著者
山田 亮 和氣 加容子
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

HMGB1は細胞死により核内から細胞外へ放出される内因性危険シグナルである。HMGB1は免疫抑制的に作用することが示唆されている一方で、TLR2やTLR4、RAGE等を介した自然免疫の惹起とそれに続く特異免疫応答の誘導に重要であるとも考えられており、「HMGB1が抗腫瘍免疫において善玉なのか?あるいは悪玉なのか?」は明確ではない。本研究では、①HMGB1の腫瘍細胞に対する作用、②HMGB1の宿主免疫系への作用、③HMGB1の治療への応用、の3点について腫瘍免疫学の立場から明らかにし、腫瘍由来HMGB1の制御のがん免疫療法への応用展開と次世代複合免疫療法の確立を目指す。
著者
和辻 直 篠原 昭二 斉藤 宗則
出版者
明治国際医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

鍼灸師教育のコア・カリキュラムを作成する事前資料として、伝統医学における鍼灸教育の必要項目を整理し、教育項目における学修目標の度合いを検討した。対象は鍼灸師養成施設の教員と伝統鍼灸を実践する鍼灸師とした。東洋医学概論の科目に対して教育項目の重要度を調査した。この結果を参考に東洋医学概論の教育項目82項目を必須知識、上位知識、選択知識に区分した。その区分を対象に評価してもらった。その結果、必須知識の項目の約9割が賛同となり、度合いの設定が妥当と考えた。また上位知識や選択知識の一部では評価が分かれており、調整が必要であることが判った。以上より、結果はコア・カリキュラムの事前資料となることが判った。
著者
竹中 彰治 吉羽 邦彦 大島 勇人 興地 隆史
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

口腔バイオフィルムは他の生体バイオフィルムと違い、生体の切除を伴わず機械的に除去できるため、ブラッシングを主体とした機械的コントロールを原則としている。洗口液に代表される化学的コントロールは、清掃器具が届かない部位のバイオフィルムを殺菌するために有効な手段であるが、バイオフィルムは厚みの増加とともに、殺菌成分が浸透しにくくなっており短時間で有効な効果が得られにくい。本研究は、口腔健康維持のための簡便かつ効果的な新しいバイオフィルムコントロール法を開発するためにバイオフィルムの特性に注目した多方面アプローチを試みた。その結果、化学的コントロールが具備すべきいくつかの要件を見い出した。
著者
竹中 彰治 大島 勇人 寺尾 豊 小田 真隆
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、これまでの細菌を標的とした殺菌効果に頼ったバイオフィルム(BF)制御から、マトリックスを標的とした抗菌成分に頼らない新しい制御法への戦略の転換の必要性を提言するとともに、BFの剥離・分散効果に主眼を置いた新しいBF制御法を開発することであった。口腔内環境を再現した細菌培養システムと共焦点レーザー顕微鏡を用いた蛍光イメージング法により、殺菌効果に頼ったBF制御の弊害を明らかにした。そして、新しいコンセプトに基づくバイオフィルム制御剤の開発を進めた結果、細菌増殖に影響を与えることなく、BFの分散・剥離効果ならびに付着抑制効果を有する機能性糖脂質を見出した。
著者
山口 龍二 広田 喜一
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

デオキシグルコース(2DG)とABT-263(ABT)という二つの薬を体内に投与するとグルコース代謝が進んでいる細胞でストレスがかかり、さらにABTを投与すると相乗的相互作用が働き細胞死に誘導されます。体内でグルコースの代謝が進んでいるのは過剰な運動をしたときの筋肉細胞、脳細胞、そしてがん細胞ですが、ABTは脳・血管関門を通れないため通常細胞死に誘導されるのはがん細胞だけです。しかしこの治療の効率は腎癌で低いのでその理由を解明すると、腎癌ではAKTが異常に活性化し、細胞死を抑制していました。AKTをbeta-cyclodextrinで抑制すると2DG-ABTの効率が上がりました。
著者
山本 武 林 周作
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

食物アレルギーの患者数は急増しているが、未だ有効な治療方法がない疾患である。申請者は、病態モデルマウスを用いた検討により、漢方薬の葛根湯が食物アレルギーの発症を抑制することを明らかにしている。近年、腸管粘膜免疫系が食物アレルギーの発症に関与することが明らかになってきた。そこで本研究では、葛根湯による腸管粘膜免疫系に対する効果の検討を行い、葛根湯が腸管に制御性T細胞を誘導し、腸管粘膜免疫系を制御することにより治療効果を示すことを明らかにした。
著者
植田 郁子 玉井 克人
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

