著者
金森 修
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

一九六〇年代を中心に我が国のSFの発展を跡づける作業をしている内に、SF史だけに限定するのではない、より広範な視点が必要だということが分かってきた。SFは、同時代の他分野の文学・芸術活動と陰に陽に繋がっているからである。そして、その過程で、いわゆるSF作家と呼ばれる人々よりも広いカテゴリーにある作家たちの調査を始めた。そしてその中で、単なるSF作家とはいえず、戦後文学の重要な一画をなし、まだ充分な研究が進んでいない安部公房の存在の大きさを改めて認識するようになった。そのため、安部公房の全作品を集め、現在入手可能な安部公房論、また海外の安部公房並びにその周辺に関する文献群をすべて集めた。こうして、資料体的には完璧な準備が進んだので、現在改めてゆっくりと評論と作品自体を通読しているところである。もうかなりの量は読破したので、年度末、つまりこの研究の完成する頃には或る程度の目安がついているはずだ。というわけで現在は、安部公房を中心とした文学評論の執筆を目指して努力しているところである。
著者
藤木 大介
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、ニホンジカの高密度化に伴う森林下層植生の衰退がツキノワグマ(以下、クマ)の採餌生態や人里への出没に及ぼす影響を解明することを目的とする。調査地域は北近畿西部個体群の分布域である丹後山系とする。定期的に山系を踏査し、クマの糞塊を収集する。そのうえで内容物の組成やその季節変化について把握するとともに、下層植生が衰退してない地域との食性の相違を明らかにする。また、兵庫県域スケールで収集されている森林下層植生の衰退状況とクマの出没情報の長期モニタリング・データを関係解析することで、クマの出没情報の時空間的な変動が下層植生の衰退とどのような地理的関連性があるかを明らかにする。
著者
鄭 暎惠 郭 基煥 李 善姫 師岡 康子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

初めてヘイトスピーチを聞いた時「反感を感じた」71.9%、「驚いた」61.1%、「恐怖を感じた」49.7%の一方、「共感した」8.3%。「街頭で一緒にヘイトスピーチを唱えたい」1.7%、逆に「街に出てカウンター行動に参加したい」は10.4%。ヘイトスピーチを繰り返し聞くうち「違和感が増加した」52.8%、逆に「違和感が減少した」10.4%。ヘイトスピーチを「表現の自由」と見なすのは23.4%、「法で規制すべき」は47.6%。法規制すべきなのは、「人権を侵害する言動」76.3%、「特定の社会的弱者への憎悪表現」10.9%、「表現の自由を侵害する言動」38.2%、「思想信条の自由を侵害する言動」37%、「特定の政治家への憎悪表現」10.9%。外国人が増える結果として「日本の文化が豊かになる」70.7%、「社会の活性化」70.4%、「経済の活性化」59.2%、「日本人の働き口が奪われる」34%、「日本の文化がそこなわれる」22.5%。グローバル化で競争は激化、労働条件は悪化し、貧富の格差も拡大、将来への不安や閉塞感が増す中、少子高齢化で日本経済の停滞が懸念されるため、外国人に肯定的期待を寄せる者は少なくないが、外国人が対等・優位になり自分の既得権益が脅かされたり、追い抜かれる場合に排他的な傾向が強まる。「全体主義、排外主義ではなく、一人一人が大切にされ、お互いの個性、豊かさを尊重する、豊かさを分け合い、共に生きる社会を望んでいます。ヘイトスピーチをする人々は社会の中で自分が大切にされているという実感がないのではないでしょうか」(日本籍女性・自由記述より)ヘイトスピーチのターゲットとされた人々のアイデンティティにダメージを与える、特に子どもの成長に悪影響が大きいと考えられている。コミュニティの中で生きる場合より、孤立無縁でカミングアウトせずに生きる方がダメージが深いと思われる。
著者
横山 浩之 小林 淳子 富澤 弥生
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

