著者
河本 昇 石川 健三 中山 隆一
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

1.グループ代表者の河本は、ツイストされた超対称理論とトポロジカルな理論の量子化の関係を明らかにした。このツイストの操作をディラック・ケーラーツイストと命名し2次元ではN=2, 4次元ではN=4の拡張された超対称性を持つ超対称ヤング・ミルズ理論に導かれることを示した。この定式化を格子上に拡張し、格子上で厳密に超対称性を保つ定式化を提唱した。特に格子上で差分演算子がライプニッツ則を満たすように新たな非可換性を導入した。また拡張された交換関係を持つ定式化がこの定式化と同等であることも明らかにした。具体的には2次元N=2のBF理論、ベス・ズミノ理論、超対称ヤング・ミルズ理論、更に3次元N=4の超対称ヤング・ミルズ理論に適用した。超対称性が格子上で厳密に成立していないと言う批判に対し、この批判が当たらないことを現在示そうとしている。2.研究班メンバーの石川は高移動度の高いランダウ準位で発現している非等方的量子ホールガス状態を、同氏らが開発したフォンノイマン格子表現での平均場理論に基づいて解析し、特異な中性零エネルギー状態の性質解明や、周期的な外場中での安定な相状態の探索、量子ホールガス状態による新たな量子ホール領域の解明等に成功した。また、波束粒子の散乱による、運動量と位置との両変数を近似的に観測する振幅を定式化した。3.研究班メンバーの中山は超弦理論に現れる非可換空間に関する研究を行った。2次元非可換球面上の非可換積の新しい表現を見つけ、4次元非可換球面上の場の理論の構成を行った。また、非可換トーラスの解析を行った。当研究班では、通常の研究推進に加え、海外との共同研究及び、冬の学校として組織する研究会の運営の為の資金としてこの特定研究補助金が役立った。特に1.の研究においては、イタリア、トリノのD'Adda氏と超対称理論の格子上での定式化に関する共同研究が行なわれ、研究交流資金として重要な役割を果たし、大いに成果が上がった。
著者
平間 淳司
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

茸類は免疫増強作用・臓器疾患改善などの健康食品として特に最近注目され茸工場で人工栽培が盛んであるが、至適成育条件(培地・温度・湿度・光など)は栽培現場の経験に大きく依存している。本研究では、新たな試みとして茸の成長の活性化と密接に関係がある生体電位信号を指標として至適生育条件に関して工学的側面から検討する。Growth Chamber内にて形態形成実験を幾度か実施し、得られた知見の確認を十分することで、現場で有用なLED光源システムの基本設計仕様を確立し、茸栽培装置の実用化を目指す。研究実績は以下の通り。(平成18年度)(1)自作型人工環境装置を更に改良(インキュベータ:温度・湿度・CO_2などの設定精度約5%以下)して、これまでの製作ノウハウを活かし、別途装置の2台目を新規に製作した。この装置の完成により、茸の各種光刺激(照射方法や波長)に対する子実体の生体電位の応答特性について、試行回数を増やし一般性を更に検証できる見通を付けた。(2)茸から誘発する自発性のバイオリズムを伴った生体電位信号を常時モニタリングすることで、バイオセンサとして活用し、その信号により特定の茸が周辺の茸への光刺激環境を制御する栽培技術を開発した。(平成19年度)(1)試作型簡易Growth Chamberを用いた形態形成実験(前年度の続き) 各種光刺激や温度刺激が形態形成に及ぼす影響を試作型Growth Chamberを用いて、継続実験を実施した。(2)茸自身をバイオセンサとした至適栽培を目指したLED光源装置の実用化 特定の茸自身をバイオセンサとしてバイオリズムをモニタし、その生体信号を利用して周辺の茸に対し、光刺激の明暗間隔を制御した。Growth Chamber内で栽培した結果を踏まえて、まず、種々の光刺激を与えた場合の成長の比較実験(形態形成実験)を茸工場の現場で光源システムの有効性を検証した(新光源装置の実用化(低価格化、コンパクト化、ランニングコストの低減化)を目指す)。栽培現場としては、これまでに共同研究を行っている県外の舞茸栽培工場で行った。なお、生体電位計測装置(申請者設計製作の小型軽量タイプ)と試作したLED光源装置には、本研究費をフルに活用して準備した。
著者
浜島 京子
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は3カ年計画で行われ、主な研究目的は、家庭科と健康教育の融合カリキュラムを開発しその有効性を検討することであった。そのため、1年目は台湾とアメリカの健康教育及び日本の家庭科のカリキュラムの比較検討をする。2年目は日本と台湾の児童・生徒を対象とした教科観及び健康生活に関わる家庭生活の実態調査を行い、比較検討する。3年目は家庭科と健康教育の融合カリキュラムを作成し有効性を検討することであった。1年目は、台湾の課程標準及び教科書、アメリカウィスコンシン州の「A GUIDE TO CURRICULUM PLANNING IN Health Education」を基に健康教育の内容を分析し、家庭科との違いを見いだした。また、スウェーデンの学校及び教育庁を訪問する機会があり関連資料を収集したが、スウェーデンでは既に家庭科と健康教育が融合されたカリキュラムが作られていることが把握された。2年目は、当初の計画に加え、アメリカウィスコンシン州の中学生も含めた3国4地域(東京・福島・台北・オークレア)で比較調査を実施した。その結果、日本は他国に比べ東京・福島ともに家事実践率が低く、健康生活への意識・実践状況も低率であること、また、「家庭科」-の興味度は中間的回答が多く、役立ち度では現実の生活より将来役立つという意識が高いことが把握された。3年目は、当初の予定にはなかったが、日本の中・高・大学生を対象に家庭科と健康教育を混合した項目に対する学習欲求度及び必要度を調査した。その結果、大学生は全般的に学習必要度が高く表れ、中・高校生は健康教育の住生活及び心身に関わる項目への学習欲求度が高かった。これより、家庭科に健康教育を取り入れることの有効性が把握された。なお、既に健康教育を総合学習の一環として研究開発している小学校の資料も収集しそれらもふまえて、家庭科と健康教育の融合題材を開発した。開発した融合題材に基づいて授業研究を行うことが課題として残された。
著者
田辺 信介 岩田 久人 高菅 卓三 高橋 真 仲山 慶 滝上 英孝 磯部 友彦 鈴木 剛
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

