著者
大木 一夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、古代語の活用体系・連体形の機能の分析をおこない、古代語の連体形がいかなる文法形式であったのかを明らかにするものである。平安時代における連体形の基本的機能は、連体修飾機能と準体句形成機能である。係り結びは、現代語のスコープの「のだ」とほぼ同等の機能をもつと考えられ、係り結びの連体形も準体句を形成するものである。また擬喚述法の連体形も準体句と考えられる。連体形は、平安時代以降変遷するが、この準体句形成機能が退化し、それにより連体形終止の一般化と、係り結びの衰退が引き起こされたのだと考える。
著者
津田谷 公利
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

標準宇宙モデルとして知られているフリードマン・ロバートソン・ウォーカー時空における非線形波動について考察する.フリードマン・ロバートソン・ウォーカー時空の計量は一般相対性理論に登場するアインシュタイン方程式の厳密解の一つで,一様等方的な物質分布のもとで膨張または収縮する宇宙モデルを表す.本研究の目的は,解の爆発の条件,爆発解の存在時間の評価を明らかにし,さらに平坦な時空であるミンコフスキー空間の場合での既知の結果と比較することによって,宇宙膨張速度を表すスケール因子が非線形波動に及ぼす影響を解明することである.本年度もまず,非線形項が未知関数の冪乗であるタイプの波動方程式について研究を行った.昨年度得られた爆発条件は,減速膨張宇宙に対してであった.本年度は等速膨張あるいは加速膨張する場合について研究を行い,解の爆発および爆発解の存在時間の評価を示すことに成功した.1より大きい任意の冪乗で解の爆発が起こるという結果である.さらに,未知関数の偏導関数の冪乗タイプである方程式についても考察した.その結果,減速膨張,等速膨張,加速膨張に対して,いずれも解の爆発条件および爆発解の存在時間の評価を得ることができた.非線形項の偏導関数が時間変数についての場合と空間変数についての場合とで比較してみると,解の爆発条件および爆発解の存在時間の評価が異なり,興味深い結果が得られた.ミンコフスキー空間の場合と比べて解の爆発が起こりやすいということが明らかになった.
著者
小澤 弘明
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、1920年代から1940年代のオーストリア亡命者たちの戦後構想と、新自由主義の主唱者と目されるハイエク、ミーゼス、ポパーらの思想の形成過程を、両者の共通項であるオーストリア・マルクス主義との対抗関係の下に把握する。それによって、社会民主主義と新自由主義の継承関係を明らかにし、新自由主義の起源についての議論に貢献することを目的とする。研究方法は主として文書館史料の並行分析という手法を利用し、社会国家の形成に関する社会的自由主義の思想・運動が、国家を通じた市場化を志向する新自由主義の思想・運動の両者が相補的であることを解明する。
著者
内山 幸子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、北海道の古代から中世に行われた儀礼の詳細について、動物遺体や住居址をもとに検証し、当時の精神観を明らかにすることを目指すものであった。研究の結果、家送り儀礼と動物儀礼が従来の認識以上に頻繁に行われていたことに加えて、両儀礼が連動する動きも、一部の事例で明確に捉えられた。以前から、当該地域・時期では、人を葬る際に、副葬品となる土器や刀子を破壊する例が知られていた。今回の例も、家や祀っている動物遺体に火をつけることで本来の形や機能を失わせ、別の世界へと送る、一種の儀礼的行為だったと考えられる。このような精神観は、古代から中世にかけて連綿と続いていたことが明らかである。
著者
武藤 正浩 鈴木 祐介 鈴木 仁
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

IgA腎症は世界で最も多い原発性糸球体腎炎であり、20年で約40%が末期腎不全に至る予後不良の疾患であるが、未だ病因の全容は不明であり確立された治療は存在しない。本研究は、IgA腎症患者由来の糖鎖異常IgA1ヒンジ部のO-結合型糖鎖の糖鎖構造や、糖鎖異常IgA1およびSecretory componentの由来臓器を解明し、口蓋扁桃摘出術およびステロイドパルス療法が治療効果をもたらすメカニズムの一部を明らかにし、分子標的治療の礎とすることを目的とする。
著者
橋本 光広
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