コロナウィルス感染症による影響で、全国的に不登校などの問題が増えることがとりざたされているが、研究協力市町村での様相は大分異なっていた。① すでにさまざまな施策がとられてきたA市・B町では、3歳半健診における就寝時刻が遅れる傾向があった(統計学的有意差なし)のみで、メディア曝露時間は増加しなかった。また、小中学校の不登校も増加しなかった。② 施策を取り始めたばかりのC市・D市・E市・F町・G町では、3歳半健診における就寝時刻が有意に悪化した。2時間を超えるメディア曝露している3歳児が有意に増加しており、C市では、妊産婦と母親に対して、本研究で作成した啓発パンフレットを母子手帳配布時、妊産婦健診、出産時、乳児健診等で繰り返し配布し、1歳半健診における要フォローアップ率で評価する研究を開始した。これらの市町村では、小中学校の不登校率も悪化の一途をたどっていた。③ 教育委員会が本事業に参加するD市では、先進地域のA市・B町を視察していただき、D市の事業展開にあたり、どのような観点が切れ目のない支援にとって大切かを検討し、令和4年度からの事業展開に活かすこととなった。 この視察で明確になったのは、市町村差よりも県域の差による制度面の異なりが大きいことで、D市では令和4年度に文部科学省の特別支援教育調査官経験者による研修会を本研究の協賛で行うことになった。④ 昨々年度に作成した簡易版ペアレントトレーニング手法のパンフレットをA市・H町において1歳6か月健診において配布し、3歳半健診において、手法の有効性を検討する試みを開始した。
著者
柚木 純二 藤井 進 森田 茂樹 野出 孝一
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年新たな低侵襲手術が登場し、適応や費用対効果が問題になっている。日本のビッグデータによる解析が必要と考え、DPCデータに着目した。データ抽出のプロトコールを作成すれば、全国データでの解析が可能であると考え、大動脈弁狭窄症(AS)に対する従来手術(AVR)と新たな低侵襲手術、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を抽出するプロトコールを作成した。AVRは95.0%、TAVIは100%検出できた。当院のDPCデータでは在院死亡に差はなく在院日数はTAVIが有意に短かった。また全入院費はTAVIが有意に高く、薬剤はAVRが材料はTAVIが有意に高かった。 全国DPCデータでの解析につなげたい。
著者
宋 基燦
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

朝鮮学校は、日本最大外国人学校組織である。また、70 年以上の長い歴史の中で、朝鮮学校は多数の卒業生を輩出した。しかし、朝鮮学校は今まであまり研究されてこなかった。その理由は、朝鮮学校が置かれている政治的特殊性にある。本研究は、朝鮮学校を卒業した人々に焦点を合わせ、朝鮮学校卒業後、日本社会で暮らしていく彼らの生活世界への理解を試みた。研究結果、朝鮮学校の卒業生は、朝鮮学校の共同体に留まる場合もあったが、概ね日本社会の成員として暮らしていた。また、一部の人は、朝鮮学校での学びを発展させ、トランスナショナルな生活世界を構築していた。
著者
梅澤 亜由美 大木 志門 小林 洋介 河野 龍也 大原 祐治 小嶋 洋輔
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2018年度は、8月20日に国際シンポジウムプレ会議、2019年1月13日に研究会を開催した。また、研究成果の公表として、学会でのパネル発表、および【論考篇】として書籍の刊行を行った。以下4点、具体的に述べる。①研究成果【データ篇】公開のための作業。2017年度より継続して各自が行っているデータの抽出、一覧表の作成をもとに、〈私小説性〉、およびそれに付随する〈「私」性〉〈内在的サイン〉、〈事実性〉〈外在的サイン〉といった概念による新たな研究の指標を提示することができた。②国際シンポジウムプレ会議の開催。中国、台湾、韓国の研究協力者を招き、各国における研究の現状についての発表報告を受けた。これを受けて、2019年度8月に開催を予定している国際シンポジウムのプログラムについて討議、日程およびテーマなど詳細を決定した。③学会でのパネル発表。当初の予定通り、10月27、28日に岩手県立大学で開催された日本近代文学会秋季大会において、「「私小説」をどのように考えるか?――〈私小説性〉概念による再検討の試み」というテーマで、パネル発表を行った。6名の発表者が、新たな私小説研究の指標としての〈私小説性〉の概念に基づいて、田山花袋、徳田秋聲、広津和郎、佐藤春夫、横光利一、伊藤整、第三の新人などのテクストについての発表を行った。また、質疑応答を行うことで、今後の研究のための指針を得ることができた。④成果報告【論考篇】の刊行。10月末に、『「私」から考える文学史――私小説という視座』を勉誠出版より刊行した。16本の論考、16本のコラム、および3名の作家によるインタビューを通して、〈私小説性〉の概念を応用した研究の実例、および今後の私小説研究のために必要と考えられる論点を提示することができた。
著者
工藤 上 小山田 隆
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