POPs候補物質(有機臭素系難燃剤など)に注目し、途上地域を中心にその分析法の開発、広域汚染の実態解明、廃棄物投棄場等汚染源の解析、生物蓄積の特徴、バイオアッセイ等による影響評価、過去の汚染の復元と将来予測のサブテーマに取り組み、環境改善やリスク軽減のための科学的根拠を国際社会に提示するとともに、当該研究分野においてアジアの広域にまたがる包括的な情報を蓄積することに成功した。
著者
廣瀬 弥生
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、専門的知識を一般市民に移転する際に、必要とされる社会システムとはどのようなものであるかに関する考察を目的としている。検討の過程では、一般市民がいかに専門的知識を誤解して受け取ってしまう可能性があるかに関して調査を実施した後、実際に社会システムを構築する際には、どのような点に考慮すべきかに関して検討し、各種学会誌にて、提言を実施した。
著者
黒田 龍二
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、社会・風俗史的な要素を多分に含む、人物彫刻を中心に調査、研究を行っている。本年度の主要な調査としては、日本で作られた中国神仙彫刻の淵源と推定される中国古建築の実地調査を行った。調査地は中国で最も古い木造建築物が残っている山西省で、8世紀の南禅寺大殿にはじり、12世紀頃までの比較的古い建築物を踏査した。これらの古い建築物においては、建築彫刻は植物、動物にとどまり、のちの状況からすると未発達で、人物彫刻は見られなかった。このことから、人物彫刻の発生は、中国においても13世紀以降になると推定される。もた、比較的新しい伝統的建築物も何棟か見たが、山西省では人物彫刻は少ないと推定される。文献資料では中国南東部の古建築に人物彫刻が多くみられ、地域的には南東部で発生しているものと推定される。しかし、日本で見るような単独形態のものはもだ発見していない。17世紀に日本で建てられた中国建築である長崎の崇福寺の建築でも、建築彫刻は精緻であるが、それほど多くはなく、人物彫刻も無い。明治に入って建てられた興福寺大雄宝殿では豊富な彫刻がみられ、人物彫刻もある。このようなことから、中国建築に関してはまったく不十分な調査であるが、先年度に調査した16世紀の土佐神社に見られるような神仙彫刻は日本で独自に考案された可能性があるのではないだろうか。以上のような見通しを得ることができたので、今後、日本の桃山建築にみられる爆発的な彫刻の発生の要因が、中国であるのか、日本であるのかをその主題や使用部位をみながら考究する視座を得ることができた。社会・風俗史的な背景を明らかにすることは困難であったが、人物彫刻の扱いは中国と日本では異なる部分があると推定され、その要因がどのようなものであるのを今後の課題とする。
著者
鎌田 八郎 中村 正斗 村井 勝 上田 靖子 大下 友子
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

