癌と腺癌の比率逆転という事態になった. この変遷は, 性別や年齢構成の変化によるものではなかった. 1983年までの日本TNM肺癌委貝会の患者登録からみても全国的に腺癌の比率が増加していることが推察される. 従来, 扁平上皮癌が腺癌より多いと言われていたが, 近年では, 腺癌の方が多くなっている可能性が示唆された.
著者
木村 智人 鈴木 崇宣 小泉 裕 横川 忠晴 原田 広史 今井 八郎
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.1041-1045, 2007 (Released:2007-11-02)
参考文献数
4
被引用文献数
8 9

A post service examination of a turbine blade from a civil aeroengine has been carried out to ascertain the degree of microstructural coarsening and the distribution of crack damage induced during service. This was with the purpose to elucidate their correlation with the actual operating conditions. Samples were sectioned from different parts of the turbine blade for detailed examination by optical microscope and scanning electron microscope. The average length of cracks was used as one of the parameters to quantitatively illustrate the distribution of cracks on the turbine blade. Experimental results suggested that cracks were mainly concentrated on certain area of the pressure side. Leading edge of the suction side of the turbine blade consisted of mostly coarsened microstructure due to higher temperature exposure. In conclusions, there was no clear correlation between the crack damage distribution and the degree of microstructure evolution.
著者
中村 厚彦 尾上 英俊 木村 一雄 岩本 良太 村岡 邦秀 今村 尚裕 三宅 智
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.744-746, 2011-09-25 (Released:2011-12-09)
参考文献数
5

足関節外果骨折に対してtension band wiring(以下TBW)を用いて骨接合を行った症例について検討した.2002年から2010年までに手術を行った10例で,男性8例女性2例,平均年齢41歳(15~65歳)であった.骨折型はLauge-Hansen分類に従いSA stage 1:7例(靱帯付着部の裂離骨折2例を含む),stage 2:1例,SER stage 2:1例,stage 3:1例であった.手術はanchor screwを用いたTBWを施行し,術後は外固定を併用した.全例で整復位での骨癒合を得た.K-wireのback outを2例と尖端の回旋転位を1例に認めた.足関節外果骨折はよく遭遇する外傷であり一般的にplate固定が行われるが,遠位骨片が小さい場合はTBWによる内固定の適応となる.anchor screwを併用したTBWは手技が簡便であり有用であると考えられた.
著者
木村 哲也 石川 鎮清 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.235-243, 2022-08-05 (Released:2022-08-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【目的】近年,時代に即した医療課題の解決のため,適切な社会医学の人材育成がなされているかを,明らかにすることを目的とした。【方法】量的調査と質的調査を行った。量的調査では,近年20年間の社会医学分野の講座名称及び教員数の変化について名簿調査を行った。質的調査では,社会医学分野の研究者・教員9名及び高等教育行政,厚生行政,医学会関係者各1名ずつの計12名に対してインタビュー調査を行った。インタビュー調査は半構造化面接の方法で行い,質的に分析した。【結果】名簿調査では,20年間のうちに,医学教育において社会医学分野の教員数に変化はないが,基礎医学・臨床医学分野を合わせた教員の全体数が増加しているため,社会医学分野の教員の割合は3.0%(521人/17,224人)から2.1%(508人/24,121人)に減少していた。インタビューでは,公衆衛生大学院の創設や社会医学専門医制度などの開始,地方自治体や国際保健において社会医学人材の活躍が期待される一方で,魅力ある教育プログラムやキャリアパスのイメージが示されていないこと,実践現場と研究・教育の乖離などの課題が明らかとなった。【結論】量的・質的分析を合わせた結果,1)新たな課題に取り組む人材育成のため教育・専門医制度などの質の保証の充実,2)社会医学の可能性を伝え参入する若手を増やすための方策強化,3)現場と研究,教育の乖離が見られるためビッグデータやグローバルヘルスを使った現場と教育と研究の統合,の3つの課題を抽出することができた。
著者
松方 冬子 蓮田 隆志 橋本 雄 岡本 真 彭 浩 高野 香子 川口 洋史 木村 可奈子 清水 有子 原田 亜希子 北川 香子 西澤 美穂子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

主たる成果として、松方冬子編『国書がむすぶ外交』(東京大学出版会、2019年)を刊行し、前近代のユーラシアの全域にみられた「国書外交」とその周辺にあった通航証について明らかにした。おもな論点は、今までtributary system(華夷秩序・朝貢体制・東アジア国際秩序などと訳される)と呼ばれてきたものは、その実態からみるならば国書外交と呼べるものであること、国と国をつなぐ仲介者(商人や宗教者、国書の運び手となることが多い)の役割が重要であること、である。台湾の中央研究院で日明勘合底簿の手掛かりとなる史料を発見するなど、多くの実証的な新知見を明らかにした。