2009年と2010年の5月~10月に、青森県内の農場3カ所と北海道内の農場2カ所を対象に、イベルメクチンポアオン製剤の通常量投与による牛消化管内線虫の駆虫試験(Fecal egg count reduction test)を行った。その結果、糞便内線虫卵の大半を占めるCooperia属線虫の虫卵減少率は、青森県内の農場1カ所と北海道内の農場2カ所において8月の駆虫後に薬剤耐性の目安となる90%を大きく下回り、我が国の牛におけるイベルメクチン耐性線虫の存在が初めて確認された。
著者
小林 俊治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

「談合」は、主として建設業をはじめ、種々の業界で行われている不法なビジネス慣行である。本研究ではとくに「入札談合」を研究対象とした。これは、官公庁などがそれぞれの法令に規定されている金額をこえる公共工事などの受注業者を決定する際に、原則として一般公開入札をすることである。しかし、入札にさいして談合が組また場合、同業者などが前もって話し合い、あらかじめ受注者を決定し、その業者が指名されるように各入札者が「適当な」価格で入札をする。そして、談合グループの企業は、リーダー企業の判断により、順次、受注できるか、その他の方法により利益の配分を受ける。それにより業界の和がたもたれ、相互扶助の体質が強化される。談合に参加せず、独自に入札する業者はアウトサイダーとして、業界の相互扶助のネットワークから排除される。また、官公庁側も「天下り」先の確保のためなどに、特定の業者を優遇する「官製談合」をなすこともある。このような談合行為は、法律的には独占禁止法違反の不当な取引制限であり、刑法の談合罪(96条、3の(2))にあたる。談合行為の発生の大きな理由のひとつは、企業間競争の回避を選好する日本的企業倫理風土がある。歴史学的には、こうした同業者の相互扶助行為は、江戸時代までは商業取引の当然の慣行であると指摘している。そこには、集団主義があり、和を重視する倫理がある。ただ、今日のようにテクノロジーが急速に発展している時代には、主として価格だけで受注業者を決定することには、限界がある。すなわち、受注業者が高価な素材や最新のテクノロジーを使用していない可能性がつよいのである。そこで、価格のみならず、技術レベルなどを考慮した総合評価方式による受注者決定の方法が導入され始めている。ただその場合、技術進歩などを中立的に判断できるであろう、発注者側の官公庁の発言権が強まり、ここでも「官製談合」の形成の危険がある。
著者
水野 直樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

日本の植民地(特に朝鮮)における治安維持法の運用、体制などに関する実証的検討を課題とする本研究は、次のような諸点において日本内地とは異なる治安維持法体制が朝鮮で構築されていたことを明らかにした。法制そのものが日本内地と異なる朝鮮では、治安維持法に対する当局の認識も相当異なり、斎藤総督は、治安維持法が議会で成立しなければ、朝鮮独自の制令で制定すると示唆する発言をしている。同法が最初に適用されたのは、日本内地ではなく朝鮮における事件であった。当初から、治安維持法は朝鮮の独立運動に適用されたが、「朝鮮独立=帝国領土の僭竊=統治権の内容の縮小=国体変革」という図式が判例として確立するのは、1930-31年のことである。独立運動への適用と並んで在外朝鮮人への適用によって、同法は拡大解釈された。検挙者・被起訴者のうち、「帝国領士」外に住む朝鮮人の比重は非常に高かった。中国共産党に加入した朝鮮人にも適用されたため、同法はいっそう拡大解釈・適用されることになった。朝鮮における治安維持法運用の大きな特徴は、死刑判決が下されたことである。従来の研究では、同法違反だけで死刑判決を受けた事例はないとされてきたが、少なくとも1件あったことを明らかにすることができた。1930年代以降の転向政策においては、朝鮮人に厳しく転向が求められた。「内鮮一体」「皇国精神」の強調、被保護観察者の生活全体を監視・教化するシステム(大和塾)の構築などは、日本内地では見られなかったものてある。思想犯予防拘禁制度は日本内地に先がけて朝鮮で実施され、被収容者に「日本人になり切る」ことを求め、それが認められない限り、釈放の可能性のないシステムとして運用された。このような植民地における実態を無視しては、治安維持法の全体像を把握・理解することはできないのである。
著者
溝口 哲郎 齋藤 雅元
出版者
麗澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