畜産の生産現場では、担い手の高齢化が進み、労働負担の軽減化が強く求められている。特に分娩は厳密な予定がたたず、深夜になった場合の分娩介護は重労働となっている。一方、分娩時の胎子排出メカニズムはこれまで精力的に研究されてきたが、胎子娩出後に不要となった胎盤の排出(後産)のメカニズムはほとんど理解されていなかった。そこで本研究では、胎盤剥離シグナルの同定とそれを応用した新規の分娩誘導法の開発を目的とした。これまでの報告から、胎盤の剥離には細胞間の接着を切断する酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関与が推定されており、その生産母地が繊維芽細胞であることから、胎子胎盤から繊維芽細胞を調製してそのMMPを活性化する物質を探した。胎子娩出のシグナルはアラキドン酸の代謝物が主役であることからアラキドン酸代謝物に焦点をあてて検討したところ、従来知られたプロスタグランジン類ではなく、リポキシゲナーゼ代謝物であるオキソアラキドン酸に強いMMP活性化機能があることが判明した。分娩予定牛にプロスタグランジンを投与して分娩誘導すると、胎子は娩出されるが胎盤は排出されない(胎盤停滞)。これを対象区として、強いMMP活性化機能を示したオキソアラキドン酸を胎子娩出後に投与したところ胎盤の排出に成功した。その際の胎盤中MMPは正常分娩時と同様の挙動を示していた。以上からオキソアラキドン酸はこれまで知られていなかった胎盤剥離誘導シグナルであることが示された。本知見は胎盤停滞を伴わない分娩誘導技術及び胎盤停滞治療法の開発につながり、畜産生産現場の労働負担の軽減に大きく貢献すると期待される。
著者
秋葉 征夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

鶏の孵化直後の栄養(初期栄養)および脂質代謝の特異性を解明することにより、鶏の初期成長時の栄養の意義を明らかにし、さらに成長と代謝生理を初期栄養により自在に制御することを目的として、以下の成果を得た。(1)飼料エネルギ-の代謝率と脂肪の吸収率を、ブロイラ-の孵化直後から1日ごとに詳細に測定する方法を開発した。この手法を用いて測定したところ、孵化当日および孵化後1日齢時の飼料エネルギ-の代謝率と脂肪の吸収率は2週齢時の約80%程度の能力しかないことが判明し、孵化直後では栄養素の利用性が極めて小さいことが明らかとなった。(2)腹腔内に残存する卵黄を外科的に除去したヒナと正常ヒナのエネルギ-の代謝率と脂肪の吸収率を比較したところ、ほとんど差は認められず、残存卵黄は飼料栄養素の吸収と利用性には影響しないものと考えられる。(3)ブロイラ-の孵化当日の血漿脂質濃度は2あるいは4週齢時の約2倍の濃度にあり、高脂血の条件下にあることが示された。また、肝臓中の脂質濃度も極めて高く、しかもトリグリセリドおよびリン脂質の割合が少なく、反対にコレステロ-ルエステルが全脂質の約70%を占めており、脂質代謝でも孵化直後のブロイラ-は特異な生理条件にあることが確かめられた。(4)孵化後3日齢時における中鎖脂肪の利用性は長鎖脂肪(イエロ-グリ-ス)に比べて高く、中鎖脂肪および中鎖脂肪酸は脂肪吸収能が未発達の孵化直後のヒナに給与する脂肪源として有用であることが分った。(5)体液性の免疫能の指標として血漿中のIgG濃度を測定した所、孵化1日前および孵化当日では低く、1日齢時で急上昇した。
著者
三野 和雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