ブレオマイシンで誘発した強皮症モデルマウスによる骨髄由来間葉系幹細胞血中動員医薬の効果について検証する。本研究では(1)ブレオマイシン誘発強皮症モデルにおける骨髄由来間葉系幹細胞の定量(2)ブレオマイシン誘発強皮症モデルマウスにおける皮膚および肺組織の骨髄由来間葉系幹細胞、(3)骨髄由来間葉系幹細胞血中動員医薬投与によるブレオマイシン誘発強皮症マウスモデル皮膚及び肺への骨髄由来間葉系幹細胞集積誘導を介した炎症抑制効果、血管新生効果、線維化抑制効果の検討を実施する。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、私自身がこれまでに現地調査によって収集し蓄積してきた中部コイサン語族のグイ語の語彙資料を、アンソニー・トレールが記述した南部コイサン語族のコン語の語彙資料と詳細に比較することによって、両言語の接触史に関する新たな知見をもたらすことに取り組んだ。この取り組みの主要な成果の一部はすでに「1.研究発表」の欄に記載のTraill & Nakagawa(2000)に発表してある。グイ・コン間の語彙比較研究をすすめる過程で、両言語のあいだに共有される音韻論的特徴や語彙要素、また特殊な語彙意味が多数浮かび上がってきた。その結果、これらの情報を豊富に含む、従来はまったくなしとげられなかった精密で詳細な語彙対応データベースができあがった。また、その語彙対応データベースを対象とした分析は、このコイサン地域に特有とみられる(コイサン諸語動詞の接触に起因する)音変化や意味変化を特定するために重要な資料を組織的にとらえることを可能にした。グイ語の方言調査の結果を分析し、カデ方言・クーテ方言・ホウ方言という3変種を同定しそれらの方言区画を発見した。そして、コン語との共通特徴や共通要素をもつのはどの変種であるかについて考察した。コイサン諸語内部における言語接触史の解明を今後さらに拡大発展させるために、私が編纂しつつあるグイ語語彙データベースを、ひろく海外の他のコイサン言語学者に容易に利用してもらうことを目標として、意味記述や博物誌的情報の英訳を本研究の下位プロジェクトとして開始した。現時点で、全体の約10%の初版英語翻訳ができあがった。
著者
藤村 正之 二方 龍紀 石田 健太郎 玉置 佑介 フングン ユウ
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

時間配分は、生活の質の向上とも関連して、日常生活のみならずライフスタイルや社会心理と相互に規定しあう重要な社会学的な事象である。本研究では、(1)基礎的な文献研究、(2)家計・消費行動に関する2次データの分析、(3)生活時間と生活の質の関連に関する調査票調査の実施・分析を行った。実証研究から、24時間の基本配分としての仕事と家事、それに影響する性別・家族構成・就業状態、その残余として諸行動が派生するという構造が確認された。
著者
柏木 正之 原 健二 ウォーターズ ブライアン 久保 真一
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究期間内において、ヘッドスペース固相マイクロ抽出(HS-SPME)法、ガスクロマトグラフ・タンデム型質量分析装置(GC-MS/MS)を用いて、インスリン製剤の添加物であるm-クレゾールの検出が可能であることが確認され、応用することにより、その定量も可能であると考えられた。また、インスリンアナログの検出法について、液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析装置(LC-MS/MS)を用いて検討を行い、その定量の可能性が示唆された。
著者
池上 知子
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、不本意な学歴アイデンティティが他者に対して抱く偏見や差別感情の形成にどのように影響するかを、社会的アイデンティティ理論に依拠しながら検討した。具体的には「所属大学に自己同一視できず不本意な社会的アイデンティティに甘んじている学生ほど、自大学からの離脱を願うがゆえに自大学を卑下し、かつ他の上位の大学の学生に強い羨望を抱くが、同時に不本意な自己の現状を合理化するために、下位の大学の学生を蔑視する」という研究仮説を立て実験的手法を用いてこれを検証した。併せて、研究対象を日本の大学生にすることにより学歴に対する日本の青年の意識構造を明らかにし、日本の学歴社会の抱える問題点を探った。本研究の成果は以下の4点に集約される。1.中庸レベルにある国立大学の学生を対象に他大学の学生に対するステレオタイプ・イメージを表出させたところ、多くの学生が内集団卑下の傾向を示した。この傾向は自身の学歴アイデンティティが顕現化すると緩和されたが、その一方で他の下位の大学の学生を蔑視する度合は強まった。2.大学同一視の低い学生は自大学の劣位が明らかになるような状況下でとりわけ防衛的になり、上位の大学の学生の評価を引き上げ、下位の大学の学生の評価を引き下げる傾向を示した。3.所属大学への同一視の高い学生は、自大学、他大学いずれの学生にも概して好意的な評価をすること、とりわけ、上位の大学の学生のとったポジティブな行動に対して好意的反応を示した。4.1から3で述べた現象には学歴社会の合理性や持続性にかかわる各学生の信念が少なからず関係していることが明らかとなり、不合理だと感じる社会構造の中で不本意な社会的アイデンティティに甘んじなければならない状況が他者に対する偏見や差別感情につながることが示された。
著者
御厨 貴 牧原 出 手塚 洋輔 佐藤 信 飯尾 潤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

