著者
宮前 良平 置塩 ひかる 王 文潔 佐々木 美和 大門 大朗 稲場 圭信 渥美 公秀
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.73-90, 2022 (Released:2022-04-01)

エスノグラフィは長らく単独の調査者によって書かれてきた。本稿では,それに対して,地震の救急救援期にお けるチームエスノグラフィの事例をもとに,チームとしてエスノグラフィを行うことの方法論的可能性を論じる。 まず,チームエスノグラフィには,超克しなくてならない問題として羅生門問題と共同研究問題があることを確 認する。次に,既存のチームエスノグラフィにおけるチームには3 つの形態があることを整理し,本稿ではその 中でも同じタイミングで同じ対象を観察する,あるいは同じタイミングで異なる対象を観察した事例を扱うこと を述べる。具体的には,熊本地震の際にあらかじめチームを結成してから現地で活動を展開していった過程をエ スノグラフィとして記述していく。最後に,これらの事例をもとに,チームエスノグラフィには①新たな「語り」 を聞きに行く原動力となること②現場で自明となっている前提に気づくことで新たな問いを立てること③「調査 者-対象者」という非対称性を切り崩す可能性があること④現場に新たな規範を持ち込むことで現場の変革をも たらすことの4 点について議論した。
著者
酒井 明子 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.74-88, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

本研究は,災害という大きな困難に直面した被災者が新たな安定状態を回復する過程に着目した質的研究である。災害時の心理的ストレスは,単線的な心理的回復過程が暗黙のうちに前提とされている。しかし,今日の大規模な災害による被害の甚大さや避難所・応急仮設住宅の設置期間の長期化等は,大切な家族や住み慣れた家を失い生きる意欲を失った人々や自力で生活展望を考えることが困難な高齢者の孤立死や自殺,閉じこもり問題を加速化させており,心理的回復過程も長期化し複雑さを増していると考える。そこで,本研究では,東日本大震災後7年間の心理的回復過程を被災者の語りから分析した。その結果,被災者の心理的変化の特徴は6つのパターンに分類された。また,心理的回復過程には,潜在的な要因及びストレスを慢性化させる要因が影響していた。そして,個々の被災者の心理的変化ラインの時間軸を重ね合わせた結果,1年目,4年目,7年目の回復過程には調査回によって異なる特徴が見出せた。これらの結果を踏まえ,慢性化する可能性のあるストレスを抱えた被災者の長期的な心理的変化と影響要因について論じた。
著者
渥美 公秀 杉万 俊夫 森 永壽 八ツ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.218-231, 1995-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

本研究は, 1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神大震災の被災地・被災者を救援するために組織された2つのボランティア組織-西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議-について参与観察法を用いて検討したものである。まず, 各組織の成立過程, および, 活動内容の概略を紹介した。次に, ボランティアに関する一般的な考察を行った上で, 両組織を災害救援における広域トライアングルモデルを用いて比較考察した。両組織には, 地元行政との関係, および, 将来への展望において明確な違いが見られた。
著者
多賀 陽子 余谷 暢之 山口 悦子 池宮 美佐子 倭 和美 山野 恒一 平井 祐範 渥美 公秀
出版者
特定非営利活動法人日本小児血液・がん学会
雑誌
小児がん : 小児悪性腫瘍研究会記録 (ISSN:03894525)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.42-48, 2005-05-25
被引用文献数
2

大阪市立大学医学部附属病院小児病棟では,1998年以降,医学部学生ボランティアが,入院中の子どもの遊びや学習の相手として,「医学部学生ベッドサイドボランティア活動」という活動を行っている.この活動でボランティアは,子ども達の入院中の生活で「当たり前のように"そこ"にいる近所のお兄ちゃん,お姉ちゃん」として,子ども達と長期的・継続的に関わり信頼関係を築いている.本報告では,男女2名の学生ボランティアが,血液疾患・悪性腫瘍の思春期男子・女子との関わりをエスノグラフィーに記し,また退院した子どもと保護者に対して半構造化面接を行い,その結果を報告した.さらにエスノグラフィーと面接の結果から,思春期の子どもにとっての,学生ボランティア活動の役割・意義について考察した.
著者
宮本 匠 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.35-44, 2012
被引用文献数
1

