著者
佐野 孝昭 吉田 朋美
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

我々はHPVの癌遺伝子蛋白の発現に伴い、Rb蛋白機能調節にあたるp16蛋白がヒト子宮頚部異形成や子宮頚癌において過剰発現していることを報告した(Am J Pathol,1998)。今回、このp16抗体を細胞診液状化検体(モノレイヤー標本)にも応用し、p16の免疫染色が、細胞診標本上で腫瘍細胞の同定にきわめて有用であること報告した。(Cancercytopathol,2004)。この検討ではHSIL以上の病変を検出する手段として、PCR法によるHPV検出よりも、p16免疫染色法はより高感度かつ特異性の高い検査方法であることが明らかであると同時に、現在行われているPap法による形態学的な異型細胞同定法を補助する手法としても有用である。また、p16と同様に細胞周期調節蛋白の一つで、G2チェックポイントに働く蛋白である14-3-3sigma蛋白についても同様の検討を行ったところ、異形成から扁平上皮癌、および腺癌にいたるまで広く高発現していることが明らかになった(Pathol Int,2004)。これはp16とともに14-3-3sigmaが子宮頚癌・異形成のすぐれたマーカーになる可能性を示唆していた。同様に、頚部病変とともに採取される可能性の高い内膜病変での14-3-3sigmaの検討を行なったところ、14-3-3sigmaは進行内膜癌に過剰発現していることも明らかとなる一方、分泌期正常内膜腺にも14-3-3sigmaの発現が認められ、内膜腺細胞を含む頚部検体の14-3-3sigmaの評価には注意が必要であると考えられた(Pathol Int,2005)。
著者
佐藤 喜久一郎
出版者
育英短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

今年度は世界的な新型コロナウィルスの流行により、予定していたフィルドワーク、インタビュー調査、研究会などを全て中止することになった。本研究の情報提供者(インフォーマント)には、いわゆる「古老」や宗教者が多く、感染リスクを冒すことで地域社会に与える影響は大きい。コロナ禍以前においても、代表研究者は被調査者の健康状態やコミュニティとの関係を考慮しつつ、慎重に研究を進めてきた。まして、現在のような病気蔓延の社会状況のもとでは、よりいっそうの注意と安全対策が求められることになる。本研究においては、文書所蔵者宅への個別的な訪問、文書蔵での複数の研究者による調査活動、「古老」へのインタビューなどが必要不可欠であるが、調査を継続しようとすれば、これらの実施は必然的に「三密」となり、被調査者の健康リスクを伴うことになる。このことはきわめて危険であるため、今年度はフィールドワークを中断し、リスクを回避することに決めた。またそのこととは別に、文書の解読などの作業に当たってきた研究協力者の多くも、コロナ禍による研究環境の大きな変化によって従来のような研究活動を満足に行うことができなくなっている。そのため今年度は、フィールドワーク以外のことについても実施規模を縮小し、これまでに撮影した文書類の整理分類と比較分類など、代表研究者がひとりで行えることだけをするに留まった。本格的なインタビュー調査と、残された文字資料の写真撮影はコロナ禍の終息を待って行うことになっている。
著者
三宅 正浩 木土 博成
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、近世成立期(16 世紀末~17 世紀)における幕藩領主の政治意識の世代差について、その格差を個別の家ではなく幕藩領主層総体の格差を構造として把握することを通して、政治構造・意識の転換の諸段階を解明して提示することを目的として実施する。まずは、モデルケースとしていくつかの大名家を取り上げ、当主および家臣の世代交代について、軍事的要素に着目して分析する。並行して、幕藩領主層全体の世代交代について、先行研究や諸史料を参照しつつ、時期・年齢などについてデータを集め整理する。最終的には、上記の成果・データをに加えて、法令や書状を用いて分析し、世代交代の様相を構造的に把握して提示する。
著者
藤村 祐子 佐藤 仁 朝倉 雅史 岩田 昌太郎 川口 広美
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