政治主導が高まる中で,多様な政策分野で活用されつつある有識者会議に注目し,その現代的変容を解析した。その成果として,(1)災害復興や皇室政策といった個別領域における有識者会議の作動について研究した。(2)聞き取りの方法論に関しても,近年の動向を踏まえて,整理と提起を行った。(3)現代的な変容の一つとして,同種のテーマで繰り返し有識者会議が設置され,しかも同一の委員が長期にわたって参画するという新しい傾向を指摘できる。
著者
大槻 耕三 中村 考志 佐藤 健司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

麹納豆は多くの酵素類を含むのでその酵素反応を昔から食品加工に利用してきた。東北地方の塩納豆、静岡県の浜納豆、京都の大徳寺納豆などがその例である。本研究では麹納豆の酵素活性(フィターゼ、プロテアーゼ)を検討し、非発酵大豆食品の問題であるフィチン酸Ca、Mg、Zn、Fe塩(栄養的に不給体のミネラル)の分解加工をめざしている。塩納豆(#1、酒田市)、浜納豆(#2、浜松市)、大徳寺納豆(#3、京都市)及び比較対照として糸引き納豆(#4)、その他の非発酵大豆食品を試料とし化学分析、酵素活性測定を行なった。塩納豆は糸引き納豆に米麹と食塩を加えたもので熟成期間は約3カ月で、糸引き納豆と麹の形態が残存している。浜納豆と大徳寺納豆はほぼ同じ製法で蒸煮大豆に麦こがしと麹を加え1週間発酵させた後16%食塩水に浸漬し約一年間熟成する。これらの試料のフィチン酸分析したところ、#1,#2,#3,#4の順に0.04,0.03,0.19,1.86%であった。この結果から麹納豆は糸ひき納豆に比ベフィチン酸が1/10以下に減少している。また遊離カルシウムと総カルシウム比は#1、#2、#4、#3の順に23、19、16、11%であった。旨味に関与する遊離アミノ酸率を測定すると#1,#2,#3の麹納豆と#4の糸ひき納豆ともに18〜24%で非発酵大豆食品「きなこ]の0.9%に比較して高くプロテアーゼ作用の強いことが示された。塩納豆の有用性が確認できたので、実験室的に塩納豆を試作したところ、熟成2週間でフィチン酸が50%減少し、4週間後では約90%が分解されていることが明かとなった。塩納豆は外見は糸引き納豆の性質が残っているが化学成分的にはこのようにかなり異なっていて、ミネラル栄養吸収性が改良されている。また塩納豆は他の麹納豆に較べ食塩含量が5分の1の5%であるので健康的である。塩納豆は他の大豆食品試料との比較から「カルシウム栄養や微量ミネラル栄養」の高吸収性の大豆加工食品である。
著者
越野 裕子 大野 耕一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

猫伝染性腹膜炎 (FIP) は、猫コロナウイルス (FCoV) の感染によって引き起こされる、猫において最も重要な致死性感染性疾患の一つである。しかしFCoVに感染した猫の多くはFIPを発症せず、無症候あるいは軽度消化器症状を呈するキャリアーとなる。キャリアー猫から分離されたFCoVであるFECVと、致死性のFIPを発症した猫から分離されるFCoVであるFIPVの決定的な違いは未だに明らかではない。本申請では両者の違いについて検証を行うため、まずは自然感染症例からのウイルス分離を試み、そのウイルス性状をin vitroで明らかにするとともに、宿主の臨床情報との関連を検討するものとする。
著者
中島 国彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本近代の文学と美術との相関に留意しながら、文学作品に描かれた自然や都市、さまざまな風景を「風景表象」としてとらえ、その近代における変遷、いくつかの典型的な事例における特色を分析し、ひいてはそうした見方を支える精神のありかたを歴史的に明らかにした。また、風景を描く文体、表現の特色をも考察した。中でも、明治中期の都市貧民窟を描いた松原岩五郎、足尾鉱毒問題で活躍した木下尚江・田中正造、明治大正の東京を描いた森鴎外・永井荷風・小川未明などの作品については、詳細な分析を加えた。あわせて、京都という場所を踏まえた文章を辿り、その成果を論文・著書のかたちで公表した。
著者
篠山 学 松本 和幸
出版者
香川高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