研究者と研究対象の間に一線を画して,対象を客観的に記述しようとする自然科学に対して,人間科学は研究者と当事者による恊働的実践として進められるが故に,アクションリサーチとしての性格を宿している。本稿は,人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる独特な視点とその役割を,新潟県中越地震の被災地で継続しているアクションリサーチの事例から理論的に明らかにしたものである。その際,大澤(2005)による,柳田國男の遠野物語拾遺の説話についての解釈を援用し,われわれの経験の社会的構成が「言語の水準」と「身体の水準」による複層的な構成をとっていること,それが当事者の「個人の内的な世界」と当事者の内属する「共同体の社会構造」の両者に存在していることを述べたうえで,当事者の「身体の水準」に留まっている他者性を回復させることでベターメントを図ることが人間科学のアクションリサーチにおける研究者の役割であり,その二重の複層的な構成をみる「巫女の視点」が人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる視点であることを論じた。最後に,アクションリサーチにおける研究者は,その実践過程を言語によって回顧的に報告し,次の実践やさらなる共同体のベターメントへつなげていくところまでを射程としていることを指摘した。<br>
著者
片田 敏孝 及川 康 金井 昌信 結城 恵 渥美 公秀 淺田 純作 結城 恵 渥美 公秀 淺田 純作
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、「災害に強い地域社会の形成技術の開発」を最上位の目標に掲げ、地域社会が自然災害からの被害軽減に対して効率的に機能するよう形成されるための技術の一般化を図ることをもって我が国の防災科学に資することを目的としている。具体的には、災害文化を地域に再生させるためのコミュニケーション手法やコミュニティが希薄な地域におけるコミュニケーション手法などの開発や実践から得られた知見を一般化し、その体系化を図った。
著者
鈴木 勇 菅 磨志保 渥美 公秀
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.166-186, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
73
被引用文献数
8 7

本研究は, 阪神・淡路大震災を契機とする日本の災害ボランティアの動向を歴史的経緯を踏まえて整理し, 現在展開しつつある災害NPOの全国的なネットワーク化の意義と課題を以下の3点から検討したものである。第一に, 日本における民間の災害救援活動の歴史を阪神・淡路大震災以前, 震災直後, そして, 震災以降の3つに分けて整理した。その結果, 阪神・淡路大震災を契機として, 災害に関わるボランティアが「防災ボランティア」から「災害ボランティア」へと変容し, 災害ボランティアのネットワーク化が求められてきたことが明らかになった。第二に, 災害ボランティア・NPOのネットワーク化の現状について, 事例調査を基に報告した。災害NPOは, 地元地域における従来の活動を維持しつつ, 効果的な救援活動を行うために全国ネットワークに参加していることが明らかになった。最後に, 災害NPOのネットワークがもつ今後の課題を整理し, 日本における災害救援の今後のあり方を考察した。
著者
渥美 公秀
雑誌
情報処理学会研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.33(1994-GN-006), pp.37-42, 1994-04-28

集団で意思決定を行う場合には必ずしも「三人寄れば文殊の知恵」にはならない。Janis (72,19)がアメリカの政策決定過程に着目しこの現象を集団的浅慮(oupthi)と名付けて以来、社会心理学の分野では様々な研究が行なわれてきた。本稿では集団的浅慮現象とその後の研究を紹介するとともに、従来の研究に含まれていた「情報処理パラダイムの陥穽」を指摘する。最後に、今後の集団研究の方向性として「意味構築パラダイム」への移行を展望する。
著者
宮前 良平 渥美 公秀 Miyamae Ryohei Atsumi Tomohide ミヤマエ リョウヘイ アツミ トモヒデ
出版者
「災害と共生」研究会
雑誌
災害と共生 (ISSN:24332739)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-11, 2018-04

一般論文本研究は、復興における死者との共生について、その現状と倫理的な問題を指摘したうえで、その問題を乗り越える方策を考察したものである。まず、これまでの復興研究を概観し、復興におけるアプローチが創造的復興論的アプローチから共生社会的アプローチへと大まかに移行しつつあることを指摘し、共生社会論的アプローチが対処しなければならない課題として犠牲のシステムを挙げた。次に、犠牲のシステムが顕在化した問題として、震災後の死者との臨在を取り上げ、死者の声を生者が代弁せざるを得ない非倫理性を指摘した。その非倫理性を乗り越えるヒントを例示するために、筆者のフィールドノートや、東日本大震災後の東北で注目され始めた幽霊譚を紹介した。最後に、死者の臨在は、その死者を記憶しておかなければならないという責任の感覚によってもたらされており、死者を死者として語るのではなく、死者を生者として語ることについての倫理的可能性を示唆した。The present study discusses a kyosei (living together in harmony) with the dead in a post-disaster society. While most definitions of kyosei say nothing about harmonious living with the dead, we embrace this contradiction for the purposes of our analysis. We define recovery as a process of building a kyosei society following a disaster that includes harmonious living between survivors and reconciliation with the loss of loved ones. However, when we discuss kyosei, we must also examine social, economic and ethical sacrifices made in the process of recovery that work against kyosei. These sacrifices create a structure that produces a gap between exploiters and the exploited, that is, those who benefit at the expense of others in disaster recovery. The structure is called the system of sacrifice (Takahashi, 2012). Disaster capitalism, for example, allows a few people (e.g., entrepreneurs, politicians) to economically benefit from survivors. Furthermore, the system of sacrifice leads to an ethical maxim; we must not talk about the dead because the dead can never reply – it literally means just a monologue by survivors. This inability to talk about or with the dead is one of the obstacles to creating a post-disaster kyosei society. However, we often hear stories of the dead from survivors of the Great East Japan Earthquake and Tsunami of 2011. We believe that the story of ghosts and dialogue with the dead is a key to building a kyosei society. We describe the days in Banda Aceh, where there were many victims of the 2004 Indian Ocean tsunami, as an ethnography and introduce the story of a ghost in the city of Ishinomaki following the 2011 tsunami in Japan. Finally, we conclude with a discussion of why survivors tend to tell ghost stories with a sense of responsibility for disaster deaths from a memory theory perspective.
著者
加藤 謙介 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.155-173, 2004
被引用文献数
5 3