マクロ経済学では、依然として経済主体が同質であることを前提とする代表的家計モデルが中心的な役割を果たしている。本研究は、経済主体の異質性を明示的に考慮したマクロ動学分析を行い、同質な経済主体を前提にした従来の標準的理論がどのように修正されるかを検討した。特に、(1)世代重複モデルにおける世代間の消費の外部効果が生み出す影響、(2)無限視野を持つ家計に資産保有の異質性があるような成長モデルにおいて、消費の外部性が長期的な資産分配に及ぼす効果、(3)家計間の時間選好率や選好が異なる成長経済における財政・金融政策の効果、(4)2国間が非対称な場合の2国動学モデルのふるまい、を中心に検討を行った。いずれの場合も、家計の同質性を前提とする標準的な理論では見られない分析結果が得られ、代表的個人の仮定が、分析を簡明にする反面、現実の経済で生じている重要な現象のいくつかを捉え損ねる可能性が高いことを確認した。
著者
児島 伸彦
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

神経可塑性の長期変化や長期記憶に重要な分子の候補ICERを中心に遺伝子発現変化を調べ以下の結果を得た。(1)キンドリングおよび恐怖条件づけにおける扁桃体でのICER(inducible cAMP early repressor)発現変化。キンドリング刺激後のICER mRNAの発現変化を調べ、ICER mRNAが電気刺激による神経活動の賦活によって脳で一過性に増加することがわかった。また、ICER mRNAはc-fosと同様に恐怖条件づけ後の扁桃体で増加することがわかった。この発現増加は条件づけ後の条件刺激の再提示によっても観察された。したがって、ICERは条件づけや条件反応後、扁桃体の神経活動の賦活に伴って増加すると考えられた。ICERは負の転写調節因子であると考えられているので、神経活動によって発現誘導される他の最初期遺伝子の転写抑制因子として働いている可能性がある。(2)PC12細胞におけるICERの強制発現。テトラサイクリン制御下でICER-IIを高レベルに発現するPC12細胞を作成した。その細胞にジブチリルcAMPを投与してその後の突起伸長に影響あるかどうかを調べ、ICERの突起伸長抑制効果をみとめた。(3)恐怖条件づけにおける扁桃体での遺伝子発現変化。ICERはCREBの活性化によって発現増加する。CREBの活性化はCRE配列をその転写調節部位に持つ多くの遺伝子の発現を誘導するので、条件づけによって扁桃体でICERが増加することは、条件づけによって他の様々な遺伝子の転写がダイナミックに調節されている可能性がある。そのような遺伝子産物をDNAチップによって系統的に探索し、複数種の遺伝子が条件づけ後の扁桃体で増加することを見い出した。
著者
川村 光 前川 覚 香取 浩子 常次 宏一 有馬 孝尚 廣田 和馬 前川 覚 陰山 洋 常次 宏一 有馬 孝尚 廣田 和馬 大和田 謙二 香取 浩子
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」の終了年度研究であり、特定領域5年間の成果の取りまとめが主たる内容となる。本特定領域研究においては、伝統的なフラストレート系研究の場であった磁性分野をその基盤に据えつつも、金属・強相関・誘電体等のより広汎な分野をも含む分野横断的なフラストレート系研究を展開し、これら多様なフラストレート系を統合的に扱うことを通して、フラストレーションを基軸とした新概念・新物性の開拓した。その結果、領域設定期間の間に、フラストレート系研究は格段の進展を見て、「フラストレーション」概念は、幅広い有効性を持った一般概念として物性科学分野に定着するに至った。とりわけ、特定領域活動の結果、フラストレート系研究は格段の進展を見、「フラストレーション」概念は、幅広い有効性を持った一般概念として物性科学分野に定着するに至った。例えば、カゴメ格子系、3角格子系、ハニカム格子系を舞台としたスピン液体状態の発見、カイラリティ概念を基軸とした新奇現象-異常ホール効果、スカーミオン格子、Z2ボルテックス、スピン-カイラリティ分離等-の発見と展開、マルチフェロ物質における新たな外場制御法の創出、フラストレート伝導系における新奇な輸送現象や特異秩序状態・量子臨界現象の発見、リラクサー誘電体における局所分極領域の種となる遅い横波振動モードの発見、といったような諸成果があげられる。本終了年度研究においては、これらの研究成果をを集積し領域として有機的に総合した上で、報告・公表を行った。具体的には、メインとなる研究成果報告書冊子の作成と配布に加え、研究成果発信のホームページの作成を合わせて行った。成果報告書は当領域の成果をまとめたコアとなる450ページ程度の冊子体であり、領域メンバーのみならず関連分野の研究者に広く配布した。
著者
稲本 万里子
出版者
恵泉女学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