公職に携わる人々が私益のために職権を濫用する腐敗・汚職の問題は,資源配分に歪みをもたらす.本研究は,腐敗・汚職が国家・市場制度にもたらす影響の度合いを,①オークション理論,②不完全競争市場を想定した経済理論モデルを用いて分析した.本研究では①に関する研究に進捗があり,国際的な査読誌であるPacific Economic Reviewに2014年に掲載された.具体的には,官僚に裁量権があり賄賂の対価に再入札を認める場合に,非効率な企業が政府調達を勝ち取る可能性がある.その解決策として海外部門への輸出を導入することで,効率的な企業が高品質な商品を提供する状況になることを示した.
著者
邉 英治
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究年度第4年目にあたる今年度は、本研究プロジェクトのとりまとめに向けて、追加的な一次史料および二次資料の収集を進めるとともにデータ分析を行い、それらをもとにして論文化及び著作化を進めた。一次史料の収集と関わっては、イギリス・エディンバラのRBSアーカイブに出張し、金融エリートとして日本の銀行業の近代化に多大な影響を与えたアレクサンダー・シャンドが、晩年に(執行)役員を務めたパース銀行の各種委員会の日誌を中心に収集した。そして、総支配人から異例の昇格を果たしたシャンドをはじめとする執行役員陣が、どのように健全性を確保しつつ、日々の産業金融業務を遂行していたか、検討を進めた。二次資料の収集と関わっては、財閥系銀行及び有力地方銀行の役員を務めた金融エリートの自伝・伝記類を中心に国立国会図書館などで収集し、日本の銀行業の近代化にどのような影響を及ぼしていたか、検討した。例えば、横浜銀行の伊原隆は、公共部門の金融と産業金融とのバランスをとることで、健全性と収益性の両立を図っていたことが明らかとなった。なお、これらの研究成果の一部は、共著書に採録される予定である。国際比較の観点からは、金融エリートの役割の日本的特徴を明らかにするため、スウェーデン金融史を専門とされるウプサラ大学のヴェンシュラーク博士と打合せを行い、スウェーデンの金融エリートとの比較分析を進めた。なお、本研究成果の一部は、国際ジャーナル(Social Science Japan Journal)に投稿済みであり、査読の結果を待っている状況である。
著者
伊藤 尚子 木下 康仁 金 永子 文 鐘聲
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、在日コリアン高齢者と韓国人高齢者の抑うつにかんする要因を明らかにすることである。研究初年度にあたる本年度は、研究の全体像を把握するため文献等資料収集を行った。その結果をまとめ現在、論文投稿の準備を行っている。文献収集に合わせて、収集した量的データから、研究に関する新しい知見を得ることを目的に、在日コリアン高齢者の抑うつ傾向の関連因子の再分析を行った。結果として、抑うつ傾向者が47.8%にみられた。抑うつ傾向者は、朝鮮半島で生まれ日本に移民した在日コリアン1世高齢者(65.6%)が、日本で生まれた在日コリアン2世高齢者(42.0%)に比較して有意に高く、年齢、性別、出生地、治療中の疾患と婚姻状況に関係なく、家族親戚と電話などの間接的なやり取りをする頻度、友人と直接会う頻度、友人と電話など間接的なやり取りをする頻度、外出頻度、また、趣味を楽しむ機会が少ない群ほど抑うつ傾向の割合が有意に高くなる傾向がみられた。在日コリアン高齢者の精神的健康の保持増進のためには、在日コリアン高齢者が家族友人と交流を持つ機会を作ることや、高齢者が近隣で社会活動を確保できる場所づくりが必要であることが示唆され、この結果は論文にて研究報告を行った。しかしながら、これらの傾向が、在日コリアン独自の結果なのかを明らかにするには、日本人高齢者、韓国人高齢者との比較をするなど再検討する必要がある。そのため、日本人高齢者との量的な調査データの比較を行いつつ、在日コリアン介護施設における参与観察、インタビュー等質的な調査も同時に行い、研究2年目には韓国にて質的、量的調査を行うため、関係機関と研究計画など調整を行っているところである。研究結果は随時学会等で発表を行う予定である
著者
真野 弘明
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