人が自身の価値に気づく機会の一つに他者との対話がある.例えば,人から尋ねられてその回答を考えることで子供のころの夢などを思い出せたり,自分の行動を俯瞰できたりする.しかし,世界的な環境の変化により,人と会って対話する機会が減少している.そのため,気づきが得られる機会を創出することは重要である.そこで,これまでに構築したインタビュー対話コーパスを用いて人が気づきを得られる対話ロボットの研究を行う.本研究により,気づきを得られる対話システムが構築でき,気づきを得た対話も収集できる.また,収集した対話を分析することで,ユーザが気づきを得るための質問文の生成方法や相槌の挿入方法などを明らかにできる.
著者
高橋 弘 由利 和也
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

うつ病は、様々な症状が複雑に絡み合っている病気であり、病態を正確に捉えることが困難である。また、うつ病は、慢性ストレスにより神経の可塑的変化(シナプス減少など)を引き起こし、通常の神経回路と異なる可能性がある。そこで、本研究は、慢性的に敗北させたうつ病モデルマウスを用い、各うつ症状がどの様な神経活動により起こるかを明らかにする。また、ストレスによる神経可塑的変化が、グリア型グルタミン酸トランスポーター減少を介して、グルタミン酸過剰により引き起こされるかを明らかにする。これらの成果は、新しいうつ病の発症機序を実証し、うつ病の病態解明・診断・治療に貢献する。
著者
飯嶋 曜子 梶田 真 山本 充
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、ヨーロッパのボトムアップ型農村開発のガバナンスと領域性に着目して分析し、その意義を考察しようとするものである。事例として、周辺部の農山村としてこれまで多様な政策の対象となってきたアルプス地域を取り上げる。その理由として、アルプスでは、EU、国、州、県、市町村、さらにはアルプス広域地域等の多層的な領域において政策が遂行されていることが挙げられる。さらに、アルプス地域ではEUのボトムアップ型農村開発であるLEADER事業も積極的に実施されているからである。2021年度は現地調査を予定していたものの、コロナ禍が収束せず安全かつ円滑に調査を実施することが不可能であったため、実施を断念せざるを得なかった。その対応策として、2022年度に改めて調査を実施することを想定して、主にインターネット上の新聞記事や公的機関の情報などから現地の最新情報の収集に努めた。さらに、それらを踏まえて翌年度の調査計画案を検討した。一方でボトムアップ型農村開発のガバナンスとその領域性についての制度等に関する整理や分析、および理論的検討については各自が進めてきた。EUの共通農業政策(CAP)や、国、州、市町村等による農村開発政策、LEADER事業などについて、報告書や文献等による情報収集や分析を進めるとともに、それらに関連する理論の整理を行った。さらに、これまで実施してきた現地調査で得られた情報やデータを整理し、その分析を進めた。
著者
笠原 政治
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

森丑之助は1890年代の後半以降,20年間近く台湾山地先住民族(現在の正式名称は「台湾原住民」)の実地調査を行った人物である。台湾研究の開拓者であり,日本における文化人類学の先駆者であるが,今日の学界ではその名前はほとんど知られていない。単行本として出版された写真集『台湾蕃族図譜』(1915年),タイヤルの民族誌『台湾蕃族志第一巻』(1917年)を含めて,その著作を日本で入手することが甚だ困難になっている。本研究では,森丑之助の著作の収集とデータベース化,森研究に関する現地(台湾)研究者との意見・資料の交換を進めるとともに,『森丑之助著作集』(仮称)の編集・刊行に向けて一連の準備作業を行った。森の著作については,単行本,学術雑誌や旧台湾総督府関係の雑誌への掲載稿などのほかに,当時の地元紙『台湾日日新報』にもかなりの点数を寄稿していたことが同紙のマイクロフィルム版から判明したので,それらを含めて目力作りと入力に努力した。また,いま台湾では,森の著作の一部が中国語訳され出版されたため,森丑之助とその研究業績が広く注目を集め始めている。本研究では,森の研究の全体像と把握と併せて,中国語への翻訳者及び地元の研究者たちとも十分な意見交換を行い,森の研究に関する国際的評価を高めるための方向も摸索してみた。現在予定中の『著作集』が上梓されれば,森の業績は改めて正当な認知を受けるであろう。そして,森という人物を通して,日本文化人類学の黎明期に新たな光が当てられるものと考えられる。
著者
村井 良介
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

室町期において幕府の裁定や守護による施行は、人々が共通に参照点とする相対的な卓越性を有している。したがって、人々は幕府や守護に文書の発給を求めると考えられる。しかし、戦国期になると幕府や守護の卓越性が低下し、幕府や守護の保証では十分ではないと見なされるようになり、将軍や守護以外の地域権力による判物発給が見られるようになる。判物は発給者と受給者の一対一の関係性の中だけで機能するものではなく、周辺の第三者群の反応を整序する。その秩序を共有する人々の関係性が「私」に対する「公」である。文書なしの知行給与から、判物による知行給与への変化は、この「公的」秩序が意識されることによる。