小脳の変性を伴う疾患では、重篤な睡眠障害(不眠症・レム睡眠行動障害・睡眠時無呼吸症候群など)を伴うことが知られている。しかし、現在の基礎研究成果では、「なぜ、小脳が変性すると睡眠障害が起こるのか」を説明することができない。そこで、小脳と睡眠調節を関連付ける脳内の神経回路を解明することによって、小脳が変性すると睡眠障害が起こる神経基盤を明らかにする。このことは、今まで知られていない、小脳の新たな生理機能・神経システムを示すことである。
著者
丹 信介 曽根 涼子
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、異なる運動強度での運動トレーニングが、視床下部室傍核でのCRFとAVPの両者を含有する神経細胞の割合にどのような影響を及ぼすかについて検討を試みた。実験には6週齢のラットを用い、トレーニング群とコントロール群に分けた。トレーニング群のラットは、さらに3群に分け、各群それぞれ、10m/分、20m/分、30m/分の速度でのトレッドミル走を、1日30分、週5回の頻度で、4週間あるいは8週間行わせた。コントロール群のラットは通常のケージで飼育した。30m/分の速度でのトレーニング群の体重当たりの副腎重量は、4及び8週間のいずれのトレーニング期間においても、コントロール群や他のトレーニング群のそれと比較して、有意に(p<0.05)重かった。各トレーニング群及びコントロール群の脳切片を浮遊法によるCRF及びAVP抗体を用いた免疫組織化学的二重染色に供し、視床下部室傍核でのCRF、AVP含有神経細胞の同定を試みた結果、両者を含有する神経細胞数は、各群とも、4及び8週間のいずれのトレーニング期間においても平均数個程度であり、いずれのトレーニング期間においても、各群の間で有意な差は認められなかった。染色法の妥当性については、CRFとAVPの両者を含有する神経細胞数が視床下部室傍核で著しく増加するとされている副腎摘出ラットを用いた染色結果から確認ができている。したがって、走行スピード30m/分、1日30分、週5日、4あるいは8週間の走行トレーニングは、それより低い走行スピードでの同様の走行トレーニングに比べて、副腎重量の増大は生じるが、視床下部室傍核のCRFとAVPの両者を含有する神経細胞の数には影響を及ぼさないことが示唆された。
著者
二階堂 達郎 貝柄 徹 吉田 長裕 川島 智生
出版者
大手前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大阪湾岸臨海工業地帯を,撮影機材を搭載した船舶で航行し,海上・河川・運河等の水上からその現在の景観を写真・映像に記録した.併せて,同地帯の産業・港湾関連の施設や遺産の現況を実地調査した.これらの調査結果と,収集した文献,地図,写真,郷土史料,社史等の資料を照合し,分析することにより,同臨海工業地帯の発展の全体像をとらえることができた.また,景観概念が,臨海工業地帯という広域かつ重化学工業の大規模プラントが立地する領域における工業化を把握する上で有効なことが確認できた.今回の調査・研究は,地域的にも産業分野においても限定的ではあるが,臨海工業地帯の発展にかんする今後の研究の足がかりを得られた.
著者
黒川 雅代子 青木 聡 瀬藤 乃理子
出版者
龍谷大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