後白河院(1127-1192)はさまざまなジャンルにわたる浩瀚な絵巻を作らせたことが知られるが、その多くは失われ「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」「病草紙」「餓鬼草紙」「地獄草紙」などが現存するのみである。これらの絵巻研究は個別の作品研究が中心であり、後白河院による絵巻制作の全容とその意味は未だ明らかにされていない。これは「年中行事絵」をはじめとする行事絵や「彦火々出見尊絵巻」が模本でしか現存していないことが要因であると考えられる。本研究は、今まであまり注目されることのなかった模本の調査研究と資料収集を通して、後白河院の絵巻制作とその機能を複眼的に、また総合的にとらえるものである。まずはじめに、福井・明通寺蔵「彦火々出見尊絵巻」模本と「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」を取り上げ、人物表現を中心に比較検討をおこなった。「彦火々出見尊絵巻」に措かれた人物は、絵所絵師常磐光長系の表現としてパターン化されているが、龍王の姫君の特異な表現から、治承2年(1178)平徳子の皇子出産が絵巻制作の契機になったと考察される。さらに、陸地と龍宮を往還する神武天皇の祖父の物語である「彦火々出見尊絵巻」は、異国の征服と皇統の視覚化を目的として制作されたと解釈することができる(詳細は、「措かれた出産-「彦火々出見尊絵巻」の制作意図を読み解く」(服藤早苗・小嶋菜温子編『生育儀礼の歴史と文化-子どもとジェンダー-』森話社、平成15年3月)にて発表した)。後白河院が制作させた絵巻群は、自国の支配と異国の支配、そして、皇統と皇権の表象であった。後白河院は、絵巻制作というイメージ戦略によって、自らの権威を認識させようとしたと考えられるのである。
著者
小森 彰夫 大藪 修義 森崎 友宏 増崎 貴 庄司 主 小林 政弘 鈴木 康浩 水口 直紀
出版者
核融合科学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

先行研究で大きな成果を挙げたローカルアイランドダイバータを,定常運転に対応した閉構造ダイバータに発展させ,大型ヘリカル装置(LHD)に設置した.初期実験では,閉構造化によって中性粒子が数値実験の予測通りに圧縮されていることが確かめられた. また,閉構造ダイバータ配位と共存可能なプラズマ周辺部のエルゴディック層を,外部摂動磁場によって変化させることで,ダイバータへの熱・粒子輸送を制御できることを示した.
著者
林 為人 高橋 学
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

海洋底深層掘削をはじめ,地震断層をターゲットとする科学深層掘削プロジェクトにおける地殻応力の状態を決定するとともに,深層掘削における応力測定手法に関する基礎研究を行った.その結果,東南海地震の発生源である紀伊半島沖の南海トラフ海域の主応力方向分布を明らかにしたほか,台湾集々地震の震源断層付近で地震発生によって生じた応力分布の異常をとらえた.一方,非弾性ひずみ回復法という深層掘削コア試料を用いた応力計測を初めて,海洋科学掘削領域での適用に成功した.
著者
島ノ江 憲剛 木田 徹也 湯浅 雅賀
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、環境計測用マイクロガスセンサの構築に向けた材料設計を目指し、酸化物半導体の基礎的な解析として、粒子サイズとドナー密度が空乏状態に与える影響、ドナー密度と酸素吸着量の関係、マスキング効果の有効性、増感剤効果とその最適担持法の検討を行った。また、これらの検討結果の一つとして、VOCガスの一つであるトルエンについて好感度検知を試みたところ、ppbレベルの検知が可能であることを見出した
著者
酒井 隆 清原 一吉 伊藤 仁一 勝田 篤 森 義之
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