オジギソウは、さわると1秒程度の時間で葉を閉じる「おじぎ運動」を行う。このすばやい植物運動がどのようなメカニズムによって行われているのかはよく分かっていない。これを解明するために、本研究では運動部位の全ての細胞の3次元形状を網羅的に解析し、それらが運動によりどのように変化するかを明らかにした。また、おじぎ運動に関わりそうな15の候補遺伝子について、機能を失わせたオジギソウを作製することでその役割を調べた。その結果、このうちの2つの遺伝子が実際におじぎ運動に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
著者
高橋 達也 藤盛 啓成 山下 俊一 齋藤 寛
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1993年から1997年まで、マーシャル諸島甲状腺研究(The Marshall Islands Nationwide Thyroid DiseaseStudy)によって、現地で医学的・疫学調査が行われた。マーシャル諸島住民では、甲状腺結節性病変の有病率が高かった。甲状腺結節の最も一般的な形態は、腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)であった。しかしながら、本研究で発見された腺腫様甲状腺腫の患者の多くは、医学的治療を必要としなかった。幾多の他の研究と同じように、女性では、男性と比較して甲状腺結節の有病率が高かった。また、有病率は、年齢とともに高くなり、50歳代の女性で最も高率(約50%)であった。甲状腺結節例の約半数は、触診で診断できたが、残りの半数は、超音波診断によってのみ診断し得た(触診できなかった)。甲状腺機能低下症や甲状腺亢進症(バセドウ病)の様な甲状腺機能の異常は、マーシャル諸島では、比較的まれで、有病率は他国と比較して同程度、もしくは、低かった。太平洋地域(日本を含む)などに多く見られる橋本病(自己免疫性甲状腺炎)は、マーシャル諸島では、まれであった。甲状腺癌の疑いで43人の患者が、現地のマジェロ病院において、マーシャル諸島甲状腺研究の医療チームによってなされた手術を受けた。この43人中、25人については、病理学的に癌が確認された。外科手術で重篤な合併症は、1人も発生しなかった。マーシャル諸島全体での、一般住民の甲状腺結節や甲状腺癌の頻度は、従来報告されているよりもかなり高かった。しかし、我々は、ハミルトン博士(Dr.Hamilton)の仮説、すなわち、「甲状腺結節の頻度は、ブラボー実験の時に住んでいた場所とビキニ環礁からの距離に反比例する(ビキニから遠くなると、結節は減る)」、を確認できなかった。この点に関して、ブラボー実験で被曝した住民における甲状腺癌の頻度に関する予備的な分析では、概算した甲状腺放射線被曝量と甲状腺癌有病率は正の相関(被曝量が増えると甲状腺癌も増える)が有意に示された。
著者
熊谷 貴 大田 伸生
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アジアで流行する日本住血吸虫は、その宿主である哺乳類の門脈系の血管内に寄生し、赤血球を摂取することで生殖活動を行っている。今回、住血吸虫の免疫回避と性成熟における寄生システムについて、細胞外小胞に着目した。細胞外小胞とは、生物に広く見られる生体モバイル粒子である。今回、この細胞外小胞が日本住血吸虫より分泌していることを明らかにした。さらに、この小胞は、雌雄がペアになった時、赤血球を摂取した時に分泌が増加することも分かった。また小胞内には多量のmiRNAが含まれており、雌雄での相互遺伝子調整を行っていると考えられた。また、この小胞は宿主のTh1サイトカインを抑制する働きを持つことも見出した。
著者
藤森 馨 夏目 琢史 小倉 慈司 岡野 友彦 岡田 荘司
出版者
国士舘大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昭和31年村田正志氏が調査された出雲国造北島家の古文書は、429通を精選し、『出雲国造家文書』として昭和47年に刊行されている。その中で、306通の文書が重要文化財に指定され、同時に文化庁の斡旋により表装成巻された。当初、この表装された巻子本を再度調査し、当時の技術では解読しえなかった紙背文書などを明らかにしようとして、本研究を始めた。しかし、原則当主以外立ち入りを禁じられていた蔵を、現当主北島健孝氏と共に、調べてみたところが、未調査の箪笥があることが分かった。平成30年8月23日から3同月26日かけての調査で、新出の鎌倉時代から戦国時代にかけての文書150通が発見された。平成31年3月5日から7日の調査で、更に100通の写しを含む中世文書が発見されたのである。これは想定外の事態で、村田氏が『出雲国造家文書』跋文で429通がほぼその全容である、と記されていたからである。この度発見された古文書は「六波羅下知状」などの鎌倉時代の文書から戦国時代に及ぶ。特に尼子氏の出雲支配や、その支配を継承した毛利氏関係のものが多い。出雲の中世史を一変させるのではないか、と推測されるものが多数である。尼子氏を通じての幕府関係のもの、毛利氏を通じての豊臣政権関係のものなど多岐にわたる。その特徴は、宗教関係文書というより、在地を統括する武家文書を彷彿させるものである。戦国時代後期には本願など大社造営関係の宗教者の動きを示す文書も散見するようになるが、決定的に少ない。聖教や祝詞など寺社文書を特徴づけるものは、皆無とは言えないが、今回の調査では、あまり目に触れなかった。老中奉書などでの祈祷依頼などは、むしろ近世文書に多く視られる。いずれにしても、新出の中世文書が想定外の分量で発見されたことは、今回の研究の大きな業績といえよう。
著者
遠藤 哲也 木村 治
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本でわれている養殖クロマグロの水銀汚染と有機塩素系化合物汚染を分析し、天然マグロの場合と比較した。養殖クロマグロの水銀濃度は厚生労働省の定めた基準を越えるものが少なく、一般に天然のクロマグロより低かった。一方、脂溶性の高い有機塩素系化合物濃度は天然クロマグロより高く、多食者には健康被害が心配される。地中海で行われている畜養マグロの場合の水銀および有機塩素系化合物濃度は日本国内の養殖マグロに比べて著しく高いものが多く、これは魚体の大きさを反映していると思われる。
著者
高山 佳奈子 松宮 孝明 神例 康博 辻本 典央 安達 光治 平山 幹子 品田 智史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