あいまいな喪失とは、喪失そのものが不確実であるため、解決することも終結することもできない喪失のことをいう。認知症の人を介護している家族は、現実的には存在していても、認知症のため以前のその人とは異なってしまっている人を対象としているため、不完全な喪失感を体験することになる。離婚を経験した家族の中には、親や子どもは存在しているにも関わらず、会うことが出来なくなる場合がある。こういった家族が体験する喪失をあいまいな喪失という。認知症の人を介護する家族と離婚家族が体験するあいまいな喪失に焦点を当てて支援プログラムを検討するのが、本研究の概要である。
著者
神田 豊隆
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、主に1950年代から70年代を対象として、日本社会党・民社党の役割を軸に、アジアにおける各国社会党のネットワークの歴史を論じることを目的とする。従来、戦後日本外交史の分野においては、革新勢力を対象とする研究は少なかった。国際関係史・冷戦史の分野でも、社会民主主義勢力の国際ネットワークへの関心は希薄であった。とりわけ本研究は、次の問いを考察する。「米ソ双方と一線を画す社会民主主義を奉じて連帯を図ったアジアの社会党ネットワークは、いかなる多国間協力のあり方を模索したのか」。その中で「日本の革新勢力はどのような役割を果たし、いかなるアジア秩序の姿を目指したのか」。
著者
隠岐 さや香
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は18世紀フランスにおける科学研究への投資の実態とその思想史的背景について、パリ王立科学アカデミーの財務会計記録資料を中心に調査するこ とである。 令和二年度は研究補助者も雇用しつつ、これまで調査した史料の解読と整理を行った。パリ王立科学アカデミー財務会計資料は非常に散逸が激しく、年度ごとの支出や予算総額を知るだけでも複数の文書館の史料を突き合わせることが必要であることがわかった。また、財政史において王政期というのは一般的に「パトロネージから官僚制へ」などと要約されるが、それは王侯貴族が気に入った存在に報奨金を与えるという私と公の切れ目がなかった状態が、近代的な職業的・専門的組織における金銭のやり取りへと制度化されていく過程にあたる。科学アカデミーの財政においても同様の特徴が窺えることがわかった。これらの成果を取りまとめ、2020年11月にはフランス語による国際研究集会での発表を行った。現在はその内容をフランス語の論文にまとめているところである。この他、一般向けの新書で終身書記コンドルセの評伝を執筆したが、その中で本研究の成果を一部使用した。また、やはり一般向けの公開講演や媒体において学問の「自律」「自由」に関連する文書を発表し、本研究プロジェクトの内容を一部使用した。2021年3月に本研究成果を用いた公開セミナーと講義のため、フランスのパリ第一大学(パンテオン・ソルボンヌ)から招聘されていたが、コロナ禍により延期となった。
著者
三輪 全三 飯島 英世
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.研究目的 : 現在小児における歯髄の生死は主として電気刺激などの侵襲的な刺激に対する反応によって判断されていることが多い。本研究では、小児の歯髄から透過光光電脈波(TLP)を記録し、この脈波の有無が歯髄生活テストヘ応用が可能か否かを検討した。2.研究方法 : 予備実験として成人を被験者とし、今までに報告されている透過光光電脈波法(井川ら1983)によって健全歯の歯髄から脈波が検出できることを確認した。次に小児の健全歯(幼若永久歯および乳歯)からも同じように歯髄脈波が検出できることを確認した。方法は被験歯の印象模型から製作した個歯アダプターの口蓋側に付けられた光ファイバーを通して、歯に緑色の発光ダイオード(LED、ピーク値525nm)を照射し、この透過光を唇側から採取した。透過光はCdS光電セル(ピーク値、550nm)に導かれ、透過光量は交流増幅器を通しTransmitted Light Photoplethysmography(TLP)として被験者の指尖脈波と同時に記録した。記録はうす暗い部屋で、遮光性の黒色ラバーダムを装着した場合としない場合とに分けて行ない、歯周組織脈波の混入の影響を確認した。成人被験者において、局所麻酔前後でのTLP振幅の変化を観察した。TLP信号は後で平均加算し、脈波振幅は信号処理ソフトを使用して求めた。3.研究結果 : 1)成人および小児の被験者の健全歯から、指尖脈波に同期したTLPが検出された。小児の被験歯では成人と比較してTLPの脈波振幅は大きく、波形も明確であった。2)電気刺激に反応しなかった脱臼歯においてもわずかにTLPは記録された。しかし、再植歯では明瞭な波形は検出されなかった。3)ラバーダムの装着により信号の有意な減少は生じなかった。4)局所麻酔よって、TLP振幅が変化することからTLPは歯髄の血流を反映してると思われた。本法は非侵襲的で痛みを誘発せず、客観的であるため、外傷歯や幼若永久歯などの歯髄診断に有用であり、小児歯科臨床における検査法として応用できる可能性が示唆された。
著者
横溝 紳一郎 田尻 悟郎 久保野 雅史 柳瀬 陽介
出版者
西南女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

(1) 第一次調査を受けての理論化、(2) 理論化を受けての第二次調査、(3)第二次調査を受けての再度の理論化という段階を経て、査読付きの学術論文として公刊できるまでの具体的かつ理論的な解明を行う。また日本の実践知を国際的に発信するため国際学会での発表を予定している。
著者
直江 眞一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は「制限君主制論」あるいは「混合政体論」の基礎を提供する理論として注目されている15世紀イングランドの法律家サー・ジョン・フォーテスキューの国制論の歴史的位置を明らかにする試みである。そのために、フォーテスキューの主要な3作品である『自然法論』、『イングランド法の礼賛について』、『イングランドの統治』の写本および刊本を可能な限り調査した。また、フォーテスキューの蔵書であったと考えられるオクスフォード大学ボドリ図書館蔵のRawlinson, C 398写本も検討した。その結果、「政治権力かつ王権に基づく支配」という概念はフォーテスキューに独自のものである可能性が高いことが判明した。
著者
松本 光太郎 岡田 美智男 麻生 武 小嶋 秀樹 浜田 寿美男 塩瀬 隆之 塚田 彌生
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

当研究プロジェクトでは、ロボットが人間の実生活に入り込んできたときに生まれる行為を中心に、ロボット研究者および心理学者を中心とした学際研究を行った。成果として、(1)当メンバーが編集・執筆を担当した書籍1冊『ロボットの悲しみ:人とロボットの生態学にむけて』(新曜社、印刷中)、(2)学会シンポジウム主催2件(日本発達心理学会、日本質的心理学会)、(3)学会個人発表2件(EDRA、日本発達心理学会)が確定している。また、これまでの成果をまとめた論文を査読付雑誌に投稿することを計画している。
著者
山口 倫
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