コンパクト・リーマン多様体上の1点pからの距離関数d_pは重要な幾何学的関数であり,多様体の構造とも関連する.しかしd_pは微分可能でない点を許容し,それはpの切断跡(cut locus)に含まれる.さて,距離関数に対しても危点の概念が定義されるが,危点ではd_pは微分可能ではない.危点を含まない場合には,距離関数に対しても通常のモース理論(イソトピー補題)が得られており,多くの幾何学的応用を持つ.他方,危点を許容する場合にモース理論を展開するためには,まずその指数の概念を定義する必要がある.本研究において,代表者の酒井隆はリーマン計量が自然な非退化性条件を満たすとき,分担者の伊藤仁一と共にこれを実行し,幾何学的な立場から直接に距離関数のモース理論を展開した(掲載済み).その際,切断跡が良い構造(stratification)を持つことを示すのが重要で,危点qの指数はp,qを結ぶ最短測地線の個数とqを含むstratumへの距離関数の制限(これは微分可能でqはその危点である)のqでの通常の指数を用いて書ける.この条件がどの程度まで一般的かについてはさらに考察を続けたい.距離関数に関連して,清原一吉は可積分湖地流の立場から一般次元楕円面(やあるクラスのLiouville多様体)の一般点の切断跡,共役跡の構造を伊藤と共に研究し,勝田篤は境界付リーマン多様体の境界からの距離関数から内部のリーマン計量を復元する逆問題を考察した。計量不変量の間の不等式(等縮不等式・等径不等式),曲率非負のコンパクト・リーマン多様体のラプラシアンの第1固有値評価およびその摂動版については本質的な進展がなかったが,清原はアレキサンドロフ空間の幾何学的不等式に関する結果を得た.これらについては研究を継続する.森義之は量子コンピュータのアルゴリズムを研究し,酒井にコンピュータ支援を行った.
著者
鈴木 健一 山下 久夫 田中 康二 西田 正宏 杉田 昌彦
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

契沖以前から本居宣長以後までの江戸時代の古典学の軌跡を、より詳密に描き出すことに一定の成果を収めた。また、『勢語臆断』『古今通』『土佐日記解』など個別の注釈書の性格や成立について、新見を提示した。
著者
谷口 功 FARRELL Nich CHELEBOWSKI ジャン エフ HAWKRIDGE Fr 木田 建二 西山 勝彦 FARRELL Nicholas P WYSOCKI Vick JAN F.Chelbo VICKI H.Wyso FRED M.Hawkr
出版者
熊本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究では、金属タンパク質の構造変化による機能制御の本質を解明、応用するための基礎を確立するため、日米二つの研究グループの得意な領域を有機的に結合して、金属タンパク質の電極上での直接電子移動を自在に制御し、金属タンパク質の電気化学的性質を明らかにすると共に、界面電子移動反応に関する基礎的知見の増大と新しい概念の創出を目指して研究を進めた。本研究の過去3年間の研究成果は以下の通りである。1.金属タンパク質の界面電子移動制御とその生物電気化学的応用について(1)種々の機能電極の開発によって、ミオグロビン、ヘモグロビン、チトクロムc、フェレドキシンなどの電極上での直接電子移動制御が可能となった。(2)ミオグロビンについては、酸化インジューム電極を用いて、不均一電子移動速度定数と電極表面の親水性の関係を定量的に評価し、金属タンパク質の電子移動制御のための界面機能を一般化した概念を提唱した。また、種々の起源のミオグロビンの電子移動と配位子置換による電子移動反応の影響を明らかにした。さらに、マンガン再構成ミオグロビンやモノアザ及びジアザヘミン置換ミオグロビンを作製してヘム鉄の軸配位子の酸化還元電位および不均一電子移動速度定数への影響を明らかにした。(3)チトクロムcのための機能修飾電極について、フレームアニールクエンチ法で作製した金単結晶電極上にチオール系機能化分子を修飾した電極を作製して、その界面機能を電気化学法、分光学、走査プローブ顕微鏡などを用いて詳細に明らかにした。また、機能化分子の微細な構造の相違が金属タンパク質の電子移動促進効果に大きく反映することを明確にした。(4)フェレドキシンのアミノ酸改変体を作製し、そのレドックス電位や酵素反応速度への影響の定量的な解析から、フェレドキシンの機能をアミノ酸残基レベルで酸化還元電位の制御部位と酵素分子との結合部位などに明確に区別されていることを明らかにした。2.金属タンパク質の構造変化のダイナミクス測定について(1)円二色性(CD)分光電気化学法について、電子移動過程の速度論的な情報を得るストップトフローCD測定のための装置の開発・高度化によって、高機能測定装置を組み立てた。(2)本装置を用いて電子移動過程で金属タンパク質構造のin situ時間分解測定を行い、チトクロムc、フェレドキシンいずれも電子移動に伴う構造変化が多段階的に生じることを明らかにした。(3)電気化学法及び新しいCD分光電気化学法などを用いて電子移動過程に伴うチトクロムc、ミオグロビン及びフェレドキシンの電子移動速度及び電子移動に伴う全体的かつ局部的な構造変化のダイナミクスに関する新しい知見を得た。(4)フェレドキシンの電気化学挙動の温度依存性から、ボルタモグラムのディジタルシミュレーション法による解析を用いてその反応機構に微細な構造変化が存在することを明らかにした。3.フェレドキシンの電子移動制御と光合成モデル生体機能化学反応への応用について(1)フェレドキシンの電極反応を、フェレドキシン-NADP^+-リダクターゼ(FNR)系と共役させ、さらにNADPHを補酵素とする酵素と共役させて、立体選択的精密化学合成へと展開した。具体例として、ピルビン酸からLーリンゴ酸が、さらに、オキソグルタル酸からL-グルタミン酸が得られることを示した。(2)電気化学測定から酵素反応の速度論的解析と反応機構の解明のためのディジタルシミュレーション手法を開発した。4.半人工改変金属タンパク質のユニークな機能発現の分子構造的解明(1)ミオグロビンを用いて、その活性中心を人工分子で置換した半人工再構成分子を作製し、その特性を電気化学的に明らかにした。特に、ヘム鉄の配位子であるヘミンの構造やヘム鉄周りの分子内環境が酸化還元電位やミオグロビンの機能の発現に重要であることが示された。(2)フェレドキシンのアミノ酸変異分子の酸化還元電位の大きな変化は、主に、特定のアミノ酸残基への置換によって生じる鉄-イオウクラスターの歪みによって生じる可能性が、コンピューター分子構造モデル計算による立体構造表示から示唆された。
著者
田中 愼一
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