日本では,教員の養成・採用・研修を連続体と捉えた上での「教員が学び続けることので きる環境整備」が提案され,専門職基準の策定とそれに基づく教員制度の全国的整備が進められている。米国ではすでに,教師教育のあらゆる場で専門職基準が活用され,専門職基準の制度化が進められてきた。専門職基準は,他律的活用と自律的活用の双方が想定されるが,米国では,その双方で機能している可能性がある一方,日本では,他律的活用が強調され,自律的な「能力参照枠」としての専門 職基準の活用は十分に検討されていない。本研究では,自律的・他律的な「能力参照枠」としての専門職基準の「内面化」の方略を提案することを目的とする。
著者
安藤 崇仁 鹿嶋 小緒里 松本 正俊 井上 和男
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

我が国における薬剤師の供給総量は、新しく薬剤師国家試験に合格する薬剤師数調節でなされている。現在、薬学部の新設とともに薬剤師供給は増加しているが、薬剤師の偏在は持続している。薬剤師は勤務場所や業種などの選択において自己決定権があることから、どのような属性(経験年数、性別、キャリア初期の勤務地など)の薬剤師が、将来の薬剤師不足地域での勤務をより多くするかという観察研究による質的情報が必要である。本疑問の解明のため、「薬剤師の属性は長期的な分布状況とどのように関わっているのか」、「薬学部新設は薬剤師偏在を是正したか」、「薬剤師不足地域に勤務する薬剤師の属性は何か」の研究疑問について解明する。
著者
柳沢 俊史 吉田 二美 伊藤 孝士 奥村 真一郎 小田 寛 池永 敏憲 吉川 真 樋口 有理可
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

これまでの近地球小天体の発見手法とは全く異なる新たな検出手法を開発し、実際に日本及び豪州でのサーベイ観測をとおして近地球小天体を9つ発見した。これにより小型の望遠鏡とFPGAを利用した高速解析による安価で効率的な近地球小天体の発見手法が確立され今後多くの近地球小天体、特にこれまでほとんど発見されてこなかった10m-数100m級の近地球小天体の発見に大きく貢献すると思われる。これにより太陽系進化に関するあらたな知見をもたらすことが期待されるとともに地球衝突天体の早期発見にも役立つはずである。
著者
佐々木 宏 中村 亨
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本計画は、「10Hzから10kHzまでの帯域で高感度を持つ電極タイプの深海底用電波アンテナシステムの開発と深海底のELF帯電波環境の情報を得ること。」を研究目的として平成10年度より3年計画で実施した。今回開発した電極タイプのアンテナは、その帯域を10Hz以上10kHz(ELF帯)までに置き、DC帯域では問題となった海水と極板との化学反応によるドリフト(最小でも3μV/day)を回避するシステムを考案し、実用化し、最小検出感度0.1μV/mを達成した。研究期間内での観測において、「1000m級の海底でのCOSEISMICな電磁信号の検出を目指す」としたが、浮上装置の電池の液漏れに起因する超音波送受信回路の故障により、50m水深(ロープによる海底装置の引き上げ限界)までのデータ取得とその解析になってしまった。しかし、沿岸部から約6kmでの測定から、千m以深での測定の可能性について推定できる結果を得た。以下に、得られた結果をまとめる。1.ステンレス板を用いた深海底用極板アンテナの開発に成功した。(極板と海底ケーブルとの繋ぎ、利得10万倍増幅器系(帯域10〜10kHz))。しかし、長期間観測用の記録系の開発は予算の関係もあり今回は見送った。2.海洋科学技術センター委託研究(研究課題「室戸沖南海トラフ域における海底変動と生物物質循環システムに関する基礎調査」)の観測航海にあわせてより深海での予備観測を実施した。900m水深で開発した電極アンテナシステムが故障なく稼動する事を確かめた。3.20m水深での結果から、海水を含まない岩石層内部で、対象とする信号の振幅が100mV以上であれば、今回開発したシステムで観測が可能な事を示した。50m水深のデータからは、大気中の信号振幅が1V以上なかったので、同様の可能性を示せなかった。しかし、FWT法による信号処理の見通しを付ける事が出来た。
著者
濱中 淳子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,「進学校」や「名門校」と呼ばれる高等学校が、その学校生活を通じてどのような人材を育成してきたのかについて,実証的に明らかにすることを目的としたものである.進学実績で名が広く知られている公立の高等学校(神奈川県立湘南高等学校)に調査協力を依頼し,郵送数7,840、有効郵送数7,777、回収数1,775という規模の卒業生調査を実施した.分析においては,過去に別の研究プロジェクトで行った他の進学校卒業生調査のデータとの比較も試みた.そのなかで,公立三年制と私立中高一貫校の共通点ならびに相違点の抽出等を行っている.
著者
牛島 省
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では,マルチフェイズ・並列計算手法の適用性に関する検討を行い,以下の成果を得た. (1) 礫層上面に衝突する鉛直下方噴流によって生ずる礫粒子運動と水流の連成過程が適切に計算されることが示され,礫粒子の移動経路や間隙水圧,礫粒子間の接触力などが計算で得られた. (2) 礫層下面から流入する鉛直上昇流により,(1)と同様に現象を再現する計算結果が得られることを確認した. (3) 高粘性流体や非ニュートン流体の基本的な挙動,また吸水性粒子間の浸透流などに対して,それらの特性を再現する計算結果が得られることが示された.
著者
廣瀬 泰彦 郡 健二郎 安井 孝周 戸澤 啓一 岡田 淳志 濱本 周造 田口 和己
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