乳癌は、組織学的見地の他、現在サブタイプという概念が浸透している。我々は、乳癌が早期から浸潤癌までどのように進展、発育するかをサブタイプ (基本的にルミナル、Her2陽性、トリプルネガティブ群に大別) の概念から、特に免疫応答の観点も加え、検診における過剰診断や過剰治療にも言及できるよう検討を行った。早期乳癌において、Her2陽性上皮内癌はコメド壊死を有する高異型度癌が多く、腫瘍リンパ球浸潤免疫応答によって浸潤する経路があり、他サブタイプとは異なることが明らかになった。また、浸潤性Her2陽性乳癌ではER陽性と陰性群で病理・形態学的・免疫応答の点において大きく二分されることが明らかとなった。
著者
遠藤 陽子 清水 章 遠田 悦子 中村 元信
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

糖尿病による腎障害では線維化・尿細管萎縮(IFTA)が起こり、腎不全に至ります。IFTAが進行する原因の一つとして、血液中のマクロファージが腎臓へ浸潤し、腎臓線維化の促進に働くことが挙げられています。そこで、私たちはマクロファージの活性に関連するFROUNTと、FROUNTを抑制する処方薬のDSFに着目しました。DSFがマクロファージを抑制することで、糖尿病でのIFTAを抑制、腎不全への進行を止められると考えています。糖尿病モデル動物をDSF投与群と非投与群とに分け、その腎臓や血液・尿を検査し、マクロファージ抑制、IFTA抑制、腎機能保持が出来るのかを明らかとします。
著者
村上 龍文 砂田 芳秀
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

糖尿病性多発神経炎(DPN)の血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子治療での改善機序を解明するため、この治療が著効するSTZ糖尿病マウスのDPNについて検討した。その結果このマウスでは糖尿病初期から無髄線維が選択的に萎縮しており、有髄線維は成長・発達障害があることが明らかとなった。また坐骨神経ではVEGFシグナル系の遺伝子発現が亢進し、PGE2含量の低下が認められた。ラットと異なりマウスではVEGFの逆向性軸索輸送は認められなかった。
著者
飯島 正博 祖父江 元 川頭 祐一 小池 春樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

末梢神経系の維持には軸索ー髄鞘間の相互作用が重要な役割を担うことが指摘されている。我々はCIDPにおいて、傍ランビエ絞輪部に分布するTAG-1のアミノ酸置換が分子機能を修飾し、再髄鞘化機序にかかわることを過去に指摘した。今回、TAG-1を欠損した動物モデルに髄鞘構成成分より構成される抗原を人為的に導入して自己免疫性神経炎を惹起したところ、脱髄のみならず軸索障害が形態的・電気生理学的に顕在化することを示した。このことからTAG-1をはじめとする分子群は末梢神経の発生はもとより、傷害発生後の髄鞘再生にかかわる重要な要素であり、この破綻は不可逆性の病態をきたしうることが示唆された。
著者
吉野 真紀 織田 裕行 木下 利彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、性同一性障害(以下、GID)当事者を対象とし、治療前と治療を経て概ね望む性別での生活を実現した時点とを比較することにより、当事者の自己実現のあり方及び心理的変化を明らかにすることである。対象者として、GID包括医療を求めて受診し、初診時及び治療経過後の心理検査データを入手した。主観的変化を調べる資料として2018年度までに対象者5名への半構造化面接を終了し、テキストデータにおとした。残り1名については、連絡がとれないため、半構造化面接の実施を断念した。半構造化面接の分析の参考とするため、またGID当事者のライフステージごとの課題や状況等を知るため、各種学会や研修会(GID学会研究大会、日本ユング学会、日本心理臨床学会、日本青年期精神療法学会総会、等)に参加し、専門的知識の教授を受けた。当事者ひとりひとりの自己実現過程について学びを深めるため、当事者会への参加やジェンダー外来担当者との打ち合わせ等を通して自己研鑽に努めた。また、本研究を含めた学びの内容について、講演活動(研修講師)を務める中で伝えることに尽力した(名古屋市教育委員会等)。現在、心理検査データの量的分析の試行、研究協力者と半構造化面接の分析および考察の作業を進めている。※性同一性障害(GID)という診断名はDSM-5への改定に伴い性別違和(GD)に変更されているが、対象者の診断確定時点ではGIDであったため、本研究の関連書類において必要箇所ではGIDという用語を使用する。