本研究では,高齢者に対するロボット介在活動(Robot Assisted Activity: RAA)の事例を取り上げ,RAAを,ロボットをめぐる物語の共同的承認の過程であるとして検討した。筆者らは,有料老人ホームに入所する高齢者を対象とした,ペット型ロボットを用いたRAAを実施し,参与観察するとともに,RAA実施中における参加者群の相互作用を,定量的・定性的に分析した。定性的分析の結果,RAA時には,対象となった高齢者のみではなく,施設職員やRAAの進行係等,RAAの参加者全員が,ペット型ロボットの挙動に対して独自の解釈を行い,それを共同的に承認しあう様子が見出された。また,定量的分析の結果,RAA実施中における参加者群の「集合的行動」のうち,最も頻度が多かったのが,「ロボットの動きを参加者群が注視しながら,発話を行う」というパターンであることが明らかになった。筆者らは,RAAを,参加者によるロボットの挙動に対する心の読み取り,及びその解釈の共同的承認を通して物語が生成され,既存の集合性とは異なる集合性,<異質性>が生成される過程であると考察した。<br>
著者
渥美 公秀
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.350-356, 2006-02-28
参考文献数
12
著者
高野 尚子 渥美 公秀
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.97-119, 2008-02-29

本研究は、阪神・淡路大震災記念「人と防災未来センター」をフィールドに、公的な施設での語り部による阪神・淡路大震災の伝承について考察したものである。まず語り部の語りの内容を分類した所、A.自分や自分の周囲の人の被災体験話、B.自分の救援体験話、C.地震のメカニズム、地震予知、地形についての話の3種類に大別できた。また、聞き手に来館前後の「震災と聞いて思いつく言葉」のアンケート調査を行った所、来館前は「家」、「死者」、「大地震」などの、震災の破壊的な側面を表す語句が頻出語句として挙がったが、来館後には「人」、「ボランティア」など命ある人が多く挙げられた。さらに一番多い語りであるAタイプに焦点を当て、A1.防災に関する異体的な知恵を主張する話、A2.命の大切さ、助け合いの大切さを主張する話という二種類に細分類し、各々の語りに対する聞き手の感想を検討した。A1に対しては異体的な防災の知恵をなぞって覚えようとする様子が見られ、A2に対しては語り部の話を受け止める際にとまどいや懐疑が見られた。最後に、ワーチ(2002)の「習得」と「専有」という概念を援用し、現場を理論的に検討すると共に実践的な提言を試みた。
著者
海野 徳仁 平田 直 小菅 正裕 松島 健 飯尾 能久 鷺谷 威 笠原 稔 丸井 英明 田中 淳 岡田 知己 浅野 陽一 今泉 俊文 三浦 哲 源栄 正人 纐纈 一起 福岡 浩 渥美 公秀 大矢根 淳 吉井 博明
出版者
東北大学
巻号頁・発行日
2008

臨時余震観測から本震時には西傾斜の震源断層が主に活動したが、それと直交する東傾斜の余震活動もみられた。震源域直下の深さ30~40kmには低速度域が広く存在しており、そこから3本の低速度域が地表の活火山にまで続いていた。GPS観測データから本震時すべりは岩手・宮城県境付近で最も大きかった。本震後の顕著な余効すべりは震源断層の浅部延長で発生し、地震時すべりと余効すべりは相補的である。強震動データでは0.1~0.3秒の短周期成分が卓越していため震度6弱の割には建物被害が少なかった。