尿路結石は、疫学、形成機序、結石と石灰化の構成成分など、動脈硬化と類似点が多い。近年、酸素を直径100nm以下のガス核として、Salting-out現象により安定化させた機能水、酸素ナノバブル(Oxygen nano-bubbles: ONB)水の抗炎症効果が報告された。炎症や組織改変をともなう動脈硬化などの疾病の治療薬となる可能性をもつ。そこで、私たちは、結石形成モデル動物を用いて、酸素ナノバブル水の、尿路結石形成抑制効果を調べた。酸素ナノバブル水は、尿細管細胞障害を低下させ、シュウ酸カルシウム結晶の接着因子であるオステオポンチンとヒアルロン酸の腎での発現を抑制し、腎結石形成を抑制する。
著者
吉岡 伸也
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

フォトニック結晶を利用した構造色を持つチョウやゾウムシを対象に、結晶の配向と光学特性の関係を調べた。特にチョウの一種(マエモンジャコウアゲハ)については、単一鱗粉内の特定の結晶ドメインにおいて詳しい研究を行った。その結果、直交偏光配置では、入射する偏光の方向と結晶方位との関係により反射の強度が大きく変化することを明らかにした。また、表面構造の観察から得られた結晶配向を仮定した理論計算を行い、多結晶に分かれたフォトニック結晶構造が直交偏光配置で観察される鱗片のステンドグラス状の模様を生み出していることを明らかにした。
著者
高橋 純一 大庭 伸也 熊野 了州
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

対馬、壱岐、北九州、大分に侵入した特定外来種ツマアカスズメバチについてミトコンドリアDNAの全長解析から国内に侵入した個体間には遺伝的変異は存在しないこと、自然分布地の中国、台湾、ベトナム、中国浙江省の個体と一致することがわかった。食性は樹冠に生息する昆虫類であることをDNAバーコーディング法により明らかにした。捕獲トラップは地上部よりも、樹冠10m付近が最も多く捕獲することができた。繁殖は、主に樹冠で交尾をするキイロスズメバチと交雑をしており、在来種に対して繁殖干渉を行っていることがわかった。
著者
龍田 真
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

置換簡約やその関連概念を用いて論理体系および型付ラムダ計算を拡張した体系について、それを構築し、その基本性質を明らかにした。特に、共通型の型同形を特徴付け,非可換一階シーケント計算の性質,multiple quantifierをもつ型付ラムダ計算の型推論の性質,型理論Fの内部的decompiler-normalizerの性質,遺伝的置換子の型理論による特徴付けを証明した。
著者
御手洗 正文
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、農薬による線虫防除法の代替技術として、植物エッセンスによる線虫防除技術を確立することである。24年度は、ニッケイ、トウガラシ類(ジョロキア、黄金等)、25・26年度は木本類であるシキミ、アセビのエッセンスを水蒸気蒸留法、バーコレーション法、圧搾法、煮出し法,エタノール溶媒抽出法を用いて抽出した。また、試作した植物酢液抽出装置によりショウガ酢液、トウガラシ酢液、シキミ酢液、アセビ酢液の殺線虫効果を調査した。その結果、①ニッケイ、②トウガラシ、③ショウガ、④シキミ、⑤アセビのエッセンスには、強い殺線虫効果があることが明らかになった。
著者
櫻井 学 宮脇 卓也 一戸 達也
出版者
朝日大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