夏季休業期の8月7日〜18日に岡山・鳥取・神戸で、前期試験期の9月3日〜14日に東京・名古屋で、それぞれ11泊12日の資料調査旅行をおこない、特に岡山大学附属図書館・岡山市立中央図書館・鳥取県立図書館・神戸市立中央図書館・東京大学経済学部図書室・東京都立中央図書館・愛知県図書館・名古屋市鶴舞中央図書館で有益な資料を閲覧し一部を複写により収集した。あわせて22泊24日にわたったこの資料調査旅行で地域に密着した肥料経済史研究を東京に即しておこなうのが時間的にみて効率的と判断し、秋以降の調査地をあえて東京に限定せざるをえないものと決心した。そして10月28日〜11月2日、12月16日〜20日、1月8日〜13日の3回、あわせて14泊17日の資料収集旅行を東京で行ったのである。東京在住の方からすれば、わずか半月の短期間でいかほどの成果があるものか疑問視もされようが、わたくしとしてはいまだ経験したことのないような資料収集の喜びを味わうことができた。資料発見への道筋をひらいてくれた偶然性の楽しみを感得しえたという気すらした。名古屋でもそういうことがあったが、東京ではその感を深くした。比較的短い滞在期間でも集中的におこなえば資料収集の成果少なからずとの確信を得、またそれを実践した。7万円に達した複写費によって収集しえた資料にもとづき東京を中心とした戦前期、とりわけ明治・大正肥料経済史にかんする実証的研究を数本の論文という形で来年度から執筆できるものと判断している。すでに発表した拙稿「明治肥料経済史の一断面」を発展させる下肥経済にかんする実証的研究のための資料を今回の科研費によって発見し、一部を収集しえたことに感謝もし、それにむくいるべく資料分析にもとづく研究成果をあらわしていくつもりである。
著者
齋藤 幹久
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、構造物への着雷様相を観測することを目的として行われた。構造物への着雷様相の観測は送電線や風力発電用風車の耐雷設計の他、避雷針の保護範囲等の検討を行うために大変重要であるが、雷は何時何処に落ちるか判らないため、近年高速度カメラが発達してくる以前は、観測する事が大変難しかった。上記の目的のために、本研究では、高速度カメラを用いた東京スカイツリーへの着雷様相の観測を行った。2013年12月までに11例の雷放電が観測され、その多くは耐雷設計上最も重要である下向き落雷であった。