定例の「経済刑法研究会」を2018年9月30日、同11月11日、2019年2月17日にいずれも立命館大学朱雀校舎にて開催した。検討した内容は次のとおりである。(1)共同執筆により出版予定の書籍『新経済刑法入門(第3版)』について、特に、新たに設ける内容である、「銀行預金をめぐる犯罪」および「『独占禁止法違反の犯罪』への公正取引委員会の対応」を中心に検討を加えた。後者に関して、公正取引委員会の中里浩氏を招へいし、専門的知見の提供を得た。(2)華東政法大学と合同で開催する経済刑法シンポジウムの内容について、日本側からは「AIと刑法」「AI自動運転と緊急避難」「詐欺罪」「仮装通貨と経済犯罪」「背任罪」をテーマとすることを決定し、各報告担当者からのプレ報告を受けて討論を行った。(3)これまでの華東政法大学および武漢大学との国際シンポジウムの成果を受けて、書籍『日中経済刑法の最新動向』を出版する予定であり、その原稿の作成・検討を行った。収録予定の論文のテーマ(日本側)は、「市場競争の激化と経済犯罪の規制――証券犯罪を中心に――」「会社再建と強制執行妨害の罪」「コンピュータ関連の詐欺罪について」「悪質商法と経済犯罪――ねずみ講・マルチ商法の規制を題材に――」「食品の安全と過失論の役割」「食品の安全と刑事責任」「刑事製造物責任と組織の責任・個人の責任」「日本における過失犯論の発展」「犯罪論体系と比較法研究」「証券取引法から金融商品取引法へ」「インサイダー取引の刑事規制」「日本法における相場操縦・開示規制違反」「ネット金融と財産犯」「日本における利殖商法と組織的詐欺罪」である。
著者
高山 佳奈子 山本 雅昭 神例 康博 辻本 典央 品田 智史
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

定例の研究会を3年間で全13回実施し、報告を基にした成果を法律学術雑誌に公表した。公正取引委員会から講師も招へいした。武漢大学法学院および華東政法大学法律学院との国際シンポジウムを各2回実施し、「証券犯罪」「金融犯罪」「インターネット金融犯罪」をテーマに各国の最新の立法および実務の状況を報告するとともに理論的な討論を実施した。成果は平成30年度内に論文集として刊行する。