鎮静薬,麻酔薬の鎮静・催眠作用はGABA受容体を介したものと考えられているが,鎮静薬,麻酔薬には中枢でのアデノシンを増加させる作用もある.本研究では,アデノシンによる神経伝達物質調整作用の健忘効果に与える影響を評価した.鎮静深度が浅い状態にアデノシンの前駆物質であるアデノシン三リン酸を投与すると鎮静作用とともに健忘効果が増強された.また,深鎮静時にアデノシン受容体の拮抗薬であるアミノフィリンを投与すると,鎮静効果とともに健忘効果も拮抗された.このことから,アデノシン受容体の刺激は鎮静効果の増強とともに健忘効果を増強し,アデノシン受容体の拮抗は鎮静効果と健忘効果を拮抗することが示された.
著者
服部 志帆
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、屋久島の狩猟活動の変遷を具体的に明らかにし、今後の展望を開きたい。まず、狩猟活動の変遷を、島外からの政治経済的な需要や島内からの文化的な需要の影響をふまえながら分析する。次に、2010年ごろから猟師のあいだで深刻化しつつあるコンフリクトや、近年若い世代の猟師が開始したジビエ販売やお土産物の商品化、非営利のジビエレストランの運営、屋久犬の保存会といった新たな動きを明らかにする。そして、環境政策やジビエブームなどと併存しながら、屋久島の人々が世界遺産と狩猟文化を維持していけるような方策を検討する。
著者
上村 公一 吉田 謙一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

外来性あるいは内因性一酸化炭素(CO)は、NF-κBあるいはミトコンドリアのATP依存のK^+チャンネルにより、虚血またはリポ多糖類によって生起された障害から心筋と血管内皮を保護することが示されている。一方、ヘム酸素添加酵素(HO)-1は、COを生成し、細胞を保護する。私たちは、Ca^<2+>依存のプロテアーゼcalpainがα-fodrin蛋白質分解によって、低酸素下のラット心筋起源のH9c2細胞のネクローシスを促進することを示した。本研究において、私たちは、COがL-タイプCa^<2+>チャンネルを通るCa^<2+>流入を抑制することにより、H9c2細胞の虚血細胞死を抑制するという初めての証拠を示した。虚血はfluo-3蛍光によって検出される細胞内Ca^<2+>流入を増加させ、それは、L-タイプCa^<2+>チャンネル作動薬BAYK 8644によって増強された。また、色素排除法、LDH放出あるいはpropidium iodide浸透性の測定から、その細胞死はネクローシスであると確認した。Ca^<2+>流入、Western blottingで示されるα-fodrin分解、虚血細胞死は、すべてCOあるいはL-タイプCa^<2+>チャンネル抑制剤ベラパミルによって抑制された。また、蛍光色素JC-1の測定により、虚血はミトコンドリアの膜電位の低下を引き起こすが、COまたはベラパミルは抑制することも見出した。一方、虚血により、活性酸素種(ROS)生成は増加したが、COにより抑制されなかった。低酸素下ヘミン処理により、HO-1は誘導された。虚皿によるCa^<2+>流入および細胞死は、HO-1誘導により抑制された。したがって、外来性あるいは内因性COは、L-タイプCa^<2+>チャンネルよるCa^<2+>流入を抑制、および、それによるcalpain活性化を抑制することにより虚血細胞死を抑制することが明らかとなった。本研究において、私たちは、COがL-タイプCa^<2+>チャンネルを通るCa^<2+>流入を抑制することにより、H9c2細胞の虚血細胞死を抑制するという初めての証拠を示した。さらに、ミトコンドリアの関与についても研究を進める予定である。